ようキャ   作:麿は星

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22、一心不乱

 

「ふざっけんじゃないわよ、あの女! 何様のつもり! ほんっとムカつく! お願いだから堀北死んでくれ! いや、やっぱりあんな奴にお願いなんかしたくない! 死ね!」

 

 僕が道具を取りにいく為に立ち上がると同時、屋上の扉越しに櫛田のものと思われる罵声と扉をガンガン蹴りつける音が響いた。

 これには流石の東風谷も驚いたらしく、珍しく目を丸くさせた顔を見ることになった。

 

「こんな日に限って屋上は開いてないし最悪! 綾小路の奴も役に立たないし、他は役に立つどころかキモい目を向けてくるのばっかり!」

 

 どうやら本日は櫛田の愚痴の日だったらしい。聞けば即座にわかるほど、絶好調に荒れ狂っていらっしゃる。

 なので、東風谷には知り合いだと声をかけて、一応屋上の鍵を取りに荷物のところまでUターンする。この櫛田をスルーする方がより面倒に発展しそうだからな。

 

「あの、招き入れて大丈夫なんでしょうか? もしかして何か憑いてたりする人だったりしません?」

「ただの情緒不安定な疲れたOL風同級生だから大丈夫。時々愚痴りにくるだけで、敵意さえ向けなければおそらく比較的普通に話せるから変に刺激しないようにな」

「なにと比較してるんですか、まったく」

「なにって、それは」

「言わなくていいですよ。なんとなくわかりますので」

 

 東風谷と話しながら鍵を取り、再び屋上扉へと向かう。

 そして扉へ近づいているのだが、何故か既に罵声や蹴り音がしない。いつもなら荒れ狂い続けて賢者タイムに入るまでは罵声や打撃音が聞こえてくるのだが。

 前2回と違い、静まるのが早い気もして少し不審には思ったが、新しいパターン構築でもしているのだろうと考え直して、屋上扉を開けて櫛田に文句を放つ。

 

「お~い櫛田。入れてやるから扉を蹴るな。もうすぐ月がいい感じで…………ゲッ!」

「左京さん、どうしたんです…………か」

 

 扉を抜ければそこは異世界だった……ら、どれほどよかっただろう。そこにいたのは、胸を揉みしだかれている櫛田と揉んでいる見知らぬ男だった。

 この目で目撃した僕が思った真実は、勿論一つである。

 

 コイツ、よりによって彼氏とイチャつく場所に屋上を選びやがった!

 

 とすると、さっきの罵声や蹴り音は変態プレイの一環である可能性がある。

 僕が思いつくものとしては、荒れる彼女を宥めつつ、甘え甘えられの屋上露出プレイとかだろうか?

……15、6の同級生なのに、二人ともなんてハイレベルなんだ。男は先輩である可能性もあるけども。

 それによく見れば、僕や東風谷が思いきりガン見しているのに、男が櫛田の胸から手を離す気配すらない。どちらが主犯かは判断つかないが、この男からは櫛田の胸を揉みたい意思だけは嫌というほど感じる。なにせ不測の事態が発生しただろうにまだ布のこすれる音が聞こえているということは、この男は手を動かして自ら揉み続けているのだ。

 おそらく、この男の乳に対する思いは並々ならぬものがあるに違いない。

 

 そこまで考えて我に返った僕に、不意にどこかから湧き上がってきたのは意味不明で強烈な父性だった。

 いかん! 東風谷の情操教育に悪すぎる! 早々にこの変態共から引き離さなければ……!

 4人で見つめ合ったまま沈黙している現状だが、種類は違えど以前に四方や佐倉がいた時に体験した居心地悪さを乗り越えた僕には打ち破れるはずだ。

 

「こ、東風谷! 見るんじゃありません! 先に屋上に戻ってなさい!」

「どんなキャラですか。でも確かにお邪魔するのもなんなので、少し出入口から離れたところで時間を潰しましょうか」

「「ま」」

「そ、そうだな。櫛田、こんな場所だが彼氏さんとゆっくりしていってね。僕達は1時間くらいは扉の方には近づかないようにするから!」

 

「「待てえええっ!」」

 

 言うが早いか速攻で扉を閉めようとしたというのに、乳揉み男が驚異的な速度で接近し、閉まりそうだった扉をこれまた凄まじい腕力で引き戻した。櫛田もその男の動きに合わせるように扉の開閉スペースに足と鞄を差し込む。

 

「いやだ、待ちたくない! 変態カップルの見せつけ露出プレイとか、僕は勿論、東風谷にも見せたくない! 屋上使うなら、僕達は帰るから」

「だから違うっつってんでしょうが! どうしてあんたと会うのはいつも間が悪いタイミングなのよっ!?」

「話を聞いてくれ! これにはわけが」

「おっぱい星人は黙っててくれ! 他人の前でも乳から手を離さなかった奴の言葉に説得力などあるものか! 万乳引力でも唱えるつもりなら聞こえない場所で勝手にやってろ!」

「……………………おっ、ぱい…………星……人?」

 

 まず事実を並べつつ、さりげなく乳揉み男改めおっぱい星人の視線を一見蔑んでいるような視線に見える素の東風谷に誘導して撃沈。夢破れたかのような雰囲気(あれ? あいつ表情変わってないけどちゃんと落ち込んでるよな?)で静かに座り込むのを確認した後、次は櫛田へと矛先を向けた。

 僕たちを帰らせないなら、このままバカップル共のテンションを落としまくって、エロい気持ちなど駆逐した上で、無理やり横で月見してやる。

 最初から様子見などしない全力のストレートで正気に戻しつつ、撹乱と問題提起だ。

 

「櫛田の捻じ曲がりまくって終わってる性格や性癖に今更口出しするつもりなんかないけど、僕達に被害を齎すなら考えがあるぞ」

「だー、もう! さっきのは綾小路君にアレを見られたから脅してただけだっつうの! よりによって変態カップル認定すんな!」

「脅してた、ですか?」

「あ、しまった。もう一人いたんだった」

「なんだ櫛田、早くも開き直ったのか? それなら元々隠す必要なんてないんだから、僕に口止めとかいらなかっただろう」

「そっちの子にはあんたのせいでバレたようなもんでしょうーが!」

 

 よし、東風谷もナイスサポート。

 歪んだ劣情を抑え切れなかった疑いがある櫛田には、いくつかの問題に思考を分散させて引っ掻き回したし、これで二人ともエロい気持ちなど消し飛んだことだろう。男の方にも先手を打っておいたし、ここから立て直して再度奮い立つような真性でなければ、もうこちらとしてはどうでもいい状況にできた。

 つまり、あとは櫛田を適当になだめて月見を始めるだけである。

 場の空気はそう思えるような状態になったし、いつもの僕に切り替えて夕食のお誘いと軽い警告でも出して、彼女らが食べてる間にさっさと月見に移行しよう。

 

「うんうん。僕が悪かったね。お詫びに夕食代わりに焼きせん食べてかない? よかったら彼氏さんもご一緒にどうぞ。あ、僕は向こうで月見してるけど、東風谷には変なことしない方が身のためだよ」

「唐突に素に戻らないでください。ついていけないじゃないですか」

「あんた言いたい放題していきなり態度変えた挙句、投げっぱなしか! 待ちなさい、誤解が全然解けてないでしょうが!?」

「僕より櫛田の問題に新規参入した東風谷と落ち込んでるっぽい彼氏さんほっといてもいいの? それに誤解とか面倒だし解かなくてもいいよ」

「だ・か・ら、脅してただけで彼氏じゃないっつってんでしょ!」

「痴女か痴漢冤罪じゃあるまいに、脅しで自分の胸揉ませる女がどこにいるんだよ。軽く服引っぺがされて終いだろうが」

「……綾小路君へたれだし、服についた指紋で強姦されそうになったって言えば」

「……もし本当にそれを考えてたとするなら、お前相当疲れてたんだな。性格は知らないが、あんなヤバい速度と腕力を持ってる男相手に、二人きりでそんな自殺行為するほど普段の櫛田は馬鹿じゃないと思ってたんだが」

「……」

 

 もしかすると櫛田は、ストレスとかなんかの焦り的な原因でおかしくなっていたのかもしれない。

 冗談交じりに言っただけなのに黙ってしまった櫛田を見て、本当にそんな脅し方でどうにかなると思っていたことに真実味が出てきてしまった。これからがあるかわからないが、少しは優しさを持って接してあげた方がいい気すらしてくる。

 そしてそんな行動に出た櫛田の胸を一心不乱に揉むだけだったおっぱい星人も、襲わなかったということは下種・外道ではないのだろう。彼はそう、ただおっぱいが好きなだけの青年だったのだ。

 

 変な時に僕の優しさスイッチがオンになってしまったが、ここは月見を後回しにしてでも暖かい食事と言葉を彼らに届けなければならない。そんな使命感を感じる。

 沈黙してしまった櫛田を促して案内を東風谷に任せ、僕はいまだ無言で座り込んでいるおっぱい星人を立たせて先ほどまで食事をしていたテーブルまで運んだ後、二人にまだ残っていたお茶と焼きせんを出して持て成す事にした。

 

 

 

「さぁ、櫛田もおっぱい君も遠慮なく食え。落ち込んだ時には、何かを腹に入れるのがいいらしいぞ」

「あの、左京さん。櫛田さんはともかく、おっぱい君……さんの呼び方はどうにかならないものでしょうか?」

 

 もうかなり暗くなってきているが、そこそこの範囲を照らすランプの光があるので問題ない。

 二人の好みがわからなかったので、とりあえず櫛田には肉と卵、おっぱい君には全乗せ+マヨネーズ多目で提供してみた。いつの間にか東風谷か神様方が消費していたのか出した分を含めて残りが5セット分くらいになっていたが、これだけあれば足りるだろう。

 自分の焼きせんセレクトに満足していると、東風谷から物言いが入ったので他の呼び名候補を言おうとしたら、おっぱい君が口を開いた。

 

「頼むから名前で呼んでくれ。俺は綾小路清隆だ。綾小路でも清隆でもいいから、おっ……君はやめてくれ……………………本当にやめてくれ」

「ん。了解した。僕は左京夢月で、こっちの人見知りしてる奴が東風谷という。

 綾小路、よろしくな」

「……別に人見知りしてるわけじゃないですよ」

「……ああ、よろしく」

「で、東風谷。今更だが、綾小路の横で餓鬼の如く焼きせんを食ってるのが櫛田だ」

「一言余計だっつうの。これが美味いのも逆にムカつく」

 

 櫛田はやさぐれてるような感じでバリ、ムシャと焼きせんを食ってたので、自分から名乗らないかもと思って東風谷に紹介したら、意外にも焼きせんを美味しいと返してきた。

 それを聞いて少しうれしくなった僕は、つい軽い宣伝みたいな事をしてしまった。

 

「だろう? コスパがよくてB級グルメの中でも野菜を使ったりもできるから、気をつけようと思えば栄養バランスさえ調整できるなかなかの一品だと僕は思ってる」

「あんた、ムカつくとも言ったのは聞こえなかった?」

「聞こえたけど、美味いとも言っただろう。自分が好きな物を褒められたら、普通嬉しくなるって」

「……はぁ。左京君と話してるとやっぱり調子狂うわ」

「普通……そういうものなのか」

 

 本人は調子狂うというが、櫛田はやっぱり適当な話題でも何かしら話させていると調子が戻ってくる感じがする。根っこがおしゃべりなのかもしれない。

 綾小路の方はよくわからない。会話の変なところに引っかかっているような印象はあるがそれだけに見える。でも、珍しく東風谷が警戒するのもわかる。僕も彼には不自然さを感じてしかたないし、既視感もある。だが、その疑問を口に出すのならなるべく二人の時の方がいい気もする。ゆえに、保留枠に入れとくのが無難だろう。

 でも綾小路に関してはアレな初対面のせいでこうなるのも仕方ない部分があるし、まずは前から考えていた東風谷がいる時に櫛田が来た偶然を有効利用しよう。

 

「とまぁ見ての通り、性格とか捻じ曲がりきって悪魔と見紛うほどの奴だけど自分に正直でもあるから、今みたいにぽろっと零す言葉は結構本音に近いんじゃないかと思う。東風谷と櫛田は相性が良さそうだったから、今回偶然紹介できてよかった」

「私ですか?」

「それ褒めてるつもりなの? 喧嘩なら買うわよ」

「褒めても喧嘩売ってもないよ。特に理由なんかないけど、愚痴を零しにくる櫛田の印象だとなんとなく東風谷と相性が良さそうだなぁ、と」

「……」

「なんとなく、ですか」

「ん。見込み違いだったらごめん。

―――っと、タイマーがなってるから日没だ。悪いけど、そろそろ月見したいから話はここまで。僕は約1時間後の19:30まであっちで月を見てるつもりだから、3人とも帰るんだったら気をつけてな。あと面倒だから忘れ物はないように」

 

 そして僕はいい加減月見に移行しよう。

 軽い注意と天体観測の準備のために動き出した時は、何故か再び静かになっていた櫛田と東風谷、ついでに綾小路も気にはなるが、日没になってしまった。屋上にいられる時間は限られているのだから、こちらを優先させてもらう。

 まぁ、前の月見でも天文部関係者4人で薀蓄以外ほぼ無言だったし、今回も特に問題は起きないだろう。

 

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