櫛田の誕生日記念(1月23日)の3話続きモノ短編、今回がラストです。
無駄に発生した早苗の花火(音)という結果を脳内記憶から消し去りながら、四方と入れ替わるように歩いてくる悪友へと視線を送る。
出会った頃から考えても、外見以外はほとんど印象に変化のない希有な精神性を持つ承認欲求の塊。当初から相性の良さそうだった早苗はともかく、僕や天文部のみんなとも意外なほど縁が繋がったものだと妙な感慨が湧く。
体育祭の後くらいから伸ばしだしてロングになった髪を靡かせている彼女……櫛田が近づいてくるのを眺めていると、脳裏をよぎってくるものがあった。
去年の年末、櫛田の親御さんにプロダクション所属の承諾を貰う過程あたりで軽く身辺調査した後。
早苗も抜きで僕は櫛田と2人、天文部の部室で鳩首会議をした。
あ、早苗とはこの少し後に櫛田も交えて悪巧みの詰めはしたし、仲間外れにしたわけじゃない。単に最低限のプライバシーを考慮に入れて、この場には呼んでなかったって意味である。
性格の相性が良い早苗は、櫛田にとって大きなファクターになりやすいからな。できれば噛ませておくと、櫛田『が』安定する。
ともかく、この時はちょっとした彼女の地雷を見つけてしまい……少し真面目に彼女と話した頃のこと。
ぶっちゃけ、調査過程で判明した櫛田が中学時代に起こしたという当時のクラス崩壊。対応やこれからの方針を相談しようと、僕は櫛田を部室に呼び出していた。
アイドルとして売れてから発覚すると困るスキャンダルなどは、小火のうちに対処しておくに限るからだ。
そこで事務所所属のアイドルになる身辺整理のために調べてもらった櫛田の調査報告書を見せながら本人に聞き込みしたのだが、藪を突いたら出てきた蛇は想像以上だった。喧嘩や酒・タバコはまだしも、クスリやら援交やら普通にやる奴らに囲まれてたとか。
……てか、中学の同級生でクラスメイトの結構な割合が犯罪者一歩手前かそのものな秘密を持ってたって、櫛田の運の悪さは筋金入りだな。承認欲求とかも理由の一つではあったのだろうが、おそらく自己防衛でもあったのだろう。
その僕ですらなんとなくしか想像できない地獄を乗り越えてきたんなら、悪魔と見紛うほどの邪悪さも納得だ。修羅場を越えてきたのを知ったからか面構えが違った。しかも最初なんかろくに話も聞かず「どこで知ったぁっ!!?」と彼女が荒ぶってて、宥めるのが非常に大変だった。
親御さんや出身中学から聞き込みしてもらった話(何故か青娥さんが謎に嬉々としてやってくれた。こっちも相変わらず性格ヤバいな)をまとめ、筋の通った事実のみを残して推測を組み上げて───それをガクガク揺らされながら話しつつ宥めて、少し落ち着いた頃合いに櫛田に確認してたら、悟りでも開いたような表情になってたが。
「───というわけで、クラスメイト達の秘密をバラしまくって私はクラスを崩壊させたのよ。ああ、堀北は同じ出身中学のある意味有名人。コレをバラされたら私が終わるからね。だからその前に潰しておきたかったんだけど……もう、いいか。
で、これだけ詳しく知った左京君は───どうする?」
軽い調子でありながら何かを堪えるように、何故か諦めた投げやり風に悟った表情で淡々と話していた櫛田。
ただ、当時の僕はいつもの櫛田となんか雰囲気が違わね? とは思いながら、寄り添うでも同調するでもなく、目的達成への道筋しか考えてなかった。
どうする? ってことは、この情報を利用したいってことだろうか。正義キャラは櫛田にあまり合ってない気がするが、酷い目に遭ったんだからせめて転んでもただでは起きない精神かな。本人が希望するなら考慮に乗せてみよう。みたいなビジネス方面に思考が行ってたからである。
……正直、すまんかった。櫛田がそこまで深刻に考えてると当時は思えなかったのだ。だって僕からすれば、ほぼいつものノリだったし。
「ふむ、つまり櫛田は中学時代にやべー奴らを摘発した英雄的な扱いで売り出してほしいと? しかし、その方面で売り出すと後が窮屈にならないか?」
「え……は?」
「いや、多分だけどさ。こういう正義方面のキャラクターは、容姿以外に振る舞いや知識、能力がそこそこ要求され『続ける』んじゃないかな。例としてはアレだけど、ほら。実現性の低い綺麗事を努力で成し遂げてきました! 的なタレント? 否定はしないが、櫛田の性質を考えるともっと精神の強さとかトーク力を前面に出した方が……」
「ちょ、ちょっと待って!! なんでそうなるの!?」
一応、大変そうなのは指摘しとくか、とやっといたらなんか話が噛み合ってないような? もしかしてどこかで読み違えてた? とは途中で気づいてブレーキかけるか仕切り直しをしようか迷ったものの、でもこれを言わずに済ませるのは流石に僕的に不義理すぎて普通に続行。
「ん? だって調べた情報と櫛田の話を聞く限りだけど、まずどんな形であれ当時のクラス中の奴らから相談されて秘密を握ってたんだろ? そんでストレスかなんかが限界突破して秘密をバラしまくり、薬中や援交を中学の頃からやってたやべー奴らを摘発して、同士?討ちさせた上で一斉崩壊に導いたんだろ? ソイツらのバッシング付きで」
結果、僕の中ではこうなった。
なに負債と隠蔽のしわ寄せを櫛田に押し付けてんだよ、と。
変えられない過去で、なおかつ他人事ながら、友達がこんな杜撰な対応の割りを食うのは気分良くなくて……いや、はっきり気分悪かったから。
「つまり見方を変えれば、犯罪を暴かれ自分の尻も拭わない当時のクラスメイト含む全員と中学校自体に、櫛田が責任転嫁のスケープゴートにされたってことでもあるわけだ。だから、ムカついてんだよな? 聞いてただけの僕でさえイラッときてんだもん。むしろ櫛田は、よく手が出なかったものだよ」
「……っ」
「僕の持論だけど、憎しみや復讐心はこの世で最も効率的な原動力だ。
おそらくそれに近いモノを持ってたからお前は助かっ……返り咲けただけで。堀北さ…僕は置いても、早苗に友達と認め合えるのは何らかの『強さ』を持ってる証明だ。断言してもいい。それに振り回されるだけだったら、櫛田は絶対に今のようにはなってない」
栄一郎や清隆にも前に似たようなこと言ったけど、この年齢の…それも女子に言うことじゃないし、途中からブレーキかけて無理に早苗を絡めて言葉を曲げたけど、どうにも止まらなかった。
なぜなら、仮に当時の櫛田の立場に僕か早苗がいたらやり方に違いはあっても早々にプッツンしてるし、愛里や四方だったら想像もしたくない事態に発展していただろう。
まぁ、そもそも僕達だったら他人の便器を覗かないし興味もないから、ますますボッチ道を邁進して気づきもしなかっただろうから意味もない仮定だが。
それでも何をやったかに相違はあるが、櫛田の『ソレ』はまるでシ○マ様のようで。まぁ、両者とも綺麗な身ってわけでも、悪属性じゃないってわけでもなく、自業自得な面もたしかにあるが、それでも無能な上や責任を押し付ける奴らに僕がムカつくことに変わりはない。
しかし何気に、その過去があってなお、曲がりなりにも現在でもその自我を継続してるのだから凄まじい。
それならと、今の櫛田に合う上で前向き気味なプランを提案しておく。友達に辛気臭い顔されるのも、落ちてくのを眺めるだけなのも、なんか嫌だからな。
僕がやれることはやってみよう。
「何が言いたいかと言うと、そこから自分だけで精神を立て直して、この学校でやりなおそうとしてるんだ。考えるまでもなく、スゲーことじゃん。年齢からすると偉業以外のナニモノでもないし、そりゃ知れば手くらい貸すさ。
で、その真実を使った武勇伝持ちみたいなキャラで売り出してほしい、ってことじゃないの?」
「いやいやいやいやっ!! なんの…誰の話よそれぇ!?」
「誰って……櫛田だろ」
「そうだけどそうじゃない!」
「なんだろう? いきなり情緒を乱すのやめてもらっていいですか? それってあなたの感情論ですよね?」
「お、おぁあああああっ!!!」
そう主張したら、櫛田がいつぞやのように情緒不安定になった。
櫛田は異常な精神性のくせに、時々冷静さを捨てて荒ぶるのが玉に傷である。
てか、僕的にギリギリ大したことは言わなかったのに、部室で騒ぐなよ。落ち着け。ところによって常識がなくなる奴だ。
「もうっ! ああもうっ!! なんでコイツはこんなに話が通じないことがあるのよっ!!?」
「失敬な、何を言う。僕はきちんと櫛田の要望?に沿った提案をしたが?」
「バラされたら終わるって部分をスルーして、逆に変な方向性で大々的に広めようとする左京君のどこが要望に沿った提案!? 情に流されてくれないかなって素直に話した思惑も全部台無し!?」
それを口に出した時点でその思惑は台無し確定だろう。もう少し冷静になってくれないだろうか。意味不明な言動すぎて、もはや怖い。
せめて僕だけは冷静さを忘れず指摘しておくべきか。
「伝さえあって、外を調べたらすぐわかるこのどうしようもない情報を隠すのは不可能だ。しかもお前の性格上、隠し続けるのは無駄にストレスが溜まり続けるし、そもそもコレを利用してのし上がるなんて櫛田には軽いだろうが。それどころか最低限の素を見せつけて転用すると、最強クラスの武器素材でしかない。
どこに櫛田が我慢してストレス溜め続けるメリットがある? 惜し気もなく使え」
「それはっ……でも、だって嫌われたら何もかも終わって」
でもも、だっても、必要ない。
狭い範囲の承認欲求前提の価値観で考えるから、嫌われるなどと些細なリスクで見てしまう。
プラス方面で使えば、真実とはこういう使い方もできるはずだ。
「まずそこがおかしい。あんだけ好き勝手やってる早苗が嫌われてるか? 優等生の皮を被っただけの暴走機関車な堀北さんに味方はゼロか? 日常的に職質されててもおかしくない超絶不審人物な清隆は集中的に排斥されかねないか? 素で自分にヘイトを集めてる龍園ならどうだ? めっちゃ腹黒そうな坂柳さんは?
例に挙げたコイツらとは比べものにならないほど良い評判を積み上げてるだろ、櫛田は」
それに多分こういう戦い方なら、櫛田は正面から殴り合ってもトップクラスだ。及ばずながら僕や早苗もフォローするから、抜けた部分はそこそこ埋められるだろうしな。
「そんな櫛田に最低でも僕と早苗が付いてて、いきなり終わるような嫌われ者にするわけがない。余程のポカをするかやべー奴にターゲットにされるなど特定条件下を除いて、そうならないようフォローは入れるさ。だからちょっとお前の邪悪さを見せるくらいなら挽回は容易だ」
櫛田はこういう手練手管が得意中の得意だろう。
ゆえにそんなリスク、準備万端にしてから蹴っ飛ばしてやればいい。おおよその条件が揃い始めてる櫛田ならもう難しくない。
あとは勇気と度胸を持って一歩を踏み出すだけだ。
「これまで校内の人気を積み上げてきた櫛田が、コレをバラされたりたまに邪悪な本性を見せたところで、サクッと踏み越えて終いだ。全員が裏返るとはいかないかもだが、この程度で嫌われるなら逆に櫛田がそいつを嫌ってやればいい。
みんなのアイドル・櫛田桔梗が嫌う奴を悪者にしてしまえ」
で、ソイツを排除または一旦は集団から排斥して、耐えきれなくなる寸前に櫛田が許す態度を示せば、おそらく櫛田が最初から嫌う堀北さんや妙な精神性を持つ清隆と高円寺以外は信頼を寄せるようになる可能性は高い、はずだ。上手くやれば、だけども。
「───櫛田が不都合だと思う真実を持つなら、更に大きい自分に好都合な『真実』を作り出して全てを塗り潰せ。お前なら軽いものだろう?」
勢力図を塗り替えるのに、櫛田ほど適した奴はそういない。ましてたかが1クラスなら、準備する期間を含めても掌握まで遠くない。現時点で半年以上も雌伏して作った下地があれば尚更だ。
「……っ。ふ…………ふふふ。左京君ってさぁ。結局今に至るまで、よくわかんないけどよくわかんなかったね。私も自分で『そう』思う時はあるけど、左京君も相当イイ性格してるわ」
僕がイイ性格? 櫛田はともかく、僕は性格がイイの間違いだろ。前後が逆になると、意味と聞こえが違ってくるから使い方は正しくしてくれ。
「なんだよそれ。邪悪なる悪魔め、おまいう」
「ふふ、左京君ってホントに……うふっ」
てか、どう受け取ったのか、そんな威圧するようなイイ笑顔をする櫛田に言われたくない。
「ふぅ……。ともあれ、話を戻す。
あと僕にできる助言は……清隆を巻き込めれば、後始末や下準備もいくらかスキップできるだろう。こういう事に関して信用も信頼もできないだろうし、裏切る可能性も実際にあるが、綺麗に迅速に憂いなくクラスの人気者トップに躍り出るなら、アイツを取り込んでおくのが一番の近道だ。多分な」
勿論、ここまでの地盤を整えるのは一朝一夕といかないが、誰かを陥れるよりも自分が気持ち良くなる環境を築く努力をするのが櫛田には合っている。元々、精神力や忍耐力は頭抜けてるしな。
「それで今のところ“唯一の笑顔を向けられるほどの”友達の綾小路君をこんな風に言うとか……ふふふっ」
「友達だからだ。清隆は友達として面白いが、他の友達と違ってマジで矛盾と不審に溢れる行動がデフォルトだからな。何かしらの担保がないと全幅の信頼を寄せるのは怖い」
「うふっ、ふふふ……変な友達関係よねぇ、あんたら」
「笑うなよ、自分でも変なのはわかってる。
まぁ、また脱線しかけたが、今なら坂柳さんと龍園の件があってアイツは大変っぽいし、やり方を工夫すれば案外コロッと行くかもしれない。しかも結果的に櫛田が敵視する対象に最も近いと思われる存在まで抑え込めるんだから、多少の時間と労力、あるいは譲歩してでも清隆を取り込むのはやり得だ。櫛田の能力なら半年……好機が到来しすれば、早くて1年生の年度末あたりか。そのあたりで、実を結んでくるモノがあるだろう」
ざっとしたこれからの想定や打つ手を話していると、櫛田がなんか変な挙動になった。これだから早苗と同類のイロモノは読めない。
「あはっ♪ 私を押し上げつつ、アレから綾小路君を引き剥がす、ね。大したものだわ、あんた。考えただけでゾクゾクしてきちゃう」
アレって……堀北さんのことだろうけど、相変わらず随分と重い想いを向けてるようで。こっわ。
ところでさ……櫛田こそ変な扉を開いてないか。
これまで以上に黒光りした猛悪な笑顔がなんか凄く怖いんだが。例えるなら、事後に血塗れのナイフをなめるような狂人顔(個人的印象)というか……。
言葉を借りると、背筋がゾクゾクしちゃう。
「───左京君がなんで早苗達に認められてるか、ようやく本当の意味でわかった気がするわ!!」
しかも、なんだコイツ。そこからいきなりハイテンションになるとか、マジで情緒どうなってんだよ。
まぁ、櫛田にいつもの(いつもとは少し違うか?)調子が戻ってくると少し安心する。早苗もたまにそうなるけど、悪友は悪友らしくしてないとこっちの調子が狂うからな。
「ふ、ふふっ…………いいわ。私のメリットは計り知れないし、これまでの信用をベットして動いてあげる。手始めに綾小路君を共犯者に巻き込むのが実を結ぶ近道かも、だっけ? 苦渋を飲み干してでも、やってやるわよ」
でも、あの。そう言われると、清隆と付き合うためには苦渋を飲む必要があるって聞こえるんですが(小声)。
櫛田視点、罰ゲームなのかよ。ヤツの意味不明さを知る者として、否定できないけども。
「あと私のこと、邪悪なる悪魔とか言ったの忘れないから。覚えておいてね、左京君?」
そうしてここでは話を終えたのだが、まさか実を結ぶどころか遠くない未来に実現する堀北さんと平田を完全撃破して、クラスリーダーとして君臨することを想像してなかった。表向きだけとはいえ、清隆と付き合いだしたのも。
年末にしたこの共犯者会合にどこまでの影響があったのかは、本人と神のみぞ知るといったところだが。
「うふ、うふ、うふふふふふふふ」
……それで、えーと。その後の櫛田は帰るまでなんか妙な笑いを浮かべてたわけだが。
つい口が滑って邪悪とか言っちゃったのは、まだ覚えているだろうか? 忘れてると助かる。次の機会で早苗や栄一郎を交えて話した時は平常運転に戻ってたから大丈夫だと思いたい……たぶん、おそらく、きっと、メイビー。
強欲憤怒嫉妬に憂鬱可愛いの最低5要素を持つ悪魔が愉しげに刺してきた釘は、僕のような凡人には恐すぎるもの。
そして僕は回想から数ヶ月後の5月、仲間内…の中で更に限られた共犯者内のささやかな打ち上げに思考を戻す。
早苗がゲロインとなったとある日曜の夜の本日は、櫛田のクラスリーダー就任を祝う宴だ。
一応はおめでたい宴で浮かべる思考ではないからな。
しばらくはクラスを統率する根回しなどで当人が忙しくしていて、注目度も高かったために数週間ほど後ろにズラして今しているが、用件もあったためか櫛田自身が僕と早苗の組み手後にこの宴を提案していた。
櫛田以外で最も重要な役割を担った清隆や、愛里以外のDクラスの者こそいないが、策謀とは関係なかった下級生2人もいるのでそこらへんは適当である。
まぁ、それなりに裏を晒せるようになった櫛田の機嫌もいいし、少なくとも表面上は『この』櫛田を受け入れられる面子しかいない。受け入れられるというか、椎名や石上君を含め、あまり櫛田の裏表に興味がない面子揃いとも言うが。
栄一郎に関しては、櫛田が桜プロダクションのスカウトを承諾してアイドルの下積みを始める時に知っている。親父さんが学校外で経営や営業、栄一郎が学校内のプロデュースとマネジメントの担当に決まったからだ。
七瀬さんは入学してから暇がある時のみの補助業務関係だからどうかわからないが、栄一郎が櫛田の下積みを支えている関係上、ある程度は2人に素を晒してないとおかしいし、知らない方が不自然だ。
邪悪な本性や学級崩壊の過去を塗り替える事前練習のテストケースとして、仲間内で一般人に最も近く善性を持つ栄一郎は適任だった。
栄一郎は何故か僕に対してやたらと信頼を向けてくるから、口止めもしやすかったしな。僕が「君達親子の地位を確固とするためにも、櫛田をプロデュースしてほしい」と頼んだら、ほぼ二つ返事で櫛田の味方になってくれた。
勿論、当初は櫛田にも様々な葛藤はあっただろうが、僕と早苗がところどころフォローしつつ話題を誘導して栄一郎を味方にできたと『櫛田が』確信できたあたりで、自信を取り戻したように見えた。
なんにせよ、これが後に櫛田が必要とした勇気や覚悟の土台になってたら嬉しい。こういう成功体験は何気に結構重要な要素だからな。
ああ、櫛田がこんな状況だった時期、僕はフォロー以外で何をしていたかと言うと、会社の引き継ぎと空いた時間は愛里とひたすらイチャコラしてた。愛里ときどき四方&早苗、みたいな?
だから、実はそこまで櫛田の仕事に深くまで踏み込んでいない。
なぜなら僕や青娥さんは基本的に愛里=雫専属みたいなモノだし、経営や大口の出資者とのパイプを繋ぐ役目も重要。あと元から松雄親子の手柄にするつもりだったのもある。一応、それなりのフォローや支援はしてたがな。
そんな風にここ数ヶ月でやってたことを思い浮かべてると、櫛田が話しかけてきた。彼女からされた依頼の件だろう。
宴会なんて場を用意しつつ、さりげなく2人で話せるよう人払いの根回しをしてるところが、コイツの性格を表している。もう1人の共犯者である早苗はともかく、高円寺……それに石上君だと、空気を読まないから人払いを貫通してくるわけだが。
「左京君、何かわかった?」
「まぁ、わかったと言えばわかったんだが……」
「やけに歯切れが悪いわね」
「うん、ホワイトデーとこの前の情報戦の借りを返せってことだから、それなり以上には頑張ったんだけどさ。
───最終確認なんだが、櫛田が調べてくれって言った『八神拓也』とかいう後輩、マジでお前と同じ中学出身?」
「え……本人は、そう……言ってた、けど。私は……」
宴とは別に、僕は櫛田から頼まれて学校外の情報収集を1ヶ月ほどしていた。それがこの八神という下級生が接触してきたから学校外から調べてほしい、って依頼だ。といっても、僕も櫛田と同じく学校外に簡単には出られないので、松雄父や青娥さん達に口を利いただけだ。
何気に櫛田の親御さんに所属許可をもらった時、櫛田の地雷(中学時代のクラス崩壊)を振り当ててしまったので嫌な予感はしてたのだが、またしても何か面倒事っぽい情報を見つけてどうしよう、ってなってるところである。
伏せるわけにもいかないから話すけど、ほぼ成果なしで僕個人の予測情報しかないから微妙に気まずい。
「あ、あー。それで調査結果なんだが。
櫛田が中学3年時に在籍してた全生徒名簿でまず基本情報から辿ろうとしたら、その……どんだけ調べても八神って名字の生徒がいなくてな。親の結婚や離婚、養子縁組とかで名字が変わったかと思って拓也の名前でも調べたが、同名はいても進路がこの学校じゃなかったからおそらく別人だろうし。
改めて聞くけど、ホントに同じ中学?」
「名簿に名前が……ない?」
僕は頷くことで肯定を返す。
「ああ。当然だけど、在籍してた当時の櫛田や堀北さんの名前は確認してるし、あーっと…じ、事件の続報なんかで報じられてた部分の人物は存在が確認できるから、確実に本物の名簿だ。まぁ、未成年だから名簿以外に名前は出てないし、知ってる奴が見ないと特定は難しいけど」
「私や堀北が名簿に載っていただけで、そもそも名簿に抜けがある可能性は? 在校生1000人を超えるマンモス校だったから」
この返しができること自体が、コイツも最低でも二物以上を『持つ者』だと示してるんだけどなぁ。
どうもこの学校の天才や才人、上を望みすぎる奴が多すぎな件。
「抜けがないかは確実じゃないが、少なくとも人数は一致してる。それに櫛田の同期は少年院行きになってる奴まで、名簿のみならず卒業アルバムにさえ全員が載ってるぞ? それはお前の親御さんに見せてもらった卒業アルバムの写真や名簿でも何度か照会してる。なのに、問題なかったという次年度以降の生徒の名前が抜けるかなぁ」
「それはそう、ね」
「ぶっちゃけ、僕は経歴偽装的ななんかを疑ってる。八神って奴と僕が会ったことないからどんな奴かは知らんし、どんな意味があるかもわからんが、友好的、もしくはまともな理由で櫛田に声をかけてきたんじゃない気がする。勘、だけどな」
「勘、ねぇ。大した根拠もないのはわかってるのに、左京君のは馬鹿にできないから判断に困るわね」
そんな勘にすぎないものが、それなりに信用されてるっぽいのが僕は困るけどな。
話を変えるついでに、ちょっと思い付いた疑問も今のうちに聞いておくか。何でピンときて繋がってくるかわからないし。
「そういえば、そもそも調べてっていう八神本人を僕のところへ連れてこないのはなんでだ?」
「……左京君に会わせようとすると、何かと理由を付けて避けるのよ『八神』は。綾小路君とは普通に顔合わせしたのに。怪しさで言えばそれこそ綾小路君と同レベルかも」
なんだそりゃ。何をしたいのか全然わからん。
飛躍した憶測では、前の花見前に盗み聞きしてた奴かと思ったから質問したけど、これで少し候補の確率が下がった。
天沢が漏らした話から繋げていくと、『意味があるかはともかく』ハイリスクハイリターン(清隆退学)を求めるなら、むしろどんな形でも僕か早苗、あるいは坂柳さんあたりに接触を図るはずなんだが。
月城さんが示唆した材料から考えても……ん? いや、まさかこんな動きを見せておいてビビってるのか、コイツ? 清隆を潰したい、もしくは退学させたいけど直接当たりたくない、とか? それか薄い可能性だが、あまり裏事情を知らない(興味ない)宝泉みたいな懸賞金狙い?
駄目だ、情報が足りない。もうひと押し何か材料があれば……。
なぜなら、この程度の材料でもわかるモノはある。それがなくとも、こんな不自然と矛盾だらけの奴は危険だ。
僕の経験上、往々にして言動に矛盾の多い奴が被害を拡大させる傾向にあるのは、すでに清隆や櫛田、『俺』の頃の某総理大臣で証明されている。以前の清隆のように、わざと自分を怪しませるかのような不自然で大胆な動きに見える時もあれば、リスクを犯すことに忌避感らしき気配もある。
これらの点でも清隆の後輩っぽい。
それに───。
───今はまだ勘にすぎないが、おそらく八神の更に奥にいる『観測者』とでもいうべき存在が最も重要な『真実』を握っている。八神の持つ真実と併せて、なるべく早く確定させておくべきだろう。
そんな予感がしている。
ついでに、なんとなく思い付いたので、目だけで何故か近くで今の櫛田との話を聞いていた『どこかの関係者』だろう石上君を見れば、聞きたい情報がなかったのか他の理由かここで下がっていった。
まぁ、“僕が”信用してると前に明言しておいたためか、視線は向けないけど櫛田もあえて見逃してるっぽいし、石上君についてはとりあえずいいか。
それにしても共犯か偽装と察してるとはいえ、清隆と恋人として付き合ってそこそこ経つのに、怪しい要素満載の新入生と同レベルの怪しさ(櫛田視点)って。しかも名字に君付け。
清隆はマジで自らが求める平穏や自由とは何かを、改めて考えた方がいいんじゃなかろうか。
櫛田的には能力はそれなりに認めつつも、信用度が地にめり込みかけてるぞコレ。プラスとマイナスで相殺どころか、早苗の影響を除いても不審に思われてるじゃん。
「参考になるかわからないが、これからもその八神って奴と何らかの関係を持つなら気をつけてな。多分、これ以上調べても大した情報は見つけられないと思う。ここの学校のデータベースにアクセスできるならともかく、最低でも生徒会長の南雲、できれば経営陣あたりと協力しないと危なすぎて深いところまでは探れない」
というか櫛田には言えないものの、めっちゃホワイトルームかそれに類するナニかが関係してるっぽい匂いがしてる。
……清隆から下級生や教師に紛れさせるかもとは聞いてたが、いったい何人いるんだよ。なら今回の櫛田への接触は、清隆に近く見えたから狙われた、とかそういうことだろうか。
ズバリは言えないが危ない匂いもあるし、僕からも注意喚起しておくか。
「うん。だから悪いけど僕は手を退く。
櫛田も無理しない方がいい。下手すると、利用されるか巻き込まれるぞ。こういう裏で動く手合いにはスルー安定だ。仮に逆ギレされても現状の櫛田なら致命傷になる札はないし、堀北さんとか誰かしらの退学を餌にされても、下級生の協力なんて必須ってほどじゃないから無視できる。むしろ、関わり続けることで傷が広がりそうだ」
「……そうね、八神君は怪しすぎる。わかったわ。最低限のパイプは残したまま、私も警戒を強めとく」
一応は言っといたけど、どうなるだろうな。
南雲との初対面時にも似た印象を持ったが、櫛田から聞いた話と軽く情報を調べただけでこれなのは……。
この件は打つ手を間違えるとヤバいかもしれない。
それは僕にとってか、櫛田にとってか……あるいは清隆にとってか。
───現時点ではなんとなくの勘でしかないのに、八神とやら『も』敵になる気がしてならない。
なんにしろ、一度は栄一郎と七瀬さんに一言かけた上で、月城さんと連絡を取っておくか。
僕の想像が合っているなら、八神かは別として、おそらく月城さんの想定から外れたところを暴走する存在がいる。把握はしてると思うけど、保険は多ければ多いほど、強ければ強いほどいい。
今はもう櫛田がクラスリーダーだし、『真実』も仕込んで足を掬われないよう防衛を強化しておくべきだ。
「それと左京君」
「ん? なんだ?」
「色々と協力や忠告ありがと。
───これからもよろしくねっ」
「お、おぅ。よろし、く?」
考え事に耽ってると声がかかり、珍しく上機嫌な櫛田を目の当たりにした。珍しい、というか初めて見るかもしれない信頼を感じさせる穏やかな笑顔だ。ついさっきまで八神とかいう下級生をどうしてやろうか、と内心悩んでいただろう奴と同一人物だとは、コイツを知らない者には到底信じられまい。
しかし年末にも思ったが、各種のストレス源がだいぶ片付いてきたからか、邪悪な印象はそのままに別のナニかへと進化したような……?
不気味とか気色悪いとかではなく、櫛田のことだから裏があるかも、と一瞬ビクッとなり、どもってしまった。
口には出さないし失礼な話だが、内心ちょっと混乱してるかもしれない。
今の櫛田は、早苗や南雲がたまに見せる『良い意味でらしくない』態度を思わせるからだ。
あれか? 身内枠や親しみを持ってる奴にだけ見せる顔ってヤツを、僕にも見せてくるようになったのだろうか。なんで共犯者的な立ち位置の僕にこうなったか理由はわからないが。
てか、邪悪なる悪魔が、不意討ちで可愛いところ見せるのやめろ。愛里がいるからぐらつきはしないものの、普通にドキッとする。
早苗や鬼龍院先輩なんかも時に不思議な顔を見せてくるが、美少女である自覚はあるんだし、女子が気安く距離を縮めるんじゃありません。No.1キャバ嬢じゃあるまいに、勘違いしそうになるじゃないか。
でも、珍しく素直に礼を言ってくる悪友だ。細かいことは忘れて、できる手助けはしておいた方が気分が良く飯が食える。
考えられる被害を出す前にいくつか手を打っておくのは、友達として当たり前の対抗策だろう。
なんて内心考えつつ、常にない態度を見せる櫛田の背中を軽く押して、ちょうどトイレからの帰還を果たした僅かに酸っぱい匂いを漂わせる早苗とともに、宴へ混ざりに行く僕だった。
なぜなら、この場で考え込んでも意味はない。
楽しむ時は思いきり楽しみ、戦うべき時に迷いなく戦う。
そして嫌なことや難しいことはできるだけ後回しにするのが、人生楽しむコツである。
人生二度目の僕が言うんだから間違いない。
櫛田がクラスリーダーになる本当の意味での発端(1年生のクリスマス~年末年始の間)と、リーダーになった直後の問題提起(2年生の5月下旬)。以上の二本立てでお送りしました。
名実ともに櫛田がDクラスのリーダーになった瞬間も入れようかとは思ってたんですが、意外と話が膨らまなかったのでこういう形になってます。
ぶっちゃけ、主人公の夢月が別クラスゆえに直接は介入できないし、櫛田が堀北・平田をやり込めて何人かを除くクラスメイトを掌握するだけだったからね。あと綾小路の裏での動き。私はそういうの(意図が読みにくい暗躍系?)にあまりカタルシスを感じない畑の人なのでしかたないね。
というわけで、櫛田のメイン回とも言える今話の補足。
前々話でもチラッと後書きにしてましたが、原作ともかなり変化してるのに櫛田の話はこれまで流すばかりで、ガッツリ書いてませんでした。
なので、説明回『悪の華』、日常回『譲れないモノ』、実質櫛田メイン回『真実』の3話に分けて、じっくりと何故こうなったかを描いてみました。読んだ方に賛否ありそうですが、ようキャではこうするのが一番ハッピーエンドを想像できそうだと思ったからです。読者視点だとおそらくもう1つ山があるでしょうが、これで櫛田に関しては大きな心配事はなくなったでしょう、多分。
もう1つ無駄なこだわり。
前話と順序が逆に思えるかもですが、せっかくなので櫛田の誕生日1月23日にメイン回を投稿したくて、時系列を反転させて無理やり調整してます。不自然な箇所があったらすいません。
ちなみに一見櫛田と関係なさそうにも見える前話が何故入ってたのか疑問に思う方もいるかもなので補足すると、VS早苗は左京夢月の『真実』の使い方、佐倉関係は夢月のヒロインは愛里だけと示す、櫛田がこの場を整えた。それぞれの一例みたいな感じです。そしてそれが、少しずつこれまでの櫛田にも繋がってたっていう。
あ、それと今話にある年末の回想・現時点は、5章の『目的』、異説の章にある『戦略』、結末の章にある『清濁』などにも繋がってます。こんなことあったかな、って疑問があればそちらをどうぞ。
まぁ以前の話だとサラッと流してますが、文字数削って中途半端になってた伏線回収なので一応は開示。
さて、本文・後書きともに長めの今話を含むここまでのどこかで、もし嗜好に合致した読み手がおられたら幸いです。合致しなかったら……ま、しかたないですね。縁がなかったってことで。
でも、これからも蛇足の章は何か思いついたら、こんな風にコソッと投稿するかもしれません。っていう一応の予防線を締めとさせていただきとうごさいます。
いずれにせよ、お読みくださりありがとうございました。