ようキャ   作:麿は星

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 前話で東方要素のEXに坂柳を絡ませたんだから、今度はキャットルーキー要素多め(野球関係ないけど)なEXで一之瀬も。



EX、優しさ

 

 坂柳さん達からなんとか逃げ延びた僕は、現在直後に合流した早苗とともに鋭利すぎる優しさという武器による説教を受けていた。ちなみに愛里や四方も呆れた風に傍観してたりする。

 天文部関係者以外の同級生が誰もいない一之瀬単独の遭遇だったので逃げようと思えば逃げられたと思うが、今はどうしてか逃げない方がいい気がして留まることにしたのだ。

 そして僕がそうすると、早苗も釣られて僕の横に並ぶ。変な部分で友達甲斐があるものだ。

 まぁ、説教内容がおかしいってのもあるけども。

 

「わ、私にもそ、その手の経験や知識ないからあんまり偉そうな事は言えないけど、夢月君には佐倉さんという彼女がいながら東風谷さんと……キキキ、キスしておいて殴り合いに発展するなんて間違ってるよっ!」

 

 発端はこの通り。どうも早苗とキスみたくなったことか、もしくはそれで喧嘩したのを見られてたのがこの行動に至った理由らしい。

 それにしても、漫画に例えるなら一之瀬の目がグルグルしてるし、この方面はいつまで経っても免疫が付かない奴だ。

 

「いや、キス自体は不幸な事故のようなモノで、喧嘩は私達の間では挨拶みたいな」

「そうだな。早苗の言う通り、なんか“不自然”な突風に押されてたまたま口同士が触れちゃったって事故だよ。結果、早苗が殴りかかってきたから蹴りで防いでたってだけで、粘膜接触はきっかけにすぎん」

 

 実際、組手で寝技に持ち込まれたりすると、お互いの身体のどこかは接触する。それで僕の方はそういうの何も使ってないからせいぜい唾液程度だが、早苗の使ってる何らかのクリームみたいなのがべっとり付着することはよくある。

 つまり本当に半分以上は日常のアクシデントだ。今更慌てることではない。

 

「……それで二人共が「オェー!」ってしたのが気に食わなくて喧嘩になったってこと?」

「いえ~す。ま、僕は身を守るため応戦しただけだがな」

「はい。付け加えるなら、こんな神の如き美貌を持つ美少女とキスしておいてあの反応。失礼にもほどがありますからね。一之瀬さんもわかるでしょう?」

 

 これもそう。このクソ緑は、形としてキスだのハグだのが発生するのはほぼ気にしないが、僕を籠絡?のような状態にできないのが不愉快なのか、発生した場合に僕へ一撃を入れようとしてくるのだ。

 まるで見下しすぎて逆に見上げてるどこぞの海賊女帝のようである。

 で、その喧嘩をナニかが止めようとして?突風を発生させ、またしても間が悪く通りすがりの一之瀬に見られてたのがこうなった事の真相だ。

 

「これ、私がおかしいの……?」

「全然おかしくないよ一之瀬さん。でもわたしも最初は驚いたけど、いつまで経っても夢月君や早苗さんって変わらないし、そういうものだと諦めた方が良いと思う」

「佐倉さん……だ、大丈夫なの? その」

「うん、わたしは…ね」

 

 まったく失敬な。僕も早苗もおかしくはないだろう。遠い目をしてフォローを入れた愛里もわかってはいるはず。それなのに一之瀬は、なおも言いがかりをつけてくる。

 

「……私は前から不思議だったんだよ。夢月君は部分的にはすごく大人な考えと判断をするのに、特定の人を相手にすると途端に常軌を逸するのはなんで?」

「僕も前から不思議だったんだよ。一之瀬はもはや化けの皮が剥がれてるのに、いまだに聖人ムーブを崩さないのはなんで?」

 

 なので、同レベルの反撃をしつつ、話を逸らす。

 

「化けの皮が剥がれてる!? 人聞きが悪すぎる! 多分、みんな良い人だから私も釣られてるだけだよ!? そう……全部、私がいけないの。夢月君とかも時々どうなの? って思っちゃうけど、いざという時はとても優しいから……」

「いや、典型的DV被害者ムーブを突然ぶっこんでくるのやめろ。僕は僕らと縁を切れって言えばいいのか?」

「夢月君は黙ってて! わかってあげられるのは私だけなのっ───って違う!! ほら! またおちょくってくる!」

「ノリツッコミも共依存のお決まりセリフじゃねぇか。マジで無理すんなよ一之瀬。逆に本気なんじゃないかと心配になってくるだろ」

「……っ」

 

 これが素に見えるのだから恐ろしい。一之瀬の頭の中はいったいどうなってるんだ? 何も耐性付けなければ、本当に誰かに騙されたり依存とかしちゃうんじゃなかろうか。

 耐性付けるためにも、もう少し会話を続けといた方がいいか。なんかいつも……というか避けられてた以前の一之瀬とどこか違う気がしてならない。

 

「てか、早苗はともかく、僕が常軌を逸してる? 自分ではだいたいにおいて常識的だと確信してるんだが」

「変な人が変なことしたら常軌を逸するの! 夢月君はド級の変な人でしょ!? なおさら常識から外れた場所へ全力疾走してるんだよ!」

「「「たしかに」」」

 

 四方や早苗、しかも愛里まで意見を一致させてんじゃねえよ。何がたしかに、だ。

 イロモノ共から見ればそうなのかもしれないが、僕以外がおかしいのはもはや明白である。

 

「ひどい言われよう……僕ほどの常識人などこの学校にいないというのに。

 ふっ。変人共の真っ只中にいる凡人とは孤独なものだな」

 

 ニヒルさを意識して嘆く。

 

「というか、局所では早苗すら凌駕するだろ夢月って」

「ふぅ、四方までとは嘆かわしい。僕の全てが正しいとは言わないが、実にありふれている一般的思考ばかりだろ。知る限りで最も常識人な高円寺すら、明らかに同意してくれる場合があるのもそれを証明している」

「なるほど。六助さんはそうかもしれませんが、だからといって夢月さんはどうなんでしょう」

「高円寺君が……常識人?」

「コイツ、心の底からそう思ってるからなぁ」

「あの人を基準にしてるのかぁ……」

 

 早苗以外、まるでそうじゃないような認識が窺える反応である。重ねて失礼な奴らだ。話がわかるという点において、高円寺は誰よりも常識人だろうが。

 でも、とりあえずヨシッ。少し話して見込みは生まれた。多分今ならイケる。

 

 対学用に開発した秘奥義・説教返しだ。あまり使い道もなくなっていたが、一之瀬用へ転用するのも可能なはず。

 最近なんか善人なのはそのままに、一之瀬に不審な言動が増えてるので、ここでいっちょモヤモヤしてるモノを吐き出させよう。

 

 その後は……四方や愛里もいるし、彼らがなんとかしてくれるさ。愛里も試験で一之瀬と直接対決したんだから、放ってはおかないだろう。

 早苗? コイツと僕は相談相手にあまり向かない。しかもアライメント的にも一之瀬と反発し合う属性である。やるだけやって的確な奴に丸投げするのがベターだ。

 

 

 

 というわけで、僕はこれまでから推測できる一之瀬のデリケートな部分を無造作に突いてみた。

 

「しかし、素晴らしく運がないな君は。普段はかなりの豪運だというのに……所詮一之瀬は絶滅危惧種になるほどの敗北者じゃけぇってことか」

「取り消……せないよ。今の、言…葉……」

 

 あれ? 想定以上のダメージ? 痛いところを突かれてしまったエースのごとき反応を見せた。

 またなんか意味不明な悩みでも抱え込んでたのか、コイツは。

 

「そこは嘘でも取り消そうぜ。こっちまで悲しくなってくる」

「まぁ、本当のことですし、別に大丈夫なんじゃないですか?」

「いや、早苗まで追い打ちしてやるなよ」

「そもそも、なんでこんな話に……?」

 

 何気に愛里がマジで誘導にかからなくなっている。由々しき事態だ。

 でも愛里はともかく、やっぱり一之瀬の憂いっぽい雰囲気はこれ関係か。さっきから話の軸がコロコロしてるし。

 

「……だって夢月君がいたから、なんとかなってる部分が多かったと思うんだよ。リーダーとして情けないけど、動けなくなってた時も……あったし」

「まぁ、そういうこともあるんじゃね? 疲れたら休む。これが当たり前だろ」

「にゃはは。そういうわけにもいかないよ。私には責任があるからね」

「坂柳さんが来た時も言ったが、許されてるなら開き直れよ。私は盗んだわけじゃない。借りてただけ、ってな」

 

 本来、社会では許されない場合の方が多いんだし、許された時くらいこうした方が楽しいのはわかるはずだ。

 まして一之瀬の場合、親付きとはいえ、自分から行動してその結果を導き出してる。それでトラウマみたくなること自体が善性の塊じゃん。

 

「……駄目だよ。自分は明白な罪を指摘されておいてそのままなんて」

「なんでそうなる?」

「前に坂柳さんがうちのクラスに来た時にも言われたけど、私が犯罪を犯したことに変わりはないよ。私の努力は全て偽善なのかもしれない」

「……」

 

 善行だろうが偽善だろうが、人のためになるならどっちでもいいじゃん、ってのはそんなに異端な考えなんだろうか? ここまで悩むような理由がいまだにわからない。

 

「私が正論を言ってる偽善者で……犯罪者だってのはその通りだと思う。そこだけは私自身でしっかりと認めて、反省しないといけないんだよ」

 

 いやまぁ。実際、悪いことなんだろうけどさ。

 言うて、ただの万引きだぞ? しかも店に返却したらしいし、温情かなにかは不明ながら立件もされなかった程度。犯罪や罪滅ぼしとやらを履き違えてるんじゃなかろうか。

 

「正直、なんで坂柳さんがそれを指摘するの? とは思っちゃってたよ。夢月君が……そ、その、言い返してくれたけどね」

 

 う~ん、イチイチ重い!

 真面目を通り越して、ヤンデレの素質まで備えてるだろ、これ。

 

「でも、それは私の視野が狭かったって気づけるきっかけにもなってさ……。感情だけで坂柳さんに反発してたってのもあると思う。争いに発展させないためには克服して……呑み込まなくちゃいけなかったんだよ、きっと」

「一線超えられたんだから、いっそ戦争してもよかったんだぞ? あの時のクラスの雰囲気からして賛同者は結構いたと思うが」

「それだけは駄目。争いは何も生まないって、合宿でも世界大戦のお話の時に言ってたし」

 

 相変わらず櫛田とは別方向の強迫観念染みたものがあるなぁ、一之瀬。

 あえて、印象の悪くなる言葉を混ぜてみるか。

 

「自虐史観かよ。逆に当時の日本が打って出なかったら、アジア全域が欧州各国の植民地で白人至上主義のままだった可能性が高いじゃん。海外では近年見直されてきたのに、隣国の数国と日本だけだろ、あれでいまだに当時の日本を批難してるの。

 それを例に挙げるなら、守るべき一線を越えられた時だけは戦うべきって方を取り上げろ」

 

 司馬遼太郎をはじめとする自虐史観の作家達は、僕が作品を読んだ限りではそのほとんどが軍事や戦術・戦略に疎いのは明白。その反面、かなり鋭い政治的描写が特徴だ。彼の著作で一つ例を出すなら、坂の上の雲がわかりやすいだろうか。

 だからなのか脳内に花畑が咲き誇る人種に深く刺さり、そいつらが作る味付けされた空想論は政治や教育などの各所で、いまだに根深く影響し続けているのだ。一度大人を経験した上で再び学生として教育される側にいると、所々でそうしようと思考誘導してくるのを感じてしまう。

 ゆえに一之瀬の無駄なノイズになる可能性は高くとも、学校とかから刷り込まれていくこれに対する指摘をあえて今しておく。

 

「それでも駄目。私の一線は越えてない」

「ふぅ。だから善人なんだよお前。それはもう『何らかの形で』死ぬまで治らないかもな。

……クラスメイトが一之瀬に付いてこうとするわけだ」

「ふぇ? なにか言った?」

「なんでもない」

 

 だが、認めるしかない。おそらく余程のことがなければ、彼女に対しては無意味な一手に終わるだろう。

 薄々感じてはいたけど、彼女はきっとガンジーの言葉である『貴方達は平和が大事なのではなく、恐怖で戦争を嫌がってるだけだ(意訳)』ってタイプじゃない。一之瀬帆波は真の意味で善人だ。

 

 彼女のこの部分が変わらないなら、僕はこれからもできる手助けはしようとするだろう。ついでに変えようとしてくる奴らに対してのフォローも。

 それなら方向性を修正して、自己肯定感を少しでも水増しする方向へ舵を切るのがいいかな。

 

「いつまでも夢月君……人に頼りきりな情けないリーダーのままじゃいられないんだ、私。だから───どんな状況にも対応できる普遍性の高い判断基準を獲得しないな……ってことを考えてたんだけど、どう、かな?」

 

 てか、自分からこんなこと考えてんのか。僕達とはいえ、誰かに弱音を吐けるようになったのは良かったと思えど、自虐的なのはいただけない。

 なぜなら、それって裏を返せば……。

 

「なぁ一之瀬」

「うん」

「どこかでも言った気がするが、なんでお前って自ら罰ゲーム受けたい、みたいな考えしてんの? まさかマジのドMなの?」

「……また夢月君はそういうこと言う。これは真面目な話で」

「僕も真面目だ。いいか? 少し考えてみろよ」

「どこか…おかしい、かな」

「いや、苦手なモノから距離を取るのは、ごく一般的なことだぞ。それなのに、わざわざ苦手やらトラウマ的なモノやらを克服しようなんて考えてたら、休む余裕もなくなるだろうが。そのままだとお前、いつかストレスかなんかでぶっ倒れるぞ」

 

 一之瀬のこれは多分アレだ。

 無責任で過度な期待とか本人がハイスペックゆえに挑戦とかして、挫折などを『させられて』周囲に潰されている最中のパターン。そう考えないとおかしいくらいの自己肯定感の低さ。

 経験あるけど、こういう失敗を味わうと余計なことを考えすぎて自己肯定感を落としていくからなぁ。

 

「そもそも、一之瀬が言ってたことも含めて整理していくとだな、ツッコミやダメ出ししたくなる箇所が多いんだよ。それでいて何故か家族関係と物を盗んだって部分だけは異常に詳細だ」

「だってそれが私の咎だから……」

「店に温情をかけられて二度とやりません、ってことまではわかるし、当然だ。一緒に謝りに行った母親やその後の妹さんに顔を合わせられなくなるのもまだわかる。

 でもなぁ。これ、聞いた情報を整理すると前科なしの軽犯罪な上に、盗んだ物品を返しに親子で謝りに行ったんだろ? そんな善性溢れる珍種な親子、実質的な損失がなく多少なりと余裕があったんなら、僕が店側でもほぼ確実に不問に伏す」

「なっ、なんで……?」

 

 なんでって、そりゃあ決まってるだろ。

 

「現状聞いた話から推察するに、充分以上の反省の意思を見せてただろう美少女親子「び、美少女親子……」が、誠実に金品を返却しに来るなんて普通は創作物くらいでしかありえないんだよ。現行犯で捕まったならまだしも、一旦は帰宅ができた状態で親付きとはいえ自首して謝罪なんて選択ができる一之瀬と、通常の万引き犯を同じ扱いにするか?」

「で、でも犯罪は犯罪だし」

「アホか。杓子定規じゃ良い奴に馬鹿を見せて、悪い奴に得させるようなものじゃん。僕が店長とかなら、罪滅ぼし的なバイトでもちょっとさせて、妹さんへのプレゼントとやらを融通してもいいレベルだ。勿論、当時中学生だったのを加味して正規の雇用契約せずにな」

「そんな都合の良い……」

「そう考える奴もいなくはないってことだ。それに一之瀬の将来性やら学業成績はわかりようがないにしろ、誠実だとわかる奴への先行投資にもなりえるし、先を考えるならそれくらいで恩を着せる可能性を作ってやった方が気分もいい」

 

 うん。極論なのはわかってるし、古めな価値観ではあれど、子供への投資は最も費用対効果が高い。知識のあるそこそこ有能な経営側ならその程度の融通は効かす。

 僕がひと目見て即座にわかるほど在り方に美しさや輝きが見える一之瀬になら、ちょっとくらいの金額やリソースを割いても惜しくはない。たとえ、本人から何も返ってこなくてもだ。

 そうするのが一番美味しく飯を食えるだろう。

 

「現に、長期間内心でやっちまったって反省してるし、高校卒業後にでも埋め合わせできる何かをしてやればいい。家族は勿論、お店側にも立件しなかったお礼ってことでな。

 そのために頑張るのは誰もが幸せになれるんじゃね? 知らんけど」

 

 これが話のすり替えに過ぎなくても、言っておく価値はある。

 正直、こんな小さなこと(本人はそう考えられないだろうが)で一之瀬が沈んでしまうのはもったいない。2月の時みたく邪悪属性持ちからの付け入る隙にもなるし。

 

 僕が何もしなかった結果、この学校のやり方に染まってた。なんてことになろうものなら目も当てられない。

 なにより本質から優しい奴は貴重なのだ。できる時はできる事をしといた方が、優しさも削られないだろう。

 それが第3の覚醒を促すことになると、勿論この時の僕は知る由もなく───。

 

 

 

 ともあれ、思い悩むような雰囲気はだいぶ薄くなったし、まぁいっか。と、そんな楽観的に考えていた時期が僕にもありました。

 少しの間考え込んだ一之瀬は、おもむろにそれまでとまったく違う話を切り出してきた。

 

「……ところで夢月君に聞きたいんだけどさ」

「ん?」

「どうして夢月君は私とか特定の相手や状況だとすごく毒舌になるの?」

「それは前も言ったけど」

「うん、苦手な人相手にはってことだよね?」

「ああ、そうだな」

 

 そんな食い気味に。

 なんだ、何が言いたい?

 

「それでも、四方君や東風谷さん、佐倉さんみたいな友達には普段“普通”なんだよね? 普通にしてれば徐々にでも溶け込んでいけると思うんだけどなぁ。夢月君も東風谷さんも、頼り甲斐がある時はホントにすごい人だから」

 

 って、呑気に疑問に思ってたら、ボッチ特攻の口撃をしてきやがった!

 

「───その普通をどうして他の人にも向けられないの? 私はそれが残念でも悲しくもあって……不思議でならないんだよ」

 

「「「ぐっはぁ!!」」」

 

「ええっ!? なんでそんな血を吐くような!? しかも東風谷さんや佐倉さんまで!」

「…………一之瀬、コイツらな? その普通が本気でわからないようなんだ。お前には信じられないかもしれないが、カラオケですら1人で行くところって堂々と言うんだぞ」

「カラオケに1人で? 時々なら別におかしくないと」

「時々じゃない。行く場合は毎回だ。それに何人かで連れ立って行っても別々の部屋に入ろうとするし、無理矢理にでも同じ部屋に誘うと愛里以外は勝手に帰る。

 コイツらは真性だよ、とても残念なことにな」

「「ごふっ……や、やめ、四方(二三矢さん)」」

 

 四方まで追撃に参加して。

 

「でも天文部の人達とはきちんと距離を保って、気遣いもしてるんだよね。さっき話に出た高円寺君や鬼龍院先輩みたいな特殊な人達とさえ……」

「それが俺も奇妙に思ってることでな。どうも心の距離を詰めようと考えた瞬間、世間一般の常識や制動が一切効かなくなるんじゃないかと今は考えてるが」

「……ん? そうだとすると、もしかして!」

「なにか気づいたのか、一之瀬」

「気づいたっていうか、もしかしてって程度なんだけど」

 

 ヤバい。これはヤバすぎる方向に話が進んでいる。

 なんとか軌道修正しなくては……!

 

「───これまでまともな人付き合いをしてこなかったから……なんじゃないかな? 仕事や役割なんかは別として」

「「「はぅあっ!」」」

「そうか。考えてみると、入学当初からその片鱗は見えていた。アドレス帳が1ヶ月近く経っても、お互いを入れた上で3人合わせて15人くらいだったっけ。最低限の接触さえ避けてたってことか」

「ま、待って二三矢君……これ、わたしの心にまでダメージが……うぐぅ」

 

 愛里が胸を押さえて苦しんでいるが、もはや僕にも余裕はない。気づくのが遅すぎた。

 

「んー、長い付き合いの友達がいれば……関係を維持できるような人がこれまでにいれば、当然できる『普通』のことができないのは、そういうわけってことかな」

「あ、嗚呼……き、君達。そろそろ止めてくれないか……心が……心が砕けてしまう」

「……いや、流石にそこまではいかないんじゃないか。3人とも普通に登校して、ズル休みするわけでもないから引きこもりとは違うし、ニートにもならなさそうだ。つまり誰かとの交流は自然に生まれるだろう」

「あぅっっっっ!! ふ、二三矢さん……そ、それ以上は……!」

 

 早苗がこうまで取り乱すのも、そうはないだろう。

 並外れた善人の無自覚な雑談?は、僕達が目を逸らしてきた部分を容赦なく抉ってくる。

 

「だよねっ! 孤高や孤独が好きでも、大抵は何人か心許せる友達はいるものだし、この学校に来るまでにもそういう友達はいたって考えるのが当然だよね!」

「要するに一之瀬は、そういう奴に接するよう夢月達に振る舞ってほしいってことだよな、聞いてる限り」

「うんっ! 出会って1年も経つんだから、そろそろ仲良くなるのもできなくはないと思うの! 四方君もそうした方がいいって思わな……にゅや?」

「どうし……ん? 夢月? 愛里や早苗も?」

 

 そして、とうとう僕達に限界が訪れた。

 

「「「うっぐぅーーー!! フラッ、フラッシュバックが……!

 あーーああーーー! 忘れろ忘れろ忘れろッ……!!!(異口同音の地獄の三重奏)」」」

 

 各々に存在する現実逃避のしっぺ返し。

 それが奔流のように襲いかかってきた。

 

「え、なんでこんなに取り乱すの?」

「あっ、これはもしや、無駄に精神を追い詰めてしまったか……」

「どういうこと? 何の変哲もない提案だったはずで」

「お、おぅ。その提案がコイツらが陰キャと自認する所以のトラウマを掘り起こし、黄金の回転エネルギーをフルでぶん回して貫いた。そういうことなんじゃないのか。それが夢月の逃げ癖や、早苗の好戦的態度、愛里の奇行に繋がってるとしたら、俺には話が通る」

「佐倉さん含めて、やたらと口達者な部分は」

「おそらく特定分野だろうな。特に夢月は専門にする分野が広い。やろうと思えば色んな応用も効くんだろう」

 

 陽キャと善人怖い。四方もだけど、特に双方の最高レベルを持つ一之瀬の合わせ技はもっと怖い。

 これと比べたら、長谷部さんとか可愛いものだったんだなって。

 

「そ、それはつまり、私と四方君が夢月君達の心の柔らかな部分から図星を突いちゃった、と?」

「ああ、俺も言いたいことが溜まってたからうっかりやっちまったが、コイツらのコミュ障ぶりを思い返せば充分ありえる。妙にコミュニケーションがおかしかったり、昔のエピソードを聞くと沈黙するしかないようなことを平然と言ってきたり、感情垂れ流しになったり……たしか船旅の後半に流れた噂もあったな」

「そういう噂って誇張混じりなんじゃないの? 牛グループに高校に入学するまで友達がいなかった寂しく浮きまくってる3人組なんているわけ……あ、あれ? もしかして夢月君と佐倉さん、椎名さんのことだった?」

 

 嗚呼……徐々に核心へ近づいていく。

 

「だろうな。今となってはそうとしか……噂は真実だったとしか考えられん。現状がそれを証明している」

「で、でも噂が真実ってことは高校入学するまで誰も───」

「ぽぎゃあっ! そ、それ以上は……いけ…………ない」

 

 それでも僕はどうしても途切れてしまう言葉で、なんとか身体ごと締め付けられるような苦痛を伝えようと警告を発信しようとしたが、ついに僕達3人にとっては達人級の剣士が振るう聖剣エクスカリバーに等しき威力のトドメが、一之瀬から放たれた!

 

「───友達がいなかったって、荒唐無稽な話が真実だということになるじゃない! 流石にそんなことはないでしょ!」

 

 さながら無慈悲な真実の咆哮である。

 

「「「ぐっふぅうううううう!!!」」」

 

 愛里が近くにあったベンチに倒れ込む。早苗はその愛里にすがるようにしがみつき身体を震わせている。僕も地に膝をつき、冷静にリレイズを唱えていた。いや、悪い。これ、とても冷静じゃねぇわ。

 それでも僕はまだマシだった。

 なぜなら、兄貴と小さな神様がいたからだ。自分と近い年齢層に理解者がいてくれるのは本当に救いなのだ。逆に言うと、そういう存在がいなかったと思われる2人は……。

 

「あっ? 夢月君!? 東風谷さん、佐倉さん!? どうしたの!!?」

「一之瀬……お前、すごいな。愛里はまだしも、夢月と早苗をここまで追い詰めたのは多分お前が初だろう。どんな窮地に陥っても奇抜な発想と強靭な精神力、異常なまでの強さで全てをひっくり返してきたコイツらに溢れる余裕を削り切る、なんてな。

 当初から夢月がクラスリーダーだと認めてただけはある。実際、大した奴だよお前は……」

「私にそんなつもりはっ!?」

 

 ボッチ特攻の無差別口撃に、ようやく気づいたようだがもう遅い。僕は精神的に満身創痍で、愛里と早苗はすぐの再起は難しいダメージだろう。

 

「ぜ、ぜぇぜぇ……ぐ、危なかった。諸事情で人より多めな経験値と幸運がなければ僕も即死だった。優しさと善性、お節介は、行き過ぎると強大な武器となるんだな。新たな学びを得た……得たくなかった……!」

「なに言ってんだ、夢月」

「愛里、早苗……も駄目か。今は心と身体を休めるといい。部屋までなんとか運んでやろう」

 

 四方と一之瀬がなんか話してるが、返す余裕はない。

 突発的に創造された戦場で倒れた戦友達の肩から腕を差し込んで持ち上げ、僕は挨拶もそこそこにゆっくり学生寮へ向かって歩き出す。

 愛里も早苗も乳や尻のわりには軽めの体重で助かった。これならなんとか運べる。

 

「だ、だけど! 夢月君達はいつももっと過激で毒舌を投げあってたじゃない!? 私がちょっと言ったくらいでそれを越えられるとは思えないんだけど……」

「あのなぁ一之瀬。普段から聖人のごとく振る舞い、優しさと包容力溢れる稀少生物の言葉と、遠慮なくやり合う僕達の普段を一緒くたに考えるなよ……」

 

 だが、善人お化けが的外れなことを言い募るものだから、犠牲を無駄にしないため、無理してでも陰キャへの注意事項を伝えておく。

 せめて以降の教訓や糧としてもらわないと、犠牲となった僕達が浮かばれない。

 

「……それは例えるなら、不意打ちでクリティカルヒットを繰り出されたって解釈であってるか夢月。しかもやたらめったら高レベルなグループ範囲口撃を」

「正解だ。心が砕けるかと思ったわ」

 

 自分(達)で自虐して笑い飛ばすならともかく。四方のような善寄りの中立属性持ちからならともかく。基本的に優しく明るい世界で生きてきた一之瀬から言われると、意味不明にダメージが爆増する。

 まさか優しさに定評のある一之瀬が、陰キャなら大なり小なり持つ一番深い傷痕を抉りにくるなんて思わないから、つい油断してしまうのだ。

 おそらく、そういうことなんだろう。

 

「口撃なんかしてない、よね? 私は仲良くなれるならこうした方がいいんじゃって思っただけで」

「その気持ちはわからんでもないが、お前らに優しさと信頼を感じていたからこそ、さっきの話が僕達の心にもクリティカルで直撃したのは間違いない。せめて留めおいてくれ。おそらく僕は勘でこうなることを見越してたから、一之瀬に苦手意識を持ったんだと思う」

「まさかの相手と方向から雪崩式の連撃をされたら、夢月達すら耐えられないってことか」

「私、なにかやっちゃったんだね……」

 

 尤も、一之瀬がやらかしたっていうか、今回は僕が話の誘導をミスった感はある。だから特に責めたりはしないが、ある意味でマジで四方の毒舌や椎名の得意とする精神への急所突きよりもツラかった。

 

「間の悪い偶然だ。そこまで気にすんな……っつっても気にするんだろうし、好きにしろ。

 でも今日はこれで帰らせて。僕は多少マシとはいえ、すごくしんどい」

「ご、ごめんね。手伝った方がいい?」

「いや、いい。むしろ、ついウッカリとリア充爆発しろ! っとかて口から飛び出そうになるから、今は僕1人の方がいい」

「すでに飛び出てるがな」

「えっと、その……にゃはは、って笑うのは悪い、よね。ごめん。お、お大事…に?」

 

 なんとも言えない視線と言葉を向けてくる四方と一之瀬は、もはや僕の眼中から消えた。MPを全ロストしたのか、まだ夕方頃だったのに一刻も早く寝たくなったのだ。

 とりあえず両脇から愛里とついでに早苗を抱え直す……と、外でまだ人前だというのに僕の首に手を回して抱きついてくる愛里にちょっと魔が差し、更に大きくなって最高の感触である柔らかなおっぱいをひと揉み「変態」───反対側からボソッと聞こえてきた緑髪の声にスッと手を引いた。

………と、ともかく! そこから脳内を自己改竄して一時の癒しと元気をもらい、再び進み出す。

 

 ふて寝へ向かって───ただそれだけを考えて───じゃないと、早苗もいるというのにヤバかったので。主に湧き上がってきた性欲的な意味で。

 





 前話と合わせて蛇足な解説。
 エンディングには、このメインのクロス先をそれぞれ1話ずつ入れたかったから入れました。
 ただ、こちらは愛里や一之瀬のキャラや過去に合わせて私すら原型がわからなくなるくらい崩したので、もしこれがキャットルーキーのどの話を元ネタにしたかパッとわかる人がいたら凄いと思います。
 ちなみに寅島球地が三ヶ月心をトムキャッツに引き入れに高知へ出向いた回です。

 ちょっとナニかに納得できないので、この話は後々に思い立ったら予告なく修正するかもしれません。
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