ようキャ   作:麿は星

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 お知らせ。

 気が向いたので、あらすじを変更しました。2022/10/19



35、例外

 

 現代日本において、IQというものは高ければ高いほどいい……というものではない。

 そりゃあ、漫画やアニメの登場人物のように、IQ180を超える数値をたたき出す天才なら周囲が放っておかないだろうが、一般?の高IQの者はせいぜい140前後までである。

 

 そして―――140くらいまでの者はまず組織で出世できないと思った方がいいだろう。なぜなら、大抵の組織の幹部以上のIQは高くても120までが大半を占め、一定以上に高IQの者が説明しようと、上の立場の者は話をほぼ理解できないのだ。

 

 なんなら精神科で高IQと診断されると、精神病かのように扱われる風潮すらある。嘘だと思うなら、適当な会社で高IQの者を探してみるといい。馬鹿やアスペルガーや発達障害などの障がい者風味な人間に紛れるか、あるいは役立たずとして眠っているか、辞めているかのどれかだろうから。

 

 ともかくこれらの要素を含め、俗に言われるIQが20以上離れると会話ができない、というのは事実だと僕は経験から知っている。

 勿論、これは僕がまだ今回の人生では社会に出ていないので確実ではないが、前とそこまで生活・政治・経済などに差はない世の中である以上、完全なお門違いという事はないはずだ。

 

 そこで僕は前の人生の焼き直しにならない為に、高校入学を機にいくつかの実験的計画を練っていた。

 その一つが『例外』とハプニングを利用する事である。

 

 幸い、この学校には四方という想定外が存在していた。それだけでなく友人知人にも奇人変人が続々と現れ、IQは僕と同等以上と思える東風谷や戸塚、総合的には同世代の中でも上澄みだろう一之瀬や葛城、櫛田。そして、四方と同格にすら見える綾小路に佐倉。

 

 佐倉は条件付だし、頭脳や身体能力といった点では普通に近いから少し癖が強いが、おそらく学校外活動か大学以降で相当化けるタイプと思われる。

 他にも柴田を筆頭に優秀な人材も揃っていて、伏せられていた札も明らかになり始めてきた今は一つの好機といえる。

 

 それを踏まえれば、同学年でこの時期に唯一纏まって動き出したと思われるCクラスには、正体不明の存在X的な何か(長いので次から存在Xとでもしておこう)がいる。

 たとえそれが考えなしの暴力だとしても、苦手な暴力の匂いはしていても、東風谷の事を抜いてすら、ここで顔を繋ぎに行くのはメリットしか感じなかった。

 

 良し悪しはともかく、最低でも例外を作り出せる人材の有無を確認できるのだ。

 学校、ひいては将来のこれからを考えると、この行動は近い未来で必要になる気がする。だから東風谷という規格外の人材のモチベーションが高い時に便乗できるのは渡りに舟だった。

 

 

 

 

 

 そんな事を考えながら歩き、Cクラス前。

 ヒキニート気質な東風谷や付いてきてしまっただけの一之瀬に先陣を切らせるのもなんだし、同級生の教室に気負って入るのもおかしいだろう。

 

「はじめまして~。こにゃにゃちわ~! いきなりだけど、カチコミ一丁お待ちしました~!

……あっ、相手は僕じゃないよ」

「なんで最初からそんなに過激な事言うの!? 穏便にって言ったのに!」

「っていうか、噛んでますよ」

「噛んだわけじゃなくて、せっかく付いてきたから、うちのリーダー成分を出しといた方がいいかなって」

「リーダー成分ですか、なるほど」

「そんなの出さなくていいから! 東風谷さんも納得しないで!」

 

 だから挨拶と用件、それに注意点を他所のクラスにもわかるよう端的に言っただけなのに、また一之瀬に怒られてしまった。あちこちにツッコミ入れるなんて、やっぱりリーダーってなんか大変そうだなぁと思った(小並感)。

 一方、東風谷は平然と見回してたり、平素と変わらぬ態度なあたり目的がブレたりはしていないようだ。

 

「なんだ、てめぇら。喧嘩売りに来たのか? それとも笑わせに来たのか?」

「ん? いやいや、喧嘩売ってきたのはこのクラスの女子の誰か。

 そんで、この東風谷が高値で買いたいらしいんだけど、そいつの顔や名前を覚えてないってんで、僕が人探しとその他で付いてきたんだ」

「で、後ろは?」

「ああ、やっぱり一之瀬は他のクラスでも知られてるのか。でも、一之瀬はなんか付いて来ちゃっただけだから、僕から紹介するのもなんだかなぁ」

 

 そう言って対応と目線を一之瀬に投げる。

 意を汲んでくれたのか他の理由か、咎めてきた男子に対して場違いにも挨拶をし始めた一之瀬は、なにも言っていないのに囮役を買って出てくれていた。意外と内心は殴りこみに乗り気だったのかもしれない。

 

 ともかく、手が空いたので東風谷と同じように教室内を見回してみると、此方を睨んでくるグループが二つほど存在しているのに気づいた。

 片方はほぼ男子のグループだから、カチコミという言葉や僕の態度がその理由だろう。

 もう片方は女子4人組なので、勘でしかないが東風谷に喧嘩を売ったのはこの中にいる気がする。

 ただこれ以上絞り込むのも面倒だし、相手から動いてもらうようにするか。

 

「と言うわけで、東風谷に喧嘩売った人~。名乗り出てくれない?

 当然、僕や一之瀬は邪魔しないし、させないから安心してくれ」

「てめぇ、舐めんじゃねぇぞ! ふざけたこと抜かしやが……」

「石崎!!」

 

 件の女子4人の反応を観察しながらジャブを放つと、石崎と呼ばれた男子が乗ってくれた。これは一之瀬と話していた男子にすぐ鎮められてしまったが、元々4人の中から候補を絞りこむ一手だったから問題ない。

 なぜなら名乗りこそなかったが、ひと際大きな反応を示した女子がいたのである。

 十中八九、あの女子で間違いはないだろうと思って隣を見ると、そこにはターゲットの当たりがついて嬉しげな東風谷。

 

「東風谷、わかってるよな?」

「当然です」

 

 確認の為に声はかけたが、絶対の自信を感じさせる返事が返ってきた。それは到底下手を打つ未来が見えない、誰が見ても成功以外あり得ないと感じさせるものだ。

 これなら喧嘩の始末は勿論として、教室内カメラからの隠蔽までを計算した完璧な犯行をしてくれるだろう。

 

 ターゲットを目指して進み出す東風谷。

 ひとまず役目が終わって見送る僕。

 

 一応、一之瀬やCクラスの奴らが止める可能性もあると思って後方で待機していたが、血の気の多そうな石崎や石崎を止めた奴も他も。そして一之瀬さえも動かないまま。

 東風谷がターゲットに到達した。

 

「守矢の分社に危害を加えて破損し、ふざけた謝罪で私に喧嘩を売ってきたのは

―――貴女ですね?」

「な…あ……」

 

 そう目の前の女子に言い放つ東風谷は、本気で怒りや敵意を向けているわけではない。

 それでもにじみ出る迫力は馬鹿にできるものではなく、纏う雰囲気はどこか人と隔絶した何かを感じさせる。

 Cクラスの者達や一之瀬は動かなかったのではなく、この雰囲気に気圧されて動けなかったのだろう。あんまり僕には感じられない圧力?なので、たぶんが付くけども。

 

「貴女ですね?」

「…あ、あ……は」

「貴女ですね?」

「だ…だ、だったらどうだって」

 

 壊れたテープレコーダーのように3度繰り返された質問。

 冷静さを欠き精神的に追い詰められた女子が、それでも3度目になんとか言葉を搾り出した。

―――その瞬間、前のめりに傾いていき、そのまま倒れるところを体ごと東風谷に掴まれて、椅子に座らせられていた。

 

「あら、どうしたんですか?」

 

 衆目の中で堂々と音も衝撃もない完全犯罪な一撃を食らわせながら、白々しく問いかける東風谷。

 僕からは後ろ姿しか見えないが、おそらく凄まじい笑みを浮かべているのだろう。ターゲットの周囲にいた3人などは、尻餅をついてパンツ丸見えな事にも気づかず怯えているくらいなのだ。

 

「なにか言わなければならない事は?」

「……………………ごべ、ん…なざい」

「…まあいいでしょう。あまりやりすぎると怒られますし……」

 

 東風谷が何をしたのか僕には見えなかったが、大半の奴にも見えなかっただろう。

 これなら教室内のカメラからも、位置・角度や精度を考えれば映っていないはず。証拠になる痣や外傷を残す性質でもない。

 今のは僕から見て、呼び出しを食らおうと言い逃れが容易な完璧な仕事だった。

 

 それにしても、あの女子は東風谷の地雷を的確に踏み抜いた上で喧嘩を売るとか、破滅願望でもあるのだろうか?

 ターゲットのふらふら具合を見るに何らかの手段で頭を揺らされたっぽいが、これを軽く実行してしまえるほど底知れないのが東風谷なのだ。

 

 だが、たとえこうした事ができなかったとしても。神様達の事を知らないにしても。規格外の本質がわからないにしても。

 手ごろな獲物が何人もいただろうに、何故それらを抜いても色々ヤバそうな東風谷を狙った?

 思うに、彼女は不運とか考えなしとか以前の問題だったのだろう。本能や危機感が退化しているとこうなるという見本のようなターゲットである。

 

 

 

「夢月さん、どうでしたか?」

 

 不敵。

 喧嘩を売ってきた女子を一撃で倒して振り向いた東風谷の笑顔は、こう評するのが適しているだろう。

 

「普通に最高だろ? これを機に、布教する時は『学園の不敵な巫女』とでも名乗ってみたらどうだ? 学校や風祝よりこっちの方が語呂や通りがいい」

「それ、ちょっと面白そうですね!」

 

 ただ実際に最高だったが、問題もあった。

 こいつ、テンションが高い状態だからか力加減が甘すぎである。

 軽口ついでにハイタッチしたら、手に多大なダメージが入ったのだ。

 

 以前の月見からちょくちょく僕が勧誘を受けるようになったので、いい機会と思って東風谷の勧誘欲を別方向に仕向けようとしたら文字通り痛い目にあった。悪気はないのだろうが、常人の事も少しは考えてほしいものである。

 

 しかし、こんな力を収束したモノを食らった、いまだ名もわからぬ女子よ。

 慰めになるかわからないが、触らぬ神に祟りなしという言葉を内心で送っておこう。内心じゃ意味ないじゃん、と言われるかもしれないけど、もうどうでも良くなったから関わるのは面倒なのだ。

 それはそうと、東風谷にクレームを入れておく。学習してくれないと身がもたない。

 

「東風谷、お前ぇ…少しは加減しろよ。めっちゃ痛い」

「すいません。でも夢月さんも少しは鍛えた方がいいですよ?」

「余計なお世話だ……ん?」

 

 ついでに僕が涙目で痛がろうとマイペースな東風谷に一度わからせてやろうと思っては神様方がブレーキになるせいで葛藤していると、いつの間にか隣に銀髪の女子がいて声を出さずに笑っていた。

 

「うわ、いつからいたの?」

「ふふふ、初めからですけど」

「というかどちらさん?」

 

 なんとなく見覚えがある気はしないでもないのだが、きっと気のせいだろう。

 

「それでは自己紹介させてもらいますね。

 小中の時からお前いつからいたのと言われ続け、体育の時間にはペアになる人ができずに先生とペアを組み続け、卒業までみんなからさん付けで呼ばれてきた日陰者。

 ユナ・ナンシーです」

「ああ、これはご丁寧に。

 僕は現在に至るまで、お前っていつの間にか消えているよなと言われ続け、最近ではなんかでのペアや組もイロモノ固定になっていそうで戦々恐々している不定形魔物もどき。

 ユリック・ノーマンです」

 

 この女子、かなりの変わり者だと確信した。

 Cクラスのイロモノ枠は彼女で間違いない。

 銀髪なので、ワンチャン本名である可能性もないことはない。だが、佐倉のような条件付きの髪だったりするかもしれないし、そもそもこんな特殊な名前を名乗ってくるなら、真相がどうであれ僕のふざけた返しも許されるだろう。

 

 ちなみに僕と彼女が名乗ったのは、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』で犯人が使用した男女それぞれの偽名である。こちらでなく、U.N.オーエンなら知っている人も多いだろう。

 僕は反射的に返しただけだが、何者とも判らぬ者ネタを織り交ぜて放ってくるあたり、本名でなければ彼女は何らかのマニアと見た。

 

 彼女のようなマニア系の人種は、一時的とはいえ僕のような普通の凡人では荷が重い相手だが、もう一つの目的のためには初っ端から精神的マウントを取られるのはちとまずい。

 だから初対面で偽名&ネガティブな自己紹介をぶちかます相手に、同じように返して凌いだのだが、そう何度もできることじゃない。

 

 もしも次以降があるなら東風谷か一之瀬に徐々に意識の方向を誘導して、丸投げするのが無難な気がする。まぁ普通にしていれば、あれだけ派手に動いた東風谷へ興味が移るだろう。

 

「……………………え? なんて?」

「はぁ、東風谷よ。ここは、オーエンかそれに関連する名前を名乗る場面だぞ。しっかりしてくれ」

「そんなのわかりませんよ! オーエンだかなんだか知りませんが、なんでそんなのを名乗る必要があるんですか!?」

「ノリだが?」

 

 東風谷は知識やノリを理解できないのか常識的な反応をしてしまっていたが、こういうのは同レベルの返しができない時点で負けである。

 尤も僕とは違い、もう目的は果たしているのだから、今更東風谷に勝ち負けなど関係ないが。

 

「だから唐突に変なノリに乗らないでください!」

「いや、僕に言うなよ。僕はそちらのユナ・ナンシーに応えただけなんだから、文句は元凶に……って、本人が笑ってるんじゃねえ!」

「……うふふふ、失礼しました。私、本当は椎名ひよりと申します」

「あ、ども。えっと、僕は―――」

 

 ともかく、雰囲気的にこの女子はCクラスのリーダーや存在Xではないとは思うが、狙いや布石を見破られる可能性がある。こういう文学少女系イロモノタイプは、思考力が高い事も多いのだ(偏見)。やはり新たな分野を開拓しようとする変人は、どこか普通の人と違う部分が表出してしまうのだろう。

 というか、やっぱり偽名である。そして、これによりまたもやイロモノ確定である。

 

 彼女が出てこなければ、東風谷が倒した女子を嬲り続ける安全策が使えたのに、こうなっては仕方ない。下手を打つと本命との初対面をマイナススタートにしそうな相手なので、欲をかかず時間稼ぎだけをしているしかないだろう。

 

 しかし、なんというか印象に反して外側が楚々とした美少女なので、丁寧な言葉を使われて不覚にも反応が迷子になってしまった。

 それでなんとか自己紹介しようとしたら、視界の端に動き出した人物が見えた。ようやく周囲が解凍されてきたようだ。

 これで本番に移行できる。

 

「てめぇら、人のクラスに漫才しにきたのか? ひより、お前もいい加減にしろ」

 

 想定外の乱入はあったが、周囲に時間と余裕を与えれば、こうして最初に割って入る奴がほぼ本命だと自ら教えてくれる。

 僕はそう考えて時間稼ぎしていたのだから、その甲斐はあったと考えるべき……なのだろうか? 改めて相対すると、想定の何倍も怖いのだが……。

 





 今更ですが、この話の最後の方で椎名が発して左京が返した「何者ともわからぬ者ネタ」がわからないと指摘されたので補足。2024/11/28

 Ulick Norman Owen(ユリック・ノーマン・オーエン)
 Una Nancy Owen(ユナ・ナンシー・オーエン)

 これはアガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」に登場する二つの名前です。
 そしてこれを略すとU.N.Owen→UNKNOWN。つまり、アンノウン=誰かわからない者・正体不明、ということですね。

 東方Projectの某吸血鬼(妹)とは関係ないのであしからず。
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