ようキャ   作:麿は星

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2、邂逅

 

 派手な髪色を眺めているうちに時間が経っていたのか、最初の交流時間をガン無視してしまっていることに気づくと同時に始業を告げるチャイムが鳴り、スーツ姿でウェーブのかかったセミロングの女性が教室に入ってくる。

 おそらくはこのクラスの担任なのだろう。見た目の印象としては、話しかけるのに勇気を要するような美人である。

 

「新入生のみんな、はじめまして! 私はBクラス担任の星之宮知恵です。

 保健医だから、みんなと直接関わることはホームルームくらいしかないけどよろしくね!

 あ、初めに言っておくけど、この学校には学年ごとのクラス替えは存在しないよ。これから三年間一緒に過ごすことになるから仲良くしてね!」

 

 ふむ。

 まず体調が悪くても限界まで我慢することが今決まった。体調が悪いときに、勇気を振り絞るようなことはなるべく避けたい。

 しかし僕の内心は置いておくと、担任の第一声や笑顔はクラスメイト達に好印象を与えたようで、彼女への好意的な囁き声が聞こえてくる。

 男子からは勿論、女子からもなので自己紹介などの機会があれば彼女を見習ってせめて笑顔を心がけよう。

 

「今から一時間後に、体育館で入学式が行われます。それまではこの学校のルールについて説明するよ。まずは資料を配るから前の人は後ろに回してね」

 

 前の緑髪が振り向いて僕にも資料が回ってくる。一セット抜き出して、最後尾にまわす。配られた資料には、寮での学校生活の義務化や肉親であっても外部との連絡を一切禁止すると書かれており、以前貰った入学案内と全く同じだった。

 僕は確認のため担任の話を一応聞きつつ、資料を流し読んでいく。

 

 許可なく学校の敷地から出ることこそ禁じられているが、高校生に必要なものは数多くある施設で揃えられるようだ。

 カラオケやボーリングなどが入ったアミューズメントセンターといった娯楽施設やスーパー・コンビニはおろか、ショッピングモールまであるため、学外と同じ生活ができる。個人的なものとしては、場所が都会であるため懸念していた大き目の公園や天体観測ができそうなスポットもあるようなので一応ホッとした。

 

「次に今から配る学生証カードについて説明するね。これを使えば、施設内にある全ての施設を利用したり、お店とかで商品の購入が出来るよ。ただ、使うたびに所持ポイントを使うから使い過ぎに注意してね。

 基本的に学校内ではこのポイントを使って買えないものはなくて、学校の敷地内にあるものなら、何でも購入可能だよ」 

 

 僕が知らなかっただけで、学生証兼電子マネーはキャッシュレス決済の進んでいる場所では珍しくないのかもしれない。

 前の時はこんなシステムの学校は聞いたこともなかったが、ここは政府が管理している学校ともはや街と呼んでも過言ではない広さの敷地だ。

 キャッシュレスを進めると共に、紙幣や硬貨を持たせないことで、起きるだろう金銭のトラブルの可能性を低下させたり、金銭感覚が壊れていないかチェックしたりするのだろう。

 

「施設では機械にこの学生証を通すか、提示すると使用できるよ。ピってするだけだから簡単! それからポイントは毎月初めに自動的に振り込まれることになっているから計画的に使ってね」

 

 使い方は、Suicaやマナカのようなイメージでいいのだろうか。

 振込みがされるということは、逆に生徒や先生相手に振り込んだりもできるとも取れる。

 もしこの推測があっているなら、商売や交渉などもすることになる可能性があるので、一通りの使い方は調べておいた方がいいだろう。

 

「確認してもらったらわかるけど、みんなに平等に10万プライベートポイントが支給されてるよ。1ポイントにつき1円の価値があるから、10万円持ってるのと同じだね」

 

 教室の中がザワついているが、とりあえず確認してみると10万の数字の横にPP(プライベートポイントの略)とあった。これが僕の今使えるポイントなのだろう。

 画面の右下に残高照会・購入履歴などのアイコンがあったので、一応そこも押して確認してみる。

 すると、購入履歴は当然のことながら真っ白だが、残高照会を開いてみると10万PPの横に1000CPという数字があった。

 

「ポイントの支給額の多さに驚いた?

 この学校は実力で生徒を測るから、この学校に入学できた皆には、それだけの可能性と価値があるってことなんだよ。そのことに対する評価だからポイントは遠慮なく使っていいよ。

 あと、このポイントは卒業後に学校側が全て回収することになっているから、ポイントを現金化することはできないことになってるんだけど、譲渡に関しては自由だから、卒業前くらいに誰かに渡すとか工夫してね。あ、でも無理矢理カツアゲとかはしちゃ駄目だからね。学校はいじめ問題とかにも結構敏感だからね」

 

 どうやら担任からの説明はこれで終わりのようだが、質問はないかと見渡しているのだろう。

 初っ端からあんな美人に質問するのは、正直ものすごく嫌ではあるのだが質問と……懸念点があったので手を上げざるをえない。

 

「先生、質問いいでしょうか?」

「お? 勿論だよ! 何でも聞いてね!」

 

 溢れる陽キャっぽいパワーに押されながらも、勇気を振り絞って質問する。

 ついでに初対面のクラスメイト達の前だったと見られながら後悔したが、後で先生を追いかけて一人で質問するよりはマシだと自分に言い聞かせながら何とか口を開く。

 

「えっと、2点ほど質問と『疑問』が。

 まず質問なんですが、アルバイトの許可や申請ってどういう感じなんでしょう?」

 

 高校に入学したらバイトをやろうとしていたが、入学前からわかる特殊な学校ゆえに最初に聞く質問はこれしかなかった。

 きっと他にも聞く奴がいると思っていたのにいなかった為、自分で聞くしかないと思ってしまったのだ。

 

「アルバイト? 10万ポイントでは足りないのかな?」

「いえ、そういうわけではなく高校生になったらバイトしようと考えていたので」

「……なるほどね! でもあんまりうちの学校でアルバイトって聞かないなぁ。でも確か職員室の近くの事務室で申請書はもらえたと思うよ」

 

 なんか一瞬形容しがたい表情になったけど、気のせいかもしれないし、そっとしまっておこう。

 

「それで、もうひとつの疑問はなにかな?」

 

 雰囲気がおかしいような気がするも、ここでやっぱなしとか言えないし、そもそも聞いておかないと変な時に気になってしまいそうだ。

 

「もうひとつは、ポイントの残高照会ページにある1000CPという項目です。

 10万PPの方はさっき先生が言っていたお金……電子マネーだとわかるんですが、こっちのCPの説明はなかったと思うのでちょっと気になってしまっただけです。

 もし僕が説明を聞き逃していたらすいません」

「う~ん、答えてあげたいけど、学校の規則で今は答えてあげられないんだ。ごめんね」

「あっと、了解です。ありがとうございました」

 

 ふうぅぅ。得られた答えは微妙だったけど、最初は何とか乗り越えられた。正直、支給額やCPとやらなんか目じゃないほど気になってる点は口に出せなかったものの、空気的に今は忘れて流すのがベターだろう。

 担任は僕から視線を外し、他の質問がないかと見回したがなさそうと判断したのか最後に「他には質問ないみたいだね。じゃあ良いスクールライフを!」といって入学式の準備のために去っていった。

 

……去り際、前方の誰かと僕の方を一瞥して、嫌な予感を増幅させていった事さえなければ良さそうな先生だと思えたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 担任が出て行って数秒後。

 

 既に仲良くなっていたコミュ力の高そうなクラスメイト達は、近くの席で集まって買い物に遊びにと、とても楽しそうにお喋りしている。

 一人の者も何人かはいるが、考え込んだり妄想したりボーとしたりで特に苦はなさそうである。

 

 唯一となってしまった先ほどの時間の質問者である僕を見てくる者もいるが、僕自身一人でいても苦ではないタイプであるので話しかけてこない限りは別に注目を浴びようとたいした問題にはならない。

 なので視線は気にせずバイトの事を考えていると、前方の席にいた薄ピンク髪がガタッと立ち上がって振り返った。

 

「はい! みんな、注目!」

 

 振り返った顔は陽キャの頂点とでもいうべき美少女で、愛嬌ある雰囲気もあいまって人気者になるだろうなと素直に思える。こうして大勢の前で注目を集めるのだから、度胸やカリスマにも溢れているのだろう。

 

……天は2物を与えるのは渋りまくるのに、3物・4物を与えられる者が時々いるのはなにゆえなのだろうか?

 

 僕がそんな呪いに似た内心をしているとも知らずに、彼女は自分に注目が集まっていることを見回してから確認すると口を開いた。

 

「入学式までまだ結構時間があるし、今から自己紹介しない? 縁あって3年間一緒のクラスメイトになったし、早く仲良くなりたいなって」

「さんせ~!」

 

 薄ピンク髪の近くにいたこれまた陽キャ感漂うイケメンが賛成し、教室の雰囲気は自己紹介へと流れていった。

 

 

 

「じゃあ、言いだしっぺの私から自己紹介するね!

 私は一之瀬帆波っていいます! みんなと早く仲良くなりたいから後で遊びに行ったり連絡先交換したりしよう! 3年間よろしくね!」

 

 薄ピンク髪改め一之瀬は、先ほどの担任から薫陶を受けた者かのごとき笑顔と口上だった。スタンディングオベーションもかくやといった拍手と「よろしく」返しに、極まった陽キャは凄まじいと認識した。

 

 その後も、いち早く自己紹介に賛成の意を示したイケメン柴田や、出会ったばかりだろうになんだか一之瀬を見る目つきが怪しい白波(女子)、落ち着いた雰囲気だが何故か僕を見てきたりする神崎。

 

 次々に進んでいく自己紹介だったが、人を覚えるのが苦手な僕は苦戦していた。

 何とか特徴や雰囲気を捉えて覚えようと四苦八苦している僕に気づいたのか、はたまたただの偶然か、一之瀬は僕を含めた前後の席が最後になるように調整している感じだった。

 尤も、心の準備ができたのは幸運だろう。

 ついに前の席、緑髪の女子の番が回ってきた時には全員を覚えるのを諦めて、一応聞いているだけの状態に達していた。

 

「東風谷早苗(こちや さなえ)です。

 家でもある守矢神社で風祝をやっています。守谷の神様を信仰すれば奇跡がおこせるので、少しでも興味があれば私の所までお願いします」

 

 緑髪改め東風谷は、テンション低下デバフにでもかかっているかのようにふらりと立ち上がり、淡々と自己紹介というか実家と思われる神社の宣伝をして粛々と座った。

 個人的には、やりたいことが明確にわかる好印象な口上ではあったのだが……。誰もがどう反応すればよいのか迷子になる中、僕は直後ではあってもトリではない、不幸中の幸いだと無理やり幸運に感謝することで現実から逃げようとしていた。

 

 ただまぁ一瞬、雰囲気に釣られて窮地に陥ったかに思えてしまった僕だったが、冷静に考えればたかが自己紹介である。

 失敗したところで、東風谷ほどの和気藹々ブレイクは起こせまい。それに一之瀬や陽キャ軍団がフォローして僕や後ろの奴が終わった頃には、また雰囲気に軌道修正がなされていることだろう。

 自分の分はささっと片付けて時間が解決するのを待つに限る。

 そう考えが至れば、普通に立ち上がり口を開けた。

 

「左京夢月です。

 趣味は昼は日向ぼっこ、夜は天体観測です。また雨の日などは読書をすることもあるのでそちらも趣味といえば趣味かもしれません。また僕への注意点として、話しかけたら逃げる事があるかもしれませんが嫌っている場合はほぼないので懲りずに接触を図っていただけたらなと思う次第です。それでは皆様、よろしくお願いします」

 

 最後にぺこりと頭を下げ、着席する。

 相変わらず空気は死んでいるが、名前と趣味を公開し、自分への取り扱い注意点まで添えた完璧な自己紹介であると自画自賛したい。

 残念ながら、担任や一之瀬っぽい笑顔は無理だったが、口上は勝るとも劣らぬ名セリフに聞こえたに違いあるまい。

 しかし、トリを務める奴にはプレッシャーになってしまったかもしれないな。すまん。

 

 と、内心調子に乗りまくっていると、後ろの席から立ち上がる音が聞こえたので軽く振り返る。

 寝ぼけ目、後ろで尻尾のように括った髪、170チョイの僕よりかなり小さい身長。

 なんだか凄く既視感を覚える外見だ。

 具体的には去年京都で見かけたおっさんよりも彼は……。

 

「四方二三矢(しっぽう ふみや)といいます。

 趣味は特にありません。よろしくお願いします」

 

 

 

「四方?」

 

「……ん? あ、ああ、そうだけど。俺のこと知ってるの?」

 

 僕は短く自己紹介して即座に着席した四方に、つい声をかけていた。

 

「マジで!? もしかしてだけど出身って京都だったりしないか?」

「え、ホントに知り合いだっけ?」

「あ、ごめん。去年に『四方』って苗字の人に京都で占ってもらったことがあってさ。その人と話さなかったら、この学校来てたかわからなかったから、凄い偶然もあるものだって興奮しすぎた」

「へぇ。それたぶん親父だと思う。京都駅近くじゃないか?」

「そうそう。名前はうろ覚えだけどたしか四方陣一、だったような……」

「親父だ。よく話しかけたなぁ。中学生が占って貰うにはハードル高くなかったか?」

「う~ん、僕は勘で動いてることが多々あるから、あんまり人を気にしてない時があるらしい。中学で時々指摘されただけで自覚はないんだけどな」

「うんまぁ、今の状況を見るとそれは正しそうだ」

「え?」

 

 四方が手で前を見てみろという風にするので、向き直ってみると教室内の空気はいまだに凍っていた。

 東風谷が巻き起こしたブリザードの持続時間は意外と長いらしい。

 

 確かにこの状況では、話をするには向いていないのかもしれない。

 僕は教室内を見渡し意味もなくうなずいてから、一旦仕切りなおしをしようと四方に提案し何故か苦笑を浮かべながら了承されたのだった。

 

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