ようキャ   作:麿は星

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 5~6日目。
 今回はちょっとした事情で、後書きのリザルト+αが長め。細かいことを気にしない方はスルーして問題…ないと思います(自信なし)。

 それとここを見てるかわかりませんが、誤字報告ありがとうございました。



174、信仰

 

 無人島5日目の朝7時過ぎ。

 3連続スルーを避けるため、C8というスタート地点すぐそこの近場に出現した指定エリアを踏んで戻る途中に、具現化系癒やし枠・悪魔・聖女の3人組と遭遇した。彼女らもスタート地点へ寄るらしく、共に参ることに。

 

 特に一之瀬は、僕の『現状』を見て大袈裟すぎるほど慌てふためき、交渉を開始する前に全力ハグを敢行しやがった。僕が「暑苦しい!」と押し退けるのと、一之瀬が僕の肩にいた白蛇と至近距離でランデブーして悲鳴を上げるのはほぼ同時である。

 だが、それはそれとして何気に危ないところだった。

 

 去年の無人島で思いついて導入を決定した脳内モザイクと無の境地を即興で適用しなければ、本人や櫛田はともかく、椎名の前で下半身が大変なことになっただろう。一之瀬の顔と胸をモッザモザにしてギリギリだったし。

 あの美少女のドスケベボディで禁欲約1週間目の僕にしがみつくのだから、マジでエロ要求やしんちゃんのゾウさん踊り、チ○ポびんたでも繰り出そうかと一瞬迷ったわ。おかげで僕のMPは一気に枯渇寸前だ。

 

 しかもこの後『一之瀬』『櫛田』と連続で疲れる交渉を終えると、何気に上位1位だった件についても櫛田から言及され、これでMPが完全に枯渇した。

 櫛田のアレコレはまだ彼女自身にも関係するので理解できたが、何故か難航すると思っていた一之瀬が僕の頼んだことにものすごく強く賛同してきて、ほぼ二つ返事だったのだ。

 意味不明に輝く笑顔を見せたかと思えば、沈んでるかのように俯き、情緒不安定を疑った。そのため、変な気遣いをするはめに陥った。

 

 どうでもいいとまで言わなくても、重視してないことで異様な反応されたりすると妙に疲れる。

 ゆえに怪我と疲労に加え、精神の回復を求めることとなった僕は、彼女らのグループメンバーでもある椎名と駄弁っていた。精神疲労には椎名か愛里だからだ。

 

「左京君もご存知のように、私は文学少女」

「自分でそう言う奴は初めて見たけどな」

「普段は大体数冊程度の本を持ち歩いてます」

「あ、それは僕もだ。活字中毒に半分足を突っ込んでるよ」

 

 ちょっといつもとテンションが違うけど、やはり椎名との会話は心安らぐひと時である。

 

「そう、それです!」

「あー? どれだよ?」

「無人島に来てから全く本が読めないんです! つまり私はもう辛抱たまらんわけなのです!」

 

 で、癒やし枠のもう片方の精神安定剤である愛里はまだ戻っていない。ただ、心配もしていない。なんせ早苗が付いてるし、女子の生理にも対応を打ってある。ピルだ。

 ピルといっても、決して生で愛里とヤりたいとかのエロ目的ではない。

 

 避妊薬として有名なピルは生理痛を和らげる効果もあるので、長期に渡る無人島サバイバル前に早苗と一緒に、必要そうな女子へ通知するよう詳しそうな担任に提案したのだ。たしか櫛田や網倉、王美羽さんなど他数名も服用すると言ってたのを覚えている。

 でも椎名は重度の活字中毒を患っているせいで、生理現象より本らしい。いや、半分くらいは冗談だろうが。

 

「……キャラ崩壊するほど?」

「はい! というわけで、なにか対処方法はないでしょうか左京君!」

「…………えっと、僕の植生レポートと天体観測データならあるが読む?」

「では、とりあえず植生レポートからお願いしたいです」

「ど、どうぞ」

 

 珍しい勢いがあったから、素直に荷物の中からノートを取り出し椎名に渡す。

 ちなみに、一之瀬と櫛田は彼女ら最後のメンバー・坂柳さんと話しに行っている。なんでも、グループ追加枠を勝ち取れたので合流すべき適切な人員の相談だそう。あと、僕との話もするかな、多分。

 

 なんせ僕がした具体的な交渉内容が、一之瀬には金の無心…というか流用。櫛田には僕のとある予想が合ってるかの確認とそれに連なる協力要請だ。

 坂柳さんとは直接関係してこないが、一之瀬と表向きの櫛田の性格的におそらく相談するだろう。

 

「夢月君っ!! 大丈夫!?」

「大丈夫ですよ、愛里さん。夢月さんってこれで強運の上に悪運まで憑いてますから」

「うわ、左京君ホントに怪我してるし」

 

 椎名に植生レポートの質問をされながらまったりしてると、特質系癒し枠・愛里のいるグループ3人が駆け寄ってきた。白蛇や早苗経由の神様通信的な電波を受信してたのかもしれない。

 何気に昨日ここに着いた時も、四方や坂柳さん含めてちょっとした騒ぎになったしな。愛里なら僕が怪我したと知れば慌てるだろう。

 

 今も何箇所かに包帯巻いて薬臭いせいで、僕が怪我したのは一目瞭然。知り合いに見られると、意外なほど心配されたりする。さっきも椎名や櫛田、一之瀬に動き回って大丈夫か最初に弁明したくらいだ。

 まぁ一之瀬は度が外れた反応をしたわけだが。

 

 でも僕は鬼龍院先輩みたいに、四方の付き添いで船の中の医務室行きになるほどの酷い怪我にはならなかったし、心配してくれる友達がいるのもありがたいことだ。ある意味で一途な強化系の早苗もこういう時は意外と常識的だしな。

 あ、先輩の足は数日安静の診断が有森先生から出ている。不幸中の幸いで、骨折などどうしようもなくリタイアになるほどじゃなかったらしい。心底、ホッとした。

 

「でも見た感じだと夢月さんのそれ、大袈裟すぎません?」

「やっぱり早苗もそう思うよなぁ。僕のって打ち身もあるけど、ほとんど疲労だから、こんなに薬を塗りたくられて包帯まで巻かれる必要ないんだよ」

 

 四方が心配性を発揮して念入りにやってくれたから、無下にはできないが。

 

「そ、そうなの? 結構、酷い怪我にも見えるけど……」

「うん、見た目ほど酷くない。どっちかと言うと、鬼龍院先輩の足の方がヤバかった」

 

 これも本当。

 もし僕が先輩の応急手当てを雑にしてたり、左足を無理に使ってたら数日では済まなかったと言われている。脅しとかでなくだ。

 そして昨日はここに来る道中で僕がヘロヘロになってた時に自分で歩くと言い張ってた先輩は、その診断結果を聞いてちょっと顔色が悪くなった。逆に僕は無理にでもおんぶしておいてよかったと安堵した。

 対価が僕の疲労なら、そっちの方が断然後味良いからな。

 

 それと白蛇の神様を僕に付けてくれた早苗には、しばらく頭が上がらない。

 だが、後でこの白蛇は結局何の神様なのか早苗に聞いたところ、ミシャグジ様と言うらしい。

 

「───って、縄文から続く自然崇拝の神様じゃねぇか! 早く教えてくれよ馬鹿野郎! どおりで前に飯を分けてた時、洩矢様がニヤニヤしてたわけだよ。多分、知ってても扱いは変わらなかっただろうけども!」

 

 祟り神であり、守護神でもあるミシャグジ様になんて畏れ多いことをしてたんだ、僕は。いや、それ言ったら、洩矢様や八坂様は更に上位の神様っぽいからキリがなくなるけどさぁ。

 

「それならいいじゃないですか! というか、私だって詳しく知りませんよ!」

「ほーん。どうでもいいが、自分の信仰する神様やその歴史・関係とかを詳しく知らないって、巫女や風祝としてどうよ?」

≪悲しいなぁ。早苗はミシャグジ様を夢月よりも知らなかったんだねぇ。本当に悲しいなぁ、およよ≫

「ぐ、ぐぬぬ」

 

 って、感じの言い争いに発展した。

 洩矢様もちゃっかりそれを聞いてて早苗は弄られてた。ざまぁ。

……じゃなくて、感謝だ感謝。

 思考が脱線するのは僕の悪癖である。

 

 と、ともかく、今ここは関係ないので、話を戻そう。

 自分から飛んだ僕だけなら怪我は想定内に収める自信があったが、女子としてはかなり恵体の鬼龍院先輩が落ちてくるのを受け止めたのだ。勘の赴くままついやってしまったものの、本来は2人ともこんな軽い怪我では済まないはず。

 ほぼ確実に神様かそれに近い超常の力に助けられた自覚が僕にはある。

 

 だから、できるお礼はしたい。

 ただ、言外に心配はしてくれてるし、治療もやってくれるつもりみたいだけど、なんか早苗自身が真面目な会話を望んでないっぽいのだ。

 この少し後にした神様談義からして不調というわけでもないし、僕の彼女である愛里に気を遣ってる風にも見えない。いったい何を考えているのか。

 

≪多分、早苗は夢月に借りを返したいだけだろう。ただ真面目にそうするのが恥ずかしいのさ。ここは素直に受け取っておきなさい≫

 

 八坂様? 借り、ですか?

 どちらかというと、僕の頼み事の方が多いし大きいと思うんですが。

 

≪見解の相違だな。夢月の『信仰』はきっと早苗の救いになり続けた。深くは語らないが、私が観るところそれが理由だよ≫

 

 それだけ告げて、八坂様は早苗の上に戻った。

 てか、早苗がこれに反応してないってことは、今のはもしかして僕だけに聞こえる声で、早苗からも姿が見えないようにしてる? なら、下手に態度を変えるのは無粋か。

 神様の助言に従って素直に呑み込んでおくのが、粋な在り方というものだろう。

 

 

 

 気を取り直してからは、大きめの休憩用テントで愛里グループ+αも加えてそれぞれの情報交換会をした。

 ここのスタート地点はトイレやシャワー、持ち出しは有料ながらその場で飲み食いできる水や食料、更には怪我や病気の治療なんかにも不自由しないので、滞在時は使い倒すのがジャスティスである。

 

 というわけで、僕は無人島サバイバルに有用なネタの実験結果と得られたデータ、僕のやり方を共有化して強化させるため、ネタバラシを始めた。

 この無人島サバイバル、そのエリア指定における通常……と、特にランダムの方に、僕は思い当たるものがあった。

 

───そう。桃太郎電鉄シリーズ…通称・桃鉄というゲームの目的地決めとその解析プログラムだ。

 

 解析プログラムの方は聞き覚えないかもしれないが、簡単に説明すると次の目的地が決定される前に目的地決めのアルゴリズムを解析して当てる、って遊びで使ったヤツである。

 一人で無限に桃鉄をやってると唐突に襲ってくる虚無に対抗するため、昔から様々な味変の楽しみ方を模索していた頃の遺産と言えるだろう。

……寂しい奴、とか言わないでほしい。傷つく。

 

 ちなみに、中学時代の暇な時間と船の説明が終わって空いた時間で100回ずつテストしていて、中学時代のPCありだと的中率87%(桃鉄システムゆえにランダムのみ)。現状のようにPCなしの自前の頭のみだと、的中率は通常が次の指定エリアが出現する周囲12マスの判定で64%、ランダムが49%くらいの精度だ。

 なので、この特別試験の指定エリアも実はいくつか予測を外している。4日目のランダム指定とかがわかりやすいかな。

 

 だが、この自作解析プログラムの長所はデータを積み重ねるほど精度が上昇し、テーブルのパターンを作る段階まで到達すれば70~80%はPC抜きでも当てる自信がある点。

 終了までの指定エリア総数から考えて、完璧は無理でも10日目あたりからはそこまで外れなくなるだろう。

 

 僕でさえこうなんだから早苗や清隆、高円寺、それとPC分野が得意と聞いてる葛城達と同じクラスの吉田や清隆から聞いたDクラスの外村という生徒などにもやろうと思えばできる……と思っていた。

 ゆえに、他の精度やデータ収集率はどうなのか、普通にやってておかしくない早苗に聞いてみたわけだが……。

 

「いえ、できるかできないか以前に、それをやろうと思う人なんか滅多にいませんから」

「そうだよ。ゲームの廃人プレイを現実に持ち込む発想自体が普通じゃないと思う。前から思ってたけど」

「ホントに紙一重なんじゃないの、はぐりんって」

「夢月さん……寂しい人」

「椎名と愛里はともかく、誰が紙一重で寂しい人だよ、早苗と長谷部! 僕の脳内を勝手に読んで的確に急所を突くんじゃねぇ! おまいう案件に持ち込んでやろうか!? あぁん!?」

 

 そしたら、何故か別方向に哀れまれてる件。

 早苗の慈しむような顔なんて初めて見た。巫女や風祝やってる時でさえ見せない顔をこんなところで見せるんじゃない。

 てか、天才どもはこれをやる必要がないだけで、可能とする奴は多いだろ。

 

「でも大丈夫だよ、夢月君。寮に帰ったら、わたしと…うぅん、わたし達と桃鉄しよ? きっと楽しいに決まってるよ」

「これまで頑張ってきたんですね、左京君。あなたがナンバーワンです」

 

 しかし、愛里グループの3人+椎名という弩級ボッチどもは、これまでになく優しい目をして僕にノーを突きつけてきた。操作系毒舌枠・長谷部のボッチ能力はそこまで高くないが。

 

「ば、馬鹿な……! こんなコミュ障どもに、この僕が優しい目で見られる…だと!? おかしい! この世界は間違っている!」

「間違ってるのは左京君ですよ。パーティーゲームを1人でやり込み、プログラミングまでして、更にそれを現実に応用するなんて……光景を想像すると共感と涙が止まりません」

 

 涙なんか見せてないだろうが椎名は。急所を突きにくる時だけやたらと喋りまくりやがって。

 

「で、でもさ。マリオパーティやモノポリー系とかは、1人でもつい長くやっちゃうよね? 早苗さんは似たようなこともできたり」

「愛里さん……。たしかに私にもそういうところはありますけど、流石に脳内で自作プログラムを再現できるレベルには達しませんよ。寂しいにも程があります」

「あ、あぅ……」

 

 愛里、もっと頑張ってくれ。

 このままだと、僕が寂しい人になってしまう。

 いや、嫌なら自分でやるしかないか。

 

「ふ、ふんっ。孤独なロマンは飾りなどではない。実際にこの試験でも、エリア指定を予測できて実用的でもあるのだ。女子にはそれがわからんということか」

「「「「なに言ってるの(んです)、この人?」」」」

「当たり前のように声を揃えるな! くっ、話の通じない化け物どもめ。共通認識してる感じなのが余計に腹立つわー」

「話が通じないって……それ、普段のはぐりんのことでしょ」

 

 素晴らしいモノをとても下らないモノに使う。

 これこそが粋なロマンってものだろうが。

 とはいえ、僕がこの後いくら言葉を尽くそうと、意識を変えることなど不可能だった。

 これは男女の思考の差がもろにでてしまっているのではなかろうか。経験と歴史を考えるに、男は発明や軍事・政治などの分野でも一定数は広く深い保守系やパイオニア的な存在が出現するものだが、女はどちらかというと狭くより深い思い込みを必要とする革新系に適性が高い気がする。

 ゆえに、こうした遊びを早苗達は理解できないのではないだろうか。

 

 ただ、彼女らの優しげな雰囲気も変わらなかったので、そこは呑み込むのが精神衛生上マシだろう。

 早苗なんかいつになく優しい手つきで打ち身の治療をしてくれたし、愛里は治療の間ずっと膝枕してくれた。

 椎名は僕の植生レポート(というかおそらくオマケで付けてた無人島南部方面の食い物マップ部分。枇杷や椰子、バナナとかに関して)を読むのに戻り、長谷部はたまたま課題報酬でもらってたというマスカットと枝豆を僕にも食べさせてくれた。

 

 余談だが、枝豆は江戸時代から一般庶民も食べるようになった食物というのが定説だが、始まりはずっと昔。水田の稲作とほぼ同時期に日本に入ってきた食物・文化である。

 マメ科の植物は根から窒素肥料的な栄養を出して大地を豊かにする。これに気づいた昔の人が、弥生時代に田んぼの畔で枝豆というか大豆を育てだしたからだ。農民たちは、その当時から新鮮なうちに収穫した枝豆を茹でて一品のおかずとしていたと思われる。

 歴史の授業とかではまず見かけない日本の里山文化は、新しい物が入ってきてもすぐに名も残らない村民とかが工夫して自然と調和させてしまう一例だな。

 

 尤も、貴族が保存の利く大豆ではなく、枝豆として食べるようになったのは平安から鎌倉にかけて。そして南北朝時代には武士の間でも、酒のつまみやお茶請けとして好んで食べられるようになっていたらしい。おそらく主に町人にも広まったのが江戸時代というのが、定説の根拠になったのだろう。

 だから、僕も枝豆が大好きなのは『俺』の前がこうした農民や武士、貴族でそれを経由していた名残かもしれない、と考えるとロマン溢れる妄想だ。

 

 何気に愛里に膝枕されたままマスカットや茹でた枝豆を目の前に垂らして食べさせてくれたから、ちょっとした石油王ハーレム気分(個人的印象)を味わえたなと思いながら、軽く寝入って妄想が入ってしまったのは秘密である。

 まぁわざとらしかったかもだが、愛里が平常心に戻ったなら結果的にやった甲斐はあったんじゃなかろうか。

 

 

 

 僅かな時間だが、愛里達に回復してもらい9時の指定エリア切り替え。

 先程の桃鉄理論を立証するため、あらかじめ僕の次の指定エリアはC10と宣言しておいたら本当にドンピシャで何人かに驚かれた。ささやかなモノだが、俺ツエーは実に気持ち良いものである。

 

 と、言ってられる時間はなく、愛里達に断ってここから南に少し歩いて到着得点、そして同じテーブルの奴らが少なかったのか出現から10分くらい経過してたのに、運良く着順ボーナスも3位で3点を得られた。

 あと愛里達の指定エリアはF9で、早苗がひとっ走り行ってくると言って向かっている。単独グループじゃないと、こうして分担ができるのは羨ましい。

……しかし、ゆっくりと移動したとはいえ、そこそこの距離差をモノともせず、僕より少し遅れただけで昼には戻ってきた早苗はなんなんだ。あそこの砂浜、結構遠かったと思うんだが。

 

 ま、その頃には四方と鬼龍院先輩も船から降りてきており、早苗特製の山芋の湿布を有森先生に使用に関する意見を聞いた上で、感心されつつ太鼓判を押されたのでちょうど良かった。これで安心して早苗の成果を享受できる。

 体育祭の時にも作ったこれは、すりおろした山芋をガーゼに練り込むシンプルなもので、早苗が里芋を見つけて作っていたらしい。

 

 山芋湿布は僕が祖父に聞いた捻挫や打ち身とかによく効く自家製の湿布であり、実際に効果も何度か実証澄み。だいぶ前だが、体育祭の後だったかに早苗にも教えてあったのだ。

 すり下ろす時に下手やって皮とかが混じると痒みが出るものの、早苗印の医薬品?なら大丈夫だろう。アイツの調合は本職には劣るかもだが、それでも相当な領域だ。

 有森先生も同意の上、今いる医療用テントの冷蔵庫で保管してくれることになった。勿論、誰でも使っていい許可付きである。

 

 と、再び合流して話してたら、テントの外が騒がしくなった。

 そろそろ2㎞の遠泳課題が始まるのだろう。僕も早苗も戻った時には受付が締め切られてて参加できなかったが、高円寺や七瀬が出場することになっている。ギリギリで滑り込んだのだ。

 

 僕は元々怪我してるので出場しないつもりだったが、早苗は最後の出場枠をタッチの差で七瀬に持ってかれて謝られていた。早苗もそれほど重視してなかったみたいで不思議そうに快く許していた。

 ま、試験で真剣に行ってる奴とそうでない奴の意気込みに齟齬があったのだろう。スタートやゴールの時に応援や賞賛の言葉を送ってたのが要因になったのか、七瀬もいつの間にかわだかまりを感じさせない顔で早苗達と話していた。

 

 なんにしろ、ここで七瀬経由で栄一郎や龍園とコンタクトを取れる見込みができたのは好都合。テーブルが遠いのか初日以来、全く遭遇しなかったからな。

 これは僕の休養期間、他にコンタクトを取ろうとしてた高円寺、葛城・戸塚、南雲、石上君、宝泉、椿にも言えるが、南雲と宝泉以外は今ここに集結してて話すのも比較的容易。こんな大規模な課題があって好都合すぎる。

 マジで月城さんか誰かが融通を利かせてくれたんじゃ? って思うレベルの課題である。

 

 清隆? アイツにはもう言うべきは言ったし、頼むことも頼んだから、しばらくは何も必要ない。

 ここに集まってなかった南雲と宝泉にしろ、一時的とはいえ僕の上位1位という実績と一之瀬との交渉結果、それにそれぞれの嗅覚を踏まえれば、おそらく遠からず向こうから接触してくる。そうしないと損でしかないからだ。

 彼らが間に合わなくても、それはそれで結構だ。最低限はすでに固められた。

 

 というわけで、この5日目はあえてコソコソせずに堂々と目当ての者達との交渉を進めていき、手順と段取り、損得調整は恙無く完了した。

 ちなみに高円寺に関してだけはあまり本人に関係ないことだったし、ただ“話して聞いて”おきたかったから、飯を共に食うついでに情報をぶちまけておいただけである。早苗と同様、言わなくてもどうせ好きに動くだろうからな。

 根回しとは、こういう使い方もあるという1つの事例だ。

 

 

 

 6日目の朝方。

 早苗が数日内に強めの雨が降る予報を出し、スタート地点で彼女らはしばらく休むと言ってたので一旦解散した。ただ、早苗は日に『1~2回は』指定エリアを踏むために動くらしい。

 一方、椎名や櫛田、それに一之瀬は新たなメンバーを加えて得点を稼ぎに遠征に出ている。

 

 僕は指定エリアを連続でスルーしないことを基本に踏んでいき、次の遠征にも備えて日持ちする食料をスタート地点付近で作製・確保していた。

 すると、予想通りに宝泉が1人で僕の前に姿を現す。

 この日からGPS反応を閲覧可能になるので、僕があまり動かず、競泳の課題がなければ6日目のここが最適なタイミングだと予想していたのだ。

 

 タイマンで対峙するとやはり迫力が違うなと思いつつ軽く挨拶を交わし、僕は早速とある交渉に移る。

 宝泉が何を重視するかはまだ未知数な部分もあるが、いるかいないかで勝機にかなりの差が発生するのは、性質は微妙に違えど龍園と同じである。なので、丁寧に双方のメリットを提示・説明し───快諾をもらった。

 その『時』の約束をすると「感謝してやるよ、センパイ。その時を待ってるぜ。はははっ!」と、なんかメッチャ笑ってたから裏切る確率は低いだろう。

 

 七瀬に頼んでおいたからか昼には栄一郎と龍園とも遭遇でき、宝泉と同じように『この件に関する』一時的な協力を仰げた。

 特に龍園は僕の戦術におけるキーマンの1人でもあり、彼の手さえ借りられれば幅が大きく広がる。薄暗い方面に強く、こと現場で人を率いる才において、龍園はこの学校でも有数の実力者だろう。

 

 また、日が落ちるまでにもう1人のキーマンも自ら姿は見せたものの、この交渉は少し難航した。ただ、それでも前例をソイツ自身が作っていた事実から糸口を広げ、なんとか予定していた人材全ての下準備が整った。

 ちなみに最後のキーマンは、『確実』に黙認するので大丈夫だ。彼はすでにその可能性を切り捨てている。おそらくリソースに空きがあったらフォローも入れて…くれると考えるのは流石に都合良すぎる考えか。

 

 ふぅ……。適切な人材を確保できているものの、物質的な下準備はこれからだ。まだまだ予断を許さない。櫛田も試験の片手間とはいえ手伝ってくれてるだろうし、時間が許す可能な限界まで詰めさせてもらう。

 でも僕の身体は約2日の休養を経て、まだ少し痛む部分はあれどだいたい完治したと見ていい。

 物心両面の僕式・包囲殲滅陣(過言)によって、考えうる逃げ場はあらかじめ潰させてもらおうか。

 

 僕みたいな凡人が虎穴に深入りする危険性は理解している。

 しかし、虎穴に入らずんば虎児を得ず。つまり深入りしよう、と僕の勘は言っている。いや……なんだ、深入りしようって。

 明らかにおかしい気もするが、承知の上でもやる以外の選択はありえない。

 己の矜持と美学を貫くなら、負うべき価値のあるリスクだ。

……いつかも思った気がするが、僕はやはり悪辣な部分もなきにしもあらずなのかもしれない。

 




 リザルト5(5~6日目)
 前日まで148点。
 5~6日目の2日間、夢月は課題を全く受けていないため、指定エリアの到着得点・着順ボーナスのみ。6回到着して、到着得点6点に、着順ボーナス1位2位3位を1回ずつの18点。
 合計で24点プラスの172点。

 5日目か6日目が終わる頃には南雲グループや高円寺に抜かされてるかもですが、実は4日目終了(夢月と鬼龍院がスタート地点に到達した18時)時点では、夢月が上位1位になってました。
 ここで一度でも南雲グループを上回っておくととある手間が省けるので、なんか調子良かったダイスに従った結果です。

 ちなみに原作だと、高円寺が5日目の時点で126点4位(綱引きと競泳の30点で一時的に1位になる)、桐山グループが135点2位、南雲グループが145点1位(※)。龍園グループが92点で10位。綾小路が52点の74位。
※南雲のこの時の正確な得点は不明だったため、(高円寺に抜かされることを考えると)145点なのはギリギリのラインの独自設定で、4日目終了時は130~140点くらいの想定。ただし、4~5日目の南雲グループはグループ人数追加課題を重視しており、ここから獲得点数が増加します。なので南雲に関しては、原作みたいな舐めプに走らなければ上回るのは難しいでしょう。

 他の上位グループや龍園グループは、龍園の相方が葛城→松雄栄一郎に変わってるだけなので数値上は変化なし。綾小路は七瀬が付いてないため少し強引に稼いだ想定で、なおかつアレの現場にはいましたが原作ほど関わってないので+20の72点。能力的に稼ごうと思えばもう少し行けそうですが、綾小路の性格や基本戦略を考慮すると80点は越えないと思われます。



 夢月の指定エリアの山勘法。
 この指定エリアのプログラムや解析って腕に覚えがある人だと考えたことはあると思ってるんですがどうでしょう?
 それと早苗や椎名さえ寂しいとか評してる部分って、少し大袈裟すぎになってませんかね? 想像じゃなく自分がふと思いついて実際にやってみたことだと、どうも他人の反応や加減がわからなくなったりする傾向を考えさせられます。

 なにより、原作の獲得得点から考えると高円寺は似たような事してるかもしれませんし、綾小路やホワイトルール勢も『やれない』んじゃなくて『やらない』んじゃないかと言う疑問が……。そもそも彼らが思いつかないってレベルの発想でもないと思いますし。
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