ようキャ   作:麿は星

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 曜日計算が間違ってたらすいません。



24、偶然

 

 5月24日。

 飛び入り参加2名の月見が終わって、1週間ほど過ぎた。

 最近の天文部の面々は勉強に精を出し、葛城や戸塚、櫛田も忙しいのかあれ以来姿を見ていない。ただ櫛田に関しては東風谷は時々櫛田と交流しているよう(会話に名前が出てくる)だし、中間テストまで1週間になったからそろそろエンジンをかけ始めているのかもしれない。

 

 綾小路だけは一度顔を出して、アーウィン教授のことに始まり、Sシステムや会長がどうとか過去問がこうとか今なにやっているんだとかビックウェーブに乗っているような勢いで聞いてきた。しかし何故僕に聞くのかわからない事が結構多かった。ただ意図は不明で面倒でもあったが、彼には借りがあるし隠すことでもなかったので思うことをそのまま答えたら、一応納得したような雰囲気で小さく頷かれた。正直、何に納得したのかまったくわからないのだが、四方ともそういう時があったりしたので気にしないことにした。

 ついでに去り際。

 

「用事がなくてもまた来てもいいか?」

「来てもいいけど、それなら入部してくれると助かる」

 

 と返したら、苦笑いを浮かべながら考えとくと言い残して去っていった。

 今の感じだと望みは薄そうだが、これでまだ入部手続きをしていない佐倉に続いて2人目の入部候補者になり、本当に入部してくれると佐倉と合わせて部員5名を達成できる。顧問の時ほど重要ではないが、達成できると部室と部費の申請が解禁されるので是非その気になってほしいものだ。

 

 またこの間、僕自身が日向ぼっこ以外では暇になったので、勉強で佐倉や東風谷がわからない部分を教えるだけでよく、そこそこ大きな自由時間ができたのは僥倖だろう。これを機にやりたいことを消化していこうかと考えている。

 ただその前に、各クラスの勉強会のせいか僕にとって不都合な事に図書館に人が多くなっていたので、雨の日に読む本や場所の調達が億劫になってきている事への対処も必要になった。

 これからもテストの度にこうなることが予想できるので、代わりにできそうな場所を僕より2年多く過ごしている会長にメールで質問したら、図書館の裏口のような場所にある図書資料室という場所を教えてもらえた。追加で説教臭い文言もあったのが余計だったものの、これでとりあえずこれから読み物や場所に困ることはないはずだ。

 

 この良好な状況を享受できている僕は、まずは前からやってみたいと思っていた自作流しそうめんを実行に移してみることにした。幸い、以前バイト先で竹林に生えているたけのこを収穫する仕事が入ったので、ついでに竹も5本ほど伐採させてもらい材料の準備はできているのだ。

 最近は昼休みに屋上や資料室を借りたりして、おにぎりを齧りながら、本体や支柱、カーブなどを設計したり、ウォータージャグから流れる水や流すそうめんの適切な勢いを計算しながらこつこつ加工したりと充実している。

 

 着々と出来上がっていく流しそうめん装置を見た佐倉や四方はテスト前になにやってるんだと最初は否定的だったものの、東風谷や先ほど挙げた綾小路は浪漫を解するようで、完成してもそうめんを流すのは中間テストの後にして絶対私(オレ)も呼んでくれと別々に頼んでくるほど気に入ったようだ。綾小路に至っては連絡先を渡してくる本気度である。

 

 正直面食らったが、そうめんを流す役をどうするか考えていなかったので交代要員の有力候補を確保できたのは棚から牡丹餅だ。勿論、了承して連絡先を交換したら、表情はほんの少ししか変わらないのに雰囲気がめっちゃ嬉しそうに変わって僕の下心ありな自覚を通して罪悪感を刺激してきた。

 だから日頃、彼女……櫛田を封印している苦労を労う意味も込めて当日は彼にも楽しんでもらおうと考え直し、交代要員には別の人員を充てようと思う。

 しかしまだ話をしたのは2回目だが、何気に綾小路の表情が僅かでも変化するのを初めて見た瞬間だった。

 

 

 

 5月の最終日は、みんなお待ちかねの中間テストだ。

 1日で5教科全てを終わらせて、週明けに結果発表するようだ。

 それにしても退学がかかっている割に、1日に全てを賭けさせるわ、救済措置は一つもないわ、結果を最下位まで張り出して晒し者にするわで、勉強が本当に苦手な奴には地獄のような制度である。

 蜘蛛の糸は、馬鹿にはやらんという意思表示だろうか。

 

 ただそれより僕としてはその次の日、テスト休みと言われている土曜日に月初めのPP支給が行われるのかが地味に気になっている。CPは今朝確認したところ690のままだったので6月の支給額に変動はなさそうだし、土曜支給があるかないかでPP銀行のようなものの有無やポイント関係の部署の動きなどがある程度判別できるのではないかと僅かに期待している。

 もしも支給日が6月3日の月曜日にずれ込むようであれば、十中八九専用部署による運用・保守と判別できるが……おそらくそうはならないだろう。以前に聞いた担任や会長の話からは、彼らでさえPP関連のシステム情報を伏せているのではなく完全には把握できていない節があったので、相当秘密厳守しているシステムに違いない。簡単に探れるような情報ではないだろう。

 

 ちなみに中間テスト自体に関しては、こんなどうでもいい他所事を考えている時点でお察しである。授業内容と多少ずれている部分はあったが、真剣に授業を受けた上に2度目の僕に死角は少ない。

 小テストと同じようになぜか少し古い問題の割合が多いとは感じたが、あそこまでおかしい構成でもなく強いて言えば決められている問題を出しているだけのような印象だ。もしかすると定期テストは授業と違って、学校や国から指定された問題を出さなければならないのだろうか?

 でもまぁ、これなら平均90点前後程度は取れるし、軽く勉強を見た東風谷や佐倉も苦手教科でさえ50点をきることはないと断言できる。クラスの勉強会にも参加した四方や柴田に至っては問題にもならないだろう。

 最後の英語を終わらせた時にそう確信した。

 

 そのまま時間が過ぎるのを待っていると、ようやく中間テストが終わった。

 今日はバイトがある為、早めに顔を出して仕事前にゆっくりとコーヒーを楽しむつもりなので忙しいのだ。

 

「んじゃ、四方、東風谷。僕はこれからバイトなんで、また来週」

「はい、また。ここしばらく歴史や古文を教えてくれてありがとうございました」

「どういたしまして。その様子だと問題なさそうだな」

「テストが終わったと思えば、バイトも入れてたのか。左京も好きだな」

「あそこのコーヒーは僕の生命維持飲料だからな。下手しなくても僕が淹れるものより美味いし」

 

 四方や東風谷には、僕がバイトに何を求めているかある程度話している。

 きつい日はいまだにちょこちょこあるが、やはり好きなものを好きに口にできるこのバイトは僕にとって最高の仕事場である。だからといって本格的に就職したいとか、いつぞやに誘われた仙人になろうとかは考えていないわけだが。

 

 それはともかく、二人に声だけかけて今日もいち早く教室を出る。

 早足で進む僕の後方で少し遅れて東風谷も出てきたのもチラッと見えたが、階段を降りるころには見えなくなっていた。おそらく違う方向から帰るのだろう。東風谷が屋上に来ない時に何をやっているか知らないが、彼女も僕に近い帰宅方式を採用しているのは気づいているのだ。

 

 

 

 校舎を出たくらいで早足は止め、意識して速度を落とす。

 稀にだがここら辺で佐倉が追いついて来ることがあるのだ。友達でイロモノだろうと、同級生の美少女と登下校する夢のシチュエーションを叶える機会を逃す手はない。故に自分でも馬鹿な事をしていると思いながらも、偶然を発生させる確率を上げようと無駄な非効率をしてしまうのだろう。これは僕も男である以上どうしようもないのである。

 そんな自嘲をしつつ歩く速度を上げることもせずにゆっくり歩いていると、前方から粘つくような視線を感じて思わずそっちを見てしまった。

 

 そいつは見覚えのない男だった。

 外見は、中肉中背で細めの目に作業着を着ていて普通なのだが、なんというか雰囲気が変なのだ。といってもお化けや神様、青娥さんの術のようなモノは感じない。おまけに僕の感覚は普通の人間だと教えてくれている。だからそういう意味では脅威ではない。

 しかし、嫉妬や憎しみを煮詰めたような目と、何かに対する執着心が保身を超えて溢れそうになっているとでもいえばいいだろうか。ただの勘でしかないが、注意していないと信号待ちしている時に車道に押し出されたり、バイト先に押しかけて火をつけてきたりしそうな危機感を覚える。

 

「左京君!」

 

 その時、離れた場所からタイミングが良いのか悪いのかわからない佐倉の声が響いた。

 今更ながら、このタイミングで僕に追いつくということは、佐倉も僕や東風谷と同じ帰宅形式なわけだがそれは今はいい。

 その声を聞いて僕は悪い夢から覚めたように我に返り、僕を見ていた男は身を翻して去っていっている。最後に佐倉の方を一瞥した男の目には不穏さしか感じなかった。

 僕が嫌な予感を感じて足を止めていると、佐倉が追いついてきていつもの内弁慶モードで少し不思議そうに疑問を口に出す。

 

「でも左京君が追いつくまで待ってくれるの珍しいね。いつもスタスタ進んで行っちゃうのに」

「……佐倉。なるべく首を動かさないように目だけで僕の右の角を見てくれないか?」

 

 そんな佐倉に、何事もなければいいという一縷の願いをこめて右方の確認を頼んでみる。

 

「どうしたの? あっちに何が―――ひっ!」

「すまん。配慮が足りなかった。佐倉は今日バイトないだろうけど、とりあえず青娥さんのところまで行くぞ。歩けるか?」

「う、うん。なんとか……」

 

 まぁ当然いるよな。あの雰囲気だったし。

 佐倉の怯えようから推測するに、かなりヤバい状況なのではないのだろうか?

 歩けるか? とは聞いたが、見るからに腰が引けている佐倉に入学直後の電器店よりも状況が悪そうな印象を覚える。万が一、今すぐ襲われたりしたら二人とも逃げることもままならないかもしれない。だって、僕も膝がカックンカックンいいそうになってるのを必死に堪えてるくらい怖いもの。目の前の佐倉は涙目になっているが、僕もきっと涙目だろう。

 物語の主人公とかは、なんでこんな状況で格好良くヒロインを助けたりできるんだろうとか、佐倉とついでに僕が惚れてもいいから今すぐヒーロー登場カモン! とか意味のない妄想が頭を通り過ぎていくが、状況は時間が経つほど悪化するかもしれない。

 

 まだ何もされていない現時点では、警察への通報はおそらく悪手になる。すぐに駆けつけてくれると思えるほど僕は楽天的じゃないし、あの男をかえって刺激することになって、この場はまだしも次が恐ろしい。

 暴力沙汰で頼りになりそうな連絡先は東風谷と綾小路、あとは会長くらいだが、東風谷はなけなしの矜持が完全粉砕される為除外。綾小路と会長は、本当に数回会ってメールしただけの浅い付き合いなので流石に巻き込めない。そもそも学校関係者はテスト終了直後で連絡に気づくのが遅れる可能性もある。

 

 ゆえに残る選択肢は青娥さんしかいない。

 あの仙人なら不思議パワーを借りようとしなければ。そして彼女の利益を出す考えを思いつければ、助けになってくれるはずだ。僕や佐倉とは別次元に存在するような仙人な上に、利益といっても金とかの即物的なものではないことがわかるだけに交渉も容易ではないが、青娥さんのテリトリーに逃げ込めば最低限一時の逃げ場にはなる。

 

―――よし。改めて目的地は喫茶・芳香で決まりだ。

 それはそれとして。

 

「佐倉、ちょっと聞きたいんだけどさ…………手、繋いでもいい? 正直、めっちゃ怖くて足がガクガクしててな」

「……別にいいけど、そこは左京君が見栄張ったりして格好良く決めるところなんじゃ? ちょっと正直すぎない?」

「見栄や演技で危機をどうにかできるなら、苦労なんてしないんだよ。本当に逃げることになっても、どっちかが置いてかれることもないナイスアイディアだろうが」

 

 というか手を繋がなかった場合、咄嗟の時に運動能力的にはおそらく佐倉を置いて逃げる事になる。まさかこの乳で俊足という可能性はないだろう。ちらりと同じくらいのサイズに見えるうちのクラスの学級委員長や女子が体育で爆走していたのが頭をよぎるが、佐倉はあんな例外には見えない。

 まぁ僕の邪念と矜持はともかく、友達を見捨てるとかありえない。更には佐倉を置いていった事に気づいたら、Uターンしてあの男と対峙するなどという愚行にまで発展する可能性すらあるのだ。

なにより僕はこんな話に時間を消費する気も、恐怖を誤魔化す良い手を我慢する気もない。一応の了承はあるのだから、さっさと強引でも手を繋いでしまってバイト先まで移動してしまおう。

 

「それになにより、佐倉が酷い目に遭うようなことになったら、悔やんでも悔やみきれん。いいなら…ほら。手を繋ぐぞ」

「あっ! わたしの……」

 

 恐怖を呆れが上回ったのか何か言いかけていた佐倉の手を繋ぎ、自分の恐怖による震えを誤魔化す。

 だが……うん。確かに手を繋いだことで恐怖はだいぶ薄れて、ペースを合わせる必要はあるが走れるようにはなった。しかし誤算もあった。

 なんか滅茶苦茶手が柔らかくて、物理的な距離も近づいたので佐倉の気配や匂いも強まってしまったのだ。おかげで思考があっちこっちへ散ってしまう。

 入学直後の時は初対面に加え、お化けの事に集中しすぎていてそれどころではなかったらしい事にようやく気づいた。

 

 僕は女子と手を繋ぐ事を甘く見ていたのだろう。

 よく考えたら、前の人生を含めても大学の時に一人と付き合ったことがあるだけのモテない君が、そこからざっと計算して20年以上ぶりくらいに手を繋いだのだ。それも前の緊急避難ではなく、恐怖はあるとはいえ多少の精神的余裕がある状態で。

 もはや佐倉を見る勇気はなくなっていた僕は、一応監視のつもりであの男を見て―――固まった。

 

 やべぇ、あいつの狙いは完璧に佐倉だった。

 これだけ離れてるのに佐倉への執着と僕への嫉妬……どころか憎しみすら感じる。まるで可視化されたオーラを纏っているかのようだ。相変わらず超常の力は感じないが、怖いものは怖い。

 僕は佐倉への恥ずかしさと執着男への恐怖でわけがわからなくなりながらも、どうにか再起動を果たして佐倉のペースに合わせながらバイト先へ急いだ。

 

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