ようキャ   作:麿は星

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 これにて、よう実1巻部分の終了です。
 結構削ったつもりなのに変に長く遅くなってしまいました。



30、凡人

 

 面倒事が大体解消できたその日には、告知どおり採点が終わっており、定期テストの結果発表もあった。

 確認を終えた僕と佐倉は、それぞれの担任に雑用を頼まれた、という体で職員室経由で荷物を持って教室に戻ることになった。

 これは担任から出た提案だったが、こういう流れのほうが自然だし、佐倉がアイドルであることをなるべく秘密のままにしておきたかった僕と、おそらく佐倉自身にも渡りに舟だっただろう。

 

 今のところ、ストーカーの件を関係者以外には知られていないし、協力してくれる際に口止めも頼んでいる。そして直接的な脅威が去った以上、他に知らせることもない。

 更にアイドルであることは、盗撮被害者をわざと増やして美少女達の影に隠した上で、四方や東風谷にも口止めしておいたから、本人含めた天文部関係者4人と青娥さんしか知らないはずだ。

 

 学校は知っているかもしれないが、佐倉のあの特徴的なピンク髪が写真や動画にしか反映されない事までは至れないだろう。

 どう見えているかは、四方にピンク髪佐倉の写真で説明した時に驚いていた反応で概ね判断できている。おおっぴらに撮影会したりアホな暴露をしない限り、アイドル業を続けてもこれから露見する可能性は低い。気づかれるとすれば、起業関連からになるはずだ。

 

 懸念としては、素顔と隠しきれない乳くらいだが、こちらは佐倉自身で気をつけているっぽいし、内弁慶気質による人付き合い悪さもあるので多分問題ないはず。早々に次の人外や変質者に狙われることなどないと信じたい。

……うん。後で、しばらくはできるだけ東風谷に一緒にいてもらえるように頼んでおこう。

 ここまでして、もし一難去って安心した所で新たな一難に見舞われたら、佐倉には変質者ホイホイの称号をくれてやろう。

 

 

 

 ともかく、Dクラス組と分かれてからも、歩きながら一人でなにやら喋っていた担任とBクラスに入る。考え事していた上に聞き流していたので、話が一欠けらも記憶に残らなかったのは完全なる余談である。

 それでも一応は雑用名目の同行なので、担任の指示通りにテスト結果を張り出していくと、偶然自分の名前を見つけた。

 

 結果は470点と想定とそう変わらない点数だった。

 しかし500点満点が8人も存在していて、この点数で総合19位なのは少し意外である。しかも葛城や四方でさえ10位以内に入っていない事も地味に驚きだ。

 Bクラス内1位の一之瀬でも総合9位で、全教科満点は達成できなかったのに、それが8人とは……。

 

 この満点のうち二人がAクラスなのはまだしも、残り全てがDクラスなのは、以前に考えたIQ最優先でのクラス分けの予測に、いよいよ信憑性が出てきたのではなかろうか? 学年全体を見ても、A・Dクラス所属に高得点が固まっているわけだし。

 

 ただ上は置いとくとして、佐倉も東風谷も赤点からは遠いし、綾小路や戸塚も意外と学力はないのか上位に名前がないが赤点付近にはいない。

 まぁ友人・知り合い連中に退学圏内に居ないなら、こんな考察はどうでもいいか、とさっさと思考を切り替えた。

 

 

 

 なぜなら、僕にとっての関心事は別にあるのだ。

 そう、流しそうめんである。

 

「「堀北会長!?」」

「葛城に一之瀬か。奇遇だな」

「え~、お集まりの皆さん。今回の件ではお呼びした大体の人に、大変お世話になりました。本当にありがとうございました。

 ささやかですが、今日は好きに飲み食いしていってください」

「あっちはスルーするんだな」

 

 結果発表があった日の放課後。

 僕は流しそうめんを実施すべく、朝に佐倉と安全を確認した直後、いやその前から動いていた。

 具体的には、部員である四方と東風谷は勿論、佐倉に青娥さん、綾小路、葛城、戸塚、堀北会長、橘書記、柴田、一之瀬、神崎、櫛田、坂柳理事長、星之宮先生、東山先生などに連絡をとっていたのだ。

 

 本日の学校自体は昼までで、おまけに明日はテスト休みという好条件である。その上、知り合いの各クラス+αの打ち上げは明日と知った僕が遠慮することはない。

 いち早く確保できた四方と東風谷、佐倉といった人材に手伝いを頼んで指示を出して、準備を整えたのだ。

 その甲斐あって、何とか夕方開催に間に合ったのである。

 

 まず僕と四方は、中庭の使用許可を勝ち取り、食堂の備品を借りて移動した。その後は流しそうめん装置の組み立てである。

 東風谷と佐倉には、食材の支度・盛り付けを頼んだというわけだ。

 

 残念ながら、校舎に入れない青娥さんと、クラスの方に参加する櫛田。あとは坂柳理事長、東山先生は不参加だが、代わりに誰かが誘ったのか恐い印象が強い白波?ともう一人のクラスメイトらしき女子。それと見覚えはないが、佐倉と東風谷の後ろにいるなんか威風堂々とした女子が飛び入りで参加していた。

 ちなみに佐倉と東風谷は、人が集まった理由の中心付近にいるにも関わらず、安定の人見知りを発症させているようだ。そう考えると、あの見覚えない女子は佐倉か東風谷の友達なのかもしれない。

 

 それにしても流石に20名近くいると、風流でも涼しげでもなくなってしまう。

 しかし人数が増える事も見越して、流しそうめんと立食の場所を分けておいた僕に死角はなく、分散して好きに過ごしてもらうことにした。ちなみに立食の料理は、青娥さんが不参加なのに提供が喫茶・芳香である。

 これらの食材は、宣伝はしなくてもいいとのお達しがあるので、実質タダ飯・タダ飲みし放題なのだ。

 

 タダ、無料。

 素晴らしい言葉と概念である。タダより高いものはないとも言われるが、対価なく貰えるモノが僕は大好きなのだ。

 それにタダとはいえ、和洋の様々な食品は味もさることながら、目にも楽しいのでありがたい。

 青娥さんの名前的に中華がないのが微妙にモニョる気もするけど、考えてみるとあのバイト先でも中華を見たことがなかったのでなんとなく納得してしまった。

 

 それはともかく、顔を合わせるなり葛城と一之瀬が会長に驚いていた。

 しかし僕はあっちの関係を全く知らないので気にせず、お礼と無礼講を宣言した。

 隣にいた四方は気になるのか聞いてきたが、一応担任もいるのに最初からぐだるのはなしだろう。

 だから、自信を持ってハッタリをかましておいた。

 

「問題ない。ここまで僕の計算通りだ」

「ここまでがお前の計算どおり? すごいな。どういう計算式を使ったらこんなわけのわからない状況になる数式を生み出せるんだ?」

「四方、そういう突っ込みはなしでお願い。今回、色々友達に協力してもらったから、ノリで僕と連絡先交換した全員を招待したらほぼ全員が揃った。

―――実はただそれだけなんだ」

「ノリで生徒会長を呼ばないでください!」

 

 でも四方にはハッタリが通じなかった。

 それで仕方なく正直に話したら、今度は橘書記からツッコミが飛んできた……が、この場にいる佐倉という主賓兼盾の存在を忘れていたのは、橘書記らしくない失策と言えるだろう。言えるほど、橘書記のこと知らないけども。

 

「うぅ、すみません、茜先輩」

「ああああ、違うんです。愛里ちゃんは悪くないんです! 左京君がふざけたこと言うから、つい」

「…………茜、先輩? 愛……里、ちゃん?」

 

 何気に東風谷がショックを受けているが、気持ちはよくわかる。

 あの内弁慶とこんなに親しげ接している橘書記の存在が信じられないのだろう。

 というか、今更だが橘書記は会長と一緒でなくていいのだろうか? 会長は、あっちでA・Bクラスの面子に一人で囲まれて、食べるのも大変そうなのだが……。

 それにしても、やはり人数が増えそうだと判明した時に、あらかじめ会長にそうめん流しの代役を打診して呼んでおいてよかった。十中八九、最初は立食に配置した会長へ人が集まると思っていたから、これで流しそうめん側はしばらくゆっくりできる。

 

 ともあれ佐倉達女子4人(いや一人は喋ってないから3人か?)が盛り上がってきたようだったので、僕は口を閉じ存在感を薄くして四方と共にフェードアウトしていった。

 だって何人か友人とはいえ、女子集団の会話に混ざるとか精神削られるし……。

 

 ただそうして場所を離れると、そうめんを流す事ができない。

 代わりに何か面白そうな者がいないか全体を見回してみる。

 

「これが……みんなは一人のために、というやつか」

「みんなに一人語り? 確かに綾小路は一人っぽいが、それは自虐過ぎないか」

「みんなは一人のために、だ。その微妙に刺さる聞き間違いはヤメロ」

「おまえ、わざとだろ」

 

 すると、ぽつんと一人で黄昏ていた綾小路を見つけた。

 一旦、そうめんを流すのを完全に断念して近寄り、優しく声をかけるとなかなか嫌がってそうな反応が返ってきた。ついでに四方からもジト目を送られた。

 こういう反応をするから、僕に目を付けられていると彼らが気づくのはいつになるだろうか? 四方はそろそろ気づき始めている気配があるが、綾小路はまだまだ遊べそうで何よりである。

 

「ところで、すごい面白い話あるんだが聞いてみないか?」

「お前、そのハードル……飛べるのか?

 最初に面白いとつけた話って、ほぼ面白くならないぞ」

「心配するな。これだけ面白い話はそうはないはずだ」

「更に難易度を上げていくのか……」

「二人とも、吹き出す覚悟はいいか? リアクション準備がいるなら、それくらいは待つぞ」

「そこまで言われると気になってくるな。よし、聞かせてくれ」

「ふむ。では―――今からものすごく面白い話を綾小路から聞こうと思う。どんな話が飛び出すのかワクワクしてくるな」

「自分で飛ばないのかよ!? というか、ハードル上げるだけ上げといて、オレにパスするな!」

 

「ふふふ、ははははっ! 面白い1年がいると聞いて見に来てみれば……くくッ、三者三様でなかなか興味深い奴らが揃ってるじゃないか」

「おっ、わかる? 凡人で普通な僕はともかく、この二人は面白いよな!」

 

 彼女はさっきまで佐倉達の後ろにいた女子だ。

 綾小路と四方で遊ぼうと近づいている時から視界には入っていたが、男3人の会話に混ざってくるとは少し意外だった。

 でも第一声を聞く限り、なかなか話のわかりそうな御仁だったので、お近づきの意味をこめてついでに取っておいたお菓子を進呈する。

 この学校の例に漏れず彼女も美少女だが、東風谷に似た雰囲気のせいかなんとなく話しやすいのだ。

 

「いや、その前に。この人って誰だ?」

「四方も知らないのか。左京、誰なんだ?」

「え? 僕が知ってるわけないだろう。クラスメイトの名前すら怪しい僕が、なんで知ってると思ったんだよ」

「お前が主催だろうが」

「主催って言っても、ほぼ知らない奴とか普通に参加してるしなぁ。あっちの一之瀬の隣にいる二人とか」

「あー、左京は白波と網倉まで知らなかったのか。

……ってそうじゃない」

 

「くくッ、噂もそんなに馬鹿にしたものではないな。

―――ああ、失礼した。私は2-B鬼龍院楓花という者だ」

 

 2年ということは先輩である。

 それなら次からは敬意を払った方がいいかもしれない。

 この接触には特に裏も意味もなさそうだと僕の勘は判断しているし、ワンチャン佐倉か東風谷の友人だったらこれからも会う可能性がある。気に入られる必要はないが、あえて嫌われる必要もないだろう。

 あまり礼儀に厳しいようには見えないが、口調とは裏腹に上品な所作で菓子を口に運ぶ鬼龍院先輩を見て、最低限この場では先輩を立てようと少しだけ思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕を含めたこちらの紹介を軽く済まし、引き込むつもりだった綾小路と菓子を食べ終わった鬼龍院先輩にお碗と箸を渡して誘ってみたら、すんなりOKが出た。

 善は急げとばかりにそうめんを流すところまで連れて行くと、何故か東風谷と橘書記がいなくなっていた。代わりに佐倉が、小さくはしゃぎながら一人で流しそうめんをしていたので、後ろを着いてくる3人に振り返って目配せする。

 すると綾小路と四方は呆れ顔で、鬼龍院先輩は男前にニヤリと笑い返してきた。どうやら意図は通じているようでなによりである。

 

「それでは、今よりわが社の通販を始めま~す!」

「ふんふんふ~ん♪

……ふぇ? 左京君?」

「本日ご紹介するのはこちら、桜プロダクション所属タレント『雫』愛用のシャープペンシル!」

 

 ちなみに今僕が掲げたシャーペンは土曜に自室に落ちていた物なので、あるいは東風谷のかもしれないがそこらへんはスルーである。

 余程のお気に入りでなければ、死ぬまで借りてるだけとか言っとけばどうとでもなるだろう。

 

「このシャープペンシル、ただのシャーペンではありません。

 将来への不安。

 CPによる格差。

 クラス間トラブル。

 これらを解消してくれる素敵アイテムなのです!」

「即買いだな! 値段はいくらなんだ?」

「ええ!?……え? というか誰?」

 

 僕の宣伝トークにわかっていたかのように、即座に合いの手を打ってくれる鬼龍院先輩。

 これは、どこかで僕の意図に気づいてノってくれたのだろう。頭が良さそうな雰囲気もあるし、想像以上にノリがいい。

 

「今ならお値段、なんと!

―――10万PP! 10万PPです!」

 

 ただ佐倉に借金……借PPを切り出すより、冗談と悪ふざけでノせてみよう計画の方が面白そうだったのでやってみたのだ。誰も本気でノって来ないのはわかっていたが、鬼龍院先輩が手伝ってくれたし、滑っていつぞやの氷河期のようになったら僕が責任を取ろうとは思っている。

 

「ほう。10万か。

 よし、買った!」

「毎度ありぃ! こちらに振り込んでいただければ、コレは貴女の物ですっ!」

 

 あとは鬼龍院先輩に連絡先兼振込先を表示して、結果を待つ。

 振込みは1PPでもあればいいので気楽に待っていると、通知音と一緒についにその時が来た。

 

「はいはい、お買い上げありがとうございま―――って、マジで10万振り込まれてる!

 ちょ、ちょっと、鬼龍院先輩! あんた、あんだけわかってそうな雰囲気出してて気づいてなかったとかなの!?」

「くっくっく、何のことだ? 私は後輩がお勧めした素敵アイテムとやらを購入しただけだが?」

「いやいやいやいやっ!? それこそが嘘だって今確信しましたよ! だいたい、これが佐倉にポイント借りようとしてた茶番だって察した感じ出してたじゃないですか!」

「えっ! どういうことなの!?」

「何を言っている。察していたからこそだ」

 

 シャーペンを渡し、PPが振り込まれたのを確認するついでに額を見て意表を突かれた。意図が伝わっているものと思っていたので、本当に振り込まれた10万が意外すぎたのである。

 当然すぐ抗議したが、暖簾に腕押しだったので方針の練り直しが必要になった。この先輩を見る限りないとは思うが、なにもしないままでは最悪変な弱みが出来てしまう。

 

 しかし、もしかしてこの先輩にかなり深い部分まで見透かされてないか?

 さっき会ったばかりだと思うのだが、こんなに会話が飛んだりすると昔からの知己みたいだ。天文部関係者や綾小路とは違う意味で要注意人物な気がしてきている。しかも下手を打てば、丸呑みされそうなほどにイイ性格をしているのだ。

 なんか先輩から受ける印象が、東風谷や青娥さんみたいな鬼才、もしくは四方や綾小路みたいな天才なんじゃ?みたいに変化してきた。

 まぁ、それはともかく。

 

「あ~、佐倉にちょっとポイント借りたかったんだけど、そのまま言うのってなんか格好悪いじゃん。だからまぁ、冗談染みて笑い話にできそうな悪戯して後々に返せばいいかなぁ、と」

「んん? それなら俺に言えばいいだろ。何で佐倉なんだ?」

「いや四方と東風谷、あと柴田は既に借り1なんで、流石にこれ以上は増やせないよ。

 だけど、会長と橘書記には早めに報酬出しときたいんだ。このままだと、来月以降になっちゃうしな。

 てか、鬼龍院先輩に詐欺染みたことしちゃったのもまずい。早く10万PP返さないと……」

「説明してくれればちゃんと貸すのに、なんでこう変な事するかなぁ。

……先輩? 左京君がすいません。わたしから返しますので」

「いやいや、気にするな。先輩として、後輩の手助けをするのは自然なことだろう? 詐欺とも考えていないし、ただの投資だと思って受け取っておけ」

 

 佐倉達にネタばれしつつどうしようか考えていると、鬼龍院先輩がえらく男前な台詞を吐いた。

 うぅむ。悔しいけど、格好良いし、様になっている。

 僕が同じようにすれば、きっと失笑の嵐になるだろう。

 それに上級生だから10万程度は屁でもないのかもしれないが、この年齢で自然にこう振舞えるのは只者ではない。

 こういう人には、下手に返そうとする方が失礼になる気がする。

 だから諸々の考えは内心に留めて、遠慮せず使うことにしよう。

 

「ありがとう! しばらく貧乏生活することになると思ってたので、とても助かります! この投資を損だとは思わせないつもりだから、何か困ったら一報ください」

「左京、先輩だぞ!? 少しは遠慮しろよ。というか、せめて敬語くらいまともに使ってくれ!」

「ははは! 私は一向に構わんよ。

 しかし直接目にするまでは、多かれ少なかれ腹に一物…そんな奴だとばかり思っていたが……くふっ、これほど馬鹿正直な曲者だとは思わなかった。実に興味深い」

 

 四方には注意されてしまったが、言葉に注意を払うとなんとなく気持ちの分量が減じてしまう気がするのだ。だから僕はこういう時、なるべく自分の言葉で言うようにしている。

 礼儀を尽くせないのは悪いと思っているが、この先輩になら礼儀より情を重視で接した方がお互い気楽だろう。幸い、悪くは思われなかったっぽいし、本人から言われない限りこれからもこの路線で行こうと思う。

 まぁ、これから鬼龍院先輩との縁があるかはわからないのだが……。

 

 

 

 ともかく忘れてしまわないうちに動こうと、僕は鬼龍院先輩に御礼を言ってから一言断り、そうめんを流すのを佐倉と四方に託して一旦場を離れた。

 尤も、佐倉はなんか文句みたいなことを言いながら付いてしまったが、残った綾小路ならフォローとかそうめんを流す役もやってくれるだろう。それにあの二人なら、鬼龍院先輩も退屈しないに違いない。

 

 遠目に見る会長はまだ人だかりの中にいるようで、今振り込みをすれば対応が遅れることが予想できる好都合な状況だ。

 僕は落ち着いた場所でないとメールを打ち間違えたりするので、流しそうめんと立食の間の広場―――座ることが出来るスペースまで移動した。

 その場所まで佐倉も付いてきていたが、とりあえず気にせず会長に10万を振り込んだ。一応、僕が連絡先を知らない橘書記の分が含まれている事もメールで知らせておく。

 これで残りは、一之瀬と神崎の報酬10万だけだ。6月10日までは約1週間あるが、終わりが見えてくるとやっぱり安心する。

 しばらく鬼龍院先輩には足を向けて眠れないな。

 

 ここまできてようやく数日の面倒事がほぼ片付いた実感がわいて、一息つけた。

 やることを済ませて落ち着いてからは、改めて佐倉の言っていることを大人しく聞いて、質問には答えている。それでも、まだ不満気で言い足りない様子だったのだが……ぶっちゃけると、なんでこんな風になっているのか理解できない。

 

 かなり人を巻き込んでしまったが問題は解決したし、PPも僕は空っぽになったが鬼龍院先輩のおかげで佐倉の消費はなかったはずだ。

 もし僕が佐倉の立場であれば、ラッキーと思って感謝して終わりだっただろう。

 本当に何が不満なのかわからない。

 

 いや、待てよ? 僕のこれまでに佐倉の今の態度のヒントがあるのではなかろうか?

……そうか、思い至ったぞ!

 

「だからね、私も」

「―――佐倉、太った?」

 

 なんか長くなりそうな気配を感じて面倒っぽかったので、佐倉の文句を遮って真相と思われるモノをぶっこんだ。

 

 その原因は、おそらく土曜に買ってきた夕食代わりの唐揚げとドーナツだろう。見た目から太った感じはしないが、女子は1~2kgにもうるさいと聞く。

 起こった問題の責任は僕と半々とはいえ、二人で怖い目にあって対応に数日振り回され、そのストレスか体積が増量した時に早朝から僕とともに呼び出される。その際には、担任二人と一緒にそれなりの時間拘束されて、不安の残っていただろうテストの結果発表まであったのである。

 その直後、食の誘惑とも言えるこのイベント。

 さっきからの付き纏いには僕達への礼も含まれている可能性はあるが、この本命の気を紛らわせる為と見て間違いあるまい。

 こうして謎は全て解けたのである。

 

「このっ、もう!!」

「太った感じはないし、そう気にするなよ?」

「違うからね! だいたい左京君は……」

 

 まぁ実のところ、そんな理由じゃないのはわかってたけど、さっきまでの佐倉から思考をずらすには、この失言しか思いつかなかったのである。

 真面目に思いつく不満点としては、最初の案のように僕と佐倉が中心になって解決しなかった事や、PPを僕だけが支払った事。あるいは佐倉の気質的に人を巻き込んだ事。もしかすると、ストーカーの末路にも思うところがあったのかもしれない。

 

 だが、事態が終息した今となってはそれらは些細な事だ。

 そんなものでうだうだ悩むのは不健全だし楽しくない。だから遠慮や負い目的なモノが残らないように、やり方はどうあれ多少怒らせたのである。

 これで完全にとはいかないだろうが、明日からいつも通りに戻れることだろう。

 

 誤算は想像以上に佐倉が怒った事と、今回呼んだ面子が続々と集まってきて、事情を知るなり代わる代わる僕に説教したり、呆れたりしていったことだろう。

 どうも冗談でも女子に「太った?」と聞くのは、ギリギリアウトだったようである。

 僕は集まってきた面子に言い訳を繰り出すために、一時は落ち着いていた口と頭を再度フル回転させることにした。

 

 ともあれ、集まった面子はみんな楽しそうだし、そうでなくともリラックスはしているみたいなので、凡人の僕にしてはそこそこ上手い着地点に辿り着いたんじゃなかろうか?

 





 原作では、テスト結果発表から1夜明けて打ち上げだったと記憶しています。
 なので発表日当日の夕方~夜はフリーという解釈で、この日にしました。

 ちなみに綾小路(とこっちに参加してないけど櫛田)は、次の日によう実原作1巻のエピローグの打ち上げにも参加しますが、左京は勿論、佐倉もほぼ関係ないのでこの作品では語られません。
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