次話でフィナーレですし、だいたい1日後に最終話2の予約投稿も完了したので、完結設定に戻します。
坂柳さん達と別れてすぐ、ボーッと考え事してそうな椎名を発見した。しかも、なんとなくでしかないが、どこか青娥さんの気配のようなモノまで感じて……?
ま、まぁともかく、疲れる相手の連戦直後だったこともあって、椎名と出会えたのはむしろ好都合。
と考える前に突撃した僕は人型癒やしスポットへの初ナンパに成功し、現在はショッピングモールから少し離れた場所にあるカフェで話している。
元気なさそうだし、できるだけ声はかけておくべき。
なんせ足の引っ張り合いや毒舌がデフォルトになる僕達の中で、愛里とともに癒やしポジションを張る女だ。僕の対応が特別優しめになるのも当然だろう。
そこで初めて聞く椎名の弱音っぽいこぼれ話を、時々ツッコミ入れながら聞いていた。
「……はぁ。龍園君のおかげで特別試験には勝利したというのに、駄目ですね私は。争いごとはどうも苦手に感じてしまって」
「単純に学校のやり方が椎名と合ってないだけだろ。気にするだけ無駄無駄」
争っていたのは対抗クラスで、龍園や坂柳さんあたりは好戦的だからなにをやりあったかわからないものの、Cクラスが勝ったとは聞いてるし、椎名が責任を感じる必要はない……気がするんだけども。
「そうだとしてもです。私はいざという時には結局大して動けないんですよ……」
「争い事苦手だもんなぁ、椎名って。でも人と争いたくないんなら、介入しない方がいいと思うぞ? 僕にも経験あるが、自分の心と実際の行動が一致してないと、すごい疲れるから……特に心がな」
実感を込めつつ、あえて軽く話すと椎名は苦笑する。
「心、ですか。左京君が言うと説得力がありますね……。だったら、私ももっと積極的になった方がいいのでしょうか……」
「クラス競争に限らず、自分から責任や役割を持ちたいなら、そうするべきだ。だが、それ以外の理由ならやらない方が絶対いい。誰に何を言われようと、僕達みたいなのは信念を曲げられるのが一番嫌な事だからな」
椎名の実力とやらは、おそらくこの学校でも高い方だ。得意分野は違えど、それこそ早苗や坂柳さんにだって負けないだろう。その気になれば、参謀とか交渉、遊撃みたいな椎名に向いてそうな役割でもっと上を目指せるかもしれない。
でも、ぶっちゃけそんなことはどうでもいい。重要なのは椎名がどうしたいかだ。
「わかっていますよ、左京君が言いたいことは。自分が矢面にも立たず、争いを厭うだけなのは間違っていると私も思います。でもどうしても私は……」
その意思を話したいなら、と僕が口を開かず待つと椎名は少しの間を置いて重い口を開いた。
「…………学校の意図が透けているのが……生徒同士を争わせようとしている目的が不透明で打開のピースがありません。何故どちらかというと仲良くするべきな同期で争わなくてはならないのか、私にはどれだけ考えてもわかりません」
途切れがちな彼女の言葉が、真に争いを嫌いな事を教えてくれる。僕とは方向性が微妙に違うが。
「そしてこの学校の実験染みた被検体扱いのような特別試験がまた……。生徒同士で争わせるために集められた匂いがして。誰かを退学させるかもしれない争いに参加するのは、私まである種の化け物を生み出す手伝いをしてるように思えてなりません。誰かの尊厳や成長を冒涜するやり方が本当に……左京君の言うブラック企業のようです。それがわかっていながら踏み出せない」
争うために有用な能力は持っている。持っていながら、椎名が使わない理由。
それは僕にも通ずる正当な意見だと思う。
椎名のこぼれ話を簡単にまとめるなら、普通どころか特殊と前に付けてさえ他の学校と比べて限度を超えているからだ。
過激に例えるなら、この学校は選ばれた少年少女が1つの学校に集められ、ランク付けされて争い合う蠱毒だということだ。しかもたった1年足らずの在籍で確信するレベル。
で? 次はなんだ? 生徒同士で殺し合いをやってもらいます、的なデスゲームでもやらせるのか? あるいはモンスターと戦闘させられるのか? アホか。
物語の読者としてなら傍観していられるけど、当事者になると何処のラノベだよ、とかって乾いた笑み付きの投げやりな文句しか出てこない。それほどに僕の生きてきた常識から解離している学校なのだ、ここは。
そして、おそらくそれは椎名も似たように感じていて、このままクラスに貢献した場合に……仲間内で争うことになる可能性を想像してしまったのかもしれない。
彼女は洞察力や思考力に優れているからな。僕よりもずっと早くこの答えに辿り着いていた可能性もある。
ただ正直、椎名や四方、高円寺などのしっかりとした良識を持ち、非道な真似に加担しない常識を兼ね備えた天才達に何故か気に入られて友達関係を結べたのは幸運だった。
加えて、喫茶・芳香でのバイト、他を攻撃しない唯一のクラスにした一之瀬がいるクラス所属。
他にも細々としたモノはあるし、椎名や高円寺は割りを食ってたりもするが、僕や四方は天運でも付いてるのかってくらい強運である。てか、そろそろ本気で早苗や神様が起こした奇跡だったんじゃ? と思えてきている。
っと、また考え込んでしまった。椎名が顔を上げて聞いている。本気で聞いてくるなら、僕も本気で返すのが友達として自然なことだろう。
「左京君……私はどうするのが一番スッキリすると思いますか?」
「───踏み出すべきだろ」
僕が即答したからか目を開いて驚く椎名に、真正面からその眼差しを受け止めて告げる。
「いっそ戦うでも、誰かの戦いの手伝いでもいい。その意思があるなら、まず自分の存在を示して一歩を踏み出すことができるか否かだ」
「できるか……否か……ですか」
「ああ。椎名は今現在、実際の行動においては賛同も反対もほぼしていない状態だろ。それじゃあ、僕含めて友達の誰もお前を助けようがない。どんな方向かとかは後で考えることにして、まず動け。その場に留まっててもきっと面白くないぞ?」
うん、椎名に限らないけど、言葉か態度にしてくれないとどうしようもない。考えてるだけよりも、仮に敵対することになろうと、何かしてくれる方がきっとスッキリして楽しいし、助けの手も出しやすい。
山盛りに僕の借りがある椎名なんだから、最大限の用意がわかるようにはっきり背中を押しとくべきだ。
……たとえ客観的に見て無責任にも見えようと、である。
「考えてることがあるなら踏み出す……べきなんじゃねーかな。タイミングとかは椎名次第だろうけども」
あ、でもしまった。
「……………………ふふっ。左京君はいつもそのタイミングを、勢いで通りすぎてそうですよね」
「言うなよ。自分でもわかってるから、ちょっと言葉に詰まったんだしさ」
とあることが脳裏をよぎって僅かに決め台詞を言い淀んだ瞬間を、言葉の急所突きを極めた椎名は見逃さない。彼女にしては珍しく、悪戯な笑みを浮かべて話をからかいに切り替えてきた。
しかし沈んだっぽい雰囲気してるよりはずっといいから、まぁいいか。
考えてもしかたないことなら、さっさと動いてしまうが吉だとは言えたし、あとは椎名次第。
椎名に恩と借りを返せるチャンスはこれで増やせたかもしれないし、僕としては話したいことを一応話せた。残ってるのは神頼みだけだ。
───この素晴らしく癒される友達に祝福を!
と、それだけ祈って僕は椎名『で』春休み初日の各種ハプニングをサラリと内心で水に流した。
ところで、高校生という時期における食欲、それに性欲という欲望を侮ってはならない。
無人島や合宿で充分にわかっていたが、制御が非常に困難な欲求と言えよう。愛里もそうだが僕も禁欲明けはどうしても激しくなる。
この学校では定期的なクラス対決があるので、少なくとも直近のイベント期間はお互いの部屋に泊まらないようにしてるからでもあるのだろう。
つまり少し話をするなら、『チェス』試験の直後の愛里は何故かいつもよりも『その気』だったので、ついやりすぎた。しかも春休みを合わせて愛里に…いや、自分自身に3連敗した。
なんというかペーパーシャッフルや合宿の後もそうだったのだが……うん、正直堪りませんでしたよ! あの愛里がぎこちなくも誘っているのがわかると、僕のタガは外れてしまいますね!
溜め込んでいたとはいえ、朝になるまでヤってしまう自分に高校生の精力やべぇ、となった。
普段ならもう少し抑えられるのだが、2週間以上の禁欲生活はもはや『それ』以外の思考を容易く吹き飛ばす。
そして発散したい欲求の前段階が、ラーメン奢りや椎名と話してた時の疑似賢者モードな精神状態だったというわけだ。
しかし、僕はいまだ恋愛と呼ばれている精神状態への理解には届いていないのかもしれない。
なぜなら、僕と愛里ではお互い同じ『好き』のはずなのに、明らかな差異が認められるからだ。それも性別や精神年齢、経験ではなく、ちょっとした言動から読み取れる。
例えば、『チェス』試験が終わり、春休みに入ったある日のバイト帰りに一緒になった愛里だ。
「夢月君! よかったらこれどうぞ!」
「おお、ありがとう。たまに飲みたく……って冷たい方かよ。まださみぃよ」
まだ寒さの強い日の夕方だったというのに、愛里は何故か冷たい方の缶コーヒーを買ってきたのだ。
当然文句を言ったのだが、愛里は恥じらいを見せながらも普通に実行に移してきた。
「えー? じゃ、じゃあ───わたしと夢月君でくっつけば寒くない?」
そう言って腕を組んでくるのである。
これが男に対してとんでもない破壊力を持つ言動だと、愛里は気づいているのだろうか?
思わず外で襲いそうになり、ハグすることでギリギリ衝動を抑えた。そして、不覚にも16歳の少女のたった一言とハグで『まともに立てなくなった』のを誤魔化すため、僕は愛里の顔に視線を固定してぶっきらぼう気味に返した。
「……こうしたいがために、わざと冷たいの買ってきただろ」
「あ、やっぱりバレた」
「策士すぎて愛里には似合わん。マンネリになってもいいから、普通にやりたいことをやってくれ」
「くっついてもいいの?」
しかし、先日の一之瀬無双直後もそうだったが、あえて身体を見ないように防衛戦を張っても、攻め込まれると一瞬で陥落する僕である。
クッソ、相変わらずいちいち可愛いな、コンチクショウ。って感じに。
「むしろ夏のクソ暑い時期以外なら、いつでもくっついてほしいから。僕が」
「……えへへ」
笑みを浮かべて僕にくっついてきた後は当然、上記と同じように愛里を自室に連れ込んで翌朝まで直行ルートとなったわけだが、そもそも愛里が策を使ってまでこうした点に妙な意図がある気がする。
以前のストーカーの教訓からか付き合いだしてからも、あまり外では目立ったり、イチャつかないようにしてるのに、時々外でも意外なほど積極的なのだ。そう、繰り返すが稀に外でもこうなるのである。
「どこ中だ愛里お前!」
「いきなりなに!? どこ中!? 不良!?」
「お前に夢中だオラァン!」
「違った! ただの惚気だった! ───惚気!? でもわたしの方がもっと夢中だからっ……あっ!!」
「「……え、えへへ」」
そうして笑い合って、お互いに放ってしまった言葉を誤魔化す。最近の僕達はこんな感じである。
それこそ僕にマーキングしてるかのようで、我慢するのに苦労する。つい手を伸ばしたり、中腰にさせられたことも一度や二度ではない。そのたび、こんな感じでギャグ風味にして誤魔化してきたが、どうもかえってエスカレートさせている気がしてならない。
この後が激しくなりがちなのだ。そして愛里がそうだと、僕も止まらなくなる。
本気を出した愛里は、まさにアイドル顔負けの魅力を活用して目的達成に突き進む…って、本職のグラビアアイドルだったわ。なんか普段の奇行もあるせいか、不思議と定期的にその事実を忘れてしまう。
それでも普通に駄弁ってるだけで幸せな気持ちになれるんだから、彼女というのは不思議な存在である。
と、ともかく、これは僕が誰かとコミュニケーションしてるのを、愛里が見ていた後に発生する事が多い。今回も心当たりらしきモノはある。
総合して考えるに、おそらく風の噂で聞こえてくる嫉妬という感情由来の言動ではなかろうか。
こうした愛里側からは存在する付き合いだしてから顕著になった言動があるのだが、何気に愛里から来ないと僕からはお互いの自室か確実に2人きりの場合でしか求める気にならない。どうしても愛里の風評や避妊など様々なリスクが頭に浮かんでしまうのだ。
でも、愛里はそこについてあまり考えていないようにも見える時があって、それが恋愛という分野における強弱や向き合い方を決定づけているように思える。
自惚れは自覚しているが、要は熱中度合いだ。
安全日とかコンドームなどの避妊具を僕が用意しないと持ってない事例(愛里みたいな女子に避妊具を買わせるのはアレなので、僕が忘れた時用にいくつか渡してある)すらあって、最近は危機感が生まれている。駄目だと思いながらも流されて、何度かそのままヤッてしまったからだ。特に禁欲明けがヤバい。
ちなみに、その瞬間も横で寝てる愛里を抱いてる時も最高の気分だったが、それとこれとは別問題である。万が一があってからでは遅い。これは精神だけとはいえ、大人である僕が対処するべき問題だろう。
だが、彼女ができるのを諦めていた女日照りだった僕よりも、愛里に熱中度合いで負けている? いまだに尽きない彼女にして欲しい夢の数々を叶えている最中のこの僕が? 性格は好き嫌いが別れそうだし、可愛さを忘れるほどの奇行連発はあれど、あれだけの魅力を持つ愛里なら容易く次を見つけられるのに(多分)?
そんな不可思議があるか?
そこで僕は閃いた。
恋愛感情の大小で負けているっぽいならば、物理的な物質も含ませて貢ぎまくればトントンになれるんじゃないか、と。そうすればもっと落ち着いた対応になるのでは、と。
なので早速、学や高円寺、栄一郎に教えを請い、友達に根回ししてみた。
卒業式が終了した春休みの空いた数日を使って、この学校の敷地内でできる最大限のエスコートや愛里が喜びそうなプレゼントなどを贈り、恋愛系のポイントを稼ぐために全面攻勢をかけたのだ。愛里のクラスメイトである山内が退学したことで、どこかにあるかもしれない影響を吹き飛ばす意味合い付きでだ。
だからこの時ばかりは徹底的に性欲も封印し、ポイントも惜しまず愛里に貢ぎ尽くし、手を尽くして笑わせまくった。僕の方がより愛里を求めている証明の代わりだった。
また違うある日にいくつかの恋愛の基準点を作成して指数を割り出し、思いの強さを数値化して愛里の数値を上回ったと確認。そのまま勝ち誇る気分でネタバレしたら、何故かスッゲー怒られた後―――その夜はこれまでになく燃え上がった。
そんなつもりは……実は途中から少しあったが、奮発して敷地内のレストラン付き高級ホテルを予約してなかったら、色々筒抜けになったんじゃと思えるほどだった。怒っていたはずなのに、突然の豹変はわけわからなかったが。
それほど予想以上の反応を見せた愛里は正直ヤバかった。
だが、恋愛に関しての勝ち負けが所在不明になった以外は、上々の結果である。
とまぁ、初心を忘れたものの、とても良い思いのできた僕は3月31日の午前9時。
その要因の1つとなった助言をくれた学の見送り……の前にちょっとした話をしに、ほぼ引き払われて空っぽな3年生の学生寮に来ていた。宅配か引っ越し、清掃などの業者が通り過ぎたりしているが、生徒がいないせいかどこか閑散としている。
愛里? 橘さんの時に学とも別れを済ませていたから本日は僕一人である。
ついでに言うと、明日が登校日ということで頑張りすぎてダウンさせてしまい、部屋に送り届けてからきたから彼女はまだ寝てるはず。背負った感触はやっぱり最高で、彼女の部屋の合鍵という存在と合わせるといまだに浮足立ちそうになる。
ちなみに橘さんはいち早く外に出て新生活の準備すると言っていたので、少し前に寮を出ている。勿論、橘さんもきちんと愛里や早苗など友達連中総出で見送った。天文部創設期においての数々の恩は忘れない。
早苗に最高品質のお守りも選別で渡してくれるよう頼んでおき、真剣にお礼を告げる一時の別れとなった。
「やあ学。おはよ」
「ふっ、お前はいつでも変わらないな」
「む、橘さんの時みたく真剣になった方がいいか?」
「ならなくていい。こちらから呼んだことだしな」
閑散と感じるロビーの椅子に腰掛け、僕と学はいつものように挨拶を交わす。
「学が最後になったんだっけ?」
「ああ、もうこの寮に卒業生はいない。明日から続々と新入生は入ってくるだろうがな」
今年の入学式は4月4日の月曜日だ。一応は明日のエイプリルフールから入寮は可能なようで、例年でも気が早い者は入学式前に生活基盤を整える準備期間になるのだという。支払い用のカードが支給される前だけは特例で円も使えたらしい。
ま、パンフレット通り入学式当日に来た僕や葛城達とかが大半なので、一概に言えないらしいが。
「まず聞いておきたいんだが、正午に出発だよな? 妹は呼んであるか?」
「声はかけてあるが……はは、クラスの違う夢月にも気遣われるか。鈴音は本当に最後まで……」
「最後なんて言ってやるなよ。堀北さんにはしばらく苦境が続くはずだから、兄貴のカッコイイ背中だけ見せてやれ」
「経験談か?」
「おう、僕の兄貴はそうしてくれた。きっと堀北さんにも効果があるさ」
「どう、だろうな。体育祭以降、話すことは増えた。そこで見せられるものは見せた。あとは鈴音次第だ」
突き放すような言い方だが、そこには前にはなかった妹への信頼をたしかに感じられた。自意識過剰かもだが、その珍しい学の柔らかな表情には僕にも少しは混じっている何かも……。
その何かを手繰り寄せる前に、学は話を既定路線に戻した。
「そうだ、忘れる前に俺も聞いておこう」
「ん、何でも聞いてくれ。特に隠してたこととかないけど」
元々、学の出発前に話がしたいと呼ばれたのだ。今は何でも答えるつもりだった。
「来年度から学校制度が一新される件も絡めて───夢月は南雲に手を貸すつもりか?」
南雲の話題か。旅立ちの日にはあんまりふさわしくないけど表情は真剣だし、心残りがあるならできることはしようか。
だから僕は真面目に答えた。
「え、いや? そんな気はない。だって僕と方向性こそ似てても別方向の改革なんだろ?」
「上はどこまでも上へ、下はどこまでも下へ落ちる仕組みを作るらしい。夢月の提唱した純評価ポイントシステムと命名決闘法案も、おそらく新制度に組み込まれるだろう」
「何か問題が?」
「ないと考えているのか?」
そう聞こえないかもしれないが。
てか、これ言っちゃってもいいのかな。いいか。どうせ学は今日旅立つんだし、土産というか餞別代わりだ。
「う~ん、前から言おうと思って…というか遠回りに何度か言ったんだけどさ。学年・クラス・能力関係なく生徒を敵と見るんじゃない」
「なんだと? 俺もそこまでは」
「───あえて言おう。学、お前も南雲も敵を見誤っている」
「なに? 見誤る……だと?」
「僕のまだ知らない仕組みがあると仮定した上で断言する。そもそも南雲と次の3年生、いや新入生含む全校生徒を合わせてもその改革、真の意味では達成不可能だ」
「不可能……? 南雲を侮っているのだとすれば」
「違う。南雲がどうとかじゃなく、これだけ大きく閉鎖的な学校を相手にするには手札が足りてないって意味。生徒が変えられる一定程度なら実現できると思うが、確実にどこかでストップがかかる」
「……それは理事会の事を言っているのか? 基本的に生徒に手は出してこないが」
「あくまで基本的に、だ。動く必要があったら動く。一度学校の幹部陣と相対した僕が言うが、良くて6割、悪くて4割ってところに最終達成率は落ち着くだろう。全校生徒の協力を得られた上でもだ」
南雲のスペックは非常に高いし、僕のような凡人は侮ることもできないが、高円寺や鬼龍院先輩レベルの『地盤』を持たないただの天才である。大人の世界を自由に泳ぐには必要なモノがいくつか足りていない。
「つまり学校のお偉いさんに都合の良い部分だけ改革は通る。敵を見誤ってるってのは、いち個人の実力や影響力を過信してるってこと」
「……っ」
「いかに南雲が天才とはいえ。色々特殊で生徒会の権力も強い学校とはいえ。
その力の源を考えれば答えは明白だ。言い換えると、力の源から変える改革を1人の天才な生徒が中心になったくらいで、きっかけさえあれば国の介入ありの学校に齎す? どう考えても不可能だ」
「しかし夢月は……お前はやってのけた」
僕も当然足りてなかったが、そこを埋めてくれる仲間と理の外側が運良く加わってくれたからなんとかなったのだ。
「僕には運良く2つの財閥と交渉する機会とコネクションがあったからな。でもおそらくそっちはもう対策されてる。体育祭に現役の総理大臣が来てた。僕『達』がやったような政府方面からのアプローチは、まずできないと考えて間違いない」
あるはずの僕への接触が遅くなったのも、この対策が整うまで変に刺激したくなかったと考えるのが妥当だろう。月城さんの存在が暗に示しているように、僕への対処がしばらく何もなかった理由はこれしか思いつかない。青娥さんという理の外側が認知されていないなら、僕を相当危険視していたようだ。
「っ……それでも。次はお前にもお前の友にも降りかかるぞ」
「僕は一向にかまわん。必ず守りきる」
そんなやり方でなくても案外覚悟は決められるし、勇気だって色んな種類がある。
ごちゃごちゃ複雑に考えるのは前の『俺』だけで充分だ。
やりたいようにやる。僕にあるのはただそれだけである。
「何故だ、何故お前は……南雲や理事会に啖呵を切ることができた? 事前に潰された橘を襲う理不尽のようなモノが。今度はお前やお前の友が同じ目に遭うとしても、お前は同じことをできるのか?」
「やらなきゃ駄目なんだよ、学。やらなきゃ僕の『矜持』が死んでしまう」
「……っ!」
ようやく学の思考に流し込まれていた『泥』の語彙が尽きて沈黙したか。不快なモノは出しきらせたんなら、もう言わせるものかよ。
極端な話、そんな些末な出来事などどうでもいい僕だったが、それを友達が言うなら遮ってでも僕が言う。
「───僕はこの先でなにがあろうと美しくないモノに対しては、問答無用で対処するよ。好きに生きてやるってのが僕の『美学』なんでな」
「……………………ふっ、夢月らしい」
「だろ? 過去は無限大なんだ。だから今この一瞬を楽しむことこそ最高に美しいってもんだと僕は思う」
とりあえず言いたいことを言ったら、なんか無性に恥ずかしくなってきた僕は無理に話を変えようとした。
「あっ、でも現実が敵を倒してお金が出るような世界だったら、もしかしたらアイツらに付いてたかも? 楽して稼げそうだし」
「ああ、お前はそういう奴だった。最後まで嘯きを忘れない……ぶれない奴か。どうやら無用の懸念だったようだな。あの南雲のみならず、奇人変人達からすら言葉だけで言葉を引き出した。
───夢月、自信を持っていい。お前は掛け値なしに尊敬に値する男だ」
が、当然のように学には通じず、妙な言葉と生温い視線(僕の主観)を向けられて、ちょっと日和った。だってなんか言葉通り学の目には敬意みたいな色があったからつい……。
まぁ、それでも普段っぽい穏やかな雰囲気には戻ったし、結果オーライだろう。
「そもそも……南雲に『勝ってやること』しかできなかった俺に代わって比較的穏便に対処したのは、そうした夢月の在り方だったのかもしれない。
……ふっ、ここに来てようやく、か」
そして天を仰いでそう溢す学を眺めて、僕もふと思う。
あれ? でも月城さん関連のことも考慮すると学に言われるまでもなく、今の僕って尋常じゃなくヤバい状況にいるのでは? 冷静に振り返ってみると高跳び一択なのでは? 可能かは置いておいて。
「……忘れろビーム。忘れろビーム!」
「おい夢月! いきなりどうした!?」
「あ、ああいや。ちょっと最悪の展開を予想しちゃっただけだ、問題ない」
思い至った推測につい話をぶった切って、自分を記憶喪失にしようと自分の頭に向けて特殊ビームを放ち始めたら、学に身体ごとガックンガックン揺すられた。
お陰で少し冷静に戻れた。
「そ、そうか? とても問題ないようには見えなかったが」
「大丈夫だ。真剣に高跳びの方法や経路を用意しておく必要性に駆られただけでな。愛里や友達連中もいるのに、そんなことは滅多にしないさ」
必要、ないよな? 誰かにないって言って欲しい!
「何故そんな必要が……。学生にはまったくもって必要のない用意だろう。夢月の思考は最後…いや、『いつも』謎だらけだな」
「サンキュー学! お前ならそう言ってくれると思ってた! ありがとう!!」
戸惑う学とガシッと握手をし、僕は心からの礼を言った。
うん。客観的に見ると、僕も同じような反応する自信があるわ。
これはもうズッ友だろう。
「情緒不安定なのか夢月」
「時々な!」
伝わってないのはわかってるが、気休めが欲しい場合というのは往々にしてあるものだ。そして気休めに理解などどうでもいい。必要なのはタイミングとノリだけだ。
ただ最後というワードを言い換えた学に気づいたので、その後は気兼ねなくこの学校で最後の雑談をして昼前までともに過ごし、元3年生の学生寮の前から学の旅立ちを見送った。
男同士ならこんなもんで充分だろう。
「またな夢月」
「学も。またどこかで」
学は新たな進路へ旅立ち───僕は2度寝に向かって───。
そう、僕達の戦いはこれからだッ!!
って感じなら、綺麗に締められるかな? 駄目?
後書きはこれで最後のつもりですので、ちょっとした裏設定を。
今話の夢月以外の3人は、実を言うとワトソン的な役割をそれぞれの方面からこなした物語の功労者でした。具体的には、基本傍観者のポジション『っぽい』わりに、夢月が起こすアレコレに巻き込まれて苦労しつつも変化・成長する展開を1章後半あたりから想定してました。
その代わり彼女らには少しでも幸せな未来が想像できるよう、いくつかここに至る道筋を準備(清隆とか龍園とか南雲とか)していた次第ですね。あ、ちなみに紛らわしいですが、ここの傍観者は以前の活動報告で載せた『傍観者枠』とは別の意味になります。
だから一見繋がってないようにも矛盾してるようにも見えるかもしれませんが、今話最初の椎名、真ん中の愛里、最後の堀北学の話は、内容は違えど微妙に繋がるようにも繋がらないようにも読めるよう書いてます。三者三様に覚悟を決めてそれぞれの旅立ち的な? いや、卒業するのは堀北学だけだけど、なんというか精神的に。
まぁ『よういふっ!』の頃から、特に愛里パートはなんでこれが挟まってんだ感があったでしょうけど、原作この時期の一之瀬や堀北妹よろしく、彼女が内心で覚悟を決めるのに必要だと考え……でもそのまま書いたらアレだったため、あえて台詞少な目で曖昧な表現になってます。前の彼女視点で書くことは書いてましたしね。
以上、特に意味のない裏設定解説でした。