対決というより最後の審判的な話。
「そろそろ終わるな、この無人島生活も」
「どうした清隆。柄にもなく感傷にでも浸ってるのか?」
「……オレはまず感情を抑えることを覚えた。そして、感情を抑えるほど自分は何も感じなくなっていく」
これは…ホワイトルームでのことか? 清隆が自分語りするなんて珍しい。
「世間一般で非道と思われることでさえ、何も感じなかった。葛藤も躊躇いも、な。オレには心なんてモノがないとさえ一時は考えていたさ。
お前もそういう『学び』を得たと途中までは考えていた」
まぁ、ブラック企業勤めなら経験はするからな。そういうやる気スイッチならぬ感情スイッチOFFって。清隆がそう誤認するのもわからなくはない。
なんせ清隆は完全版じゃない『ようキャ』も読んでるからな。転生やら『俺』やらを妄想の産物だと仮定すればこう解釈するのも理解できる。
「しかし……お前は、夢月は一度たりとも自分を偽らなかったな。それは感情を抑えるのとは真逆の方向性だ」
「そうやって抑え込んでばっかりだと自分が本当に『そう』なっていくから、慣れってのは怖いんだよ。てか、『ようキャ』を読んだんだな。いつかはわからないが」
「ああ、バスケやって……なんとなく無人島に来る直前、お前の作品を読み返して。お前自身を見て。ようやくオレなりに理解できたさ。だからってお前が真にイイ奴と言うつもりはないが、警戒しなくていい居心地の良さはもはや間違いでも錯覚でもない」
ところで、コイツはゴールを目指して共に進んでいる現状で、早足で歩きながらこんなクソ重たい話題を出すとか、なに考えてんだ? KYにもほどがあるだろ。
「自分はどんなに辛く苦しかろうと、望む未来へ向かう『矜持』を貫いた。その過程において、最後まで本気で誰かを葬ろうとはしなかった。一度はお前や友達連中に害をなした南雲や八神でさえ……」
「当たり前だろ。普通の凡人がそれやったら、きっと落ちるところまで落ちてくぞ。醜い奴らが生息する天の国か…あるいは地の底へ。僕はそんなのどっちもご免だね」
「……窮地に追い詰められても、1人で立ち向かう時も。笑顔を見せていたのは、それだけはないと信じていたからか」
「そりゃあな。清隆なら想像できるかもしれないが、感情に振り回される奴も抑え続けた奴も、末路は酷いもんだよ」
かなりのハイペースだから少しツラいが、しかし返さないという選択肢はない。
よくわからないが、なんとなくそうした方がいい気がする。
「だから僕は好きなモノを絶対に手放さないし、守りきる。それでいて面倒な敵に対しても最悪レベルの手は打たない。この美学と矜持を意地でも曲げないってのが、楽しい人生に繋がるって信じてるんだよ」
「ふっ。わかるようなわからないような……いや、まだオレにはわからないか」
「どっちなんだよ」
相変わらず清隆の答えは返らない。わざと会話を成立させないようにしてるってことは……。
「さて、と。おそらくここからは『夢月』の正念場だろう。もちろんオレもフォローはするが、夢月の望む結果は自分でなんとかしろ。お前ならやれるさ」
不思議と清隆からの信頼は感じるが、言ってることは結構厳しい。かなり息切れしてるくらいの疲労度なのに、想定通りの正念場は清隆の見立てでも存在するらしい。助けてはくれるみたいだし、元より多く望むつもりもないが。
「夢月が捕まれば…あるいはゴールの時間制限に間に合わなければ、東風谷達の頑張りが無駄になり残念な結果に終わる。捕まらなければ、阻もうとする者全て、とは行いかなくとも結構な人数から逆恨みを向けられる。
……さあ、どうする夢月?」
コイツ、僕が余裕ない策を打つ時の癖をラーニングしてきやがった。理不尽な二択ってヤツ。地味に性格悪いな、八神とかに使ってきた僕は反論できんけど。
「まぁ、オレだったら自分を最優先にするが…夢月はそうじゃないからここまで辿り着けた。そうだろ?」
「堂々と胸を張って選べない理不尽な二択なんか蹴っ飛ばす。
任せておけ清隆。誰かの悪いようにはしない。約束できるような根拠はないけど、なんとなくそうするのがいいんじゃね、って気がしてるんだ」
「それもお前の勘か?」
「勘でもあるし、想定でもあるというか……?」
「……ところで今更だが、お前の勘。ホントになんなんだ?」
「知らん」
考えても理解できないことは、そのまま受け入れる主義だ。だから『俺』の頃との違いを追求する気もなく、知らないままでいい。
「で、具体的にはどうするつもりだ」
「そもそも、そんなふざけた二択なら考えるまでもないだろ。行くさ」
「行く? ゴールにか?」
「当然。僕は勿論、早苗達もみんなやるべきことをやってるのに、有象無象の都合にまで左右されてたまるかってんだ。先にゴールしてるだろう早苗や友達連中に顔向けできない真似なんかしないっての。だから諦めるなんて考える暇があったら、足を前に進めるよ」
現状のやるべき事は明白なんだから、僕も諦めたり迷ったりしない。よしんばあっても一旦は忘れて後で考えればいいことだ。
……てか、クソ暑く、汗がヤバい。息切れもかなり荒くなっている。僕がそんな状態なのに、軽く並走しつつ普段と同じように話を続行するコイツは本当になんなんだ。
「オレはとっくに諦めていた……。意味などない、とな」
何を思ったか清隆が唐突に語りだしたあたりから、僕はこの無人島サバイバル中にブラック企業に勤めていた頃の生活を何故か思い返していた。半分は現実逃避気味に。半分は漂うブラック臭に釣られて。
「だが、ようやくわかった。
お前は…夢月はオレが不要だと思った『信じる心』ってヤツをしっかり持っていた。だからこそ意味を作り出し、オレさえ呼び戻せるんだ。それを捨てない限り。自分に正直に行動し続ける限り。正しい判断ができると『信じてる』さ」
優先順位を決める。やれない作業は躊躇なく諦める。無理なところはできる奴に分担してもらう。眠れる時に寝る。食える時に食う。
それをしていた結果が、今なんか喋ってる清隆なのだろうか。コイツの言動はマジで変な時が多々あるので困る。
「つまりオレがするべきことは1つ。
矛盾するようだが、勝負はしても『戦わない』。だろ? 夢月」
だが、そろそろ反応を返しとくべきか。なんとか理解が追い付いてきたし。
「まぁ、僕にはな。ぶっちゃけ清隆も含めたホワイトルームとやらって、ここまでしないと多分ヤバかったろ? 天沢はまだしも、八神に躊躇いとか迷いをほとんど感じなかったし。どうなってんだよって何度もクレーム入れたくてしかたなかったぞ」
「オレに言われてもな。最高傑作なんて評価されても、所詮はオレも『駒』の1つでしかない…なかった」
それはそう。わかってはいたけど、言わずにはいられないほどだったからクレームは止めて文句だけ言ったのだ。
「あと付け加えるなら、戦う場合は初手に全戦力と必殺技、もしくは最高戦力を投入。物語の都合上かもしれないが、やると決意してんのに必殺技を初っ端にブチかまさない主人公や敵役とかが僕は昔から不思議だったんだよ」
DBの悟空とか、遠距離で最大効率の元気玉などを作って瞬間移動or狙撃→仕留めきれなければ一旦逃亡。仲間達は命を大事にしつつ時間を稼ぐ。こうしとけばスーパーサイヤ人になる必要すらなかっただろうに。いや、こんな展開はつまらないし、ピッコロさんやベジータが仲間にならない可能性が高いからアレなのはわかってるけども。
そんな事を話してみる。
「……くくっ。たしかに、それはそうだ」
「ああ、なるほど。やっぱり試験を降りて、堀北さん達とグループを組んだのか。やり合った1年生には、清隆だけを倒しても退学にはもうできない、的なことでちゃぶ台返ししたと」
遠回りなこの学校流・コールドリーディング、その応用編だ。清隆も察してわざと乗ってくれた。
もし試験でも清隆が勝つ気なら、龍園(一之瀬・櫛田・坂柳さん達の2年リーダーグループ)と組むのが効率的だ。マスクされてたし、はっきりとした点はわからないけど、数十点程度の差ならギリギリ1位抜けは狙えたからな。
そして堀北さんは上位10組のランキングに最後まで載っていなかった。伊吹さんとも平均化された彼女らと清隆が組むということは、保険の意味以外ではありえない。
「夢月ほど瞬時に察することはできなかったがな。おかげで1年の全クラスの奴を少しは相手する羽目に陥った」
「ふ~ん、大変だね」
「他人事」
「実際、他人事でしかないし。危険も『なかった』だろ、お前にとってはさ」
しかし、清隆の闇深さは一見ではそう思えないから厄介だ。
四方や高円寺、椎名はともかく、早苗と…愛里にも近いモノがある。呑み込まないと友達として付き合えないとわかる『ナニか』は、こうして時に吹き出てくるのだ。
……ほとんど全員スペックも信じられないレベルだし、やはり早苗と清隆は同族嫌悪の似た者同士なのでは?
「それはそれとして、以前にお前が作ったゲーム・小東方高育桜や小説・ようキャはどこまでが本当のことなんだ?」
「あー。あの物語は半フィクションであり、実際に起きた出来事、実在の人物・団体とは関係ない部分も含まれます。信じるか信じないかは読者次第……ってことで」
ま、天文部の部員(僕の作品にまだ触れてない1年を除く)はなんか普通に信じたけど、根っからリアリストの清隆には難しいか。こういう点が早苗の勘に触るのだろうけども。
ちなみに伏せた部分こそいくつかあるが、書いた事はほぼ全て僕から見た真実である。
考え事をしながらも早足で進みつつ、更に清隆と会話していた代償の取り立てはすぐに訪れた。
「ハ、ハァーー……ハァーーー」
「すごい息切れだな夢月。どうしたんだ」
わかってるくせに、どうしたじゃねーよ。お前の珍しい語りに釣られてペース配分を間違えたんだよ、この野郎。涼しい顔で不思議そうに見てくるんじゃない。僕の身体能力が並かよくて中の上レベルなのは知ってるんだから、わかるだろうが。
コイツと山の降り口で遭遇してから1時間くらい。南雲もいた時やアイキャンフライで少し離れてた時間はあるが、なんかずっと話してる清隆。僕が息も絶え絶えになってるのに、涼しい顔しやがって。
一応はペース配分や体力、残り時間を考慮して小休止を取ったが、スタートから総合計で約3時間半を移動し続けて、なんで疲れが僅かしか見えないんだコイツは。化け物め。
なんとか息を整え、僕は愚痴と弱音を溢す。
「はぁ…ぜぇ、あー。明日は筋肉痛確定か、憂鬱だ」
「ほとんど努力せず、これだけ健闘できるなら大したものだと思うがな。だが、夢月もそろそろ年貢の納め時なんじゃないか? 努力しろっていう」
「いやだ。努力なんて報われない。人の努力は助けたりするし邪魔しないけど、自分では絶対にやらない。断固たる決意を持って、昔にそう決めた」
「……意外とこういう部分が頑ななんだよな、コイツ」
そして無人島サバイバル最終日の2016年8月3日15時…の約10分前。
僕と清隆が進む先に、ようやくゴールである港が見えてきた。目立っているゴール…テープ? 横の月城さんに、愛里と四方がテープの両端を握ってるのも。
てか、凄い人波だ。あそこを通過する際は余裕あったら清隆を盾にしよう。流石、メイン盾・清隆! 彼はいつも僕を守ってくれる。そこに痺れる憧れるゥ! ってヤツである。
あと何気に、ここ(港まで100メートルくらいの地点)は一応開けているから見えるが、こんな人がいるのに愛里のピンク髪と早苗の緑髪がめっちゃ目立つ。
マジで普通は黒髪に見えてよかったな。早苗はともかく、愛里の性格であんなに目立つ外見してたら、下手すれば引きこもり一直線になってたかもしれない。
ところで、制限時間にはなんとか間に合ったが、このまますんなりゴールはさせてもらえないようだ。
息を荒げている南雲とかなり目減りした3年生達が行く手を阻む。
まぁ、あそこから僕を先回りするためには使える残存を更に絞る事になるからな。いかに南雲であっても相当消耗が激しかったと見える。
ただ当然だけど、南雲はゴールしてるだろう。これまでに見てきた南雲の推定スペックは、常識外れとまではいかなくても相当高い。天才級の奴しか対抗できないだろう。
とりあえずレース参加のグループ全員はゴールして、残存で自分より上の順位を取ったグループで、まだゴールしてない奴の妨害策を打つのは予想していた。
つまり単独グループの高円寺はともかく、確率が高いのは早苗の相方(この課題限定だが)である僕だ。
先にゴールしてるはずの早苗や高円寺には、疲労的に助けを求めるわけにはいかないし。
……本当にあの長距離(おそらく妨害付き)を4時間どころか2~3時間で走破したんだな、アイツら。しかも高円寺に至っては山を横断するルートを単独で。
嫉妬してしまうほどの圧倒的『個』である。
「すげぇな、早苗と高円寺。マジで羨ましくて…嫉妬しそうだ」
「夢月が嫉妬してるかはともかく、オレから見ても規格外の能力と存在感だ。ポテンシャルは随一の2人だろうな」
「やはり天才か」
「まぁ、夢月とは方向性が異質な奴らだ。オレが東風谷に何故かこれ以上ないほど嫌われてるから、そう思うだけかもしれんが」
「……清隆。お前、そういうとこだぞ」
上手く言えないけど清隆が早苗に敵視されてるのって、おそらく上から目線にも感じられる評価癖と、言動から誠意や信じる意思が感じられない部分だと思えてきた今日この頃。
それ以外だと何故かライバル視?されてた僕が嫌われなかったのはおかしいからな。
なんにしろ、やっと清隆にこの「そういうとこだぞ」と最近の僕に言われまくってた呪いを押し付けられた。やったぜ。
ああ。ちなみに持論だが、色恋絡みでなければ嫉妬すること自体は悪いことじゃない。
一般的に悪印象なのは知ってるし、醜く見える場合が多いのもわからなくはない。
それでも、憎悪や復讐心が高効率な原動力になりえるように、嫉妬や思い込みだって振り回されず自分で制御できるなら強い力となりえる。
むしろ、一流に至る素養がある奴はこの事を覚えておいた方がいい。
人の上に立つ地位や立場になった時とかに、効果的な後押しができるか否かに嫉妬って感情は大きく関わってくるからだ。
なぜなら、ソイツの能力や才能を見抜けるから嫉妬するってこと。まずそこへ至れるか、そして才能豊かな奴への嫉妬を変に抑えつけないで受け入れられるかが、有益なバックアップには欠かせない。
例えば、以前の櫛田なんかは嫉妬からも派生する承認欲求に振り回されていた。だから、僕は『嫉妬』して時々彼女を巻き込み、櫛田自身が悪くないと思われる方向へ向けて昇華させた。
アイドル稼業を勧めたり、クラスリーダーになるための下準備とかだな。あとは本人の資質とバイタリティーを持ってすれば、軽い後押しだけで必要充分である。
これはある意味で僕が櫛田の同種に近いからこそ嫉妬心を持ったわけだ。その上、使い方や理解があったからできたことだろう。
現実逃避に勤しんでいると、現状を前に清隆が問いかけてきた。
「さて、どうする夢月?」
「ほぇ? 決まってるだろ、まずは脱ごう」
「……は? 何故?」
「僕はあらかじめ着込んどいた海パン一丁になる。そして、この長距離踏破による発汗量に2週間の無人島生活。
───はたして、この状態の半裸の野郎に触れられる豪の者はいるかな?」
「お前という奴は……」
呆れた風だが、もはや時間がない。15時まで10分程度しかないのだ。手段なんぞ選んでいる余裕はない。
「ならば、誰が立ち塞がろうと正面突破一択だ。ああ、でもゴールまで到達できる自信があるなら、清隆はそのままでいいんじゃね? 見た目は最悪だろうし」
というわけで、衆人環視の真っ只中に進み出て、僕は海パンとシューズ、麦わら帽子以外のジャージやシャツを脱ぎ捨ててザックに入れ、素肌のまま背負う。
そして真っ直ぐ前を向き、僕は声高らかに宣言する。
「ゴー! フリーダァアアアム!! ハンラーマン・左京夢月、ここに推参!!!」
某馬鹿王子がやったこれは本来全裸にマスクなわけだが、それを実行すれば僕は社会的に終わりだ。なので、無理矢理テンションを上げたここを妥協点とした。
「いや、半ラーメンみたく言うんじゃない。これは全くの別物だ」
「言ってねーよ。
これは───くっくっく。素肌ゆえに掴みにくさもアップする最高の我が策略。とくと味わわせてやろうじゃあないか、って意味だ」
清隆もアシスト?してくれたので、わざとニヤリと笑い、更なる効果アップも狙っちゃう。
「お、おいっ。コココイツが左京夢月か!?」
「噂通りってか、噂より『凄まじい』ぞ!?」
「なんて野郎だ……変態なんてレベルじゃねぇ。もっと恐ろしいモノの片鱗が漂ってきやがるぜ」
結果、ほとんどの障害はこれで気圧されたかのように一歩後ずさる。僕が前進すれば更に下がるし、それでも下がらない強者風な奴には清隆が対処してくれる。清隆も何故か一歩下がったが。
「ふっ、ウ○コの付いた棒を使うのは自重してやったが、我が肌と汗に触れられるものなら触れてみろ。女子どころか友達にさえ、えんがちょされても知らんがな」
「ひっ───!」
「なんてことを言うんだ、この馬鹿! スゲー触り難くなっただろうが!」
「勿論、それが狙いだ」
「そ、そうだ! 女子なら関係ない!」
「おおっ。女子! 誰かアイツを捕まえろ! 捕まえてくれ!」
「いや。それ、セクハラでしかないから。アンタらが嫌なものを私らに押し付けないで?」
見苦しいモノを見たくなくて顔を背ける男女共に多数。ちなみに、かなり疲労しているはずの南雲は、呆気に取られた後に笑い転げてるので今はいい。
「さあ、ともかく行くぞ! 僕を止められるモノなら止めてみろ! 誰よりも弱い僕を弱い者いじめしたければな!」
「そうかもしれないな、主に頭が」
清隆、うるさい。この人数に正面からぶつかったら勝ち目がないんだから、言葉と行動で打開するしかないだろうが。
一方、僕のふざけた態度にイラッときたのか、南雲と一緒に来て肩で息をしてる桐山が返す。
「……ここ2週間、俺達3年の追跡を何度も撒き、南雲とも対等に渡り合うお前が弱い者だと? あまりふざけたことを言うな、的外れだ」
「それか、てめぇの仲間とやらの成果を自分の成果と勘違いしてんのか? コバンザメが。てめぇのふざけた態度を俺が矯正してやるよ」
ふん、南雲ならいざしらず、自分のことしか考えられない風見鶏に僕が言葉で負けるものか。
「ハッ。話もできんのか。噛み砕いて言うと、僕一人くらい、フェアに勝負もできないのか、って言ってんだよ───この卑怯者どもが」
能力は人によるが、こういう性質の奴はプライドがバカ高い上に風聞を気にするからな。しかも向こう視点、僕さえここを通さないだけでいい現状、論破は容易い。南雲が加わってなければ、あまり意味はないが。
「この無人島サバイバルという特別試験において、誰もが負けるリスクを『自分』で負っている。しかし、諸君らは点数を稼ぐのもそこそこに妨害行為に明け暮れる。自分達の圧倒的アドバンテージ…人海戦術でもって課題を独占しようとしてたのは明白だ。南雲に責任を押し付けてな」
「一之瀬や他に投げまくってた夢月が言うか」
だから清隆、うるさい。お前は誰の味方なんだよ……って、誰の味方でもなかったな、基本的に。
「……屁理屈なのはわかってるが、諸君らは勝負の土俵に立たず、3年生だけに一方的に有利な状況を甘受してきた。僕はともかく、高円寺達がいなかったら抵抗もできないところへ追い込む気だっただろ? これが卑怯でなければなんだって言うんだ、答えろ」
「む、一理ある…のか?」
「勝ちは勝ち、負けは負けだろうがッ! 卑怯だなんだと言う前に、この学校ではそんな隙を晒す奴らが悪いんだよ!」
「ハンッ! なら、そんな学校なんかクソくらえだ!!」
「なっ───」
馬鹿が。清隆のフォローを無に帰す挑発に乗ってきやがった。
「他人の理屈に乗っかり、自分の無能さを晒すのはやめたらどうだ。お前らのリーダーは笑ってんぞ」
「て、てててっめぇ!!? 年下の分際で舐め腐りやがってぇ……!」
「落ち着け三木谷。これが左京の手だ。どうにもここを切り抜けられそうにないから、口八丁で包囲に穴を開けようとしているだけだ」
「ふむ、桐山君せ~いかい。流石、僕よりは格上だね☆」
「「……っ」」
あわよくば、僕にかかってきたところへ清隆を盾にして穴を作り、そこから突破する策は見破られたか。学校の特別試験ゆえに手を出してきた方が圧倒的不利になるからな。三木谷って奴はかなり血の気が多そうに見えたから成功の道はあったと思うんだけども。
どのみち、南雲が笑いから立て直したのが視界の端に見えた。タイムオーバーだ。
「おい待て、そこまでにしてやってく…ぶふっ! さ、左京。お前、そもそも半裸でゴールできると思ってるのか?」
「南雲、なに戯けたことを。僕は生徒であり、課題参加者でもある。服装などゴールするのに関係ないだろう?」
「思ってるなら、それは間違えてるぜ」
「Why?」
「常識的に考えろよ。半裸の野郎が生徒が集まる場所で堂々としてていいわけないだろ。ゴールの受付だって却下するわ」
……ちょっとそれもそうだな、って思ったのでやっぱりジャージは着よう。
ザックに押し込んだばかりのジャージを取り出して再び着込む。
「脱いだかと思えばまた着る。お前はいったいなにをやりたいんだ」
ホントそれな。1分程度とはいえ、貴重な時間を……。
僕、マジでなにやってんだろ。
ついでにあの人の壁は僕では力押しできない。さて、どうしたものか。
「左京夢月ッ!」
その時、人の壁とは直角方向から聞き慣れない大声で呼びかけられた。
「八神?」
「ここは綾小路に押し付けろッ!」
「おい」
「僕が道を切り開いて、一夏にサポートを任せた! 海から回れ!」
勘でそうじゃないかなって思ったら、本当に八神と天沢だった。
ハンラーマン姿のままじゃなくてよかったかもしれない。紙一重のタイミングが非常に冷めた目で後輩達に見られるのを回避してくれた。そして、こういう場合でもスルーされる清隆はいつも平常運転である。
てか、海? たしかにそっちなら人の妨害はなくなるが。
そして、八神達が現れてから南雲もニヤリと笑って黙った。しかも、周囲に小声で指示をしてる。
つまり予定外ではなく、『清隆』を相手にすると見定めたとかか。そうであれば八神達は邪魔にならない。そうじゃないなら、僕を最優先で確保しようとするだろうしな。
それと距離はあるけど、さっきハンラーマンになった時に目が合ったし、清隆と僕が揃ってるのを一之瀬は見たんだから、もう『約束』は履行されたってことでいいよね。
月城さんとの件の後で彼女とした約束だが、一応は気にしていた。心配してたら悪いと思ってな。
「せぇんぱい。私がエスコートするんで、しっかり付いてきてくださいね」
「お、おぉ? なんか…男女が逆じゃね?」
「ふふふ。逃がそうったってそうはいかないよ。私って触ると危険な災厄で───見た目に反して執念深いから」
「あ、察し。天沢、お前……見た目そのまま執念深いんじゃね、それ?」
「うっふっふ? なにか言った?」
「いえ、何も」
さてはコイツ、僕が八神の視界から消そうとした櫛田に繋ぎを取りやがったな。清隆の彼女だからか、あるいは八神関係か。恨みか何かを買っていたのかもしれない。2人の性格上、どれもありえる。
それにしても、波風立てないようにしたのにあえて立てに行くとか、なんて性格だ……。
天沢には呆れたが、いつもの調子に戻ったようでなにより。
「ありがとう天沢、そして八神。その、僕を助けてくれて」
でもまぁ……感謝はしとこう。コイツが迷子の子供ムーブしてるのは落ち着かないからな。
すると無言のまま僕を見ていた八神が言う。
「……お前は紛いなりにも僕に勝ったんだ。こんなところで勝手に潰れてもらっては困る。いつかリベンジしてやるつもりだからな」
お前はベジータか。
DBで例えると僕はクリリンかサタンだから、ライバルを正しく認識し直してもらおう。
「リベンジは僕じゃなくて清隆…綾小路に頼む。遊びなら付き合って何度でも負けてやるけど、真剣勝負か潰し合いでまともに正面から当たったら、今度こそ無関係の…そう! 無関係の僕が終わっちゃう。天才は天才を相手にしといてくれ」
「…………ふん」
「「ははっ」」
なにわろとんねん。おかしいことなど何もないのに笑顔を漏らす清隆と天沢は、いずれどげんかせんといかんな。
「夢月」
「ん?」
「前に言った通りになってきたな。仲間以外でさえ、いざという時に話を聞いてくれる。助けてくれる。ソイツに関係なくても、ちょっとしたイベントにも混ざりたい気持ちにさせる。
そんなお前だからこそ───」
前って……清隆にそんな事なんかいつ言われ…ああ。体育祭の後、四方との野球勝負の時だったか。たしかこんな事を言ってた気がする。あの時は四方を相手にすることで頭いっぱいだったから、そこまで覚えてないけども。
「───きっと特殊な奴がこうして集結してくるのだろう」
別れ際の清隆にかけられたこの言葉は、特に影響はなかったと思う。
八神は海方向に僅かにいた3年生の対処に向かい、天沢は黙って僕の手を牽いて進み出したし。いや、疲労で足ガクガクしてるので下級生女子に情けないとか言わないでほしい。傷付く。
ただ、押し付けられたのに清隆が素直に甘んじるなんて珍しいこともあるもんだ、とは思ったが。ちなみに協力は無理っぽい間柄とはいえ、コイツら3人が揃ってるなら海から回り道せず、僕という足手まとい付きで強行突破するのが楽じゃね? ともコッソリ思ったのは秘密である。
だから僕もこちら…南雲達3年生の相手に残るつもりらしい清隆へ、ただ軽く後ろ手だけ振って返答代わりとした。
ともあれ、現状ならそれほど関係ないか。
海に行けってことから察するに、愛里の保険用に用意してもらってた移動手段を根回ししてるとみた。
参加はしてないが見てはいる。おそらく遠泳課題の時の水上バイクなどマリンスポーツ系の移動手段を利用するっぽい。
運転手やスタッフをどうするかって問題は残るが、解決策も万全に違いない。
残りの制限時間は、あと8分ほど───。
夢月達が駆けていくのを見送りながら、オレはどこかで聞いたような呟きを漏らす。
「また勝てなかった」
戦術面は一矢報いることもまだ可能だが、戦略面においては“何度目かの”完敗といって過言ではない。
敵味方の情報を把握し、環境に適応させ、適材適所の配置や策への組み込み……目的を明確にする戦術はもちろん重要だ。だが、誰が敵or味方の立ち位置なのかを正確に判断した上で、敵すらも味方にしてしまう戦略において夢月に勝るのは、オレをして至難と言わざるをえないだろう。
最後にオレが勝っていればそれでいい。
今回は『あの男』のやり方を元にオレなりの集大成に昇華させたモノは本当の最後にするつもりで、自ら手を下さずに邪魔を排除し勝つ算段を組んでいた。必要とあらば、誰を利用しようともだ。
無人島サバイバルは月城と学校の性質上、荒れる予想が容易だったからな。初日に釘を刺していた夢月にも、ホワイト・ルーム生さえ絡んでくること確実のこれを丸く収める実力はない。
まして、正面から当たると意外なほど弱いのが夢月だ。
初日に話をして以来、いつ誰に泣きつくか。そしてそこへオレが介入しどのように恩を売るのが効率がいいか。収め方はどうするか。
何パターンか想定し、最も自分の利益になる算段をしていた。
そこで夢月が功績を上げれば、各方面に恩という枷を課す絶好の材料もでき、更にオレへの注目も薄れる可能性ができただろう。
そこまで行けば最終的なオレの勝ちへの布石……道筋は多少の修正を必要とするものの揺るがないはずだ。
……ことごとく想定を超えられ、想定外の結果を知らされるまでは、たしかにそうなるはずだと考えていた。
しかし、初日の『オレへの』釘刺し。上位10組のトップに名前が出現してからの立ち回り。八神の断罪ごっこと天沢への布石。断罪の完了と雨上がりとともに再び潜伏し誰にも捕まらない要点を察する勘。
ここまで夢月が話題を攫っている状態では、恩を売るどころか手を貸すことすら難しい。あえて自分が表立って目立つことでオレや高円寺の妨害を減らして遠回りに支援していたのに、接触すればオレの注目度まで無駄に上げてしまう。
勝ちと一言で表現されるが、その種類や大小は多種多様。
まず特別試験や個人・クラス・学年で競うモノに勝つ戦術的勝利。
評価成績がある以上は後にも多少影響するものの、ここに勝ったところで所詮は一時的なものに過ぎない。
それなら、特別試験の勝ち負けはオマケ程度に考えていた夢月など一部は、単純に先を見据えていたのだろう。
一方で、前提を覆す盤外へのアプローチや敵対者を味方にするなどという戦略的勝利。
理解できない大多数にとっては甚だ迷惑で不真面目にも映っただろうが、そもそもの視点が違いすぎて目先しか見ていない者との差は明白だ。情報量の差などといった些細なモノではなく、である。
夢月はこの無人島サバイバルにおいて、『戦術的勝利』をあくまでオマケに位置付けつつ、『戦略的勝利』を成し遂げたのだ。オレに命名決闘を『申し込ませた』時点で……。
だからあれは、実質オレの戦略的敗北の宣言である。
なぜなら、本来はオレが月城や八神、東風谷、1年生に対応するべきところのかなりの部分を夢月が担い、あまつさえ現状で八神や天沢が助けに入る未知の結果を導き出した。
おそらく八神の断罪ごっこも、夢月にとって予定外のオマケ扱いだったにも関わらず、敵対者を味方に転換したということ。
東風谷はともかく、月城でさえ扱いかねていたと思われるホワイトルーム生を扱えるようにした。ここが決定打だ。
つまりオレのみならず、『あの男』のやり方に真っ向からNOを突きつけた。ああ、関係ないが『あの男』本人を直接撃退したこともあったな。
とまぁ、これではいくら命名決闘などで戦術的勝利しても、戦略的敗北は覆せない。
堀北達ではなく龍園達と組めば戦術的にはまだ勝ち目があったものの、オレの元の目的には何も貢献しないし、ただの悪足掻きにしかならないからな。
なにより苦しい時も多かっただろうに、いつも通り肩の力が抜けた自然体でこれを成した有言実行で容赦なく平等。それでいて意外性ナンバーワンの友人…夢月に感謝と称賛を───。
「行ってこい夢月。何かを信じるなんてこれまでしてこなかったオレだが、そんなオレもお前を信じてみたくなった」
敗北を受け入れたとは思えないほど、去年の無人島の時と似た清々しい気分だ。
「お前が作り出す未来と勝利に影ながらの助力と祝福を、なんてな」
もう見えなくなった夢月達へなんとなく夢月っぽさを思わせる嘯きを溢してみた。
そして切り替えて、南雲率いる3年生の注意を惹くためにオレは本気で突破する意思を持って一歩を踏み出した。
綾小路視点は短いですが、ここで軽くでも本人が決着に触れとかないと最後まで綾小路関係が謎になりそう(1年生編の無人島の一敗あり)だったので加えました。原作と状況が違うとはいえ、堀北や伊吹とグループ組んだ部分とかですね。
こんなこと綾小路はやらないし思わないし言わねーよ、ってなったらアレだ。いつものようにスルーをお願いします。
……見落としがある気はしてるので、もしかしたら後で修正や追加、変更を加えるかもしれません。