ようキャ   作:麿は星

185 / 198

 四方・一之瀬に関して、一応の顛末を書き忘れてたので追加しました。一之瀬については次話で(予定は未定)。

……ふと思い付いて「キャットルーキー」で検索してみたけど、案の定サブでも存在しないか(2026年3月6日時点)。二次創作も読んでみたかったんだが。
 結構昔の作品とはいえ、野球に詳しくてスポーツ描写の上手い人が書いてくれたら良い原作だと思うものの、一部の巻は入手が難しいらしいし、自分で書けもしないなら言っても詮無いことか。



164、先見の明(四方視点)

 

 左京夢月という俺の友人は、奇妙な男だ。

 

 自分に関しては、努力なんて報われないなんて割り切ってても、視界に入る『努力』には報われるような軽い後押しをしたりする。

 夢月的には小さなことであるため話題にはしないが、須藤や軽井沢といった普段ほぼ関係しない奴らにも、できる時は手助けやフォローをしてたりするのだ。

 

 今日の昼も、何か相談を持ちかけられてたらしい渡辺や池・須藤などの男子達と珍しく食堂で話していた。

 同じクラスの渡辺はまだしも、Dクラスの池や須藤に相談される時点でおかしいが、それを二つ返事で対処してしまう夢月もおかしい。

 

 後で聞けば、無人島グループの仲介(なんでも渡辺は網倉、池は篠原と組みたかったとか)をしただけらしいが、能力やコネ、男女関係なく自然体で応えるからか、あれで陰口の類いは気をつけてるからか、夢月を相談相手にすると話しやすく素直な気持ちでやりたいこともまとまるようだ。

 だからか一之瀬すら月1の話し合いなどで、さりげなく夢月の意見を聞きにいってたりする。

 

 性格が性格だけに人によっては合わないものの、特に一部の者は夢月を捕まえる労力を支払ってでも話しかける価値があるらしい。

 ちなみに、ここには自由人といって過言じゃない早苗や高円寺すらノミネートされているからつくづくおかしい。

 端から見ても普通に会話になっていて笑い合うアイツらは、独特な雰囲気があって他者を寄せ付けない。それほど付き合いのない奴でああいう場面を見たら、さぞかし混乱するだろう。

 

 また厳密な意味での策士ってわけじゃないが、時に誰にも予想させない立ち回りをする場合がある。

 入学してからの1年以上で枚挙にいとまがない今だから断言できる。そういう時は誰を巻き込もうと確実に目的を達成させている。いつの間にか、だ。

 

 そして割を食う奴は出ても、貶めるだけでは終わらない。望んだ結果に近い落着へ導くと同時に、『敵だった』奴にすら一応のフォローらしき後始末もやる。圧倒的に説明が足りなくて、俺とか清隆とかが手を出すことになったことはあるがな。

 深く見ると悪辣な動きもないじゃないし、少なくとも一之瀬のような善性が溢れる奴でもないが、被害や犠牲を最低限にしようとする意思は感じる。

 

 意外とそういう夢月の作り出す流れに丸め込まれるのは、楽ではなくとも楽しい。

 おそらく俺達全員が大なり小なりそう感じているだろう。

 支え甲斐があるとでもいうのか、一線だけは決して間違えないから結果的に後味が良くなるのがほとんどなのだ。

 

 逆に俺達みんなが気づかない落とし穴に気づいて、さりげなく埋めている。なんてこともたびたびあった。

 埋められてなくても落ちない仲間が大半とはいえ、早苗や高円寺が特に夢月のこの部分に一目置いているのもわかる。

 

 能力自体はともかく、天才と夢月が称賛する奴にさえ理由があればあらゆる手で立ち向かう強靭な精神。

 しかも奇跡かと思えるほど必要な場に必要な時に現れるから、早苗や一之瀬にはある意味で愛里を越えるレベルでロックオンされていた。あれだけ勝負を挑まれておいて夢月はどうも執着されている意識が薄そうだが。

 ま、本人に詳しく聞いても動機は大抵『勘』としか答えないし、実際それは夢月には正しいのだろうが、こんなナニモノにも囚われてないようにすら見える自称凡人は興味をそそられて当然だろう。

 

 夢月は入学当初から、あらかじめ様々な事態に対応する基本となる保険を敷き続け、今や望む未来を断たれる可能性を見るやいなや、応用となる変幻自在な策へと変換して自分が即座に動けるようにした男だ。

 そう───今のように。

 

 

 

 

 7月7日の七夕。

 波乱万丈の期末テストがなんとか終わり、俺が野球部の部室で甲子園予選のミーティングに参加している時、それは起こった。

 急性盲腸炎。

 後に医者からそう聞いたこの腹痛によって、高育野球部はしばし大混乱に陥った。これについては不可抗力とはいえ、申し訳なく思う。

 

「デトロー!? 開けろイト市警だ!」

「夢月さん、混乱しすぎです。逆ですよ」

「いや、東風谷。そこではない。後輩もだ。少し落ち着け」

 

 しかし、この誰もが予想外な事態に即応する者『達』がいたことで、なにはともあれ終結へ向かうこととなる。

 部室の扉を無駄に蹴破って現れたその3人は、登場するなりわけのわからない会話を展開した。そして周囲が凍りつくのにも構わず、俺の身体のいくつかの箇所を軽く押したり、質問したりして現状を把握するやいなや2人……夢月と早苗で俺を担ぎ上げて変な体勢?に寝かせた。乱入者の残る1人である鬼龍院先輩は、おそらく救急電話をかけて状況説明をしている。

 

「コ、コホン。失礼。少し取り乱しました」

「少し?」

 

 いや待て。百歩譲って夢月と早苗はわかるが、なんで鬼龍院先輩がここに? たまたま一緒にいたのか? というか、市警とは? なぜコイツらは漫才を始めた?

 激痛の最中に数々の疑問が浮かんでは消える。混乱していたのかもしれない。

 混乱してるくせして小揺るぎもしない手つきだけは的確な友人達に痛みが楽になる体位(膝を軽く曲げて横になる。応急処置されながら早口で説明された)とやらの体勢で診察っぽい何かをされた。

 

 ちなみに早苗と鬼龍院先輩はともかく、夢月が慌てふためくのはいくつかあるコイツの欠点のうち一つだ。友達に不意のナニかが起きるといっそ滑稽に見えるほどこうなる。まぁ、夢月なりの基準でもあるのか慌てない場合もあるし、夢月自身や友達『以外』に対しては滅多に冷静さを崩さないが。

 

 入学してからの慌ただしい日常を思い返すとそれは明白だ。

 最新だと、4月の終わりに橋渡ししていた清隆と宝泉の決闘でも、突如として早苗が乱入してきた時は酷かった。

 早苗の蹴りを受けた清隆の左腕がだらんとぶら下がった瞬間、夢月は呆然から狼狽へ変化。

 

 いざという時の保険(本来は清隆か宝泉どちらかがやりすぎた場合の保険)で別々の場所から事態を見守っていた俺と栄一郎の名を叫ぶと、無策で早苗に飛びかかる。

 俺や栄一郎に「助けて」と懇願しつつ、荒ぶった早苗に何度ぶっ飛ばされても止めるのを諦めなかった。

 

 あわよくば、ここで完全に清隆を潰しきるつもりだったと思われる早苗が止まったのも、夢月の意味不明な必死さに呆気に取られて冷静に戻ったからだというのは、夢月以外にとって周知の事実である。

 自覚あるかわからないが、早苗や高円寺など弩級の曲者と認め合う手腕において夢月の右に出る者はそういないだろう。俺から見て、異常な変人と交流する面だけなら櫛田や一之瀬すら遠く及ばない。

 

 清隆はまだしも、後日に『あの』宝泉が天文部に正式入部しに来たのも、おそらくこの時のわけわからなさも要因の一つだろう。同学年の龍園や堀北達を相手に大暴れしたらしい宝泉にさえ、あっさり一定の興味を持たれやがったのだ。

 説明しにくいが、なんというか夢月が本気を出した時は、妙な勢いと魅力がある。仲間・友達になるか敵になるかは別としても、少なくとも興味を持たれることは多い。俺も含めた天文部に近しい奴が大抵前者で、龍園や坂柳、南雲などが後者だ。

 

 逆に一之瀬や堀北などそこまで親しくないと『夢月が』思ってる奴に対しては、態度こそ違えど感情や興味、敵意のようなモノを必要ない限りほとんど向けない。そして必要なくなると執着せず、あっさり忘れる。

 まぁ、一之瀬に関してはその必要ができることが度々あったらしいので、微妙なラインかもしれないが。

 

 

 

 進級直後にあった部活動説明会においても、新入生に向かって「時々天体観測する以外で特に何もしない部活だが、場所だけはある。入部希望者は、特別棟の2階渡り廊下北の角部屋にある天文部室まで来てくれ。来てくれたら歓迎しよう」とだけ簡潔に述べて引っ込んだ。各部活で断トツの短かった勧誘文句に、新入生の反応はざわめきと静寂の半々に分かれた。

 

 この勧誘の後に来た面子もおかしい。

 真っ先に部室に来ておきながら結局入部しなかった天沢(しかもたびたび部室に来て寛いでる)。たまたまバッタリ出くわしたのか2人で訪れて手続きしたのに、言葉を交わすどころか全く目も合わせない鬼龍院先輩と石上。少し遅れた時期になってから現れた宝泉。

 

 なんなんだ、この濃い人材が次々と集結する特異点は。

 中心にいる夢月のせいか、元からいる早苗や高円寺などの存在が異常を打ち消しあってか、もしくは異常が飽和してか、最近では逆に正常なんじゃないかと思えている。由々しき事態だ。

 

 また、あの全てから浮き上がっている大馬鹿野郎は、他所のクラスにたびたび乗り込むだけじゃなく、清隆や高円寺達とバスケ勝負をやりだすだけじゃなかった。一之瀬と龍園曰く、期末テストでさえやらかしたらしい。

 

 この時は進級直後の試験以外はいつも坂柳と学年1位を争っている一之瀬が、毎日のように東奔西走していたから勉強会の参加頻度が減り、本人以外は成績落としたんじゃなかろうか。

 ちなみに期末テストは高2にふさわしい内容だったので、9位の椎名に3点差で夢月は10位転落し、勝負を挑んだ上で首位奪還を果たした一之瀬に煽られていた。一之瀬にそのつもりはなかったかもしれないが。

 

 ともかくそんな時期の裏で、夢月が南雲生徒会長に直談判しに行っていたのだ。馬鹿なんじゃないか。

 そうした理由はすぐ明かされ、期末テストの少し前に発表されていた。

 

 一つ。期末テストで『各学年』最下位3名の生徒は、無人島サバイバル開始直後は単独グループ&即リタイアとする。

 一つ。CP減点される各学年のクラスは、期末テストの学年最下位が所属するクラスとする(3年はDクラス、2年はCクラス、1年はBクラスになったらしい)。

 一つ。その生徒には学年に1枚配られている『無効』カードを『必ず』所持させる。

 一つ。ペナルティのうちCP減点については、ワースト1~ワースト3までを平均化して3学年のマイナスは同じに調整する。

 

…………改めて思うが、マジで馬鹿なんじゃないか?

 南雲や学校とどういう交渉をしたのか、ワースト5組のうち3組のペナルティを実質無効化し、しかも地味に学年ごとのポイント変動も最小限に抑えている。退学か回避(罰金)のペナルティを、結果的にワースト2組のみにしたということだ。

 学校が半強制する競争に真っ向からNOを突き付け、生徒会を巻き込んで退学見込みのある枠を減らすとか、マジでなに考えてるんだ。

 

 似たような事を考えた奴はいるかもしれないが、普通はこんなこと実現させないだろ。どんな条件で成立させたかわからないけど、生徒会にまでこの条件を呑ませる実行力を何故まともに活かさない。

 尤も、俺からすると面白い予感がしたから、むしろよくやったと言いたいが……。

 

 

 

 また先日命名決闘を申し込んでいたバスケの試合自体も、夢月が集めていた面子も、そもそもの発生からして異常極まりない。

 立て続けにあちこちに乗り込んでいた夢月の数日間は、7月の中旬に差し掛かろうとしている今も学校中の話題を独占している。無人島サバイバルがすぐ後に控えているというのにだ。

 

 ちなみにこのバスケ、最初はかなり夢月側が押されていたというのに、夢月が無理矢理な檄を飛ばすと一変。流石に押し返すまでは行かなくとも、端から見て対抗できる試合になった。

 なんでそうなるんだよ、という清隆の内心が聞こえてくるようだった。何故って? 俺がそうだったからだ。

 

 挙げ句、七瀬の連続スリーポイントで一時はついに逆転までした。そしてすぐに返されるものの、今度は松雄のシュートが決まり始め、一進一退の好勝負になった。

 

「うぅ~ん。翼ちゃんも結構やりますねぇ。あの六助さん相手に何度も決めてます。ま、流石に毎回ってわけじゃありませんが」

「松雄君もすごいよ。バスケ部の須藤君を抜くなんて……」

 

 俺と同じく夢月達の試合を観戦していた早苗と愛里が、感嘆の声を上げてたのを覚えている。

 夢月はそこまで動きはしないし、派手なプレイもない。だから『それ以外』に彼女らの視線が行くのはわかる。わかるが。

 

「違う、バスケに限らずチームスポーツは、個人の実力だけじゃ決まらないよ。だから、あの敵味方6人の中で最も抑えなくちゃ駄目なのは夢月だ。アイツが栄一郎や七瀬の動きやすいよう司令塔をやってる」

「夢月君が?」

「気づかないか愛里。夢月はまるで敵味方の動きがわかったかのように試合の流れを作ってるんだ。パスのタイミング、シュートのチャンス、人の位置関係、これら全部の流れをだ」

 

 夢月が試合の流れを作る。言ってみれば、アイツがやってるのはそれだけだ。それだけなんだが、なによりもそれがおかしい。

 

「得点に最適な流れを作った後で、パスやフェイントを駆使して栄一郎や七瀬かチャンスの瞬間にボールが渡るように。夢月がいなきゃ、そうそうシュートを打たせてくれる相手じゃないさ。たとえ夢月が清隆に抑え込まれてようとな」

 

 抑え込んでも流れを作られるって、そんなのどう対応するのがいいんだ……?

 この時の俺は無意識に夢月への対抗策を考えていた。

 

「へぇー。夢月さん、相変わらず変な事してるんですねぇ」

「変な事って。夢月君に悪いよ早苗さん」

 

 一方、バスケというかスポーツ全般には興味がない早苗と愛里は、一見だと地味な夢月の役割を過小評価してるようだ。だが、全員の動きを誘導したかのような指揮振りはなかなかできることじゃない。

 観客視点の後付けでいいなら、俺にも一応の理屈はわかる。

 

 栄一郎や七瀬が夢月の想定より上手かったから、須藤と高円寺(高円寺が女子である七瀬に当たるのも想定済みだろう)で集中してそれぞれをマークすることになり、残った清隆は夢月だ。

 しかし、人に集中するということはコートに空きができるのと同じだから、空いた場所を通したパスを出せるようになる。

 パスを出された栄一郎や七瀬は、須藤や高円寺のマーク付きでも素早くシュートしたり、後ろ飛びのシュートなど離れ業が可能なため、得点する勢いがあるうちは結果的に善戦できる。そういう理屈だ。

 後に夢月に聞いた時も、だいたいそういう考えだったらしい。

 

 問題は敵味方共に、ほとんど打ち合わせしてもない状態で連携の域にまで至らせてしまう夢月のわけわからん+αである。去年の体育祭での騎馬戦や時に早苗と見せるコンビプレイなんかでも思ったが、あんなのは普通は上手くいかない。

 

 本人はアドリブ芸なんて笑ってたが、見た目ほど簡単なことじゃないのだあれは。しかも、本当に不思議そうな顔して「ん? だいたいの流れを俯瞰すれば、パスが欲しいタイミングや場所はわかるだろ?」とか宣いやがる。

 マジでアイツは色々おかしい。試合後の食事処で、鼻にカラシを流し込まれて悶絶していた姿と試合中のギャップに混乱していたっぽい奴らがいたのも当然だろう。

 

 

 

 バスケの後の食事も終わった帰りに、俺や早苗、綾小路グループの何人かで話した時もおかしかった。

 

「そういえば夢月は、愛里のこともきちんと考えてるんだな。早苗にも聞いたぞ、すごく真剣に頼み込んだって」

 

 これは無人島サバイバルでのグループ決めのことだ。愛里に早苗と長谷部を組み合わせるために早苗へ頼み込んでいたのは驚かないが、土下座する勢いだったというのは少し驚く。

 行動力が凄まじいわりに、夢月のプライドは意外なほど低い。

 

「ああ、イヤらしいことばかり考えてる女好きな癖に、ああいうところがあるんですよねぇ夢月さん。付き合い出してからは、ほとんど完全に他の人に色目使うなんてなくなったのには最初驚きました」

「少し違うけど、前までのわたしも、いっ……そ、そう思ったよ。クラスの事情で大変な時も会えない時もあったから、わたしのことがどうでもよくならないかなって」

「……君達は僕をなんだと思ってるんだ。なるわけないだろ。ぶっちゃけ、初対面の頃から愛里は可愛いかったし、見すぎるとヤバいかもと思ってたくらいなのに」

「まぁ、それはたしかに」

「か、可愛いかった……む、夢月君っ! だからそういう……!」

 

 何気に夢月はこんな風に女好きな言動も多いし女子からそう見られることはあるが、本質はムッツリスケベの逆……言うなれば、“仙人”のような奴だ。ほとんどの場合で女子には驚くほど腰が重く、本気で手を出す男ではない。冗談でそのように見せる場合こそあっても、わかりやすいフォローを必ず入れているのを俺『達』は知っている。

 ゆえに、こんなやり取りをしてるが、早苗も愛里も本気で夢月をこう思ってるわけじゃないだろう。仲間内での軽口の類いだ、これは。

 

 また男が集まった時に花を咲かせる猥談や恋話でも、1人だけ全く違う方向を見て浮遊していた。せいぜい清隆や高円寺が付いていけるくらいで、そもそもこの2人も異質な奴らなため、よく話がズレていた。

 だから実は色事で夢月がかろうじて『女』と見ている女子は、入学から数えても彼女になってからの愛里のみである。まぁ、それも愛里の勇気ある行動と周囲の応援する女子連中あってこそだが。

 

 結果、時にアピールをやり過ぎた愛里の乳を、普通の顔や話のまま揉む夢月が発生するわけだ。

 友達だけの場限定とはいえ、完全に無意識と思われる乳揉みは初見だと確実に呆気に取られる。

 俺は勿論、愛里と親しい早苗や櫛田、長谷部の女性陣でさえ阻止するどころかツッコミ入れることもできなかった。それこそ愛里くらいだ。

 いや、人前で脈絡なく乳を揉まれたら取り乱すのは当たり前だし、最近の強くなってきた愛里はだいぶ夢月への遠慮がなくなってきた。

 

「はわわっ……あわわっ」

 

 こうも夢月が目に見えて慌てたり混乱するのは、そういうことして愛里がツッコミを入れる時だ。意外と重く捉えるのか、愛里にだけは問い詰められたり説教されるのをことのほか恐れる。

 そして、その光景を見て息を荒げながら恍惚とした表情を浮かべるのが……。

 

「ねえ、見てください……。私の夢月さんと愛里さんを。あの情けなくも面白いやり取り、たまらなくないですか?」

「わかる。怒っても迫力ない佐倉さんも可愛いけど、特に普段おちょくってくる左京君が慌ててると、なんというかこう、心がね。ピョンピョンするよね」

「わかってますね、桔梗さん!」

「あんたもね、早苗!」

 

 仲間内でも特に邪悪な早苗と櫛田だ。

 心底楽しげな表情とか、これを見てガシッと握手するとか、「私の」とか。どこ目線なんだよ。仲が良いのもなんとなく納得できるアレな性格同士だろう。

 コイツらはホント……。

 

「いや、お前ら。助けてやらなくていいのか? あれ、夢月はおそらく試合のストレスか何かで無意識にやっただけだぞ。フォロー入れてやった方が」

 

 ただ、この時はなぜ夢月がこうなったかわからなくもない。

 コイツは目立った後に我に返ると、やらかすことがあるからだ。今回に限っては試合とその後の罰ゲームで、鼻にカラシを流し込まれたのが精神バランスを崩した要因だろう。つまり、夢月にとっては性欲解消とかじゃなく精神安定が主目的だ。

……要因の罰ゲーム提案者である早苗がこうも楽しそうだし、夢月も気づいてそうだから俺からは何も言わないが、助けてやれよと言いたくなる。というか、言った。

 

「「え、えぇ。もう少し堪能してから」」

「うぁ、ゲスぅい……」

「これがなきゃなぁ。多少は人気も集まっただろうに」

 

 女性陣の中で唯一ツッコミを入れた長谷部も、実は邪悪さにおいて負けていない。早苗や櫛田の発言をゲスとか言いつつ、吊り上がった口元のせいで笑顔を隠せていないのだ。

 だから俺も清隆達男性陣も等しく女性陣にドン引きしている。

 

 余談だが、先に述べたように意外と夢月に物理的なツッコミを入れる奴は少ない。俺の知る限りだと、愛里の他は早苗と櫛田、新入生の宝泉くらいだ。そして宝泉も夢月のあまりの手応えと変化のなさに、最近ではあまり手が出なくなっている。

 おそらく身体能力自体は普通の夢月に強すぎる奴がそれをするのは、万が一を考えてしまうからだろう。

 それを考えると、愛里が照れ隠しにポカポカ叩くのは微笑ましい。ちょっとイチャイチャ感が出てて胸焼けしそうになることもあるけども。

 

 

 

 挙げようと思えば、去年や小さな事も含めてもっとある。

 進級からたった数ヶ月しか経っていないのにこれなのだ。

 一之瀬や星之宮先生が本格的な囲い込みに動く理由としては充分だろう。むしろここまでよく『こう』されなかったものだ。

 そして回想から現在へ戻り、俺は搬送された学内病院の病室にいた。

 

「よかったぁ~。嫌な予感に突き動かされたら案の定だ。マジで焦ったぞ四方よぉ」

 

 そこへすぐ現れたのは、手術が終わって執刀医の有森馮子先生と入れ替わった夢月で、出会った頃から何の変化もない態度で俺の無事を喜んでいた。

 

「あ、担任から聞いたんだが、四方の親御さんにも連絡が行ってるらしいし、もしかしたら数日以内に見舞いに来るかもだって。たぶん緊急連絡の範囲なんだろうな」

 

 こんなに裏表のないのに、何故あそこまでほとんど誰にも理解されない言動になるのか。

 俺はしばらく動けず、無人島サバイバルは当然のように不参加、もしくは坂柳に準じる形での参加になる───いや。

 

「……なあ夢月。お前、もしかして俺がこうなるんじゃないかって予想してたか? ここ最近の一連の動き…どころか体育祭やその後の野球勝負も……」

「あー、してたといえばしてた。なんとなくの勘がほとんどだったし、説明もできそうになかった。あとは当然なければない方が良いとも思ってたから言えなかったが、どう転んでもいいようにいくつか想定と準備はしてた」

「勘、か」

 

 コイツ、本当に勘と運がおかしいレベルだからな。

 問題の核心に即座に真っ直ぐ吸い寄せられていくかのような吸引力と異変解決能力。

 学校とかからは評価されない部分なだけに、なおさら異常性が際立っている。異質と言ってもいい。

 

 知る限り、補佐する、または補佐されるやり甲斐においては夢月に比肩する者がいないレベルだ。清隆や栄一郎が気にかけ、一見は下らないことにも乗ってくるのはその面も影響しているだろう。

 なんせ、登ることさえ不可能そうな壁でも「ん、わかった。じゃあ乗り越えとくわ」なんて軽く言って実行してきた男だ。コイツが言うと、説得力が違う。

 

「うんまぁ、予想を外したならそれが一番良かったけどさ。

───まず間違いなく起こるって、何故か僕の勘が確信させてたんだよ」

 

 そう言った夢月の目はどこまでも透き通っていて嘘偽りない気高さがあり……なにより絶対の自信に満ち溢れていた。

 左京夢月とは奇妙極まりない存在だ。

 面会時間ギリギリまで坂柳のところへ乗り込んだ真意を悪びれなく話し続ける夢月に、なんとも言えない印象を深めながら改めてそう思う。

 

 巻き込んだ奴らにフォローや埋め合わせはしてるようだから、否定できないのも性質が悪い。パーソナルスペースの狭さ、関わりの少ない他人への無関心、自分自身への客観視不足、異質なまでの行動力と発想。他にも短所や素直に長所と言えない部分は多いし、人によって賛否が分かれる奴なのもよくわかる。

 

 だが、それでも───俺も含めた『友』や『仲間』を心から大事に思う夢月がここに居てくれてよかった。

 この学校に来る前に親父から占ってもらったことも。某物語のワード染みてて胡散臭く感じたから、何度か俺自身で易を立てた結果も。全て同じ結果だったのは、やはり正しく『先見の明』があったからなのだろう。

 

───俺(寅)は東方(卯の方角)にある特殊な学校でこそ『真の友』を得られる、と。

 





 主人公が存在することで原作では起こった事が起こらなくなったり、起こらない事が起こったり。それが良い結果をもたらす人もいれば、悪い結果にしかならない人もいます。
 左京夢月という人物が、全ての事象を良い方向へ導くわけじゃないって想像しつつも、色々な想像を巡らせるのは楽しいですね。これはきっと二次創作のオリ主や転生だからこその楽しみで面白さ、そして難しさと儘ならなさだと私は考えます。

……えっと、何が言いたいかと言いますと。
 察してる人もいるでしょうが、これらの裏で割りを食ってるだろう何人かや組織。そしてその何人かを好きな方。ごめんなさい。
 ちょっと色々フラグを折りまくってしまいましたが、夢月が身近に思う人を曇らせないのが優先されたようです。私の頭で整合性を取るには、これが限界でした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。