ようキャ   作:麿は星

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 誤字報告、ありがとうございました。


153、未知

 

 僕と早苗は少し後退し、向こうの5人も数少ない物陰に隠れた。

 しかしただ休ませるにはもったいないので、超位魔法の詠唱で挑発してみた。三宅を止めようとしてた幸村や清隆には多少効果があるだろう。

 

「春はあんこう鍋。ようよう白くなりゆく思い人の眼鏡の曇りを少し拭いて、箸休めにしらたきとご飯を掻き込む。鍋奉行が立ち上がり、細かく仕切り出す。

 

 夏は肉。蛍の多く飛ぶ秘境にて、月の頃はさぞかし盛況。仄かに光るのも輝く月光も、をかし。雨などが降るも、をかし。ゆっくり食すのも、急いでかぶり付くのもまた一興といえる。

 

 秋は夕餉。昼でも夜でもない黄昏の境界で、鳥達が並んで流れていく中での純日本食は最高の贅沢。澄み渡る空に登ってくる星々の美しさは言うに及ばず。

 

 冬は炬燵。それはまさに寒さを避ける科学の結晶。雪など降れば1日中外に出ないことさえザラ。白き世界は美しけれど、堕落の果てにある暖かさに人は決して勝てぬ。昼になるまで動かぬが吉である。ふさわしき相方は旬のうなぎと言えよう」

 

 僕の詠唱は意外なことに最後まで邪魔されずに放てた。

 なんかみんなボーッとしてるけど、早苗の苦手な文系の超位魔法を持ち込んだこともあってか、なんとか雰囲気をデフォルトに戻せた。

 あとは自然に相手をスイッチするだけだ。

 

「…………何故、唐突に枕草子(改変)なんだ?」

「詠唱の最後に言っただろ。お前らの勝率はこうしてる間にも、うなぎ下りだ」

「下る時はどの魚類も同じだろ」

「魚の重さにもよると思うが」

「v=vo+at、だな」

「数式をディベートに利用するじゃない」

「夢月ならわかるだろ?」

「……わかるが、こういう日常会話に専門用語的なの挟まれると一瞬脳がバグる」

 

 それにしても返してくれたのはありがたいが、なんて無粋なんだ清隆。古文に数式の食い合わせは悪いと、古事記にも書いてあるというのに。

 

「二人で即突っ込んできた上に、私の顔面に遠慮なく全力投球のペイントボールをぶつけてきたはぐりんが、脳がバグってないと思ってるとか……」

「加速は速度に関係ないから大丈夫だ」

「ふむ。v=∫ady」

「だからインテグラルを論破に使うんじゃない。清隆には風情というものがないのか」

「お前に土を付けるのはオレだからな」

「ははっ、ご冗談を。呑気にディベートに付き合うお前は勝ち気がないだろ」

「コイツ……」

 

 畳み掛けるような清隆のナンセンスな舌戦に、誰もついていけない。思わずといった感じに口を出した長谷部さんと、なんとか反論している僕がギリギリといったところか。

 ちなみにさっき隠れた時に、早苗は僕のザックを漁って確認しつつ、勝手にいくつかペイントボールを補充している。避けるのと言葉に集中してた関係で、僕は長谷部さんに投げた1発しか使っていない。弾数に余裕があるのだ。

 

「しっかしやるな、清隆。なんか笑えてくるくらいだ」

「楽しそうに言うものだな。東風谷もいるとはいえ、そちらは弾数が限られている上、人数差もあって窮地だというのに」

 

 ただ、僕の残弾は“3つ”。早苗が僕のザックから5つを持っていったようだ。相手をスイッチするかのように、櫛田や三宅、長谷部さんのいる方へ突っ込んでいった。

 そして動きと清隆の発言から、櫛田と幸村は交代で空になったザックの補充係をしてることが読み取れる。ここから打開策を打つなら、言い負かしからの撹乱が妥当だろう。対清隆だけであれば可能だ。

 今なら、見込みのある『リーダー候補』への洗礼───ぶっちゃけ、堀北さんに負け確の勝負をさせる仕込みをした清隆への対抗策も打てる。

 

「窮地ってのは最初からだから問題ない。でもやっぱり相対する奴ら…いや、清隆が強いって思ったら、なんか逆に笑えてこねえ?」

「……理解できなくはない。夢月も実力者の端くれにはいるからな」

「ふははっ。そうだろう? ま、僕は強くないが」

「そう、だな。こうしていても、やはり負けるとは思えない……が」

「それでも安心や油断はできないか。何度かお前すらひっくり返したこの僕を相手にすると」

「……っ」

 

 まぁ、予想はしてたが早苗や高円寺と同様に、清隆は僕と会話しながらも三宅達の援護を怠らないわけだが。

 誰かのトドメ寸前にペイントボールをばらまかれる度に、非常に邪魔くさそうな顔を隠さず、早苗が押し引きを繰り返している。勿論、僕への攻撃も継続しつつだ。

 

「なんてな? お前、色々変な動きはしてたみたいだけど、そんなに勝ちには拘ってないだろ。こんなこともあろうかと、正攻法と奇策の2枚を持ってきてるからよかったら楽しんでくれ」

「夢月はどこを目指してるんだ……?」

「知らねーよ。特に考えてないし、頭だって並なんだから想像程度しかできないわ」

「お前にオレが葬れるか?」

「お前相手ならそれは語るに及ばない。てか、似たような事をいつかどこかで言った気がする」

「……ふっ。たしかに、な」

 

 しかし……はぁ。清隆から時々漏れてくるパッと見はそうでもないクズ思考が、コイツも狂人かただのアホなのでは? と僕を疑わせてくる。獅子身中の虫とすら言える行動を事も無げにして、マジでコイツはなんなんだ。

 

 自分の影響を考慮せず、守ることを度外視して破滅に向かいたがるタイプは……一応、信じられないことに世の中には意外と多いが、清隆はあまりそういうタイプに見えないんだがなぁ。どっちかというと躊躇いなく「僕を置いて先に行け」「了解」の会話を素でやりそうなタイプ。

 僕としては、まだ横で無駄な煽り合いしてる邪悪な2人の方がわかりやすい。  

 

 関係ないが、櫛田は”清隆と内々に付き合いだす前“から……体育祭以降の約半年間ほど髪を伸ばしてたので、現在では早苗や長谷部さんより少し短いかなっていうくらいの長さの髪型に変貌している。

 ああ。言うまでもなく、清隆と櫛田は十中八九偽装で何らかの共犯関係だ。大方、お互いの足を掬おうと暗闘するために、あえて内側に潜り込んで弱みを探っているのだろう。甘い雰囲気はほぼ感じられず、身内だけだとだいたいは殺伐としている。2人とも友達ながら、こういう点でも明らかにヤバい奴らである。

 

 更にそれに加え、不意に会っても髪や服が乱れてることもなく、服とかにお互いの匂いや髪の毛が付いてたこともなかった。

 愛里との経験を積んだ僕は、アレ系の誤魔化しが大変なのに詳しいのだ。どんなに気をつけてもほとんどの友達に一瞬でバレるのはどういう理由か。愛里の羞恥顔は非常に可愛いが、それ系のフリをされると(何故か振られる前や振られなくても)すぐそうなるから即バレするんじゃなかろうか。

 

 ともかく、いくらアイツらでも特にこういう偽装工作を日々創意工夫している愛里の目を掻い潜れるとは思えない。

 ゆえに清隆と櫛田が、ゆうべはお楽しみでしたね案件になってないのは、僕から見ても確定で間違いないQED。

 

……知らず脱線していた。思考を戻そう。

 そんな櫛田と早苗は、早苗の弾が少なくなったのが原因か“いつものように”じゃれ合いを始めていた。

 

「櫛いらずの桔梗」

「道迷い早苗」

「あぁん?」

「はぁん?」

「2人揃ってゴミキュア」

「「「ぶふぉっ!!」」」

「「夢月さん(左京君)、ぶっ殺すよ?」」

「ひぃっ! ごめんなさい…つ、つい」

 

 って考えてたら、火中の栗を拾いに行ってしまった。

 コイツら…というか櫛田が争ってるところに乱入するとこう…胸が高鳴るんだよね。恐怖で。それなのにツッコミ処が満載だからやっちゃうんだ。

 方向音痴気味な場合もある早苗の「道迷い」はともかく、髪を整える時に「櫛いらず」な櫛田の呼び名はむしろ褒め言葉だろ、とか。なんで罵倒語で名字の韻を踏んでるんだよ、とか。

 悔しい……! でも芸人魂に感じ入っちゃう! って感じである。

 だが、おそらくこれが再び開戦の火蓋を切ったのだろう。邪神と悪魔の八つ当たりは、お互いではなく連れへと向かった。

 

「おわぁっ! あっぶね!」

「くっ、やられた……!」

 

 ターゲットになったのは僕と幸村。櫛田に狙われた僕の方はなんとか避けたが、弾の補充から戻ってくる途中だった幸村はそうはいかなかった。早苗の投げたペイントボールの赤色がべったりと胴体左側に広がっている。

 

『Dクラス・幸村君、脱落です。速やかにエリア外へ移動して待機してください』

 

 無情にもアナウンスで最初の脱落者確定である。

 なので肩を落として去ろうとする幸村に、僕はさりげなくついていこうと「みんな、気をつけてっ! 左京君が幸村君について、なに食わぬ顔で突破しようとしてるよ!」櫛田ァ……! 普通にバラしやがった!

 こうなってはしかたない。プランBだ。

 

「まさか僕の神算鬼謀を見破るとは……! 侮れないな、櫛田……!」

「……むしろ見破れないと思ってたのか夢月。当たってもないし、アナウンスもされなかったのに」

 

……無視だ、無視。空気読めない清隆は黙ってろ。

 

「ハンッ! 上等だ。早苗、暴れまわれ。僕が許す。直接攻撃以外なら何をやってもいいから、まずは数を減らそう。そして」

 

 これなら鉄火場だと何故か以心伝心っぽくなる早苗には伝わるが、それ以外にはただの指示にしか聞こえないだろう。

 

「早苗は『弾がなくなったら』補充に走れ。その間は僕だけで食い止める」

「ほう……? 言うだけの自信はあるんですか、夢月さん」

「清隆を含めて3人くらいまでならだけどな。僕の回避能力を舐めるな」

 

 不敵な笑みを一瞬だけ浮かべ、僕は早苗に発破をかける。

 

「───プランBだ。僕を使い潰す気で走れ、早苗。でもできれば助けてくれるとありがたい」

「……っ! ここは任せます夢月さん……!」

「おうっ!!」

 

 正念場だ。やってやるさ。

 

「左京こそ俺達を舐めるなよ。そう簡単にやられてたまるか!」

「そうだよね! ゆきむーの仇は取らなくちゃ!」

「はぁーはっはっは! お前らの時間は僕のモノだ! お前らは何もわからないまま落ちる!」

 

 これでいい。僕が大丈夫だと意図のわかるように予言めいた大法螺を吹いたと同時、早苗は脇目もふらず身を翻していた。

 多分だけど、清隆の基本パターンは数発で態勢を崩した後に必殺を狙う。早苗は全て一撃必殺で狙い、結果的に相手を崩せる態勢になる。微妙に似ても違ってもいるが、これをどんな態勢でもほとんどラグなく行えるから強いと見た。

 なら、回避行動を必要最小限にして常に一定の態勢を整えられれば、清隆だけじゃなく他に対しても有効だ。僕1人でも的確なパターン作りができれば持ちこたえられるはず。

 

 肝は複数ある射線を僕に限定すること。逃げ道を複数想定して優先順位を間違えないこと。

 そのためには、悩んでは駄目。逃げるのも、躊躇うのもだ。一瞬でも呆然としようものなら、清隆級の相手には楽な的当てでしかない。どうにかして脱出の道筋を瞬時に判断するのが僕には最低限必要である。

 逆に言うと、その隙を僕が作り出せれば早苗にはそれなりのアシストになる。

 ゆえにプランBを発動した。あとは持ちこたえるだけだ。

 

 

 

 早苗が後退してから、どれくらいの時が経過しただろう。限られた弾を使わないまま、僕は回避に全振りして逃げまくっていた。

 

「なかなか隙を見せないな……。夢月の身のこなしは大したレベルじゃないんだが」

「うん。左京君って、何気に早苗や高円寺君さえ出し抜くからね。出し抜かれないのも上手いってことかも」

 

 まず清隆に櫛田。この2人は要注意だ。僕が大きく態勢を崩せば、おそらく決められるだろう。今も無駄弾は投げず、そう遠くない彼らの補給地点に戻ったりしつつも、僕の隙を窺っている。

 

「なにこの回避力! 全然当たらないんだけど!?」

「そろそろ観念して当たれ!」

 

 それに熱くなってきた三宅や長谷部も、パターンが読みやすくはあっても侮れない。弾が補給され続けているし、僕が最小限の動きと即座に次の対応に繋げる態勢を維持する必要もあるからだ。

 さながら今の僕は、踊るゴキ…勝手にホームステイしてくる黒き存在のように転がったりしてでも逃げ延び、ペイントボールをちらつかせつつ蜂のように言葉で刺すはぐれメタルである。

 

「嫌だ!! そんな頼みは聞けないね!!」

 

 なので、某無能な真の漢リスペクト…なんて思う暇もない。本当に反射的な言葉が飛び出た。

 

「コイツ、ペンウッド卿かよ……。思わず感じ入っちまったぜ」

 

 む、これがわかるとは、三宅はわかってるな! って、そんな場合でもない。

 僕一人になってからは完全な耐久戦になった。だが、ドッチボールなどで撃墜数は稼がないのに、不思議と毎回最後まで生き残る勘のおかげか、3ないし4対1でもなんとかなっている。

 あ、早苗がすんなり後退できたのは、残弾数を誤認させられたのと清隆達にセオリーという常識があったのが要因だろう。誰も弾切れまで暴れるとは思わない(1~2発は残してる的な?)ともいう。

 

 

 

 それから1分もしないうちに戦況が動いた。

 早苗がうちのクラスの物資補充エリアに帰還し、そこからダイレクトでDクラスの生徒を爆撃し出したのだ。

 そう。プランBのBはback attackの頭文字である。

 尤も、意味は相手の背後からの攻撃じゃなく、自分が後退しての遠投狙撃だがな。

 

「ちょ、遠距離から連続で投げてくるの反則だろ!」

「うるせぇ、いこう! 早苗、なぎ払えぇえええ!!!」

「ルフィみたいな台詞なのにやり口が鬼畜すぎぃ! 巨神兵が混ざってるからぁ!!?」

「ぎゃあああっ! 当たった!?」

「アナウンスはされてないよ! まだセーフみたい! 急いで物陰に隠れて!」

 

 大混乱している。無理もない。

 

「させません! 私のレーザービームのごとき強肩、とくと味わってもらいますよっ!!」

「き、清隆ー! 早く(遮蔽物のない場所に)来てくれーーー!!」

「さりげなく? 混ざってオレを陥れようとするんじゃない夢月! 今は敵同士だろ……!」

 

 周囲の混乱に乗じてのクリリン式は無理があったか。

 てか、僕だって「できない?」って早苗に吹き込んだりはしたけど、こんなことが実現できるとはちょっとしか思ってなかった。

 強肩とパワーだけなら清隆や高円寺、須藤あたりも可能かもしれないが、エイム力となによりレーザーのような弾道と速度を維持しつつ、ペイントボールを破砕しない力加減は、おそらく早苗しかできないだろう。

 しかし、あの仄かに光ってるのが早苗の宣う弾を守っている奇跡とでも言うのだろうか。奇跡のバーゲンセールか、ふざけんな。力こそパワーを地で行くんじゃない。

 

『Dクラス・三宅君、脱落です。速やかにエリア外へ移動して待機してください』

 

 しかし常識はさて置くと、充分な戦果だ。三宅を脱落させ、長谷部さんを『予定していたポイント』へ待避させた。

 

「きゃっ、なに!?」

「それは悪手じゃろ、長谷部」

 

 流石に遠投にまで繊細なコントロールは求められない早苗の爆撃をアシストに、僕も突っ込む素振りを見せて、中央の四方の射程圏内に追い込んだのだ。四方の某会長ムーブとともに、長谷部さんの肩から胸にかけてペイントボールの赤が広がる。

 そしてここしかない。

 僕は被弾した長谷部さんに僅かに気を取られた第二候補である櫛田を、残弾の3発を持って狙い撃つ。

 

「櫛田っ!」

「えっ、ひゃうっ! あ、あぁ~!?」

 

 2発目が櫛田の脇腹付近に当たった。油断なく、抜け目なく、脱落者から残弾を回収していた清隆のフォローや警告も間に合わない。

 

『Dクラス・長谷部さん、櫛田さん脱落です。速やかにエリア外へ移動して待機してください』

 

 無論、隙は逃せない。立て続けに清隆以外を脱落させる。

 僕や四方、早苗の遠投にも対応しながら冷静に脱落した仲間の弾を回収していた清隆は流石と言えるが、徐々に包囲は狭まってきた。ここからがキツいのだが。

 

 当然、四方達の中央や一之瀬のいる右翼でも戦況は動いている。アナウンスは聞こえてなかったが突破者や脱落者も増えてきて、現在の残存はDクラスが5人、うちのクラスが6人ってとこか。

 双方の何人かはエリア到達していて、特に中央はほとんど残っていない。

 

 平田が四方を抑えているうちに、堀北さんと軽井沢さんが率いた合計4人がエリア到達したと思われる。

 一方、一之瀬と網倉の率いた合計7人がエリア到達しているので、多少はうちが有利って感じか。まだ四方と平田、柴田と須藤などの数人は残ってやりあってるが、僕達が清隆を倒せなかったとしても、何人かがエリア到達すれば人数的に勝ち確だろう。

 

「さて、清隆。足手まといを『切り捨てて』身軽になったな? 残弾はいくつ回収できた?」

「14だ。どうにか狙い通りになったが。これは確かにオレの窮地だな……」

 

 櫛田達綾小路グループの面々が居なくなり、ある程度は清隆の本領を発揮できる状態だ。僕達の声は拾われてる可能性が高いから完全ではないが、こういうのを虎に翼を与えたようなものと言うのだろう。だから効果はないと承知の上で露悪的に挑発する。

 露骨にも程がある時間稼ぎだが、清隆はおそらく乗ってくる。なぜなら、ここで話をするのはセオリーではありえない。

 コイツの今の目標が勝敗ではなく、想定外や未知な結果だとなんとなくわかってきたからだ。

 

「お前、そんな事ばっかりやってると、マジでいつか退治されるぞ清隆。文字通りの意味で」

「……ククッ、東風谷にか?」

「それ以上に清隆のクラスの誰かにだよ。しかも、なにソイツらまで煽ったり、成長させようとしてんだ。馬鹿なんじゃねぇの?」

 

 ついでに入れなかったが僕も対象だろう。

 愛里や櫛田、堀北さんに……高円寺もか? いま仄めかしている材料だけで、すでに早苗の嫌悪感が溢れ出している。このまま進むと、早苗以外からも仇敵か諸悪の根源みたく思われかねないと思うのだが。

 ただ、もうわかっている。

 清隆は自分自身を含めたナニモノも信じない生粋の悪───に近い判断基準を持つ男だ。

 

「馬鹿、か……。そうかもしれないな」

「さっきはお前に聞かれたけど、今度は僕がそのまま返そう。

 清隆はどこを目指してるんだ?」

「さあな。ただ導き出す未知の答えがオレの好奇心を満たしてくれる。現時点では最も『未知』をもたらすのが夢月だということだ」

「わかるようなわからないようなことを。はぁ……一応、忠告はしたからな」

 

 ま、でもそんなことはどうでもいいか。今一度、ここで止めればいいだけだ。清隆への不信感も事後処理を経由して、一旦は一定程度に収まるだろう。

 虎の威を借りれる今なら可能なはず。

 

「清隆、チェックメイトだ。死に物狂いで足掻け。あるいは届くかもしれない」

「ふっ、そういうところだ夢月。こうでなくてはつまらない」

 

 勿論、その頃には僕がこう言えるだけの戦力は揃っていた。

 周囲を早苗にやられてなお、ついに突破を果たした平田を追撃せず四方が。遠投狙撃で3撃墜、更に3方面へのアシストによって大戦果を挙げ、最大所持数の残弾を補充してきた早苗が。

 僕の横に並ぶ。

 

「四方は右、早苗は中央、僕は左だ。

 最後まで僕以外は抜かるな。清隆は並じゃない」

 

 だから、わざと腕を大きく振って短く攻撃指示をする。

 

「残弾が心許ない奴が両翼ってことだな、了解だ」

「なるほど、そういうことですか。ようやく綾なんとかをこの手で退治できます。試験のお遊びなのが残念ですけどね」

 

 四方も早苗も采配に納得できたようなので、準備は完了だ。

 1つ頷き、僕はいつも通りの言葉を放った。

 

「で、僕は逃げ隠れがデフォルトだから攻撃には“多分”参加しない。無人島だったかで言ったように、あとは君達に任せた」

「「「……は?」」」

 

 そのまま清隆の左側に唯一存在する障害物に、いそいそと身を隠す。

 四方や早苗がいようと単独の清隆相手は僕には無理だし、足手まといな上に残弾もない。妥当な判断だろう。なんか障害物越しにこの場の全員から凝視されてるけども。

 ふむ。一言かけるのは親しき仲にも礼儀ありかもしれない。

 

「ん? どうした3人とも? 僕に遠慮せず、同レベルの天才同士で存分にやり合うといい。それか、なんなら僕は先にエリア到達、からの戦力外になっといた方がいいか? あ、清隆が功績欲しいなら狙ってもいいけどオススメはしない」

「「「……」」」

「ん、んじゃ。そういうことで……えっと、みんな頑張って?」

「「「…………」」」

「ア……アスタ・ラ・ビスタ、ベイビー? 地獄で会おうぜ?」

「「「……………………夢月(さん)」」」

 

 何故か誰も口を開かなくて加速度的に居心地が悪くなってたから、盛り上がり場面で変な妄言が漏れてしまった。

 しかしこれで僕の役割は全て終わりだ。僕の試験も終わった。何も問題はない、よな?

 と、障害物に背を預けて、何故か発生している居心地の悪い静寂から最低限の警戒を残したまま、僕は現実逃避した。神経を集中し続け、動きっぱなしで疲れていたのだ。

 やることやったし、終着点は見えたのだから、もう休んでもバチは当たらないだろう。

 

 そのまましばらくサボ…待っていると、気を取り直して僕を居ないものとして激戦を繰り広げる3人。……と、最終盤サボ…待っていた僕だったが、盾の裏に握り込んでた残弾が1発残ってるのに気づいて。……そ、その、つい無駄にするのもアレで、なんとなく勘100%の山なりの置きエイムをしてみた。だって余ったらもったいないじゃん?

 

「あ……」

 

 そしたら、四方達の攻撃を回避してたまたま落下点にいて、投擲のために前傾姿勢になっていた清隆の背中へ吸い込まれていったというかなんというか……。現実である証拠として、清隆の背中を赤色のペイントが染め上げているの自分の目で確認したので、夢でもないというか。

 あ、あーっと、清隆も目の前の天才どもに集中せざるをえなかったので、頭上への注意が薄くなっていたと思われる。

 

「……は?」

 

 彼視点、突然背中に被弾して初めて見る間の抜けた顔と声を漏らす清隆。

 狐と狸の化かし合いをブチ抜くのは、何も考えていない猿だった……ってこと?

 高レベルな2対1の激戦の最中に、マジですまん。こんなつもりはなく、若さゆえの出来心だったのだ。

 清隆にペイントボールが直撃した後、僕より遥かに強い3人がポカンとした表情を浮かべて僕を見ていたのは微妙に気まずかった。

 

「あ、あ~。だ、弾幕はブレインだよ?

 なんつって……えっと、その…………ぼ、僕達の勝ちだな? みんな、お疲れ」

「「「……」」」

 

 一言で現状を表すなら、静寂。

 ぶっちゃけ、なんか誰からも反応が返ってこない。

 だが、味方に当たったわけでもないし、ただの清隆の並外れた不運といえよう。そういうことにして切り替える。

 一拍置いて清隆脱落のアナウンスも流れて安全確保された僕はエリア到達を目指して、何事もなかったと思い込んで悠々と歩き出す。

 

 清隆含む友達3人に見送られながら───って、四方と早苗は僕側だろ。いつまでボーッと突っ立ってんだ? まぁ、もはや僕達以外の残存はいなくなっていたから好きにすればいいが。

 なんであれ、決着も僕の『チェス』試験最後の山場もこうして一件落着した。

 

……試験後、意味不明なことに僕は両方のクラスの相当数から、無言で余ったペイントボールを投げられまくり、ほぼ全身を赤と青のまだら模様にされた。

 

 しかも審判的な立場である2人の先生方さえも、それについて不問に付す裁定を下した。

 たしかになんとなくでお魚くわえたどら猫ムーブしたのは悪いと思っているが、そんな怒るようなことじゃないだろう。

 無論、断固とした対応を取る所存である。

 僕はいつでも理不尽に抵抗するレジスタンスなのだ。

 あとで愛里に甘やかしてもらうまで、この恨みを忘れはしない。決して───。

 

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