暑さのせいかパソコンが完全に沈黙してしまい、対応してたら20日投稿を目安にしてたのにスゲー遅れました。なので今話だけで15000字以上ありますが、ほぼスマホ打ちです。最終話でありながら色々変な部分があったらすいません。
それと、そう。エピローグ的な……いや、エピローグというか、残ってる風呂敷を畳む的な?話はもしかするとまだ書くかもだけど、蛇章の後日談は今話が最終です。
さて、試験もそろそろ最終局面なことだし、走りきる前に最後の仕上げであるまだ達成していない目的をおさらいしておこう。主に現実から逃避するために。
他の目的だった僕や友達の安全。早苗や清隆、高円寺などへのガス抜き的な恩返しは、それなりに達成したっぽい手応えがあるしな。清隆は色々不明な点もまだ残ってるが、港のあたりでこちらを見てる早苗や高円寺の様子からして。
ともかく残った目的とは月城さん、そして鬼島総理の保険や支援を下準備して、わかるように伝えておくことだ。
勘でしかないが、あの人達なら『俺』の頃の2000年代・六大最悪首相のような工作員か破壊者みたいなアレな馬鹿はやらないと思う。
ちなみに『俺』から見た最悪な人災だった首相トップ6は、旧民○党の3人に○泉、岸○、石○である。尤も、小○だけは現役時代を直に知らないので、残っていた記録からの考察だが。
そして僕の調べた限りでは、○泉と旧民主党の3人は固有名詞を変えて僕の人生にも存在していた。
しかも直江とかいう妖怪のように政界を泳ぐジジイ付きだ。だいぶ前に話した時に鬼龍院先輩は嫌ってたが、ああいう存在は決して軽く見てはならない。
真の『政治屋』とは、どんなにムカついても、表面上だけでも敵対しないのが生き延びる鉄則である。
もし敵対したら?
少し話は逸れるし、現状に敷き詰めた下準備とも関係ないが、昔の『俺』の話をしておこうか。
僕は『俺』の頃に奨学金という名の借金でエライ目に遭った。借金が枷となってブラック企業から逃げられなくなったのだ。
それでいて、一部の外国人は返済不要の奨学金のおかげで、ブラックな環境から逃げてあっさり帰国してしまったのをいまだに覚えている。
その時に知った。企業やメディアの「日本人が働かないから外国人を優遇するんだ!」って言い分を。
ちなみに、数年働いて技能を身につけてから逃げるように帰国していった外国人の言い分は「日本人は自分達の数倍働いてるのに給料はめっちゃ安い。どうなってんだ、この国は。というか、俺らはあれ以上を求められてんの? 無理だって。奨学金は返済不要だし、故郷に帰って最低限身に付けた技能でひと儲けだ」である。どちらが現実に則していたかは言うまでもない。
更に外国人達がほとんど帰国すると、数年働いた『俺』達以上の給料で新たな外国人達を新人として雇用したのも言うまでもない。ま、この少し後に『俺』は退職してるので次の結末がどうなったかは知らないが……優遇してる外国人が日本人への扱いを見て逃げ出すって何事だよ。
これ、全部日本で『俺』が体験したことだぞ。どんだけ見た瞬間わかるレベルで外国のために日本人差別を助長するのか。
こんな状況にするのはいつも『政治屋』とメディアだ。
お偉いさんもメディアも、僕のような普通の凡人にはマジでわけがわからない。なんのつもりでやってるんだよ、やってられねぇ。
場所によっては、各分野のお偉いさん含む大多数が日本よりも外国を優遇し、メディアがそれを全力で後押ししてるのが現代日本なのだ。そしてそれをやってるのが政治家などのお偉い人達なのである。
某大手新聞社が長年やっていたワイワイ問題など、有名な例だろう。
事件発覚から10年以上後になってさえ『俺』に実害をもたらしてくれたからな。曰く、日本人みたいな変態に払う金はねぇってヤツ。海外で働いてた時に実際に言われた。
「この流れに逆らう者には(社会的な)死を」的な様々なやり方は何度も見てきた。
あれは圧倒的絶望だった。
自分の国・組織・派閥などにどれだけの不利益があろうと、『自分の利益』を最優先にするからだ。しかも部分的な能力やカリスマ性が意外(と言ったら失礼か)にもそこそこ高い事例さえ結構ある。
政治『家』じゃない政治『屋』とその腰巾着どもは、コレらに類することでも平気でやってくると確信している。
だから、こういう存在とは鬼島総理と別の意味で敵対をなるべくせず、もししてしまったら敵対解除する方法を模索しておいた方が良い。
あの頃の絶望をなぞるのを回避するためなら、僕は不審・不信な点が多すぎる坂柳理事長じゃなく月城さんに賭ける。やった事から考えても、こちらの方が確実に分が良いはずだ。
月城さんの理事長代理在任中に取り入れてくれたことで感謝していることはいくつかあるが、最大のものは『目先の利益に釣られて真意を見失わないように』という基本方針だ。都合良い生徒を駒にしようとしてたとしか思えない坂柳理事長や…とあるK元首相の外国人や移民を優遇する政策とは根本から違う。
おそらく大多数にわかりやすくはなかったし、仕事のついでなのも察していたものの、導入してくれたことに変わりはない。
だから、この現代社会において最も簡単な権力者を陥れる方法の対処法…の仕込みを愛里に頼んでおいた。
ちなみに有名人や権力者を陥れる簡単な方法は、メディアがよく使ってる淫行・暴行系のスキャンダルだ。
それも確たる証拠など必要ない。小さな足掛かりになる材料と下衆の勘繰りを加速させる程度の火種があればいい。なくても作り出すのは難しくない。
不正や談合など金関係の疑惑とやらは発覚しても案外なんとかなるものだが、下らない淫行系疑惑は現代日本においてマジで致命傷になりやすい。
少し昔だが、ジャ○ーズ事務所とかのこれも大炎上したしばらく後に、大半は疑惑に過ぎなかったとサラリと言いがかりだった事実が小さく報道され……訂正は全く広まらなかった件がわかりやすいか。
ただ、情報操作というモノは千変万化の水物でもある。完璧ではないものの対処法は何例か存在しているので、実行可能でいて一之瀬も安心できる後味スッキリな落とし所を作ってみた。
そう、8日目に僕も遭遇した一之瀬との1件のモノである。
僕が思い付いた返す具体的な方法は、無人島サバイバルの終了後に行う月城さんと『楽しそうな生徒達』との撮影会だ。
愛里(兼業カメラマン)と櫛田(主役&一之瀬の対抗馬役)の我が桜プロダクション所属のアイドル組に、実現へ向けた下準備に当たってもらっていた。特別試験だけに目を向けていた奴らは気づけないし、平和的な策だけに一之瀬の賛同も得られやすい、はず。
そして、一緒の写真に楽しげな雰囲気で月城さんと一之瀬が写っている事実を作ってある状態で、下衆い疑惑をかけられるものならかけてみろって恩返し的な対抗策だ。
かつての安○元首相も、似た対処をして下衆の勘繰りを乗り切った由緒正しいやり方である。安○マリオをやった少し後に起こった難癖染みた…いや、完璧に難癖だった下らない淫行疑惑を、男女問わず楽しそうな高校生達と映った写真で返した痛快なアレだ。
「これが淫行…ですか?」と、当時総理だった本人じゃなく写真に写った高校生達に指摘を返された記者はすぐに沈黙し、高校生達を黙殺しつつ何事もなかったかのように、当時首相だった者へ冤罪を吹っ掛けたに等しいこの話題を二度と出さなかったのは、ノリノリでその記者に乗っかっていた他のメディア各社である。
いや、国が国だったら不敬罪でしかない。そこを大目に見てもらっといて何が報道の不自由だ。
不自由なのは、他人に厳しく自分(達)に極めて甘いお前らのアレな知能指数以外のナニモノでもないわ。平身低頭と胡麻すりしすぎて、指紋どころか脳のシワまでなくなったんか。
信じるべきところがほとんどないマスゴミのハイエナどもには、面と向かってコレを言っても許されるんじゃなかろうか。
記憶に残ってる人もそんなにいないと思われる小さなニュースだが、だからこそ後にこれがアイツらのいつもの平常運転だったんだな、と認識したのを僕は覚えている。
なんせ元々そんなにテレビとか見てなかったし、『俺』が社会人になりたてホヤホヤの頃に目撃した印象深い手口だからだ。
ゆえに、いざという時は僕が指摘した高校生役をこなすのも辞さない覚悟と用意がある。
そしてついでに更にこの数年後。
武漢肺炎(コロナ)が広まり出した頃に、感染病の対策する場において「感染症なんて『そんな事』で話を逸らさないで、モリカケ(だったかな?)疑惑についてお聞かせください」と多数の議員やメディアが、コロナとして広まったかなり後までしつこく追及してたのを見て、野党は『野盗』でも通じそうな完全に信用ならない人種だと確信したのは余談である。
ともあれ、いかにアレな奴らだと広まってきてるとはいえ、メディア対策は上級官僚や政治家にとってまだ必要だ。特にこういう淫行系は下らなくて下品なほど致命傷に『しやすい』からな。
一之瀬がそこへ協力するとも思えないが、後々に利用されることは充分ありえる。
月城さんがどういった立ち位置かは確定できないものの、月城さんと彼を通して鬼島総理には示唆しておくのが僕のささやかな恩返し、のつもりだ。大したことはできないけど、多少は助けになってくれるとありがたい。
更に月城さんの目に留まるほどの付加価値を示せれば、愛里だって優れた容姿以外の裏方で飛躍する可能性が高まるだろう。
ついでに月城さんにも、某氏が総理大臣時代にやったメディアへのカウンター(結果的に)な手札にできればいい。在日特権など外国人優遇政策を推進する政治家どもがなんで出世できるのか知らないが、月城さんやそのバックにならできる支援はする価値があると思う。
ま、伝わる可能性はある綾小路篤臣や坂柳理事長にも事前対策を促す助け船になるかもしれないが、僕が対面した限りでは『力を持ってるのに持たざる者』へ軽視気味のあの2人はおそらく効果的に使えまい。月城さんや石上君、坂柳さんなど彼らの手の者が一言添えて、可能性が高まる程度だろう。
通名や特別永住権、固定資産税、教育・資格関係、生活保護。それと自治体による異なる各種優遇。いわゆる在日特権というヤツを推進…までいかずとも、目的のためなら許容はしそうな匂いがするからな。
わかりやすい例だと、弁護士になるための司法試験なんか難関部分だけ免除、ってアホか。しかも日本人は難関を突破した上に激務となる弁護士が、弁護士会を牛耳る“ゲーム”に精を出したり、メディアに出演して好き勝手言う仕事も多い弁護士に分かれるとかなんでだよ。こうなる人種割合を知った時は、日本人差別いい加減にしろ。とか言いたくなったわ。
あり得ないほど特別な優遇や恩を受けといて、妬みや恨み辛み的な工作で恩を仇を返すあたり、僕はこういう奴らと相容れない。隣国だと思いたくない半島や…支那の匂いがプンプンしてるやり方だ。マジでどんだけ日本はスパイや工作員にとっての天国なのか。
いや、政治家とかにも明らかにあっちの国の工作員(工作員、だよな? じゃないと信じられないレベルの残念で無能なお偉いさんが多いことになる)がそこそこいる時点で今更だが。
東南アジアの他の国だって、政治家や軍人のかなりの割合が中華系だったとかで大騒ぎしてたこともあるし。酷い国だと政治家の半数くらいが中国籍だったらしいからな。
中国の国是から考えて、日本や東南アジア、台湾とかを呑み込みたくてしかたないのだろう。建国以来、10年くらいのスパンで戦争してるほど好戦的なわりに戦争が異常に弱い国だし、工作メインになるのもむべなるかな、って言ってる場合じゃないんだよなぁ。
頼むから無駄な支配欲や妬みで全世界に迷惑かけまくるのはやめてくれ。せめて取り繕うか隠そうとしてくれよ。僕はなるべくそういうのと関わりたくないんだ。僕の暮らす日本で隠そうともせず大々的に工作してる以上は関わらざるをえないけども!
ふ、ふぅ。脱線したせいで『俺』の頃のトラウマが。これはマズい。思考を現実に切り替えよう。
なんにせよ、愛里に物騒な雰囲気や火種をぶち壊してもらうだけなので、残りの僕の役割は大したことないはずだ。
愛里の写真には、被写体を魅力的に撮影しようという気持ちが伝わってくる。しかも、何気に写真などを撮影する際、カメラを問わない。
興味ない人はわからないかもしれないが、去年の夏頃に一度相談されて僕が知る特性とかを話した上でこれなのだ。あまりこういう言葉は好きじゃないが、こればかりは才能と言うしかないだろう。
なんの話かというと、大雑把なカメラの種類と特徴だ。
まず入学とほぼ同時に愛里が買っていたネオ一眼レフ。一眼レフに近い性能や形状であり、コンパクトなので撮影の手軽さまで備えるなかなかのスグレモノだ。
高倍率ズームや画像編集でメリハリのある撮影にはうってつけの逸品。だから愛里の使用頻度も最も高い。
様々な観点から見て、最初にこれを選んだ愛里は本当にカメラ好きなのだと思う。
そして次に、僕と愛里のバイト先である喫茶・芳香にあったフィルムカメラ。
正直、青娥さんにもらったから時々使ってるんじゃないかと思ったくらいに扱いが面倒だが、独特の質感や色が出るので愛里曰くノスタルジック系の良さがあるらしい。
今でも、一室を現像室に改装してから、たまに自信ある写真を見せてくれる。
最後に、スマホやタブレットなど学校支給端末のカメラ機能だ。
最近の端末は性能も高く普段使いには充分すぎるだろう。ただし、機種によっては画角が限定されたり、望遠または接写に弱かったりと、本気でやるなら不満点もそこそこある。
学校支給の端末は普段使いなら悪くないが、上を目指すなら不適格だろう。
ただ、元から端末の撮影機能は本分ではないし、なんといっても日常のシャッターチャンスを逃さない手軽さが最大の強みだ。
いずれにせよ、写真とはほんの一時だけを切り取って魂を未来へ運んでくれるツールなのだ。
僕が見るところ、愛里はこの点において他の追随を許さないレベル。しかも独学時点でさえそうだったのに、高円寺や鬼龍院先輩からも学び、櫛田のプロモーション映像などを撮影したりしているうちに更に磨きがかかっている。
だから、無人島を去る前に愛里に集合写真を頼んでおいた。
できたら月城さんの『誤解』を一之瀬が解く一助になり、ゆくゆくは鬼島総理を高評価していた鬼龍院先輩と縁が繋がって…と発展してほしいものだ。
ただの一般生徒である僕ができる…まぁ役に立つ支援。役に立ってくれるといいな。
願わくば、これが僕の望むマシな未来へ繋がっていることを───。
それはそれとして、現実に思考を戻す。
もうすでに体力の限界を迎えて久しいわけだが、天沢に手を牽かれながら僕はガクガクいってる足を動かしていた。
というか、僕はもはや天沢に道具のように振り回されている。以前のクロスカントリーでやった二人三脚の如く。あるいは、早苗とコンビ組んだ時の如く。早苗と違って、どこかへぶつけたりしないよう一応は気遣ってくれてるけども。
……僕の前世は何か悪い事やったのだろうか…『俺』だったわ。じゃあ、怪しいのはその前か。なにやったんだよ、クソが。
「左京を逃がすなっ! ここまでコケにされて黙って通したら、3年の沽券に関わるぞ!」
「駄目だ! 綾小路が邪魔すぎる! コイツをなんとかしないと……!」
「……ぐっ。別動隊、回り込んで!」
南雲付近にいた朝比奈さん含む3年生は、清隆が暴れまわってなんとか抑えてくれてるようだ。そして別動隊とやらには……。
「左京、上級生だからって負けるなよ!?」
「最低限の道は空けてやる、行け左京!」
「聞いたぞ左京この野郎! お前、一之瀬にあんな目を向けられといて負けたら承知しねぇからな、勝て!」
「クックック。なんだこの面白い状況は。あの野郎が関わるといつもこれだ。だが……ふぅ。石崎、アルベルト、松雄。海までは左京を支援してやれ。他学年に阻まれるのは面白くない」
「よくわからねぇが、気張れや左京!! 俺も…須藤も手伝ってやるからよ!」
上から戸塚、葛城、柴田、龍園、池(と須藤?)だ。彼らが対処してくれるらしい。
いや、だからさ。なんでコイツらは海から回り込ませる方向に進めさせようとするんだ。これだけ戦力があるなら強行突破させてくれてもいいじゃん。まぁ、こんな人前でおおっぴらに乱闘かそれに類する行為するわけにはいかないけども。
それでも、道は塞がれてるけど充分ありがたいのでよしとしておく。
とはいえ、この時の僕にそんなツッコミを入れる余裕はなく、この声すらまともに聞こえてなかった。
ただ、僕以上に体力を消耗していただろう南雲が清隆にほとんどの人員を当てつつ、またしても僕を先回りするのは見逃せない。矢のような速度のスタートダッシュはその一歩からして僕とは雲泥の差。
南雲は、何故か僕を倒す意思に満ちている。迷惑ここに極まれり。
「うわっ、速っ。私と拓也がサポートするとはいえ、これ本当に夢月先輩の体力で振り切れるの」
「知らん。そこまでは面倒見きれない。ただまぁ…最初だけは僕が足止めしてやる。せいぜい頑張って逃げ切るんだな左京夢月」
楽しげに不安を煽りつつも、天沢は僕の手を引くことで多大なサポートをしてくれている。八神も南雲の妨害をしてくれるようだ。
尤も、先に言ったように僕は礼を返すどころか喋る余裕はないが。
「ハッ。簡単にやらせはしないよ、生徒会長」
「……っ」
それほど余裕はないのか無言で僕を捕まえようとしてきた南雲の手を、八神が叩き落とす。
そのまま八神と南雲は相手を窺うように、その場に留まった。そして改めて八神の相手などしていられないとばかりに再度回り込もうとする南雲だが、今度も八神の妨害が光り、行く手を遮っていく。
疲労と体力、テクニックはおそらくそんなに差がないだろうが、どんな状態でもそれなり以上のパフォーマンスを発揮する八神を相手するのは南雲といえどやりにくそうだ。
ごり押しを無駄と悟ったのか、南雲は呼び寄せた3年生数人に八神の対応をさせて一旦は退く。
肩で息をしながらも、退く前に油断ならない目を僕へ向けてきたあたり、僕の油断を探ってゴール付近に網を張るつもりかもしれない。まだ諦めてはいないのだろう。最後まで気が抜けないな。
この妨害への本気度は、早苗と高円寺がワンツー・フィニッシュを決めたからか。南雲グループが2位までなら、おそらく勝ち目はなかった差があったのだろう。つまり、3位以下…つまり40得点以下だと1位抜けが怪しくなるってこと。
このレース、たしか1位100点、2位60点、3位40点だったか。んで、参加のグループ全員が完走したのと単独者の報酬が10点ずつ。最後にグループ全員がゴールした時点で、『グループ内最初にゴールした者』の順位が確定される。
つまり早苗が1位か2位なら、僕がゴールしたら僕も1位か2位の恩恵に預かれるということ。
ついでに最終日は着順報酬も到着得点も倍らしいから、朝に2回を1位で踏んでる僕はまずここで44点。早苗が1位、もしくは2位だった場合でも僕が完走すれば104~144点獲得。元の325点に加えると469点になる。
そしてスタート前の南雲の口振りから推定される南雲グループの得点はおそらく400点前後で、別動隊の稼ぎを入れて最終結果が500点…には主力がこっちにいた以上は届かないだろうから高くて450点ってとこかな。
ということは、なんとしてでも僕の完走だけは阻止しないと、南雲グループは下手すると上位3位に落ちる。だから、こうして食い下がってきてると思われる。
「たしかに先輩にゃあ世話んなった。だが───」
しかし、南雲と八神に気を取られててある伏兵に気づくのが遅れた。
「それとこれとは話が違うだろっ! てめぇの懸賞金も俺がもらって有効活用してやるぜ!!」
宝泉……だと!? 清隆と最初にやりあってたはずのコイツがどうして追い付いてきてるんだ。フィジカルでも八神と天沢に匹敵…あるいは凌駕してんのか!?
3年生がいない方向の茂みから飛び出してきた野生の宝泉に一瞬驚いたが、まだ彼との距離はあり、進行方向とも微妙にズレる。それなら、疲れてるが大回りしてなんとか避けつつ、南雲に紛れて密かに僕を追走してる桐山になすりつける算段をソッコーで組む。
そのためには、僕の手を引く天沢も当然気づいてるだろうから、まずルートを変更してもらっ―――は? 天沢、ビクともしねぇ……!
このまま直進したら宝泉とかち合うこと確実だと思われるのに、八神が南雲を相手にしてる現状でまさか僕と天沢で宝泉をなんとかしようって? 冗談キツすぎなんだが。
てか、それ以前に天沢と宝泉って同じグループじゃん。相手する意味もあんまりないし、もしかして僕を宝泉に引き渡すつもりなら……いや、それこそないか。ぶっちゃけ、八神関係でさえできなかったサポートを宝泉にするくらいなら、自分でヤッた方が早いもんな。
ここは腹を決めて、天沢を信じ抜くが吉だ。
「……夢月先輩、なんか変なこと考えてるでしょ」
「あー? はぁ…んな余裕ねぇよ、ふぅふぅ。とーぜんのことだけーだぁ……」
「あぁもう。無理に返さなくていいから。あとちょっと頑張ってね」
「おーけー、おげっ」
もう、なんかこう…マジで体力の限界かも。フラッフラだもん。
しかも味方はいなくもない(天沢・八神や3年生の半数を引き付けてる清隆、残りを妨害してる友達連中+龍園達)けど、四面楚歌に拍車がかかるし。
しかし、決して思考は止めない。諦めなかった友達連中に無様なんかさらせるわけないだろ。
「左京先輩には借りもあるし、またしても宝泉と組みたくはないが───生徒会長がかけた懸賞金『も』狙う、と判断したのでな。悪く思わないでくれ。無理だろうが」
今度は宇都宮まで追い付いてきたか。……なら、判断ってのは椿か。こんなよく知らない奴まで追い付いてくる…どころかピンポイントで僕を狙いに来るなんて人気者だな、ハッハッハ。って、笑ってる場合じゃない。
前門の宝泉、後門の南雲、左門の宇都宮ってか。
八神は桐山と他数名に足止めされてる。やる気はともかく、コンディションと疲労がかなりのモノに見えたからこれはしかたないか。てか、右門も依然として3年生の壁が存在するし、どこ見ても野郎ばっかりじゃねぇか。
野郎だらけの四面楚歌とか勘弁してくれ。
どうせなら可愛い女子に面倒事や危険要素なしで狙われたい……! そんな女子なんてせいぜい愛里と椎名くらいで、ほとんどいねーよ馬鹿野郎! なんなら愛里だって最近は少し怪しいくらいだわ! 非常時になに考えてんだ、僕は!
「はぁはぁ…ぐぅ、手こずらせやがって左京この野郎。ここまで俺を疲弊させたのはお前が初だぜ。堀北先輩を入れてもな……!」
「おいおい、生徒会長もずいぶん疲れてんじゃねぇかよ。休んでた方がいいんじゃねーか? どうせ俺が左京を捕まえて終いなんだからよ」
「抜かせ宝泉。お前に総取りされるくらいなら、俺が捕まえてやる。だいたいお前も相当疲労してるだろうが」
「なんなんだ、今年の1年は……! 左京といい、なんでこんな奴らが下級生に固まってんだよ、クソが!
だが───今度こそ年貢の納め時だぜ、左京」
よろしい、ならば逃走だ。
なお、闘争の誤りではない。
普段でさえ単体でも当たったら詰みな面子なのに、以前の八神の如く囲まれたらもはやそれしか道はないだろう。
ちょうど桐山に絡まれてた八神が再度合流したわけだし、天沢とのコンビなら可能と思われる突破方法はある。
「ふん───僕は逃げ隠れがデフォルトの左京夢月だ。かかって来る奴には、もれなく徒労感を刻み込んでやるよ」
僕が覚悟を決めて、前に進めばいいだけの簡単なお仕事だ。
おもむろに疲労で重く感じる身体をジャンプさせ、打開策を暗に伝えつつ、いつも通りの啖呵を切る。
「さあ天沢、そして八神。遠慮せず、やってくれ」
「「え?」」
現状、何故か僕の味方をしてくれてる2人の声が揃う。伝わってる……はずなんだが。
「どうした? お前らなら可能だろ?」
「い、いや、考えはわかるけどさ。夢月先輩、ホントに『ソレ』やるの?」
「理論上はおそらく可能だが、リスクも相当になるはずだ。それでもやるのか?」
「ふっ。リスクなんぞ今更すぎる。だいたい少し前まで特大のリスク要因だったお前らがそれを問うな。愚問にしかかならねーよ」
実際、コイツらに狙われてた時やその対処、さっきの崖ジャンプはある意味『僕には』不要なリスクだったからな。それを背負って何度か実行してる以上、この程度は軽いものである。
ただ、宝泉には……うんまぁ、唯一の進路上に立ち塞がった不運だね。あらかじめ内心で謝っておこう。その、恨みはないけど、ごめん。
「最終確認だが、本当にそれでいいんだな? 全力でやるが」
「え、えぇ……? 大丈夫なのそれ。いや、私も全力で合わせるけどさ」
「いいからやれ。もう残り時間は5分を切った。時は金なりと言う言葉を知らんのか?」
あえて挑発的に煽ってみると、天沢も八神もイラッときたらしい。今はそっちの方が好都合なのだ。
これで準備よし、と。
「……本気で行くよ、拓也」
「面白い。やってやる。合わせろ、一夏」
「お手柔らかに頼む2人とも。では、軽くジャンプするからその時にな」
「「了解」」
お、なにやるんだ? みたく包囲網を敷く奴らが傍観してくれてるのはありがたい。
うむ。その油断、一切の慈悲もなく突かせてもらおう。
んじゃ、やるか。
「今、必殺の人間ロケット、左京1号───宝泉へ向けて発射ぁあああっ!!」
「余計なことを口に出すなっ! 無言のまま大人しく逝ってこいっ!!」
「舌噛んで死んじゃうよ、夢月先輩!?」
前傾姿勢っぽくジャンプした僕の両方の足裏を、ジャストタイミングで天沢と八神の投げ?蹴り?が合わさり、勢い任せに空中で前後左右に激しく回転しながら木の葉のように舞う僕の回転式ドロップキック?が、理不尽にも宝泉を襲う。
関係ないが、天文部なので命名・人間ロケットはなかなかわかってる名称ではなかろうか。
「ちょっ!!? は!? なんだそりゃあっ…ぐべっばぁーー!!?」
僕という男子高校生がぶん投げ?られた質量と勢いは凄まじく、宝泉の大きな身体をものともせず吹き飛ばし、踏み潰しつつ、僕の道を開いてくれた。
「宝泉には本当に感謝してるし、悪いとも思ってる。でも、改めて。クッション兼足場になってくれてありがとう」
「て、てめっ……がふっ。ぐぅ…いてぇな、身体が動かねぇ、ドブカスがぁ……ク、クソが、よ。お、覚えて、やが、れ……!」
この勢いを生み出すほどの蹴りを受けた僕の足や宝泉と衝突した身体も多少は痛むが、いわゆるコラテラルダメージというヤツだな。ノリと勢いで発生した以上、致し方のない犠牲だ。
それはそれとして、僕の安否を心配してたと思われる天沢はともかく、外野の早苗と清隆に龍園、ついでに宇都宮。普段笑わなそうな奴らが爆笑してんじゃねーよ。笑い声が聞こえてるし、何人かは腹を抱えてんのが見えてんだよ。
……ま、咎める意味もないし、まだ走らなきゃ駄目だから放置するしかないけども。
僕が宝泉の身体から降りて再びとっとこ走り出すと、後方から最近聞き慣れてきた南雲のシャウト。
「まっ、待てやコラァ!! 少しは正面から当たってこいや! てめぇはやることなすこと常識に囚われなさすぎなんだよ!!」
そんなわけがない。僕ほどの常識人など見たことないのだ。
今だって、まともにやったら天沢や八神のサポートありでも僕が突破するのは難しかった。だから、突破できそうな方法を実行しただけである。
「一方向の包囲さえ突き破ればいいという実に常識的な思考だろう。南雲はなにを言ってんだ、この非常識人め」
「てめぇが言うんじゃねーよ! 俺は常識に囚われてたと、さっきとたった今に実感させられてんだわっ!!」
結構距離離れたのに僕の呟きが聞こえたのか。地獄耳だな、怖っ。
てか、何気に南雲も僕ほどじゃなくても、かなりヘロヘロじゃん。流石に僕よりはまだ速度があるものの、さっきの急加速みたいのはもうできないと考えて間違いないだろう。
ま、考えてみればそれも当然か。朝からクソ暑い無人島を走り回り、先回りするために僕よりも長距離を移動し、更に山でトランシーバーを持ってたことから繋げると最低限は他の奴らへの指示出しまでしてる。
指揮官に主力、遊撃、『勝手に』動く奴のフォローまでこなして疲れない方がおかしい。
徳川家康だって「人の一生は重荷を負ひて遠き道を行くが如し」と遺訓を残してるが、南雲は重荷を背負いすぎなんだよ。
崖のところで言ったけど、僕みたく軽くしてから出直してこい。もしくは僕か高円寺、清隆にリソースを分散せず、何処かに戦力を集中させておくべきだったな。戦力の逐次投入は愚策ってのはこういうことだ。
だから、むしろ清隆や天沢、八神に余裕を感じるのが異常なのだ。宝泉ですら僕の人間ロケット一撃で沈むくらいには疲労してたのに……。
それにしても、何日か前に共に八神断罪ごっこをやった仲だと言うのに、今は僕を捕まえるために呉越同舟するとか仲良しかよコイツら。
ただ、木々に遮られていた海が見えてきた。天沢や八神も僕を遠回りさせる無駄足はさせないだろう。あそこまで辿り着けば、なんとかなる…はず。でも、他はなんとか引き離せたが南雲は追いかけてきてる。僕と南雲双方の速度を鑑みると、目算で海直前くらいで追い付かれる。
僕が想定できる手札は頼りになると思うが、切り方を間違えると詰みかねない。なんせあの人、一応は病み上がりだからな。無理だけはさせられない。
尤も、いよいよ限界突破の先にいる僕の方が倒れ込みそうでヤバいわけだが。
チラリと後方の南雲を振り返り、更にその先の港前スペースにいる四方と愛里に早苗、高円寺達が目に入った。こんなに遠いのに、何故か笑ってるのがわかる。
そして友達が頑張った結果が今というなら、僕も負けてはいられない。自分だけ負けるなんて格好悪いなんてもんじゃないからな。
しかし、大回りしたから3年生は振り切ったと思ってよさそうでも、南雲については誤魔化しができない。
南雲をどうにかしなくては、なにをするにしろ障害となってしまう。今のお互い疲労困憊といった状態の南雲なら、ある程度以上の札で隙は作れるが……。
そんな事を頭の隅で考えながら走ってたからだろうか。
何故かこんな場所に待機していたソイツの存在は、たまたま僕の目に飛び込んできてくれた。当然、僕は力を振り絞ってダメ元で助けを求める。
「我が助けを呼ぶ声に応えよっ……!」
あ、目が合った。
その表情からすると、介入するのを迷った末にこんな外れで待機してたとなんとなく察した。
それなら、僕の言葉は決まりだ。これしかない。
「新種であり邪悪なる悪魔・櫛田桔梗ッ───!!」
「あんたっ、こんな時までホント! 覚えておきなさいよ!? なんであんたが早苗達から好かれるかなんとなくわかったけどさぁっ!!」
いつになく嬉しげな雰囲気だったので悪魔召喚的なジョークを使ってみたら、口とは裏腹に南雲の進路を塞いで櫛田は僅かな隙を作ってくれた。
本当に僅かな隙でしかないが、僕にはそれで充分すぎる。ヨロヨロしつつも、ギリギリで駆け抜ける。
「このクソ女がっ! 男同士の間に入るな! 野暮にもほどがある!!」
「うっさい! 野暮はあんたよ、自惚れ屋の生徒会長! ギャンブル狂のダメ男かっての!!」
「っんだとコラァ!! 誰がダメ男だァ!?」
「あんたよ、あんた! 南雲雅っつー生徒会長に言ってんの! もうほとんど決着してんだから上級生らしく見守っときなさい! みっともないったらないわ!!」
「性格ドブスなお前には言われたくないぜ! 糞田桔梗にはなっ!」
「誰がそんな異名を付けたァアアア!! お前か!?」
普段から普通に櫛田が素を見せる早苗や清隆とかにも言われてたけど、そんなに性格悪いかなぁ。ぶっちゃけ、同学年の女の担任がどちらも酷すぎて僕はそこまで感じないんだよなぁ。
むしろ僕としては、女と思わず気兼ねなく付き合えるから、悪くない性格な気がする。いや、邪悪な性格なのは否定しないんだけども。このへんは早苗や天沢も同様である。
しかし……こう、なんか口悪いな、今日の櫛田。南雲に思うところでもあったんだろうか。同じ場にいることはあってもあんまり会話してたイメージなかったけど、つくづく混ぜるな危険を体現してる奴らである。まぁ、混ぜちゃった僕が思う感想でもないが。
何故か2人で罵声を投げつけ合うのを背後にしながら、僕はようやく海まで到達した。
そこには予想通りのお方がイイ笑顔で待っていた。
「後輩、乗れっ!」
岩場に付けた水上バイクをアイドリング状態にした上で。輝くような髪と肌に異常に似合う水着着用で。
え……先輩で友達とはいえ、こんな水着姿の美女と相乗りするの?
予想はしてたが、最後の最後でとんでもない試練が待っていたな。
こんな汗まみれ砂まみれ…更に追加で乗る時に海水に濡れる凡庸な容姿の僕が、美女にくっつく勇気を要することになろうとは……。鬼龍院先輩を早苗だと脳内を改竄して思い込むことで対応できないだろうか。
そうして躊躇って時間を少しロスしたせいだろうか。
鬼龍院先輩の後ろにおずおずと腰掛け、先輩がスロットルを全開にしようとした瞬間───櫛田と南雲が茂みを突き破って降ってきた。しかも僕にしがみつかれたので、とっさに鬼龍院先輩の綺麗な背中に抱きついてしまう。
「お、おぁああああっ! すいませんすいません!! 違うんですわざとじゃないんです…あ、嗚呼っ! で、でもこんな状態で離せないすいません!」
「さぁああきょおおおうっ……逃がさねぇぞ……!」
「くっ、なんでこんなことになったのよ!? 私ってこういうことするイロモノキャラじゃないでしょ……っくしょおおおおっ! なんでこうなったのよ!?」
「……くっくっく。なんだ、この状況と面子は。4人乗りはともかく、本当におかしな場所へ着地したものだな。後輩がいる以上はこれが平常運転なのかもしれないが」
スベスベの肌の感触を頬に感じながら、これまでになくめっちゃパニクって鬼龍院先輩の腰にしがみつきつつ、本気で謝り倒す僕。もはや体力が限界に達してるせいで執念以外はだいぶ弱体化してる僕の左腕を離さない南雲。同じく僕の右腕を掴みながら、わけのわからない呪詛のようなモノを撒き散らす櫛田。安全運転を心がけつつ、どこか呆然としてる鬼龍院先輩。
後から控え目に表現すると大混乱である。
距離的に極めて短時間のことだったとはいえ、港のゴール……の裏口から何故か4人でゴールテープを切るまで、この状況はほとんど何も変わらなかった。
「2年・左京夢月、ゴォーーールッ!! この瞬間、ようやく全トップランカーの着順が確定しました! 3位に南雲君・殿河君・溝脇君の3人グループ! 2位にまさかの単独・高円寺君!
そして堂々の1位に輝いたのは、前評判を覆し何処からともなく彗星のように出現した東風谷・左京ペアだぁー!!」
そして僕は、なんか遠くから一生懸命盛り上げようとしている朝比奈さん?が張り上げた声を聞きながら、その場に崩れ落ちた。かなり無理した体力がついに限界を迎えたのと、三半規管を短時間に何度も揺さぶった(崖、人間ロケット、水上バイク)せいだろう。
そこへゴールでありスタート地点でもあった港に響き渡るうるさいほどの喝采や拍手。それが僕に直撃したからだ。無理もない。
ただ……なんて根回ししやがったんだよとも思いつつ、珍しく勝ってしまった結果はなんとなく心地よかった。と、四方や愛里など友達連中が駆け寄ってくるのを眺めながら思った。
「ははっ。楽しかったぜ、左京。またやろうな」
「こんな疲れるのは御免だって何度言えばわかる。僕はトップクラスの奴にはまともな方法じゃ勝てねーよ」
「よく言えたものだ。無人島サバイバルで常に台風の目だったくせによ」
「そんなわけがない。僕は普通の凡人にふさわしい振る舞いしかしていない」
「言ってろ。お前…左京……いや、『夢月』だけは必ず巻き込んでやるからな」
そんな中、僕のゴール阻止という目的は鬼龍院先輩がいたこともあって達成できなかった上、疲れ果てた様子のくせに何故かスッキリした満足感と不吉な『先』を匂わす南雲が去っていく。
いつになく変なノリに付き合ってくれたが、櫛田も我に返ると誰かが注目する前に慌てて人の中に飛び込む。ここに留まればイメージダウンになりかねないからか。
そして2人きりになると、鬼龍院先輩が僕に不思議な目を向けて口を開く。これは……敬意、だろうか?
「それにしても───やることなすこと常識で測れないわりには、相変わらず最後で締まらない男だ」
また清隆か南雲の発言、あるいはその合成みたいなことを。
ま、写真撮影や思い出作りを兼ねた月城さん関係は、少し休んでからでも遅くはないだろう。しばらく先輩と駄弁ってもバチは当たるまい。
「ところで、左京夢月。君の描く次回作の物語だが、『ようこそ実力至上主義の教室へ』なんてタイトルはどうだ? 私なりに君の前作をリスペクトしてみたんだ。ちなみに『教室』にしたのは、この学校はクラス競争が基本で、なにより学校や学園より響きが良かったからだな」
「ああ、先輩も読みたいんですか? ただ、僕は実力とか努力とかいう言葉や概念があまり好きじゃないんで、それだったら僕が考えてるタイトルにしてください。大抵の人には意味不明でしょうけど、そのタイトルだとなんとなく清隆や龍園、他の学年なら宝泉や桐山なんかを主役っぽく連想しそうですしね」
友達連中が来るまでは、鬼龍院先輩が介抱してくれつつ物語の話題を出してきたし、僕は僕がこれまでに制作してきた作品全てに仕込んでおいた隠しタイトルを満を持して開陳しようか。進級してからの話はまだほとんど書いてないけども。
「くくっ、桐山がそこに入るか。南雲ではなく」
「個人的印象ですけどね。無論、桐山だけは悪い意味です」
「ふはははっ、桐山の奴も嫌われたものだ。だが、たしかにな! では、後輩はどういうタイトルを考えていた?」
自分の整理と先の対応策を練るために始めた創作趣味だったが、僕の作品を楽しみしてくれる友達にはちょっと溢すくらいの+αがあってもいい。
鬼龍院先輩が、色々と手伝ってくれてるのもあるかな。
僕はこの先輩を気に入っているのだ。共犯が増えるんなら、持ちつ持たれつの付き合いももっと続いてほしい、と。
そういう願いを含ませて、僕は満を持して椎名にプレゼントした自作本の正式名称を口に出す。
「───ようこそキャットルーキーの前日談だと思っている『学校』へ」
あくまで今を生きる僕視点の記録だという真実と、現実とキャットルーキーという物語を混同しないための戒めの意味も込めて。
多少は現実やキャットルーキーと比べて差異があろうと、これはその初心から僕自身が始めた物語なのだから───。
トータルも1話1話も、かなり長めになってしまった『ようキャ』とその蛇足編でしたが、お読み下さった方は本当にありがとうございました。