ようキャ   作:麿は星

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17、早合点

 

 テストで赤点取れば即退学のお知らせの翌日。

 昨日は退学と聞いて少し驚いたが、クラス平均の半分なら僕は問題ない。知り合い連中も佐倉に僅かな不安が残るくらいで、それも勉強を天文部で手伝えばついでに東風谷の苦手分野克服もできて一石二鳥だ。

 おそらく僕達の中から退学者が出ることはないだろう。

 

 憂いが少なくなった僕はゴールデンウィーク目前に控え、PPも無事69000入って10万近くまで持ち直した事で、テントでも買って外れの大公園でプチキャンプDE天体観測をしようかと画策していた。

 泊りがけの予定であるので流石に女子を誘うことはできないが、四方と柴田あたりは誘って今日に買出し、明日に実行である。急であるし、四方達が来れなくても一人で行けば十分楽しめる。

 完璧な計画だろう。

 完璧な計画のはずだった。

 

 

 

 

 いつものように直前に登校して授業準備していると、朝のホームルームで担任から少し時間をもらった一之瀬が、放課後に皆に話があるから時間がほしいと言い出した。

 教室内では賛同の声が溢れていたし、たいした時間はかからないだろうと思い僕も了承した。

 四方達を誘うのは一之瀬の話が終わった後の方が落ち着いて誘えるだろうから少し手順を変える必要ができたが、今日の僕は意気揚々なので、年甲斐も柄にもなくワクワクしながら放課後まで待つことにする。

……我ながら考えが甘かったと言わざるをえない。

 

「みんな、時間を貰っちゃってごめんね。それとありがとう」

 

 放課後に教壇に立ち、まずそう前置きした一之瀬は一度心を落ち着けるように深呼吸してから話し出す。

 ところで何故か担任も隅で座っているが、なにか意味があるのだろうか? 心の隅に置いておこう。

 

「今日はこれから先のBクラスの方針を話し合いたくてみんなに集まってもらいました。PPやCPにクラス全体の運営、それから退学やシステムの事についてなにか意見のある人はいますか?」

 

 一方、そこからの一之瀬は姿勢を正してクラスメイトに語りかけるように向き合っていた。

 誠実に真摯に問い掛け、意見が出れば柔軟性を保ちつつ臨機応変に対応し、不採用になった意見を出した者にもフォローと気遣いを忘れなかった。そして恐れず意見が言える雰囲気を作り出した事で、学級委員会制度やクラス内ネットワークでの情報共有、CP・退学対策など、有用ではあっても存在してなくて開いていた穴を少しずつ塞いでいった。

 

 僕はブレインストーミングをここまで綺麗に活用する人を初めて見て驚愕していた。

 出される意見や採用されて形を整えていくやり方こそほとんど優秀の域を出ないが、これは高校生レベルではない。言いたい放題の状況を何とかまとめたり、混沌とした場になって光るモノを見つけて拾い上げたりする話し合いになると思っていたのに、前の人生でもあまり経験のない実りのある会議だった。

 もしもどこかの会社で、ある程度自由に動ける管理職として一之瀬がいれば、よほどの不運が重ならない限り、問題は少なくなっていくだろうとさえ思う。

 

 だが、何より僕が驚いたのは―――

 

「最後に私からもいいかな?」

 

 そんな前置きから始まる一之瀬の提案。

 

「私はみんなとAクラスで卒業したい。その為には他のクラスに勝つことも大事だけど、誰かが退学になりそうな時に助ける何かが欲しいの。そして、その何かはPPじゃないかって話し合った時に思って、いざという時にPPをまとまった額で用意しておきたいの」

「つまり銀行みたいにどこかにPPを集めておくってことか?」

「いいんじゃない?」

 

―――銀行だった。

 

 学級委員会制度でBクラスの学級委員長になった一之瀬の採った戦略は、二度目の僕をして天才の所業といわざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「左京?」

「左京さん?」

 

 突然、前後から四方と東風谷に名前を呼ばれた。

 いや、何故か教室中から注目を浴びている。一之瀬や黙っていた担任までも唖然とした視線を飛はしてくる状況で、僕はようやく自分が椅子を蹴倒して勢いよく立ち上がっていた事に気づいた。

 

「左京、どうしたんだ?」

「左京君、なにかおかしかったかな?」

「あ、いや、一之瀬……さんの戦略があまりに衝撃的だったから、つい立ち上がっちゃったというか」

 

 四方と一之瀬に言い訳しながら、椅子を元に戻す。

 

「「衝撃的?」」

「そりゃ、完全実現の可能性は小さいかもしれないが、ある程度でも成功すればって」

「何のことだ?」

 

 四方はこの戦略の凄まじさを理解していないのか、のんきに問い掛けてくる。頭が良い癖に妙に固い四方に少しでも僕の驚きを共有してもらおうと、一之瀬が伏せただろう事は言わないように注意して彼女の推定戦略目標を口に出した。

 

「ばっか! 四方、今の一之瀬の話聞いてたらわかるだろ!? 一之瀬は最低24億PP以上を荒稼ぎするつもりだ!」

「「「「「は?」」」」」

「そこまでいけなくても、もしもほんの少しでも成功すればPPに困らなくなる可能性はあるかもしれない! 交渉と学校の対応次第では生徒会にも協力を要請して」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って! 私、そんなつもりは」

「一之瀬……さん。この戦略、隠さずに共有するほうがいいと思う。一人でできる事には限りがあるからな」

「だから、違うんだってば!」

 

 ここまで隠そうとするとは……。四方、佐倉に続いて一之瀬も一人でやるタイプだったのか。これまでほとんど話した事がなかったから知らなかった。

 そんな感じに言い合いをしていると、こうした場面では珍しく東風谷が口を開いた。

 

「え~と、結局のところ一之瀬さんの目標とか戦略ってなんだったんですか?」

「東風谷さん、聞いてくれて本当にありがとう! 私はいざという時の為にPPを貯めておけば、役に立つ事もあるだろうって思ってただけだよ!」

「まだ言うのか。到底一人でできることじゃないだろうに」

 

 一之瀬はよほど隠しておきたい理由でもあるのか東風谷に聞かれてもまだ白を切っているが、クラス全員でもほぼ無理だろうに一人では確実に無理だ。

 もう一押し説得しようかと思ったその時、僕が一之瀬に注視しすぎて忘れていた人が動き出した。

 

「それで、左京君が想像した一之瀬さんの戦略ってどんなのだったのかなぁ~? 先生、気になるなぁ~」

「ゲゲッ、担任!」

「……それは聞かなかった事にしてあげるから、ぼら、吐いちゃいなさい?」

「いや、他人の戦略内容を勝手に暴露するのはちょっと」

「一之瀬さん、左京君はこう言ってるけど?」

 

 担任が一之瀬に流し目を送ると、もう混乱から立ち直ったのか一之瀬も頷いて口を開いた。

 

「左京君はそう言ってるけど、本当に違うんだよ。だから私にも教えてほしい」

「…………おぉう。もしかして僕って墓穴掘って自分から飛び込んだ?」

「どちらかというと早合点とか早とちりじゃないか?」

「そうですね」

 

 ここまで何度も複数から言われれば、自分が勘違いしていたのでは?と認めるしかなかった。というか冷静になってみると、この誠実で善人オーラを振りまいている一之瀬が、クラスどころか学校以上の規模のプロジェクトを一人で実行しようとする訳がなかった。

 

 

 

 

 現在、僕はさっきまで一之瀬がいた教壇に立って、勘違いの内容をゲロる公開処刑を受けていた。

 

「……銀行作って、信用創造とかを駆使して荒稼ぎする戦略だと思ってました」

「銀行と信用創造?」

 

 幸いなことにクラスの方針には多分影響ないと最初に伝えたら、そのまま帰った者が数名出たので気持ち人数は減っている。少数とはいえ減らすことができた大きな要因は、学級委員会発足と生活態度改善以外の決定事項はゴールデンウィーク明けにもう一度話し合って確定させると一之瀬が補足していたのが大きいだろう。

 だが担任はまだ残ってニヤニヤしながら見てくるし、鸚鵡返ししてくれた一之瀬や残った大多数のクラスメイト達も教室の前の方に集まって、なんか真面目っぽい顔で僕が話してるのを聴いている。

 しかたなく僕は思いつく限りの言葉で主張する。

 

「だって電子マネーみたいなPPを集めるとか、みんなとAクラスで卒業とかって言ってたから、銀行作って信用創造とかで24億以上を荒稼ぎして、B~D全員でAクラスに移籍するつもりだと思うだろ!?」

「「「「「……」」」」」

「前日の小テストにも連邦準備制度なんて出たんだ、そりゃ連想しても仕方ないだろう?」

「「「「「……」」」」」

「それに担任まで教室に居るんだぞ!? 学校との交渉を見据えて、予め話を聞かせておくつもりだとも思うだろ?」

「「「「「……」」」」」

「……あの、せめて、なんか反応ください。バカじゃねーの、とかでもいいので」

「バカじゃねーの」

「あっ、お前、柴田! 僕が窮地だからって何追い討ちかけてんだよ!? 友達だったらこういう時こそ助けろ、このクソイケメンが!」

「オレにクソイケメンなんて言ってくる友達はいないぜ。っと、それは置いといて、そもそも銀行はともかく信用創造って何だよ?」

 

 最初に一之瀬が鸚鵡返ししてくれた以外、誰もが無言なのに見られながら一人で話すのは洒落にならないくらいキツイ。正直、普段やってる先生方やさっきの一之瀬を尊敬するレベル。そんな中で、内容がどうであれ会話を始めてくれた柴田はまさに救いの糸である。

 こう会話になってくれば、もはや日常と変わらない。

 

「信用創造ってのは、簡単に言うと預金を集めて貸し出すことを繰り返すと、世間に循環する金が増える銀行の機能だ」

「それが俺たちの何に関係するんだ?」

「んじゃ、適当な例を書いて説明しようか」

 

 柴田に続いて今度は神崎が質問してくれた。なるべくわかりやすそうな名詞と金額を頭に浮かべて、教壇の後ろにあるボードに書き込んでいく。ちなみにその時、書き込むペンを探してたら一之瀬がスッと渡してくれた。マジで有能秘書とかも似合いそう。

 

 1、四方が一之瀬銀行に1万PPを預金  (預金1万PP)

 2、一之瀬銀行が天文部に5千PP貸し出し(預金1万PP、貸付5千PP)

 3、天文部が四方に部費5千PPを支給  (預金1万PP、貸付5千PP)

 4、四方が一之瀬銀行に5千PPを預金  (預金1万5千PP、貸付5千PP)

 

「この1~4までの流れで何かに気づかないか?」

「……後半、銀行は何もしてないのに預金が増えてる?」

「イエス! 簡単に言えばこれが信用創造という機能で、更に繰り返していけば僕達のPPを何倍にも増やせるって寸法だ」

 

 今度は一之瀬が答えを出してくれた。

 でも伝わって喜ばしい反面、わかりやすさを優先した結果、なにか大事なことが抜けてないか内心ドキがムネムネしてくるな、これ。

 

「尤も、独自通貨であるPPがあるということは、経済的混乱を抑えるためのシステムもあるはずだ。本来、独自通貨とはなるべく避けるべき制度だからな」

「つまりPPの銀行やそれに近い機能を持たせた機関を作るのは難しい?」

「うん、僕はそう思う。ただでさえ現状の学校とSシステムを否定するに等しいのに、最低限その学校に改変を受け入れさせたり、生徒会は勿論、上級生含めた他全クラスやその担任達と交渉したり、システム開発・運用・保守なんかの人材も必要なんだ。他にも越えるべきハードルは多いし、僕もそれほど詳しい訳じゃないから断言できないけど、金融分野特有の問題とかもあったりするかもしれない」

 

 利益だけ見れば凄まじいが、越えるべきハードルが多すぎて労力が半端ないことくらいは僕でもわかる。自分で勘違いして言い出しておいてなんだが、正直入学1ヶ月で始める事業ではないと思う。

 

「……現状は不可能だと思うけど、どうにか利用できたりしないかな?」

「さあ?」

「さあ、ってお前……」

「いや、だって手段がわからないから、一之瀬がぶち上げた時に勘違いして突っ走っちゃった訳で。今、説明したのも担任や一之瀬に聞かれたから、何か参考になればいいな程度だったんだよ。だから聞かれてもわからんとしか答えようがない」

「お前という奴は……本当に」

「あれ~? 私や一之瀬さんのせいにするんだ~……………………ククッ」

 

 一之瀬や四方は何とか利用する方法を考えようとしているようだが、僕は本当にわからなったので正直なところを答えた。こういうのを考えたり実行に移すのは、僕のような凡人ではなく、地位があるお偉いさんや頭の良い奴の仕事だろう。

 あと担任よ、変な部分でだけ反応しないでくれ。もうニヤニヤ見てるのは諦めたけど、人聞きもタイミングも悪いチャチャ入れを生徒にするのは余計に性格悪く見えるぞ。最後に笑ったのも見えてるんだからな。

 そんなことを考えていた僕に、その日の結論を導く質問が飛んできたのは間が悪かったと思うしかなかった。

 

「じゃあ、この時間はなんだったんですか?」

「無駄、かな?」

「は?」

「ヒェッ……月並みだけど、無駄にするかしないかは君達次第……って事にできない?」

 

―――できなかった。

 

 そして僕はクラス会議に混乱をもたらした罰として、学級委員会の罰ゲームを受けることとなった。一之瀬他クラスメイトやほぼ関係ない担任はともかく、四方や東風谷まで笑顔で僕の受ける罰ゲームを決める話し合いに参加していたことに遺憾の意を表したい。

 しかしどうでもいいことだけど、最後に問いかけてきた白波?とかいう女子、怖すぎるだろ。あの「は?」に覇王色が含まれてても僕は驚かないぞ。

 





 人物設定② 作者メモ後半追記

 東風谷 早苗(こちや さなえ)。

 作者メモ
 東方プロジェクトの自機組の一人。原作では守谷神社の現人神だが、現時点では人間の風祝。
 ダイスによって知性と協調性が失われた低テンションな早苗。振りなおそうかとも考えたが、よう○べで見た『サナエさん』という歌動画の後半に出てくる早苗を見てこれはこれでありか、と思い直してしまった。

 学力面では、理系科目は学年トップ、文系科目は赤点少し上という偏った成績。左京と同じく知性がかなり低いが、これで努力が嫌いまで加わると偏った成績で退学の危険性が半端ないので、努力家で真面目だけど融通が利かないという事になった。
 代わりにそこまで発揮しないが、身体能力は同世代どころか高校生世代全体に広げても女子最高クラス。特に反射神経とエイム力では右に出る者はいない。

 とある過去と某二柱(特に実務の方)の影響で、人を遠ざける雰囲気を色濃く持つようになっている風祝。とはいえたいぶ弱体化している上に神聖な雰囲気でもある為に、精神が強かったり神様の気配だとわかる者には大して影響なかったりする。左京は明確な後者で、何気に佐倉が前者寄り。
 Bクラスは四方・一之瀬含め精神耐性が高い者がほぼいない印象な為に本編のようになっていたが、もし他のクラスなら早い段階で誰かから何らかの接触はあったかもしれない。

 二柱は悪い影響だけでなく本編の外で、競泳で左京と四方が溺れるはずのところを少しだけ手助けして救ったり、地味に東風谷と佐倉を仲良くさせていたり、学級委員会で助け舟を出したりと、ささやかだが良い方向の暗躍をしていたりもする。また東方色が強すぎた為に東風谷早苗視点を自粛した結果、二柱が登場することはない(登場しないとは言っていない)。
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