ようキャ   作:麿は星

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154、笑顔

 

 僕は他の生徒と比べ物にならないくらい汚れていた赤と青のペイントをシャワーで流して、対局ルーム?多目的室?へと戻ってきた。一応の締めが残っていたからだ。

 

『―――お疲れさまでしたAクラスとDクラスの皆さん』

 

 着席すると、結末を静かに見守っていた坂上先生がアナウンスを流していた。

 

『キング防衛戦はAクラスの勝利です。よって今回の最終特別試験は合計9人を残したAクラスの勝利となります。Dクラスも大健闘でした』

 

 残した人数で獲得CPに差ができるわけではないが、試験が終わった実感を呼び起こすにはちょうどいい。ようやくこの居心地の悪い空間から脱出できる。

 

「なんというか……予想外ばかりの結果だったが、両クラスともよく頑張った。勿論、左京と堀北もな。あまり気を落とすな。今回の結末ばかりは予想できる生徒もおそらく、いないだろう……」

 

 なんとも言えない顔をしている真嶋先生が主に堀北さんを慰めている。落ち込んでるっぽい当の堀北さんは気づいてなさそうだが。

 

「はい……しかし」

 

 ま、無理もない。僕達のクラスはともかく、Dクラスはこれから退学者の押し付けが始まるのだ。気分が良い奴がいるわけがない。

 試験前に話し合っていた方法を使うのだとしたら、退学者にふさわしいマイナスを齎した生徒が選ばれるだろう。何気に僕にすら予想できる奴が1人いるし、Dクラス担任である茶柱先生に匿名のメール投票で決定する関係上、退学者が判明・確定するのは明日だ。

 

 これはどちらのリーダーがすることになっても心の負担を少しでも減らすために、最低限のセーフティーになればと根回ししておいた。退学になる瞬間さえ誤魔化せば、おそらく格段に精神ダメージは減少する。

 

 ちなみにそいつが退学者になるなら、救済に足りないぶんのポイントをうちのクラスから借りる、という手は使えない。というか、Dクラスの誰かが一之瀬に打診してきたとしても、早苗や神崎が使わせないと思う。

 あえてそいつを残すというのもない選択ではないものの、対価が重すぎる。ほぼ確実に返済能力がない奴に大金を貸す選択はありえないはずだ。仕組んだ奴もそこは計算ずくだろう。

 

「……堀北。提出は今日の夕方18時までだ。遅れると問答無用でお前が退学することになるので気をつけるように」

 

 退学者の選出期限、ということか。

 真嶋先生は心に傷を負ったように、無表情に淡々とした態度を装って堀北さんへ告げる。見ると坂上先生も目を伏せていた。思ったより情に厚かったようだ。

 何気にこの試験、対決するクラスの担任が担当しないのは、こうして教師陣への心に負担をかけないためかもしれない。

 それだけに―――。

 

「この通達をもって試験終了しました。『左京君』は速やかに退室してください」

 

 試験中、僕の『ふざけていた』態度は、特に真嶋先生の反感を買ったようだ。その強張った顔に笑顔は最後までなかった。

 

「坂上先生、教室に戻って解散でしょうか?」

「いえ、途中の怪我に問題がなければ、左京君はこのまま帰宅しても大丈夫ですよ。お疲れさまでした」

 

 ただ素朴な質問に気遣いの言葉を返してくれた坂上先生は、当初からそれほど変化がない。

 

「本日はありがとうございました。では失礼します」

 

 だから、クラスで集まらなくていいと聞いたのもあって、僕は立ち上がりながら荷物を持ち、礼をして部屋を出た。

 

「堀北さん。学によろしく」

「―――っ!」

 

 ちょっとした土産を残して。

 

 

 

 そのまま帰ろうと思ったのだが、ふと自分が手ぶらな事に気づいてシャワールームへと足を向けた。試験で汚れた体操着を思い出したのだ。いくら簡単に落ちる塗料とはいえ、早めに洗濯しておくに越したことはないだろう。

 

「ん……夢月か」

 

 シャワールームの篭から置き忘れていた自分の洗濯物を取り出し袋に詰めていると、清隆が訪れた。

 

「よっ、清隆もなんか忘れ物か?」

「いや、違う。オレはちょっと『呼ばれた』ついでに、夢月がここに入って行くのが見えたから話かけただけだ」

「ふ~ん。物好きだな」

「物好き……。さっきの事があってこれか」

 

 試験は終わったのだから、もう平常運転になって問題ないだろう。

 コイツがここにいるということは、全て計画通りになったのだから。

 

「……退学者が誰になった…なるのか気にならないのか?」

「あー? あんなあからさまで気づかない奴なんかいるわけない。僕が見たのは試験中のアレだけだけど、清隆のことだ。他も仕込んでただろ」

「夢月の打ち方が急に変わった時に気づいたのか……?」

「あのなぁ、思い返せばだけどさ。堀北さんの態度が最初から変だったし、僕か愛里じゃなければ多分天文部員は最初に気づくと思うぞ。早苗とか、ホント朝に会った時すでにその気だったからな」

 

 尤も、早苗は反則気味な可能性もあるが。

 数日前にも試験中にも似たような会話をしたけど、こんな当たり前の話をわざわざするまでもないと思ってるが……まぁ、清隆的には答え合わせでもしたいのかもしれない。

 なら、何度目かの釘刺しをしとくか。

 

「───清隆が『何人か』の退学を狙ってた、なんて」

 

 IQについて調べると、面接などでする自己PRでは、IQの低い高学歴者ほど誇大PRする傾向にあり、逆にIQが高くなるほど自己評価が低くなって控えるようになるらしい。

 だから、要領の悪い人を面接で落とすのには良いが、優秀な部下にはなっても将来的に管理職や幹部にすると無能になる者ばかりを採用するので、求めすぎない方がいい。

 いわゆるダニング・クルーガー効果というヤツだ。

 

「ふぅー。時に夢月は底の抜けた考えなしなのか、悪辣な策士なのかわからなくなるな」

 

 清隆は息を吐き、罵倒なのか嫌味なのか…あるいは褒めてるのかわからない風に溢した。

 反応からしても、おそらく清隆はこれを応用したモノに欲望を煽ることを絡めて山内を嵌めたのだろう。だから退学するのは予定通りなら山内、ということになっているはずだ。

 

 ま、ぶっちゃけしかたなくはある。能力や特技があればなんとかなるってのは外野の意見だ。多少役割がこなせても、面倒だったり摩擦を生む存在は排除しておくのが円滑なグループ運営のコツ。替えが効くならなおさらだ。

 加えて、ほぼ確実に退学者予定だっただろう山内以外も……。

 

「試験中も言ったし、僕と関係ある奴じゃないなら清隆の好きに遊べばいいけど、本気で敵を作るからな、それ」

 

 特に早苗と高円寺だ。

 清隆や坂柳さんみたいな謀略寄りのやり方は、あの2人にとって目障りこの上ないだろう。基本他人に無関心なわりに、一度でもアイツら自身で認めた相手には案外人懐っこい奴らだからな。

 その仲間に向けられているとも取れるギリギリの一線を見極めるようなことされたら、不愉快に思うのが自然ではなかろうか。

 

……だから、早苗がああいう敵対的な態度になるのかと微妙に納得。明らかに淀んだやり方は、醜いとまでいかなくとも美しく映らない。

 

 ともあれ話を戻すと、清隆は必要以上に安全マージンを取る男だ。何らかの手を他の誰かにも打っていたと今の僕は予想している。

 勿論、この学校のように退学をかけた争いまであるなら、清隆の安全マージンを大きく取る方針もなくはない。信用も信頼もできなく、乗せられたとはいえ場の空気までギスギスさせる、と清隆が見てるなら切り捨てもやむ無し。

 

 清隆本人や高円寺、早苗なんかもある意味そうなのだが、彼らは高い個人能力と需要の多いスキル・性質のために、大抵は自分でなんとかできて、周りもフォロー入れやすいので別問題である。

 逆に、そういう許されるモノなしにあの試験での振る舞いは考えなしにもほどがあり、若さゆえとかフォローとかそういう次元の話ではない。

 

 山内は、おそらく学習意欲やら素行に問題を抱えていたのだろう。先のビジョンも見えず、覚悟も決められず、ダラダラ過ごす普通の高校生だ。

 しかし他所ならともかく、この学校でそれは許されない。僕や愛里に作っておいたような何らかのプラスαがないと、問題児はいつか見限られる。

 

 せめてどこかで心を入れ替えれば違う結果が訪れたかもしれないが、子供に特有の意固地で負の信頼を重ねて、ついには本気の総スカンを食らってどうにもならなくなった奴ってわけだ。

 最低限の協調性にさえ疑問を持たれても当然の事である。

 つまり坂柳さん云々の匂わせも加味すると、手遅れってことで……山内にとって憐れなことに、清隆が仕込む対象としてさぞ容易い人選だったことだろう。どうでもいい部分も含めて。

 

「試験の時も言ってたな。

 ちなみに、もし何らかの理由があって、オレが友達の誰かを狙っていたら……」

 

 もしも、どうでもよくない奴だったら?

 決まってんじゃん。

 

「は? ヤるよ?

 その場合だけは、理由があろうと、相手が清隆だろうと、どんな手を使ってでも完膚なきまでに葬る。そして、なんとかして阻止するよ」

「できるのか……。夢月にそれが」

「さあな。でも、僕は確実にそうする。迷う余地もないし」

「……ふっ、くくく。そうだろうな、お前なら───」

 

 清隆には笑われてしまったがしかたない。僕は根っからの凡人なのだ。むしろこんな普通の能力しか持たないのに、なんとかやれてるって事実を誉められてもいいと思う。すごくね?

 

「オレが目的達成を目前とした瞬間、いつもその時に夢月は現れる」

 

 魔王かな?

 てか、それじゃあ僕が勇者役することになるだろ馬鹿野郎。素直に早苗や四方、高円寺あたりにやらせろよ。僕になにやらせようとしてんだ。もう笑うしかない。笑おう。

 なので、僕は笑った。

 

「は……はは、ははははっ!」

「なにがおかしい?」

「笑うしかねぇんだよ! 怖すぎんだよ、お前!」

「……交流がなかったとはいえ、その他大勢への夢月の態度も相当だぞ?」

「そうだよな! ははは! それを確信するためだけに、山内や堀北さんを陥れたんだもんな!?」

 

 ざっとは周囲は確認したけど、更衣室内なら大丈夫だろ。清隆はそれを見越して、ここで僕に話しかけたと思われる。

 一之瀬がクラスメイトのみならず、他のクラスの奴もできる限り退学させたくない、という意向は僕も理解している。だが、僕は少し違う。友達以外はどうでもいい、とまでは行かなくとも優先順位は低い。それが他のクラスならかなり下の方なので、終わった後はもう自分のテンションを無理矢理上げて笑い飛ばす。

 

「ふはははっ! 強靭! 無敵! 大喝采ってヤツだ!!」

「その意味のわからない能天気さは羨ましい」

「憂鬱とネガティブは全て過去に置いてきた。これからの僕の戦いには付いて来られそうにない」

「夢月、急にブラックな背景を匂わせるな」

「お前が言うな!」

 

 ただ確実にきな臭さは清隆が格段に上だ。それこそ僕との能力差以上に。

 

「ふっ……だが、本当に夢月に手を出す前に実験しておいてよかった。まさかオレがこうなるほど、面白い男だったとは───!」

「なんとでも言え。やっぱり清隆も『あの』悪魔どもと別方向に邪悪じゃないか!」

「お前もな、夢月」

 

 結果的に退学をクラスメイトに押し付けといて実験とか。

 わかってはいたが、なんて冷酷非情な奴なんだ清隆。

 しかし、よく考えなくてもわかる。1年間の期間が経過したこの時期、友達はいようとその他との繋がりが薄い僕達は、どう評価されてようとどう言われようと人間絶縁体の陰キャだ。

 更に人間関係において、残り物に福があるなんてのは幻想でしかない。

 ゆえにお互いの一線を越えない限り、友達は大事にすべきだろう。

 

「ああ、だが……これは珍しく、いや、初めてからもしれない良い気分だ」

「はぁ~、清隆。この際はっきり言っておく。

───こうなった以上、ホワイトルーム関係では一蓮托生のつもりでいる。勿論、いずれどこかで道が分かれることもあるとわかっているさ。でもそれは決して今すぐじゃないだろ」

「夢月……」

 

 僕の考える友達とはこういうものだ。コイツにははっきり言っておかないと、いつまでも学習してくれないとようやく悟った。おそらく清隆には実感がないのだ。

 なら、友達の『共犯者』というのが僕達の関係性に合っているのだろう。

 その“普通”の言葉をどう受け取ったのか、清隆は長い沈黙を挟んで露骨に話を逸した。

 

「……………………そうかもな。ただ、これからどうするんだ?」

「僕のこれから? 帰って寝るけど」

「なら、夢月に1つ頼みがあるんだがいいか?」

「時間がかからず、僕にできることなら」

 

 そして落ち着くと、途中経過を省きに省いて僕にある頼み事をしてきた。

 

「で、『お前のテスト』の結果はどうだった?」

「それも見抜いてたか。答えが遅くなって悪かったな」

 

 コイツもか。誰もが結論だけで理解可能と思うなよ、マジで。

 まぁ、僕が試験で綾小路グループ及び櫛田を先に落とし、清隆を最後に残した上で多対1という状況を作る意味は今も不明だが、こちらに有利になる匂わせだったのは間違いない。それをテストという表現で返してみたが、口では謝っても意図を読ませないんだから、経験上もう考えるだけ無駄である。

 

「なぁ夢月───オレと組まないか?」と。

 

 後々に思う。

 多分僕はこの時、疲れで頭がイカれてた。

 あまり裏表を感じない『笑顔』を浮かべた清隆の無茶振りに……『清隆を』駒のように使うアホな遊びに二つ返事とか何事。

 普段なら即座に逆の提案を返していただろう。

 

 

 

 そんなわけで無意識に脳死で減らず口を出し、または返すのを確認しつつ繰り返す。

 清隆の妙な試し癖も相当だ。手を変え品を変え何度もやられりゃ、いい加減馴れてくるよ。切り替えよう。

 

「しかし大したものだな。それが最高傑作様の実力ってか? 僕もそれなりにデキるつもりだったけど、自信失くすよ」

「初手から嵐のように暴れ回ったイレギュラーがよく言う。オレの場合、多少の根気と運があれば誰だってやれるさ」

「冗談。クラスどころか全学年を見渡してもお前ほど意味不明な奴はいないじゃん。その不審っぷり、なんかコツでもあるなら教えてくれよ」

「だから根気と運だ。とにかく地道に積み上げる。適切な時に適切な量を休む。回復したらまた積み上げる───これをひたすら繰り返すんだ」

「普通の学生の範囲だけならそうかもなんだけどな。清隆はふと垣間見える思考や策略が怖すぎるんだよ」

「おそらくお前だけだがな。軽く差を見抜く癖に、正面からオレに言ってきて、あまつさえひっくり返し続ける奴は……」

 

 そして、なんとなく清隆とそんな話をしながら歩いていると、聞き覚えのある声が二種類。

 

「協力してくれて助かりました坂柳さん。お陰でこちらは最初の一手を深く食い込ませることに成功しましたよ」

「貴方に協力などしていません。忙しさから現実の区別がつかなくなりましたか月城理事長代理」

 

 それまで何の話をしてたか知らないが、凄まじい皮肉の擦り合いだ。

 僕は遠回りして帰る決意を固めた。

 

「協力してくれて助かった夢月。お陰でこちらは不要品を楽に処分できたよ」

 

 清隆がいなければ、それも気づかれることなく成功に導けただろう。それにしても、月城さんの発言に寄せるとは大胆不敵なものだ。

 人の不幸は蜜の味という価値観がある。

 シャーデンフロイデ・影の喜びというドイツ語から端を発して英語圏に広まり、日本にも輸入されて現在の形で定着したのだろう。本来の日本にはなかった価値観だが、海外から輸入されたモノの中では比較的確立しているネタだと思われる。

 

 僕としては他人の不幸とかどうでもいいのであまり理解はできないものの、現実や物語で悲劇などによる愉悦や曇りを好む人がそこそこいることからも明らかだ。

 清隆の本質はそれと違う部分にあっても、何故かコイツは僕を巻き込んでくる部分にそれが見える時があった。そんなところに飛び込みたくないというのにだ。

 

「……そう言えば、AクラスとDクラスの決着はどうついたのでしょうか?」

 

 案の定、清隆が発した無駄な言葉が聞こえてしまい、月城さんと坂柳さんの視線が僕達に向く。

 コイツはホントに……!

 

「ええ、今しがた」

「どちらが……?」

 

 この短い会話からは、もう1つのクラス対決はだいぶ早く終わっていたと察する。

 速戦で分があるのは……。やっぱり失礼は承知の上だが、話の先が見えた。

 他の結果とかに関わりたくないので僕はさりげなくここから去ろうと───清隆に腕を掴まれた。

 そして、ふざけんなよ、さっさと離せ。いやいや、夢月こそここでいなくなるとか駄目だろ。そんな暗闘を口に出さないまま、清隆と繰り広げてたとかなんとか。

 お陰で逃げる機会を逸した。

 

「Aクラスですよ。最後に『左京君が』綾小路君を倒したのが決定打でしょう」

「……っ」

 

 もうやめましょうよ月城さん! (僕の)命がもったいない!

 ここまでの全てを知ってしまった……そう、僕を。

 たとえ偶然や興味本位ではあっても絶対に見逃してやらない、って感じで。

 真実を闇から闇へと誘うように……。

 ほら、清隆への激重感情のとばっちりが僕にも!

 その証拠に坂柳さんが僕をガン見してるから! こっわぁ。

 

「綾小路君……どこまで本当の事ですか?」

「ああ、だいたい全部」

「どちらのクラスも、様々な工夫を凝らした非常に興味深い戦いでしたよ。学校側としても予想外の連続でこれからの運営の参考になります。来年以降の大きな財産となるでしょうね」

 

 坂柳さんと違って。って副音声が聞こえてくるのはきっと気のせいだろう(知らんぷり)。清隆の発言を遮るところといい、月城さんは坂柳さんに何か含むところがあるのかもしれない。

 ただ実際、清隆もそうだけど坂柳さんはかなり特殊な部類なので、データを一般で活用するケースが難しそう。あちらは相手が反則や裏技も辞さない龍園率いるクラスなのもあって、変な事になっててもおかしくないからな。

 

「もう一方の結果は、Cクラスが『辛勝』しましたよ。2つの結果で、また少しクラス間の差が広がりましたね」

 

 やはり龍園達が勝ったのか。

……なら、奇策だけどうちのCPを必要分だけ譲渡してAクラスを交代して、代わりにあいつらと同盟とかできないかな。正直、Aクラスを維持するより『いつか裏切るだろう味方』の伏せ手を作っておくと、最後まで戦わなくて済むから楽なんだが。

 

 流石に無理か。一之瀬や神崎を説得できない。本当に最後以外は龍園と味方になれるなら安いモノだけど、所詮は僕の勘にすぎないし。

 はぁ、どこもかしこも好戦的なことで嫌になる。たかが記号でしかないA~Dのクラス競争、別に出血を覚悟してまで勝たなくてもいいじゃん。

 

「坂柳さんのクラスは手痛い敗北でしたね。“不運”の連続がありましたし、無理もありませんが」

 

 あー、そういうことか。月城さんも僕と似たような感想をこの学校に抱いているらしい。勝負を馬鹿にする…とまではいかないが、子供をあやすかのような響きが感じられる。

 それと坂柳さんは、おそらく月城さんに何か失礼な真似したな。僕や清隆もいるこの場でサラッと情報を溢してくるなら、清隆退学などへの協力要請を表向きでさえ乗らずに正面から強く断ったとかだろう。

 

 いくら頭脳が並外れてようと、社会の仕組みに精通していない子供では自分を優先してしまうのは無理もない。父親である理事長の表の結果もあって、意識や判断力が狂っている可能性もある。

 また表裏以前の問題として、あからさまでこそなくとも月城さんに敵意を向けている点からも目が雲っていたのかも、と見えた。状況的に高校生には無理もないが。

 

「まさか……愚かな事を」

「していませんよ。あなた達には細工の意味がありませんからね」

 

 とは月城さんも言うものの、僕の感知する限りでは目立たない介入が2度あった。高円寺の時と、最後の勝負だ。

 あれは本来ありえない。百歩譲って僕のキング戦参加の許可は出ても、あれほど即座に出るのはおかしい。早苗の遠距離狙撃もだ。早苗の弾の補充が異様に早く、回転率? なにそれ? みたいな爆撃は、用意がなければどこかで攻撃の切れ目ができていたはず。

 そのような何通りもの想定をして、僕達のクラスがほんの少し有利になる準備の気配があった。

 

「過程と結果ですよ───そうですよね、左京君?」

 

 それはありがたくもあったけど、ここで僕にパスするとか……。

 

「はい……まぁ、お世話になりました」

「左京君……貴方が薄汚い提案を受け入れて!?」

「ふぅ……。私の言い付けを守らなかったのは同じですが、過程でも結果でも目を見張る成果を出した左京君とAクラス。そして人を『操る事』に拘泥し、人を『率いた』龍園君に最後の最後で隙を突かれてひっくり返された『Bクラス』。都合を付けたくなるのはどちらか明白じゃないですか。一応ここは『学校』なのですから」

 

 やめて! とんでもない切れ味の皮肉が、坂柳さんを経由して僕も切り裂きそうになってるから!

 

「まったく。最初から坂柳さんが素直に動いていれば、左京君を巻き込むことなく綾小路君が退学になっていたというのに。まぁ、面白い人材との接点ができたという『過程』のみで切り替えますか」

 

 その場合でも月城さんの言葉の裏を読む限り、清隆なら大丈夫だったろうけども。

 てか、月城さん。こんな意趣返しするほど坂柳さんにイラッとくる対応されたのか? 彼女の暴走の条件に清隆が大きく関係してはいても、交渉などでは基本感情的なタイプじゃないと見ていたんだが……。

 

「気づいたなら、なぜ進言しなかったのですか綾小路君」

「横から失礼するが、それは無理というものだよ坂柳さん。しかも」

「はい、左京君の言う通りです。坂柳さんは詳しく知らないでしょうが、彼自身が指し手でもなく、男子であることも手伝って綾小路君は何処へも指摘できない状況にありました」

「自分が退学にならない保険まで用意しといて、そんな些細なことで無駄に目立つような奴じゃないだろ、清隆は」

「ああ、確かにあれは見事でした。あそこまで整えられては、私といえど簡単には手を出せません。流石、ホワイトルームの最高傑作ですね」

「……っ! 理事長代行も左京君も挑発がお上手なことで───ですが、この度の代償はきっちりと払ってもらいますよ」

 

 月城さんに言わせるままでは僕にも飛び火しそうだったので交互に口を出して被害を減らそうとしたら、加勢していると見たのか坂柳さんは驚きと怒りを含む笑顔を浮かべた。それに対し、月城さんも嘲りで返す。

 これはもう駄目だ。しかも清隆の裏事情まで争点にするとは、どっちもどっちである。

 

「高校生の子供が随分大きく出ますね。天才などと持て囃されて天狗になりましたか?」

 

 月城さんにとってはそうだろうな。こんな誘導をそう返す坂柳さんには、きっと本当に子供扱いしかできないと思われる。僕は関わりたくないので、巻き込んでくれるなと言いたいところだが。

 

「代償を払わせるというなら、今すぐ取り立てたらどうです? さあ、早く」

 

 非常に楽しげに坂柳さんの穴を突く月城理事長代理である。

 イイ性格を如実に表すおっさんだった。

 

「お、大人気ない……」

 

 ここまで全く口出しできていない清隆が冷や汗を流しながら、率直な感想を述べる。

 ただまぁ、仕事を増やした上、十中八九各種の面倒事のせいで残業続きになっただろう月城さんの気持ちもわかるので、この件に関しては僕はなんにも言えねぇ。

 何故か再び黙った僕に視線を送る月城さんは、わざわざ坂柳さんと清隆の間を陣取り、一応言っておくか、みたいな雰囲気でこう宣った。

 

「綾小路君、できれば早い内に自主退学を選んでください。『好奇心は猫を殺しますよ』」

 

 そして僕と高円寺の試験中の会話を引き合いに出して、清隆にもわかるように『表裏』を匂わせ去っていった。ちなみに、その後姿を坂柳さんは睨みつけていた。

 また僕も睨まれていたので、お若い2人を邪魔しないようまだ掴まれていた腕を外して去ることにする。遅まきながら、清隆の用事とやらが坂柳さん関係だと察したからだ。清隆も今度は素直に離してくれた。

 なんにせよ、餅は餅屋、天才相手には天才である。

 坂柳さんのガス抜きは、清隆に任せるのが最適解だろう。

 

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