綾小路・高円寺・須藤とのバスケ対決回。
後日談(というか、2年生編・1~2巻?)はこれでフィナーレ。なんとか区切りまで書ききれてよかった。
品種改良というものがある。
意外に感じるかもしれないが、この技術というかなんというかは古くから伝わっている。
どういうことかというと、例えばそもそも植物なんかは人間に食べられるために育っているわけではない。食べ物というのは人間の視点での話だ。
植物に限らず、生物は種を保存するために交配して代を重ねるわけで、これは結婚して子供を残す人間と同じ。
食べて美味しい植物というのは、人間や動物を介して種を運ばせる種類である。そして毒があるものは、自らの子孫を捕食者から守るために毒を有する理屈だ。また虫を媒体にする植物もよく知られているだろう。
豆とかも野生のものは種ができると莢が弾けて散って種を落としてしまうが、栽培しているものは収穫し易く莢に収まったままだ。これは豆にとっては頭の悪い馬鹿な種だが、しかし人間にとっては都合のいい良い品種となる。
植物も人間のように個性があって、時に天才や馬鹿が生まれるってことだ。いわゆる突然変異だな。
ただ、種を保存するには馬鹿な種だが、反対に育てて食べようとしている人間にとっては優秀な種ということになる。
だから簡単に説明すると、それらの愛すべき馬鹿や天才を意図的に取捨選択して、何らかの手法で組み合わせて発生させていくのが品種改良だ。
人間も同じだが、子は親に似ることが多いため、更にその子供をまた別の特性を持った近似種(微妙に例からズレるが、馬とロバの子供・ラバとか)などの馬鹿と掛け合わせて、より強靭に、より美味しく、より育てやすく、より多くの収穫を望める種を作り育てていけば作物や都合の良い家畜は増える。ラバとかみたいに子供ができない例はあるけども。
ともあれ、品種改良とはこのような理屈で成り立っているので、近代の科学的な品種改良を含めなければ、古くから使われている技術なのだ。
さて、本題だが。
この品種改良、僕の知人友人に当てはめていくと興味深くもあったりする。
僕の主観だと、原種と思われる天才が高円寺や愛里、四方、一之瀬。科学的品種改良の天才が鬼龍院先輩や清隆、坂柳さん、天沢、堀北学。歴史的品種改良の天才が早苗や椎名、龍園、南雲。
……わかりやすくあえて全てひっくるめて天才と分類したが、おかしい部分がないだろうか?
そう───いくらなんでも天才が多すぎるのである!
学の世代を含めた4学年・全校生徒600人くらいの中のたった数世代で、絞りに絞って13人。しかも櫛田や堀北さんのような異質な思考を持つ者や月城さんとかの大人、石上君・宝泉など詳しく知らないから外した者を含めたら、おそらく更に増える。
なにより何故か僕と同学年に『特別』な属性持ちの奴が偏って滅茶苦茶多い。
また才能とか能力とは少し違うが、一之瀬の髪色であるピンクブロンドなんて世界的にも非常に稀で、限られた金髪の割合の中でも更に限られたおおよそ7,700人に1人程度(世界の全人口の約0.01%以下)だぞ。本人に聞いたが、ハーフとかでなく純正日本人なのにだ。
いや、なに普通な顔して同級生に混ざってんだよ。稀少生物の絶滅危惧種に、サラッと外見的な稀少価値を重ねるとか属性盛りすぎだろ。生物学を軽く調べててこれを知った時は、つい1人でツッコんじゃったわ。
愛里や早苗なんて更におかしい。
人によっては黒にも見える地毛って、どういう理屈なんだよ。それ以前に真ピンクや緑の髪は、どんだけ調べても出てこないし。てか、愛里の下の毛は普通に黒だったから意味もなく採取を頼みそうになった。
染めてないのに異質な髪色の奴らは、全員が遺伝子レベルで生物学に喧嘩売ってんの? メンデルやペーボに謝ってこい。
もしかして世界に数十人しかいない「黄金の血」である61種類あるRh抗原を一つも持たない血液型Rh nullの持ち主とかも、この学校にいるんじゃないだろうな。本当にいても驚かないかもしれないが。
で、えらく遠回りしたが、結局僕が何を言いたいのかというとだ。
「───強すぎんだろっ、コイツら!!」
これに尽きた。
次の日、登校すると一之瀬達に囲まれて、連日のように別クラスへ乗り込んで坂柳さんや清隆にやったことや、置いて帰ったこととかを説教された。彼女達から一之瀬にクレームが入ったのかもしれない。
しかし、勝手はすれど悪いことをしたわけじゃないし、自らを改める必要性も薄く感じられたので、スルーして考え事を煮詰めていく。
先月の対早苗戦でコツでも掴んだのか、今では僕は一之瀬など説教上級者からさえスルーを可能にした。集中しきることができるなら、周囲の音を聞こえなくするのも可能とは、四方は有益な技能ばかりを教えてくれる。
それにもう『一之瀬』に必要なフォローは僕にはない。ネタ切れだ。
個人的に危惧していた彼女の信者は、もはやただの友達になっているはずだ。少なくともしばらくは盲信することもないだろう。
そのためにカリスマを目減りさせ、学年末前に一之瀬が引きこもったあたりから彼女がやるべきことを連続して横取りしたのだ。ここから信仰の域に到達するなら、元々の素養が高い白波や他数名程度くらいか。
高校生に言うことじゃないから基本は黙ってるが、特に真面目で優しいリーダーや統率者に対してやっては駄目な言動というものがある。
本人が言う以上の綺麗事を並べたり、理想を称賛したり……あなたの為に力を使う、といった自ら下に付こうとすることだ。
一見だと綺麗な話にも見えるこれが何故いけないのか。わからない奴もいるかもしれないから、簡潔にこの思想っぽいモノの裏に存在する大人の世界の本音を述べよう。
───お前(リーダー)に全責任を押し付けてやるから、負けたり失敗したら許さない、である。
基本的に善人な奴らまでこれを無自覚にやって、お偉いさんは意図して責任を押し付けるよう誘導している。実に無責任で醜く筋が通らない上、美学も矜持も感じない裏だと思わないか?
尤も、こういう性質を持つ奴が全員こんな裏があるとは限らない。
例えば、戸塚は仮に葛城が負けても失敗しても裏切るような奴じゃない確信がある。そこまで接触してないが、アルベルトや石崎も龍園を切り捨てる真似は絶対にない。白波だって1年以上クラスメイトやってれば地獄まで一之瀬に付いていくだろう、とわかる。わかりたくなかったけど。
逆もまたしかりで、葛城も龍園も一之瀬も、真の意味で仲間への裏切りはよほどのことがないとしないはずだ。
だが、彼らは例外に近いからそうなのだ。この学校だと何人かいるが、こんな奴は社会人になってもそういない。
そして、あくまで僕の印象だと前置きした上でこうなる可能性が高いと思われる奴らの代表格は、身近なら清隆と神崎(神崎だけはいまだに疑いレベルだが)、担任の星之宮先生もそうか。知り合い程度の大して知らない関係の奴なら平田や軽井沢さん、坂柳さん、橋本、桐山、茶柱先生。
だから、彼ら彼女らから誰かを認められたり持ち上げるような不自然な言動があった時は要注意だ。不都合、もしくは劣勢など『本人は』一時的に助かる場合にされても、あまり信用しない方がいい。
経験上、敵に回るとかじゃなく、双方の性格や意思に関わらず不和を周囲に撒き散らす事例が多いのだ。先生達の不穏な動きや櫛田がDクラスリーダーになる前の平田は、まさにこれに当てはまるだろう。
また、この中では特に親しい清隆は、ある意味で鏡のような性質があり、負の感情や利害関係を向けると機械のごとき精密さで数値化?し、過不足なく向けた同種・同量のモノを返してくる。ただ、恨みつらみを軽く流してくれるって点では流し雛でもいいかもしれない。
そう、他にも理由はあるが、栄一郎や七瀬さんが清隆に思うところを持ち続けているといつか排除されかねないと思ったのが、このメンバーを強引に巻き込んだ最大の理由である。
これも『俺』が社会人だった頃の感覚と経験だが、リストラやハラスメント、サークルクラッシャーの前兆は、やり方に違いはあれど大抵こういう人為的品種改良をするかのような匂いの奴らから発せられていた。
そしてなにより僕は、それを友達がするのもされるのも大嫌いだ。まして、気に入ったり世話になった奴が不快な目に遭いそうなら、多少の手間をかけてもあらかじめ手を打っておく。
日々の平穏と安寧は、こうした根回しが支えてくれていると信じるのが僕の哲学である。
命名決闘当日の6月22日水曜。
僕は栄一郎や七瀬さんとともに、対戦相手である清隆・高円寺・須藤の3人と体育館で対峙していた。須藤のみバスケ部のユニフォームと思われる服装だが、他5人はジャージである。
試合開始の合図が響き、初撃に栄一郎を吹き飛ばす須藤のダンクが炸裂したのを皮切りに、高円寺は七瀬さんのマークをないものとするかのような綺麗なシュートを決め、桁外れの速度とパワーでコート内を移動し、まるでボールが吸い込まれて行くかのような清隆に僕は追いつけなかった。
軽く当たったバスケの相手戦力をだいたい察した僕は、わかりきっていたことを全力で叫んだ。
「───強すぎんだろっ、コイツら!!」
こんなにスペック差があったのか。てか、あのね、僕様わかっちゃうんだよ? これ、駄目なヤツです。こういう時は別方向の視点から打開策を練るのが定石なんです、と。
それでもなんだかんだで、清隆が打診したバスケ勝負を受けてくれたので、何気に厄介な『派手な宣伝』という条件は、この時点でクリアできた。
宣伝自体についても、その場で命名決闘申し込みを見ていた櫛田と一之瀬→南雲が主に拡散してくれたので、僕は何もしなくて済んでいる。
チームメンバーも栄一郎と七瀬さんが身体能力強者で経験者でもあるため、戦略・戦術を構築し流れを操れば清隆にも多少は対抗可能だろう。
要領を学習されるまでは、ボールを手にしてもプロップフライ(とあるゲームのモノを利用する飛行・高速移動法)とか物理エンジンの挙動利用的なRTA染みたあからさまなチートは使ってこないはずだ。美学を理解する高円寺はやれてもやらないと思うが、清隆ならいつか現実に実用化してくるかもしれないと思ってる。
逆に言うと、その程度の予測しかなかった。ほぼスペックだけで対抗できないなんてわからないって。
試合の双方のメンバーはすでに述べたようにだいたい予想通りで、僕・栄一郎・七瀬さんの3人VS清隆・高円寺・須藤の3人。
外野に目を向ければ、南雲達生徒会の面々が解説・実況や点数係?っぽい感じで集まって(てか、一之瀬と堀北さん、葛城じゃん。アイツら暇なの?)たり、僕の知ってる同級生もそれなりにいる。
ただ、誰かさんが根回しかなんかしたのか、いやに見学者が多く、しかも1年生クラスのトップ付近は全員が来ているという。僕と関係がある石上君や宝泉、天沢も見えるし、先日知ったばかりの宇都宮や波田野もいる。
このように、特に多いのは1年生らしい、という情報は一之瀬が試合前に教えてくれたので、おそらく間違いないだろう。あの聖女擬きは、情報戦とかはやらない癖に情報精度は櫛田並みかそれ以上だ。
……ふむ。ふむふむ。えっと、あれ?
ふと我が身を振り返って思い立ち、僕はおもむろにタイムと宣言して動きを止めた。
周囲を意図して忘れ、目を一瞬だけ閉じて開き、手のひらに視線を集中しながら腕ごと上に向かって掲げる。自己流の自己暗示のようなものだ。
そのまま不退転の決意を持って体育館の天井を見上げる。
「しゃ、社長……?」
威風堂々たる英雄を意識し、誰を憚ることなく己の意思を貫く覚悟。
決して折れず、曲がらず、壊れない不屈の精神を身に宿すのだ。
知恵と力と勇気を全解放して望む未来を切り拓くのならば、いかなる力にも屈してはならない。
「あ、あの……左京、先輩? いきなりどうし」
衆人環視の中で一身に視線を集めたことを意識しながらスルーしつつ、僕は僕自身の基本方針を声高らかに宣言する。
「───関わりたくないでごさる! 絶対に関わりたくないでごさる!」
聞くだけなら意味わからないだろうこれが、どんな風に他人に聞こえたかは想像の域を出ない。あるいはお相手や自チームへの言葉に思われたかもしれない。
どうでもいい他人全般について言っただけなのでそのつもりはないが、もしそう聞こえてたらごめん、栄一郎と七瀬さん、清隆達。
「「「「「……」」」」」
試合途中でぶちかました僕の誇り高き宣言の後、水を打ったかのような静けさが現出した体育館には空白の時が挿入されていた。そして僕の内心にも空白が挿入されたことで、普段通りの自分に切り替えることができた。
なにやら物言いたげな視線も突き刺さってくるが、読心術など使えない凡人なのだから口に出してくれないとわからない。よってまるっと無視した。
よし、スッキリ。まるで清流で泳いだかのような爽やかな現実逃避を終え、僕は現実的思考へと回帰する。
それはいい……僕はこれでいいのだが(決して良くはないが)。
問題は、栄一郎と七瀬さんだ。理由あってとはいえ、こんな遊びの試合に巻き込んで相対的に無様に見える試合展開にしたら、先々で少し不味いのではなかろうか。今更ながらオマケの精神耐性も高いからって理由で選んで悪かった気がしてきた。
敗北感は僕の親しき友のようなモノだが、こんな“学生時代は”勝ち組っぽい2人にはキツいかもしれない。
今更だが、栄一郎は以前も僕が標的だった噂攻撃がキツそうだったし、七瀬さんは女子だ。もしかして僕は無茶振りを彼らに強いているのではなかろうか。
それに、いくら覚えがあると本人達が言ってようと、まず現役バスケ部員の須藤。どのくらい本気を出すかは未知数ながら、計り知れないポテンシャルを持つ清隆と高円寺。
栄一郎や七瀬さんが、この3人(須藤はまだしも)を相手に匹敵できるだけの武器を持っている想像が僕にはできない。勿論、言うまでもなく僕は体育の時間のみのバスケ経験なので、庶民(レイアップ)シュートがなんか不思議とほぼ必中なこと以外は人並みだろう。
いや、仮に須藤を抜いて清隆と高円寺のタッグってだけでも、おそらく学内…どころか同世代屈指だろうから何で挑もうと同じだったかもしれないが、あまりにぼろ負けな姿を衆目に晒すのは忍びなく思えてきたのだ。
なので、単純な強さではもう競わない。スペックやバスケのスキル・身体能力ではなく、少し特殊な勝負のやり方で対抗してみることにする。
精神や知性が成熟してる奴だと通じない可能性もあるが、この場で『そのレベル』にバフ込みで至ることができるのは、おそらく僕と高円寺だけだ。そして参加はしてくれたものの、高円寺は勝ち負けがどうでもいい遊びの試合程度で本気になる奴じゃない。アイツが興味惹かれるほどの相手かナニかがなければ、だけども。
つまり、小さくとも蟻の一穴は見えている。幸い、ウォーミングアップで見た栄一郎や七瀬さんのシュート精度は高めだったから、最低限の条件も揃っている。
序盤は、得点を犠牲にして相手のパターンを読み、自分達のパターンを構築。ここから勝負を始めるのが妥当か。
おそらく、そこを突く以外の勝ち筋はないだろう。
と、試合前には想定していたわけなのだが。
やはり天才……というべきか。ほとんどチームの体を為してないのに、個人能力だけで強すぎる。
結果、僕達が5点、清隆達が10点。ダブルスコアが試合開始から僅か数分で付いていた。ちなみにこの程度で済んでいるのは、七瀬さんのまぐれっぽいスリーポイントシュートと、ここにきてようやく自分と相手の戦力分析の大まかな把握が完了したのもあって、栄一郎を得点圏へ配置できたからだ。
なので流れを変えるためのタイム(これは正式な試合じゃないし、相手の好意によって成り立つ実質ただの作戦会議である)を申し出たのだ。
考え事がまとまった僕は、無表情とはまた違う凪いだ表情でボーッとしてる2人に謝りながら、彼らにも組み上げた方針を伝えておく。
「うん。代償に勢いと観衆の声援では完璧に圧倒されてるな。不思議と今は静かだけど。でも相手が強いとはいえ、これからはツラい状況をなんとか抑えられる、といいな。仕事遅くてごめん、栄一郎と七瀬さん」
「ぉ……。こ、ここからの巻き返しなんてできるんですか社長。多分、向こうは須藤君以外はまだ本気にもなってませんよ。僕には彼らの底が全く見えないです」
「ぇ…………。い、いいいいえ? エ、エイイチロー。逆にそれが左京先輩の付け目なんじゃないですかね。油断してるならまだ」
「違うよ。そう見えると思うけど、清隆も高円寺も油断なんて欠片もしてない。あれは余裕ってヤツだ。須藤はノリに乗ってるけどな」
苦しい時こそ笑え。信じて信じさせろ。
なんか2人とも態度が変だし、今ならイケるかもしれない。
「───だから、ここからは真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす」
僕は普通の凡人、左京夢月だ。
自分にできないなら、できる奴ができる道を整えろ。
それだけが唯一僕が拓くことのできる道筋である。
「ぶ、ぶっ飛ばす?」
「それは言葉のあやだ。プレイでそうするわけじゃない」
「正攻法、ってことですか?」
「どうだろうな、それはわからない。
……具体的には、僕がボール回しの基点になるように動く。そして僕からのパスが通ったら考える前に即シュート。基本方針はシンプルにこれで行こう。あとはアドリブでやりながらパターンを作ってくわ。勝敗は実力やスペックもさることながら、流れの把握と時の運も重要な要素の一つだ。追い上げるにはこれしかない」
これは、相手がチームプレイできないメンバーなのを良いことに、個人技対決っぽく見せかけつつ、栄一郎と七瀬さんのコンビを底上げするようフォローの一手だ。僕をそこへ噛み合うように配置すれば、相乗効果が見込める。
後れ馳せながら、これ以上離されないようにしつつ、実力勝負じゃなく試合の流れを掌握する即席プラン。現状だと適任がいないので、しかたなく僕が指揮官の真似事をして演出しよう。
卵顔でも軍服でもドイツ語すらもほぼ使えないが、今の僕はPandora's Actor(触れるとアイタタな役者)だ。うわ~。だっさいわ~。とか言われないよう祈っておく。
戦略や戦術、実力などでは競わない。
最初からそれでは敵わないとわかってるし、『勝負になる流れ』を構築することだけを考えて材料を集めていた僕なら、清隆と高円寺が先読みする『後ろ』から流れごと自分にボールを集めるのも……まぁ半々くらいの確率で可能だ。
自分でこう言うのはなんだが、栄一郎や七瀬さんはかなり僕に好意的だし、『理由はどうあれ』全力を尽くしてくれる性質なのもここまでで理解した。なんとなくこの場の”プレイヤー全員“がどう動くかは、わかるようになってきたしな。
「で、ですが社長。バスケ部のエースである須藤君は勿論……対峙して改めて思いました。綾小路君と高円寺君のとんでもない身体スペックと判断力です。正直、最初は翼共々お役に立てるんじゃないかと自信あったんですが、今は見えないくらいに高い壁にどう立ち向かえばいいか……」
「それは私もです。なにより私では相手の3人とも身長差がどうしようもありません。パスもシュートも簡単に上を通されてしまって」
「ふ~む。勝ち目が見えなくなったと」
「そこまでは言いませんが」
まぁ、ここまで僕を含めてほとんど完璧に抑え込まれてる。自信を失いかけてもしかたないか。妙に混乱してるようにも見えるし、ここまで深刻に考える心理もなんとなく読める。
でも、栄一郎にも七瀬さんにもこんな顔させるために試合に呼んだわけじゃない。清隆に何か吹っ掛けそうな雰囲気を散らすのが、今回2人を呼んだ理由だ。
それなら、思いきり楽しんで細かいことは吹き飛ばしてしまうのが良策だろう。そのために、少し恥ずかしいけど更なる精神的な打開の一手を打ち込む。
「ふっ、ふははははっ!! では、こうしよう!」
「さ、左京先…輩?」
「───身体スペックや才能の差が、戦力の決定的差ではないことを今ここで教えてやる!!」
こういう時、赤い人の台詞は輝くよな。
あの人、戦略や政治など長期的思考の適性は皆無だけど、戦術や技能など短期的な能力適性はピカ一すぎる。
あっ、だから短時間の戦場で『のみ』輝くってことで赤い彗星……これは流石に邪推か。関係ないし、忘れとこう。
それよりも栄一郎と七瀬さんを立て直すのが先決だ。
向こうがチームワークを捨ててスペック重視の個人技で来るなら、こちらは各個人をできるだけ万全に近い状態に持っていき、その上で限界を越えてもらえる流れを作ればいい。ついでに清隆の最優スキルを劣化コピーしたデコイで僕に注目を集めてな。
「なあ! 聞こえてるか!? お前らにも言ってんだぞ!! 清隆! 六助! 須藤!」
僕が言い放った言葉に対して、須藤と観衆が真っ先に、清隆はゆっくりと、高円寺の楽しげな視線が最後に。
ただ一人、僕を射抜く。
「天才どもが! お前らに相応しい方向性は決まった!」
てか、敵意ではないのはわかるけど……怖ぇえ!
天才ってこういうとこあるよな。なんというか勝負処で煽ったり対峙してると奇妙な迫力を醸す。
同じ天才級でも、現在は対峙してない早苗や四方なんかは興奮こそしてるっぽくても怖くはない。
せいぜい南雲と天沢がスッゲー笑顔で『清隆』と僕に視線を向けているのが不気味なくらいだ。あと……あの見覚えない男子と、宇都宮の近くにいる女子は1年生か? なんとも言い難い雰囲気と表情を浮かべてるのが、微妙に気になるかな。
「それによ……凡人だって必死になった時の悪足掻きは、馬鹿にできないもんだぜ!? 乗り越えられるのが怖くなけりゃ待ち受けてみな!
───この僕が全力で進撃してやろう!! ここから追い上げてやるから覚悟しやがれ!!」
ま、いいや。友達以外は気にならないけど、無駄に期待を裏切るのは美学に欠ける。それに仮にもチームメイトが沈んでるのは落ち着かない。失礼で不快に思われるかもしれないが、最低限していた遠慮も意図して取り払う。
後味を少しでもよくするには、細かいことを忘れて全ブッパが一番である。
「ってことだから、栄一郎と『七瀬』。
───こんなことを吹いたんだから、もう後戻りはできないぞ? 僕が借りを作った時は限界までこき使うから、これからも僕と付き合い続ける気があるなら覚えとけ! つまらないことなど考えてる暇はないってな! ふははははっ!! おもしろきこともなき世をおもしろく、すみなすものは心なりけり、だ!」
ふむ。表情を見る限り、栄一郎は持ち直しかけ、七瀬はあとひと押しってとこか。
「高杉晋作と野村望東尼、ですか。たしかに負けることを考えて試合する人なんて……いませんよね」
「い、いやいやいや!! 私はあの人達に勝てるビジョンが浮かばな」
よろしい。ならば、僕の取るべき戦術は決まった。
僕のカリスマは紛い物だが、あのノリと勢いだけは凄まじい言葉を合成して大盤振る舞いの士気高揚だ。勢いに勢いを重ねて、彼女達を押さえつけているつまらない思考を一時的に払拭する。
「うるせぇ、楽しもう!! 頭空っぽにして夢でも詰め込んどけ“七瀬翼”!! そっちの方が断然楽しい!!」
馴れ馴れしくはあっても、ルフィと悟空なら肖っても支障は出ないだろう。陽キャ全開な体育会系っぽくて恥ずかしく、どうも僕の趣味にも合わないけど、いつかやったパリピ左京よりは後の精神的ダメージもだいぶマシだ。
「……ははっ。うるせぇ、なんて発破、初めて聞きましたよ社長」
「…………うふっ。酷い言葉……だけど、なんか不思議となんとかなる気がしてきました。
───わかりました! 私も乗りましょう!」
「ふぅ、そうですね。翼もやる気が出てきたみたいですし───僕も改めて精一杯頑張らせてもらいます!!」
「よっしゃ! いっちょブワァ~っと行ってみよう!! わ~はっはっはっは!!」
更に追加で無責任艦長もだ。
……うん。士気高揚の当て馬に利用したせいか、戦力の逐次投入に等しい改変愚策をもっともらしくぶち上げて仲間を乗せたせいか、清隆達3人も改めて真剣な目になったのが微妙に怖いので、隠し味に僕自身の沈静化をひとつまみ。
てか、僕達の作戦会議が終わるまで待ってくれてたというのに、ノリと勢いで突き進もうって作戦が気に入らなかったのだろうか。
強い視線を向けるなよ、怖いだろ。
表面だけでも不敵に笑い飛ばさなくては自分の気持ちが負けてしまう。意地でもハイテンションは崩せない。
あと七瀬に馴れ馴れしくしたのは後で謝るので、栄一郎は今だけ見逃して? 別に睨んでるとかじゃないけども。
ま、どうあっても僕個人で崩せないなら、僕以外で勝てる状況を作る。俯瞰視点をイメージして、各人の配置と特性を加味した上で自分を含めた全員の流れを見極め、良さげな着地点への道筋を整えるのだ。
いつも通りそれしか僕にできないのは、向こうも承知の上だろう。
でも、あっれぇ? 当初は、勝敗とか月城さんの出した条件とかより、栄一郎や七瀬のガス抜き目的が重要だったはずなのに、なんで本気であんなある意味ドリームチーム相手に勝ちを狙うことになったんだ? コレガワカラナイ。
その後の試合展開は、追いついては引き離されるイタチごっこになった。
マンツーマンの相手が入れ替わるから的が絞れなかった開始当初と違い、僕には清隆が、栄一郎には須藤が、七瀬には高円寺がピッタリ張り付く戦術。
ゆえに、やはり『実力以外の』力押しがこの場合ではふさわしい。
まず僕のシュートが入らないとすでに見切っている清隆の横を、栄一郎の方を見つつ視線誘導を駆使して無理矢理突破。唯一、僕の成功率が高いレイアップで1ゴール返す。
「僕なら容易く止められると思ったか清隆? 余裕を見せるには少し早かったようだな」
「コノヤロウ……」
「なにやってんだ綾小路! 油断してんじゃねえ!」
油断や余裕は置いても失敗確率は高かったが、僕が直接攻撃に参加する選択肢が清隆に浮かぶようにするのには意味がある。パス一辺倒だと戦術の幅が狭くなるからな。
流れを引き寄せるには、まず指揮官役の僕を『使える駒』に見せられなくては話にならない。
次に防御側になった時、清隆からフェイクもないただの速攻で点を返されたわけだが、僕に出し抜かれる可能性が頭をよぎるようにはできたはずだ。パスだけに狙いを絞る序盤戦の“学習”は、もう信用してこないだろう。
なので、僕は僅かに拓かれた道を信用して七瀬へパスを出す。
「行きます! エイイチロー、リバウンドお願いします!」
「ほう? なかなか動きが速いガールだねぇ」
高円寺がマークに張り付く前に、ボールが渡ってすぐにシュートする七瀬。それでもボールにギリギリ手が届きそうだった事実は、高円寺の身体能力と瞬発力のヤバさを示しているが、なんとかシュート自体はできた。
あとはひたすら祈るだけだ。
───尤も、試合の勝機を引き寄せる僕達のパターン作りは、なんとなく完成形近くまで至っている気がする。
パサリと軽い音がして、ボールがゴールを突き抜けた。当たり前のように七瀬のシュートが成功したのだ。栄一郎のリバウンドも僕のフォローやフェイクも必要なかった。
やはり七瀬は気分が乗ると、動きの精密さが格段に向上する。キャットルーキーでいうと、雄根タイプってヤツか。
……いや、テンションで発揮されるパフォーマンスが変化するタイプって、改めて考えるとどういうことなんだ? いや、謎生物の生態を真面目に考える事自体がおかしいのか。
しかし、もちろん七瀬では単純に男女の性差と身体能力を覆す土台がない。自分で取り返すと宣言して、清隆からボールをパスされた高円寺にあっさり決められてしまった。
ただ、今度は年下の彼女が目の前で活躍するのを見ていた栄一郎が黙ってはいない。
「社長! パスお願いします!」
「野郎!! やらせっかよっ!」
ゴール下にいた栄一郎にパスを求められ、ボールを送る。その際、今の意識が分散してる清隆がどちらのパスカットに動くか予測するなら、栄一郎方面の確率の方を重視する圧倒的に高い。
なぜなら、かろうじて対抗できている栄一郎と須藤、ほとんど抑え込まれている『女子の』七瀬と高円寺なら、どちらが有利なマッチアップか明白だからだ。
だからこそ僕は栄一郎を常に視界に入れつつ、再び七瀬へパスを出す。高い予測精度を持つ清隆視点で、低確率な上にほぼ直角方向に違うこの選択なら、流石の清隆でも一瞬対応は遅れる。
清隆はポテンシャルは桁違いでも正式な試合や遊びの経験が、おそらくあまりない。推測と違わず、このマーク外しを兼ねたフェイクを見破れなかった。
バスケで素人同士でも、経験値だけは勝る僕ならやってやれないことはない。
何度も通じる手じゃないが、僕は凡人であるがゆえに手を変え品を変える手札は潤沢だ。それこそ応用すれば、バリエーションは無数に作り出せる。
この試合中くらいではバリエーションも枯渇までいかないだろう。
また栄一郎にパスを要求されといて、なに七瀬に回してんだよってなる可能性はあった。それに僕がパスしたらすぐシュートとも言ってある。
だが、彼女の最も信頼する栄一郎の発言をスルーする七瀬ではない。
だから七瀬を経由させたいって僕の意図は伝わるはず。
その想定通りに七瀬をマークする高円寺の足を掠めながら、バウンドしつつもなんとかパス回しが通る。
ちなみに足を掠めたのは、相手方に長身の奴しかいないので、なるべくパスは下方を狙うように試合前に言ってあったからだ。それとおそらく、七瀬をマークする高円寺も無粋な邪魔を慎んだのだと思われる。
そして首尾良くボールを受け取った栄一郎が、ゴール下で速やかにシュート態勢に入る。が、バスケに絶対の自信を持つだろう須藤も黙ってやられはしないだろう。
それでも栄一郎と須藤は、ほぼ同時にジャンプした。
ただ、須藤の誤算は栄一郎がジャンプした方向だ。微妙に斜め後方にジャンプしながらシュートする……えっと、フェイダウェイ、だったかな? よく知らんけど。
これも見事に決まった。
「やった! なんとなく今なら入る気がしたのは当たりだった!」
「うっそだろ、おい! 松雄っつったかお前!? バスケ部でもない奴がなんでそんなシュート打てるんだよ! 今からでもバスケ部に入部しろよお前!?」
「生徒会手伝いに入ってるので部活はちょっと」
結果、なんかバスケ部に勧誘されだしたが。
そんな勧誘をしてたのに、やっぱり勝負事に真剣な須藤は荒っぽさを多分に感じる豪快な速攻を見せ、またもや栄一郎を吹き飛ばしながらダンクを決めた。
ちなみに、審判の方を見ても笛とか吹かないから、ファウルや反則ではないのだろう。
ともあれ、お互い防御を捨てた殴り合いとも、一進一退とも言えそうな競り合いは最後までどちらも譲らず、僕はひたすらこの流れと勢いを構築・制御する指揮とプレイに集中した。
正攻法と奇策を織り混ぜつつ、僅かでも穴が空いた地点へ流れを集中させる。
七瀬に回せばなんとなくシュートが入りそうだと勘が囁けば、頭と口から策を捻り出してでも清隆を出し抜きパスを回し。栄一郎がなんとなく須藤を抜けそうだと感じれば、ボールを通せそうな道筋を描いてシュートやパス、あるいは即席チームプレイで対応する。
これだけで意外と食い下がることは可能。だが、たったこれだけのことなのに、天才級が複数相手だと相手にほぼ連携がなくても、やり合うだけで非常に疲れるのをここで知った。
流れの源流になっていた僕が直接対峙する清隆をあの手この手で出し抜くのが、最初にして最大の壁となったのは言うまでもない。
そしてゲームがそうなってくると、みんな気分上々なテンションで楽しくなってくる。僕は当然として、栄一郎も、七瀬も、清隆も、高円寺も。日頃からバスケに親しんでいる須藤も、1年生を中心とした観衆達もだ。
可能な限界まで集中している今の僕にさえ聞こえてきていた歓声の音量が証明してくれるだろう。
やがて試合終了のホイッスルが鳴り響く。
勝敗自体は、最終的に僕達が31得点で、清隆達が34得点。
何本か七瀬のスリーポイントが決まり一度は逆転するほど点差を詰めかけたものの、やはり彼我の戦力差は如何ともし難い。須藤の日々の練習の賜物による粘り強い防御と、廃スペックな清隆や高円寺を突破できず何度か阻まれ、そのまま終幕まで逃げ切られてしまった。
しかし対戦相手と握手した際には、早苗や四方、南雲、一之瀬が真っ先に拍手してきて、釣られたのか次いでたくさんの拍手を送られた。
つまり、予定通りに追い上げ切れなかった僕達の敗北で幕を閉じ……普通に爽やかな気分で負けることができた。
清隆や高円寺を最後の無人島メンバーとして引き入れることは叶わなかったがダメ元だったし、結果的にみんなが楽しめたなら、まいっか。
清隆も高円寺も、危ういモノを感じていた僕の懸念を察して、栄一郎と七瀬が『全力以上』を出せる状況を整えてさえ敵わない程度の本気を出してバスケ勝負に乗ってくれた。
これも須藤を含めた彼らがチームワークすらなかったというのに、圧倒的な敵わなさを見せつけてくれたおかげ……と、僕の指揮も少しは要因になってると嬉しい。
試合前より栄一郎や七瀬の『清隆へ』向けていた感情も、完全ではないがそれなりにはスッキリしたっぽい雰囲気になっている。精一杯当たった上で、清隆も笑顔を見せていたからかもしれない。これ以上は高望みしすぎだろう。
だから僕は不思議な表情で、じっと自分の手のひらを見つめていた即席チームメイトの2人に向けて、あえて清隆に触れずに心から感謝の言葉を告げた。
「それで、えっと……栄一郎、七瀬…さん。
急な話だったのに、今日は助けてくれてありがとう。結果はアレだったかもだけど、南雲が生徒会入りを認めるくらいの名声は得られると思う。おそらく君達がいなかったら、アイツら相手に善戦にすら届かなかったからな」
「左京先輩。試合中みたいに私にはさん付けしない方が嬉しいです。さん付けに戻されると、水臭いというか、距離を取られてるようで、こう、モヤモヤしますし…………それに、私…私達の方こそ色々ありがとうございました!」
「……社長、そういうところですよ。父さんの件といい、僕の編入といい、『月城理事長代理』と翼の件といい、お世話になりっぱなしなので、こちらこそせめて勝利に貢献したかったのですが」
「そこはもう忘れてええんやで? てか、だいぶ前に松雄(父)に社長を譲ったから、もう僕は社長じゃないんだが」
「肩書きはそうだとしても、僕達にとっては多大な恩です。なんとか返したいと思うのは自然なことでしょう」
相変わらず義理固いものだ。少し戸塚に対する葛城の気持ちがわかった。これは好きにさせる他ないわ。僕への疑いをほぼ感じられない2人の眼差しには、謎の罪悪感みたいのを刺激されるので止めさせられないのだ。
ここは僕から流す方が無難か。彼らの真っ直ぐな善性溢れる光属性の視線はなんかこう、愛里や椎名ほどとはいかないが、一之瀬と同程度には僕に効く。
「……そっか。それならよかった。じゃあ、お互いありがとうってことで一件落着だな!」
「「……ふふっ。はい!!」」
一方、彼らを命名決闘に巻き込む関係であらかじめ交渉していたうちの片方、南雲は観衆に混じってテンションの上がった上機嫌な様子。これなら彼によって保留にされてたらしい栄一郎と七瀬の生徒会入りはなんとかなりそうだし、清隆の件や貸し借りトントンにできたっぽいのと合わせて、気持ち良い収め方に持ち込めたのは幸運の女神が微笑んでくれたのだろう。
僕はやはり幸運な男だ。
それにしても、無人島前に最低限の蟠りが解消ができてよかった。
ぶっちゃけ助けてほしい時に不和の種があると、どちらかにしか手を借りられないからな。できる時や、ついでの用事がある時に片付けておくのが普通で常識ある凡人の処世術である。
最後にもう片方でその用事だが……体育館の上にある放送室?から試合や何故か観衆の方を見ていた月城さんも、契約条件は達成されました、みたいな雰囲気なので、四方の特別措置はなんとか対応してくれるだろう。
基本的に僕は面倒を先伸ばしにはしない。回避や省略、丸投げにスキップなんかはすることがあっても、面倒をただ先伸ばしてスルーするのは後でより大きな面倒に発展する可能性を秘めている。
だから、なんとなくなんとかなりそうなら考える前にまず動いてしまうべきだ。そう思っている。
最初から最後まで人の手を借りてばかりで少々アレだと思うものの、なによりも僕自身が気持ち良く寝るためだ。転んでもまた起き上がれるならそれでいいが、それができない状況に陥る予測が立つなら対処しておくのがいい。
利己的なのは承知してても、やめられない止まらないかっぱえびせんな気質は、もはや諦めて受け入れるが吉である。
頼んでいたわけではないが、そんな僕に影ながら何らかの手助けをしてくれていたと思われる『早苗』と『八坂様』にも頭を下げる。
そして悔しさの中にもスッキリしたような雰囲気を醸す栄一郎や七瀬の背中を押して、プレイヤー・観衆みんな引っくるめた打ち上げの席へと誘うために、主だった友達や知り合いの中へ飛び込んで行くのだった。
……ちなみに試合に負けて要求された罰ゲームは、参加賞として世話になった者達に飯を奢った……場で行われた『僕の鼻にカラシをぶち込む』である。
目を閉じさせた上で容赦なく僕の鼻に流し込まれた悪逆無道なる不意打ち。そしてのたうち回る僕を笑いに笑いやがった奴らへの報復を固く誓うのだった。
あと、たまたま被った可能性もなくはないが、この罰ゲームは聞き覚えがある。冬の合宿の帰り道で耳にした。
そう。バスケの観衆に過ぎなかった東風谷早苗が黒幕候補最有力であることに間違いはない。また高円寺はともかく、Dクラスの親しくない男子達に早苗が介入できたっぽい感じもあり、クラスポイントや何かしらで有利になる条件を要求しなかったことから、櫛田の口利き・関与もあった可能性は否定できない。
順序立てて考えれば、おおよその謎は解けるのである。つまり、だ。
───ふっ。ヤツらだけは、いつか絶対わからせてやる。絶対にだ!
ネタバレになるかもと思って『流れ』に変えた元のタイトルは『敗北』。
たまには負けてもいいよね? って気分で、負けネタの消費。こんな後日談のラスト付近でやることじゃなかったかもしれない。
というわけで、何故かまた長文(約15000字)でバスケ勝負になりました。バスケはマジでスラムダンクくらいしか知識がないので、なんかおかしかったら流してください。
正直、ようキャの積み重ねがあっても、特に高円寺はこれに乗ってくれるキャラじゃないんじゃないかと不安が過ってまして、あまり彼らの台詞がなかったのはそのせいです。
雰囲気で楽しんで勝負できるならいいんじゃね? みたいに、ふんわり暖かく見守ってくれると幸いです。
ちなみに夢月が描写外で交渉してたのは、本文ラストの3つが主で、この他に栄一郎や七瀬などの+αいくつかです。具体的には、南雲には七瀬の生徒会入り許可とその他1つ・月城には特別措置の条件交渉・四方には表向きの無人島グループ強化(本当の狙いは夢月がリタイアした場合の保険)をした上でこのバスケ勝負に至ってました。
兆候はこれまでチラ見せしていましたが、原作の無人島のように(夢月は知りませんが)清隆へ七瀬、もしくは栄一郎(龍園)が仕掛けると面倒な事になりそうだと考えて、目的のついでに利害がかち合わない手を打っておいたってのもあります。