ようキャ   作:麿は星

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 今回は、佐倉視点。
……正直、暑さと書き方にめっちゃ苦戦しました。問題や粗は結構あると思いますが、少しだけ見逃していただければ嬉しいです。

 ところで今更ですが。
 P=Perspective(視点)です。



P、佐倉愛里

 

 人と触れ合うのが苦手だ。

 人の目を見て話すのが苦手だ。

 人が集まっているところで過ごすのが苦手だ。

 いつからそれが苦手だったのかもう覚えていない。

 

 わたしはそれらが苦手だったから、一人で大丈夫。孤独でも大丈夫って、いつも自分に言い聞かせて仮面を被って生きていた。

 本当は心の底から、心を通わせる人がほしいと願っていたのに。

 どこでもいつも一人きりで……目を伏せながら人との関わりを拒絶していた。

 

 そんなわたしだったから、高校入学直後に友達ができて、その後もだんだんと自分の周りに人が増えてきていることが信じられない時がある。最近では友達の前で仮面がはがれている自分に気づいて吃驚する事すらあるのだ。

 頼りになって優しい青娥さん。いつも相談に乗ってくれる茜先輩。無口だけど寄り添って一緒に考えてくれる早苗さん。冷静におかしいところを突っ込む四方君。

 そして、このみんなとの縁を繋いでくれた左京君。

 二度も怯え震えながら必死で手を引っ張って助けてくれたのにも勿論感謝しているが、生徒会室でわたしを友達と言ってくれた事が特に今でも心に残っている。勿論、初めてのお月見で東風谷さんや四方君に紹介してくれたり、いなくなったら寂しいと真剣に伝えてきた事も、わたしにとっては大事な思い出だ。

 

 左京君は、基本的に格好良くなくて突飛で器用を装いながら不器用だ。でも不思議と大木に寄りかかって休む時のような無条件で受け入れてくれるような安心感と信頼も感じる。これはわたしや東風谷さん、四方君も共通して感じていたのを話していた時にわかった。

 わたしは人を拒絶し、東風谷さんは何かに絶望し、四方君は人と距離を置いている。

 そんなわたし達3人を、何も言わずに友達として受け入れて居場所を作ってくれた。

 東風谷さんが言っていたが、奇跡のような縁だと思う。

 

 わたしはそんな左京君に奇妙な魅力を感じている。

 2ヶ月くらい結構一緒にいたけど、彼は度々一人でいる姿を見かけてもわたしと違って孤独と感じない。逆にその在りように何処か惹きつけられてしまう。

 本来、人に話しかけることをしないわたしや東風谷さんが、自分から声をかけたくなってしまうのはこの独特な雰囲気も原因だろう。

 彼が何かすれば、それってどうなの? という言動が多いことをわかって近寄ってしまうのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「よし。起業しよう」

 

 何とか何事も起こらずに喫茶・芳香に着いて、わたしが付き纏われていた事や脅迫状の事を話して、芋づる式にグラビアアイドルをしている事まで知った左京君の第一声がこれだった。まるで意味がわからない。さっきまで確かに涙目で震えながらわたしの手を握っていたのに、もう堂々とわたしと青娥さんに言葉を放っている。

 これまで何度か見たが普段と同一人物とは思えない変わり身だ。でも面倒事を嫌う割りに、この変わりようだと逆に面倒事を引き寄せるのではないだろうか。改めて考えてみると面倒な性格だ。

 

 そんなことがふと頭をよぎる中、困惑しながら横を見てみると、そこでは面白いモノでも見るような珍しい青娥さんが左京君に応答していた。

 

「起業?」

「一つは警察対策です。警察が丁重に扱ってくれる職業の一つ、それが」

「メディア関係者ですわね」

「その通りです。アイドル単体では被害が出るまで動いてくれる確率は低いですが、こういう時に警察を動かしたりして守ってくれるのがプロダクション事務所のはず。ですが外と連絡も取れない現状では、佐倉の所属事務所にはどうすることもできない」

「つまり学校敷地内にプロダクションを行う会社を起業して佐倉さんを所属させ、わたくしや左京さんが役員として同行して警察を渋々でも動かして安全を確保するのですか?」

 

 一緒にいるとすぐわかることだが、彼には途中経過を省きすぎる悪癖があって、わたしも早苗さんや四方君でも付いていけるかは半々なのだ。

 今? やりたいことはなんとなくわかるけど、どうしてその案が出てきたのかが全くわからない。普通は、もっとこう、違う感じになるんじゃないだろうか?

 この悪癖、わたしが知る限りでは青娥さんだけが理解できている気がする。そして左京君話は話が通じる人がいると細かい説明は当然のごとくカットしてしまう。

 

「はい。まずストーカーの件を何とかする中心は僕と佐倉。それまでの安全は学校と友人達に頼って時間を稼ぎつつ、できるだけ証拠を集めます。青娥さんはまず法務局で登記を出してもらって佐倉の所属事務所との交渉をお願いします。適当でもいいのである程度の社会的肩書きを青娥さんとついでに僕に。警察を動かす時に、僅かでも説得力を上げられるかもしれません」

「……なるほど。でもこれは直近の問題を解決しつつ、長期的な一手も考えていますわね?」

「勿論。上手く軌道に乗せれば所属クラスにおける佐倉自身の問題を粗方吹き飛ばせる方向も狙える可能性があり、更には佐倉自身は当然として、青娥さんにも利益が生まれますよ。

 それに聞いた話ですが、佐倉関係の外部との交渉や撮影なんかも青娥さんが手伝っていたらしいじゃないですか。だから今月号の雑誌に佐倉がグラビアを飾れたと。ならこれまでにプラスαが付くだけで青娥さんには『あまり』損はないと思いますが」

 

 なんかわたしを置いてけぼりで、話がとんでもない事になっているような気がする。

 どうにか目立たない方向にしたくてどこかで話に入ろうとしているけど、二人が話している内容が頭にすんなり入ってこなくて割って入れない。それにどうも話していること以外にも何かありそうなのに、わたしにはそれがなにかわからない。

 

「……………………うふふふ。良いでしょう」

(まさか、このわたくしをこのように利用し、かつ利用されようとする人間が現れるとは。ストーカーごとき、今のわたくしの術でもどうとでもできると知っているだろうに)

 

 まごまごしていると、ついに何らかの承諾がなされてしまった。

 左京君と青娥さんは、わたしから見ると割と似たもの同士というか同類なので、二人共ノリノリになるとブレーキ役がいなくなるのだ。思えばわたしがバイトをすることになった経緯も、いつになくテンションが変になっていた時に二人のノリに乗せられたからだった。その後に続いたのが青娥さんとの面接、生徒会室での恐怖体験と茜先輩との出会いだったのもこの印象を強めているのだろう。

……最初の1週間で高校入学までに人と接しなかった分を一気に摂取した結果、オーバーフローを起こし茜先輩に助けてもらったのをまた思い出してしまった。

 

 遠く感じる過去を思い返している間に、左京君と青娥さんの話は詰めに入ってしまっていた。わたしが付き纏われていた事が中心だったはずなのに、いつの間にか話が明後日の方向へ行って、ふわふわ現実逃避をしている間に何処かに着地していたようだ。

 

「佐倉、社名は桜プロダクションでどうだろう? 佐倉の苗字と植物の桜を掛け合わせたなかなかの命名だと思うのだが、芸名の雫プロダクションや他の命名でも勿論かまわないぞ」

「佐倉さん関係の交渉は任せてくださいませ。何か要望があれば外に届けてきますわ」

 

 これはもうだめだ。逃げられない。

 左京君の笑顔を曇らせる事にも罪悪感を感じそうだが、特に青娥さんの笑顔がもう本当にやばい。あれははいとYESしか求めてない目だ。聞いてないとか、目立ちたくないから嫌とでも言おうものなら、青娥さんの怖い部分を見ることになりそう。いつも優しい青娥さんだけど、ネットアイドルをしている事がバレてから一緒に撮影してくれたりする時や、ふとした時に見せるこの壊れた笑顔と厳しさはもはやトラウマ物なのだ。

 

「さ、桜プロダクションがいいです。要望は今のところ思いつきません」

「なんで急に敬語?」

「さあ、何ででしょうね?

……ともかく交渉が順調に行けば、登記は桜プロダクションで所属タレント佐倉愛里、社長左京夢月、相談役霍青娥で出してきますわ」

「お願いします。こちらはこちらで進めておきますね」

 

 そう言って頭を下げる左京君がいつかみたいに真剣な顔になっていたので、わたしは制止の言葉も出せずについ見入ってしまった。

 話はよくわからない部分も多かったけど、左京君は絶対に裏切らない。

 それだけはわかる。

 そんな確信にも近い直感がある。

 

 本人も言っていたけど、左京君は間違いや勘違いも結構起こすし、知識はともかく頭は良くないのかもしれない。それに努力が嫌いだったり突飛な言動が日常的に頻発する欠点があったり、突出した能力もあるわけじゃない。

 それでも真剣になった左京君は誰かの為に動ける人だ。

 初めてあった時や4月最後の屋上。それに授業で四方君が無理していた時に東風谷さんに万が一の場合の救助を真剣に頼んできた事もあったそうだ。自分の力が及ばないと判断したら、友達や他の誰かに頼ることも躊躇わないのだろう。

 そしてやり方はどうあれ、本当になんとかしてしまうのだ。

 その誰かや友達の為に。

 左京君にはそんな不思議と信じたくなる雰囲気があった。

 

「でも一応、最終確認だ。佐倉、この話に乗ってくれるか?」

 

 だから目立つかもしれなかったり青娥さんの事を抜いても、もうその最終確認を断る選択肢はわたしにはなかった。

 

「左京君、青娥さん。宜しくお願いします」

「お任せくださいまし」

「これは僕や青娥さんじゃなくて、佐倉の踏ん張りどころだぞ。でもまぁ、できることは何とかするさ」

 

 あくまでも自信満々に飄々と、しかしその態度はわたしの事を考えてだとわかるから。

 左京君のその在り方はとても眩しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしは人と触れ合うのが苦手だった。

 わたしは人の目を見て話すのが苦手だった。

 わたしは人が集まっているところで過ごすのが苦手だった。

 本当は心の底から心を通わせる人がほしかったのに、いつも一人きりで目を伏せながら人との関わりを拒絶しているだけだった。

 

 これまでずっとそうだったけど、左京君に引っ張られて少しだけ変われたと思う。

 ただこれだけは自信を持って言える。

 左京君達はわたしの大切な友達だ。

 まだ心を通わせることができているとまでは思ってないけど、その入り口への第一歩はようやく踏み出せたんじゃないかな。

 今はそう思えるようになった。

 

 だからわたしはわたしに出来ることをやると決意した。大切な友達みんなに恥ずかしくない自分になる為に。

 





 佐倉 愛里(さくら あいり)。
 よう実原作のDクラスの女子。
 本作では、基本的には引っ込み思案で大人しい眼鏡女子だが、親しみを感じている者にはつっこみを入れたりする。左京を含めた友人達と、青娥と橘茜という目上の相談相手が早期にできたことで、心の負担が原作よりかなり軽減されている為に明るい部分もそれなりに表出している。また東風谷・四方との相性も良く、特に東風谷に可愛がられている。

 カメラ全般に興味があり、入学早々に買ったデジカメと喫茶・芳香にあったフィルムカメラ、スマホのカメラまで、使える状況なら何でもすぐ使いたがる。またスマホで自撮りした画像や動画などをアップしてフリーのネットアイドルをやっていたが、最初の面接で青娥にそれがバレ、ストーカーの件で左京にも話した事で助力を得て、外部との連絡禁止事項に抵触しないように模索しながらアイドル業を継続することになった。
 ちなみに左京はいくつか勘違いしていて青娥はわかって遊んでいるが、ネットアイドル雫は元々事務所に所属してなかったりする設定だったり。

 能力としては、本来の容姿以外では左京・青娥・橘との交流により、観察力や精神力が高めになっている。初期から東風谷と普通に話せたのは、天生の霊的資質に加えて、この交流から生まれた精神的余裕の影響も大きかったり。ただ左京ほどではなくとも努力を嫌う特性を持つ為、学力・身体能力の向上はあまりない。
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