ようキャ   作:麿は星

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 無人島最終日。

 かなり序盤の『3、キャットルーキー』とタイトルが被っちゃったので、今話を『181、キャットルーキー』としつつ、前の話は『3、方針』に変更しました。2026/06/18




181、キャットルーキー

 

「僕の借金か? 欲しけりゃくれてやる、探せ! むしろ探すまでもなく一之瀬へ全てを丸投げしてきた! 彼女へ言ってくれ!」

 

 様々な立場や性質の奴らの思惑が交錯する無人島サバイバルは、泣いても笑っても最終日の今日15時に決着を迎える。

 その朝6時半頃、I2に集まっていた者達は示し合わせたかのように起床し、準備を始めていた。朝食を摂ったり、ストレッチするなどだ。

 僕は3人用テントでまだ寝ていた愛里や長谷部に声をかけて這い出てきたと思われる早苗に朝の挨拶した後、嘯きながら八神の件で2000万円も使った件について某海賊王風に相談している。一度は一之瀬と遭遇しておいてなんだが、今更ながら不安が湧き出してきたのである。

 

「……う、うぅ、一之瀬を含むクラスメイトに会うのが怖い。どうしよう……どうしたらいいかな早苗。これ系の台詞じゃもう誤魔化せない気がする」

「夢月さん。諦めた方がいいですよ? というか、夢月さんが逃げると私に矛先が来そうなんで大人しく捕まってください」

「だが、断る! 僕はギリギリまで粘るぞ。なんのために四方との通信まで断っていると思ってるんだ」

「そういうトコロですよ、夢月さん。少なくとも二三矢さんとは連絡を取っておくべきでしたね」

 

 なんの解決にもならなかったけども。

……うちのクラス、マジで陰の者に優しくない。時々、輪から外れて黄昏てる姫野や神崎の気持ちもわかる。僕なんか普段はまだしも、いまだに一之瀬や柴田とかの明るいノリに付いていけないもの。

 

 断っておくが、それが悪いんじゃない。僕を明るい場所に引きずり出そうとしなければな。

 なんなんだ、最近のアイツらは。吸血鬼に日光浴や礼拝しろよ、はよ。って言ってるようなモノだと理解できないのか?

 友達間の居心地良い暖かさと違って、焼き尽くすような熱量を僕に向けるんじゃない。灰になったらどうしてくれる。友達や貸し借り関係など特定の場合を除き、平穏に陰で暮らす僕には明るい陽の気質は猛毒に等しいんだよ。

 

 普通に逃走成功したから省いたが、一之瀬を港に運搬した日なんか浜口やら安藤やらに追いかけられながら食事? 話? に誘ってきやがったんだぞ。逃げるに決まってるし、そこへトランシーバーで苦言を呈してきた四方ともちょっと距離を置きたくなるものだろう。

 これが何故いけない? 僕にはわからない。

 

「普段から見るべきモノ『以外』をほとんど見てないから夢月さんはそうなんですよ」

「うぅ、正論すぎて返す言葉がねぇ……」

 

 みたいな馬鹿話をしてると、愛里達も支度が終わったようだ。勿論、僕は話しながら完璧な始末をしている。

 不要になった木の器を掘っておいた穴に埋め、嵩張る着替えやツェルト、トランシーバー、空になったペットボトルを大きいバックパックに分けて収納。充分な充電を済ませてあるタブレットと最低限残しておいた水と食料を小さなザックに分けて持つ。予想通りなら、こうしておいた方が効率的だからだ。

 

 ともかく出現時間前に、僕の7時の指定エリア予測であるI4へ向けて歩みを進める。何も言ってないのに愛里や早苗達も付いてきてて、しかも昨夜を付近で共に過ごした者達まで全員だ。

 その中に、清隆と龍園……それと特に高円寺がいるのを確認してから、僕は話を切り出す。

 

「愛里、早苗…とついでに長谷部。できたら君らの力を貸してくれ」

 

 よし。高円寺にも聞こえてるな、多分。視線を向けてきてる。なんか関係ない他からの視線も感じるけども。

 

「恩を返しておきたい何人かがいる。愛里は最後に綺麗に見送るため。早苗は『高円寺に』勝ってやるためだ。頼む」

「ふふっ。ほら、愛里さん。やっぱり言った通りでしょう?」

「本当にそうだったよ。いや、わたしも集まってくれるように頼まれた時点で、そうじゃないかなって思ってたけど」

「……私だけついでってなによ。たしかに、左京君との関わりは薄いけどさ」

「任せてください夢月さん。気づいてたみたいですが、私は最初からそのつもりでした。実は夢月さん以上に本気でやり合うのが難しいんですよねぇ、六助さんって」

「サンキュ、早苗。数日前に聞いたが、今回は乗ってくれるってさ。てか、高円寺がシンプルに挑戦を宣言してるんだから、それに応えないのは僕達じゃないだろ。思いきりやってやればいい」

 

 多分、高円寺は好き勝手にやりたいわけじゃない。

 基本能力や潜在能力が高いから理解しきれない部分はあっても、高円寺本来の気質は美しさを感じるほどにシンプル極まりない。今回に照らし合わせると、お互いに気持ちよく競えて、高め合える相手を求めているのだろう。

 ならば、発言はそのまま受け取り、その上で彼が紛れさせた真実を見つけだす。赤の他人ならともかく、これまでの高円寺と友達付き合いがある僕『達』には難しくない。

 

 すなわち、ある意味で自分を止めてくれる存在を求めていたから、無人島前にDクラスの教室で上位1位を取るとわざわざ僕達にまで伝わるよう大々的に宣言した、と受け取ると僕がやることは決まってくるのだ。

 なら、友達の僕達が止めてやるのも吝かではない。

 

 そのためには、高円寺が同格かそれに準ずる分野を持つと認める早苗、もしくは四方が必要だ。僕では本気でやってもアイツには到底及ばないし、本人もわかっているだろう。

 ま、単独で上位1位を実現したら自由にやらせてもらえるらしいから、そっちはそっちで狙ってるだろうけども。

 そして更にもう1つ。

 

「でも綺麗に…見送る? これは高円寺君のことじゃないよね?」

「うん、関係はするが違う。ただ、今は不確定で名前を出せないけど、全部終わった後にみんな無事だったら綺麗に締めようと思ってさ。それにはできる限りで最高の腕前を持ってる愛里かな、と。学内で有数の『実力者』な愛里が頼まれてくれると助かる」

「わたしが…実力者?」

「学校の言う実力って意味とは違うけどな。僕は心からそう確信してるから、愛里はなるべく15時に間に合うようにスタート地点の港で、準備しつつ待機してもらえないか? 向こうで待つはずの櫛田には話が通ってる。詳しい内容と準備は櫛田か…坂柳さんあたりが教えてくるんじゃないかな」

「『桔梗』ちゃんが……」

「きょーちゃんも加担してるの? とゆーか、さっきからなんのことかわからないんだけど」

 

 お、この無人島生活で何かあったのか、ついに愛里が櫛田に少し心を開いた? 名前呼びになってる。

 ただ、長谷部には通じてなさそう。

 高円寺の○○ボーイや○○ガール呼びとは似て非なる人間不振気味なナニかを感じるからだ。仮定するなら、僕が女性不信寄りで、長谷部含むこの女子3人は男性不信寄りの人間不信っぽい。

 長谷部に僕達と似た気質があったから自然に馴染むことができたのかもしれない。

 

 ちなみに僕が見るところ、長谷部が何人かをあだ名呼びしてるのはソイツと仲良くなった気でいるため…のような匂いがする。

 だからこそ長谷部が名前で呼ぶ愛里や早苗は、彼女にとっての『特別』なのかもしれない。察してしまった地雷臭には触れないし、どういう特別なのか知らんけど。

 

 でも……はぁ。ということは、長谷部も訳ありのイロモノで確定か。ある程度、わかってはいたけどさ。

 よし。長谷部が常識人側じゃないという儚い希望が砕けたのはスルーでいこう。愛里や早苗が付いてれば、そこまでの面倒事には発展しないだろうし。

 

「……わかった。8時間あっても、ここからわたしの体力で間に合うか不安だけど、頑張ってみるよ夢月君」

「ありがとう愛里。手配的なのは頼んであるから途中で合流すれば、そこからはだいぶ楽になるはず。稼ぎ時でもある最終日に悪いが、愛里が手伝ってくれるなら百人力だ。それと…えーと、長谷部も」

「はぁ……。話はわけわかんないけど、とにかくすぐ愛里と一緒に港へ向かえばいいってことだよね。早苗は当たり前のように任せて大丈夫、だね。なら、私は愛里と行く。でも後できっちり話は聞かせてもらうからね左京君?」

「了解。助かる。流石にちょっと心配だけど、こうでもしないと後腐れない未来に持ち込めないからな」

 

 ま、道中で愛里には大雑把に話してある計画を解説してくれるだろう。内弁慶な口下手の愛里ではあるが、友達に対しては結構話せるようになってきてるしな。愛里に話したのは、無人島に来るまでのピロートーク的な寝物語だから、現在とは想定が変わってきてるが。

 自分を鼓舞しとくついでに、今ここにいる奴らへ宣戦布告しておくか。特に意味はないけども。

 

「さて、諸君。結成『キャットルーキー』計画を始動させるぞ。そのためには実力者を軒並み倒しておくのが望ましい。ならばやるしかないだろうよ、ふはははっ!」

 

 この場合のキャットルーキーは、漫画原作の物語じゃない。猫っぽくて面白そうな新人がいたら加入させて縁と場所に巻き込もうって計画だ。

 無論、表向きは天文部と名前は変えないし、微妙に性質は違うが、前に作ったゲーム『小東方高育桜』のエンディングを現実用に微調整して実現してやろうってな。

 

 イチイチ疑ってかかり、敵対ばっかりとかもう嫌なのだ。ゆえに、わかりやすくシンプルにしてやれば面倒くささは激減するだろう。してくれ。

 早苗や高円寺を見習って、高校生らしく競い合おうぜ……マジで。

 

 

 

 愛里・長谷部と別れて港方面へ向かうのを見送りつつ、何故かいきなり話に入ってきて彼女らと一緒に行くという七瀬が駆けていく。

 栄一郎曰く、ここに残っても役割は少なく、また愛里達への心配を減らす方が恩返しになるかも、だそうだ。でも、たしかに僕にも心配な気持ちはあったのでなんにも言えねぇ。恩返し云々は相変わらずよくわからないけど、素直に感謝しておこう。

 

 一方の僕は、早苗や付いてくる面々とI4の指定エリアを踏んだ。ざっと見渡す限りだとここではないようなので、9時の指定エリアにご褒美とやらはあるのだろう。

 9時の指定エリア予測は……J5? いつかのクロスカントリーのゴール地点かその付近だな。

 

「よう左京。待たせてくれたな」

「いや、そもそも待ってほしくねーから」

 

 小休止がてら2時間ほどI4に留まって朝食を摂り、9時に出現してからJ5に設営されている課題用テントに向かうと、そこには南雲がいて声をかけてきた。

 しかし、南雲が来て朝比奈さんは来てないってことは、もう片方は南雲が準備してたモノかもしれない。十中八九、7日目の八神捕縛イベントと雨天中止が影響してただろうからな。南雲のグループがしばらく上位1位じゃなかったのって。

 その上、無駄に桐山達にせっつかれてたもんなぁ。率いる立場ってホント大変だ。

 僕はなるべくそうなりたくないものである。

 

 ただ、このまま何もしなければ、普通に南雲一強で無人島サバイバルが終わる。

 それはもう確信だ。コイツがここに来たってのは、そういうこと。勝つ算段が完璧に整ったからこそ、最後の仕上げで自分自身で見つけた天才達をまとめて倒しに来たのだろう。必要な戦力だけを携えて直接だ。

 

 高円寺や清隆でさえ単独では距離的・物理的にどうしようもない。そう考えたから、高円寺も今ここにいるとするのが妥当だろう。

 それでも圧倒できる結果じゃない。例えば、高円寺や僕。南雲の基準では完璧に勝ったとは思えないはずだ。直接当たった話を聞かない清隆や龍園、一部の1年生達もである。

 つまり、ソイツらの得意分野だと想定されるモノで屈服させたい、と。

 

 高円寺であれば正面からの実力で。清隆であれば…アイツだけは勝負する分野をまだ考え中かも。なんせおそらく南雲視点でなにやってるかわからない男だからな。

 ともかく、僕であれば会話でこちらを屈服させたがっている…はず。それ以外だと準備が大変だろうし。

 

 なら、南雲に対抗できる奴とやらせればいい。ここにしか抜け目はない。

 そうした上でなら、勝ち負けは僕にとってさして重要ではない。

 一之瀬や坂柳さんなんかもできなくはないと思うが、僕の考える南雲の最も厄介な部分は陰湿な手段を好む性質と『暴発』の危険性だ。仮に僕にはどうにもできなくても、この会話を聞いた他の奴らがどうにかできる状況に持ち込むことは可能だ。

 そして南雲の使っていると思われる人海戦術への対抗札には、龍園と坂柳さんが適材適所である。それは南雲にとっての不確定要素になるだろう。

 

≪IFの要素が多いわね≫

≪作戦というかお祈りだよね、それ≫

 

 いつの間にかふよふよ上に浮いてた八坂様も洩矢様もそう言うが、案外そうでもない。

 

≪ああ。夢月さんってそういうところありますよね。どう考えても勝率ゼロから何故か生まれる勝ち筋を見つけ出すのが妙に上手いっていうか……≫

 

 早苗……!? コイツ、ついに僕の脳内に直接!?

 なのは、もう今更か。人外認定してもいい頃合いかもしれないな。南雲にさえ、ずっとアレ呼ばわりされてるし。

 なんにしろ、早苗の言う通りだ。勝率ゼロを多少なりとも引き上げる策を講じればいい。

 

 何がこの先に用意されてるか知らないが、少なくとも単独のスペックで南雲を上回ると思われる奴は簡単に潰されまい。勝ちだけじゃなく、ソイツの目的だって達成するウルトラCを決める可能性だってある。なんとなくだが、そう思う。

 だから、わざと意味のない世間話を切り出してみた。

 

「で、そろそろお前が『勝つ』算段は終わったのか?」

「ああ。予想外はお前含めていくつかあったが、悠長にしてると試験でも抜かされかねないと思ったからな。表示はねぇが、昨夜時点で上位1位なのは各方面の情報からも確定だ。もう少し稼ごうと思えば稼げたがこれでも自重してやったんだぜ? 流石に勝ち目がゼロってのは盛り上がらねぇし、イカサマや八百長に思われるのも不快だったからな」

 

 むしろ、勝ち筋を残す舐めプに驚いた。冗談めかして言ってはいたけど、本当にやってくれるとは……。

 

「だが、お前は別だ、左京夢月。お前だけはどんな手段を使っても確実に食ってやる」

「は!!? どっちの意味で!? いや、どっちの意味でも真っ平ごめんだわっ!」

「馬鹿野郎。お前、俺をなんだと思ってやがる。女好きに決まってんだろ。だいたい誰の文句もない大舞台で雌雄を決することに変な意味なんか込めるか」

「……やりすぎだろ。南雲こそ僕をなんだと思ってんだよ」

「この俺が認めた『後輩』だ。今回は本気でかかってこい。でなければ、この俺が本気で潰しにかかってやるからな?」

 

 てか、これだけの天才達がいて、なぜ僕なんだ。

 

「……はぁー。お前って強いじゃん、面倒くさい。てかさ、大した実力のない僕を実力差でねじ伏せんなよ。一歩間違えばただのイジメだぞ?」

「ハッ、お前が実力のない? 笑わせるんじゃねぇよ。俺はお前ほど頭が切れ、クソ甘ぇにも関わらず異常に口が回り、慎重でありながら時に信じられねぇほど大胆な行動に出る奴を知らねぇよ。

 楽しみにしておけ。認識違いをはっきりさせ、その上で俺が勝つ」

 

 コイツもかよ。清隆といい、鬼龍院先輩といい、学といい、何故に僕を買い被る? 石ころは多少磨いても石ころなんだよ。

 早苗や高円寺、四方はこの辺きちんと認識した上で乗ってくれるんだがなぁ。現状、後者が少数派なのはどういうこと? それだけ非常識な奴が多いってことか。なんてこった。

 

「そうか、頑張ってくれ。少なくとも僕には確実に勝てるから、もし遅れを取っても逆恨みすんなよ? いま言ってもわけわからないかもだけど」

「……コイツ。このプライドと執着のなさでどうやってここまで積み上げてんだよ。実力や目的はある程度見えても、いまだに理解ができねぇ……」

 

 充分に返したと思うんだがなぁ。

 ま、いっか。どんな交渉したか知らないけど、龍園と栄一郎をグループに引き込んだってことは、おそらく坂柳さんは南雲(と3年生)を抑える方針だろう。南雲と龍園が人海戦術をぶつけ合う思惑……なんじゃなかろうか。

 

 つまり、僕には関係が薄くなったといえよう。僕1人じゃ、メインの課題と『最後以外』の場外乱闘は全く手出しできないからな。

 だから、なんか勢いがなくなった南雲はもう気にせず、僕は彼の背後にあったテント近くに貼られた課題説明に目を通す。

 

・開始は11時で、受付を済ませたら他の課題は受けられなくなる。

・スタートはここJ5で、ゴールはスタート地点の港。

・チェックポイントは全部5つ(学科課題)あり、そのうち3つの課題で基準点をクリアして、組んだ者の誰か1人が港に到着した順位を競う。

・1位が100点、2位が60点、3位が40点。完走報酬が10点。単独走者(高円寺と清隆、鬼龍院)には特別報酬10点。

・ソロ・グループどちらでも参加可能。違うグループ同士で組む場合、最初にゴールした者の着順が適用され、課題限定グループの全員が同等の報酬を得られる。

・ただし、ペア以上の複数人で課題を受ける場合、1人につき1つはチェックポイントの学科課題を受ける必要がある。

・無人島サバイバル終了の15時までに『組んだ者全員』が港へ到着できなければ、報酬はなし。

 

 説明を読んで思ったけど、これ本来は5日目と7日目に開催するはずのクロスカントリー課題が中止になったから、報酬やら内容やらを合体させた上で逆転チャンスに転化したんじゃね?

 3日目に天沢とペアの課題を受けてたから一応なんかの役に立つかと情報を追っていたが、あの『事故』の関係で5日目のソロ課題が中止され、7日目のグループ課題も雨天中止と通知されていた。

 しかも雨天中止は、最終日の今日の獲得ポイント2倍にも関与している。だから1位100点なんて高倍率なんじゃなかろうか。元々は50点、30点、20点ってなら、2つの課題を足した最終日のボーナス課題っぽいもんな。

 

 あと、スタートから4時間以内に全員ゴールって条件に加えて、現在時刻9時過ぎから2時限近くの待ち時間を、他の課題を受けられずに待つのも地味に厳しい奴はいるはず。

 2日目に天沢と辿った道程から考えてもかなりシビアな時間配分だし、コスパ・タイパだけを主眼に据えてる奴には尚更だろう。

 

 こんな1位100点なんてバランスブレイカーになりかねない課題は、こうした中止になった課題をいくつか統合させた上で、目先しか見れない奴をふるい落とす課題になったと考えるのがしっくりくる。

 なんせ風が味方すれば…1位を取れば南雲のファンネル達がそこそこ稼いでても、僕か高円寺は最終順位1位を勝ち取れるのだ。

 

 

 

 それにしても、始まる前だが。

 高円寺には早苗…と彼女に四方との通信手段であるトランシーバーを渡した僕。これは文系課題を受けなくてはならない場合の保険だ。もしもの時は四方にクリアしてもらうため、早苗に渡しておいた。勿論、受付には確認済みである。

 南雲には龍園。なんにしろ、南雲や龍園は他のグループメンバーが更に稼ぐ算段はしてるだろう。

 

 ここから僕が勝つなら、早苗や龍園が勝つのを信じて自分は走破だけを目指すお祈りゲーミング。我ながら清々しいほどの丸投げである。

 尤も、何故かやる気になっている清隆を相手にする以上、僕も言うほど楽ではないけども。

 そんな思考は回しつつ、次々と課題受付を済ませていく面々を見ながら強く思う。

 

 1番、南雲(溝脇・殿河付き)グループ。

 2番、高円寺。

 3番、宝泉・天沢グループ。

 4番、堀北・伊吹グループ。

 5番、龍園・栄一郎グループ。

 6番、葛城・橋本・鬼頭グループ。

 7番、石上君と1年生の4人グループ。

 8番、鬼龍院先輩。

 9番、清隆。

 そして最後に受付した10番、僕・早苗グループ。

 

 南雲と栄一郎を除くと、見事なまでにコミュ障&天賦の才を感じさせる錚々たる面子が揃ったものだ。

 いっそここにいる者達を一網打尽にしたら、学校は平和になるかもしれない。四方や一之瀬、坂柳さんとかは残るとはいえ、相当つまらなくなるだろうけどな。

 

 ちなみに龍園の手足なのか石崎やアルベルトは残ってるが、葛城と一緒に来ていた戸塚と数人は先行した愛里達を追うような形でついさっき出立している。トランシーバーを見せ合ってたので、安定度向上のルート偵察的な役割なのだろうか。

 あと椿と宇都宮もまだいるが、こちらは課題参加もしないようだ。おそらく目的は……漁夫の利か、盤外からの遊撃あたりか。

 なるほど。全体図は見えてきたな。これなら、なんとかなりそうだ。

 

 

 

 11時まで時間ができたので、課題受付を済ませたみんなはそれぞれ親しい?奴と駄弁って時間を潰している。

 この時間を使って僕と話しに来た高円寺へも、早苗と一緒に僕にできる説明と宣戦布告を改めてしておく。ま、さっき聞こえよがしに口に出す前に察してたみたいで、簡単な答え合わせしたらあとは本当に雑談してただけだけど、早苗も高円寺も終始笑顔だったし問題ないだろう。

 ただ、清隆はずっと天沢や栄一郎、堀北さんなどと話しててこちらに来なかった。

 

「よし。スタート前に、いっちょぶちまけておくか」

「夢月さん?」

 

 というわけで、11時に残り10分ほどに迫った頃。

 僕は雑談中、早苗がなんか気にしてる素振りで目をやっていた方向へ大声で呼びかけた。

 

「おーい! 仮称・ご褒美くぅ~ん! やっておしまいっ!」

「───誰がご褒美だ、左京夢月。お前はコイツの後に相手してやるから震えて待て」

「「「やっ、八神……!?」」」

「拓也ぁ!!?」

「ははっ、今度もそれは無理というものだよ八神君。万全の清隆には勝てるビジョンがかなり薄い。だから───」

 

 簡単に説明すると、八神本来の目的は清隆と思われるんだから、危険行為のペナルティの1つとしてターゲッティングを元の清隆に戻す布石を置いといたわけだ。

 そもそも、それが何故僕や鬼龍院先輩などあまり関係ない奴を狙いだしたかわからないが、シンプルに決着させるのが被害も拡大せず、他に迷惑もかからない。ホワイトルームとやらの問題は、身内?同士で勝手に決着すればいいのだ。わかりやすければ、なお良し。

 一連の動きを推察するに、月城さんの真意もこれだろう。

 

「───絞れる限界までやりたまえ。悔いを残さないよう全力でな」

「くっ、言われなくともっ!」

「ああ。わかってると思うが、最後のリタイア退学枠はまだ残っている。早期に清隆を殴り倒してリタイアさせられれば、お釣も来るかもしれんぞ」

 

 リタイア退学枠とは下位5組が退学になる基本ルールのことで、あらかじめ無効にしておいた3学年の最下位3組と3年生の病欠グループ。そして何処のグループもリタイアしなかったことで、唯一残った最後の退学者(達)を決定される枠である。

 そして一応、清隆の懸賞金付き特別試験も込みで八神『達』を煽っておく。

 

「……チッ。こんなふざけた男に利用されるなど業腹だが、僕はどうやら借りを作ったらしいからな───綾小路清隆。お前が話に乗るなら付いてこい。人前で見世物になりたいなら、ここでやりあっても僕は構わないがな」

「ふぅ、オレから勝負を申し込んだ以上、流石にこのお膳立てはスルーできないか。いいだろう。都合が許す程度には相手になってやろう」

「その上から目線、必ず後悔させてやる」

 

 そう言い合うと、八神は北へ歩きだし、受付を済ませてしまっている清隆も堀北さんに一言なにかを囁いてから素直に付いていく。

 てか、八神も態度とは裏腹に月城さんの名前も出さない冷静さはあるじゃないか。清隆が素直に受けて立ったのも想定の1つ。

 そして、天沢と宝泉。更には……やはり椿か。港とはほぼ逆方向へ向かう清隆達を追う動きを見せている。

 うむ。やはり今年の1年生は、キャットルーキーと呼称するにふさわしい奴らが多い。

 

……しかし、なんなんだ? 清隆って、懸賞金以外にも恨み的なのをアチコチから買いまくってんの? おおっぴらにやり合えて後腐れも減少させるよう根回しはしたけど、こんな大量に釣れるとは思ってなかったんだが。

 早苗が本気で嫌う理由もいまだになんとなくしかわからないし───って、おいおいおいっ!

 その早苗まで清隆達が去っていった方向へ歩き出すのを見て、僕は必死に引き留めることになった。

 

「まっ、待て待て!? 早苗ぇえええっ! ハウスハウス! お前まで追ったら僕諸共、清隆が終わっちゃうだろ!?」

「はいっ! 勿論、綾なんとかごと退治し尽くすつもりですっ!! 今はそういう気分になりました!」

「いや!? メッチャ良い笑顔で言うこっちゃねーから! ただでさえ微妙に許容限界へ踏み入れてるっぽいのに、少しは情けというモノがないのか、お前!?」

「敵には情け無用ですよ! 私が気にくわない人達を気持ち良くぶっ倒せることこそが重要なことです! だいたい夢月さんと毎回のように勝負してるのが、私はなによりも気に入りません!!」

「馬鹿野郎っ! 譲れるものなら速攻で譲ってんだよ僕は! 不審者ムーブで読みにくいけど、清隆が珍しく本気なのがわかるからしかたないの! 好きで友達と潰し合いに発展しかねない策なんか打つわけないだろうが!」

 

 前もってネタバラシしといたのにこれって、もしもしてなかったらマジで清隆討伐に乗り出してそう。

 だけど、そもそも触りすら話さなければ、そんな気分にならなかった? 所詮は仮定でしかないが、悩ましい選択肢だ。そんなこと考えてる場合でもないが。

 僕の脳裏を冷静な思考と混ざりつつも、ありえない想定が流れていく。

 

「もうすぐ課題がスタートするのに早苗がいなくなったら、僕単独で他と対抗することになるんだぞ!? 清隆がいつ追ってくるかわからない中でだ! そんな無理ゲーさせられたら完走すら怪しいわ! 優先順位を考えろよ!」

「う、でもちょっと一撃…いえ、五撃だけなら……。今って実は『あの男』を退治する絶好の機会なんじゃないかと、私の心がワッショイワッショイしてまして」

「知らねーよ、アホか! 頼むから、そういうのは港に到着して特別試験が終了した後にしてくれっ」

 

 駄目だ。やっぱり早苗を制御するなんて僕には無理かもしれない。

 

「綾小路を退治するのは特に否定しないんだな。それでいて、なんなく追って来れるとも考えていると」

「東風谷さんにここまで言われるって、綾小路君はいったい彼女に何をしたというの……?」

 

 鬼龍院先輩と堀北さん。そんなことはいいから、どちらか加勢してはくれないだろうか……してくれませんよね。わかってましたよ(諦め)。

 なんにしろ、僕達が言い合ってるうちにスタート時間が来たようだ。いきなり開始の合図が鳴り響いたので、無理矢理でグダグダなのは承知の上で僕は早苗を促した。

 

「ああ、もういい!

 ともかく後ろは気にせず───行け、フィン・ファンネル早苗! ちなみにファンネルとは漏斗(ろうと)を意味する。だから少々無理矢理で下品だが、野郎の連れション時などにも使うことができる。これ、豆知識な」

「誤魔化し方が雑すぎます。というか、誰がファンネルですか、まったく……」

 

 でも高円寺に『勝ってやる』には、どうしても早苗か四方の力が必要だ。

 ゆえに、早苗にメインで助けてもらい、四方に弱点を埋めてもらう形を積み上げておいた。

 これもキャットルーキー計画の肝であり、適材適所を突き詰めた根回し配置というものだ。

 

 僕? 僕は天才達の本格的な競争には付いていけない。はっきり言って、課題を最低1つこなし、J5のここから4時間以内に港に辿り着くだけで精一杯である。

 早苗が上位3位以内で勝てば、いくら僕のゴールが遅れても課題限定のグループを組んだ僕や四方は乗っかれるし、早苗達のグループもあるかもしれない退学圏内からは確実に脱する。

 

 ふはははっ! 誰にとってもWINWINな策とはこう打つものなのだよ、天才諸君。

……なんちゃって。ぶっちゃけると、とことん人任せな力押しなのでそんな偉そうなことは言えないのである。

 

 ま、つまるところ。

 お世話になったり、借りがある者へお返しをしつつ───僕が言わなければ誰も知りようがない『キャットルーキー』を、望む未来へ組み込みたいってだけのエゴ丸出しの我が儘なんだがな。なんか何故か神様方や人外も後押ししてくれてるっぽいのが微妙に謎なわけだけども。

 そ、その……理由はわかりませんが、助力ありがとうございます。

 





 せっかくなので、4日目の事故(の翌日)と7日目の雨天中止を利用させてもらい、ここに繋げました。
 ただ私の想像ですが、原作の南雲も似たようなことは考えてた気もします。じゃないと、南雲が無人島終盤に綾小路の目の前に現れる意味がないですから。 
 高円寺(とついでに早苗)に関しては、原作の2年生編の無人島とその前後から想像を広げてみただけです。こっちの方面はおそらく原作より融通が利くでしょうしね。

 それと3話のタイトルを変更しといて、数日投稿が遅れてすいません。ちょっとタイミングというか間が悪いことがありまして(言い訳)。
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篤臣パッパ「……しばらく帰ってこなくていいぞ」▼きよぽん(転生者インストール済み)「どうして???」


総合評価:13723/評価:8.69/完結:32話/更新日時:2024年06月30日(日) 12:40 小説情報

よう実でおにぎり売ってみた(作者:ちあさ)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

よう実に転生したから、とりあえずおにぎり売ってみた。


総合評価:3827/評価:8.12/短編:6話/更新日時:2026年05月22日(金) 21:01 小説情報

南雲雅?俺じゃん。(作者:ざったなっつ)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

南雲雅に転生したオリ主が、全然傲慢じゃない南雲雅になっていくお話。▼※挿絵のあるお話には☆マークをつけております!▼新表紙▼【挿絵表示】▼旧表紙▼【挿絵表示】▼


総合評価:9619/評価:8.53/連載:38話/更新日時:2026年04月19日(日) 20:28 小説情報

鶏が先か、卵が先か(作者:楊枝)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

彼女は傍観者である。しかし忘れてはならない、彼女は傍観者である前に、この世界に生まれ落ちた等しく一つの生命であること。▼そして正しく、彼女は彼と同類であると___。▼*主人公は綾小路の隣にぬるっといるだけで、何もしようとしないし騒動に巻き込まれるのを華麗に避けようとする話です。


総合評価:11915/評価:8.99/連載:41話/更新日時:2026年06月02日(火) 20:00 小説情報


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