ようキャ   作:麿は星

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 舌の根も乾かぬうちに、ちょっととある作品に影響を受けて思わず半分書き上げてしまったので投稿しました。

 タイトルとは裏腹に、今話の一部は推理物の古めのセオリーをようキャ風に利用した感じになってます。知らなくてもわかるように書いてるつもりですが、もしわからなかったらすいません。



159、ヴァン・ダインの二十則

 

 いつものように一之瀬や神崎の組織した捕獲部隊の隙を突いて教室から逃走し、坂柳さんか低い確率で南雲か1年生の誰かが手配したのか橋本、そして知らない奴らの計3組の監視を撒き、嫌な予感がして何度も行く先を方向転換(おそらくこの待ち伏せ?を仕組んだのはCクラス、龍園だろう。最近たまにある)したりしていた2016年5月27日の金曜日。

 

 少し前にようやく清隆が完治したことで僕の寄り道が減少(負傷してた間に生活周りのフォローをしていたため。何人かに不審がられたが押しきった)し、日常逃走成功率が2~3割から6~7割へと戻ってきた。自分でも手際が良くなってきた実感があるためと、目的地の絞り込みや先回りをされなくなったためだろう。

 また、かなり早めの中間テスト代わりにペア試験があったおかげもあって勉強強化期間もなく、再び平穏な生活が訪れている。

 

 一方、1年生と3年生は週明けに二度目の特別試験だとかで大変そうだ。

 あのペア試験。変にねじ込んだのか僕の学年だけ定期試験がおかしなことになってんじゃね? みたいな疑惑もあるが、そのしわ寄せは僕達2年生だけじゃなく1年生や3年生にも行っているようだ。

 

 尤も、天文部に訪れる他学年の者は誰もが余裕っぽい。

 宝泉や天沢曰く、石上君はクラスのまとめ役?になったらしいのに、先日の天体観測会にも参加していた。いや、宝泉も鬼龍院先輩も普段と変わりなく参加し、週2の通常部活動もそこそこ出てるからマイペースな新入部員達である。天沢は知らないが、部員でもない七瀬さんなんか栄一郎に勉強を教えてもらうとかで断りを入れてきたのに。

 まぁ、他は面倒がなければそれでいいか。

 

 そんなわけで暇がある僕は今、普通の学生では入店に勇気が必要だろう高級っぽいレストランを選び、愛里と放課後デートをしていた。ここなら滅多に邪魔が入らないからだ。

 現在時刻は、暗くなってきた18時半過ぎの華の金曜日(この年だと先取りになるか?)。全校生徒の3分の2が試験勉強してる中でのデートは最高ですなぁ。

 

「ふぃ~。美味かった、牛負けた(馬勝った。意味もなく2026年の干支)。流石は鬼龍院先輩のオススメ店。当たりだったなー、愛里」

「う、うん。美味しかったけど……その、本当にわたしは支払いしなくてよかったの? 結構お高かったけど」

「なに言ってんだ。自分の女のぶんも当たり前のように支払いを持つ。貧乏生活中ならまだしも、これが気分良いんじゃないか」

「じ、自分の女……えへへ」

 

 どうしてもデートでこうする夢の達成はしておきたかったのだ。彼女と出掛けて奢るという夢を。これまでどうも機会がなくて先送りしてたが、本格的に暑くなる前に達成できてよかった。

 代金はそれ相応でも、奢っただけで彼女がいる実感を強く意識できる。これはいいものだ。

 

 しかも金を出したからか、調子に乗って外で肩を抱いても抵抗の素振りすら見せない。それどころか頬を赤らめた愛里が、僕の腕にしがみつくように甘えてくるのもテンションを上げてくる。

 勿論、無防備なことに逆に心配も湧いてはくるが、今は夢の達成と近頃では珍しく誰にも捕まらなかった幸運に感謝して、最近デフォルトになった潜伏生活での束の間の解放感に酔いしれよう。

 

 ただ、愛里のスタイルで暑くなった時期の薄着のままくっつかれると、ちょっと理性と下半身がよろしくなくなる。夏前に自分の女扱い的なデートができたのは幸運だ。

 今の1枚上に羽織る時期でさえ、さりげなく恋人繋ぎに切り替えつつ密着度合いを調整しないと駄目なのに、これ以上愛里に全力を出されると真っ直ぐ『立てなく』なってしまう。

 

 だから部屋でならバッチコイだけど、外だと困るのだ。

 僕はすでに、2人きりで何もしてない時は愛里の胸を揉み続けてしまう『おっぱい中毒』に侵されている。そこから自然と寝床へ雪崩れ込んでいくのはもはや定番で、パブロフの犬的な反射的反応が発生するのだ。

 それを付き合ってから約8ヶ月を経て学習した。ネタで自分を誤魔化すスキルも完備である。

 

「あっ……あっぶねぇ。ちょっとデスとエンカウントしちゃいそうだったぜ☆ あと少しでこんな外なのに抱きしめるところだ。ただでさえ可愛いってのに、思いきり甘えられるとマジで理性が崩壊しそうだ。自重。そう、自重しないと」

「む、夢月君……? また、その……口から考えてることが、ね……」

「てか、いまだにハグやキスだけで即座にやる気になるって、元は大人としてどうよ? 大人と子供、両方の性質を併せ持つ♣ それが僕だ。こどおじとも言う、てことか?」

「こどおじ……とはちょっと違うんじゃないかな。それにしてもヒソカ好きだよね、夢月君……」

「てか、世のカップルはマジでこういう時どうしてんの? 恥ずかしげもなく外でイチャついてる奴らで中腰になってるのって、僕達以外で見たことないんだけど」

「ちゅっ、中腰って! というか、なんでいつまでもそんななの……」

 

 ゆえになんとか自重して自分の衝動を抑えた。

 しかし、ネタだけではもはや足りない。ここは清隆あたりに自分の思考を誘導してクールダウンしよう。相変わらず場にいなくても便利なデコイだ。都合良く使っても全く罪悪感が湧いてこない。

 

「なにより美人は3日で飽きるとかデマ流した奴は誰……また清隆じゃねーか! 半年越えても飽きどころか全然慣れないじゃん! 恋人を次々にとっかえひっかえできるスペック持ちにのみ許される伝説を僕に吹き込むんじゃねぇ! クソイケメン、いい加減にしろっ!」

「聞いてるの───っていうかまた清隆君に“それっぽい”風評被害が!? そういうこと言ってるから『あの』清隆君にまで仕返しされるんだよ、夢月君は!」

 

 愛里もなんかボソボソ言ってるようだが、茹で上がった頭は上手くその言葉を認識してくれない。

 夕陽と薄闇の境界で僕に遠慮なく全力の笑みを向けてくる愛里は、非常に強敵だ。主に社会的に。ましてアイドルスタイルにクラスチェンジしてる今はなおさら。

 

 お互いに向ける好感度ではおそらく僕が勝っていると思われるのに、何故か時に「コイツ、もしかして100点満点で僕のこと好きなんじゃね?」みたいに思わせてくる。そして僕まで100点満点に引き上げようとしている錯覚さえ覚える。

 

 特に愛里がしたい時の仕草がなんとなくわかるようになってからは、ほぼノータイムで誘ってしまう。猿かよって自分でも思うけど、誘ってるかのような潤んだ上目遣いをされると止められない。

 だが、外でそうなったらバカップル的行為をおおっぴらにやりそうで色々ヤバい。自分も手伝ってる愛里のアイドル稼業に、致命的なスキャンダルを作ってどうする。これだけは駄目だ。元大人としての矜持が許せない。

 

「へ、部屋だ」

「え?」

「愛里、可及的速やかに僕の部屋に行こう! 期末テストまではまだあるが、それまでにアイリニウムを貯蓄しておきた──」

 

 しかし僕が見ざる聞かざる言わざるの三猿に、幻の四猿目である『せざる(股間を抑えた猿)』を解除できる最善最速の対応策を愛里に提案しようとした瞬間。

 

「おや、後輩と佐倉愛里か。デートの帰りかな?」

 

 公園近くのレストランから学生寮への帰り道、わざと南方面から遠回りして人気のない畑だらけの道を歩いていたというのに、前方の農具入れ?から人影……鬼龍院先輩が唐突に現れた。

 

「あっ、楓花先輩! お、お久しぶりです」

「ぉ…………あ、ぅ。先輩ぃ……!」

「むぅん? もしや邪魔をしてしまったか?」

「はい、非常に邪魔極まりないタイミングでした「むっ、夢月君!?」───じゃなくて! えっと、こんばんわ?」

「くくっ、こんばんわだ、後輩」

 

 いけない、心を落ち着かせ切り替えねば。心を乱して良いことなどあんまりない。

 だが、恩人でもある友達で親しみも持ってるが、やる気満々で愛里をお持ち帰りする寸前だったので、つい本音で返そうとしてしまった。その意味でも愛里が止めてくれてよかった。でも慌てて手を離したせいで、名残惜しさが半端ない。僕はまだ混乱しているようだ。

 一方、先輩は平常運転のまま数歩近づき、僕(達?)に言葉をかけてきた。

 

「相変わらず君は自分を偽らないな。邪魔をした私が言うのもなんだが、実に嫌そうな顔だ」

 

 どれほど親しみを感じてる人だろうと、今まさに! って時にお預けを食らえばこうなるのもしかたないと思う。

 ただ、恩も多大なこの先輩に八つ当たりするのはありえないので、僕はなんとか「邪魔しやがって」という衝動を抑え込む。今日は衝動を抑えてばっかだな。

 

「……調子に乗って愛里を自分の女呼ばわりしたり、期待満載だっただろう僕の顔を美人な先輩に見られたりしたのが嫌だっただけで、先輩には他意はありません。そう、ド畜生! とふと叫びたくなっただけです」

 

 ちょっと漏れちゃったけど、そのおかけで少し冷静に近づけた。

 

「ふふっ、すまない。後輩もそんな風になるんだなと少し意外ではあったがな」

「はぁ。いいですよ、もう。それで何か僕か愛里に用でも?」

「こんな時間だが、私と茶を飲む時間を貰えないかな?」

 

 それこそ意外だ。

 意外だが……愛里と顔を見合わせ、僕達は自然と首を縦にふっていた。

 

 

 

 東京都高度育成高等学校。

 僕達が住み、日々通っているこの学校の敷地は非常に広い。面積だけでも、小さめな1つの街くらいはあった。

 入学時に降車したバス停から敷地西端にある正門を抜けると、左手に物々しい警備員詰所があり、右手には去年の夏や冬に使った学外へ出向くために必要な大きな駐車場がある。真っ直ぐ伸びた道の脇には桜の木が立ち並び、道なりに進めば2つの校舎と連絡路がすぐ見えるだろう。

 

 なお、校舎の鳥瞰図は、『H』の形をしている。2本の縦棒の片方は、各学年の教室がある6階建ての一般棟で、もう片方の縦棒は4階建ての理科室や視聴覚室、図書室などがある特別棟に分かれている。そして、一般棟と特別棟を繋ぐ2階と3階にある連絡路の横棒で『H』の形というわけだ。

 一般棟に1年生が1階と2階、2年生が3階と4階、3年生が5階と6階に各学年2クラスずつ配置されており、それぞれのクラスには専用の更衣室や自習室などの施設も備え付けられていた。これは入学・進級時のABCD順に配置されており、今のところクラス順位が入れ替わっても自クラスの教室は1年間変わらない。つまり2年Aクラスの僕は、3階の片側が根城という感じである。

 

 本当に鳥瞰すれば一般棟と特別棟から伸びる2本の連絡路、一般棟の先にある円形の体育館も確認できるだろう。

 体育館から北東に点在する建物群は、室内競技などの施設も詰まったプール、武道場などだ。勿論、体育祭で舞台となった各グラウンドやテニスコート、スポーツ系の部室棟なども北寄りに配置されている。

 反対の特別棟の南東に伸びる連絡路の先は、先っぽが丸っこい長方形の図書館だ。それに食堂・職員室・事務室・応接室・理事長室などが固まるコの字形の職員棟もある。あと文化系の茶室や華道で使う花畑・花壇、何かの野外で行うイベントや授業、生徒の貸し出しスペースなども南寄りになっている。

 

 ちなみに敷地の南方面は少し特殊で、車や船舶などの運転免許や一部の資格も取得できたりする。敷地と外に跨がるように併設されたいくつかの試験場にも、許可さえ得れば出入りできる。僕自身も去年の夏前に、原付と水上バイクの免許を取っていた。

 一時的に外と接触するわけだが、こうした一部の資格関係は外部接触禁止だった頃から融通を利かせていたらしい。

 

 敷地の南方面から東方面の大公園のルートには、学生寮や学校施設からだと畑や果樹園を挟んでるし、公園からもパッと見はランニングコースくらいしかない。

 しかし、他にも知る人ぞ知る店(喫茶・芳香も含む)や、大きな溜め池に何故か存在する不定期の朝市みたいなのもあったりする。青娥さんの店と同じく潰れることなく存続しており、雰囲気が僕好みな穴場が意外と多い。敷地内は学生ばかりで、客も来なさそうで儲けも出なさそうなのにも関わらず、である。

 

 僕がこういう場所を知ってるのは、入学直後からしばらく敷地内全域を天体観測スポットを求めて歩き回っていたからだ。

 なんせ、こういうゆったりした1人の時間が趣味の中でも上位にくるくらい好きな僕だ。敷地内一周するだけでもそこそこ時間がかかるので、スケッチしたり店とかを新規開拓したりと楽しみながら、空き時間ができるたびに少しずつ進めていた。僕に絡んで来る奴次第で上下するが、これをしてなかったら僕の逃走確率もおそらく5割を切っていただろう。

 そのため現在では地の利も得ていて、逃走経路や人気の少ない自分好みの場所を即座に選出できるほど役に立っている知識である。

 

 前置きが長くなったが、その知識から結構遅くまで営業している喫茶店の1つを選出し、僕達は寄り道していた。

 隣同士に座った鬼龍院先輩と愛里を対面にして僕は茶を飲んで一息。ちなみに愛里と食後だったらしい先輩は奢ったケーキ付きだ。デートの後であり、テストの臨時収入もあって太っ腹な気分だったからである。

 ああ、僕が1人側に座ってるのは、単純に先輩に愛里を取られたのだ。ずっと彼女を独占するのも悪いので、そうしたい連れで相手が女子なら僕は大抵譲る。さっき自分の女とか言っておいてなんだけど、野郎でなければある程度までは気にならない。

 

 基本的に人気の少ない場所でデートすることが多いからか、最近の愛里は眼鏡を外したり服装に気合いを入れたアイドルスタイル(仮)で来たりする。

 桃色の髪に映える落ち着いた緑系でまとめたガーリー?ファッションは、愛里によく似合う。薄く化粧までしてるので、このまま撮影会もできそうだ。

 

 ファッションに詳しくない僕でも、彼女がしてくる色々な工夫や組み合わせを見ると、つい心のままに「今日も可愛いね!」と、付き合いたてに戻ったかのようなテンションで語彙崩壊してしまうのがいけないのかもしれない。

 そのせいもあってか、アイドル業の隠蔽よりも、承認欲求というか美意識というかを優先する気持ちが高まってきてる気がす……あれ? もしかして僕の反応で遊ばれてる?

 

 と、ともかく僕に浮かんだ新たな疑問は置いておくと、今日もそのアイドルスタイル(仮)で、先輩はこの愛里をメッチャ気に入ってるっぽい。

 そんな目を細めて愛里を見ていた先輩だが、切り出してきたのは妙な話題だった。

 

「ところで後輩。君はヴァン・ダインの二十則というものを知っているかな」

「ヴァン・ダインの二十則? 探偵の捜査も犯人の起こす事件も、合理的で科学的であり空想科学的であってはならない、とかの推理小説のルール的な?」

「そうだ、他にノックスの十戒や……チャンドラーの九命題などもあるそれだ」

「え、十戒と二十則はともかく、九命題もですか?」

「ふふっ、やはりそこに引っ掛かるか」

「そりゃ、共通点なくはないですけど、推理物とハードボイルド系って水と油に近い……あ」

 

 ちなみに氷菓という書籍作品のシリーズで十戒と二十則、九命題が並べられている例もあるにはあるが、それぞれの法則が作られた年代や経緯からしてほぼ別物だ。内容や論点も、十戒と二十則がミステリーのルール、九命題がエンターテイメント寄りであることから違いは明らか。

 ということはつまり。

 

「私は不思議に思っていたんだ。進級直後の花見に入学式前の新入生が来ていたこと。南雲含む生徒会役員共を呼んでいたこと。締めの挨拶を南雲にぶん投げていたこと」

「え、それはどういう……」

「ふむ。佐倉は不自然に感じなかったか? 例えば、後輩が苦手だと公言する生徒会の面々を呼んだことを」

「たしかに、いま考えると……なんで呼んだんだろう? 南雲先輩や朝比奈先輩、一之瀬さんや堀北さんまで、夢月君が苦手な人ほとんど全員いたのに」

 

 う、やっぱりバレてたか。

 

「これら全てに絡む理由がヴァン・ダインの二十則かそれに類するモノなのではないか、と最近思い当たってな。今日は答え合わせをしようと赴いたわけだ」

 

 もうここまで割れてるっぽいなら、素直になろう。別に隠してもないし、知ってるのも僕だけじゃない。知りたいなら答えてあげるが世の情けだろう。

 

「つまり、何らかの明確な目的を持って、あの参加者を集めたのではないか? そしてそれは、直近の2年Dクラスのリーダー変更『にも』繋がっている」

「櫛田さんにも!?」

「私がそう見ているというだけだ。一石何鳥を狙ったのか、はたまた偶然かはわからないがな」

「一石五鳥ですよ。櫛田の件もあわせて」

「そうか、四鳥かと思ったが」

「あれ? じゃあ楓花先輩の考えてることの他に、あと1つ何かがあった……?」

 

 僕が想定してた花見の策と利点を思い返しつつ、話してた中での先輩の見落としが何かをざっと導き出す。

 七瀬さんの歓迎会、櫛田のリーダー就任計画の最終段階仕込み、主要人物の顔合わせ、南雲の遊びに付き合ってガス抜き、清隆の関係者の誘引。計5個で間違いない。

 

 この中で先輩の入手難度が高い情報は誘引……端末も至急されてない頃、1年生全員で160人すら現場(学校)に揃ってないのにあの花見に参加できる新入生は、どこかから事前情報を手に入れられる。もしくは、学校か最低でも生徒会に繋がりがあると見るべき。七瀬さんの歓迎も微妙かもだけど、高確率なのはここか。

 ああ、つまり清隆関係の情報を知らないから先輩には4個に映ったのか。口ぶりからして、おそらくナニかあるとは掴んでるだろうけども。

 合点はいったが言えないことだし、方向性を変えるしかないか。

 

「……あ、もしかして先輩って釘を刺しに?」

 

 ちょうど良い材料も提示されている。

 この中でもヴァン・ダインの二十則や他の古いルールを挙げたのは、僕の大目標が顔合わせにあると見たってことだ。先輩が挙げた3つのルールは前述の通りほぼ一致しないが、唯一の共通点を強調するために先輩がわざわざ並べたのだと僕は思った。

 

 余談だが、比較的新しめな推理物だとこのルールに沿っていない作品は珍しくない。小説でなくても、コ○ンや金○一なんかのいくつかの事件を思えばそれも明白だろう。

 ともかく、これら3種の古いルール唯一の共通点は『読者の知らない情報で解決してはいけない』だ。

 本来は言い出す意味も現実に投影する意味もないここへ導いてくるなら、目的は遠回りな忠告かあるいは。

 

「いいや、違う。私も混ぜてくれないか、という申し出だ」

 

 直近で僕が組み上げてる“夏前”の保険への加入である。

 色々知らないだろう愛里は話についてこれなくてキョトンとしてるが、先輩が加入してくれるのは素直に嬉しい。動機は謎だけども。

 ただ、ニヤリとしたその不敵な笑みは、意外と切実な響きを僕に感じさせた。退屈だった、とかもあるんだろうか。

 

「別に構いませんけど、ハイリスクローリターンになるかもしれませんよ?」

「……後輩。君は『探偵』にはなれないな。行動力と周到さの割には正直すぎる。『作家』か『助手』……あるいは危険性皆無な『黒幕』あたりが適当と言うべきか」

 

 でも唐突になんだ? 言ってることはともかく、先輩が僕に向けているのは───敬意? いや、まさか羨望か? なんでこの短い言葉にそんなモノを感じる? そもそもそんな会話の流れじゃなかったような。

 感知能力の誤作動じゃなければ、何をもって先輩がその評価を下したかわからないが、僕にそれら4つは過大ではなかろうか。

 

「黒幕ってそんな大袈裟な。清隆じゃあるまいし」

「いやいや、以前に君の作ったゲームでは後輩が黒幕だっただろう? それに実際ハマり役かもしれないぞ? 主演女優の最有力候補もここにいるしな」

「わたし?」

 

 いきなり先輩に水を向けられて戸惑う愛里。

 まぁ、僕が見る愛里の適性も主人公属性だから、本人がやる気になれば可能かもしれないが。

 てか、先輩はこれを言うために僕と愛里が揃ってる状況で声をかけてきた? ゲームだと、たしかに僕が黒幕で、愛里が主演の配役だったし。なんて傍迷惑な。

 でもここを掘り下げても時間を無駄にするので、話を戻す。

 

「なるほど。後輩が動いたのは佐倉のためでもあるのか。お人好し、というわけでもなさそうだが、なんというか……」

 

 戻そうとしたら、先輩はなんか勝手に納得?していた。これだから天才は。

 愛里の方に視線をやりながらそれを言うって、バレちゃいけない部分までバレてる証明なんだけどそれは。しかもおそらく確信にまで至っている。

 だいたいの仕込みが終わった後とはいえ、次の本番前にこうなるかー。

 天文部関係者の察知能力が高すぎる。

 てか、どこで露見した? 先輩や四方、高円寺は何故か事後のいくつかのタイミングでネタバラシを求めてきたりするが、なんで大して話してないのに深くまで察してるんだよ。

 

 去年の夏あたりからの天文部グループや櫛田がリーダーになるなどの仕込みは、櫛田がクラスを統率してくれると、愛里や高円寺なんかが窮地に陥る可能性をほぼ失くせる、ってだけの理由だから別に隠してるつもりはなかったけども。先輩もそれを阻んでやる、みたいな感じじゃないし。

 

 ただこの日、先輩はそれ以上は深く踏み込んで来ず、僕からも踏み込まなかったので愛里も理解できるカメラの話に終始した。

 フィルムカメラ、デジカメ、スマホそれぞれの利点や出品するならどんなコンテストが良さそうなど、僕も愛里も先輩も全員の視点が違ってなかなか面白い話し合いだった。

 

……桜プロダクションの大口スポンサーのお孫さんで出資者でもあり、しかも多少なりと政財界に顔まで利く天才が「うちの会社に入社したい」的な無茶を言い出してこなくてよかった。

 自意識過剰かもだけど、3年生なのにわざわざ天文部の新入部員になったあたり、どこか繋がりを強化しておきたい、みたいな意向を先輩から感じたのだ。失礼ながら、いわば勧誘の逆バージョンを想像してた。

 何故か小さな神様も話しかけてくる先輩の近くにいるのをよく見かけるようになったし、近頃の彼女らはいったい何を考えているのだろう?

 





 学内地理に関しては、完全に独自設定です。
 もし原作と違っても、ようキャではこうなってるってことで1つお願いします。
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