導入説明回の続き。
あらかじめ補足しておきますが、やらなきゃ駄目な場面があるのは承知の上で、強要されるのはまた違う話でしょって話です。
7月20日。ここは常夏の無人島。目を反対側にやれば、青く透き通った広大な海と晴れ渡った蒼空。
天体観測の絶好ポイントに僕達は合宿しに来ている。そう思い込まないとやってられないことからは目を逸すのである。
しかし、島に降り立ってしまった以上は切り替えていこう。
ここへは天体観測や植生を調べに来た…わけじゃなく、2週間の無人島サバイバルをしに来たのだ。去年の無人島より更に広く、クソ暑さも勝るとも劣らないが、なんとか乗り切らねばならない。
そのために、まずは給水やトイレ、できればゆっくり休める場所やシャワーなどもチェックしておくのがいいだろう。
この内心と似たようなことを少し離れた位置でしている生徒達を横目に、僕は船のデッキから無人島の大地に立った。
ここはあたかも戦場、ただ勝ちか負けかの2つに1つの世界で僕らは戦う。
数々の労力と資源の盛大な無駄使いに思えるブラックな特別試験の幕が、いま切って落とされる。
新番組『ようキャ』。
君は、青春の涙を見るか?
……なんちゃって。
と、このようにガン○ムで誤魔化してしまいたくなるくらい暑い。青春の涙の代わりに汗が流れる程度には暑すぎる。
なんで高校生である僕が、南海の無人島で軍事訓練みたいなことをしているのか。なによりそれが最大の疑問である。あまりにもやりたくなさすぎて、海に飛び込んでどうにかなるか奮闘する奴とか出るんじゃなかろうか。
だから最初の指定エリアは―――もうやだ。暑い。行かない。初日は休日だと、いま僕が決めた。最低限だけ試験に参加したら、カレーでも作って寝よう。そうしよう。
生徒達の人混みから外れ、荷物の柔らかい部分を枕に木陰で寝転がりながら、僕は真っ先にそう決意した。
まず僕の初期準備に使えるポイントは『先行』カードがあるため7,500。
これは食料や水、各種道具を揃えるために使えるらしい。あ、勿論だが、課題などなんらかの方法でそれらをサバイバル中に入手する手段もあるようだが、あまり当てにはしていない。誰かが焦土戦術かエリア制圧戦術でもやったら、手に入らなくなる可能性があり、やりそうな奴に心当たりもあるからだ。
だから、最初に最低限生活できる道具は持っておく。
最も高価な物を挙げると、半分以上の初期資金を必要とする4,000ポイントの携帯浄水器。それと防水性の高いリュックにサバイバル毛布やツェルト、調理器具、採取した物を入れる小さめのザック、レインコート、ライターなど小物を含むビバーク用(お高いキャンプ用ではなく)のお得セットがあったのでこれを2,000ポイントで。
残った1,500ポイントで、ペットボトル目的もあって飲料水いくつかと緊急用と思しき食料、モバイルバッテリーなどを揃えた。あと植生調査や天体観測用のノート数冊と筆記用具だ。
ついでに初日しか食べられないからか、いやに格安だった肉だ。いや、基本的にこういう食材系は高額だったのだが、少数ながら安い物もあったから購入しておいた。
後で悪くなってないか確認は必要かもだが、僕の食生活に彩りを与えてくれる肉は有効活用すべきだろう。
そして最後に僕の購入物ではないが、四方と連絡を取るのに必須なトランシーバーの片割れだ。
僕は、これらを指定より数枚ずつ多く持った着替えを防水袋に入れた物を加えて、中型バックパックに詰め込んでいる。
サバイバルというか簡単に物資を入手できない状況では、下着類や小物などは多めに用意しておく方がいい。パンツやタオルが、ある意味で飯より重要になる場合もあるというのがわかりやすいだろうか。だから比較的空きができる中型を選んだというわけだ。
前のブラック業務生活から学んだ僕に隙はない。
しかし関係ないが、この安売りは何処の誰が儲けるのだろうか。
通常の安売りは、消費者が最も儲けてるように見えてそうじゃない。実際に儲けるのは、価格を決める流通業者だ。立場を利用して一部の業者から搾取し、格安というモノを客引きに使っているからくりである。もやしとか極端に安い商品だな。
だが、こんな無人島で購入する者がいなかったら廃棄されてしまうのに、購入リストには載っていた。ということは売れなくても損失にならないか、あるいは儲けかなにかはあるのだろうが、どんな仕組みがあるのか興味深い。
天体観測に関しては完全に趣味だ。ただ、植生調査は去年の無人島後に思い出しながら書いてたのを青娥さんに見られて、今年のぶんも期待してると言われた。これはやらざるをえない。普段、薬学を見てもらってるささやかな恩返しだ。
報酬とかはあえて断ったから得はないが、こういうのはなかなか楽しくて好きだ。趣味は実益と兼ねないのが僕なりの楽しむコツである。
まぁ、重くはなっても天体観測旅行をするとこれくらいは最低限だし、天体望遠鏡とかの機材がないからそれよりは楽だろう。
一応補足すると、ビバークとは簡易的な野営のことで、僕は暖かい時期の天体観測だとこちらをよくする。キャンプの方が快適で居住性も高く体力は回復はするものの、装備重量や設営の点で楽なのだ。
ああ、ツェルトはビバークに使う簡易テントのようなものである。僕はそこまでのレベルじゃないが、登山上級者だと崖にくっ付けて寝られるらしい。
ともかく、1年Dクラスから下のクラス順にAクラスの天沢や石上君。次に2年Dクラス……という順番で出発して行く生徒をデッキの日陰から眺めつつ、僕の2年Aクラスの番が来た。なので、邪魔にならない木陰に移動して昼寝する。
これが僕が無人島に到着してからの初手である。
「おい夢月。そこで何をしている。もうほとんど出発してしまったぞ」
「あ、ごめん。ちょっと落とし物を」
「なに? 落とし物だと? 何を落としたんだ?」
「ふっ、とんでもないものさ───それはあなたの心だ」
「オレの心を勝手に落とすな」
「清隆に人の心とかあったんか……」
「あるわっ! お前と知り合うまでは不確かだったがなっ! てか、その心底不思議そうな顔やめろ!
……で、本当は何をしてるんだ?」
3年の南雲、最後の鬼龍院先輩に微妙な絡まれ方されて見送ったのを確認。
図ったかのようなタイミングで司馬先生に呼ばれてムクリと起き上がると同時に清隆が声をかけてきて、つい脊髄反射でおちょくってしまった。
「僕、今日はちょっとカレー食いたくなってな。そのためのキャンプ地設営の人足やって材料をもらおうかと。あらかじめ交渉もしてる」
「最初のチェックポイントをスルーしてまでか……」
「……う、うむ。だ、大丈夫。僕は誰かに飯を集る真似はしないよう、まだ頑張れるから」
「飯のことなんか聞いてないんだよ、オレは」
先生の指示を受けて機材の運搬や設置に当たってると、信じられないモノでも見るかのような目をした清隆が付いてきていた。しかたないので、適当に答えを返しつつ続ける。
まだ出発してないとか、コイツはなにをやってるんだ。複数人グループなら余裕はあるが、単独グループでこれとか。まったく、真面目に試験受けろよな(ブーメラン)。
「飯のことなんかだと? 甘い! 秋茄子のごとき甘さだ!」
「……美食家か、お前は」
「いや、クラブジャムンのような甘さにしよう!」
「しようってなんだよ。世界一甘いインドのデザートにしても知る者は限られるぞ」
「くっ、清隆こそ雑学王かよ。瞬時にツッコミ入れるとかなんで知ってんだよ」
しかも後ろには、愛里や早苗など他グループの面々もいて頷いている。ついでに、サバイバル自体には参加できない四方と坂柳さん、坂柳さんが組んだ一之瀬・椎名・櫛田(櫛田はまだ正式メンバーじゃないかもだが)までもがこちらを眺めていた。
ま、野郎どもはほとんどいないが、真面目な奴らが珍しい。こんな野郎同士の駄弁りを聞いてて面白いんだろうか?
ちなみにスタート地点の船着き場付近には、各学年の担任が持ち回りで1人ずつ常駐しており、僕が交渉を持ちかけた司馬先生は1年Dクラスの担任でここの整備を担当している先生の1人だ。
あと2年は真嶋先生で四方や坂柳さんなどの体調確認のため医者の有森先生(腹膜炎の時に学内病院にいたのは元々このためだったらしい)と話してるし、3年の担任もスタッフの指示を出したりとかしてる。
まぁ先生方は置いといて、僕は指示されたテントや発電機、照明、トイレ、シャワーなどの設営バイトを始めた。
何気に塩水を真水にする大型装置まであって、シャワーや洗い物の水を使い放題なのは助かる。
ただ、試しに飲んでみたら飲料水にするには少し不味かった。おそらくミネラルを加える工程に微妙な不具合があったのだろう。この味気なさには覚えがある。
その報告を司馬先生にしたら、飲み水のサーバーや浄水器は別の物を使うとのこと。
予備の物を船から運び出す間、少し暇ができたので清隆で遊ぶことにした。
「ふっ、わかってないな。キャンプでカレーは外せない。ここを手伝うことで全て解決するならやらない手はないだろう? 清隆や……他も食いたければ夜頃にここに来い。存分に食らわせてやる」
「初日をカレーに費やすというのか夢月。何がお前をそこへ駆り立てる……」
何って……そこまで費やすわけないだろ。
「勿論、全部カレーに費やすわけじゃない。どこかで僕の指定エリア近くの試験会場の設営にも出向き、試験ポイントの代わりに米や飯ごうを借りる手配は済んでいる。僕に抜かりはない」
「抜かりだらけなんだよ。入手できるポイントを犠牲にしてまで、なにそんな周到な根回ししてるんだ。たかがカレーのために」
なんだコイツ。何が言いたい。
「清隆。先は長いんだぞ? ウサギとカメの話を知らんのか? 初日にのんびりして美味い飯を食う。実に真っ当な戦術じゃないか」
「そもそものスタート地点が別のベクトルで違いすぎるだろ。その喩え話でウサギをピックアップって」
何故だ。キャンプときたらカレー。カレーときたら材料。材料ときたら滞りなく入手できる根回し。至極常識的な流れなのに、よりによって非常識極まりない清隆にこんな目で見られるとは屈辱だ。
更に無人島サバイバルが開幕した本日7月20日は、僕(とついでに一之瀬)の誕生日でもある。誕生日のカレーはもはや定番と言えるだろうに。
……ああ、つまり本命はそういう話か。なら、今はふざけておこう。
「僕はただ現実を見ないことで問題対処しているだけだ」
「全く対処できてないと思うが」
「ふっ、わかってない奴だ。人生の半分を損させてやる」
「いや、カレーはオレも食いたいが―――損『させて』やる!?」
「ところで、この学校の奴ら、頭は良くても結構な確率でレスバ雑っ魚いんだよな。特に意味はないけども」
「……なんで今それを言った? お前が最悪レベルなだけだからな」
特定条件下では激弱な清隆だからに決まってんだろ。
何故、コイツはこんなにもおちょくりやすいのか。ついやってしまう。
「ふむ、なんか言ってるみたいだが、まるで意味がわからない」
「ああ、それはオレもさっき堀北と鬼龍院先輩から言われた」
「そんな悲しいこといきなりブチ込むなよ……。女子と話す時だけ社交性スキルに全振りしたかったの思い出すだろ」
「お前のスキル構成、あからさまに単独系と理系だもんな」
初期のスキルポイントが潤沢で、基礎能力も高い清隆みたいな奴にはわからないことか。
愛里と付き合うまでは、時々ステータス板が出現しないか、スキル振り直しできないかなど色々と試したものだ。懐かしい。
尤も、現実にそんなモノが存在しない以上、あくまで妄想と自己満足の域を出なかったわけだが。
ま、所詮これは仕事外の雑談だ。追加で軽くおちょくってみて、それでも付いてくるなら『確定』だろう。
「浅く考えろ、世の中舐めろ、保身に走れ、勝っても攻め続けろ。
―――それが綾小路清隆、だろ?」
「夢月はいったいどういう目でオレを見てるんだ」
「なにって、それは」
「いや、やっぱり言わなくていい。ロクなことじゃないのは目に見えている」
予想通り、雑談しているに過ぎないとわかった他の奴らは、僕達に話しかけることなくそれぞれの場所へ散っていった。
まぁでも、特に親指を立てて見せた四方や、去年の無人島でも何処からか連れてきた白蛇を僕の腕に巻き付けた早苗なんかは、理由ありなのを察したからだろう。他も思考力が高めな面子だしな。
好き嫌いは別として、清隆がほとんど無駄なことをしない奴なのも僕の仲間内(と、坂柳さんもか?)では割れている。変なことに巻き込まれる前に立ち去るのは、危機感あって良いことだろう。
適当な話題で清隆と駄弁りつつ、設営指示の合間に自分の竈を組み立ててると、″数種”の視線を感じ―――ほぼ同時に清隆が話題を変えた。彼の視界と声が届く範囲から僕以外が消え、人の気配っぽいモノ(早苗が僕に巻き付けてった白蛇だけは意味わからんが)も『なくなった』からだろう。
遠回りながら、それは核心にカスってる話から始まった。
「なあ夢月。お前の地雷って───もしかして自己犠牲か?」
「なんだ、突然。合ってるけど」
意図は充分伝わったので、僕も勿論それに乗る。
「それは『悪い方』の自己犠牲、だよな?」
「ん? 自分を犠牲に現状を好転させたり、クラスや学校に尽くしたり、全体に貢献したりは良い方って認識か? なら、それも正解だ」
「つまりだ。茶柱への一連の対応は……」
「悪い方だと確信したからな。できるなら、僕はもうあの先生に関わりたくない。清隆も強いられたとしても我慢や自己犠牲は止めて、難しそうなら言えよ? 友達として気分悪いし」
「友達……はは、マジで墓穴が奈落に繋がってたな」
船のタラップで僕達を見ているうちの担任ともう1人なら、話題の方向性は明白だからだ。清隆に比較的安全だが回りくどい手を取らせない絶好の機会である。
なにより、精神攻撃仕掛けてる側のはずの僕が、なんでこんな精神ダメージ受けなきゃならんのだ。奴にかかずりまわされるのはもう嫌である。だから、これ以上がなければこれで終わりにする。
「しかし、何故だ? オレがあと少し雌伏すれば確実に」
「確実に仕留められようと、清隆が我慢するのは長い目で見て悪手だ。多分、お前にはその価値観がないだろうから教えてやろう。
───考えの浅い大人相手にいわゆる『大人の対応』をするのは絶対に止めた方がいい。たとえ、一時的であろうとだ」
「大人の…対応?」
目先の利益にすぐ釣られるのは馬鹿と無能の第一歩だ。
不都合が起きても、思い込みなどで自分や相手を情を利用したりして誤魔化そうとするのが第二歩。
そして誤魔化す範囲を広げようとするのが第三歩。
例えば、目先の利益に釣られるのは人間の性だ。だから理由があってやった自分は悪いけど悪くない。とか、自分じゃなく人間なんて無駄に枠を広げたりな。
女の思い込みは一生モノというが、まさに茶柱先生はこれを何度もやったのだ。一歩目だけならギリギリ挽回も可能だったろうに、墓穴を掘り続け……いや、僕の視点からは何もしなかったのが墓穴を深くした。
逆に頭が良い奴は、大抵の場合において最短最速最効率を求めがちだ。そういう奴がこの愚かさを見抜けないはずがない。しかし、他人への評価も変化が緩やかになる。そもそも他人へ期待をあまりしないから、よほどムカつかない限り許容量を越えるまでは水に流し続けるし、許容量も大きい。
そんな偏った天才である清隆だからこそ、おそらくこの視点は欠けているだろう。
「ああ、清隆は日本と海外で、それぞれこの大人の対応がどう認識されてるか知ってるか?」
「違うのか」
「ぶっちゃけた話をする。日本では多少の無礼を許すとか、寛容だったり冷静沈着な対応をそう言うが……海外の認識だと泣き寝入りだ。駄目な奴を調子に乗らせてしまう、ってな」
「それは……聞いたことがあるな」
「だろう? お前のクラス担任、アレの言うことを利用するでも一時的でも演技でも聞くってのは泣き寝入りでしかない」
本人も察した顔をしてるが、今コイツにこれを言っておくことで布石としてはまずまずだ。僕がある程度の実績を出せれば、後で乗ってくれる目が出るかもしれない。
「場面を変えて想像してみれば一目瞭然。大人の対応って簡単に言うと、立場が強い奴に立場の弱い奴が要求を呑まされる場面がほとんどだろ? それなのに立場が強い方の横暴を、策だとか油断させただとか余裕だとか寛容な精神だとかで許してみろ。最終的に地獄送りにするとしても、それまでは確実に舐めてかかってくる。それを見せられる周囲はムカつくに決まってる」
「それはそう、だな」
「国際関係だってそうだ。日本は言えば金を出すATMだ、なんて言う奴らが大量にのさばってるじゃねーか。それに少しでも反撃しようものなら被害者面だ」
「あの国か……」
「馬鹿馬鹿しいけど、完全に調子に乗らせ続けてんだぞ。そして茶柱先生はその同類だろ。いい加減に無視という選択を覚えるべきだ」
具体的な内容は、先読みした茶柱先生への対応を、更に先読みした行動予測にひと捻り加えたもの。十中八九、本来はもっと先々で清隆が打つだろう手への早回しな誘導である。
「歴史から学べば空海も、神道の禊から来た『水に流す悪習』を止めろと警告している。これは空海が唐に行ってた経験で気づいたものと思われるが、言葉が通じない人間相手だと大人の対応はそれくらいには駄目な対応なんだよ」
「……自分の間違いに気づいて反省するような奴ならともかく、表面上だけで反省もしない輩まで許すのは大間違いってことか」
それでもまだ凡人レベルならしかたない面もあるし、周辺被害も大きくなりにくい。だが、天才級や影響力の強い奴が大人の対応をした時は要注意だ。
素直に爆発してくれるならまだマシな方で、破滅させる者への道連れは対象者以外も相当数に上るだろう。
友達関係の天才達を当てはめると、早苗や鬼龍院先輩が前者で済ませてくれそうなのに対して、清隆は敵に回すと後者に発展させる確信がある。
ケースバイケースな四方や高円寺、怒らなそうな愛里や椎名がいかに僕の癒しになっているかと言えばわかりやすいだろうか。
個人的には、前から垣間見せる他人に対してナチュラルに収穫時期とか考えてそうな頭ヒソカっぽい部分(比喩的な偏見)もある清隆が怖すぎる。コイツは、わざと僕に黒い部分を見せてる節があるので尚更だ。
はっきり何とは言わないけど、状況を好転させる目的の攻撃行動(強要含む)は、大抵の場合において事態を悪化させるしかないと歴史が証明している。なのに、あえて『その手』を選択する奴は多い。
調子に乗った馬鹿や無能の末路は、退学した山内を思い出すまでもないだろう。
まぁ清隆の様子を見ると、やりすぎた感も否めないか。
なので、次があればもう少し穏便な方法で逆撫ですることにしよう。
今日のところは、とりあえず清隆にあることあること吹き込むことで直接的じゃないやり方を学習させておく。他の優先度の方が高いしな。
元々、僕は茶柱先生とかより、良くも悪くもこの人間性や性格を犠牲に得ている天与呪縛みたいな偏った性質の奴らへのフォロー戦術を基本としているのだ。すなわち第一に清隆、そして一之瀬と坂柳さんが次点だと勝手に思っていた。
1年半くらいの期間この学校で見聞きしてきたが、明らかにこの3人の周囲が面倒事の中心になっているのだ。茶柱先生などの視野が狭い奴らよりも、そして龍園や南雲などのヤベー奴らよりも対処する優先度は高い。
……それにしても、天与呪縛な何らかのギフテッド級異常者が複数存在するとか、ここは地獄だったの?
てか、どんだけのモノを犠牲にして能力を高めてんだよ、この3人。ガワから考えて一之瀬は別方向の縛りかもしれないが、『俺』の頃を含めても似た奴すら思い浮かばない。
ついでに言うと、櫛田や南雲、平田なんかも少し前までは警戒してたが、何故か最近の櫛田や南雲は憑き物が落ちたような穏やかさもそこそこ見せており、平田は単体なら周囲が抑えられるはずだ。こちらは余程間違った対応をしなければ、成長に伴い危険性は少なくなっていくだろう。なってくれ(希望的観測)。
だから、いまだにそう見える奴には、あらかじめ僕流の処世術を吹き込んで少しでも中和しておく。
「身勝手な奴らは悪魔や悪霊なんかより醜く酷い。反省の色がないと感じた奴らからは、すぐに距離を取れ、切り捨てろ。「いつかわかってくれる」なんて日は、関係が続いてる限りまずやってこない」
「しかし現実で猶予なくそうするのは、少し厳しすぎないか? 前に晩成型は気長に見ろとか言ってたが」
「わかってんだろ、それとこれとは話が違う。そうできないから、普通の善人やマトモな奴は心が疲弊していくんだ。一之瀬や平田みたいにな。でも清隆にできないわけがない」
そしてこの天才ならそれを深くまで読んだ上で『学習して』乗ってくれるだろう。なぜなら、特定の奴以外に全く不利益が生まれないからだ。まぁ、一見では不利益っぽくなる場面は出てくるだろうが、清隆を舐めることなかれ。コイツはやる奴だ。
逆に清隆を止められる状況を作ったり、可能な人物もいなくはない。だが、はっきり言ってそれをするくらいなら別のことにリソースを回す方が絶対に良い。清隆相手に限らず、何故か勝負なんかで敵ポジションの奴を倒そうとする奴は多いけど、得も少ない面倒を自分から背負い込もうとする意義が僕にはわからない。
「だから怒らず、黙って、反省しない奴との関係を断つ。すり寄ってきても、もう許すな。間違いなく人が変わったという確信を持てるまでは、可能な限り接触を避けるが吉。ただ面倒を増やされるだけだ」
「なるほど……一理あるか。そもそも関わらなければリソースを割かれなくて済む、と」
「ま、本気で嫌いになった奴だけだがな、ここまでするのは。必要ができたら感情を抑えてでも礼儀を持って接するさ」
軽口を叩きながら、清隆が本当に聞きたいことから話を逸らす。
いよいよ核心に近づいてきた予感から、少しでも目を逸らすために……。
4月とかけて人狼ゲームと解きます。
その心は、立ち回り次第で浮きますので皆様も注意しましょう(1敗)。