ようキャ   作:麿は星

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34、喧嘩

 

 6月11日。

 昨日の帰宅後に確認したら僕の給料が振り込まれていたので、即座に一之瀬と神崎に5万ずつを支払った。これで借金は完全になくなり、かなり気が楽になった。

 

 一方、所持PP残高は昨日のおごりの出費もあって1万をきっている。

 この残高では、今月の残り20日を快適に過ごすには心もとない。だが、懸念がほぼ片付いた心中は晴れ渡る青空のごとき爽やかさがあり、後悔も反省も微塵も存在しない無敵モードである。

 だからいつも通り直前に登校した時、四方から昨日のことやその他で愚痴られても華麗に聞き流してしまう心持ちであった。

 

 まぁ面倒事や本題というのはあくまで僕の想像であって、それが外れていたならそれはそれで楽である。それにPPの支払いが本題で、履行されたから元の距離感に戻った可能性もなくはないだろう。

 

 この時は、僕になにか話したい事があるならどうせ昨日の本題だろうから、昼か放課後あたりに一之瀬か神崎と共に接触してくると思っていた。その時こそ真面目に聞けばいいと、ほとんど耳を素通りさせてしまったのは、先を考えると失敗だったのだろう。

 事前情報なしに新たな面倒に突撃することになったのだから。

 

 

 

 予想に反して昼休みまでは特に接触も呼び出しもなく、四方や東風谷と雑談するだけの平穏な時間が流れ、一之瀬も神崎も近寄ってくることはなかった。

 

 いつもと違う点として、時折白波からは遠くから鋭い視線が飛んできていたが、僕に心当たりが全くなかったのでその内に気にならなくなっていた。あの女子は言動から狂犬っぽいが、一之瀬に傾倒しているので余程でなければ単独での暴走はないはずだ。

 

 そんな訳で、昼になると同時に弁当を持ち出して青空ランチを決め込んでいると、東風谷が話しかけてきた。

 弁当の日は一緒になることもあるが、大抵は無言の時間になるので少し珍しい事態だ。

 

「夢月さん、お話いいですか?」

 

 東風谷は流しそうめん以来、二人で話していた橘書記が何かを吹き込んだのか、それなりの仲の者には名前呼びになった。とはいっても僕の知る限り彼女は僕と佐倉、四方、あとは櫛田くらいしかその対象としていない。そこそこ話しておきながら、一之瀬や綾小路ですら苗字呼びなのは流石と言える。

 更にそれ以外の者に対する姿勢は、次の発言でだいたいわかるだろう。

 

「売られた喧嘩を買いたいんですが、その相手がCクラスの女子である事以外は名前も顔もおぼろげで困ってるんです。売られたのは愛里さんの件の直後だったので日を改めたら、忘れてしまいました」

「それって要は人の確認だろ? だったら、四方か……苦手かもだけど一之瀬に聞いたほうが予測が立つんじゃね?」

 

 このように見た通りに排他的といえるほど他人に興味がなく結構好戦的なのだ。というか、大抵の事は実行できる能力や行動力もあるから、さっさと自分の面倒を片付けてしまいたい気質なのかもしれない。

 

「それなんですが。

 昨日、一之瀬さんに聞いてみたら私と似た感じで何人か因縁付けられてるみたいで、近いうちにCクラスに行って話し合いをする……と、言われてしまいまして」

「それじゃあ回りくどいし面倒か」

「はい。せめて、私に売られた分は高値で買い取りたいんです。殴り込んでも、相手がわからないとどうしようもありませんし……」

 

 個人同士の喧嘩ですめばまだ平和だと思うが、東風谷以外のクラスメイトにもなにかしらされているなら、Cクラスは目的を持って動いている、または動かしている人物がいる可能性がある。

 この入学気分から脱却しつつある時期、他クラスに目的を持ってちょっかいをかけるとすれば……情報を得る為の威力偵察か? または不良漫画的なトップを狙う下克上というケースもありえたりするんだろうか?

 

……こんなの現代の学校ならありえないと思うのに、キャットルーキーが現実味を帯びてきてからというもの、原作でたまに起こっていた乱闘や暴力などの危ない想定が混じりこんできて少し困ってる。

 

 これも雄根とか神童とか加縫とかの喧嘩早い奴らも現実にいると思ってしまった弊害である。時代と環境が違うのだから、早いうちに認識を調整しておかないと思わぬ落とし穴がありそうで怖い。

 

 僕自身の暴力経験は、かすれ始めている前の人生でのパワハラ上司と高校時の教師に殴られた事くらいで、前の学生時代に限定すると教師から殴られた以外は見ていた経験しかないのだ。

 そんな経験が役に立たない分野なので少しは心配だが、この時期にクラスを動かせるような学生がいるなら、こんな初手から全面戦争な展開やプランは考えないだろう。つまり今ならまだ比較的安全で好機という訳である。

 

「それで僕か。

 頼み事は、Cクラスに同行して人物を特定、少なくとも絞り込めばいいって事か?」

「そうして貰えたら助かります」

「今日はバイトもないしいいよ。最低限の備えをして放課後にでも行こう」

「お願いします。それで、二三矢さんや一之瀬さんにはどうします?」

 

 なので仮に不良漫画の主人公や敵役みたいな奴がいようと、基本東風谷の付き添いポジションな僕は目を付けられないだろうから危険もないはず。それなら東風谷のやりたいようにさせて、借りを返すついでに一手置いておくのも悪くはない。性格上、一之瀬や四方には取り辛い選択だし、僕が付いていくのがベターだろう。

 四方は非好戦的な以外はいまいち読めないが、おそらく一之瀬は乗り込む事や喧嘩を素直に許容しない。

 

 誰かと争うことは極力避け、話や魅力の通用しない相手なら情と策でもって抱きこもうと試み、無理だと判断すれば表面的だけでも協力関係を結ぼうとし、それでも駄目なら次は撤退を選ぶ。全面戦争は最後の手段……にもするか怪しい。

 

 それが僕が一之瀬に抱く印象だ。

 故に、順当にいけば東風谷の喧嘩もCクラスとの問題に絡めて話し合いの方向で進めて、痛み分けのような形で収めようとする気がする。四方や神崎が介入することで多少結果内容は変動するだろうが、この予測は大きく間違っていないはずだ。

 

 つまり東風谷の望むわかりやすい直接的な対決や勝負、喧嘩は、どちらのクラスリーダー(片方は憶測だが)の目的・方針とも微妙にずれているのだ。

 東風谷はそれに合わせるのが面倒なのだろう。

 僕としても話し合いで長引かせるくらいなら、さっさと乗り込んで白黒付けた方が好みなので、嗜好は一致している。

 

「察するに、昨日に一之瀬達がしようとしていた本題がこの話だろう。なら、今日ここまで接触してこなかったのを、黙認している無言アピール、またはあっちとこっちでそれぞれ好きにやりましょう。って解釈で僕達は好きに動かないか?

……怒られそうだから、四方や一之瀬には聞かれるまで内緒で」

 

 あとは東風谷と口裏だけ合わせて隠すそぶりを見せずに勢いで突っ込んでも、我らがリーダーは意外と押しに弱そうな面もあると知り得る機会に恵まれたので押し切る算段はある。怒られるとは思うから、一応聞かれない事を祈るけども。

 

「それはわかりやすくなっていいですね! 実はCクラス襲撃を提案してたんですが、全員から猛反対されてまして……」

「おいおい。僕は襲撃するわけじゃないぞ。ただ人を割り出しに行くだけだ」

「わかってます。無差別じゃただの迷惑な人ですもんね。しっかり確認をしてから、落とし前を付けなくては」

 

 なんかこの娘、いやに嬉々としてるんだけど。

 これまでにない笑顔で襲撃を口にする東風谷に一抹の不安はあるが、成算はあると信じてみよう。ついでに危ない奴がいないとも信じておこう。

 

「ん。それがわかってればいい。

 んじゃ、僕はちょっと用意するものがあるから先に戻ってて。でももし四方達に勘付かれてなんか聞かれたら、素直にゲロちゃっても大丈夫」

「話してもいいんですか? 二三矢さんはともかく、一之瀬さんの雰囲気から止められるような気がするんですけど」

「それで放課後に呼び止められても、僕が軽く足止めするからまず勢いでCクラスまで突っ切ろう。突入さえしてしまえばこっちのものだ」

 

 今回は佐倉の時とは違い、知り合いには直接的な荒事に向いていない人材の方が多そうなので、最低限東風谷と僕だけで何とかなる準備をしておく。

 まぁ荒事っぽいとはいえ、相手は所詮高校1年生。Cクラスに四方や綾小路クラスの人材がいるか、無駄に敵を作るような真似さえしなければ、大人のストーカーが相手だった佐倉の件より危険はないだろう。

 東風谷と放課後の約束をして一旦別れ、僕は準備のために残りの昼休みを費やすのだった。

 

 

 

 その日の放課後。

 

「それでは、行きましょうか」

「そうだな。さっさと済ませてしまおう」

 

 終業のベルが鳴ると同時に、東風谷が立ち上がり催促してくる。

 だが、昼の嬉々とした様子から、こうなると思って準備を済ませていた僕に死角はない。既に準備は完了している。

 

「待て!」

「待ちなさぁぁああい!」

 

 なので早速Cクラスに行こうとしたら、四方と一之瀬がいきなり肩を掴んできた。

 四方は後ろの席なのでまだわかるが、一之瀬は授業の片づけを放棄して最速でこちらに来たとしか思えない早さである。真面目な学級委員長殿にしては珍しい。

 

「なんだよ、四方に一之瀬。僕ら、これから用事があるんで、話があるなら手短に頼むな」

「はぁはぁ……どこへ行くつもりなの?」

「知ってるかもしれないけど、ちょっとCクラスに行って火種と『その他』を投げ込んでくるだけだよ」

「想像以上に過激な発想!? って、駄目だからね! どうしても行くなら私も行くからせめて穏便に解決しよう!」

 

 東風谷が話す話さないに関係なく、止められた時点で用件はわかっていたが、事前の打ち合わせ通り一応は足止め兼説得をしておく。

 無視して進む事もできるが、後の事を考えると小出し程度に主張しておく事はかなり重要なのだ。

 

「えー、面倒じゃね? あっちから喧嘩売ってきてるんだから、高値で買い取った方が早く済むだろ。軽く見て強そうだったらその時こそ穏便に交渉しようぜ」

「問題をもっと大きくしようとしてどうするの!? まずは話し合い! そこだけは絶対守って!」

「いやいや。このケースで話し合いだと、前に頼った会長は中立で、他の面子は別クラスだろ? 面倒な事になるのが目に見えてるじゃん。

 だから、僕らが直接火元をぶっ飛ばすのが一番楽だって」

「いやいやいやいや! だからって最初から荒事を考えないで!? 法律とかこの学校のルールの事もちゃんと考えて!?」

「大丈夫だ。東風谷はともかく、僕は襲撃まで考えてない。それにどうにもならなくなったら、ちゃんと一之瀬に投げるからそん時は頼む。

 まぁ、詳しい話はCクラスを見てからな」

「それが駄目なんだって!」

「大丈夫だって。いいから、一之瀬は晩飯の事でも考えながら休んどけ」

「なんで夕食!?」

 

 のらりくらりと話していると、東風谷が焦れたのか口を開いた。

 先に行ってもよかったのに、どうやら僕を待っていてくれたらしい。

 

「夢月さん。話してるなら先行ってますね」

「東風谷さん!?」

「あのさ、東風谷…お前も空気ってものをもう少しだな……」

「ああ、大丈夫。もう話は終わったし、改めて行くか」

「終わってないよ!?」

「うんうん、また今度な。んじゃ」

「ああああああ! 待って待って! 行く! せめて私も行くからぁ!」

「いや、別に来なくてもいいよ」

「行くから!!」

 

 何人かを試すのに必要な事は言ったし、ざっとあまり知らないクラスメイト達を観察できた。

 神崎他数名からは逆に観察されていたようだったが、この雰囲気なら一之瀬と完全な敵対をしなければ、かなり自由にやれそうだ。途中から口を出さなくなった四方と少し離れた位置にいる柴田の呆れた感じを見て、そう確信した。

 

 Bクラスでのやる事がほぼ終わったので、既に歩き出していた東風谷の横に早足で並ぶと、まだ見ぬCクラスへの初対面をシミュレートしながら進む。

 なんかだんだん言動や印象が幼くなってきた一之瀬も付いて来てしまったのは、少し予想外だが、ある意味問題ないどころか一石二鳥だろう。

 ひとまずの目的は東風谷の喧嘩相手を見つけるだけなのだし、やってくれるかはともかく僕より一之瀬の方が人探しには適しているのだ。それに『僕』の目的達成にも、一之瀬がいることで説明が省けるメリットも付いてくる。

 

 メスガキの言語や概念に触れた結果、内面も微妙に影響を受けている…とかでなければ、彼女自体に不安はない。と思いながら、昨日までとなんとなく雰囲気が違う気がする一之瀬を連れた即席3人パーティーでCクラスへ向かう事になった。

……連れ二人には失礼ながら、なんかチュートリアルクエストの引率をする者な気分である。

 





 主人公視点だとCクラスとの問題が唐突にわいてきた感があるので、反則だけど事情説明。

23、常識~25、普通(作中日時5月14日前後)のあたりからCクラスの挑発や嫌がらせが始まる。
 四方や一之瀬達がこの時期に不参加の了承を翻して左京と東風谷に勉強会に参加してもらいたかったのは、本来このことを伝えてクラス一丸となって対処する為でもあったり。
 一応、何度も四方・柴田やクラス内チャットから伝達されていたが、興味がなければ聞き流し&未読を地で行く二人なので、約一ヶ月後の6月11日(東風谷はもう少し前だが)まで知る事もなかったという。
 ちなみに最新話までのBクラスの被害者は、白波・網倉・東風谷と男子数名。

 ついでにもう一点。
 前日10日のあの場にもし綾小路がいなければ、白波が狂乱することも一之瀬が黒歴史を作ることもなく、普通にCクラスへの対処と相談が始まる予定でした。
 なのでその為に、左京が白波と言い合っている時、四方が綾小路を先に帰して話し合いを始めようとしていた……んですが、面倒になった東風谷が勝手に帰り、左京には混乱を起こされた上で逃げられた流れ。あとどうでもいいだろうけど、四方はきのこ派閥ではない。
 それらの結果、一之瀬は事態の収拾や立て直しには時間もかからなかったが精神疲労はそこそこ残った為、朝・昼の接触は控えていたら……今話みたいになっていた感じ。
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