ようキャ   作:麿は星

202 / 202

 13日目の後半。



180、祭り(前半、坂柳視点)

 

 いつからか生徒間で囁かれる噂に、『2年の』はぐれメタルという存在が登場していました。

 私は正直ゲームに詳しくないのもあって変な渾名だなと思っていた程度でしたが、ここ数日に港に訪れる生徒が何処でGPS反応があった。あそこで目撃情報があったなどと、このあだ名を付属で噂されれば流石に記憶に残ります。

 

 まったく無駄な知識ばかり増やしてくる方ですね。

 今や、この無人島に来てから主な話し相手となっていた四方君が彼の名を出すたびに想起されるようになっています。もはや綾小路君とは別方向に同等の厄介さと一緒に。

 

「見つからない…ですか」

「ああ。9日目に高円寺や南雲先輩達と一緒に課題を受けたのが最後の接触情報だ。目撃されたのもGPSサーチを連打した1年生・3年生が1回ずつで、それも逃走する後ろ姿のみ。オマケに俺とのトランシーバーにも出ない徹底っぷりだ。最後の打ち合わせついでに、夢月に『懸賞金』が付いたと教えようと思ったんだがな」

 

 椎名さんや一之瀬さんが四方君に左京君の行方を聞いてるのを見て、やってみようかなと思った瞬間にはすでに行動が終わっている彼をまた思い出す。

 悩みが少ないどころか皆無と言い切る左京君の決断は信じられないくらい早い。考えがないわけじゃないのに、何も考えてないような顔でいつの間にか動いています。

 

 私が見る限り、そこには本当に小難しい理屈も下世話な下心もない。

 例えるなら、左京君と仲の良い誰かが悩んでいて、解決する手段が目の前にあったから実行しているに過ぎない。

 買い被りかもしれませんが、そこに自己犠牲などという崇高な思想はありません。

 なぜなら、彼にとって友人に手を差し伸べる言い訳を考える必要など何処にもないからです。

 

「椎名も一之瀬も大変だな。学校でもそうだったが、この無人島であの男を捕まえるのはかなり難しいぞ。ゴール地点で待つのがいいんじゃないか?」

「たしかに夢月君のGPS反応に向かっても接触できそうになさそう…なのはわかってる」

「それに……少し悔しいですけど、接触できたとしても何ができるわけじゃないですし、ね」

 

 厳しい言い方ですが、四方君に同感です。

 この流れなら、待つ選択がベター。

 彼らが集まっている場所へはもう向かえませんし、確実にこの港かその付近をゴールとした課題を見込んでいるでしょう。

 ちなみに、現在は無人島で過ごす最後の夜です。もはや手を打つには遅すぎる。

 

 この無人島サバイバルという特別試験においても、事前に退学者の下位5グループのうち3グループを期末試験の各学年最下位の者にして不参加とすると共に、『無効』カードを手回しする。

 つまり退学者は最小限の数に抑えられました。しかも3年生の1グループ全員が体調不良でリタイアしていますので、退学になるのは『順当』に行けば無人島サバイバルの最下位グループかリタイアするかもしれない1グループのみ。

 私達のグループだけでなく、こんな事前交渉を済ませていた左京君の邪魔にしかなりません。

 

 南雲生徒会長や龍園君とどんな交渉をしたのか興味深いものです。

 3学年全てのマイナスをここまで平均化してしまうのは、彼らの性質に合わないと私は見ていたのですが……。

 なぜなら、特別試験の総合計で600CPのマイナスを各学年で200CPずつのマイナスに変換しています。その上、他学年は『知りません』が私達2年生は各クラスにマイナス50CPを分散してあります。抵抗があったはずのこれを、南雲生徒会長や龍園君に呑ませていないと現状はありえない。

 

 これに加え、独自の『特別課題』を開催したことにより、左京君はいまや学内において知らぬ者などいないほどの有名人で、なにより敵に回すと何をしてくるかわからない者としての評価を確定させてしまいました。

 1年生の八神という生徒にピンポイントな総攻撃を敢行し、島内引き回しの刑に処したことで意味不明さナンバーワンの『狂人』だと知らしめたのです。

 

 ええ、狂人です。

 本人の自覚はなさそうでも、おそらく友達や交遊関係にある人以外、まともな神経を持つ方ならもう彼に近寄らないでしょう。

 しかし近寄らざるをえず、無視やスルーもできないほどの実績がある。彼の近くで利益を得る方はそれなりに増えてきてますが、破滅同然の反撃を食らう方も少なくない。

 事実は別にして、そう見られている狂人……。

 

 そう見られてる左京君が日々の獲得ポイントを落とさぬまま、最低3日も接触すら容易に許さず潜伏したらどうなるか。

 答えは発狂しているのかと思うほどに恐慌する一部生徒達。彼らは全学年に一定数存在し、狂ったように左京君を追い回し、ついには独自に資金を持ち寄って賞金までかけました。

 私達2年生はほぼありませんが、南雲生徒会長さえ放置した3年生のごく一部、八神君を潰された1年Bクラスの生徒ですね。まぁ、それも全く捕まらず時間を無駄にしただけで終わりましたが。

 

 はい。10日目から13日目のお昼まで……『綾小路君から』の通信があるまで、左京君はこれ以上ないほど完璧な潜伏を成し遂げました。

 同じく単独上位の綾小路君や高円寺君と違って課題はあまり受けていないにも関わらず、12パターンしかないテーブルを最後まで絞らせずに……。

 尤も、味方からも接触できないなど甚だ迷惑な動きではありましたが、おかげで綾小路君や高円寺君には良い援護になったでしょう。彼を心配していた者達には悪いですが、私も手を打つのは最小限で済みましたしね。

 

 

 

 それにしても、初対面だった去年の夏休み頃から…いえ、その後の体育祭の時といい、一之瀬さんに“潰れなければ実力を底上げできるはずの試し”をした時といい、今回の八神君を圧倒的戦力で作業のごとく潰したことといい。

 左京君は徹底して彼の信じるナニかにだけは一線を踏み越えない。自分が不利になろうと、誰がどんな手段を用いても、自分自身の行動と信念を貫き通す。そして、必ずといっていいほど重要局面では切り抜けている。

 

───学校の規則を“破らず”、リーダーである一之瀬さんの方針からも“それほど大きく”逸脱しないやり方で。

 

 おそらく彼の根元には『理念』や『信念』という形の存在しないものがある。

 感情を排せ。効率と生存のみを優先。全体を支配しろ。

 例えるなら、私や綾小路君であれば、この越えるべき壁をこうして越えますが左京君は違う。彼は壁が存在すれば、回り込む。爆破する。他人の手を借りる。それでいて、私や綾小路君が誘導する効率性や合理性をも部分的に応用して、様々な邪道を駆使する天才でしょう。

 

 たがしかし。確たる事実として、誰よりも先に“元凶”を詰ませて手さえ打たせなかったのは、私達にも類似するこの効率性や合理性です。

 そう思えば、私の中でにわかに存在を主張しだしている焦りや苛立ちは不思議と紛れる。それどころか面白い打ち手の出現に楽しみな感情も湧いてくる。

 

「本当に……厄介極まりない」

 

 結果、私さえ一度ならず二度までも……何度か苦渋を飲まされるほどの厄介な存在。

 

「そして腹立たしい」

 

 なによりも、あの綾小路君と認め合い、利用し合い、時には駒として使い使われるなんて。

 綾小路君のことですから心配はいらないでしょうが、彼自らが望んでやり合いたいだなんて動きを魅せつけられるのは───。

 

「ふふっ。思わず嫉妬してしまいそうです」

 

 というか、私は明確に嫉妬…冷静さを欠こうとしています。

 なに私が興味深いと見ていた者ばかりを集めて、自分だけで楽しんでるんですか。貴方にそれはもったいない。

 “警戒されて”混ぜてももらえない私自身の才の高さと身体、性格が初めて憎いと思ってしまいましたよ。

 

≪うわー。ここまで自惚れてると、逆に清々しくさえ見えるんだー。ま、一応はこれだけの情報で読みきれる頭脳は誇っても良いと思うけどさ≫

 

 現在の左京君周辺は、GPSサーチによると綾小路君を筆頭に鬼龍院、龍園、東風谷、松雄、石上、天沢、椿、宇都宮、宝泉、七瀬etc。そして少し離れた位置に南雲生徒会長。主だった名前だけでも錚々たる顔ぶれです。

 少し考えれば、これが明確な意図を持って誘導された何らかの舞台であることは簡単な謎解きでしょう。

 

……ちょっとそこ代わりなさい。もしくはお祭りをやるなら、私のいる場所でやりなさい。見ているだけ…推察できるだけなんて、私の高まった戦意をどうしてくれるんですか。

 

 思考に没頭していたせいで、『こちら側』のグループメンバー達にポカンとされてしまいました。数日間、あたふたしたり、考え事なのかボーッとしていた一之瀬さんや左京君のグループメンバーの四方君にまで心から心配そうに見られたのは、ことのほか衝撃でした。

 くっ、綾小路君ほどの天才でもないくせに、ここまで私を煩わせるとはなんという面倒な男でしょう。まるで、トンビ…はぐれメタルに油揚げを全てさらわれた気分です。

 

≪一人相撲だー。錯乱してるんじゃないのー? 夢月も大変だなー≫

 

 はて? 何やら既視感というか違和感が……?

 いえ、気のせいですね。

 それより、試験が『終わった後』の根回しでも手伝っておきますか。動けない私のせめてもの先回りです。

 

 彼の性格と交遊関係からすると、おそらく最後に頼むのは佐倉愛里さんでしょう。

 間に合う手筈が整っていればよし。なければ、真嶋先生に一言伝えておけば充分なはず。

 月城理事長代理には苛つきますが、それを妨害するほど器の小さな私ではありません。

……はぁ。現場で私も参加したかった。

 春頃に『何故か』先天性心疾患が完治したことですし、来年に…次の機会に備えて、最低限の体力を付けておきますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神事や宴会、祭りなどに付き物だった酒。

 このかつての生活必需品とも言える嗜好品を好む者は、現在だとかなり肩身の狭い思いをすることになる。酒以外に、煙草やギャンブル系もそうか。

 これらを正しく大人の嗜みとして楽しむには、ある程度の成熟と余裕があるのが前提条件だ。

 

 酒やギャンブルなら加減ができなくて変な失敗するとか、煙草ならマナー知らずな喫煙で周囲に迷惑かけたりとかは、決して愛好家の嗜みではない。

 そもそも若い者は触れられる機会すら減っているし、おそらく嗜み方を教えてくれるような人も「健康がー」とか「未成年がー」とかの声に押されたり、年々値上げしていたりで、本当の良さを知る前に止めてしまうからだ。

 

 さて、何故唐突に酒の事を言い出したかというと、酒が人の本性を晒すのに適したツールだからである。決して理性を失くすものではない。

 昔、祖父から聞かされたことなのだが、新人の歓迎などで酒を飲ませることで、ソイツに問題はないか? 暴れたりしないか? と人柄をチェックする意味合いもあったらしい。

 煙草やギャンブルなんかも、同僚や上司と喫煙所・賭場などで馬鹿話するのに適してるそうだ。

 

 そして僕の経験上、それは間違っていない。

 心から綺麗な生き方をしてきた奴は、ほぼ確実に酒を飲んでも呑まれることはないのだ。煙草も吸い方やマナーが悪目立ちする喫煙者とは明らかに違うし、ギャンブルも引き際を弁えて楽しむ。間違っても歩き煙草・ポイ捨て、借金してまで、などということはない。

 

 これは最近の研究でも判明している。

 お酒を飲んで不埒を働く奴は、元から道徳心に欠けていたという話だ。逆に言うと、本気で仕事に取り組んでる奴なら、お酒が入っても仕事の話に花を咲かせ、道徳心の高い人はどんなに酔ってもモラルを守るらしい。

 

 ゆえに昔の政治も宗教も、互いにお酒を飲み交わしながら語り合い、道徳心のない者を重用しないようにしていたという。

 だが、腐敗が始まる時代になると、図ったかのように公の場での飲酒を禁じるルールが生まれている。自分の本性がバレないように。

 

 そして酒場以外では密室に隠された本性や悪事が、ネット時代になると密室と勘違いしてボロボロと炎上ネタを投じる人が急増してきた、と。

 ネットはいろいろ言われることもあるが、正しく使えば悪を隠せなくする良いツールというわけだ。

 

 ついでに賭けてもいい。

 卒業後や将来で、もしこの少し昔の本質を判定できるツールである酒を用いて面接とかしたら、高円寺と葛城、次点で四方・一之瀬・網倉……意外と龍園あたりもか。こういう普段の行いがいつも変わらない奴しか通らないかもしれない。

 

 まぁ、学生というか未成年のうちにがぶ飲みするのは賛同しないけど、一概に否定ばかりすると視野を狭くするよ、と言いたいのである。

 嗜みとして、正しい使い方くらいは早いうちに触れておくのも悪くないと個人的に思う。酒だけでなく、煙草やギャンブルなんかもな。

 うんまぁ。酒も煙草もなく、あってギャンブル要素のみの特別試験の最後の夜。盛大な祭りのごとき盛り上がりを見てると、仮に酔っぱらっても混ざれない僕なんかは特にそう思う。

 

 

 

 

 

 回復してから最後まで残ってくれていた鬼龍院先輩とも別れ、17時ギリギリでこの日最後の指定エリアであるI2を岸から離れていく小型船と入れ替りで踏むと、その頃には想定していた者達がおおよそ揃っていた。

 そこかしこで本日の夕食を準備してて、まるで縁日の祭りのごとき様相だ。

 

 パッと見渡すとここに来ているメンバーは、まず愛里や早苗、長谷部の3人グループ。清隆や高円寺、鬼龍院先輩や宝泉・天沢・七瀬の3人など他学年の生徒もいた。

 そう。一之瀬のグループと合流したはずの栄一郎と龍園に、網倉・西野、池・篠原、葛城・戸塚。椿や宇都宮など1年生達や、南雲はいないが3年生らしき奴(えーと、たしか殿河に溝脇?だったか)もチラホラ混じっている。

 

 おそらく清隆あたりが周知したか、そうでなければ月城さんか南雲の根回し結果かな。

 てか、これは僕が去年の体育祭でやったのと少し似てるから、なんとなく察せる。

 八神のハプニングを利用して、想定する勝負の舞台の1つを整えたんじゃなかろうか。無人島初日にも示唆してきてたし。

 

 僕がほとんど働きかけてないのにキーマンが集結してる点から考えて、自分(清隆)なりに応用してやったぞ、と。

 

 今回は可能性を切り捨てず、僕のやり方を学習してきやがったってわけか。この『勝利するだけならありえない目的』をもって人と条件を揃え、判断基準をかき混ぜるかのような混沌とした状態はその可能性が高そうだ。

 なんせ、冗談混じりを除いて清隆から僕に勝負を挑んでくるのは、何気に初めてだからな。性格上、僕の舞台っぽいところでやり方にひと捻り加えるのはありえるはず。

 

 まぁ、単独風味溢れる奴も多いせいかバラバラに散らばってるが、意外なほど僕の友達や知り合いが多い。椎名や櫛田みたいなのはいないけども。

 ただ、ここにいないかまだ来てない上位で1位を諦めてない奴は、今日の終盤にここ近辺と同じく低効率の課題ばかりが出現していた北西~南西あたりの島の西側エリアで待機しているはずだ。GPSサーチしてないから確定はしないが、多少なりとも月城さんの網に引っ掛かった奴ならそうすると思う。

 

 でもあまり上位を狙ってなさそうな愛里や早苗も来てくれてたので「八神の後はお互いに何事もなくてよかったね」と近況を伝え合うことができた。

 ちなみに、また来てて僕達の近くで焼きそばや卵焼きを作っていた清隆と話していた堀北さんと少し離れた位置にいた殿河・溝脇の3年生コンビには、理解不能な生物を見る目を向けられた。

 なんだよ、なんか文句でもあるのか? という顔を向けたら、あからさまに呆然と見られたり、目を逸らされたけども。僕に挨拶しにきた愛里と長谷部にも苦笑されたじゃないか。

 

 ま、いいか。それより清隆の近くにある大判せんべいからすると、まさか焼きせんか? こちらもあんなマイナーなB級グルメをよく知ってんな。それか僕が前に何処かで振る舞ってたとかいう落ちだろうか。

 また横で天沢がとうもろこしを焼いてるし、僕が来るまで清隆達の料理場とを往復してたと思われる愛里・長谷部が向かう先にいる早苗はかき氷を作っている。

 

 いや待て! かき氷ってなんだ!? かき氷器はまだしも、どうやって氷を用意…ラ、ラーメン・グラーシス(おがくず混じりの氷。非常に溶けにくい)……だと? またマニアックなモノを。

 おそらくさっき浜辺に停泊してた船か乗ってきた客船の冷却機を応用してかき氷用とラーメン・グラーシスの氷を分けて作り、それをクーラーボックスのように使って手動のかき氷器と一緒にここまで氷を運んだか……あるいは奇跡でも起こしたか。

 

 それにしても、祭りの縁日で並ぶ屋台かよ。

 もしくは海の家の定番を、試験の最終盤でこんな無人島に現出させるとか、コイツら天才か? 天才達だったわ。ハイスペックな能力の使い方が迷走してるとしか思えないけども。

 

「あまりの高さにそびえ立つ私という壁を前に埒が開けられず、ガックリ膝をつく夢月さんの前に現れた超絶美少女現人神・東風谷早苗!」

 

 しかし、僕の感心をぶち壊してくるのはいつもこの女である。

 愛里達がなにか言ったのか早苗は即座に僕の方へ来て、わけのわからない世迷言を宣ってきた。

 

「膝なんてついてねーよ! てか…お前、さっきから僕の目の前に居ただろ!?」

「そんなんで諦める夢月さんはカレーもライスもないカレーライスですよ! 馬鹿にしてるんですか! お客様は何を食べれば良いんですか!?」

「知らねーよ! 皿でも食ってろ!」

 

 あ、初日のキャンプファイヤーで言い合ったのを学習してる。ほら、たしかカレーのないライスはなんにでも合う最高の主食云々ってヤツ。ついに『無』になったか。

 

「……意味不明な罵声を次々と浴びた夢月さんは奮い立ち、ついにその扉を開くのだった!」

「奮い立ってたまるか馬鹿野郎!! 自分で意味不明なのわかってんじゃねーかよ!」

 

 くっ、なんでコイツはこうなんだ。普通にしてれば人気者になれるだろうに、数日ぶりに遭遇したと思ったらこんなのだから一般認識がおかしな事になるんだよ……! せっかくこのクソ暑い中で、かき氷なんてウケそうな物品を取り扱ってるのに。

 まぁ、普通にしてたら楚々とした外見だし、一之瀬とは違う意味で話しかけ難かっただろうけどさ。入学当初はもう少し大人しかった気がするのは僕の記憶違いだったのだろうか。

 

「ドMを理解する新境地を……!」

 

 なんにしろ、今はただ満面の笑顔に浮かべる早苗のドヤ顔がうぜぇ。上手くねぇんだよ。

 

「変な扉じゃなく、せめて埒を開けろよ! 一之瀬や清隆じゃあるまいし、そんなモノを開く予定は金輪際ない!」

「……そういう問題? でもよかった、早苗さんが元気になって。やっぱりなんだかんだで、夢月君のこと好きだから心配してたんだね……」

「というか、きよぽんと一之瀬さん、とんだとばっちり」

 

 これは負けられない。

 愛里達を一旦置いといてでも、こんな邪神にしてやられるままだといつの間にか勧誘されてることも増えてきたからな。勧誘してくる早苗対応は何気に結構上位優先度である。

 

 なにより勝負狂いを相手するのは面倒でも、本気で挑んでくる友達…早苗を無視するのは美学に欠ける。

 冗談抜きで来る友達のわかりにくい『本気』には本気を返しておくのが、礼儀であり誠意ある対応というものだろう。

 

 やる気になった僕は、溜め込んだアルファ米と保存食などに残った調味料で、主食と汁物をメインにした料理の準備に取りかかる。

 あと何故か高円寺も僕の援軍に来てくれた。自分のぶんを供出してくれて、僕が汁物、高円寺が主食(といっても初日の飯ごうと違って、湯を流し込んでかき混ぜ、完成したらおひつに移すだけだが)の役割分担だ。

 

 祭りっぽい食い物を作る周囲とは微妙にチョイスがズレてるが、材料がないのでしかたない。

 だが、主食になりえないかき氷一品の早苗と、主食&汁物の僕(と高円寺)なら?

 これは僕の勝ちだろう。勝ちだと認めてくれ。って感じに、勝ち誇ってみた。それはもう祈るような心持ちで。

 

「ふっ、天才現人神といえどこの程度か。どうした? 終わりか? 終わりってことで一つよろしくお願いします!!」

「そのセリフを使ってビビりまくらないでくださいよ……格好悪い…ふふっ」

「ビ、ビビってねえし!?」

 

 ただ、これ以上は無理なのだ。無い袖は振れない。

 本当は僕がかき氷か綿菓子あたりを担当しようとしたのだが、手間や道具、準備を考えると断念せざるをえなかった。ゆえに早苗のかき氷にはマジで驚愕したのだ。

 

 流石は奇跡を起こす女・東風谷早苗。

 

 ともかく、早苗がいつになく優しい。普段なら、ツッコミついでの手も出てくるのに……。

 案外、かなり機嫌が良いのではなかろうか。

 

「センパイ! 八神の野郎の時といい、マジでやるじゃねぇかお前!」

「ぶべらっ!!?」

「ああっ! 無駄に夢月さんが!」

「社長!」

 

 まぁ、珍しく早苗が手を出さなくても他が絡んでくるのだけども。

 その中で、なんかいやに上機嫌に寄ってきた宝泉の軽いジャブ(本人的には)で、僕はまたもや吹っ飛んだ。幸い、手が空いてた時だったから被害はない。

 しかし、伊吹さんの蹴りといい、本日の僕は天中殺なのではなかろうか。

 早苗から矛先を変更し、普段から気軽に一撃入れてくる下手人へ物言いを付ける。

 

「宝泉! お前なあ…前から思ってたが、お前の軽い一撃は死ぬほど痛いんだよ!」

「ハッ、全く堪えねぇじゃねぇかよ。これまでの奴らとやっぱ違うよな、センパイ。怖がりもしねぇ」

「怖いし、痛いわっ! 日常かってくらい殴り慣れすぎだろ! てか、宝泉ってその年齢でこれまでにどんだけ殴りあってんだよ!?」

「なに言ってやがる。センパイは今までに食ったパンの枚数を覚えてんのか?」

 

 DIO様がおるって。

 なに? 宝泉は歴戦の不良なの? 現代にいていい種族じゃないだろ。龍園の例もあるから今更だけどさ。

 でも、なんでこんなネタ台詞を振られにゃならんのだ、って思ったら不思議と冷静になれたからよしとしよう。

 

「13枚。僕は基本和食派なんでな。物心付いた頃からだいたい年1ペースなのは覚えている。ちなみにほとんどサンドイッチだから約2倍の枚数にも換算できるな」

 

 これは流石に僕が生まれ直してからの枚数で、ほぼ和食オンリーな生活にも必ずどこか(修学旅行とか)でパンが挿入されるからである

 余談だが、前の『俺』が海外で暮らしていた時さえそうだった。

 

 何気に日本で米の値段が上がりまくっても何故かそれまでとあまり変わらない値段の日本米が普通に買えたので、鍋で自炊して3食自分で用意していたのだ。

……いや、改めて考えると、なんで日本より安い日本米が外国で入手できてたのか。不思議なこともあるものだ(すっとぼけ)。

 

「……そういうことじゃねぇよ。実際、珍獣みたいな野郎だぜ」

 

 なんとも言えない表情の宝泉は、もう用はないとばかりに踵を返す。

 僕も去る者を追う趣味はなく一応は言うこと言ったので、特に言葉もなく見送った。理解してるっぽいし、言うだけ野暮だろう。

 

 

 

 上機嫌なのかそうでないのかわからない宝泉が去ると、今度は龍園が現れた。

 

「てめぇ。あのゴリラに何を吹き込みやがった?」

 

 ゴリラって宝泉のことだよな。直後に来たし。

 

「吹き込むって人聞き悪いな。僕はただ、ちょっとした提案をしといただけだが」

「てめぇのソレはちょっとなんて代物じゃねぇんだよ」

「失敬な。肉や魚を調理するのと同列の頼み事だっての」

「同列に扱うな。つーか、てめぇに料理なんかできんのかよ」

 

 馬鹿にしてんのか? 龍園にも、これまで何度か振る舞ってきただろうが。

 

「他人に振る舞う程度はな」

「……結構な自信だな」

「勘違いしてるようだな龍園。素人の料理で大事なのは味よりも衛生面。前にバイトで料理系をやった時に衛生講習も受けてるが、他人に飯を食わせるのって意外と気を遣うぞ?」

「真面目に衛生講習受けてんのかよ、お前が?」

「当然だろう。龍園にわかりやすく例えると、一服盛ったり食中毒なんかでライバルや敵を倒してなんになる? そうするのを卑怯だの姑息だの言う気も資格も僕にはないが、仮に今ここで龍園に腹を壊されたら僕が困る。結構なリスクと引き換えに空虚な勝ちが手に入るだけで、先が続かない愚策でしかないよ」

「空虚…だと? まず勝つことだろうが。どんな手段を使おうとだ」

「それでトップまで登り詰めても誰も認めねーし、そんなのは革命や下克上でさえないさ。しかも証拠でも残そうものなら、あっという間に逆転させられるじゃん」

「……」

 

 勝つ必要がある時に手段を選ばないのは当然ながら、手段を選ぶ必要がある場合もあるってことだ。龍園はそこらへんの境界が曖昧な時がある気がする。

 勝ちってモノは必要以上だとナニかが溢れたりするから、物騒な方向へ向かわない誘導ついでに勝ちすぎには注意って言っておく。コイツが変にコケたらつまらない。

 

「こういう閉じた環境の学校でそれをやる時に最も大事なことは、大多数により良い環境を作り出すことであって、トップや敵を倒すやり方には正攻法のみが望ましい。最後には正攻法が強い奴が有利なのさ。

 だからお前にも、今夜はできる限りで安心安全かつ美味い飯を食らわせてやる」

「……龍園。この男を論破しようとするのは無駄だ。一見だけは甘いと見せかけて、常識に囚われていない発想からナニかを繰り出してくるコイツは口が最も強い」

「うるせぇな綾小路。んなこたぁ、わかってんだよ。だが、確認ってのはなんにでも必要なんだよ」

 

 そうしてると、清隆がどこからともなく現れて龍園を引き取ってくれた。清隆もアルベルトや石崎、伊吹さん(え、またいるの?)達が固まってるところへ放流してすぐ戻ってきたけど、早苗のかき氷を全員分注文してる石崎とそれを見て天を仰ぐ龍園が不思議と笑えた。

 てか、早苗は自分のイメージカラーである緑にこだわりや親近感でも抱いているのだろうか。シロップがメロンっぽい緑の一種類のみだから、かき氷を食う奴が固まるとなんとも言えない光景だ。

 

 

 

 ま、それでもこの祭りにふさわしい人材はなんとか集まった。清隆に宝泉、龍園。そして早苗とついでに天沢だ。祭りというか縁日は、神職や危ない雰囲気を持ってる奴ら(ヤ○ザ的な?)とかとセットな印象があるからな。

 八神の件で彼ら祭りのキーマンを混ぜないわけにはいかなくなった時は実現も怪しくなったと思ったが、自発的に来てくれて感謝である。

 これで盛り上がりに欠けることはないはずだ。

 勝鬨を上げても問題ないだろう。

 

「クックック。今宵、この月下に最も楽しめるのは誰であろうか―――そう。僕だ」

「お前かよっ!」

「さあ、デスゲームを開催しよう、とか言い出しそうな雰囲気だよね」

「なんで無駄に格好付けてるの、左京君」

「そういう心持ちでいろってことさ。今はマジで何も裏はないからな」

 

 というわけで───。

 畏みてお納めください、八百万の神様方。

 これが僕なりに考え抜いて人を巻き込み準備したお祭り―――神遊びです。

 今月今夜から明日の昼過ぎまで。

 訪れてくれている神様方に多少なりとも楽しんで頂けると光栄の極み。

 僕…私が『ここに』持ち込んだ意味はついでを除くと、早苗や小さな神様を含めて神様方へ感謝の意を伝えること。

 ただ、それだけでしたので。

 

 ともあれ、無人島で最後の夜は南雲や一之瀬みたく人気者リーダーがいないから初日のキャンプファイヤーほど盛大ではなくても、なかなか落ち着いて良い月見会兼お祭りになったんじゃなかろうか。

 あるいは、嵐の前の静けさがあるとでも言おうか。

 でもそもそも、八神関係以外は意外と“何事もなかった”平穏な無人島最後の夜にはふさわしい静けさなのかもしれない。

 

 僕含めてこういう単独風味の強い奴らが各々好きに過ごす祭りのような時間は、何物にも替えがたい思い出となるだろう。

 なんとなくそう感じながら愛里達におやすみの挨拶だけしてツェルトも使わず、早苗のラーメン・グラーシスの涼しさの恩恵を預かれる位置で仰向けに転がって寝袋に潜ってそのまま寝た。

 明日は最終局面だ。無駄な事はせず、たっぷり寝るのが最善だろう。

 





 リザルト9(13日目)。
 指定エリアを4回踏み、着順ボーナス1位を3回で計34点。前日までが291点なので、夢月は325点の3位。
 ちなみにこの日から順位がマスクされるので見えませんが、高円寺が333点で2位。綾小路が310点で4位。南雲グループが360点で1位。5位以下はだいたい280点±15点に固まってます。

 あと参考までに現時点のCPを。
 これに、2年生の誰かが上位1位~3位を取れば100~300CPがプラスされます。括弧内は坂柳視点で述べていた各学年分の-200CPを4分割した結果のマイナス。
Aクラス、一之瀬(左京)クラス 1031CP  (-50)
Bクラス、葛城(坂柳)クラス  780CP  (-50)
Cクラス、龍園クラス     521CP  (-50)
Dクラス、櫛田(堀北)クラス  308CP  (-50)



 おそらく、あと数話で後日談はフィナーレ。そして作品も今度こそ完結です。
 私が最も変えたい心残りだった2年生編5巻の満場一致試験は、1学年末の投票試験と同じく消滅することがほぼ確定になりましたしね。

……ようこそ実力至上主義の教室へで何度か行われた能力や努力を理不尽に無に帰す投票系の試験は、どんなに言い繕ってもどれもクソでしかないと思う。物語の展開上、特定の人物が邪魔になったから強引に退場させたかったんじゃ? とさえ……。異論は認めるけど、納得はしない(断言)。
 なので、これだけは失くす流れに繋げられて満足しました。

 この流れでもし月城を退任させた上で実施しようものなら、本気で坂柳理事長と理事会を引き摺り落とすつもりなのは上層部視点で明白(八神やホワイトルーム、綾小路篤臣への対応から考えて)でしょうし、実際にそれが可能なのは察せるはず。

 なら、オリジナルの特別試験とかで終わらせるよりは、3学年入り乱れるここが綺麗かな、と。
 これで3度目(いや、『よういふっ』を合わせると4度目か?)の最終話ですが、最後までお付き合い頂けると幸いです。
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