ようキャ   作:麿は星

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 前半の区切りなので多くは語りません。ただ、これだけは述べておきます。
 こんなヤツ作っといて手綱を放置したまま放つなよ、と。



175、断罪ごっこ

 

 無人島7日目。

 今にも降りだしそうな曇天下、ポイントが得られなくなるデメリットもなんのその。集まったならず者どもと迎える新たな昼が来た。

 明確な初対面が2人いるので、まずは礼儀正しく挨拶だ。

 

「やあ、八神君。はじめまして、左京夢月だ。そして、いきなりだがこれからする問いが僕達の分岐点を決定付けるだろう」

「なっ……! 左京、夢…月……先、輩!? なんでここに……?」

「ははは。それは君の方がわかるはずだ。場合によっては退学まで持っていくから、心して答えることを勧めるよ。

 と、前置きは止めて、本題に入ろうか」

 

 ここは各学年のリーダー達に人払いを頼んであるF9の浜辺と森の境界に程近い開けた場所。

 手筈通りに宇都宮が八神を抑え込んだ…ように見える状況で僕は当たり前のようにその場へ乱入し、切り替えて一言告げた。

 

「───全面降伏。イエスかノーで答えろ、八神拓也」

 

 八神以外は面食らった感じだが、その僅かな間で僕は確信を得られた。万が一、間違ってた場合は全力土下座じゃ済まない覚悟だったが、八神は完璧にクロだ。一瞬だけ見せた黒い表情は清隆を彷彿とさせる。

 ゆえに、それまでしていただろう話をぶったぎり単刀直入な一撃を開戦の狼煙とすることにした。

 

「なんっ、なんのことでしょうか。僕はまだなにも……」

 

 場の雰囲気に従い、とぼける。

 そう、その手は『まだ』有効だ。しかし、最適解の道筋がまだあると思っている八神は、僕を敵に回した自覚がある反証を示してしまったのである。

 

「お前は完全に包囲されている。無駄な抵抗をするか否かを自分で選べ。

───諦めろ、お前の未来は見えた。この現状は運命だ。僕に全てをひっくり返されるというな」

 

 現実では言われる奴の逆上を誘うためタブーとされている物語などの定番台詞とゴール・D・ロジャーの改変台詞だが、だからこそ八神にふさわしい呼び掛けだ。なんせできるだけ本番前に冷静さを削り、十全なパフォーマンスを発揮させないことが僕以外の安全性を向上させてくれる。

 怖くはあってもやっておくが吉。

 

 どんな流れでそうするかは下級生達に任せたが、現状の八神は宇都宮に砂浜で抑え込まれた形。

 近くには彼と同学年の椿、石上君、高橋?、宝泉、七瀬。それに七瀬には栄一郎が付いている。更に、僕の左には龍園達Cクラスの武闘派男子3人、右には神崎など僕のクラスメイト数名や坂柳さんから借りてきた鬼頭といった強そうな雰囲気の奴。

 

 また、姿は見せないが後方のギリギリ声の届く位置には南雲と3年生。あと他にもいくつか。

 ついでに森と浜辺の境界には、要所に桐山などの3年生に南雲を通して埋伏を頼んである。単純に逃亡不能な半密室の砂浜を作り出す目的だ。

 これを可能とするため、借りれるだけありったけ借りてきた。

 

「だからなんのことですか!」

「この下らない劇の幕を降ろす気はあるのかと聞いているんだ」

「不当な言いがかりを僕に付け、宣戦布告どころか初対面でいきなり全面降伏!? 上級生だからと横暴がすぎるでしょう!?」

「横暴? 当然のことだよ。君は僕を敵に回して、しかも根回しの時間と余裕まで与えている。結果、現状で揃えられた戦力も準備もこっちが圧倒的となっているんだ」

「……っ!」

 

 石上君と椿に整えられたこの場にのこのこ出向いた時点で。櫛田を利用しようと接触を図った時点で。なによりも鬼龍院先輩に危害を加えた時点で。

 

───八神は僕の一線を踏み越えた。

 

 想定される八神のいくつかの目的達成への道筋と逃げ道はあらかじめ全て潰してある。仮にこの場の全員をなぎ倒し、逃亡を図ろうと無駄だ。八神がこの学校に所属してる上に月城さんも突っぱねってしまった以上、助けは来ない。あってアイツくらいだが、そこにも手は打っておいた。

 

 ちなみに最後のひと押しであるコイツだという確信もついさっき得られた。

 戸惑った風に歯噛みしている八神も理解はしているのだろう。だから、いま必死に打開策を思いつこうとしてるのだろうが、もう全ては遅すぎる。

 精神・物理問わず、殴ったら殴り返されるのはどんな時代・場所であろうと世の常識である。

 

「待ってください左京先輩。本当に八神君が波田野君を…アレをやったんですか?」

「そうだ! 僕はやってません! やったというなら証拠はあるんですか!?」

 

 ふむ。想定では石上君だったが、椿か。弁護やフォローに見せかけた『罠』を女子が仕掛けてくれるのは実に助かる。どこかで確信して失言を誘発させる手か。しかも1学期の件をミスリード気味に絡めるとか椿も頭の回転が早いな。

 ま、僕はここにはノータッチでいこう。後で同級生同士やりあってくれ、って感じに椿や宇都宮など1年生を軽く一瞥して通じるかわからない意図を送り、僕は何事もなかったかのように続けた。

 

「ふむ。そうか。つまりノーという答えが君のファイナルアンサー?」

「なんでそうなるんですか! そ、そもそも僕が何をやったというんです!? 何かやったというなら証拠を見せてください!」

 

 そして、八神はそれに答えるつもりはない、と。

 ならばこちらも相応の対応に移らせてもらうか。

 口調を普段に戻しつつ、はっきりと断じよう。

 

「そんなものはない。僕の勘だ」

「は……? 勘?」

「いえーす。単純に鬼龍院先輩を負傷させた君を封殺しつつ、報いを受けさせてやろうとね。僕は今回の行動に至ったわけだよ。必要人員を巻き込みつつ、ね?」

 

 あ、それと渡辺。それに真鍋、波田野もか。特に龍園達は真鍋、椿と宇都宮は波田野が参戦の決定打の1つだろう。

 

「だから! 僕がやった証拠を見せてください! そんなものがあるわけないって、すぐに調べがつくはずです!」

「うん? そこはすでに調べて証拠はないとわかってるよ? だから、まず僕は勘で君だと目星を付け、こうして直接対面し───確信を持ったんだ。

 ああ、安心してくれ。ここに集まってくれた協力者達は、僕個人のこんな不確かな勘でいるわけじゃない。明確な利益を提示して協力を求めてある」

「り、利益…です、か?」

 

 ここにはいない一之瀬も、渡辺のリタイアについて決着付けるって交渉したら、愛里のクラス移動用に確保してた2000万円の流用を認めてくれたし、神崎に応援も手配してくれた。葛城・戸塚や坂柳さんもだ。

 そう思えば、八神も無駄に敵を増やしたものである。

 

「うん。君達1年生や南雲とかの一部には内々で告知されてるらしいけど、『とある生徒』を退学にしたら2000万円ってヤツ。だったら僕が開催してもいいよね、ってことでね?」

「なっ……! ま、まさか……!?」

 

 察したみたいだな。

 これが僕の理不尽式・反撃模倣術である。

 

「───八神拓也を引っ捕らえて学校に引き渡したら賞金2000万円」

 

 自分が標的にした奴とほぼ同じ状況へ落とされる。そんな気分を味わわせてやろうという年上からの心遣いである。じっくり堪能するといい。

 明白だろうが説明すると、これは清隆を退学にさせたら云々の特別試験を模倣したモノだ。

 

 ただ、月城さんも当然のように『僕が資金を集められるなら』という条件で承認してくれた。ついでに南雲も、僕が上位1位で一応『勝ち』をこじつけられたことと、この賞金首な特別試験開催の事実を突いて一時的な協力を取り付けた。

 

 月城さんに関しては自分が理事長代理でいる間、八神は仕事してくれないと見切ったのだろう。

 こういう判断は社畜に必要なことも多いので、月城さんなら協力までいかずとも静観してくれると思っていた。月城さんの手間はほぼないしな。

 

「なーんて、小大会的な課題を開催してみたんだ。ここにいる協力者は全員がその参加者でもあるというわけ」

 

 証拠がない前提だったから端から当てにせず、利益と討伐の理由を八神自身の行いと振る舞いによって返す策でもある。八神が一之瀬や櫛田、南雲のような人気者だったら、僕が詰められただろう。

 でも、大多数はともかく、すんなりそれぞれのクラスの中心人物が参加を決定してくれたあたり、1年生どころか全学年全クラスでも八神に不審や疑惑を持つ奴は多かったのだと思われる。ま、1年の夏にそんな人気者になってたら逆に警戒されてたかもだが。

 

「いやぁ、悪いことはできないね。奮ってご参加くださいって交渉して廻ったら、みんな快く参加してくれてさぁ。南雲生徒会長も協賛する「……誰が協賛だよ」断罪ごっこのターゲットに選ばれておめでとう、八神君」

 

 所詮は僕もいち生徒。断罪『ごっこ』でしかないのは確定的に明らかである。

 てか、見えない背後からボソッとツッコむの止めてもらっていいか、南雲。お前の出番はもう少し後だろ。

 

「ば、馬鹿な……! そんな馬鹿なことが……!! 僕は何もやってない! まだ何も“成して”いないんだ!! こんな滅茶苦茶な論理じゃ」

「そんなに滅茶苦茶かな? 僕ちん、よくわかんなーい」

 

 ただ、見た目の印象に反して、大人しく捕まってくれるタイプでもないか。

 それなら、そろそろ解き放つか。下手に暴走させるタイミングがズレると、八神を抑えてる宇都宮がヤバい可能性がある。

 決定的な反論で開戦の火蓋を切るか。話の流れはそこへ向かってるし、逆手に取るなら今だろう。

 

「証拠もなしに僕だと決めつけていいわけがない!! 僕を勝手に2000万の賞金首にするなんて…そんな……そんな横暴が許されていいわけないでしょう!?」

「それ以上をやられた君の『先輩』がすでに実在しているわけだが? 誰がどうやってかはあえて限定して言うまでもないよな? そう───曲がりなりにも恩恵を受けたお前が言うなってヤツだ」

「ぉ……っ!」

 

 only aliveの退学とはいえ落ち度も…あ、あんまりない奴への理不尽なこれと比べれば、多少手荒になろうと引っ捕らえて学校へ引き渡すだけなんて甘いにも程がある処分だろう。

 前例があるならあるで、こうして有効活用しないとな。なかったら違うやり方で追い詰める気は満々だったし、バックアップの裏で好き勝手やった責任は取らせる。

 

 学校や南雲が最終的にどう処分するかはわからないが、退学……いや、流石に明確な証拠はないしそれはないか。それでも、最低限まとまった期間の停学と被害者への謝罪と賠償、それとなんらかの罰は確実に遂行させるけども。起きた一連の事故が故意だとするなら、世間一般では未成年だろうと普通に刑事事件なので。

 自ら手を下すことは少ない間接的手段を主とする清隆と違って、八神は証拠はなくとも実際に危険行為に及んだ可能性はもはや確信レベル(僕基準)なのだから。

 

「自覚がないようだから、教えておいてやる。

 お前は最悪に近い手段で僕を敵に回した。僕はたとえ敗北者として地に這いつくばろうと、友達を傷つける奴は問答無用で敵認定して速攻で全ブッパするほど嫌いだ。マジで大嫌いだ。重要なことだから2度言うほどな。ゆえに力押しで封殺することを意趣返しとしよう。面白半分の愉快犯染みた動きで引っ掻き回すお前にはこれが一番効果バツグンだろう?」

 

 勿論、満面の笑みを浮かべて言ってやった。

 

「馬鹿な。馬鹿な……! なんなんだお前は!!? なんでお前ごとき低レベルな凡夫がそこに立っている!? そこにいるべきはお前じゃない!! 邪魔をするな障害物!」

 

 なに言ってんだ、コイツ。僕はそんなものじゃない。

 そこって、清隆が時々言及したりする『勝者』とかの立ち位置ってことだろ。てか、馬鹿馬鹿言いまくる八神の繰り返しの多いコンテンツ感はなんなんだ。それか能力に反して幼児性が高いのか?

 鬼龍院先輩と一緒にああなった時から僕は明確な『敗北者』だ。天沢が出てこず、そのまま暴力にでも訴えられてたら、確実に終わってたからな。僕は真正面からの直接攻撃にものすごく弱いのだ。

 だから、敗北したまま反撃に転じただけである。

 

 でも一応はコイツもリアリストっぽい部分はあるだけに、現状の詰みを悟ってくれたか。態度や雰囲気、口調に微妙な変化が見られる。

 感情ではなく知性と理性を働かせていれば、この展開はありえなかった。暴力も伴う争いとは、基本的に大きなコストを消費する非効率なコミュニケーション手段だ。だから僕は、ここへ至る道筋を嫌う面がある。

 そして、お互いにそう考えていれば、相手は何通りかあってもまずは対話しておくのが目的達成に最も近かったとわかるだけの知性が八神にはあった。

 

 あと、なによりも重要なのは。

 事実として、八神拓也という推定ホワイトルーム生とやらを包囲・殲滅できるだけの戦力を、今の僕は限定的に使えるということだ。金という即物的な利益と仲間を傷付けられた者達をまとめて揃えられたからな。

 仮に学校が介入してこようと。誰が援軍に駆けつけようと。もしくはあまり確率は高くないが南雲や龍園とかが裏切ってこようと。これらはあったとしても、八神が倒された後にしか影響しない。

 

───とどのつまり、八神には甘い考えで遊ぼうとした報いの時がちょっと早く来ただけだ。

 

 天才級と思われる八神には本来通じにくい手だったが、幼児性が高めでかつ驕りが過ぎたな。

 要は墓穴を掘った自覚はありつつも、認めたくないってトコか。

 

「あ、南雲。これから八神の討伐課題を開始するから、監督役を頼む。あと逃亡した場合の網も張ってくれてるよな?」

「滞りなくな。だが、生徒会長を特別試験の最中に良いように使ったのは高く付くぜ?」

「うむ。一之瀬に全てツケといてくれ。そのように話しておいた」

「……帆波に投げまくってやるなよ。お前、ホント…そういうとこだぞ。

 しかし八神、か。不運にもほどがある奴だ。よりによって左京と鬼龍院なんて奴らに手を出すとは……」

「金は試験後に一之瀬から受け取って、南雲から見た功労者に渡してやってくれ。話は着いている。

 というわけだ、八神」

 

 これ見よがしにした南雲との確認もこれで完了だ。

 改めて八神を見下ろし、虎の威を借る狐ムーブで断罪の刃を向けた。

 断罪ごっこ前の煽りが流れとして美しいからである。

 

「───さあ、後悔しながら懺悔し、お前自身の罪を数えろ。

 一応先輩のよしみだ。僕がこの下らない劇の幕を降ろしてやるよ」

「…………認めない。僕は断じて認めないぞ! まだ僕は何も成していないんだ! こんなところで、こんな凡夫相手に終わってなるものか!!!」

 

 む、僕が南雲と話してるうちに微妙に頭が冷えたらしいが、それは僅かに留まって逆に温まってきたな。

 夏の無人島にふさわしい暑さだ、近寄り難い。

 てか、さっきからコイツは、なんでなんでと駄々捏ねる子供かよ。自分を棚上げばっかりしてるから、こうして足を掬われるんだっての。

 

 思考停止した人が答えだけ知ってどうするのか。それは品格と品性を落とす行為だと注意はしても……教えてちゃんが許されるのは幼児期までと自覚すべきだ。

 自分の頭で考えない人には何を説明しても理解しないからなぁ。

 人の振り見て我が振り直せって言葉通り、他の人には良い反面教師になるので僕は無理に止めないが。

 なので、そろそろやりたい奴にバトンを渡す。

 

「そうか、それもまたいいだろう。僕が話すことはだいたい話したしな。じゃあ、やり合おうか。宝泉や龍園もこのままじゃ不完全燃焼だろうし」

「わかってんじゃねぇかよ、センパイ! コイツが綾小路に匹敵するかもしれないって話を俺が確かめてやるよ! 早くやらせろ!」

「綾小路の野郎に匹敵、だと? ……まぁいい。落とし前つけるのには余分なことか。

 しかし一旦は捕まえといて、恥を晒すためにもう一度捕まえるとか悪辣なやり方だな。ますますあの甘ちゃんクラスで大人しくしてんのが不思議だぜ」

 

 そこはどうなんだろうな、実際。たしかに強者っぽい雰囲気はあるものの、清隆や早苗、四方とかに匹敵するとは不思議と感じない。むしろ、この宝泉を乗せるための嘯きの根拠となった天沢級に思える。

 まぁ天沢自体が充分にヤベーから、封殺するためには致し方ない風評被害だ。高く見積もられるぶんには問題ないだろう。

 

「……よし、準備は万端のようだな」

「どこまでっ……どこまで僕をおちょくれば気が済むんだ、このイレギュラーがぁ!! お前っ…お前『も』壊してやる───壊してやるぞ左京夢月!!!」

 

 ひぃ! こっわ。さっきまでの優等生然とした八神は何処へ行ってしまったのか。なんか異様にキレ散らかしてる。殺すとか葬るとかじゃなくて壊すってあたり、八神の人間性がぶっ壊れてるのが垣間見えて怖い。

 よし、せめてもの申そう。

 

「いや、君には無理だし、今回の僕はおちょくってるつもりもなく、いたって真剣だが? てか、怖いから強い言葉を使わないでくれ。ブルっちまうだろ。僕は普通の凡人なんだ」

「ふざっ、ふざけるな! ふざけるなァアアア!! 僕が待ち望んでいた機会はこんなことじゃない! お前のような分別のない愚か者が割り込んで来るなっ!!!」

 

 ガ○ーかよ。言葉が通じねぇ。

 まぁ、主人公級には数歩届かない印象だし、相応と言えば相応か。

 僕は対話を諦めて切り替えた。

 

「……ま、いっか。せいぜい頑張って抵抗したまえ、八神君。これが最初で最後になるかもしれないんだからな」

「左京───夢月ぃいいいっ!!!」

 

 おそらく最後にはならないだろうけど。

 ともあれ、もはや八神にはそれ以上の言葉もなく、目には危ない光が煌々と宿り出している。かろうじて暴れ出しはしないが、これはもう何を言っても無駄だ。

 メッチャ怖いし、本格的に目を付けられると面倒か。この程度で許して水に流すのが、八神本来の狙いである清隆に集中してもらう道筋だろう……だよね? なんかやりすぎちゃった感がほんのちょっぴり……。ここは武闘派達に任せるが吉かな。

 そうと決まれば、言うべきことは言っておく。

 

「宇都宮。僕や椿など参戦しない人達が退避したら一旦離れろ」

 

 スタートの合図とルールを明言する。

 一応は生徒会長協賛の『特別課題』扱いだからな。これは必要な措置である。

 

「参加者はそれをもってスタートだ。熊とかの猛獣同然と思って、なるべく怪我が少なくなるよう簀巻きにする用の布や木材、ロープを用意しておいた。他にも治療薬などの手当て、拘束用の熊手っぽい棒やそのまま移動させる手段や段取りも組んでいる。上手く使ってくれ。

 そして、八神捕縛までの貢献度合いで懸賞金の割合を決定するから、他も奮って参加してほしい」

 

 戦力を充実させた上での封殺の策は幾重にも。暴力沙汰に関する保険の策は南雲や月城さんにも。あるとすれば援軍への対策も。勿論、誰かが怪我したとしても治療の手配や補填も。

 人脈も金もフルに使って可能な限り整えた。

 ならば、あとは開始宣言をして鼻先にニンジンをぶら下げるだけでいいだろう。

 

「───では、待たせたな諸君! これより八神拓也の断罪ごっこ特別課題を開催する!

 あとあらかじめ言っておく! 2000万のため、学友のため、危険行為を抑止するため───そして八神は『目的』を達成するため。理由はなんでもいいが、ご参加ありがとう!!」

 

 改めて、お集まりの皆さんには内心で感謝をしておこう。

 なぜ内心かって? こんな感謝を馬鹿正直に表明したら、怒りを買いそうな奴らが多いからに決まってんじゃん。

 

「さあ! 細かい事は忘れ去って、ぶわぁ~っといってみようじゃないか皆の衆! レッツ・パーリィイイイッ!! ふはっ、ふははははっ!!」

 

 ふぅっ~! なんかすごくスッキリした気分だ。

 八神の件を水に流して忘れる見通しができたからだろうか。懸念事項がこれで1つ失くなりそうだからか。

 心から笑いが込み上げてくる。

 

「「「うおおおおおっ!!」」」

「───ッ!! ──────がっ!!」

「とんでもない奴だぜ、まったく……」

 

 南雲め、失敬な。僕なりに煽りは抑えた常識的なぶち上げのつもりだったのに。

 乗ってくれた奴らの雄叫びでよく聞こえないけど、八神なんかスーパーサイヤ人に覚醒しそうな顔してるがそれだけだ。穏やかな心を持ってなさそうだから覚醒しないだろうけどな。

 

 

 

 それにしても……う~ん。元々は一線を越えた清隆への対策の1つを流用してみたが、これだけの戦力を用意したのに圧倒しきれない。推定だが、これが八神よりも厄介な清隆相手じゃなくてよかったかもしれない。

 だが、ここに至って『現れない』のはまだしも、影も形も感じないならきっと清隆が上手くやってくれたのだろう。もうアイツらにこの手は通じないだろうが、結果オーライと片付けてしまえばそれで良いはずだ。効果的な手札はまだいくつかあるしな。

 

「ヒャッハー! よくわからねぇが汚物を消毒して賞金出すとか左京も太っ腹じゃねぇか! よっしゃ、俺達がゲットしてやるぜ!」

「……Oh」

「なるほど。だから自分と似てやがると。石崎はこのまま使った方が良いのかもな」

「石崎君……彼はもう駄目だ。すでにイッてしまっている」

「エイイチロー、危険行為を振り撒いた八神君を処せばいいんですよね? それか左京先輩を守ります?」

「……翼、お前もか。東風谷さんの影響は意外と甚大だな。社長からなら後半だけだったろうに」

 

 待避するすれ違い様、龍園達のそんな話が聞こえた。僕のぶち上げに最も乗ってくれたのは、どうも石崎のようだ。

 ほとんど付き合いはないが、毎回のように僕の好感度と場を盛り上げてくれる実にありがたい存在である。

 

 ちなみに少し迷った末に、結局は栄一郎と七瀬は僕も含んだ非戦闘要員達の守りに入り、2年のA・Bクラスの武闘派は包囲網に加わってくれた。

 てか、運動神経抜群なのは知ってるけど、七瀬って包囲に加わる気だったの? 基本的に争いを好まない温厚な奴だと思ってたんだが、一見リンチでイジメなジャイアントキリングorレイドバトルにも乗り気だったとは……。人とは見かけによらないものだ。

 

 あ、ここに2年Dクラスの人員(須藤とか三宅とか)がいないのは明確な意図がある。

 八神から櫛田への注意を完全に断ち切るためである。すでに相当櫛田の優先度は下がってるだろうが、このダメ押しで無駄な爆弾を炸裂させる確率は更に下がったはずだ。ま、代わりに目立たない後方要員として各種調整を手伝ってもらったけども。

 

 ともかく、学校でも有数の武闘派数人がかりの波状攻撃だというのに、八神は1人でやり合えている。

 信じられないことに主攻を買って出てくれた宝泉と宇都宮を捌きながら、入れ替わり立ち替わりで遊撃する龍園やアルベルト、石崎、神崎、鬼頭などの一定以上の武力の持ち主達にも対応している。

 

 なんなら、優れたフィジカルを持つものの、他人に合わせたくない宝泉がお互い嫌々っぽくも宇都宮や龍園と共闘するくらいだ。見た目以上に戦力は拮抗してるのかもしれない。

 繰り返すが、ただやられるのはプライドが許さない的なヤケクソ感が漂う八神たった1人相手にである。

 それを目の当たりにして南雲が零す。

 

「おいおい。八神の野郎、マジでやるなんてもんじゃないな。しかも左京曰く、コイツに匹敵するっつー綾小路に…四方と高円寺もか。左京までいやがるし、下級生には破格な奴が多すぎだろ」

 

 よし、南雲はアイツのことには気づいてないな。ここに名前を加えないなら、おそらく大丈夫だ。でも代わりに変な名前があるし、訂正しとくか。

 

「南雲、そのラインナップに僕を混ぜるんじゃない。僕は普通の一般生徒だから、代わりに早苗…東風谷を詰めとけ。分野に違いはあれど、だいたいみんな天才だ」

「……よく言うぜ。『事故』から僅か数日で俺まで使ってここまで持ち込み、証拠さえ蹴っ飛ばして八神を速攻で封殺する段取りを組んだ馬鹿がよ。

 つーか、四方や高円寺はともかく、アレを天才と呼びたくはないな。鬼龍院と似た類いだぜ、ありゃあ。触れるな危険ってヤツだ」

「……」

 

 鬼龍院先輩を早苗の同類みたく思ってんのか、コイツは。危険=面倒臭いですね、わかります。

 まぁ早苗は置いといて、八神はアレだな。僕がそう誘導したとはいえ、そこへ至らせてしまう落ち度や隙が大きすぎた。これに尽きるだろう。

 

 まるで10年くらい後に『未来』進行形でやらかして続けてた某韓国大統領や、2016年現在の今はつい最近の4月にあったコンビニチェーン・セブンイレブンのクーデターを起こして創業者であるS氏から経営権を奪い取ったI氏のようなモノだ。

 どちらも嘘、身勝手、デタラメが過ぎるあまりに信用を失って、国や企業グループを救いようのない体たらくにしてたし、彼らにやったことが近い八神への総スカンもしかたないことである。

 

 つまり八神の想定するゴールが近視眼的かつ感情的すぎたってことだ。人が人を支配し、搾取するように常に教育・洗脳されてきた者の行き着く先、と言った方がわかりやすいか。

 能力だけで見るなら八神は天才級なのに実にもったいない。なんとなくちょっと前の櫛田と似た才能の無駄遣いを思わせる。こんなことを僕なんかに思われたくないだろうけども。

 

……いや、ホワイトルーム(で宛先はいいのか?)よ。

 こんな能力だけの化け物を産み出しといて手綱を投げっぱなしにするなよ。せめてもっと完成に近づけてから放流しろ。

 危なすぎるんだよ、主に僕に!

 一歩間違えてたら、もしくは何か(天沢とか)の条件が違ったら、絶対ヤバかっただろ。下手するとボコボコどころか、マジで死んでた可能性すら考えさせられるじゃねーか。後で清隆にクレーム入れてやろうか(とばっちり)。

 

「お前だけは……! お前だけは必ず道連れにしてやる! 覚悟して首を差し出せ、左京夢月!!」

 

 その時、包囲網を一時的に弾き飛ばした八神が突進しながら言わずもがなな問いかけを発してきた。

 だが、まさか比喩じゃなくて文字通りじゃないだろうし、天沢があの時に出てきて見逃してくれたあたりから僕は負けを認めている俎上の鯉。まさに今更だ。

 

「ふむ、僕は最初から差し出してるつもりだがな。八神は何を言っているんだ?」

「言ってる場合ですか社長!?」

「そうですよ! どうするつもりなんです左京先輩!?」

 

 どうするもなにもない。八神も一応は後輩。お望みなら応えるのみだ。

 てか、最終局面のここにきてまだ『現れない』ってことはやっぱり情が深い女だな、アイツ。清隆に頼んどいて良かった。

 最後の懸念が消えたのでサラリと忘れ去り、僕は残る者達に心配いらないと声をかけて、八神の進行方向と直角にゆったりと歩き出す。

 なぜなら、なんとなくこうするのが奇跡を起こしやすいんじゃないかと勘が囁いたから。

 

「ん、君達。巻き込まれるから、下がっていていいよ。守ってくれてありがとう」

「……悲しい、悲しいなぁ。よりによってコイツを敵に回して洗礼をぶつけられる八神は相手が悪すぎた。本当に悲しいなぁ」

 

 DQ8のドル○ゲスかおのれは。なんなら意外とはまり役だし、八神は南雲が相手してもいいのよ? 喜んで譲るさ。

 

「ふぅ……おい松雄、それに七瀬はこっちだ。男同士の間に入るな───化け物以外はな」

「「は!? はぁっ!!? ちょ、ちょっ南雲会長!?」」

 

 ま、そんなわけにはいかないか。

 だけど、南雲は栄一郎と七瀬を後方に引っ張ってってくれた。バトンが僕に返ってきたのを察するだけならまだしも、そこまでしてくれるなんて珍しく親切じゃないか。

 

 よし、ならば僕もだ。八神と彼を追う者達の速度から考えてそんなには進めないだろうが、ちょうど雨が降り出した今は1人の方が好都合。

 南雲や栄一郎が下がった森の更に奥を一瞥し、良さげな状況を歩きつつ流れを微調整。反転して森を背に八神を迎え撃つ。

 一撃で僕を葬ることさえ可能だろう存在がせまる中、いつも通りの心持ちで僕は口と内心で別々に嘯く。

 

「───王手飛車取りだ。もう八神は詰んでいる。僕まで辿り着いたところで何も結果は変わらない」

 

───よくここまで出るのを堪えてくれた。僕が囮になるから、あとはお前の私怨を好きに晴らせ。

 

 なんせ友達のピンチには駆けつけてくれる奴だ。

 僕もそう在りたいと思うことさえある格好良さを持つ彼女を『信じて』、命拾いした実感がようやく湧いた。

 

「私、今、すごく良い風を感じています───だからサイッコーのタイミングですよ、夢月さんっ!!! アーハッハッハ!!」

 

 嘯くのが早いか、当然僕を追尾する八神が僕のところへ辿り着くより先に……見事、間に合わせてくれた。

 美味しいところを全部持っていく強欲な緑の風祝が、聞こえてきたわけわからない言葉とともに僕の横を吹き抜けていき───。

 

「……さて、気まぐれで一途な現人神様にお任せして、祭りのフィナーレに取り掛かろうか諸君」

 

 結末はあえて語るまでもないだろう。

 餅は餅屋に任せ、天才には天才を当てる。

 そしてその間に僕は忘れ去られていずれかの天才へ意識が行く、と。

 

 去年とは立場が逆になったせいかあまり上手くいくビジョンはないが、これで八神は半分くらいの確率(希望的観測)で僕の事を忘れてくれるはず。僕も八神に関する記憶の削除手続きしておくから、恨みっこなしのお互い様だ。

 だから、八神とやら───じゃあの。

 しかし、やはり僕はその状況や流れを作って後始末する役割をこなすのが、結果的に良さそうである。

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