人を呪わば穴二つ。
以前に洩矢様(祟り神の大物らしい)も意味ありげに言っていたこのことわざが想起されるモノに、日本に船などを乗り込ませパンデミックを仕掛ける、なんて事例などが意外と(でもないか?)なくもない。
僕が思いつく事例だと、開国直後の1858年にコレラ患者を乗せた米国船ミシシッピー号を江戸と長崎に入港させた件。しかし、このコレラに関しては最も大きなパンデミックの時に日本がまだ鎖国中だったこともあり、『日本には』ほぼ被害はない。
また1899年に日本初の高速豪華客船アメリカ丸が、ペスト患者を乗せて神戸に入港してしまった件。
そして2016年現在ではまだ発生してないが、人によっては記憶に新しい2020年にコロナ(当時は武漢肺炎)患者を乗せて、横浜に入港したクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の件だ。
この3つの事件は、明らかに不自然さと疑惑が満載である。
いずれも世界的なパンデミックになる直前で、かつ患者は香港で乗り込んでいた。そして日本で流行が広まるより前に、新聞やメディアが「日本は終わった」と報じまくったという数々の共通点まであるので、何者かが仕掛けた作為を感じて当然だろう。
だが、いずれのケースでも、日本にパンデミックを仕掛けたものの、そのあとで欧米での被害の方が大きくなり、その後は世界的なパンデミックになるお粗末さまで共通してると思う。
日本より外国で被害が増大している事実は、余程頭がアレな黒幕がいつの時代にもいるという陰謀論的なナニかを示唆しているのだろうか。
何が言いたいかというと、篤臣氏?ホワイトルーム?の仕掛けた事って機能してないどころか、むしろあちらさんにとっての逆風を引き起こしてね? ってことである。
自分の意思でかはわからないが、獅子心中の虫が回りくどい利敵行為してるんじゃなかろうか。
根拠の1つは、2日目にI2に到着した13時半~18時までの4時間半に見かけた定期巡視船である。
おそらく日が昇ってる間に島の外周を運航して怪我人が出てないか、問題ないかとかをチェックしてるのだろうが───なんと遠目に月城さんが乗っていた。
予想はしてたが、お偉いさん自らがこんな序盤からドサ回り染みた下準備に勤しむあたり、本当に手駒が動いてないらしい。更にI3で夜営した後の3日目朝の巡視船にも、教師何人かと乗っていたので滅茶苦茶ハードそうだ。
てか、実際のところ、ホワイトルームって『ナニを』教えてるんだろうなぁ。いや、武術やら理数系やら局所的な処世術?やらを、相当なレベルでやってるのは清隆や天沢から想像できなくないけど、歴史なんかの分野はそこまで重視されてないみたいなことを綾小路が述べていた。それでいて雑学は意外と広範囲だったりする。そして遊び・スポーツ系は未経験なのもかなりある、って……?
いやいや、明らかに工作員やスパイに必須なモノを詰め込んだ育成カリキュラムだと思えるのは、きっと僕の気のせいだろう。
ここの高育だって一般社会を過ごした僕からすれば現実的、もしくは実践的とは到底言えないしな。
そうだよ。スパイ育成学校として敵対しあってんじゃね? って疑問は心の底に沈めておこう。
ありふれてたり普通とは言えなくとも、今の世界だとレベルは違えどホワイトルームやかなり前に名前を出したアポロ・アーウィンのような育成環境だって、ありえないとまではいかない…のかもしれないし。
……なんか深く考えてくと、感覚バグってくるな。これ以上はやめよう。
ただ……やべーな。今はまだいいけど、現時点でのトップである月城さんの余裕がないと物騒な方向へ結論が傾きかねない。
ブラックな業務の大きな弊害。
局所的に壮大でいて馬鹿馬鹿しく───そして恐ろしいモノを産み出す『ソレ』を、僕はよく知っている。
そう、知っているのだ───。
無人島3日目の6:50。
指定エリア出現の10分前に僕はI3の夜営地で起床した。朝食に残ってた椰子ジュースを飲み込んでから、燻製を齧りつつツェルトから這い出る。
そして準備万端といった風情の天沢がストレッチしてるのを横目に、5分で片付けと支度を済ませる。
ただ、無人島でのパターンを早急に構築するために準備の手は抜かないが、今日は大きく動く予定を組んでいない。指定エリアが西か北に集中しない限り、のんびり昨日辿った道のりを逆走することになるだろう。
得点獲得の観点からだと非効率的でもあるが、実証実験のためだ。しかたない。
手早くツェルトとかを片付け、南西方面へ歩き出すと当然のように天沢が付いてきた。
何度も思ったが、本当に大丈夫なんだろうか?
デリカシーなさすぎるから聞かないけど、女子特有の生理現象とかで不調なら無理はさせないつもりだし、少し注視しておくか。
あと七瀬や宝泉への貢献もだ。何かしらで穴埋めは考えてそうでも、想定される面倒事にどう対処するタイプなのかがイマイチわからない。
数歩も行かないうちに7時ちょうどになり、指定エリアが通知された。現在地から2つ南のI5らしい。
なるほど。では、海岸線沿いに進むのが最適解なので、僕は最適解から直角に曲がり、一旦はH4方向にある森に入る。指定エリアまで小さめの弧を描くルートだ。
すると、今日初めて天沢が声をかけてきた。
「え? 先輩、真っ直ぐ南へ向かわないの?」
「向かわない。多分、こっちのルートの方が楽だしお得だからな」
「楽なのは砂浜を突っ切らないからだろうけど……お得?」
「ああ、昨日北上してる時に面白そうなモノを見ちゃってな。当てが外れても、最初の指定エリアはどうしても到着しなきゃダメってわけでもないし惜しくない。なら、好奇心を優先させようかと」
「好奇心、ねぇ。アレのこと? あと、もしかして私を当てにしてる?」
まぁ、昨日はそこそこ一緒に行動してたしな。天沢も気づいていたようだ。
「そんなつもりはない。単純にコレ系って僕が得意だからついでに参加しようってだけだ。てか、何度か言ってるけど、天沢は好きにしろよ」
「……多分、クロスカントリーか川下りのレースだよね、あれ」
「川の水深や狭さが歩いて渡れるくらいの場所もあったし、クロスカントリー的な競争課題だろうな。それとゴール地点は十中八九、河口か付近の浜辺。指定エリアがそっちになったら行こうと思ってたんだ」
ゴール地点の予想は、遠くに止まった巡視船がなんかしてたからそう考えた。もし逆方向に向かうようなら考え直すつもりだ。
「…………得意なの?」
「おう、こういうのは自信がある」
タブレットで確認しても、いまだ課題出現はしてないが、目立たないテントが建っていたスタート予定地の予告文をこの目で確認している。
今日を含め中1日ずつ空けての3日間、それぞれの日の8時11時14時に3回ずつ開催(雨天中止)ってな。
課題内容は書いてなかったが、この条件なら運動系の何かで、浜辺の方にも昨日の巡視船が留まって何かしてたっぽいので、クロスカントリーかそれに近い競争課題の予想が付く。
これらの予想自体はだいたい合ってたのだが、現場に出向いて初めて判明した予想外なこともあった。
───朝の部は男女ペア、昼の部は単独、夕方の部は3人以上で参加可能(グループ問わず)。
7時半にH5の川付近に課題が出現し、同時に発表された参加条件に僕は前言撤回をしなくてはならなくなった。
試験の性質上あまりやらないかもしれないが、幸いにも課題のペア指定に男女や学年の制限はない。更に1~3位報酬の20点、10点、5点はペア両方がもらえる。あと上位入賞の副賞である…衣類? もだ。勿論、参加賞の1点も。
ちょっとバツが悪いが、頭を下げるだけで参加できるならやっておくべきだろう。
そう、天沢にペアになってもらうために。
「え、えーと、天沢……いや、天沢さん? 当てにしてないって言った舌の根も乾かぬうちになんですけども、僕とペアを組んでもらってよろしいでしょうか?」
「ふふっ、どうしよっかな~。私ってば誰かさん曰く、触れてはならぬ災厄らしいし~?」
「だ、誰がそのような失礼を言ったんでしょうね? ま、まったく無礼な」
「ホント、誰なんだろうね~? 私の記憶だと2年生で昨夜を共に過ごした男の人だったと思うんだけどなぁ~」
「うぐっ、人聞きの悪い言い方を……いや。こ、困った方もいるものです。僕が今度キツく言い含めておきますよ」
そしたら、天沢は瞬時に調子に乗った。
ニヤニヤと性格終わった笑みを浮かべる天沢には、実に厄災という表現が適してると思う(個人的感想)。
災厄を祓いし人柱よ、今こそ来たれ───綾小路清隆!
って、都合良く来たれるわけないから、しかたなく下手に出てると天沢はますます漆黒の笑顔を深めた。
「あぁ~、なにこの新感覚! 夢月先輩に下手に出られるのってスッゴク楽しい!」
「く、くっ。コイツもやはりコレ系だったか。足下見やがって、この野郎……!」
「んん~? 何か言った? ところで、む・つ・き・先輩? それと様付けはしないのかな~?」
「な、何も言っておりません。ただ、せっかくここまで来たわけですし、参加してみましょうよ。ね? 天沢…様も、稼ぐ好機じゃないですか」
下手に出てればいい気になりやがって……!
「うふっ! 雑っ魚♡ そんなんで頼んでるつもりなの~?」
「これはまさか───メ、メスガキ…だと? 馬鹿な……! 清隆は微妙に知らなそうだったのに」
話に聞くホワイトルームに、こんなカリキュラムまで存在するというのか!?
変態性癖の狂育者どもが跳梁跋扈してる施設だったのかよ。
メスガキ育てるなんてサイッテー(冤罪)。
「あれ~? 予想外だったぁ?
ざぁこ♡ ざぁ~こ♡ だねぇ~。とゆーか、私にこうされて嬉しいの~? 大変態だねっ♡」
「誰が変態だ! てか、嬉しいわけあるかっ! お前あんま調子に乗ってると」
「あはははっ!! いつもと口の滑らかさが違うよ~、む~つきくん? うっふっふ~♡ もしかして~? 緊張♡ してる~♡」
「コ、ココココイツ……! とうやら本気でわからせられたいみたいだな、天沢一夏ぁ……!」
「あっれあれ~? 口調が戻っちゃってるよ~? 私に傅かなくていいのかな~♡」
当初から天沢にはメスガキ資質がありそうだったが、すでに板に付いているあたり、戦術への昇華にすら至っている。ホワイトルームでなければ、誰かがコレを吹き込んだに違いない。
≪せ~かい! 早苗が前にこの娘相手にこうして遊んでたよっ≫
やはり奴もまたメスガキの黒幕か、ふざけやがってぇ……!
てか、なんだよ、メスガキの黒幕って!?
≪知らないよ。それより目の前の相手に集中した方がいいんじゃない?≫
たしかにそうだ。
天沢は天才級とはいえ、まだ判断が甘い。清隆と同じく、遊びだと場合によって落とし穴が開く癖が付いてるのだろう。
実際、目の前でこれを見せられてるクロスカントリー受付の1年Aクラス担任がドン引きしてるし、必要ができれば後に天沢の黒歴史として開花させられるはずだ。
先取りでざまぁ、と心中でこぼして平穏を保っておこう。僕は知識として知ってはいてもメスガキの良さがそれほど理解できないため、向けられても無駄にムカついてしかたないのだ。
なによりも───まだだ、まだ終わっていない。
早苗や櫛田、時に一之瀬さえも駆使してくることもある対メスガキ・NDK戦法を、この僕が構築していないわけがない。こんなクソ生意気でイキったメスガキ後輩に、やられっぱなしで終わっていいわけがない。
メスガキには……そう! わからせおじさん!
とある界隈で定番といって過言ではない組み合わせを応用した教育・指導風味な煽り返し。とくと味わわせてくれるわ。
…………しばらく天沢とメスガキVSわからせの論戦してたら、我に返った天沢のクラス担任に僕までメッチャ怒られた(一応、説教の前に受付は済ましてくれた)。何らかのペナルティーや減点とかされなかっただけ温情だったのかもしれない。
なぜなら、すったもんだの末に1年女子の天沢と2年男子の僕という異色の即席パーティーが認められたのだから。いや、最初から天沢が素直に組んでくれてたら、こんなすったもんだは存在しなかったのだけども。
地面での正座を解き立ち上がる。そして、白黒付けるために今度は公序良俗に則した方向性のわからせを続行しようと僕が口を開こうとするが、先んじて横からツッコミが入った。
「いや、左京君も天沢さん…だっけ? もギリギリだから。さっきからなにやってるのよ、本当に」
ふと我に返ると、いつからか南雲と朝比奈さんがいたからだ。後ろには他の3年生と思しき生徒も何組か揃っている。
神は言っている(幻聴)。
今日は厄日だと───。
「さ、さて? な、なんのことやら。僕はただ天沢に先輩らしく後輩へ教育的指導をしていただけですが? 変な言いがかりはよしてもらっていいですか、朝比奈さん」
「左京、お前…ふはっ! あくまでアレを指導と言い張るかよ。無理がありすぎだろ。課題受けに来て、こんなのを見せられるとはな……馬鹿すぎる! くはははっ」
この2人もクロスカントリーの受付に来たのか。なんてこった。獲得できる得点から充分に予測可能だったというのに、変な場面を見られた。実に気まずい。
ここは誤魔化し一択だろう。
ただまぁ、初日と違ってこれから対戦相手になるからか白々しく話を切り上げ健闘を祈り合うと南雲達は3年生で固まって話しだしたから、そこまで気にしなくてよくなった。
「……夢月先輩。もしかしてこっちは予想してた?」
「うん。南雲本人がいるのは低確率だと思ってたけどな」
「やっぱり。じゃあ昨日今日、島の南東と北西に高効率な課題が出現する傾向も?」
「それも正解。だから、おそらく3年生は指定エリアを最低限だけ回る人数を確保して、それ以外はほとんどその2つのエリアで主力を固めてると思うぞ」
「へぇ……」
言葉だけは感嘆してるようだが、天沢もこれくらいは考えてただろう。清隆に対抗できる…もしくは準ずるレベルってのはそういうことだ。
尤も、南雲含めて参加限界の10組20人(1組は僕達がいるから参加できないが)もいる3年生には興味なさげだが、あの人数を見れば狙いは明白。ある程度は考える頭を持ってれば簡単な理屈だ。
ほぼ単独といえる僕みたいな奴にも効果的な人数の運用目的は、課題『以外』だと思われる。
「つまり生徒会長率いる3年生は、大量得点、もしくは高効率の課題を独占する…エリア制圧戦術?」
「十中八九な。だから複数人グループを組んでる奴は、早く動かないと封殺されて頭打ちだぞ? 多分、4日目からのグループ人数追加の課題も狙われるはずだし」
「2年生だけだと戦力が不足するから、私達1年生も3年生に当てるつもりだよね、それ言うの」
「バレたか。ま、でもどっちにしろ、試験でボロ負けしないためには、南雲が舐めプするかこちらも人海戦術に頼らざるをえない。なら、1年も2年も上昇志向のある奴らがそのうち手を打ち出すだろうよ」
実際、学年の4クラスを操れるなら、これはこの試験での最適解の一つだ。
南雲ほどの奴なら確実に実行して、それでも抜けてくる下級生には妨害や交渉に動く。本人自らってのはよほど規格外の奴だけだろうが、そもそも課題に参加させないように動くのではなかろうか。
ゆえに、1年生と2年生は全員纏まるなんてありえないから、せめて一部では協力できる道筋を用意しておく。
天沢に打診したところであまり意味はなくてもだ。これが意味を持ってくるのはない方が良い事態が発生した時のみの保険である。
ただ、僕は元々それほど大勢に関わる気がないけどな。人付き合いは苦手で面倒だし、ぶっちゃけ試験まで手が回らない。ボチボチ最低限をクリアしていくだけだ。
「じゃあ、ここは勝ちを狙った方がいいね」
「そうかもな。天沢にとっては、もう一つ利点があるし」
「ん? なにかあった?」
「全体を俯瞰した予想だけど、ここから南に清隆がいて指定エリア次第では北上してくる。このクロスカントリーのゴール付近にな。そしてこのあたりは高効率な課題が出現してる場所だけに、清隆の性格上、鉢合わせする確率は決して低くない。
どうだね天沢君? ここまで聞いてもまだ参加を渋るかね?」
昨日時点の情報?だから、あくまで予想にすぎないがな。
「……一理はあったけど、私を踊らせようとしてる思惑が見えてムカつく」
「ハッ、僕を踊らせようとしてた奴がなんか言ってるな。むしろ本来は踊らせる側だろ、お前」
「あはは、私もバレてたか。夢月先輩って意外と乗せられてくれないよね」
朝にしてきたさりげなく北や西に向かう誘導に、この僕が気づかないとでも? さっきのメスガキ攻撃だってその時に動かせなかった八つ当たりの面もあっただろうに。
なら、清隆を餌に誘導返しするくらいは正当なる意趣返しである。
そう───この合言葉を忘れるな。
清隆を盾に。清隆に丸投げ。クサイモノには清隆。
天沢が清隆に集中してくれる誘導が、僕の平穏を保ってくれると信じるのだ。
客観的にクズの所業だが、清隆も似たような事をしてくるようになったので、僕がやってもノーカンである。
≪あははっ。夢月って本当に最低の屑だねっ!≫
……声に笑いが混じってるし、冗談なのはわかるが、神様にこの改変ネタ台詞を言われると少し堪えるな。いつだったか一之瀬に言われた時は軽く返せたのだけども。
クロスカントリー(ペア)では、去年の無人島での早苗のごとく足元が悪い中で軽やかに舞いながら無駄に僕を煽る天沢……と、常にトップを維持する南雲・殿河ペアの後を、最低『合格ライン』を見極めて追う僕。更にどこか必死さを見せる朝比奈さん含む3年生達と抜きつ抜かれつの接戦だった。
妨害含めてなんでもありだったら、スタート位置や隘路を爆撃するとか、地雷でも埋めて一網打尽にしてやりたいと何度思ったことか。勿論、そんな恨みもないし、なにより殺傷力高い手は冗談だけども。
人数が集中する箇所を避け、自分達用のルートを切り開く。
こういう競技は視野を広く持つことが重要なのだ。
賢き者は常に余裕を絶やさず人と争わない。
というわけで、次々と浮かんでくる妨害策を妄想に留めて僕は自分に矛盾しなかった。何が何でも勝つ必要はなかったしな。
しかし得意寄りの競技だったのに、流石に南雲というべきか。
必須通過地点の天然アスレチックエリアと、何故かこんな場所で再登場した二人三脚エリアで彼女のリズムに合わせた僅かな間の2回抜いただけ。結果は天沢という天才級戦力とペアでありながら、南雲の後塵を拝して2位だった。
ちなみにゴールがJ5だったから、知らないうちに指定エリアであるI5を通過しており、到着得点もゲットしていた。着順ボーナスは流石に遅すぎてなしで到着得点1点のみである。
それでも課題では10点獲得と充分に得点は稼げたし、選択式で副賞の水着もゲットしたので結果オーライだろう。
「夢月先輩って変わってるよね。なんで私を『手助け』したの?」
と、ゴールして小休憩を終え、副賞の水着を選んでる時に、速攻で自分の水着を手に取った天沢が話しかけてきた。きっと3年生と顔合わせをさせ、観察させた理由をそう受け取ったのだろう。
間違ってはいない。これはあまり人と繋がってなく、抑止力に発展する可能性がある彼女へのフォローでもある。それに───。
「助言しておこう天沢『後輩』。お前は色眼鏡で見ないやり方を考慮に入れるべきだ。そしてついでに、僕が前に鬼龍院先輩から言われた言葉を“なんとなく”贈ろう。
───先輩として後輩を助けるのは当然のことだろう、と」
「……っ。後、輩……ね」
≪クククッ≫
なんだコイツ。やけに目に動揺を浮かんでる気がする。大したことじゃないのに、想定外に揺れやがってからに。こんな部分まで清隆に近いのか。
あと洩矢様、変な笑いを挿入しないでください。怖いです。
≪ごめんごめん≫
……ともかく、僕のは本当にちょっとしたモノだ。僕にくれた恩と比較しても、鬼龍院先輩みたく時間や労力はかけていない。それほど重視してないとはいえ、僕にも得があったしな。
しかし、天沢が素直に受け取ることさえすれば、おそらくこの学校やホワイトルームとやらでは得られないモノの見方を取り込む事もできるのだ。それをほんの触りだけ示唆してみた。
「ああ、ついでに10得点と水着も何かの足しにはなるだろ? お前の性質上、複数人の課題は万全での参加が難しいだろうし、今のうちに少しでも稼いどけ」
色眼鏡で見なければ、天沢は普通…ではないが、挑発的でねじ曲がったちょっと変な女子の後輩だ。前面に出してる猫を気にしないなら、普通に接して問題ないはず。
「……夢月先輩の利益にならなくても?」
「それは試験の得点って意味じゃないよな? なら、そうだな。序盤に多少の時間や労力を使っても、僕が『友達』に思える奴にならやる価値はあるさ」
「友達……私が?」
「ん、天沢には理解不能な部分や怖い部分はあっても、特に苦手意識や忌避感はない。お前がどう思おうと、お前はすでに僕の友達枠に組み込まれているので諦めてくれ。昨日はそれなりの時間を一緒に過ごしたからかもな」
「……」
思うまま現在の心情を伝えると、天沢がなにやら黙り込んでしまった。
ただ、友達だと認識したばかりの頃の清隆にも似たような助言?的な真似したし、縁というか偶然というかで何度か飯を共にしたんだから、天沢にもこれくらいしておくのが親切だろう。なんせ一応は後輩なのだし。
ん? 今度は南雲が大声で水遊び的なレース?に誘ってきてるな。空気を変えるのにはうってつけだ。
詳しく聞くと時間限定でゴムボートや浮き輪、ビーチボールなんかも貸し出してくれるようで、返却場所にもなっているJ6のある地点まで『移動』するだけで5点獲得できる課題があるらしい。船で参加する生徒達の荷物を運びながら並走というか監視してくれるので、安全性もまぁあるだろう。
それにしても、いましがたクロスカントリーを終えたばかりなのに元気なことだ。これが若さか。
少し疲れてるけど、せっかく水着を手に入れたんだし、無人島の海でプカプカ漂いながら向かうのも悪くない。この際、獲得できる成果は度外視である。その方が楽しめるからな。
僕はちょっぱやで水着に着替え、天沢にも声をかけて着替えを促し、その間に南雲に話を通した後、4人乗りゴムボートの貸し出しや課題参加などのいくつか手続きしに受付へ向かった。
そして漕ぐ作業はしてくれるが、なんかさっきからボーッとしてる天沢や南雲・朝比奈さんと共に、呉越同舟か洗礼を受ける前のドン・クリーク的な3年生船団?のゴムボート(全員水着を着用済み)で大海原へと飛び出した。
天沢に関しては、夜もどっかへ出掛けてたみたいなので単なる寝不足かもしれないが、何故か静かめだったのだ。ただ、選んだ水着がパレオ付きの可愛い系だからか、特に浮いてなかったのは流石と言えるだろう。
む? いま気づいたが、面子と雰囲気は異様な取り合わせでも、紛いなりに男女4人で海遊び。
しかも、僕が誕生日プレゼントに愛里達からもらった麦わら帽子を女子…一応女子の後輩に被せてやるというナイスな気遣い。
今の僕、まさしく陽キャでパリピなアゲアゲ男(死語)なのでは?
ふっ、勝ったな。
何に、もしくは誰に勝ったか自分でも謎すぎるが……とりあえず、J6の目的地にいた綾小路清隆には上から目線で自慢できるだろう。
なぜなら、奴は人数制限に引っ掛かってビーチフラッグスの課題に参加できなかったらしく眺めてただけなので、とても陽キャとは言えないからだ。普段を考えると人のこと言えないけど、基本ボッチだしな。
真の陽キャっぽい南雲達から目を逸らし、貸し出し物は返却してシャワー浴びながら、僕よりボッチな境遇の存在を胸に心の平穏を保った。
さて、深く考えると精神が死んでしまうから、切り替えていこう。
予想に違わず清隆と遭遇できたので、保険をかけつつ、清隆に天沢対応を押し付けた。ちなみに天沢は、僕に麦わら帽子を返しに来たと同時に何処かへ行ったから問題ない。
「清隆、お前にしか頼めない。
―――なるべく天沢に注意して、いざという時は足止めしてくれ。勘だが、おそらく天沢は『あっち』に付く」
「色々曖昧だが……いざという時?」
「ああ、予感がどんどん強くなってる。ワースト3の未来に辿り着かないためには、不確定な追加戦力に手を打っておかないと収めきれない。天沢を高確率で圧倒できて自由に動け、僕が頼めるのは清隆だけだ」
おそらくこの予感は当たる。しばらく天沢を『付き合わせた』直感だが、必要になる確信がある。
まぁ、確たる証拠とかはないわけだが、清隆ならこの程度を伝えておけば良いようにしてくれるだろう。
「……ふっ、夢月。お前、それは反則だろ。兆候を察しただけで詰みまで持っていくつもりか?」
「それが凡人の活路だからな。場合によっては南雲や一之瀬の力も借りるし、悪辣な逆撃まで一応想定してある。清隆や天沢、あと櫛田の話から推定できる脅威度や危険性は決して馬鹿にできるものじゃない。封殺した上でしかるべき落とし所に持ち込んでやらないとこちらが危うい」
「櫛田? まぁいい。いつものように考え尽くし、危機感は充分すぎるほどあるか。よし、できる時なら任されよう」
「頼む。外れてくれたらそれが一番だけど、ほぼ間違いなく僕の予感は当たる。具体的にどうなるかは別として、な。清隆ならそのタイミングもわかるはず……で、もう一つ」
「?」
天沢本人は清隆に少しちょっかいをかけると僕にも別れを告げ、ビーチフラッグス終了後に散っていった南雲達3年生とは別方向へ向かったが……あからさますぎる匂わせだろ。奴なりの親切返しだろうか。
違っても僕がそう感じたので、一線を越えてきても潰すまでやらず倒すに留める方針にした。
「これはできれば、でいいんだが……天沢は他にバレないように制圧してくれると」
「情でも湧いたか?」
「う、甘い判断なのは自覚してる。だけど、清隆なら可能だろ? 無駄に後輩の可能性を消すのはちょっと美学に欠けるかなって」
「夢月らしいな───こちらも了解だ。やれるだけやってみよう」
微妙に珍しい微笑を浮かべて清隆は承諾してくれた。
3日目は午前にこんな感じの遭遇や別れ、課題が目白押しで慌ただしくもあった。あと僕の2回目の指定エリアがすぐ西のI6だったため、情報交換しつつ歩いたくらいか。
しかし、清隆が13時の指定エリアが北に出現したらしく、そこで再び1人に戻った。
また昼過ぎにビーチフラッグスの開催地だったJ6の位置で海水を飲み水に精製する課題が出現したので、一旦僕の指定エリアであるH6に向かってから戻って参加した。
獲得得点は小さいコップ一杯の水で10点と高いものの、過程が面倒で時間が滅多やたらにかかるためか、それなりの知識を要するせいか、閑散としてて気楽だったのだ。
僕は蟻地獄的な穴を掘って海水をザバザバかけたら穴の中央にコップを設置し、その上にビニールを被せて石を要所に置くオーソドックスなやり方だ。日光の熱で蒸発した水分が塩を残して液体に戻り、ビニールを伝ってコップに落ちるアレである。
勿論、僕自身はたまに様子を見るだけで、基本は日陰で食事や休憩していた。
その後は身体を休めて充分に回復できてからもゆっくりめのマイペースを保ち、なるべく人を避けながら指定エリアを回りつつ、四方も遠隔参加可能な学力系を中心に課題をこなす。
指定エリアは、人が集まって来たのもあって着順ボーナスは得られにくくなったものの、持たされたトランシーバーで連絡を取った四方のおかげで、参加さえできれば課題の上位をさらうことができた。ついでに、筆記や水精製の課題やってる間にタブレットやモバイルバッテリーも充電できた。
指定エリアがI5、I6、H6、H7とかなり南下して野営地も山裾付近になってしまったが、『持たざる者』としては最高値近くの成果だろう。これも3回目のランダム指定が至近距離だったおかげだ。
山肌からチョロチョロ出てる滝っぽいのをシャワー代わりに浴び、寝る支度を整えて転がりながら夜空を見上げ、僕は独りで想定されることに思考を巡らせ尽くしていた。
一方、短い間の同行者だった後輩にも、ふと思考を巡らせてみる。
付き合いの浅さもあって明確にこれと断言できなかったものの、天沢には迷いが見えた。まるで気づいてほしくないのに、気づいてみろ、と矛盾に満ちた挑発のような迷い。似たモノを持つ者に清隆もいるがそれとも微妙に違う。
そして、僕にそれを半分以上解決することはできない。せいぜい遊んで紛らわせる程度か。
清隆だって根本的な解決は難しいと思うが……まぁうん。清隆に天沢との繋がりがあり、大抵の事なら抑えきれて、天才級の進撃さえ受け止められるほどの『持つ者』だった不運である。
アイツならきっとやってくれるでしょう。
だから改めて、あらかじめお礼とお悔やみ申し上げておこう。
ありがとう。そして御愁傷様でした、と。
最後に、どうか物騒な事が起こりませんようにと祈って僕は眠りについた。
どこかで賽が投げられたからだろう。
夢は───見なかった。
リザルト3(3日目)
まず2日目までの獲得点数は58点。
クロスカントリーで2位10得点(と水着)。海上移動の課題は参加者全員に5点。指定エリア報酬は到着得点のみなので1点。
天沢との即席パーティー解散→清隆と遭遇後の指定エリア報酬は、着順ボーナス1位が1回と到着得点3回の13点。学力系課題3つで19点(内訳は2人で、1位2回の10点。2位と3位が1回ずつの7点。参加賞の2点)と食料。それとその他系の課題である飲み水精製で10点。
無人島3日終了時点の夢月グループは、合計で116点です。