今更ですが6月12日、現在は読めないよう鍵付きにしてる『よういふっ!』の方に少し先の話の下書きをうっかり投稿してました。もし混乱した方がいたら、すいません。
ゼロ戦神話というモノがある。
僕はこの神話を考えると、ホワイトルームとやらやこの学校を通して見た綾小路清隆が想起される。太平洋戦争中のゼロ戦が強かったというイメージがあるのを、僕が勝手に神話のように繋げて解釈しているだけではあるが。
以前にゼロ戦の設計を見る機会があって少し考察してみた時、妙に無理の多い設計になっているのが気になっていたからだ。
まず前提として、当時のアメリカもイギリスも日本もほぼ同レベルの出力のエンジンを製造できる技術力があった。それは設計図などから推察可能である。ならば、もっと高性能な機体ができていたとしても不思議ではない。
こうならなかったのは、おそらく知識や技術のない決定権を持つ当時のお偉いさんが、専門知識に疎かったか変な思い込みを持っていたからだろう。
ゼロ戦神話に疑問が湧くのは、スペック上ではどう考えても弱い機体だからだ。この事実に加え、当時の日本には高出力エンジンを作る技術力がない、という定説?も疑念を増す要因だ。もしや、まともに資料を読みこんだり調査をしないまま思い込んだのでは?とさえ考えたくなる。
なぜなら色々と資料を漁ってみると、その思い込みの中身はおそらく『空を飛ぶには軽くあるべき』である。
大戦初期は、ここから小さく薄く軽いスペックを求められた結果、ゼロ戦を含む日本軍機体に多い出力不足と紙防御の原因に繋がったと思われる。
根拠の1つは、『大空のサムライ』の著者でゼロ戦パイロットの撃墜王・坂井三郎が語っていた。
ゼロ戦は弱すぎて、旧型の96式艦上戦闘機との模擬戦では全く勝てなかった。なのに全てゼロ戦に置き換えられてしまった、と。
ただ、空母に載せる艦載機であれば、小さく軽くて航続力のある機体が重宝されるのもわかるので、ケースバイケースということではあったのだろう。
ちなみに当時のお偉いさんが専門知識の基礎も理解していなかったと考えられる根拠は、大型爆撃機富嶽の開発で現代の技術力でさえ不可能なサイズと重量を指定した上で高出力を要求していたことからも明らかだ。
この無茶な要求をしておいて、他国の大型エンジンや出力を比較したら当然日本の技術力は低い、となる。なんせ、前提が無茶苦茶なんだからな。そもそも比較できる状態にない。
想像力の欠如は、容易く他人をブラックな環境へ追いやるものだ。それがお偉いさんなら尚更に被害者数の増加を招くだろう。
また当時の日本の技術者に技術力がなかったというのも考え難い。
他国の機体の性能を存分に味わって考えを改めたからか、開戦から約1年後に艦載機の大型化・重量化が即座といっても過言でないほど迅速に行われたからだ。元々の土台がない技術者ばかりなら、たった1年で高性能機体が出せるはずがない。
尤も、徴兵のデメリットを考えなかったのか、飛行機の設計者や、組み立てる熟練工まで徴兵してしまい、開発力も生産力も落とした謎の日本クオリティはなんというか…こう、だからこそこの学校や清隆のいたというホワイトルームとやらを想起させる。全体を見ず、一部だけを見てるような似た匂いというか……。
事実、坂井氏は熟練の整備士が自分の機体担当していた時は安心できたが、交代要員できた学徒整備士になってからは飛行にすら毎回不安と不備を感じていたと後に溢している。
この学校や清隆の背景になんとなく重ならないだろうか。
正直、しばらく何事もなかったので忘れかけていたのだが、山内の自爆特攻で清隆にもこの印象が再び舞い戻ってきた。
そして自爆特攻で思い当たるのは、やはり神風特攻だろう。
あらかじめ断っておくが、特攻や体当たり自体は悪い戦術ではない。そりゃあ人道的観点からすると非人道的ではあっても後世に残る戦果は挙げてるし、実は着想は先に実行したアメリカから得ている。
まんま体当たりじゃないけど、雷撃隊が燃料が尽きるまで日本艦隊を探し回り、発見・攻撃できない場合はそのまま海に落ちて消息不明になるという非効率かつ無謀な戦い方だ。
このまさに無駄死にに等しい方法よりは、何らかの戦術的価値が生まれる可能性のある神風特攻隊は慰め程度にはなるだろう。
問題点は特攻云々ではなく、想像力の欠如していた人による無能な運用にある。
あまり言及されているのを見ないが、搭載する爆弾を大幅に増量した部分に真の問題が隠されて『いない』。
当たり前の話だが、重量250kgの爆弾なんかを搭載したら飛行速度が落ちる。そしてスペックの半分以下にまで速度を低下させられた特攻機体など良い的でしかない。目標に到達する前に多くが撃墜されたのも当然だ。せめて速度低下しない50kg程度の爆弾であれば、運動エネルギーが加わりより大きな戦果となっていたはずなのにだ。
こんなのさらっと資料を流し見た僕でさえ簡単に想像できる事を、人命が多数かかった状況で想像できなかったのだから、いち高校生に無能呼ばわりされてもしかたないだろう。
ついでに類似例を挙げるなら、イスラム系の自爆テロがある。成功した多くのテロリストは、必要最低限の爆弾を持って命を散らせた人達だそうだ。多くは、どうせ死ぬなら爆弾をたくさん抱えて道連れを、と考える心理効果があるため、爆弾を大量に持つせいで走るのが遅くなり、敵を巻き込む前に射殺というケースになるという。
車に載せる場合も同じである。素早く動ける程度に量を抑えないと、デメリットが大きいのだ。
自爆テロはともかく、目先しか見えてない人が上に立つと、どれほど現実から掛け離れた愚かなものになるか。現代の問題でもあると言えるだろう。
無能の運用で使い捨てられる一兵卒を自分に置き換えて想像すると、充分に現代に通じる恐怖となるからより恐ろしい。
さて、長々と脱線したが、上記っぽいのをだいぶ薄めて『この学校流で』堀北さんにぶつけてみたがどうなるだろうか。
まぁ、僕は諸事情で早苗と清隆達にぶつかりに行くから、もう関係ないといえば関係ないけども。
開始前、僕が相手をすることになる櫛田と綾小路グループが遠くから見えた。
今の清隆は、よく手入れされた日本刀のようだ。ただしそれはとても静かで、抜き身のようにわかりやすくなく、あたかも妖刀。刺されるか斬られる瞬間まではわかりにくい雰囲気だ。しかも冴え渡る頭脳持ちというオマケ付き。1度でも倒しそこねると2度目がなさそうな性質は、家に出る蚊やゴキブリにこそ欲しいものである。
1年間の付き合いが見せている幻かもしれないものの、下手に手を出せばやられると僕の勘は告げていた。
なので、開始の合図とともに駆け出して行き、早苗と一緒にギリギリ声の届く距離で無意味に煽ってみる。
「午前に高円寺との激戦を終えたばかりの僕をやっつけてオレTUEEEするなんて言わないよな、きっよたかー? 恥ずかしすぎんぞー、それは! ふっはははは!」
「夢月さん、もう痛みはないでしょうに……。別に構いませんが」
ふむ。まだ少し距離があるので見えづらいが、いつもの無表情に見えて小さく頬がヒクヒクしてる。多少は効いたようだ。
清隆の性格上、大きめの声で煽り合う非効率はしないと思っていた。今のうちに言いたい放題しておこう。
「早苗のご指名だ。あっさりやられてくれ。それに僕とやると話し合いとかに持ち込んじゃうぞー?」
「……さっさと倒してしまいますよ。それまで夢月さんもやられないでくださいね? そういう『運命』じゃないらしいですが、もしやられたらダサすぎますので」
自惚れる気は更々ないが、僕は誇るべき避け勘というものがある。数は不利だが、避けるだけなら早苗に付いて行くこともかろうじて可能だ。だから早苗を孤立させるような真似はしない。戦力運用としては正しくても、清隆の周りはなるべく他(僕)が抑えるべきだ。
陰キャというのは、浮かれてる時に中身を見透かされたように弄られるのが一番嫌いなものだ。人の嫌がることをやりなさいという教えは、こんなところでも活用できる。
端的に言うと、めっちゃ清々しく煽れるチャンスである。
そして、更にもう1つ。早苗のやる気を引き出すのも、現状なら僕が適任というのもある。
「何が運命だ。誰が、何が関係してようと僕の運命なら、それは僕だけのものだ。誰にもどうにもさせないよ。違うか早苗?」
「ふふっ、その通りですね! 私も自分の運命を変える奇跡にかけては自信があります! 守矢の二柱の名にかけて!!」
「だろうな。でなければ、現人神だの風祝だの公言できないだろうし」
なによりこれは僕が楽しい!
ついでに早苗も楽しめるなら一石二鳥である。
「いいか早苗。釈迦に説法にもほどがあるが、お前に教えてやろう。
奇跡は起こるものじゃない。信じる気持ちでとうにかして起こすんだよ。それには諦めないことが一番の近道だ。無理を通し、道理を吹き飛ばした時にこそ奇跡ってのは起こるってもんよ」
「誰が諦めている……のですか……。この私が信じることを諦めてるわけないでしょう!」
「そうか? 時々、様子が変になったりしてるが?」
「うっ」
「だから念のため、ついでにもう2つ。
お前自身と、お前を信じている僕を信じろ」
「私自身と夢月さん……」
「ふっ、僕の諦めは早いぞ早苗!!」
「……でも最後で締まりませんねぇ。そこは格好良く決めるところでしょう」
早苗さえ最高のコンディションにしておけば、それで必要充分だ。四方はだいたい集中しきれば、勝手に最大限の力を発揮してくれるからな。
僕の役目は、早苗に見える小さな迷いを吹き飛ばすことと見つけたり。
「まぁ、見ていろ。運命も奇跡もねじ伏せるのが、僕の叡智と経験というものだ」
「あーはっはっはっは! 相変わらずわかってますね夢月さん!
───テンション爆上げで行きますよ!!」
「おっしゃ了解。この勢いはもう誰にも止められないぜ!」
バフ代わりの発破はかけておいたが、相変わらずコイツのテンションが急激に上がる理由がわからない。
それでも一応想定通りっぽく曇りなき笑顔になった早苗と並んで、僕は更に前へと突っ込んでいった。
清隆単独なら僕も躊躇ったと思うが、このようなチーム戦では話が別だ。
体育祭の棒倒しや騎馬戦でもそうだったが、強力な個がいても指揮官の能力次第でいくらでも濃度を薄めることが可能である。
そして一之瀬が完全な指揮をできるようにする最大のメリットが、僕と早苗の外れ者以外……つまり統率が取れる生徒達の掌握。一之瀬は指揮能力を100%発揮でき、指示を通して連携を十全に活かせる一般生徒もWINWINな戦術だ。
ついでに、僕や早苗を独立部隊にしといてWINWINの中に混ぜてもらえば、清隆も封じられて八方良しである。
一方、自軍戦力の強化に割り振った采配なので、向こうの攻撃には正攻法でしか対抗できない欠点があるわけだが。
「須藤だ! 速ぇ! なかなか当たらねぇ!」
「みんな! 堀北さんにも注意して! 死角に回り込もうとしてる!」
「平田と軽井沢もなかなかやるぞ! 警戒しろ!」
右翼の柴田と一之瀬、中央の四方が声を上げるのが聞こえてくる。
須藤は単純に身体能力が並外れていて、一撃離脱を繰り返してくる。堀北さんや平田は平均能力値が高いため、援護や指揮をそこそこのレベルで行いつつ、個人技でも撹乱してくる。
それを少し意外なことに、主に平田の後方にいる軽井沢さんが指示を出しながら、戦力の足りないところに援護を入れる。スペックはどうあれ、なかなかの指揮能力だ。
勿論、こちらも負けてはいないが、両クラスとも決定打はいまだにない。しかし本格的に攻めている感じでもない。今はどちらも有利な場所を確保しようとしているのだろう。
ただ一之瀬は戦術を早々に切り替えた。
「攻撃してる人は、一旦安全が確保できた場所まで後退! 進軍してくる人がいたら危険だから後方組で援護しよう!」
「今、下がったらヤベェんじゃねぇか一之瀬!? 押し込まれるかもしれないぞ!?」
「大丈夫だから! 今は私を信じて!」
ん? ああ、むしろDクラスの最大戦力に到達エリアまで突破してもらいたいって考えか。須藤・平田・堀北さんの誰かが突破してくれれば、以降は参戦できないルールだ。ペイントボールを当てるよりも、よほど安全で確実な戦力削りができる。目立つ3人全員がいなくなっても、所詮は数人分の突破にしかならないからだ。そうなれば他の大多数は殲滅される。
結果的に、うちの勝利になるって狙いだろう。流石に乗っては来ないだろうが。
そもそも双方の人数が少な目とはいえ、ああいう目立つエース級を初っ端に全投入するとは、向こうのリーダーもなかなか思い切ったな。本来なら切り札として援護程度で自陣の消耗を抑え、逆に消耗してきた相手への決め手かトドメ用に温存しておくものだ。
それがあそこまで縦横無尽に動き回るあたり、リアルタイムでの制御ができなくなっているのかもしれない。大雑把にしか指示できないなら、おそらく一之瀬が組み上げた蟻地獄作戦的なものも案外ハマってくれる可能性がある。
「須藤君、一旦戻って! おそらく誘いよ!」
「おう! 鈴音がそう言うならそうかもな! 援護をくれ、ちょっと突っ込みすぎた!」
「僕が側面から回り込んで四方君達を抑える! 堀北さんは補給の中継をお願い!」
ま、普通に須藤以外は無理か。須藤も堀北さんがフォローを入れると普通に従ってるし、平田の遊撃も侮れない。
ただこの流れなら、普段から浮き気味の僕や早苗はどう考えても援護向きじゃないので、放置しても良さそうだと思えたのは僥倖か。僅かな時間だろうが、双方が硬直状態に陥る。Dクラスは基本防御の方針で動いてるっぽいので、無理攻めしなければ運動能力の低い生徒を守ると見た。
そして紛いなりに3本のルート全てを守ろうとしているなら、どこか1本でも突破すれば一気に崩せる。戦力としては価値が低い生徒を、そこから突破させられるからだ。
当然、Dクラスは繋げられたルートを取り返そうと更に戦力を分散させざるをえない。一之瀬の真の狙いはここだ。そのために必要な突破口をどうにか切り開こうとしているのだろう。なら、ルートの1本くらいくれてやれ、というのは悪くない。
ま、難しいことは一之瀬に全部丸投げして、僕と早苗は『清隆』を倒すことを第1目標に設定しておこう。
全体を俯瞰して大体を推察しつつ、警戒を怠らないように適正な射程圏内まで辿り着いた僕達に、さっき煽り言葉を投げかけた清隆が語りかけてきた。
「夢月、東風谷。やはりお前達が来……」
「やかましい。機械人間が話さないでください。ひどく不快です」
「……」
そして酷い言いがかりを見た。
「この私の眼前でコソコソと蠢き、友達を操ってぶつける。外道の法理をもって姑息な企てをする者をこの私がいつまでも見逃すとでも?」
「早苗もヘルシングるのかよ……。まぁ、お前ならアンデルセン神父にもなれそうだけども」
それにしても、いつものように話を遮られ、機械呼ばわりされても違和感なく通常運転な清隆すら、ちょっと傷ついた雰囲気になったじゃないか。
勿論、ここはあえて本人をスルーして早苗にツッコむのが僕である。
「綾なんとかは、震えることなく藁のように負けるんです」
「それはちょっと意味が違うくね? お前、響きだけで言ってね?」
「夢月さん……」
「わ、わかったから睨むな。……えっと、な、汝はなんぞや!」
でも多分、早苗の求めてるのってこうだよな? なまじ顔は良いもんだから、恐ろしい流し目を向けられると恐怖しか感じない。ついでに元ネタ知らない人に、なに言ってんだ? みたいに見られるのって地味に痛い。
それでも僕は早苗のノリに乗ることにした。
「現人神なり!」
「な、ならば神様よ。汝に問う。両手に持つモノはなんぞや」
「ペイントボールと盾なり!」
「ならば神様よ。改めて汝に問う。汝はなんぞや」
僕が三度返すと、我慢できなかったのか早苗がそのまま突っ込んだ。櫛田と三宅が隙を窺ってたのでしかたなく視線で牽制しておく。
「私は使徒にして使徒にあらず
守矢教徒にして守矢教徒にあらず。
私は、ただひたすら守矢の二柱に従う者。
ただ伏して許しを請い、ただ伏して敵を打ち倒す。
闇夜で短刀を振るい、夕餉(ゆうげ)に毒を盛る死の一兵卒の刺客なり。
時至らば、お賽銭を賽銭箱に投げ込み、荒縄を以って己の素っ首吊り下げるなり。
されば私を先頭に守矢教徒達は一斉に徒党を組んで地獄へと下り、隊伍を組みて方陣を敷き、七百四十万五千九百二十六の地獄の悪鬼と合戦所望するなり。
つまり私『達』は現人神とその使いというわけです!!」
てか、台詞両方とも早苗が言うんかい! せっかく警戒しつつ、話を振られても大丈夫なように準備してたのに勝手な奴だ。
でも以前の体育祭で僕がやった少佐の演説もどきを、早苗はいたく気に入っていた。満を持す機会を狙っていたのかもしれない。だって口を挟む隙がないほど、いやにスラスラと言葉が流れてくるんだもん。
「───ふぅーーー! 気ん持ちぃいいい!! 私のやる気メーターが満タンになりましたよ夢月さん!」
「……おい。なんかさりげなく僕まで守矢教徒とやらの一員みたく混ぜられてんだけど」
「気のせいです! もしくはノリです! 細かいことは流しましょう!」
「コイツ……人のこと煽るだけ煽って楽しいの(ブーメラン)?」
だが、聞き逃せない一言には忘れずツッコミを入れる。
「夢月さんが言いますか……すごく楽しいですよ、生きてるって実感します」
「楽しんでるならよかった。じゃあそろそろやるか」
「はいっ!」
入れなかったら、きっとコイツは僕の同意と見なして、いつの間にか入信させていたに違いない。早苗の勧誘は、どこからアップデートしたのか最近巧妙になってきているのだ。
っと、櫛田と三宅以外の綾小路グループの面々が挨拶でも交わそうとしたのか立ち上がったので、挨拶代わりに密かに左手の盾の中で握り込んでいたペイントボールを持ち替えて適当に放ってみる。
「ぶべらっ!?」
「あ、当たった。ラッキー」
それは見事、反射的にしゃがもうとした長谷部さんの頭上部に直撃し、彼女の顔面をコントのごとき赤色で染め上げた。
「女子にいきなり顔面直撃弾って……」
「いや、顔に当たったのは長谷部さんが素早くしゃがんだからなんだが」
残念ながら脱落の判定はないが、それでも最初の対象は狙い通りに当てられた。早いうちに落としておきたかったのは別なのだが、長谷部さんでもOKだ。
試験の勝負中ではあるし、狙い難い位置にいたとはいえ、文字通りに顔やイメージに泥を塗ると後が怖いからな───本命の清隆とコンビを組むと厄介な櫛田って。
「左京も何も言わずに不意打ちだと!? よくも波瑠加の顔面をトマト色に!」
「真っ先に女子を狙うとは卑怯な!」
それを受けて、何故か激高したかのような三宅や幸村に向けて、探りがてら切り替えておちょくりを入れる。
「きしゃしゃしゃっ! ここは勝負の場だ! 男も女もねぇ! 強い奴が勝ち、弱い奴が負けるんだよ! 傷つくのがイヤなら勝負の場に出てくるんじゃねぇ!」
「ここはトマト祭りの会場じゃねぇだろうが! それに傷ってか恥なんだよこの野郎っ!!」
「……なんなの、その笑いは。フレ○ザードを演じるならちゃんとやってよ左京君。調子狂う」
「……いや、キョーちゃん。これでもどっかの馬鹿どもよりはよっぽどマシだわ。少なくとも正直に勝ちに来てるし、愛里から聞いた通り」
ヤバい。今更だけど、三宅がなんか強い。何気に場馴れ?してるし、迫力もそれなりだ。怖さは龍園ほどじゃなくとも、石崎とはガチの殴り合いもできそう。
長谷部さんも何気に反射神経はそれなりだ。胴体に当てるつもりだったのに、とっさにしゃがまれた。顔面真っ赤になったけど(比喩や感情表現じゃなく物理的に)。
しかし、口上が終わるやいなや襲いかかっていた早苗と交戦中の清隆、全体のフォローに走る櫛田、渡された手拭いで顔面の赤色を拭いながらも笑顔になってる長谷部さんには、変な受け取られ方をした気がする。
「…………ははは。カオスだ」
「啓誠、下がってろ。東風谷相手だとオレも余裕がない。一瞬の隙が命取りだぞ」
ほら、どっちかというと呆然となってる幸村や警戒しつつ注意を促す清隆が普通のはずなのに、何故か逆に浮いて見えるもの。勿論、会話が終わる前にもペイントボールが飛んできてるので、勘と反射神経に身を任せつつ、何手か先読みして避けまくる。正面からなら、数人がかりでもなんとか避けられるな。
そうしている時、早苗が一歩を踏み出したのが視界の端に映り、猛烈に嫌な予感を覚えた。
「ちょ、ちょっと待て早苗ぇ!! お前、直でぶん殴ろうとしてなかったか!? やるなよ!? 絶対やるなよっ!!?」
「ほう? それはつまり夢月さんも期待してるんですね。
うふっ、不安そうですね♪ 現人神、動きます!」
「違っげーよ!! フリじゃねーから! 無駄に深読みするんじゃねぇ! 動くな、いや動いても良いけど殴りかかんなっ!」
後方に下がって清隆を集中攻撃していた早苗のところまで移動し、必死になって止めた。
山の天気のようにワンシーンごとに機嫌が変わる早苗は、どうやら清隆と交戦したことで一気に土砂降りへと変化したようだ。これが弾幕戦であって肉弾戦ではないと忘れるほどに。弾がなくなったから、そうしようとしたんだろうけども。
疑問符が付かないレベルの早苗を抑えるのは並大抵ではない。
「なにやってるんだか……」
「い、今のうちに盾とバリケードで態勢を整えよう」
「……そうだね。私も熱くなっちゃってたかも」
「ああ、今が好機だ。このモヤモヤした気持ちごと全弾左京にぶつけてやろう。行くか」
「待ったぁああああっ!! 少し落ち着け明人! 普段のお前はもっとこう、冷静だっただろ!? 俺が明人のツッコミに回る想定なんかしてないんだが!?」
幸い、向こうも何やら騒いでるし、一旦お互いに落ち着いてから仕切り直しといこう。清隆の相手を僕、それ以外を早苗にしないと別の意味で危ない。対早苗のクールダウンの札もすぐに切ろう。