???視点。
今回は、EX=Extra(番外)です。
注意:よう実要素が極端に少ないです。一応、ある程度の伏線はこれまでに書いてありますが、この話わけわかんねぇ、いらねぇって人はスルーしてください。見なくても本編にはあまり影響ないはずです。
最近、出張続きなので、感覚や設定を忘れない目的で書きました。
早苗視点と違って、何故か書く気になって実際に書上げてしまったので、折角なので投稿します。よう実の原作1巻部分ラスト付近のオマケ、って感じで見ていただけると幸いです。
さんきゅっぱ。
違う言い方で、39800円。
これが何の値段かお分かりになるでしょうか?
わからないんだろうな、って確信しています。
……これは私に付けられていた値段らしいです。
私は、売り物でした。
記憶もほとんどない子猫時代に売られていた値段がさんきゅっぱ。
今にして思うと、なんできりの良い4万でも3万5千でもなく、さんきゅっぱだったのかわかる気がします。
なぜならその頃の私には、聞きわけがない特徴と脱走癖があったからです。
だから少しでもお得感が出るこの値段だったのでしょう。
でもある時、そんな私を買う人が現れました。
理由はお得で珍しいから。
私はほとんど全身真っ白なのに尻尾の先だけ黒かった特徴があるので、珍しいといえば珍しかったのでしょう。
聞きわけがなく脱走癖がある猫でも、そんな理由で買われることもあるようです。
でも私はそのおかげで、飼い猫としてほんの少しだけ暮らすことができました。
記憶には残っていませんが、多分幸せな時間だったのでしょう。
それからの―――捨てられてからの日々を考えれば、ですが。
ペットを飼い続けるのは結構なお金が必要です。
お得さと物珍しさから私を買うような人や家族では、物珍しさがなくなってしまえば追加でお金を出してまで私を育ててくれるわけがありません。
だから私は当然のようにすぐ捨てられました。
その人の顔すら記憶に残らない早さで。
端的に言えば、巡り合わせが悪かった。
ただそれだけの話でしょう。
そんな『私』の最初の記憶は、いつの間にか見たこともない林にいて、誰かもわからない誰かをずっと待っているところから始まりました。
勿論、生きている間に誰かが来ることはありませんでしたが……。
私の横に置かれていた僅かな食べ物が尽きる頃、ようやく私は捨てられた事に気づきました。
ですが、なんとか猫なりに回らない頭で状況を理解してからが本当の始まりでした。
当時の私の体に比して大きかった箱に、捨てられて薄汚れたほぼ白一色の猫。
そんな状況でしたが、最初の頃はまだ希望を持っていたような覚えがあります。
誰かが拾ってくれる……とまでは思えずとも、何とかなるさ、今を耐えればきっと、と誰かを待ち続けながら鳴いていました。
それはだんだん無駄な事だとわかってきていましたが、やめられませんでした。
不幸中の幸いか、ただの偶然か、あるいは捨てた人の最後の良心か。
私がいた場所は天敵がいない場所のようでした。
しかしどういう理由かはともかく。
安全ではありましたが、逆に言えば保護してくれたり拾ってくれる人も現れない場所です。
つまり現れるモノは、私の食べ物になる虫と捕まえられない鳥くらいでした。
そんな日々がずっと続きました。
虫にも鳥にも見つけたら飛び掛ってみるのですが、私はペットショップ育ちの元飼い猫。
鳥は一度も捕まえられず、小さい虫ですら簡単にいきません。
それでも私は生きる意思だけは失くしませんでした。
狩りのやり方を考えたり、獲物の動きを覚えたりして、必死に生きていました。
どのくらいあの生活をしたでしょう。
少ししか経っていないような気もします。
とても長い時間だったような気もします。
私は寒さに気をとられた隙に前足を鳥に突かれたせいで、上手く動けなくなっていました。
血は止まっていますが、体中が痛くて虫すらまともに捕れません。これだけ寒くなってくると、地面を掘るとかしなければ虫が見つからないのです。
ここでペットショップや元飼い主を恨んだりすれば、物語のようになんか不思議な展開になるかも。とか現実逃避気味にそんな意味のない妄想すら浮かんでいました。
でも……そんなことは考えはしても実行しようとも思わないし、思えませんでした。
ただ、この苦しみから早く解放されたかった。
それだけです。
恐怖よりも恨みよりも理不尽さよりも、苦痛の割合が圧倒的大差で勝っていました。
私を捨てた人のことなど考える余裕もありませんでした。
この時期は、ひたすらに苦痛と戦っていた事しか記憶にありません。
後から思い返しても、この時はただ辛く苦しかっただけで、『私』が少しずつ消えていくような時間でした。
そんな時間も、だんだん暗くなっていく視界と共にある意味では終わりを告げていました。
次に意識が浮上した時、私は死んだと確信していました。
真っ暗闇の中では実はそれさえもはっきりわかっていませんでしたが、温かい何かに包まれて揺られている感覚はあったのです。なので、死んだと思っても無理はないでしょう。
だからこうして意識を取り戻しても目を開けるのは怖かったのですが、いつまでもそうしているわけにはいきません。
思い切って目を開けてみると、そこはまたしても知らない場所でした。
微かに残る飼い猫だった時に感じた暖かな空間。柔らかなクッション。時折揺れますが、現実でも何かに包まれているようです。
でも気づいても体はまだ上手く動かせないくらい重かったです。
「あっ、起きた! 星兄さん、父さん、母さん! やっぱりまだ生きてるよ!」
私が目を開けると、人の子供でしょうか。
慣れない手つきでクッションごと私を包んでくれていたのは、この子だったようです。不思議と明瞭に聞こえる声が、なんとなくすごく嬉しかったのを覚えています。
その子は振動の中で少しでもそれを私に伝えまいと、片手に手すりを掴んで、もう片手で優しく私を包んでいました。
「変な感じしてたから、つい持ち帰っちゃったんだ」
私がその子を見つめていたからでしょうか。
この言葉は私に向かって言い放たれたようです。
最初は何の事かわかりませんでしたが、その子が言うには私は変な感じがするとのことでした。そう言われてみれば(この時はこの子だけでしたが)話もわかるし、いつからか尻尾もなくなっています。
でもこの時は、言葉が通じる人がいることも理解できなければ、状況も理解できずに混乱してしまいました。私を受け入れ理解できる者など、何処にもいないと既に諦めていましたから……。
それに加えて、誰とも会話どころか交流すらしなかった生活を長くしていましたから、言葉を理解している自分すらとてつもなく気味悪かったのです。
この子は誰?
何が起きたの?
混乱し怯える当時の私に拙いと思ったのか、私を手で包んでいる子供は謝り、もう少し落ち着いてから話をしようと提案してきました。
「ごめん。起き抜けに、いきなりすぎたかも。
でも大丈夫、ここは多分安全だから話はもう少し休んでからにしよ」
「お~い、月~。多分はないんじゃない?」
「そうだぞ。父さん、ちゃんと安全運転で帰るからな」
逆らう体力も気力もなかったのもありましたが、多分体力や気力があっても私は言われたとおりに休もうとしたでしょう。それほど逆らいがたい誘惑だったのです。
ただ休む為に目を閉じると、色んな感情が混ざって何かわけがわからなくなりました。
「おっと、忘れてた。僕は左京夢月。よろしくな、小さな神様」
その当時からしばらくは、本当に混乱していたのでほとんど記憶から抜け落ちてしまいましたが、少しだけ覚えているのはその子の自己紹介と。
―――ただの猫だった頃には想像もできなかった安心感に包まれて眠る幸せでした。
その後の私は、その子、夢月の家と近所の神社で何故か小さな守り神として過ごすことになります。
拾ってくれた夢月は勿論、ばあちゃん・父さん・母さん・星兄さんもみんな私を可愛がってくれました。
いろんなものをくれたり、教えてくれたり、逆に教えたり、時々変なお化けに追われている夢月を守ったり。
私の尻尾が無くなって、夢月限定とはいえ話せるようになったり、神様になったりした事が気にならないと言ったら嘘になります。
でも夢月に相談して、わからなければわからないままでもいいんじゃね? と軽く言われて以来、なんだか馬鹿馬鹿しくなって悩むのを止めてしまってからは、吹っ切れて毎日が楽しかったです。
そして楽しかった中でも、一際心に残っている夢月の言葉があります。
「なんか気が合う奴がいる気がした。そんで拾ってから一緒に話したら実際に気が合った。
やっぱこれが一番の理由かな」
これは何で私を拾うことになったのかと聞いた時に返ってきました。
なんだ結構適当じゃん、って思う人がいるかもしれません。もしかしたら、気が合わなかったらどうしてたんだよ、ひどくね? って思う人もいるかもしれません。
でも、私にはその言葉が今も心に残っています。
そんな勘のような不確かなモノを頼りに、わざわざ消えかけている不審な猫のところまで来てくれる人なんて、今まで夢月以外に見たことがありません。
夢月は、私を値札についた値段じゃなくて、神としてですらなくて、ただ友達として見てくれたのです。それも優しさや慈愛といった正の要素だけでなく、負の要素も含めてです。
その上で、私に価値を、家族を、居場所を、友達までくれました。
言葉を聞いた直後は、神様になっていた影響か初めて涙が零れてしまうくらいの衝撃でした。
そうそう、正式に名前が決まったのもそのくらいの時期だったと思います。
小学校帰りの夢月と話すようになった時に名前を聞かれて、つい不思議と忘れられなかった『さんきゅっぱ』と答えてしまいました。でもそのままじゃああんまりにもアレだということで、398=サクヤという事に。
尤も、夢月や他の家族も小さな神様やヒメちゃんと呼んで、あまりサクヤとは呼ばれませんでしたが。
私が守り神の生活に慣れてかなり経った頃に、夢月が高校生になって家を出て行きました。家を出る直前に、高校を卒業したら少しだけお金を貯めて一緒に旅をしようと約束したので、絶対に見守って旅をしようと決意しました。
全寮制で3年間外との連絡ができなくなる特殊な学校のようですが、私には関係ありません。私ができる最大限の加護をかけたおかげで、分霊のように使える事もプラスに働きました。
今は少しだけ、時々、結構、毎日のようにその分霊を通して様子を見にも行ってはいますが、神としての力が弱すぎていざという時にも私は何もできません。本当にただ見守っているだけなのが歯がゆいです。
邪悪な存在と宴会したり契約しそうになっていた時は、何度も気づいてくれるように頑張りました。が、結局は夢月自身で見抜いて解決し、落とし処を見つけていつの間にかバイト先にしていました。何もできなかったこともさることながら、邪悪な存在とわかっているのに、どうしてそうなったのかわけがわかりません。
夢月がプールで溺れそうになった時は、何故かその場にいた二柱の神に必死で頼み込むことで事なきを得ましたが、私は何もできませんでした。おまけにその後、面倒な頼みごとまでされてしまいました。
その他にも、今もなんとか走り回っている夢月の手助けしたいのですが、私は相変わらず何もできていません。
でも夢月のことですから、心配いらないような気もしています。
あの子は、何者にも縛られないだけの素養があり、保身も人事を尽くすのも天命を待つのも得意な子ですからね。やる時には、周りを巻き込んでも何を利用しようともやり遂げられます。
───これで実は説明できてないようなら一族の恥で……こんにちわ、僕が一族の恥みたいです。
───理事長、お子さんの学校生活が健やかだといいですね
───大丈夫、必死なだけで僕はただの凡人ですから。
ほら、お偉い人間達を無自覚に脅し?て学校を動かしましたよ。
息をするように脅してるあたり、夢月もけして良き存在なわけじゃないことがわかります。今度は知らないとはいえ、娘が盗撮された写真を見ている理事長の前で、暗にそちらに狙いを誘導するようなことを目の前で言い放ちましたしね。
娘思いの父としては、あんな情報や写真を送られた時点で動かざるを得なかったのに、ああ言われたら逆に夢月が仕込んだわけではないと察するしかなくて、理事長も担任も苦笑しているじゃないですか。あ~あ。結構親身に説教されてるのに、あれは聞き流してますね。
今回も夢月はほとんど自力で何とかしてしまいましたが、できるなら直接助けになりたいですよ。
……おそらく私が消えてしまう覚悟を決めれば、神の力を振り絞れば……一度だけなら助けにはなれるでしょう。
ただ私自身の事なのに、私だけではその覚悟を決めきれないだけなのです。
これに関しては、プールで夢月を助けてくれた神達にもそれだけはやめろと止められています。
知ることがあれば、きっと夢月も止めるし怒るし悲しむでしょう。
こんなにも不自由を感じたのは、ペットショップでケージに閉じ込められていた過去にすらなかったことです。
でも……その不自由が嬉しかったりもするのですよ。
だから、このとても幸せな不自由を壊さないでください。
壊そうとするのなら、祟り神になってでも貴女を滅ぼします。
―――という妄想の話でした。
ですが……もしも夢月を害するというのなら、この妄想を実現させる用意があることだけは覚えておいて貰いたいですね……邪仙・霍青娥。
私はサクヤ。
夢月の小さな神様です。
夢月が本気で私に願うなら、私は願いを叶えるでしょう。
例えそれで、消えてしまうのだとしても……。
それが神という存在の役目だと、私の中の神様が教えてくれるのです。
小さく弱いからといって舐めないほうがいいですよ。
私を理解できる者など、夢月以外───誰もいない。
貴女の『時間』は私のもの。
ゆめゆめそれを忘れないことですね。
この『サクヤ』の正体については読んだ方のご想像にお任せします。
知ってる方は、とあるメイド長やどこぞの某姫、あるいはコノハナサクヤヒメなど、個人個人でいくつか連想するでしょうが、私から確定することはありません。