無人島2日目。
とある同行者とイチャイチャパラダイス、のつもりでした。本当にそうなってるかは…お手数ですが、自分の目で確かめてください。
ただ、キャットルーキーとクロスしてる以上、1年生で唯一?猫っぽい新人とは交流しないとねっていう。七瀬は犬っぽいし、彼女は確実に猫でしょう。
あと今話も長め(約14000字)です、すいません。
キャンプファイアーの翌日、朝7時。
支度を整えて指定エリアに向かおうとしたら、スタート地点で課題が発生した。
5×5の升目に1~25のランダムな数字が振られ、それを1から順番に押していくというシンプルな課題だ。一応は運動系でありながら体力をほとんど使わずに済み、参加人数の制限もない。上位3名が8点、5点、3点。上位20名までなら1得点。副賞はなしだ。
しかも、たいして時間もかからない課題の上、僕の指定エリアがG7の山地で距離があったため、スルー前提で参加することにした。
朝っぱらだったこともあって、愛里や早苗達、清隆、鬼龍院先輩、南雲も参加してから出発するらしい。ちなみに高円寺や栄一郎・七瀬は、すでに出発済みだ。
この面子に加え、かなりの人数が今ここにいるから僕が上位を取るのは難しそうだが、半リタイアの四方の参加が可能だったので労せずして得点を得られるだろう。こういう集中力がものを言う課題だと、四方の独壇場である。
というわけで、空いてた席で試しに僕がやってみると16.8秒の19位。次の早苗が6.3秒、愛里は41.9秒、椎名は59.1秒、四方など脅威の5.3秒で1位だった。
愛里や椎名はともかく、僕の記録だって一般的にはかなり良いタイムなのに、遅く感じる不思議。なぜなら、一緒にやった身内だけで見ても早苗がヤバすぎるし、それすら越える四方はもはや人外の域である。
だって単純計算で秒間5箇所のボタンを瞬時に判断しつつ、25連続だ。
沖田総司の三段突きか飛天御剣流の九頭龍閃でも習得するつもりなの? それもう何らかの達人の領域だろ。
しかも四方が飛び抜けてるだけで、他の奴らも負けていない。
清隆は奇遇にも6.3秒と早苗の同タイムの同率2位。南雲が8.5秒で3位。宝泉が8.8秒、鬼龍院先輩も9秒ジャストと続く。
いや、柴田や須藤、平田なんかのスポーツ系エースも越えられなかった10秒の壁を気軽にぶっ千切ってんじゃねーよ。櫛田や一之瀬すら20位内にいない時点で普通の奴には無理ゲーになってんじゃねーか。
見てるだけで参加しなかった天沢やここにいない高円寺とかも考えると、いつぞやのように一般人と逸般人で分けた方が公平なんじゃなかろうか。
南雲もこれなら実力勝負する相手に困らないだろう。ここまで関係した以上は『実力以外』は僕がなるべく対応するし、せめて分担してほしい。
まぁ結果的に、僕と四方で合わせて9得点。幸先良いスタートになったし、出発前に挨拶を済ませられたので良かったってことでいいか。栄一郎と七瀬が楽しそうに合流したみたいだし、他にも思わぬ出会いや再会で交流を深められたらしい。
ちなみに七瀬は、宝泉と天沢の3人グループを組んでるのに、昨夜含めても彼女ら同士ではほとんど会話していない。それどころか宝泉は課題が終わると早々に何処ぞへ旅立ち、天沢は僕に付いてくるというバラバラさ加減。
不思議な“協力関係”である。
一之瀬に絡まれる気配を察知して迅速に逃走したら、いつの間にか僕に合流してた天沢の会話内容含めて自由な1年生達だ。
「左京先輩。相対性理論だと光を宇宙で最も速いものとしてると言われてるけど、先輩はどう思う?」
「どう、ってお前。間違いとわかってるだろ、それ。だって相対性理論は、光によって宇宙がどのように見えるかを体系化した理論にすぎないんだ。論点が違うじゃん」
「……へぇ。じゃあ重力についても触れられてるよね。この点は知った上でなの?」
「一部の学者が指摘してるように、重力は電磁力が形を変えたものだから光と同じ速度で伝わるってヤツか。だから最も速いものなら電磁力も同じ理屈になるな」
だからと言って、僕と天沢がこんな無人島で物理を語り合いながら歩いてるのは何故なんだろう? そう、天沢に取り憑かれた疑惑の湧いてきた僕としては、まったくもって他人事じゃない。
気紛れで嘘つきな変化系っぽい天沢だから、この行動自体には特に意味はないかもしれないが、妙に言動の引っかりが多い奴だ。
「じゃあさ。最先端の理論とされる超弦理論とM理論は、光よりも速く進むものがないという前提で組み立てられているよね。これと同時に成立しないよね?」
「ああ、その疑問解決は簡単だ。光よりも速いものが見つかっては困るってことだろ」
「見つかっては困る? 誰が? なんで?」
「学者達自身だ。超対称性粒子を探している学者は、M理論の先に重力を除く3つの力が統一できる大理論があると考えているだろ? ところがこれまで観測されてきた素粒子によると、もし光より速い物質が見つかったら、その統一ができなくなることが確定してしまうんだよ。
具体的に言うと、理論上統一はできるが、それはビッグバンが起こるよりも前という大きな理論的矛盾を生み出してしまうんだ。だからこそ現在の『最先端』を研究する学者にとっては見つかったら困るわけさ」
「…………なるほどー。主流仮説から外れてるだけで、筋は通ってるね」
しかし、なんだ…この、僕を試すような専門分野から外れてる奴にはわけわからない質問の連続は。前に早苗にも不自然に突っかかってたのと似てるが、まさか僕のナニかにもコイツのセンサーが引っ掛かったのか?
てか、相対性理論から物理の最先端に至る話題に、年下が普通に付いて来るのヤバくね? 所詮はコレ系の奴と雑談できるってだけの話の種にすぎないから確定はしないが、やっぱり早苗や清隆の同類なのかよ。今、僕に開示してきた理由はわからないけども。
「そういえば、T大の工学系研究科が再来年度から、英語化可能な授業については原則英語で実施する方針にしているらしいけど、これについては?」
話の分野を微妙に変えてきた? しかし、これってたしか『俺』の頃に2026年だかに実施とか聞いた覚えが……。文字通り10年早いだろ。
まぁ、時期は関係なく馬鹿らしいことだが。
「そこまでT大のお偉方が低知能になってんのかよ、とだけ。てか、マジなの? T大がこれとか信じたくないんだけど」
「みたいだね。私も入学前に実家でチラッと耳にしただけだけど、確実にするための動きか何かがあるみたい」
明治時代、大学で学生を翻訳するグループと研究するグループに分けたからこそ日本語だけで研究開発できる環境が完成し、次々に新たな発見している現在なのに……。
ましてや論文を英語で書いてない人がノーベル賞を取る時代に、研究者のリソースを言語の勉強に回すとか、お偉いさんはなに考えてんだ。回帰主義ってヤツか。専門分野にまでそれを持ち込むんじゃねーよ。馬鹿なんじゃねーの、とか言いたくなる。
無能の極みって怖いな。そういう奴に限ってプライドや自尊心だけは高いから、より大人になりたくなくなる。
「うぁ~。近代化を今更逆行するとかないわー」
「あははっ。でも前からこうじゃなかった?」
「……それもそうだな。何とは言わないが、万能やらマルチロールやらの謳い文句にしょっちゅう踊らされてたわ」
「うちでもそうだしねっ」
闇深いわっ……と思ったけど、あえて深くツッコまない。
「だけど、エリートとやらの知能低下もついにここまで来たか。世も末だな」
「まったくだね。何十年前の知識のままのさばってるんだろ。簡単な理屈だと思うんだけどなー」
それにしても……簡単! 高校1年生が仮にも政治も絡む問題を簡単な事だと抜かしやがりましたわよ(錯乱口調)!? しかも相対性理論を始めとする物理学や研究環境についてを普通に会話に放り込んでくるとか……クソ、クソわよっ! 間違えました、お排泄物ですわよ(混乱)!? 天才…天才め!
これでわかってなかった時は上から目線でわからせてもよかったが、話が通じてるあたり本当にわかっていらっしゃる(とんらん)!?
ウッソだろ、コイツ。周辺環境すら整っていたマジモンの天才か? ま、まぁ? 結構簡単な問題ばかりだし? それに人生2週目ならわかって当然───なわけねーだろ!
早苗にも高円寺にも分野によっては時々付いていけないが、前の『俺』が死ぬまでに得た知識や経験は決して軽くないはずだ! そんなのを持ってる奴がポコポコいてたまるか! 現実に目の前『にも』いるが!
ちなみに僕がなんとか返せるのは、『俺』の社員時代に稀にいた窓際族の天才達と会話していたからだろう。
どこかで述べたかもしれないが、IQが高すぎると上司が話を理解できない。そして大抵は天才の使い道がわからなくて、頭が良い奴ほど最終的に退社に追い込まれていくわけだ。
要は、追い込まれていく過程とかで馬鹿すぎる上司が存在ごと忘れ去ったりすると、閑職に居続ける天才が誕生するのである。
これは例えば、東大生の平均IQは120前後と言われているのに対し、実際に測定したIQ平均が112程度だったことからも、上司になりやすい高学歴者の低IQ化が密やかに進んでいると推定可能。
何気にIQが低い方が学力というか記憶力は高い傾向にあるため、昨今の学校や試験に有利な記憶力と学力でごり押ししてエリート街道を歩めてしまうのだ。僕が考えるに、こうした制度や風潮的なモノが低知能エリートが増えた最大要因である。
そして頭が良くないほど努力とやらをして学力や処世術など一部の能力だけ高い馬鹿になり、出世して……得てして自分に理解できない奴を冷遇、または排除したがる。
一方の天才側は、それをされる頃には無気力になってたり抵抗する『意味』がない、ってなってることもあって冷めた目であっさりそこから去る。ああ、能力さえあれば転職やスカウトの選択肢もできるので、何らかの事情で縛り付けられて余程ボロボロにされてなければすぐ次へ行く。
アレだ。日本人の客はクレームを付けず、ただ二度と来なくなって去るのみ、ってヤツの類似である。
でもこうした天才に限って話が通じる奴には友好的だったりするため、会話するようになると仕事や教養、様々な分野において得るものは多い。
現に僕の知識や経験値は、彼らから学んで更に自分で調べて深めたモノがかなりの割合を占めている。僕のような凡人が天才級の奴に多少は対抗できるのは、おそらくこの時や頭が良かった兄貴と語りあっていたからだろう。
嘘か冗談、あるいは出世レースでの敗者の戯言と思う人もいるだろうが、社会に出ると低知能な上司と干された天才はマジでどちらも結構多い。
勿論、後者は単純に上に嫌われてたり無能ゆえの場合もあるし、なんならそっちの方が確率自体は高いが、実際に話して自分で判断してみるまで僕は馬鹿にできなくなっている。
僕が嘆いて、天沢が同意を示したのはここだ。逆に言うと、いわゆる低脳エリートや自称上級国民みたいな奴らが蠢く世界に多少なりとも理解があるということ。
しかも、そういう隠れた天才達と比較してさえ、間違いなく天沢は部分的に彼らの上にいる。話すことで確信した。
出世できるライン以上(IQ160付近かそれ以上)か僕には判断できないが、少なくとも僕よりはだいぶ格上だ。
くっ、友達の天才共といい、なんなんだ。って内心思いつつ、さりげなく目を天沢に向けたら、何故か僕も彼女から僕自身と似た雰囲気で見られてた。意外と気が合うな…合いたくねぇ。
こうして無人島に来ての2日目は、押して駄目ならゴリ押してくる不可解極まる同行者と珍道中から始まったのである。
どうして僕はいつもこうなるんだ……。
それはそうと、天沢はいつまで付いて来る気だ?
もう周囲に人もいなくなってるし、僕を襲う気(性的な意味でなく物理的に)ならこの機会だと思うんだが、どうも天沢にその気配が見えない。
清隆も付いてきてるとは思うけど、どう考えているのか。一向に清隆が現れないのも何らかの理由があるのだろうか。天沢を僕に付けたのが実は清隆の差し金とか?
≪ところがぎっちょん! 夢月には他に誰も付いてきてないし、差し金でもないよっ≫
は? じゃあ今は意味もなくコイツと2人きり? 天沢に『その気』があったら、ここって死地? え、清隆は???
≪最初は同じ方向だったけど途中から南に向かったし、大丈夫だと思ったんじゃないかな≫
ま、まぁたしかに? これって一応は試験だしね。僕の専属護衛してくれるとかは流石に考えてなかったけどさ。天沢ってホワイトルームの関係者で警戒対象の1人だった気がするんだけども……。
ま、いっか。こうなるなら、毒を食らわば皿まで。むしろ天沢に守ってもらおう。
本人自体が危険かもしれないが、彼女の性質上、僕が知らない奴との防波堤としては的確だ。早苗や鬼龍院先輩みたく、同級生から避けられてそうだし、僕も普通に話せる相手。うってつけだと思い込もう。
そうと決まれば、聞くことだけ聞いて割り切っていく。
「ところで、天沢」
「ん、なに?」
「いつまで僕に付いてくる気だ?」
「いつまでだと思う?」
「質問に質問で返すな、って言いたいところだけど……うん、じゃあ好きにしろ。無理せず、蛇に忌避感がなく、時々脇道に逸れる僕に付いてこれる奴なら付いて来ればいい。その点で天沢なら心配いらなさそうだからな」
「……先輩。危機感足りないんじゃない? 私は結構強いよ?」
「何を今更。お前相手にして、凌ぐどころか逃げ切れるなんて驕ってねーよ。速攻で白旗を上げて降参するしかないってな。
だったらいっそ好きにさせて、天沢の理性に賭けた方が無駄がなくなるじゃん。僕が覚悟を決めればいいだけだ」
天沢は、実際に初対面の時に早苗と2度もガチで殴り合ってた奴だ。知識だけじゃなく身体能力も、想像すらできないレベルに手をかけてると見て間違いない。
そして、そんな奴を早苗や清隆の協力なしに僕が制御できる道理もない。なら、天沢がやろうとする意思や理由を見極めるためにも、行動を共にするのは悪くないだろう。
いかなる天才だろうと精神が人間の枠に収まってるなら、行動を起こすには意思や理由が必須である。
ゆえに僕が自分を守るのにベターな手は、天沢をある程度まで知った上でその意思や理由自体を断つ。もしくは妥協したり交渉しつつ別方向へ誘導するしかない。
覚悟を決めるのがその第一段階ならやり得である。
「正気なの?」
「本気だ」
「……ぷふっ」
そんな何もおかしな点がない理論は、天沢にとっての納得を引き出すには至らなかった。しかし、なんか笑いはしてるし、本気で敵になる選択はしないんじゃなかろうか。そうであってほしい。
とまぁ、よくわからない経緯で奇妙な同行者が増えたわけだが、お互い試験について忘れ去っていたポカは完全なる余談である。
2日目初回の指定エリアには間に合わなかった。
なぜなら、道半ばで枇杷の木がたくさん実を付けてたのを発見し、天沢と夢中になって枇杷狩りしてたからだ。
天然の甘味を取り放題食べ放題の誘惑に僕も天沢も抗えず、木に登って収穫する役と下で回収する役に手早く分かれた。
そして一応は衛生面を考え、水場を探して(天沢が水音がすると教えてくれた)洗って食いまくったのだ。美味だった。
僕達が気づいた頃にはすでに9時を過ぎてて次の指定エリアが通知されており、2人で苦笑いをしたものである。
なので、もう開き直ってそのまま昼寝することにした。
「ふぃ~。食後の昼寝は最高でおじゃるな」
「ホントだね~。昼寝には早い時間だけど、暑いし日陰で転がってるだけでも良い気持ち」
ついさっき枇杷の実を洗った湧水の傍にあった大きめの木の下で寝転がると、天沢も近くで仰向けになったようだ。同意っぽい返事が聞こえてくる。
清隆とかと違ってツッコミはないが、これはこれで悪くない。
でも食ってすぐ寝るのはアレかと思って、たまたま目に入った虫除けにできるシトロネラールを採取。半分は潰して水に混ぜて周囲に撒き、残りは陰干し保存だけしてたら天沢が質問してきた。
なので「なにそれ? なんでそんなことしてるの?」ってのに答えたり、実は虫が鬱陶しかったらしい天沢に説明しつつスタート地点で回収箱からいくつか拾ってきた空のペットボトルに小分けたりと、ゆったりとした時間を過ごす。
ちなみに虫は駄目な都会派っぽい天沢だが、僕に巻き付いてる白蛇は平気だった。早苗を毒持ちのハブに例えるなら、天沢はマングースだからかもしれない。もしくはカラスと猫。
なんか見てても仲が良いのか悪いのかわからないからな。気質はそれなりに合ってると思うのだが。
現在地はE7とF7の間くらい……確認するとF7に入ったばかりの場所だ。
間に合わなかった指定エリアがG7で、今の指定エリアがI7……って、ほぼ島の南側を踏破するルートかよ。2連続スルーまでなら減点なしだったし、時間内に到着できたらラッキー程度に思っておこう。
早起きした上に、反射神経の課題を終えた7時半頃から2時間近くをそこそこのペースで進んできたから、ここらへんで休むのは理にかなう判断だ。
異論は認めるが、天沢なら異論を出さないだろう。事実、出さず、湧水を軽く打ち水もして涼しくなったところで大人しく僕と寝転がっていた。
というわけで、1時間ほど昼寝(いや、むしろ二度寝か?)した僕達は元気を取り戻し、ボチボチ歩き出す。
勿論、直線ルートを阻む山岳地帯は回り道して避ける。
ほぼ確実に間に合わない(現在時刻10:50。指定エリア到着時刻の10分前で、目的地はここから3つ先のエリア)のに頑張るのは無駄でしかないからな。それに13時の指定エリアで近くに出現する可能性もある上に、ランダム指定で何処かに飛ばされるかもしれない。なにより暑い中、山登りなんかしてられるか。
天沢も何も言わずに付いてくるところを見ると、同意見のようだ。そもそも彼女と同じテーブルか以前に、なんで付いてきてるかさえまだ不明なのだが。僕より明らかに身体能力が高いとわかってる以上、好きにさせとけばいいだろう。
しかし、H8あたりはそれほど標高が高くなかったので、割れていた目立たない岩場の底を北に突っ切った。足元が悪い部分もあったが涼しい道で、ここから北のH6には川がある。
塩は持ってるし昼飯は魚にしようか、と天沢に提案しようとしたら目が合い、不思議と言葉を交わさずとも通じ合ったからだ(気がした)。ゆえに、僕達はおそらく本来は道じゃない岩場をひたすら北上している。
だから川が見え、魚影が確認できた時は柄にもなく心が踊った。
釣竿とかは僕も天沢も持ってなかったが、石で生け簀のような囲いを作って浅い場所で魚を手掴みすれば問題ない。ほどなく鮎やヤマメなど合わせて7匹を捕獲できた。
まぁ、僕が捕まえたのは2匹だけで、ほとんど見かねた天沢が無双したわけだが、楽しそうだったからヨシとしようじゃないか。
早速、適した場所で火を起こし、内臓処理などの下準備と魚を刺す串を作り、火の傍に次々に魚を立てていく。濡れたジャージを干して着替えるのも忘れない。
何気に着替えを目撃してもされても何ら気にしない僕と天沢は、この点でも相性が良かった。向こうは知らないが、僕にとってもはや早苗や櫛田と同じ美少女珍獣枠である。
そんな事を考えながらいくつかの作業をこなし、しばらく焼き加減に注意しつつ塩を振ったりしてると、香ばしく良い匂いが漂ってくる。もうそろそろ食べ頃か。
「天沢などだらしない顔で涎が垂れてるほどだ」
「垂れてないから。それ、左京先輩のことでしょ……ん?」
軽口を叩きあえるのは、良かったのか悪かったのか。
と、その時、何かに気づいたらしい天沢が目を向けた方向を僕も見てみると、ガサガサ言う物音が大きくなって、ついには人影が出現した。
「あれ? 左京君…と1年生?」
「松下さん? なんでこんなところに。朝に…っていうか昨夜はスタート地点にいたような……?」
松下さんだ。後ろには軽井沢さんとギャルっぽい女子もいる。
魚を焼いてた匂いに釣られたのかもしれない。
「うん、いたよ。でも、今朝は日の出の頃に出発しちゃったからね。昨日の最後の指定エリアがこっちの方だったから、早めに近場には着いてたくて」
ああ、余力がある序盤のうちにポイントを稼いでおく戦略かな。
おそらく僕達の昼寝や寄り道の時間ロスと、岩場ショートカットが上手い具合に噛み合って松下さん達を僅かに追い越し、魚を焼いてたことで今また追い付かれたのだろう。
それは別にいいんだが……。
「と、ところで松下さん。後ろにおられる方々は君のグループメンバー?」
いそいそと、さりげなく天沢の後ろに移動。天沢からジト目を向けられたが、誰よりもギャル擬きが怖いのでしかたない。
「そうだけど……軽井沢さんは知ってるよね?」
「い、一応」
「もう1人は」
「はじめまして! 私、佐藤麻耶っていうの! 左京君は綾小路君と親しいんだよね! よろしくねっ」
「ひぃっ! は、はい、わたくしめは天沢一夏であります! よよ喜んで」
「名字呼ばれてるのに偽名を名乗るとか……。というか、勝手に私の名前を騙らないでくれる?」
「す、すまん、つい。あ、改めて僕は左京夢月と言います、はい」
「あはは。左京君って思ったより面白い人なんだね」
更に追加で、松下さんが紹介してくれようとしたのを遮った明るく親しみやすそうな陽キャなギャルが!
陰キャに優しいギャルなんて神話に登場するに等しい生物が実在したことに戦慄を隠せない。エアプ陽キャな軽井沢さんよりはだいぶマシだけど怖い。
てか、自己紹介に清隆の名前を出すってことはまさかアイツ狙いなのか?
なんてヤバい趣味なんだ、佐藤某とやら……! 主に清隆へのベクトルを隠せてない天沢の前で、堂々と清隆への好意を晒すとか狂気すら感じてしまう。
「……変なところで小心なんだね、左京君」
「左京先輩は何に怯えてるの。まるで迷子のキツネリスのように……」
「怖がらないで。私達はただ美味しそうな匂いに釣られて来ただけ…ぷふっ」
「あ、やっぱりみんなそれを連想するのね、この左京君」
くっ、天沢め。なんで小刻みに動くんだ。ただでさえ僕の方が身体が大きいのに、軽井沢さんから隠れられなくなるだろ。八つ当たり的なアレか? 松下さんと連携?してナウシカやってないで、じっとしといてくれ。あと軽井沢さんのやっぱりってなんだよ。
魚の捕獲以外は全部僕が担当したんだし、少しくらい盾になってくれても罰は当たらないだろうに……ん? なんか焦げ臭いような……あっ、魚!
魚を焦がしては一大事。現れた女子達は置いといて、いい感じに焼けてきたヤマメを昨日作った木工皿に乗せて、まずは天沢に渡す。
こちらを疎かにするのは本末転倒なので、一番の功労者である天沢。次に僕も焼き加減がちょうど良さげな鮎を手に取って頬張る。
うむ。やはり焼きたては美味い。
「あ、あの左京君? 魚もいいけど、急に私達を忘れ去るのはどうかなー?」
……あまりの美味しさに置いといた彼女らを忘れてた。
「はふっ、はふっ。わふい、まふひははん(悪い、松下さん)」
「話すか食べるかどっちかにして?」
「むぐむぐ」
「そこで食べる方を優先する人いる!!?」
ここにいるが。
なんなら天沢も同類だ。もはや松下さん達は眼中になく、ヤマメにかぶりついている。自分で掴み獲った魚は格別に美味かったのだろう。わかる。
ただ、松下さん達はなんかギャーギャー言ってるが、こちらはわからん。何か不思議なことでもあったのだろうか。
とりあえず、一匹平らげて腹を満たしてからか。話はそれからだ。
ところが耳も良いらしい天沢には、目の前で腹を鳴らす佐藤が耳障りだったようだ。
「さっきから、グーグーうるさい。先輩、一匹ずつあげてもいい?」
「僕は料理しただけだし、天沢がいいなら好きにしたら?」
僕に了解を求めると、親切心というわけでもなく三匹の焼き魚を火から離して松下さん達に突き出す。
「あ、ありがと。朝食抜きだったからお腹空いちゃって」
「だから強行軍は無理があったんだって」
「でもしかたないよ。昨日は最後のをスルーしちゃったから、ランダム指定を考えると急ぐ必要あったんだし」
女三人寄れば姦しいとは言うが、この3人も話をしてないといけない病に侵されているのだろうか。食べながらも話し続ける彼女らに、なんというか圧倒?される。
一方、僕と天沢は残った2本の焼き魚を食べつつ、目線を交わす。きっと意思の統一はされているだろう。
早急に彼女らのいるこの場から離脱することを……!
そうと決まれば、善は急げ。
さりげなく魚が焼き上がるまでに採取したベリーを保存袋に詰め込んでバックパックへ入れ、タブレットで課題を確認するフリしてカモフラージュしつつ、適切な逃走経路を割り出す。天沢も同じ動きなので、彼女は彼女でここから離れる手段を模索していると思われる。
奴らの話はいまだ途切れない。ならば、今しかない。
「先輩、どう?」
「OK。行ける」
最低限の言葉で手順を整えながら、火の始末やゴミの処理(魚の内臓や骨とかを埋める)を終え、水で口を湿らせる。塩や油で渇きすぎてると持久力に不足が出かねないからだ。
そしてこの間、約3分。
鍛え上げられた陰キャの僕達は全ての準備を速攻で済ませ、最も思考力と観察力のある松下さんを先頭にして、彼女らから買って出た完全な消化のため水を汲みに席を立つ僅かな隙を見逃さない。
非常に失礼なのは承知の上で、挨拶なしに音もなく密やかに離脱を図った。天沢など茂みに飛び込んだのに、どういう理屈か音はほぼしなかった。
「あはははっ! さっきの2年の知り合いなんでしょ、いいの!?」
「僕は一向にかまわん。ギャル擬きといる方が消耗が激しい」
「もっ、擬き……ふふふっ」
2人一緒よりは別々の方がやりやすかろうと思って合流とかも決めてなかったが、しばらく更に北上してもう1つの川を越えて歩いてたら、すでに天沢が笑いながら岩に腰かけててビックらこいた。なにより、まだ僕と一緒に行動するつもりらしい天沢に。
ついでに主に誰の事を言ってるのかも見抜かれた気がする。
そんなタイミングで13時の指定エリア出現である。
僕のはランダム指定でI2だ。偶然とはいえ、脇目も振らず北上してきた現在地がH3なので、目的地がすぐそこなのは運が良い。マップによれば北東の岬みたくなってる場所だし、近隣には夜営地に適した場所がいくつかある。
通知がきたら、15時に出現する指定エリアも考慮に入れてI2の南側で待機しつつ、課題出現と夕飯の用意をするのが丸いか。
それにしても、天沢は試験をどうするつもりなのだろう。
僕と同じテーブルじゃないなら一緒に行動するだけ損なわけだが、七瀬や宝泉が稼ぐ段取りなのか? いや、それを仮に他メンバーに呑ませたとしても、メリットがなさすぎる謎行動だ。
視点を広げて思考を飛躍させると意味が生まれなくもないが、天沢ほどの奴が『ソレ』をする価値が僕にあるかというと、な。
「う~ん。ま、いっか。暗殺とか以外ならなんとかなるだろ」
「そーそー。深く考えないで気楽にいきましょ、左京先輩♪ 私もこれだけ退屈しないの意外だったしね。Que Sera, Sera(ケセラセラ)ってヤツかも?」
「また古いモノを。いくつだ、お前」
「あー! もしかして私が大人に見えた? いくら大人びて可愛らしい美少女・一夏ちゃんでも、襲ったら返り討ち確定だからねっ」
「ハッ、寝言は寝て言え。僕に猛獣を性的に見る趣味はない」
「鼻で笑われた!? というか猛獣!? 私をどんな目で見てんの!」
「触れてはならぬ災厄」
「圧倒的失礼! 先輩だからって女の子に失礼すぎるよ!」
これでも、おそらくセーブしてるから災厄でもまだ足りないと思うが。
軽い雑談するだけでわかる溢れんばかりのヤンデレ資質に、震えが止まらない。コイツのベクトルが清隆へ向いててマジでよかった。
まぁそれはそれとして、I2に到着すると同時に到着得点と着順ボーナス1位の通知が僕にきた。
しかし、そんなことより海が一望できる浜辺に出ると椰子の木の群生地だったので、僕と天沢は荷物を置いて脇目も振らず木登りを始めるのだった。
その後、椰子の実を岩の尖った部分で穴を開けて少し中身を飲んで見本を見せたら、地面と挟み込む蹴りでカチ割って中身を呷る天沢。滅茶苦茶綺麗に真っ二つになってる……。僕のは上手く割れなかったのに。
もちろん僕はドン引きしつつ、15時まで波音を背景に絶景を眺めて遠い目をすることになった。今なら悟りも開けそう。
ただ、椰子ジュースを飲むと、天沢は近くに出現した生物と数学の課題に出向いていった。流石に全く稼がないのはマズイのだろう。それにしても元気なことだ。
僕? 結果的に今日は強行軍になっちゃってる上、この無人島を南西から東北まで踏破して疲れたのでパス。これ以上無理して動いたら、筋肉痛になるラインだ。もしかしたら近くに15時の指定エリアが出現してロスになるかもしれないしな。
それに1人で考え事するのにここはなかなかだ。椰子の実のジュースを片手に南国気分を満喫しつつ、思索を深めていく。
のんびり携帯浄水器で飲み水を補充したり、天沢が荷物ごと置いてった微妙に生乾きのジャージを僕のと一緒に干したり、採取した果物や植物、キャンプファイアーの時に作っておいた乾物を確認していると15時になった。
幸運な事に、15時の指定エリアはI3というまたしても僕の目の前に出現。
……これはほぼ確定か。おそらく指定エリアのプログラムにはpythonやRANDBETWEEN、もしくはそれに類するものが使われているのだろう。
これならもう少しデータを集め、頭の中でプログラムを逆算・分析・予測構築。カオス理論なども考慮して大雑把に山を張ることで、半分以上の確率で到着ボーナスを狙える可能性がある。
きっと天才どもならもっと高精度予測が可能で先を行くだろうから、四方とかに相談してより洗練させていく必要はあるが、それなりの得点は確保でき……。
≪今のところ、誰もそんなことは考えてすらいないみたいだけれど≫
それが正しいなら、天才級の奴にはこんな小細工はいらないってことか。やはり、凡人は早いうちに稼いどくのが良さそうだな。
≪……≫
ところで昨日から気になってはいたが、早苗に渡された白蛇から? 稀に発せられる口調や声に変化があるのはどういう理由なのか。ぶっちゃけ、別人…別神? に思えてならない。てか、確実に複数の存在が入れ替わっている。
これは神様版の通信機みたいな扱いに思えるんだが、小さな神様よりこの白蛇の方が上位存在的に感じるのもあって激しく戸惑う。本来は絶対にこんな軽く扱われる存在じゃないだろう。
と、ともかく常識外や基本戦術は置いといて、片付けと2人分の荷物を持って、視界内に誰もいないのを確認。到着得点と着順ボーナスをもらいに行く。ちょっと南下するだけの簡単なお仕事だ。
僕に優れた能力や頭脳がない以上、天才どもを出し抜くには知恵と知識、経験を総動員する必要がある。
それには課題で稼ぐ方法よりも、確実性に優れる到着時のポイント狙いの方が楽だ。後半になるほど競う者も少なくなってくるはずだからな。
このため、水は最低限の計2㎏ぶんのペットボトル3つしか持たず、食料も厳選して減らし、テントよりも格段に軽いツェルト(約300グラム。テントは最低数㎏)だ。荷物の総重量は5㎏程度までに抑えてある。
いざとなれば、浄水器などの道具が壊れる覚悟で走ることも可能な重量だ。
はっきり言って、僕はサバイバル技術と経験では高校生程度には負けない自信がある。一時的に追い越されても、トータルなら勝ち筋が見えてくることもあるだろう。あるといいな。
とりあえず、本日の獲得ポイントは朝の課題、僕と四方で1点+8点で9点。スタート地点の南西端から東北端まで踏破するルートテーブルだったからか、周囲に人があまりいないおかげで得られた着順ボーナス1位が2回と到着得点で22点の計31点。初日と合わせて58点か。
多いか少ないかは人によって判断が分かれるかもだが、僕の体力や能力で無理せず楽しみながらこれなら上出来の部類、のはずだ。
今日のペースは限界ギリギリだったが、課題でどれだけ稼げるかまだ未知数なので余裕ができたらもう少し検証しておこう。
1人で黙々と思索や植生レポートを進め……夕闇が迫る18時頃。
遠くから課題の副賞と思われる肉?を掲げて、再び天沢が来訪した。まぁ、荷物を置いてったからいずれ戻るとわかってたけど、もし僕が持ち逃げとかしたらどうする気だったんだよコイツ。
なんて内心、無防備に“見せた”誘導に油断ならない。と、彼女と一夜を過ごす未来予想による危機感をひしひしと感じながら、僕は火を起こし始めるのだった。
でも天沢の目的がなんだろうと、来るなら来ても別にいいか。
戻って来なかったら用意しておいた物は朝飯にするつもりだったが、当日に食えるならそれが一番良いし、素直に歓迎する方がいいだろう。あの持ってきた肉も分けてくれそうだからな。肉は偉大である。
「おかえりー」
「ぇ……あ…た、ただいま?」
「なかなか豪快な夕飯になりそうだな。僕も肉もらっていいん?」
「で、でしょー! この一夏ちゃんに手料理を振る舞う幸運に感謝するなら分けてあげる!」
「ん、ありがとう。じゃあ、パパッと作っちゃうわ。あ、天沢の分の椰子の果肉は、僕が肉を焼いてる間に食っちゃってていいよ」
「……う、うん」
どこか挙動不審な天沢には気づいていたものの、素直に器代わりにした実の殻は受け取ってくれたので問題ないだろう。自作した木彫りのスプーンも、少し不恰好だが食うのに不自由はない。予備含む3つ作っておいて正解だ。
なんにしろ、昼過ぎに取った椰子のプルプルした果肉と、塩を振った肉に串を刺して焼くだけの野性的な夕食は、大自然の真っ只中なせいかとても美味しかった。
椰子の実を真っ二つにして果肉を二人分食べられるようにした蹴りと、肉を提供してくれた天沢には感謝である(華麗な手のひら返し)。
お礼になるか知らないが、夜に星の蘊蓄も解説してみた。採取したベリーのおやつと密輸しておいたお茶付きで。
「ありがと……“夢月先輩”。おやすみ」
天体観測を切り上げ、寝る前の歯磨きしてる時、自分のテントへ入りながら戸惑ってるぽく小さくお礼を告げてきたし、多少は喜んでたんじゃなかろうか。
特に寝る前にどうにもならない事は考えない。なぜなら、僕の趣味じゃないからだ。
天沢も言ってたが、Que Sera, Sera(なんとかなるさ)ってな。
リザルト2。
出発前の課題で9点(四方の8点含む)。内訳は到着得点2点、着順ボーナスが1位の2回で合わせて22得点。課題と指定エリア2つ到達(午後の2つ)で合計31得点。
初日の27得点と合計で58点。
余談ですが、冒頭の課題の夢月のタイムは私が実際にやった時の記録で、四方と綾小路、早苗の記録は盛ってあります。
リアルのこの時は、たしか南雲に設定した8.5秒の人が断トツ。他は10秒後半~40秒くらいがほとんどで、遅い人が1分オーバーだったはず。地味に佐倉愛里の反射神経や体力が鍛えられてるのは、夢月との夜の運動会やシューティングゲームの影響だったり。
一般平均の記録や正式名とかは知らないので、変だよってなってもスルーをお願いします。
オマケで2日目の夢月・天沢の食事メニュー。
朝食に枇杷、昼食に焼き魚(鮎とヤマメ)、夕飯に肉と椰子の果肉にベリー。
時期や環境に疑問が湧くかもしれませんが、なんとかこちらもスルーしていただければ幸いです。
私見での人物解釈・天沢一夏。
ホワイトルーム生の1人で、原作の女子の中でも学力・身体能力はおそらく飛び抜けている。ただ、綾小路と似た弱点(中身はだいぶ違うけど)も抱えているため、意外と煽り耐性や精神力は低めで人付き合いも良くない。情に深く崇拝どころか信仰に至りそうな執着心マシマシの在り方は、ようキャの早苗にも近いと言える。
なので、ぶっちゃけ崇拝する綾小路が夢月に何度か出し抜かれる場面(旅行前のバスケとか。バスケ自体が、というよりあの場に綾小路を引っ張り出したこと)を目撃してたら、今話みたいな行動に出るんじゃないかと考えてみた。ちなみに天沢自身への対応にはそこまで根に持ってない想定。
……まぁ、夢月も今回でそれなりには目を付けられたと考えてはいますが。良くも悪くも。