ようキャ   作:麿は星

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27、先行投資

 

 まぁ流石に、僕は本来の目的まで忘れるほど真性のボケではない。

 これは口に出さないようにわざと目的を忘れることで、脳内に容量と言葉を生み出す我流テクニックの一つである(嘘)。

 

「さて、左京。負ける覚悟はできたな?」

「ふっ、葛城。我は王者ぞ? 負けるわけがない。

 それにもしも僕が負けたとしても、第二第三の僕が必ずや雪辱を果たすだろう。第二の僕は四方に、第三の僕は綾小路に代役を頼んだ上でな。故に最終的な僕の勝ちは揺らがない。

 言うなれば受け継がれる意思。時代のうねり。人の夢。

 これらと同じく止めることができない流れなのだ」

「それはもはや左京ではないだろう」

「おまえ……葛城さんにもだけど、四方や綾小路とかいう友達をあんだけ煽っておきながら……なんて奴だ」

「ワンピースの台詞って、やっぱ色々言葉を繋げ易いよな」

「で、こいつは何を言ってるんだ?」

「なんか勝手に第三左京の代役にされてる事に物申したいんだが」

 

 まずは開戦直前に葛城が挑発してきたので、とある魔王と某海賊王の台詞を合成・改変して演出しながら、さり気なく綾小路と四方を代役に抜擢して注目を減らす誘導をしてみる。

 結果はそう誘導したとはいえ、みんな面白いようにだいたい想定通りの行動を取ってくれてありがたく、またノリもいいことがわかった。特に戸塚の発言を狙っていたので、これが出た以上目的の半分は達成できた。

 なんか意外と本気でとられていて誰もわかってなさそうな気もしているが、おそらく大丈夫だろう。気づいてくれるか、もしくはわかった奴が後でフォローしてくれるはずである。

 

 個人的に、綾小路への警戒の流れになってしまった時に危惧していたのは、綾小路もしくは四方と僕自身が対戦することだった。そうなってしまうと誰が勝っても、僕や四方はともかく綾小路の居心地が悪くなる可能性があり、手伝ってくれた恩を仇で返す事になりかねない。

 だから煽って僕に注意を集め、注目されていた二人を話の外に置いた後に警戒対象を有耶無耶にしたということだ。

 

 こんな面倒な気遣いをリーダーというか集団の纏め役は、友達でなくてもいつもやっているのだから頭が下がる。今回は僕が集めた面子なので自分でやったが、出来る限りやりたくないものだ。

 まぁ煽るのをノリノリで楽しんでいたのは否定はしないが。

 

 警戒を分散させる目的の対戦相手候補としては、能力と性格的に本命になる葛城、対抗神崎、ダークホース柴田、大穴戸塚と見ていたが、やはり葛城は真っ直ぐな男である。乗ってきた(いや乗ってくれたのかもしれないが)その上で、勝ち負けによるリスクも賞品もなにも決めていないのだ。

 

 神崎や柴田が乗ってきた場合だと注意を集める為には盤外戦術メインになっただろうし、未知数な戸塚が葛城の手を借りたりして挑んでくるなら多分状況は読めなくなっていた。どちらにしろ変な方向に話が転がる可能性は高かったので、素直に挑発に乗ってくれてありがたかったのである。

 

 およそ想定していた中でこの理想的な流れにできたのには、葛城の存在が大きい。悪意が薄く真っ直ぐな葛城以外が乗るのでは、この結果にすることは難しかったはずだ。

 ともかくこの勝負自体に意味があったので、もう勝とうが負けようがどちらでもよく目的もほぼ達成できた。あとは難しい事を考えずにお互いに全力を尽くして遊ぶだけである。

 だから。

 

「葛城、ありがとう」

「いきなりなんだ?」

「礼の副賞として、このゲームで葛城の弱点を教えてやろう」

「……油断はしない」

 

 見かけによらずお人よしで、いつも義理堅い葛城の間接的な助力に感謝を。

 

 

 

 将棋が始まって先手の葛城が採った戦法は堅実で慎重な性格通り、穴熊。それに対し、僕は基本的には桂馬とと金を多用した波状攻撃、決め手の駒はなるべく動かさずに機を待つ戦法。

 これが上手く嵌り、攻撃の隙にできる浮き駒を取りつつ丁寧に一枚ずつ葛城の防壁を剥がして、ついでに手駒を回収できた。そして防壁の穴に意識がいった瞬間を見逃さず、馬と銀、葛城自身が築いた防壁で逃げ場を塞いだ。

 

「葛城、お前が意思を貫きたいならそうすればいい。僕も手伝える時はそうしよう。ただ───勝つのは必ずしも正しい方ではないって覚えておけ」

 

 最後はあえて遠回りな助言しつつ、布石も使って一気に連続王手まで持っていき投了である。

 

「……ありません」

「対戦、ありがとうございました」

 

 結果からいえば僕の勝ちではあるが、途中の攻撃の切れ目で攻勢をかけられていたら普通に負けていたと思う。基本性能というか頭脳はあちらの方が上と思われるので、常に主導権を握り続けて葛城と相性の悪い戦法と苦手な攻勢が勝敗を分ける流れにしなければ、辛勝・惜敗どころか惨敗だったに違いない。

 

 教えるとまで宣言しておきながらそれでは格好悪すぎるから勝てたのは良かったのだが、ずっと綱渡りしているかのような気分だった。この上、もし勝負で何かを賭けていたら、遊びなのに冷や汗びっちょりだったかもしれない。

 

「もうわかってるかもしれないが、葛城の弱点はこれだ。思考が防御に偏りすぎているから、好機に適切な手が打てない事があるんだ。上手くその状況にできるか不安だったけど、なんとか結果で示せて良かった」

 

 潔く敗北を宣言した葛城や他の面子を見た感じ、もう煽ったり気遣ったりしなくていい状況っぽいので、最後に葛城に指摘だけしていつもの自分へと切り替える。

 

「さて。みんな今日は手伝ってくれて本当にありがとう。

 遅くはなったが、ここは僕の奢りだ。好きな物を頼んでくれ」

「お前、勝負の前と後で態度違いすぎじゃね!?」

「途中からおかしいとは思っていたが……やはりか」

「左京はいきなり変わりすぎなんだよ。しかも何がスイッチなのかわからないし……」

「……」

「ちょっと楽しかったけど、あんな疲れる状態でいつまでもいられるか。現実とゲームの違いをしっかり認識しろ」

 

 騒ぐ奴、納得気味な奴、文句言ってる奴、困惑してる奴、気にせず注文しようとしてる奴とこの場には色々いるが、まさか僕が我とか王者とか自称する人間に見えていた奴がいたのだろうか? 他はどうでもいいが、中二発言を本気だったと思われるのは流石にアレだと一瞬思ったが、弁解の面倒さが僕の中で軽く上回ったので結局スルーすることにした。

 

「ああ、そういえば頼んだ物が届くまでにそれぞれの調査結果をくれ。報酬は払える奴には今すぐ送るわ。ただ報酬は綾小路、葛城、戸塚、神崎の先着順に払っていくから、所持PPの関係上、悪いが神崎には少し待ってもらう事になる」

 

 代わりにやるべきことは、また忘れないうちにさっさと済ませておこう。

 まずそれぞれの紹介を済ませたら、手早く綾小路と葛城・戸塚に5万PPずつ振り込み、ここの支払い分を残しておく。もし足りなかったら……こっそり四方か柴田に借りよう。

……正直、大判振る舞いしすぎたんじゃないかと少し後悔してる。せめて3万にしておけば神崎と一之瀬まで払いきれたのだが、こんなに手伝ってくれる人がいると考えてなかったのだ。

 

「まだ頼まれた事も終わってないのに、本当に貰っていいのか?」

「左京の方は大丈夫なのか?」

「細かい事は気にせず受け取ってくれ。生活する分には問題ない。

それにしばらくはPPを使うような事もないはずだ。流しそうめんも準備自体は整ってるしな」

 

 綾小路や葛城はそう聞いてくれたし、少しは後悔もしているが、趣味や遊びに多少制限ができるだけで本当に問題ないと思っている。これまでで必要最低限の道具は揃えたので、生活ができればいいのだ。

 そう思っていたら、考え込んでいた戸塚が口を開いたことで予想外の方向に流れが変わった。

 

「……なぁ左京。葛城さんはともかく、今回俺はたいしたことできてないし、やっぱりポイント返すよ。代わりにバスでの借りを返したって事にしといてくれ」

「そうしてくれるとこっちとしてはありがたいけど、戸塚はいいのか?」

「ふむ。それなら俺の取り分から戸塚に半分渡せば八方丸く収まるな。

 左京は後先と自分の事を考えないのが弱点だぞ? ポイント支給日にPPを使い切っては、友人として心配にもなる」

「葛城さん……。

 そうだぞ、左京。俺も葛城さんもAクラスでPPには余裕があるんだ。下位クラスの友達から搾り取るような真似できるかよ」

「はは、これは一本取られたなぁ。

……わかった。ありがとう。何かあったら言ってくれ。今度は僕が借りを必ず返す」

「フッ、俺も将棋の借りを返させてもらう。次の機会を楽しみにしているぞ」

 

 葛城の言葉と戸塚から返ってきた5万PPを見ながら、僕は二人をまた少しだけ理解できたような気がした。

 この二人の性質はどちらかというと四方に近い。ということは困る事があるなら、対人・学校関係の搦め手か裏技気味な何かの可能性が高いだろう。

 僕は、その時が来るのならできる限り助けに入ることを今決めた。

 

 

 

「オレも「綾小路は絶対に全額貰ってくれ」……せめて最後まで言わせてくれ」

「却下。

 綾小路はDクラスのPP・CP事情という足元を見た報酬を提示して巻き込んだんだから、余裕があるとわかっている葛城達とは事情が違う。入手機会が少ないんだから、貰える物は貰える時に貰っておけって。この学校での金……PPの有用性に綾小路ならもう気づいているだろう?」

 

 葛城達の話に一段落ついた時、話していた最後の一人である綾小路が何か言い出しそうな雰囲気だったので、口を出した瞬間に遮る形でぶった切った。

 僕の言った事があっているかはわからない。だが小さい弱みを突いて報酬で釣り上げたのに、その報酬を無くしたり減らすなどあってはならない。これは僕の矜持の問題であり、佐倉と同クラスである点からこれからの付き合いが予想できる為、先行投資の意味合いもあるのだ。

 

「PPの有用性?」

「わかってて惚けるのも相手によっては意味ないから、それもなるべくやめてくれると助かる。イラッとする奴もいるだろうし、無駄に警戒されて損したりするぞ」

 

 これは勝手に想像した東風谷の警戒理由だが、今日も一歩間違えたら四方や他にも第一の警戒対象にされていたかもしれないので、軽い忠告と僕なりの助言を伝えておく。

 おせっかいかもしれないが、彼にだけは確実に物心両面の先行投資しておいた方がいい気がしているのだ。佐倉の件もだが、四方と競るような奴が巡り巡って敵に回るなんてことになれば目も当てられない。恩も借りもできた強者感ある人物には、出来る限り友好的にいきたいのである。

 故に僅かでも彼からの信用を損なうことは、自分の首を絞める事になるだろう。

 

「警戒されるのは……嫌だな」

「だろう? まぁアレな初対面だったから僕にはそうなっても仕方ないが、伏せるモノはできるだけ少なくしておいた方が、結果的には楽に生きられる。これが平穏に生きる為の秘訣……かもしれない」

「最後に詰まったのは何なんだ」

「いや今更だけど、隠し事も特殊っぽい奴も多い学校にいる時点で平穏から遠くなってるんじゃ? とか考えたらちょっと自信がなくなったというか……」

「ああ……確かに…………な」

 

 うんまぁ……余計な事に気づいちゃったよね。速やかに忘却しよう。

 

 

 

 綾小路の納得とともに思わず二人で遠い目になってしまったが、まだ言うことは残っていたので何とか切り替えて、大人しく観察?に徹していた神崎へ話しかける。

 

「それからさっきも少し触れたが、神崎とここにはいない一之瀬は10日まで待ってくれ。どちらにしろクラス貯金を差っ引くと5万が残らない」

「「クラス貯金?」」

「それはかまわない。俺も、おそらく一之瀬も遠慮するつもりではあったからな。

……が、この場でクラス貯金のことを口に出すのはどうなんだ?」

 

 神崎は僕の支払い先延ばしについては快く了承してくれたが、クラス貯金を他に知らせたくなかったようで問い詰めてきた。ただこれに関しては、僕だけじゃなく四方や柴田も隠すつもりがなかったらしく、先んじて反論やBクラス以外の面子に説明などを始めてしまった。

 

「いいんじゃないか? ここにいるのはライバルではあっても敵じゃないだろ。知られても害はないって信用した方が建設的だ」

「ああクラス貯金ってのは、万が一の時に備えてうちはPPを集めてるんだけど、それのことな?」

「僕は隠す事でもないと思ってたからだけどな。

 でも葛城達も綾小路も、口止めするわけじゃないけど無駄に広めることは止めてくれよ」

「……はぁ。この暴れ馬どもを俺一人で制御できるわけもないか」

「お前も苦労してるんだな」

「安心してくれ神崎。俺も弥彦もなるべく口外はしないと約束しよう」

「葛城さんが言うなら俺は従います!」

 

 一部問題もあったが、これで今日集まってくれた者達にするべき事はほとんど終わった。

 最後、情報を秘匿しようとしていただろう神崎が四方と柴田にバラされて少し可哀想な事になっていたが、一応の口止めはしたし、四方の言うように真似したり応用してくれたらそれはそれで有益な結果が出そうなので多分問題ではないだろう。

 それに綾小路や葛城・戸塚が、神崎と話すきっかけにもなったようで何よりである。

 

 その時、ちょうどそれぞれの頼んだ料理が届き始めたので、柴田が真っ先に飛びついて笑いを取っていた。

 地味に、解散まで少なくとも表面上は終始穏やかに交流できたのは、クラス屈指の陽キャであるムードメイカーの柴田がいた影響もあったのだろう。

 自分の報酬にも言及しなかったし、こういう奴だとわかっていたから借り1にしておいた僕の判断は間違いないと確信した。

 柴田がいなければ、苦肉の策でこのポジションを櫛田に頼み込もうとしていただけに安心感が桁違いである。ムードメイカー適正はあれど、櫛田のあの承認欲求に素直な性格は、確実にこの場の何人かから顰蹙を買ったに違いない。

 

 

 

 その後、僕はみんなと寮前で別れながら、助力に来てくれた友達に改めて感謝し―――次々と増えるスマホの受信を知らせる通知を見て、気合を入れなおした。

 

 降りかかる火の粉を、火事どころか焚き火になる前に消火してやる。

 

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