ようキャ   作:麿は星

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 導入説明回、というか清隆とのやり取りの続き。
 長くなりすぎたので割って削りもしたのに、それでも清隆との会話すら1話に収まりきらなかったという。どうして。



168、祈り

 

 情報源が微妙なため、信憑性がないとは言わないが真偽を確認してからでないと動くのにはやや不足。

 損にも得にもならないからといって、それが信用になるわけがない。世には愉快犯や虚言癖という理のない嘘をつく輩がいる。誰のことかは言わないがな。

 

 嘘であればもっとマシな嘘を吐く、と言ってようと、それが翻って下手な嘘が真実になるわけがない。少なくとも、僕はまず信じない。まともな嘘すら吐けないのかと笑って終わりだ。

 

 あるいは、騙したところで一文の得にもならないとか、嘘ならもっとマシなものを吐く? そんな拙い考えで簡単に信用する人物など、生憎こちらが全く信用できない。だから、客観的判断を下せない馬鹿という烙印を押す。友達以外なら、どんな取引相手にもしたくない。論外だ。

 

 嘘を言っているような目ではなかった? これも問題外。本人がそうと信じて勘違いしてたらどうする。それでも無条件で信じるというのか。

 というか目を見て、なにがわかるんだ。文学的表現を現実のビジネスに持ってくるな。主観的事実は客観的事実とイコールではない。

 

―――端から見れば荒唐無稽な『俺』を、僕がなるべく語らないようにしている理由の一端である。

 

 

 

 

 

 さて、何を唐突に語り出したのかと不思議に思う者もいるだろう。

 うむ。口に出すと現実味が出てきそうで、一瞬だけ現実逃避しただけである。

 だが、深淵を覗く目をした清隆は、僕のそんな現実逃避を許してくれる奴ではなかった。

 

「なあ夢月。お前、大丈夫か? 甘くは見ていないだろうが、かなり際どく攻めてるだろ」

 

 いつか何処かで僕が言った気はしつつも容赦なく察しているとわかる気遣いに、逆に僕は開き直る事にした。当然、一応は声を潜めた上でだが。

 

「大丈夫じゃねーかも。まるで飯屋で会計したら、持ち金がギリギリだったかのようなスリルだぜぇ」

「……お前はどうしていつもそうなんだ。変な喩えを出しやがって」

「ふっ。ユーモアは忘れないようにするのがいい。人生に潤いが作りやすい」

「緊張感が削がれるんだよ」

 

 コイツは、もう少し日頃から保ってる緊張感を削いだ方が良さそう。潤い成分がほとんどないもの。

 よろしい、ならばジョークをふんだんに盛り込んだユーモアだ。

 

「……ふぅ、清隆」

「……なんだ」

「無人島にいる間に、おそらく誰かの襲撃が発生する」

「誰か、か」

「コトは一刻を争うかもしれない」

「お前の脳内でか?」

「ああ、総力戦となるだろう」

「今度はどんな大事にする気だ、夢月」

「試験が灰燼と化す可能性も」

「洒落にならないな」

「しかし僕は一歩も退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ! 退いてなるものか!」

「少しは退け。オレはドン引きだ」

「かかっているのは、ほかならない僕の豊かな食生活。無理な相談だ」

「誰がいつ相談なんかした」

 

 ば、馬鹿な……!

 界王拳(気分)を使ってさえ、引き離せない。普通に合わせてくる、だと? 清隆の学習能力は底なしか!? もはや自分でも、なに口走ってるかわからなくなってるというのに……!

 くっ、ならばこれならどうだ。

 

「学校は大惨事世界大戦へ突入するかもしれん」

「どんな大事にする気だっ!?」

「よくわからん奴らも、一歩も退けないだろう事は予想に難くない」

「ふざけた宣戦布告かよ。たしかに退けなくなるだろうな、あまりの馬鹿馬鹿しさに」

「しかし僕の威信にかけても、カレーの食材を我が手にしてみせる。魔の手にはけして渡さん」

「夢月の手こそが魔の手に決まってるだろうがっ! って、言わんとすることはわかるが、遊びがすぎるぞ!」

 

 うん。乗ってはくれるけど、いい加減呆れた目になってきた清隆がいるし、そろそろ真面目になるか。

 別にやらなくても良いことだし、まさか僕達以外を狙うほど想定『以下』に近視眼な愚か者でもないだろう。なら、間違っていないはずだ。

 

「遊び! そう、遊びだ!

 スリル満点のリピート率100%。左京夢月の無人島ツアーだ。ついてきたら良いことしかないぜ?」

 

 ちょっと冗談がオーバーランしちゃったけども。

 まぁ、心の休息は重要だ。問題ないだろう。

 

「……おい夢月。それ、襲われる危険性があって戻れなくなる確率100%ってことか? つまり、違う意味でまたオレを巻き込もうとしていると」

「うるせぇ。潜んでるのが、肝の据わった天才型なら僕、頭良くて冷酷な小物なら愛里か櫛田、無難で小心な愉快犯なら無関係で適当な奴。早苗や坂柳さんをなんとか護衛に付けられた愛里と櫛田はまだしも、こんな予測でもし僕に来たらと思うと怖いに決まってんだろうが」

「てか、なぜオレがそのラインナップに入っていない……? 十中八九、これはホワイトルーム関係だろう?」

「僕が知るか。得た情報を鑑みても、向けているベクトルの方向性含めてどうも読めん。感情最優先で動いてるようにも見えるし、清隆の自衛能力が完璧っぽいのも相まって、もしかしてお前を襲いたくないんじゃね? とさえ思う。

 流れからすると不自然な話だけど、なんか清隆が直接攻撃されるビジョンがないんだよな。勘だけど」

 

 なんせ候補はなくもないが、いまだに姿がはっきりしていない。不気味な行動原理とも言える。

 今更ながら、現時点で面倒事発生候補の筆頭である『八神』は厄介な存在だ。清隆と話せる今のうちに仕込みを強化しておきたい。

 

「愛里の方には早苗を、櫛田とついでに一之瀬の方には四方と坂柳さんを防衛に配置しといたけど、僕には防衛策が少ないからな。安静期間の四方は一緒に行動できる状態じゃないし、狙われる確率はそこそこある。だからまぁ、危なくなったら清隆に頼みたい」

「はぁ……。バスケをあれだけ大々的にやった時点で、オレは元々そのつもりだ」

 

 奇策やフェイントを一度でも見せれば次はない清隆に、バスケというスポーツ勝負を利用して大盤振る舞いの『学習』させたのがここで繋がってくるとはなぁ。

 予想通り、いくつかの目的は見透かしてたみたいだ。

 

「そもそもオレの問題だったからな。合流はケースバイケースになるから、それまでは自力で耐えてもらう必要もあるが」

 

 本来の僕の試験目標は至極シンプル。

 あらかじめ大っぴらな誘導策を打って(バスケや各所との交渉)絞っておいた自分を含めた狙われるだろう候補者の防衛である。すなわち、僕・愛里・櫛田・清隆の4人が大過なければそれでいい。

 向こうにとっての好機…月城さんが退任するまでやり過ごせば、おそらく大掛かりな仕掛けは難しくなるからだ。

 

 問題はなんらかの感情由来の私怨とかで動いてる場合だけである。こういう奴には得てして理屈が通じないし、何をしてくるかわからない。そしてぶっちゃけ、この目が現実味を帯びてきてそうで怖い。

 当然、愛里は僕のとばっちりみたいなものだから最優先に早苗を付け、聞いた感じ櫛田もなんか狙われてるっぽかったので椎名と一之瀬、坂柳さんを付けてあるがそれでも……。

 

「うん。それはわかってる。逃げ隠れは僕のデフォルトだし、自然環境の中にいる限り、捕捉されないように立ち回るさ。でも清隆に準じるような奴らに対して、どれくらい通用するかって心配はあってな。そういう奴が来たら……悪いけど助けて?」

「ククッ、相変わらず夢月は取り繕わないな」

 

 そのぶん僕の防御が薄くなったし、自衛してもなお余裕ある清隆にフォローを頼んでおく。

 コイツと2人で打ち合わせできる機会は、おそらくそれほど多くない。できる時にできる根回しをしておくべきだろう。

 

「あ、でも助けてもらうだけじゃない。お前が困った時は駆けつけるよ」

「お互い様ってヤツか。いいだろう。お前の言葉には説得力がある。貸し借りはこれで一旦チャラにしよう。

 しかし、高円寺や東風谷には頼まないのか? 東風谷はともかく、高円寺も今回は1位を狙う理由があるし、オレと組もうとする以上は高順位を狙うはずの夢月ともやりようによっては組めるだろう。それに夢月なら交渉段階に持ち込めるんじゃないか?」

 

 すると、清隆は案外あっさり承諾してくれた。ついでなのか高円寺や早苗への提案もだ。

 

「いや、すでに頼み事してる早苗は勿論だけど、高円寺にも損失を越える利益にできるほどの対価を用意できねーんだよ。気紛れかなんかで組んでくれても返せるモノが足りない。ポイントかなんかで貢献できたとしても、±0どころか足を引っ張るだけになりかねないのは、アイツらに失礼な上に美学もない」

 

 ただ、高円寺に関しては、櫛田からバスケの勝負後に聞いた事情を考慮すればエレガントさに欠ける。却下せざるをえない。

 

「考えるまでもなく却下だ。友達だからって、WINWINにできないのに頼むのはナンセンスだからな」

「高円寺に失礼、か……」

 

 自然にサラッと早苗を抜いたあたり、わかってるな。愛里達のグループの守りの要にこれ以上頼るのは、早苗の負担が重くなりすぎるって。

 そして、高円寺もだ。なんでも無人島サバイバルで高円寺単独で1位を取ったらこの先は自由にしていいって約束を、教室で本人自ら言い出したらしい。

 どちらにせよ、邪魔をするのは違うだろう。むしろ必要があって可能な状況であれば僕から支援するつもりだ。

 ゆえに、清隆なのである。

 

「その点、清隆なら『試験外』の件で返せるあてがある。人間関係ってのは一方だけだと、大抵どこかで破綻するからな。特に友達には貸し借りトントンが成立する場合にしか頼らないって決めてるんだ、僕は」

 

 だから、丸投げする時も最低限は考えていた。

 ゆえに清隆なのだ。読みが多少でも当たってれば、試験結果以外で清隆に利益なる僕の役割がある。

 そう。言わば、痒いところに届かぬ手である。

 

「ただ、最終的な成果は……付いてきたらオマケになるねって感じで」

「ははっ。ホワイトルーム生を貸し借りのあてに計算できるなら、やはり夢月は組む価値があるな。

 よし、形振り構わなくなってきたらオレを呼べ。お前と双方で利用し合うのは面白い。勝手に消えられては、勝ち逃げされるようなものだからな」

「ああ、じゃあもしもの時は遠慮なく」

 

 それにしても、こんな提案をしてくるとは清隆も親切モードにでも入ってるのだろうか。

 気のせいかもしれないが、何気に僕のナニかを認めてる色がその視線から感じられる。コイツにそう見られるのは慣れてないせいか少し落ち着かないが、出会った当初の精密機械っぽい奴よりは安定感があって付き合いやすくなった。まぁ、何かの衝撃とかで壊れたんかコイツ、とも内心思う事はあるけども。

 だから僕は雑念を振り払うように、もう解禁されてるはずの推測を清隆に伝えた。

 

「それと昨日の説明会で月城さんの挨拶聞いてたお前ならすでに察してるかもしれないが、これも言っておく。

 おそらく特別試験やお前の退学を狙う1年生とは別に、無人島滞在中の2週間で月城さんが清隆専用のテストか見極め…のような何かを用意しているはずだ。それだと確信したら、なによりもそっちを最優先にしろ。清隆にとってもそうするのがプラス部分も大きい」

 

 この舞台を整えるのが、清隆への借りを返すあてである。

 多分、本来はホワイトルーム関係の誰かがここに当てられるはずだったのだろうが、船での月城さんの挨拶から考えて本当に誰も動いていない。それなら、月城さんが自分を駒にして動くしかないだろう。

 仕事人気質な権力者は、なんであれ仕事の達成にベターな選択するので、その決断を下すと信用できる。

 

「ほう? その根拠は?」

「はっきり言って月城さんが清隆を本気で退学させる気なら、もうお前はここにいない。能力がどうこうじゃなく、僕でも『大人のやり方』を解禁すれば達成確率8割は固い道筋を描ける。月城さんなら尚更だ」

「む、それは同感だ。まだ確定はできないが、いやに手ぬるく、戦略目標も見えてこない。何かあるとは考えていた」

 

 8割はかなり控えめだったかもしれない。

 なぜなら、ある程度以上の権力があれば、退学させるだけに試験を利用なんてしない。背景を考慮に入れると、1年生への懸賞金を目眩ましに、多少強引でも本職かそれに準ずる荒事専門の人材も引き入れた上で『後輩』との混合による清隆襲撃は確実にやる。

 

 僕も『俺』を辞めさせるために何度か上司達から脅迫と暴力のハッピーセットを送りつけられたので、そういうやり方がなくはないと知っている。現に、僕の逃げ癖と電話が苦手なのはこの時に培われたものだ。

 一度だけ対面した篤臣氏がもし本気であれば、こうした選択肢はほぼ確実に用意させるだろう。

 また脅迫・暴力のどちらか、あるいは両方を実行に移す奴らも場所によっては意外と多い。

 

 少し話はズレるが、『俺』が大学1年の頃に講義で不在中、N○Kの集金人に安アパートのドアに蹴りを入れられて穴を開けられたことがある。

 帰宅したら、その穴にねじ込まれていた置き手紙?と、マジックで「明日いなかったら殺す」ってドアにされた落書きは怖かった。

 警察に通報しても、逮捕どころか被害届けすら受理してくれず、見て見ぬふりされたのは絶望感半端なかった。

 翌日、部屋に土足で上がり込んできたおっさんに、テレビが存在しないのがわかると「けっ、貧乏人が」と部屋内に臭い唾を吐き捨てられ、掃除してた時もやるせなかった。

 

 今なら大半は脅しに過ぎないと割りきれるが、当時はたかが学生から金をむしり取るのにここまでするのかよN○Kって後に強く思った。前の大学時代はほとんど記憶に残ってないのに、記憶に焼き付いているほどだ。あと都会は怖いところであるとも……。

 かように、実際に暴力を振るわれなくても、こうしたことは日常と隣り合わせなのだ。

 

 閑話休題。

 ともかく襲撃に対し、たとえ清隆が返り討ちにしようと濡れ衣を着せるのも簡単だし、大人しく捕まっても結末は変わらない。生徒1人を退学させるのに必要充分な材料は得られる。他にも、清隆の能力がどうだろうと逃れようがない手はいくつかあった。これならば、篤臣氏と同質のナニかを感じただろう。

 それなのに、ほとんど動きがないのだ。なかった時点で、少なくとも本気ではない。

 

 この無人島で清隆が誰か(主に女子か?)に手を出したら退学、みたいな遠回しな注意に見せかけた誘導くらいか。おそらく淫行系だけじゃなく、喧嘩とかをふっかけられて直接的に強い反撃をしても、場合によってはアウトまで持ってかれるだろうが。

 

 僕は去年の体育祭後から清隆と図った上で、たびたび松雄や縁のあった財閥などに思い付く限りを想定した内外の防衛策を打っていたが、現時点までの明確な攻撃行動は宝泉だけだ。

 退任リミットも迫ってるだろう現時点に至ってさえ、マジで月城さんと……あと少数しか動いていない。月城さんへの妨害とも取れる回りくどくキナ臭い動きはあっても、である。意味がわからない。

 

 ただ、月城さんもホワイトルームの関係者らしい奴らもこれらを実行せず、それぞれの目的のみへ向かってる時点で、本気で清隆を退学させたいわけではないのはもはや確定した。

 そして、それによって月城さんの動き『以外』の危険性が跳ね上がったのは言うまでもないだろう。

 

 暗に、退学なんかじゃ済まさない、って言ってるようなものだからだ。そうじゃなくても、早苗並かそれ以上の嫌悪や“憎悪”を清隆に向けている匂いがする。スパイや工作員にあるまじきコトだが、感情に振り回されてるっぽいというか。

……あれ? ってことは能力はともかく、だいぶ器が小さいかもな。世代ごとに『狂育』方針に変更があるのかもしれないが。

 

 ちなみに、そういう『特殊な事情』がない奴は、懸賞金があろうと十中八九清隆を狙う動機が足りない。

 万全にしておいた一之瀬が1年生全体から支持を集め、人によっては南雲より信を得ているからだ。しかもその一之瀬に坂柳さん達を付けている。

 

 宝泉みたいな単独に拘らない奴がいようと、四方と坂柳さんに情報が入った時点で封殺、最低でも対抗策などいくらでも出すだろう。相当な無茶をしなければ、清隆の危機に繋げられないだろうしな。

 ゆえに、残る心配事は僕自身の安全だけだったのだ。話せることを話して困った時の冷徹なドラえもん枠、清隆に現状把握を深めさせておく。

 

「なら、清隆の退学は努力目標で、別の目標があると推測するのは自然だろう」

「つまり、だから必要な時にオレを動かしやすくするってことか」

 

 相変わらず端的すぎる返答だが、わかってるっぽいならいいか。

 あの月城さんが下手を打ったり、機会を逃がすとは思えないものの、清隆が形振り構わず逃げを打ったら色んな意味で面倒になりかねない。

 

「そう。助けてくれるなら、その事も頭に入れといてほしい。お前にただ迷惑をかけるのは趣味じゃない。

 最低限必要な清隆個人への見極め的なテストは、月城さんの仕事の範疇に入るはずだ。遠回りとはいえ、便宜を図ってもらえる相手にはそれなりに返しとけ」

「夢月のようにか?」

「それもあるが、細かろうと月城さんとのコネは持って損はない。教師や学校の信用が低下している現状、数少ない有能な大人のお偉いさんは切り札になりうる」

「なるほど……了解した。計画を微調整しておく。それに、だ」

 

 微調整って、お前……。てか、ん? なんか雰囲気が。

 大筋に変化ないなら、僕の助けとかいらなそうなんだが。それに清隆が親切だと逆に心配になってくる。

 不思議と進級前後あたりから僕への見る目が変わった何人かいて、そこに清隆が含まれてるのに困惑がないこともない。

 でも、そこまで難しく考えることでもない、か。いつもの無表情ながら楽しげな雰囲気はあるし、助け合いできる状況なら友達として自然なことだろう。

 

「───お前とオレが味方同士だ。なのに、不透明な状況を覆す考えもないのか?」

「不透明って、それは違う話だっ……いや、清隆。まさかわざとズラして言ってない?」

「ふっ。なかなか早かったな夢月。そう、ソッチの話だよ」

 

 うむ。今の今まで勘に過ぎなかったが、変なところで確信してしまった。

 唐突に思えるが、最近のコイツ『ら』……清隆と櫛田の微妙な変化の理由だ。普段ならしていそうな隠蔽じゃなく、まさか清隆自ら辿り着けるよう誘導してくるとはな。

 変態オブ変態の名は伊達ではないということか。

 そして、清隆が僕を導いたのは───。

 

「───って、アホか! 変化球な自慢でしかねーわ!! なに真面目な話に下ネタな匂わせを混ぜてんの!? 清隆も頭バグってんのか!? 学習能力を全力で無駄遣いして、馬鹿がよおっ!!」

 

 船での彼女自慢コンテストと合わせると、確実にヤっただろコイツら、と。

 しかも、おそらく櫛田と八神のことを話してから、僕が坂柳さんのクラスに乗り込むまでの期間で。もしかすると危機感を覚えた櫛田が関係強化しようとハニートラップを仕掛けて、清隆はホイホイ乗っただけに見せてるのかもしれない───が、なんで今それ言った?

 

 付き合ってるんだからそれ自体は好きにすればいいけど、遠回りに変な遊び仕込んでんじゃねーよ。

 最近の櫛田の安定感や話がやけに早かったのは、清隆から何らかの示唆や助言、協力でもあったのではなかろうか。

 

「馬鹿、か。ククッ、オレが馬鹿……」

「笑ってんじゃねーよ、この天才馬鹿。凡人にもわかりやすくしろって言っただろ」

「はははっ! いつものお返しだ。夢月もよくやるだろ? 馬鹿げたことを根底に仕込んで引っかけるのをな。オレなりに応用してみたんだがどうだ? お前なら『余計なことまで』見抜いてくれると『信じてた』ぞ」

「コ、コイツ……!」

 

 ユーモアが効きすぎたか。

 裏を察すればわかるあの櫛田を相手に勃つってのもすごいが、なんで僕にこんなアホなことするかと思えばこれかよ。いつかに僕がやったことを返してきやがった。より洗練されたより下ネタ方面の応用で。

 七つ以上の大罪(虚飾や憂鬱など含めると総数が10を越える)を複数併せ持つ新種の悪魔同士で、噛み合ってしまったのだろうか。なんて悪魔合体。世も末だな。

 

 くっ、どこの誰からこんなアホらしいおちょくりを学習してきやがったんだ。てか、何が結びつけたコンビなんだよ。コイツが言うには、僕か……僕だったな。僕はなんてモノに手を出してしまったんだ……!

 

 ちょっと衝撃的だったので、一瞬だけ禁忌に触れてしまったギリシア神話のパンドラのごとき後悔が僕を襲っていたが、よく考えたら実害はない。

 更に冷静に考察を深めれば、あえてこうした清隆の真意も見えてくる。……僕のフォローを考慮に入れているのだろう。まだ何も始まってないから口には出せないが感謝する。

 

 それにしても、出会った当初から最も内面が変化してるのって、実は清隆なんじゃなかろうか。内外両方だと愛里や早苗とか女子の方が変化率高そうだけど、なんというか良い意味で気安くなってる気がしなくもない。

 なので……というわけでもないが、切り替えて『大人の対応』で華麗に水に流すことにした。

 

「……ふぅ。そうだね、信じてくれてありがとう。櫛田の封印、お疲れ様っした! これからも継続してどうぞ。ヨロシクね♪」

「ぇ…き、切り替え早すぎだろ夢月!? は、え? しかも労い? てか、何故急に素に戻った!?」

「さて、と。話は終わったし、カレーだ、カレーっと」

「話が終わった!? 終わってな…いや、終わってたか!?」

 

 清隆がなんか混乱してるっぽいが、たまに爆発力を伴って騒ぐ奴なので、もう放っといても問題ないだろう。なんせ清隆と友達付き合いするならわかって当然だが、これはお互い承知の上での茶番にすぎない。

 

 遠目に見ているはずの教師達へのカモフラージュ的なパフォーマンスを怠って面倒を増やすほど、清隆も僕も馬鹿ではないからだ。その証拠に、話し始め当初と違って普段のおちょくりなら僅かに変化する清隆が、勢いのわりに無表情のまま動かない。僕にのみ演技だと伝えてるつもりなのだろう。

 

「清隆、君にこんな言葉を送ろう。

───Why so serious ってな?」

「っ……健闘を『祈る』ぞ夢月」

「だから、固く考えすぎっつったろうに。まぁサンキュ」

 

 とりあえず確認の一言の反応を見ると心配はいらなそう。

 僕の言葉の意味はそのまま「真剣になりすぎず、楽しもう」である。それに対して清隆が返してきた言葉の真意は「夢月らしいな、いざという時は頼れ」だ。四方や早苗に適してはいても清隆にそぐわない『祈り』という表現は、清隆以外に対しても適用されると言いたいのだろう。

 自分自身はともかく、四方の退学もかかってることに重くなっていた心が少し軽くなった。感謝する。

 

 運び入れも完了し、その間に話しながら竈も完成したし、次は生物系の食材を四方に預けつつ、出発点の各種設営作業でカレーの材料集めか。それと初日最後のチェックポイントは踏んどくのが無難だ。ついでに、近くで良さげなフリー課題とかもあるといいな。

 おっ、早苗が渡してった白蛇も付いてくるのか。

 

≪当たり前ですよっ≫

 

 ふっ、いいだろう。僕から振り落とされるなよ。

 ってな独り言のような会話のようなことをしつつ、突然発生した内なる敵と葛藤してる『っぽい』ままの清隆を置いて、僕は四方や坂柳さんが使うと思われるテントやトイレ・シャワーなどを設営しに向かった。

……蛇の神様を思い通りに動かす神様…と早苗っていったい何者だよ、っていう疑問はうっちゃって。

 




 お気づきになった方はいるだろうか。
 そう。2話に分ける文章量にも関わらず(しかも船での話を含めて3話、もう少し続きまである)! 無人島サバイバルの初日で始まりにも関わらず!
 左京と綾小路の二人は、ほぼ特別試験の話をしていないのである! ただ友達同士で駄弁ることだけにすでに30000万字以上(削った部分含め)を消費したのである!
 一応は無駄な話ではないつもりけども……お読みくださった方、ありがとうございました。
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