ちょっと空き時間ができたので触りだけ整えました。
後半は、無人島サバイバルの導入&簡易説明回です。
166、敬意(前半、七瀬翼視点)
栄一郎のお父さんが、左京先輩に初対面で言われた事。
「採用で。坂柳理事長に話は通してありますので明日、高度育成高等学校の正門近くにある警備棟にお越しください。外部接触禁止の制度があるため直接対面はできませんが、そこからなら比較的簡単に僕と通信ができます。正式な契約はそこでしましょう」
全てはこの言葉から変わり始めたらしいです。
「───僕…私達の保身とヤツに一泡吹かせる細かい策と一緒に、ね?」
これは学校敷地付近に彼ら親子が学外オフィスを構えるまで。栄一郎がこの学校へ編入するまで。そして私・七瀬翼が高校に入学する直前。何度か栄一郎のお父さんが話してくれた。
余程、心に焼き付いたのでしょう。
彼のたったこれだけの言葉とちょっとした行動が、栄一郎とそのお父さんを絶望の底から救い上げたからだ。それはこの後に私と栄一郎へ付け加えた言葉からも少しわかる。
「私は左京社長に助けてもらった恩返しがしたい。でも栄一郎も翼さんも自分で考えて動きなさい。もう老人に差し掛かる私のことは考えなくていい。何を選択しても、できるバックアップはするから。
君達が自由で健やかであることだけが私の願いだよ」
ただ、中学生だった私も、今だって、本当にこの言葉の意味がわかっているわけじゃない。
それでも、私達が笑顔を失った数ヶ月と笑顔を取り戻してからの数ヶ月は、私の心にも焼き付いている。
自分が何もできないのに大切な人達が消えてなくなりそうな焦燥感も。理不尽な境遇に追い込んだ存在への底のない怒りも。けして諦めていたわけではなくても、栄一郎が努力して入学した高校を除籍(退学ではなく)されて徐々に絶望に沈んでいく表情も。
私が高校生になって3ヶ月以上経過した今でも鮮明に覚えています。
努力が全て報われるなんて思ってない。
でも強く、優しく、なによりも誰よりも諦めずに努力していた私の憧れた栄一郎。
そんな人がささやかな夢さえ掴めないなんて、私は認めない。認めてなるものか、と。
もちろん、自分で矛盾しているのはわかっていました。
栄一郎のお父さんが持ち込んできた編入の話が、全ての流れを変えていったことも。栄一郎も決意に満ちた顔で、お父さんと一緒にあちこちに出掛けて行くようになったことも。本当に編入が決まって高度育成高等学校の敷地へ旅立ったことも。
これらの起点になった左京先輩には感謝でさえ足らないほどですし、迷惑をかけるなんてもってのほかだとも思います。
ですが感謝とは別に、私は栄一郎達に犠牲を強いてきた『綾小路』という存在自体が許せなかった。
まず倒すことから『始める』衝動がどうしても抑えようがなく、手っ取り早く全てを終わらせたいと思った。
私だけでは……栄一郎と協力してさえ『目的』達成が難しいとわかっていたとしても。
去年、訪ねてきた月城さんに『役割』を頼まれて、わかった上で躊躇なく承諾するくらいには……。
早苗さんに声をかけられて、ついその葛藤を吐露してしまったこともあります。
……まさか満面の笑顔を浮かべて、宝泉君との決闘に飛び込んで行くとは思いもしませんでしたが、綺麗な飛び蹴りを綾小路先輩に入れた際は……その、不謹慎ながら不思議ととてもスッキリしました。必死で早苗さんを抑えようとしていた左京先輩と四方先輩、栄一郎には悪かったですが。
ともあれ、学内ではぐれメタルと名高い左京夢月という先輩は、実際に会っても不思議な人でした。
私や栄一郎がもらった数々の恩を差し引いても、協力したいと思わせてくる。年上なのにも関わらず、私にもわかるように話して信じて頼ってくる。実力以上のナニかを引き出してくれる雰囲気のようなものがある。それでいて、不快感は全くない。
そして、それが何故だかとても嬉しい。
きっと栄一郎も同じだろう。
―――だって、健全なスポーツで『敵』諸共みんな笑顔にしてしまったのです。
それは私や栄一郎が描いた『先』より、ずっと素晴らしいことだと思えて。
結果云々じゃない。利益も義務も得られなくて構わない。
綾小路清隆を倒すこと『なんか』くだらないと、自ら率先して実践した左京先輩と早苗さんに私達は影響されたのかもしれない。
綾小路先輩とわかり合うことはこれからもないでしょうが、私達はそれでいい。
ただ、左京先輩の仲間入りするのは楽しいだろうと確信できた。
時々は変な事やってるけど、いつか消えてしまいそうだった栄一郎が、いま笑っているから。
7月19日のお昼前。
昼過ぎから無人島サバイバルの学年ごとの説明があるので、それまでの自由時間に私達は船の後部にいた『左京先輩』の周りに集まっていた。ここも不思議なことで、空き時間に何故か彼に吸い寄せられるように集まってしまう。
ちなみにメンバー(敬称略)は、左京、栄一郎、綾小路、高円寺、石上、宝泉の男子達。私、早苗、佐倉、櫛田、長谷部、椎名、天沢、鬼龍院の女子達で合計14名。端から見たら、何の集まりか見当も付かないだろう。
ちなみに四方先輩は、坂柳という先輩と一緒にメディカルチェック中らしくいない。
これだけの人数が集まって、しかも自分からここに来たのに、ほとんどが単独の雰囲気を出していた。話してるのも栄一郎や左京先輩と他が少し口を出すのと、櫛田先輩が動いてるくらい。
そんな中でも気にせず、“私達”を見つつ非常事態宣言でも発令したかのような雰囲気で何人かは盛り上がっている。
「やはり学園の姫君と謡われる佐倉愛里が一番だろう。なんなら猫耳を着用させることも可能だとも」
「それ言ってるの夢月君だけだから! あと猫耳ってなに!? そんなの持ってきてるの!?」
まず決定的な口火を切ったのは左京先輩。佐倉先輩が一生懸命になって止めようとしていた。
「いえいえ、フレッシュな新入生で僕達の後輩という翼もいますよ社長。身長だって高くてスタイルも最高。普段はとぼけた面もありますが、素晴らしく可愛い上に性格も健気な良い娘です」
「エイイチロー! とぼけたって酷くないですか!?」
次に栄一郎。これが左京先輩なりの不器用な気遣いだと気づいて乗っていた。だから私も場に則したツッコミを入れる。
でも、実は昔から女子にしては高い身長(現在168㎝)でイジられた事が原因で、栄一郎のいない場ではなるべく目立たないようにしてきた私にとって、それはとても嬉しい言葉なのは秘密だ。まぁ、ここにいる人達はそんな事を決してしないし、高校生になってからはそんなこともありませんでしたが。
「ふっ。現役の新人アイドルである櫛田桔梗に敵う者などいるわけもない。スタイルのバランスとバイタリティーでは屈指だろう」
「『清隆』君までなに言い出すの!? 最近あんた調子に乗ってんじゃない!?」
最後に綾小路…先輩と櫛田先輩。限られた少数の場で猫を被るのをやめてから、櫛田先輩は凄く機嫌が良い。
綾小路…先輩のことを栄一郎や私に呑み込ませる気遣いにも、軽くフォローを入れてくれたのだろう。何故か櫛田先輩は早苗さんと並ぶほど私に良くしてくれる。いや、早苗さんもなんでこんなに親切なのかわからないけども。
「とはいえ、神であるこの私の美しさこそがトップなのは揺るぎないのではありませんか?」
「何を言う東風谷。完全で瀟洒な先輩である私がいるのだぞ? 美という点においては、やはり私だろう」
「ははは。美しさなら私が最強だろうね。それは男女の垣根さえ問題にならない」
早苗さんと鬼龍院先輩、高円寺先輩も混ざってくるのは、普段を考えると少し珍しいか。特に彼女らはあまり冗談に乗らない印象があったのだが。
何はともあれ、この人達は変わってこそいても一緒にいると楽しい。本来なら混ざりようもなさそうな同級生の石上君や天沢さん、なにより宝泉君まで普通に居るのも含めて。
「あ、規格外どもはおかえりください」
「なにを言ってるんですか夢月さん。名字の通り、まさに私の舞台はこっちやー(東風谷)でしょう! カメラマンになっても私は凄いですよ、多分」
「写真は技術と熱意だろ。お前のそれは愛里に及ばない」
「愛里さんは私と同率だから良いんです! 私だって最近は色々勉強して上手く撮影できるようになってますよ!」
今まさにその混ざらなそうな早苗さんが、左京先輩のところへ果敢な突撃をしたところだ。
彼らのやり取りは喧嘩みたくなることはあっても、含むモノがないからか見てたり混ざるとつまらない事で考え込むのが馬鹿らしくなる。時々は興味深い話も聞けるし。
「お前は写真をなんだと思ってるんだ。明らかに写真自体には興味なさそうじゃねーか。たまたま上手く撮影できたとしても、それじゃあ続かないだろ」
「愛里さんが好きなものに興味が湧いたんですー!」
「む、ではためになる蘊蓄を語ってやろうか。なんか語りたくなった」
「夢月君って、守備範囲広いよね……」
「というか、毎回そう思うけど切り替えが早すぎよねぇ」
まったくだ。佐倉先輩の言う通り、左京先輩の広範な知識はどこで身に付けたものなんだろう。
「時の移ろいに消え去っていく人物や風景……。写真ってモノは、ほんの一時だけを切り取って魂を未来へ運んでくれるんだ。昔の人が言ってた『写真に魂を取られる』っのは本来そういうこと。つまり“もう会えなくても見えなくても”再会できる優れものだぞ?
わかるかね、早苗君? この意義が」
「わかりますよ! ツラい時でも楽しい時の記憶を呼び覚ましてくれる写真の良さくらい! それに───」
隣で、そう。だから、わたしは写真が好きなんだよ。と言いたげにうんうん頷いている佐倉先輩。
私も……ちょっとわかる。何も心配せず、努力だけに邁進できていた頃の私と栄一郎の昔の写真は時々見ると今も心がホッコリする。写真での『ほんの一時』ではなく、実際に笑顔の栄一郎と再会できたから尚更感慨深い。
左京先輩のふとする発言は、何故だか心に響く。
それにこの後、このメンバーでやった人狼ゲームも楽しかった。
時間の関係で最後までやれたのは3回だけだったけど、なんでも栄一郎が編入する前の去年の夏休みに、左京先輩達の学年はこの船で人狼ゲームっぽい特別試験をやったらしい。だからこれは、ちょうど同じくらいの人数がいたから思い出された予行演習的な遊びだとか。
口実っぽいですが、あっさり今に適用して単独色の強い面々をただのゲームに巻き込めるんだから、こういうところは敬意を持っていいと思います。
役職やDM(ゲームマスター)持ち回りで、14人全員参加したのは1回だけ。でも、どんな役職だろうと面子になろうと、毎回初手で殺され、殺されない時は人狼容疑で吊られる綾小路先輩。と、そうなるようにコトを運び、特に非常にイイ笑顔で煽りまくる左京・早苗・櫛田のトリオは見ているだけで何とも言えない気持ちになった。
遊びとはいえ、是が非でも倒したかった対象がこうもあっさりしてやられているのは、色々と複雑だ。
きっと一部界隈で綾小路先輩は恨まれている、とまでいかなくても不審に思われているのだろう。とてもよくわかる。
更に他の人にも説得力ある詰め方は、思うところがあったのか見かねた天沢さんなどがどんなフォローをしても回避不能不可避だったのがその事実を証明している。恋人らしい櫛田先輩さえ、占い師役職になったセオリーを無視して占いもせずに速攻で吊りにいき、笑顔で煽りの主力になっていたから相当だ。
共通の敵(左京先輩的には敵じゃなさそうだけど)を打倒した後だって、早苗さんはニヤリと笑って口を開くと、もう綾小路や話の流れを忘れたかのように左京先輩とじゃれ合い出すし。
メンバーの中でも、佐倉先輩とは別の意味でこの2人は特に仲が良い。きっと男女関係なく相性抜群の同類なのだろう。
「そうですか。では、次は夢月さんが私の敵に回ると」
「お、おう。まぁそういうことだ」
早苗さんの邪悪な笑みに、微妙に怖じ気付いてる左京先輩は丸わかりだったけども。
「ふふっ、うふふふ。それじゃあ全力で叩き潰しますね。神に逆らう愚か者には正義の鉄槌を!」
「出た、許されざる角度」
「……ゲーム内でのことだからな? 本気で叩き潰そうとするなよ? 頼むからな?」
「ふふふ。私を敵に回したこと後悔してください」
「ゲームだっつってんだろ! この女、執念深すぎる!」
「冗談ですよ……2割くらいですけど」
「馬鹿野郎! 強い言葉を使うなよ、怖いだろ!」
しかし不思議……本当に不思議だ。
バスケの時までは綾小路に対して確かにドロドロとしたモノが心にこびり付いていたのに、いつの間にか私も恨み辛みがどうでもよくなっている。どうでもいいは言い過ぎだったかもしれないけど、『頼まれた交換条件』以外は本当に私の中で優先順位が下がった。
これを狙ってやったのだとしたら凄いことだと思うし、栄一郎のみならず左京先輩の周囲の曲者な人達が一目置くのもわかる。
世間一般の実力という点においてはそこまでじゃなくても、敬意を表するに値する明確に信じられる人だ、左京先輩は。
だから、私も栄一郎のように感謝して恩返ししよう。
だって、もう負の感情に囚われるのはもったいないって身をもって教えてもらったのだから。
明日の20日から無人島サバイバルの特別試験が始まる。
僕達は3学年揃って船旅の真っ最中だ。
青い海、白い波、色とりどりの友達が僕を入れて13人。
……いや、なんでこんなにいるの?
説明会までの午前中に僕が呼んだのって栄一郎と七瀬、清隆だけなんだが、上級生・下級生も天文部や僕の関係者がかなり来ている。流石に安静期間でメディカルチェック中の四方や生徒会の面々はいないが、椎名や櫛田、鬼龍院先輩とかここに来てていいんだろうか。
あ、生徒会役員でクラスリーダー?の七瀬がいるのは、もちろん空いてると確認を取った上でだ。誰とも話していない宝泉や石上君は知らん。なんか来た。
まぁ早苗含めて不確定要素だが、多い分には問題ないか。それならそれで馬鹿話にでも持ち込み、わだかまりを解消しておこう。
ってことで、彼女自慢コンテスト(未公認)を開催し、栄一郎と清隆に無駄なマウント合戦を仕掛けてみた。
ちょっと自由人どもの飛び入り参加があったものの、当初の目標である『七瀬』の意識を逸らすのには成功したから結果オーライだろう。
栄一郎も清隆もすぐに気づいて乗ってくれた。人狼ゲームでの振る舞いがそれを証明している。
無人島やそれ以降で鉢合わせた時でも、もう無駄にギスギスしないだろ、って思える状態っぽいし、栄一郎も付いてるのできっと大丈夫。七瀬に感じていた負属性は今はもうほとんど見えない。
そのまま入船してすぐ予約を取っておいたジャズ喫茶で昼食を奢り、簡単なゲームもしながら1年生の説明会まで思い思いに過ごした。キャパシティや試験の性質上、学年ごとに説明会が分けられていたからだ。
ああ、ちなみに今回は去年と違い、船の食事や施設などは無料ではない。機関室などの立入禁止区画も追加されているし、夜も門限過ぎに出歩いちゃ駄目になっていた。
僕が場所を予約できたのも、去年の船旅で知った顔になっていたジャズ喫茶のマスターが融通を利かせてくれたおかげである。
当時は毎日のように通い、最後には場所や楽器を借りたりもしたが、夏の一時期だけの常連でしかなかったのに、顔を出したら親しげに向こうから声をかけてくれてありがたい。去年と変わらずハードボイルド風味が強く、所作が格好良いマスターだ。
こうなったのは、なんでも自由なのをいいことに逃走したり悪用したりする奴への対策でもあるらしい。行方不明になったり、船で野宿や放浪しそうな人がいるんだよ、と一之瀬や神崎が僕を見ながら愚痴っていたのを覚えている。
一之瀬や担任、クラスメイト達は、なんか僕がそれをする疑いを持ってるような思わせぶりな態度だったが、品行方正な僕がするわけがないだろう。
脳裏を過る去年の記憶も含め、当然全ては気のせいである。
ともかく仲間内で飯を食ったら、昼過ぎからは無人島サバイバルの説明会である。会場は船にある映画館で1年と交替で入場した。
ふむ、予告のポスターが貼られてるな。船旅の日程の最後の方で『死者からの手紙』という渋いロシア映画を放映するらしい。絶対に覚えておいて来よう。久しぶりに見たい。
人数の関係で友達が分散して入館してから、背後霊のように僕と早苗に付いてくる存在をなるべくスルーしつつ、会場である少し暗めの映画館を見回してみると、単独色の強いボッチが固まる一角があったので腰を下ろす。
最後尾で隅、しかも出入り口にも近いなかなかのスポットである。早苗に一番左の角は取られたが、たまたま2席は空いてて良か―――。
「左京君っ……!」
―――ったと思ったら、右隣が2年Dクラスの掘北鈴音だった件。
不幸だー。とか某上条さんの口癖を吐きそうになった。
何故、僕はこの暴走性質のある清楚系同級生に挟まれることになったのか。
そして追加で、入館した直後から担任の星之宮先生が付いてきてて背後まで取られているが……人畜無害な僕に対し、なんで張り付く真似までするのか。コレガワカラナイ。
容姿以外は大暴投のデッドボール女達でなかったら、少しは嬉しく思えたかもしれない。
贅沢言わないから、愛里と椎名の間だけに挟まりたい人生だった。せめて清隆に堀北さんとうちの担任を投げてや…ろうと探したら、向こうはすでに伊吹さんと鬼頭(だっけ?)に挟まれて、遠目にも居心地悪そうだった。それに席自体がないのでは投げられない。
てか、館内を観察してみれば、四隅付近に生徒会役員や関係者(栄一郎)を配置されていた。だから清隆は隅じゃなく中程の通路あたりに席を求めたのか。
もっと早くに気づいていれば、葛城か栄一郎のエリアか真ん中後方で陰に徹したのに失敗した。
だが、陽の者のオーラ溢れる一之瀬近くに座る大失敗よりはいくぶんマシだ。ここは更なる失態を犯さぬため、諦めて軽く挨拶を交わしてから堀北さんに提案してみるか。
「な、何かと縁があるな、堀北さん」
「そ、そうね。まったくもって嬉しくない縁だけれども」
「同感だ。で、その、僕…僕達は移動した方がいいか?」
「いいえ、その必要はないわ。そもそも東風谷さんはもうテコでも動きそうにないもの」
堀北さんの言葉に反対側を見てみると、動かざること山の如しな雰囲気の早苗。コレを動かそうとするなら多大な労力を消費することになるだろうとわかる。僕の背後に立つ担任といい、どいつもこいつも、マジでいい加減にしてくれ。
しかも僕だけ逃げるのも難しい。なぜなら、動こうとすると……。
「夢月さん。私の横に侍る光栄を無碍にするつもりですか? 私は私の認めた人以外がそこに座るのを許しませんよ?」
「そうだよ。私も付いてかないといけないし、勝手に動かないでね左京君」
「……どこ目線だよ、早苗。許せない人が座ったらどうなるんだ」
「さあ、どうなるでしょうね?
でもそんなことはありえませんよ。夢月さんは、もう絶対に逃しません」
あえて担任はスルーしたが、こうなるからだ。人気者だな、僕(現実逃避)。
映画館が混みそうだからって、愛里や高円寺達と分散するんじゃなかった。久方ぶりに人見知り?を発動させてやがる。僕を巻き込まないでほしい。拘束力はそれほどないが、担任付きなのも救いようがない。
でも少なくとも説明会の間はここにいるしかないだろう。
ちなみに僕や早苗が愛里と一緒にいないのは、まだ彼女がクラス移動するかわからないのもある。
仲間内の何人かでは話してあるけど、一応は内々の話だし、無人島の退学阻止に実弾が必要かもしれない状況で『誰の資金』かは置いても、2000万を消費するなんて悪手でしかない。今は危なそうな奴に資金は分散してるはずだ。
堀北さんが愛里の移動に関わってるかは別にしても、誰だろうとクラス貯金を使うほどの価値はそこまでないと思うしな。勿論、クラス移動してくるなら大歓迎するが。
なので、僕はしかたなく聞き流すつもりだった試験説明に集中することにした。
ところで説明会が始まろうというのに担任が僕の背後から動かないのだが、どうしたことだろう。ちょっとでも動こうとすると、肩に手を置かれて椅子に押し付けられる。
さっきの発言内容といい、担任はなんのつもりなんだ。僕が何かやらかす前提みたいじゃないか。
まるで監視やお目付け役でも仰せつかった存在のごとき振る舞いの奴らに取り憑かれる中、ようやく試験説明が始まった。
映画用と思われる巨大スクリーンに表示され、先生方が口頭で行う説明と合わせて整理していく。
大枠では。
・2週間の無人島サバイバルを全グループで得点を集めて競い合う。
・無人島を100のエリアに分けた広くアップダウンの激しい場所もある舞台。
・期間中にグループ全員がリタイアしたら失格で、失格時点で得点無効かつ順位が確定。
最初の要点は、この3つだな。
次に移動の基本ルールは。
・日に4回の指定エリア。
告知の時刻は、7~9時、9~11時、13~15時、15~17時。
・指定エリアは法則あり。限定範囲内に指定される通常3回と島内どこに出るかわからないランダム1回(初日と最終日は3回でランダムなし)。
・時間内到着で到着ボーナス1点。
・指定エリア到達順に着順ボーナス。1位10点、2位5点、3位3点。
※四方・坂柳さんはスタート地点から動けないので、グループからは半除外。
・告知段階で指定エリア内にいると、着順ボーナスなしで到着時の1点のみ。指定エリアのテーブルは、各グループごとにパターンがある。
・指定エリアをスルーし続けるとペナルティー。3回以降から減点が増えていき、1回でも到着すれば累積値は0に戻る。
……いや、無駄に情報量が多いし紛らわしいわ!
もっとシンプルにできなかったのか。例えば、着順ボーナスはいいけど、到着は普通に『到着得点』とかでいいだろ。1点固定なんだし。てか、僕だけでもそうしよう。
嘆く間もなく、更に試験専用の腕時計とタブレットに説明は移っていく。
これに関しては、去年も似たようなの着用させられたし、死活問題でもあるので真剣に聞かざるをえない。
・腕時計を通じて24時間学校に健康状態を把握。
・得点の入手には不可欠なため、破損などをしたらスタート地点でチェックが必要。
・警告アラート2回、緊急アラート1回。
緊急アラートだけは、鳴ったらスタート地点で健康状態チェックを行うこと。無視するとリタイアも視野に入り、止めない・止められない状況が5分以上続くと医療版が現場に急行する。
・腕時計には12通りのテーブルがあり、それぞれで到達地点が異なる。
リアルタイムで体調を把握されてるなら、運動得意な奴が何個か持ってって着順ボーナスを稼ぎまくる、みたいなズルはできないってことか。
外すことのできない呪いのアイテムみたいだな。笑えねぇ。
更にまだ説明は続き、次はポイントや報酬を得られる課題に関してだ。
・課題は7時~17時の間に随時出現する。ただし、初日は10時からで、最終日は15時まで。
・課題は3種類で、学力4割、身体能力3割、その他3割。同じ内容の場合もある。
・課題の出現や実情は予測できず、確実に把握するなら現地へ行く事が必要。
・上位入賞者は得点・食料・物資、グループ人数の追加枠などを獲得できる。参加賞があるものもある。
かなり不透明な部分もあるが、そこは実地で追々ってところか。
しかし、ある程度以上は僕も動かないと不味いな。特に合流手段が限られているし、足を引っ張るようでは助け合える要素を生み出せない。
ここは、自給自足を基本としてボチボチやってくのが丸いだろうか。
と、月城さんの挨拶が始まった。生徒に語りかけながら清隆の方へ一瞬だけ視線を送ったことといい、やはりほぼ“確定”と見て間違いないだろう。
あと言及していた性的トラブルや生徒同士の小競り合いについては、むしろ当然な部分がある。
性的トラブルは去年の無人島の時から心配だったから、キッチリしてくれるのはありがたい。そして小競り合いも真嶋先生とかに物言いは付けられてたが、この特別試験で想定しない方がおかしい。
締めるところは締め、弛めるところは弛める。ついでに…といってはなんだけど、月城さんは最低限の目的達成を目指す。
つまり、なんとなくの方向性を特定の生徒に察してもらい、本人達の実働も加味した上での計画なのだろう。
変に規則や禁止事項ばかりを追加するだけじゃなく『場』を用意していく手腕は、実にできる官僚らしいやり方だ。
微妙に違えど「あれも駄目、これも駄目だ。勉強(仕事)だけしてろ。余計(Aクラスになる努力以外)なことするな」とかと同質な坂柳理事長の積極性を削ぐ……月城さんの着任前のやり方とは一線を画する。
あれは教育下手なブラック企業を彷彿とさせるからな。思考力が高い奴ほど、いざという時に動けなくなるか、反発したり見放すかのどれかにしかならない。
つまり精神が成熟してるか、僕のような2度目の奴じゃないと普通は潰されるだろう。だから堀北学や一之瀬はマジで危なかったと思う。
そういった嫌なモノは彼には今まで感じてないし、なら僕もなるべく月城さんの邪魔はしないようにしよう、と思わせてくる。
立場上、素直に言うこと聞くのは難しいが、敬意と尊敬を向けられる大人といえよう。他がどう思うかは知らんけど。
逆に言うと、僕がそう見ている大人は月城さん含めて数人くらいで、ほとんどの教師や理事会メンバーにはもはや何も期待していない。坂柳理事長にも、である。
月城さんの挨拶が終わると、次は全生徒が持つことになるタブレットなどの説明に移る。
・無人島の地図に、指定エリア・現在地をリアルタイムで確認可能。
・出現する課題やその報酬の閲覧。
・試験4日目から終了まで、試験の上位と下位の10組の得点が表示されるようになる。
・6日目以降は1点を消費して、全生徒のGPSサーチ機能が解禁。
・試験全体に影響がある場合(雨天や何らかの災害など)は、学校から知らせが入る。
・バッテリーはスタート地点の他、特定の場所で充電可能。
いや、なによりGPSサーチとかこえーよ。
6日目以降はおちおち寝てられないじゃん。寝場所や『他諸々』を考えとかないと。
そうしてサッと大雑把な無人島での立ち回りを構築し、あとは各種アドリブと状況変化などによる修正いくつかを頭の片隅に置いておく。
思考から現実に戻ると、最後に商品サンプルやタブレットの確認を行えるらしく、生徒はそこへ集まっていた。
ただ、僕や早苗、堀北さんもか。他にも単独風味豊かな我が盟友達は、座ったままか去っていくばかりで誰も人混みに突入しない。類が友を呼んだのだろう。
まったく困った奴らだ。人が引いた後で確認はするだろうけど、協調性をなんだと思ってるのか。
というわけで、僕は夜に備えて天体観測の用意に移ることにした。
「さて、天体観測の準備するか」
「あ、私も手伝います。なんか今は無性に夜空を見たい気分になりました」
「別にいいけど、今日はデッキとか展望室じゃしないぞ? 門限が定められてるし、混むのがわかってるところは避けるからな」
「当然です。私だっていちいち人を蹴散らすのは面倒ですからね」
「……蹴散らすなよ? フリじゃないからな」
「わかってますよ」
説明が終わってようやく担任が去っていったので早苗と雑談しつつ、貸し切りプールの簡易手続きをちょうど隣に座ってた生徒会役員である堀北さんに頼む。プールについては旅行前にあらかじめ説明されてたが、こんな日に借りようなんて奴はおそらくいないだろう。
たまたま堀北さんが貸し出しプールの担当でよかった。
「…………貴方達、明日から無人島で2週間もサバイバルすることをわかっているの?」
「勿論です」
「当然だろ。だから心の余裕を充電しようとしてるんじゃないか」
「……」
貸し出しノートに代表の名前と日付を書き込む方式らしく、堀北さんが鞄から取り出した真っ白なノートに、サラサラっと7月19日と左京夢月の名を刻む。
まだ何やら言いたげな様子は見せられたが、確実に人が来ない場所の確保ができるなら、やらない手はない。
ゆえに堀北さんの反応をスルーすることにした。
そうと決まれば、まだ夜までそれなりの時間はあるし、その間に適当な飲食物(夕飯や菓子など)を買い込み、自室から天体望遠鏡とかも持ってこよう。
ついでに、人が少なくなってたら商品サンプルの確認もやれるし、なんと隙のない布陣。
そのまま門限の時間の少し前まで、僕はプールにあったデッキチェアで寝転びながら、夕暮れから満天の星々へ変化していく海と空を最高の気分で眺めるのだった。
早苗や神様方含めた友達何人か入れ替わりで出現して話したり、どこかから視線を感じたりしたが、気にしなければどうということもない。些細な事は忘れるに限るのである。
原作の説明を簡単にした感じですが、最低限これをしておかないと続きを書く時にわけわからなくなりそうだったので、私なりに短めにまとめておきました。
エイプリルフール投稿ですが、嘘はありません。
今話冒頭は『45、謝罪』時点の七瀬視点が含まれてます。わけわからなかったら、そちらに左京視点があるのでご確認ください。