ようキャ   作:麿は星

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36、利益

 

「んで、『お前』は何でうちに来やがった?」

「それは僕のことだよな? それなら話す前にこちらも聞いておきたいんだが、Cクラスを動かしてる…と思われる存在X的な奴、ってお前か?」

 

 僕をしっかり見て問いかけられたので、失礼ながら疑問に疑問で返させてもらった。

 カチコミに反応した石崎を止める言葉を発したのも、東風谷の行動前に一之瀬が挨拶に行ったのも、今ひよりと呼ばれた女子との会話に割って入ったのも、全てこの男だ。また何か気になる雰囲気もある。

 それらの要素から僕の中ではもうほぼ確定しているのだが、確認は大事だ。

 

「存在X?

……まあいい。俺がCクラスの王、龍園翔だ。それにしても、よくもまぁ好き勝手やってくれたな」

 

……王?

 あれ? もしかして中二病な人か? なんかちょっと前の演技で知覚した傷口が開いていく錯覚を覚えるんだけども。

 でも、そのおかげで恐怖が驚くほど少なくなったから、これが痛し痒しというやつか。

 

「僕はついてきただけで何もしてないんだが。あっ、僕の名前は左京夢月だ」

「お褒めに預かり光栄至極。学園の不敵な巫女、東風谷早苗です」

「改めまして。椎名ひよりです☆」

「さっき話してたし知ってると思うけど、私は一之瀬帆波だよ。

……ところで、なんで椎名さんがこっち側に混じってるの?」

 

 それはそうと名乗られたら名乗り返すのが世の情け。

 連れ+αもほんわか空気に変異させようとしているのか、ボケなのかは知らないが、ツッコミ処のある自己紹介を始めていた。真面目な場面なんだから、ふざけるなよ。

 勿論、僕も龍園も華麗にスルーする所存である。

 

「左京だと? Bクラスのはぐれメタルがカチコミとはな」

「それ、他クラスにも広まってんの? 誰が流したんだよ、まったく」

 

 目立つこともしてないのに、なんでこんな変なあだ名が各地で広まってるんだよ。

 いかん。一旦深呼吸して落ち着こう。ふぅ。

 僕は、その変な二つ名をとりあえず内心脇に置いて用件を切り出す。

 

「それはともかく、だ。僕の用件は一つ。

―――龍園、ビジネスパートナーにならないか?」

「ああ? ビジネスパートナーだと?」

「おう。PPを一緒に稼がないかという話だ。違う言い方では、スカウトしに来たでも可」

 

 会っただけなのでまだ確信には至らないが、僕の考えている事は龍園が最も成功率が高そうだと勘が告げている。少なくとも次点の会長や綾小路に頼み込むよりも、僕か東風谷が先頭に立つよりも良い結果になるはずだ。

 

 更に別の意図もあり、ここで龍園に言葉を畳み掛けることで、最初の一撃としては充分。

 初対面の交渉では、口を閉じた方が圧倒的不利な立場になるのだ。それを利用して、苦手意識的なものを滑り込ませたい。

 だから徹底的に喋りまくり、考えさせて口数を減らす。そうすることで問答無用の暴力もある程度抑止できる。

 誰だろうと、殴りかかるのと話すことは両立できないのだ。

 

 僕は準備もしてきているが、龍園には不意打ちに等しいだろうから、仮にスペックで負けていたとしても成算は高いはずだ。

 なんせ、龍園には性能の違いが戦力の決定的差ではないと教えてやろうではないか! なんて、どこぞの赤い人になった気持ちで自己暗示までかけた僕である。怖いものなどあんまりない。

 

「具体的には、まず最初に恋人ガチャを作ろうと考えてる」

「恋人ガチャだぁ?」

「先日「彼女・彼氏欲っしぃ~」とぼやいていた生徒達を見たんだが、そこで確信したんだ。学生にとって、恋愛という状態異常は金…PPになる、と」

「状態異常って……それはあんまりにもあんまりなんじゃ」

 

 ちょっと一之瀬が話に挟まったが、おためごかし的な事で口を止めるのはやめた方がいいだろう。

 心苦しいが用件が済むまで、なるべくスルーさせてもらうことにした。

 

「そこから着想を得て、恋人募集中の奴の捨てアドやいくつかの特典を入れたガチャを作る。爆発的な儲けは期待できないが、継続して収入が見込める可能性はそこそこ高い」

「……」

「おまけに、こちらにいる東風谷の神社のご利益の一つが恋愛成就・縁結びなんだ。

 つまり、絡ませれば将来的に円を運用する場合でも無税にできる手段がある」

「……おい。なんで俺にこの話を持ってきた?」

「待ってください。なんで初対面のこの人なんですか?」

 

 なんか思ったよりも薄いが、一応の反応は返ってきた。同時に東風谷が釣れたのは想定内なので、簡単な内情と能力適正を説明した方がいいだろう。

 ただ、今回は龍園が仕掛けた事と似た威力偵察も兼ねているので、顔見せとお近づきになるのが第一目標である。この説明では詳細も隠し玉も伏せるので全貌は絞れないだろうが、興味くらいは引くことができるはずだ。

 

 その証拠に、龍園は考え込んではいるし、これはそれなりに考慮に値する提案だったということ。

 それと計算外だが、ユナ・ナンシー改め椎名と名乗った変わり者女子も面白そうに聞いているので、本格的に交渉する時は後押ししてくれるかもしれない。

 

「うん、龍園と東風谷の疑問は尤もだ。

 だが、まず友達で最も能力の高い四方は、こうした商売の中核に向いていない。次に綾小路と佐倉は、性格や能力的に無理…というか違う運用の方が適している。となると、仲間内では僕か東風谷しかいないわけだが、僕達には致命的に人望が不足している」

「うっ」

「ああ、ちなみに龍園。今出した名前は、協力してくれそうな面子な?」

 

 神社の事を引き合いに出したから東風谷は顔色を変えたのだろうが、言ったように仲間内には適正の低い者しかいない。

 しかし、いないなら探すとか育てるとかすればいいのだ。これだけ早い時期なら、目を付けておいて気長に関係を築いていくこともできるだろう。

 それこそアレな企業人が時に口にする矛盾した即戦力さえ求めなければ、龍園には期待できるポテンシャルを感じる。

 

「そこで龍園だ。彼は行動力と先見性。そして特にこの短期間でクラス単位の集団を率いる統率力を垣間見せた逸材だ。万が一、早めに引き入れられば、PPを稼ぎつつ、東風谷の神様の信者を増やすチャンスを作る上で……」

「いやいやいやいや! 話が飛びすぎてますよ! ホップ、スッテプ、ジャンプの3段飛びが、いきなりジャンプから始まった感じですよ! それにその特徴なら、一之瀬さんでもいいじゃないですか!?」

 

 まったく。東風谷は何を言ってるんだ。

 今回みたいな東風谷による奇襲。

 一之瀬をスカウトする場合、計画の成功率が上がる代わりに、こうした限りなく黒に近いグレーな手に制限がかかり、おまけに一之瀬の胃に継続ダメージを与える可能性が高い。わかっているこの学校の現状で、その二つは無視できないデメリットを産むだろう。

 それに自分のクラスのリーダーを気遣ってやるくらいの心配りは僕にもできるのだ。

 

「アホか。一之瀬をスカウトしようものなら、各方面から怒られるだろうが。

 だから一之瀬以上に適正がありそうな奴を、ちょっと前から探してたんだ」

「それが、俺だと……」

「いきなりこんな事言われても困るとは思ったんだが、東風谷の用があったからついでに僕も会ってみようかと」

「ついで……か」

 

 だが、一応本人がいる前でそのまま言うわけにもいかない。

 なので流れを変える意味でも一旦話しを戻して、関係改善の為に準備してきた物品を龍園に渡す事にした。

 

「―――まぁでも、とりあえずそっちは置いといて、順序が逆になったが僕の用件じゃない方を片付けてしまおう」

 

 一之瀬が付いてきてしまった以上は、こちらの収拾も必要だろう。彼女が本格的に話に割り込んでくると面倒だからである。

 

 

 

 当然のことだが、目的を果たすのに必要な小道具は準備している。

 ついでに面倒を起こした事への文句(本来は東風谷宛でもある)も付け加えて、僕は龍園の前の机にそれらを並べていった。

 

「これはよくわからん喧嘩を買った東風谷の分!

 これはちょっかいをかけられていたBクラスの奴等の分!!

 そしてこれが何よりも重要な―――面倒事に突っ込んだと悟ってしまった僕の分だ!!!」

 

 そう言い放って龍園に叩き付けたのは3つ。

 内訳は、昼に調達しておいたホールのショートケーキ、天体観測の招待状、学校の考察と対応を書き込んだメモ帳である。

 叩き付けたといっても、勿論ケーキはそっと置いた。ぐちゃっとなったら、嫌がらせと変わらないからな。

 

「お近づきの印だ。ケーキはよければ皆さんでどうぞ」

「……………………なんだこれは?」

「何だといわれても困る。

 僕と東風谷だけではクラス間にまで発展しそうな喧嘩を買うのはリスクが高すぎ、一之瀬含むBクラスの奴らにもおそらく反対される。挙句、抱き込もうとするにはPPが心もとないんだから、一之瀬の方針通りにいっそ表面だけでも仲良くしようって提案だが?」

「ええーーー! 夢月さんも殴りこみに来たんじゃないんですか!?」

「ばっか、お前! 見るからに喧嘩慣れしてそうな奴が多いだろ。特に龍園やあっちにいるSPみたいな黒人と殴り合いとかできるか! だいたい僕には殴りたい相手なんかいねーんだよ! それなら、今こそ一之瀬が言ってた話し合いの時だろ!」

「こいつ……まさかマジで『ついで』程度の理由でカチコんできやがったのか…?」

「東風谷の目的は達成したんだから、もうこっちはさっさと手打ちにしようぜ」

 

 言うまでもないが、後半の言葉は東風谷に向けたものだ。

 龍園本人が纏う暴力の気配を軽視できないのは当然として、此方を静かに見つめているデカイ黒人と殴り合いにでもなれば一撃でKOだろう。それどころか、Cクラスにはさっき名前が出た石崎も含めて喧嘩慣れしてそうな者が予想以上に多い。うちのクラスとは雰囲気が全然違う。

 Bクラスと同じ基準で考えるべきではなかった。

 そうであるとわかった以上、次善の策は来る前に一之瀬が言っていた話し合いしかないのは道理だ。

 様子見とはいえ、ビジネスパートナーの申し出をしたこともあり、更なる関係悪化と劣勢にならない為なら、出せるものは出してしまった方がいい。

 事前準備に抜かりはなかったので、今回はそれができる。

 

 

 

「……………………クックック。面白ぇじゃねえか。甘ちゃんクラスだと思えば、堂々と乗り込んできて喧嘩を買う女に、手土産片手に俺をスカウトしようとする馬鹿か」

「馬鹿とはなんだ。

 一応補足しておくと、さっき渡したメモ帳には2・3年生の退学者情報やトラブルの対処方針を、生徒会長から聞き出した物がいくつか書いてある。聞いた感じだと伏せてある情報も多いっぽいが、これで威力偵察もどきの必要性は低下するだろう」

 

 これは佐倉の件で、ストーカーが生徒だった場合の想定をした時に調べたり聞いていた事だ。

 学校の情報を集めているなら、なかなかの価値になるのではなかろうか。

 

「ええ!? ちょ、それ私も知りたいんだけど!」

「へぇ、それに気づいてやがったか。しかもこの様子だと一之瀬にも報告してないみてぇじゃねえか。いいのか? 教えてやれば、ご主人様に褒めてもらえんぞ?」

「……多少は生徒会長と関わりがありそうだった一之瀬は、知ってると思ってたんだよ。後で纏めた物をメールで送るから今は勘弁して。

 あと…僕、そういうプレイはちょっと……」

「プ、プ、プレイって!」

 

 半分蚊帳の外だった一之瀬が妙なところで食いついてしまった。そして僕と龍園のなんてことない軽口の応酬を、たくましい妄想力で発展させるという事故も起きたが問題はない。ただ、綾小路に続き一之瀬も純粋型ムッツリだった事が白日の下にさらされただけだ。

 

 一方、僕と龍園は胡乱な視線を一之瀬に向けた後、今日会ったばかりだというのに阿吽の呼吸を思わせるスルースキルで話を続行することにしていた。

 

「ともかく、これで挑発や嫌がらせ行為をやめてくれると一之瀬への面目も立つから、できれば考えといてくれ」

「できれば?」

「ああ、どうせ裏取りや既に着手してるのもあるだろうし、メモ帳の最初に書いといた名前の奴以外は好きにすればいい。色々終わったら、以降しばらくは自発的にやめることになるだろうしな」

 

 僕としては、荒事関係に不安が残る四方と佐倉だけはこうしたことから遠ざけたいが、名指しすることで逆に狙われてもまずいので、ここには天文部関係者+αとして東風谷・綾小路・戸塚の3名もデコイ代わりに混ぜておいた。

 

「ここにはてめぇの名前がないが」

「僕なら狙ってもかまわない。そんな事より、これで手打ちにしてくれるんなら僕的には本題の恋人ガチャについて返事が欲しいんだが……どうだ?」

 

 あっ、しまった。自分の名前を入れ忘れてた。

 でも、この状況で「やっぱ僕の名前も入れといて」とか言えない。

 問題ない……わけないが、今更言っても仕方ないから軽く流してガチャの事について聞いておく。

 丁度よく変える話題があってよかった。

 

「そんな事、か…ハッ、いい度胸じゃねぇか。

―――逆に聞くが、NO以外の返答があると思ってんのか?」

「思ってるわけないだろ。今日は用件ついでの顔合わせが目的で、龍園風に言えば威力偵察のお返しみたいなもんだ」

「ふん……」

 

 龍園が考えなしな奴か、暴力オンリーの奴だったらわからなかったものの、コイツは少し話せば理解できる知性を感じる暴力の匂いをさせている。

 こういう奴には、まず力と結果を見せなければ引き入れることはほぼ無理だ。東風谷や僕が見せたものだけでは、まだ龍園には不足だろう。

 しかしこの探るような視線。

 次に何らかの波風が大きくなった時、あちらから接触してくるかもしれない。それまでは情報や判断材料を集めつつ内を固め、辛抱強く大胆な制圧・反抗の機会を待つタイプ。

 龍園という同級生が、僕にはそう見えていた。

 

「そうか。そうくるか。

……………………クックック。おい、お前ら! 俺が命令するまでBクラスへの手出しするな! 逆らえば制裁を加える!」

 

 ゆえに、このあたりが無難な落とし処だろう。

 天文部関係者ではなくBクラスとしたのは、なかなか興味深い返し方だが面白い。

 僕も龍園も、ここで全てを明かす事も返答もできない。だから手札を見比べる時間―――要は期間限定の不可侵条約のようなものがある方がお互いに都合がいいということだ。

 

 その後は、龍園と一之瀬の両クラスリーダーが揃っていたこともあってスムースに問題解消し、これからのクラスメイトへの説明や種明かしも手間を省けた。

 窮屈だっただろうが東風谷の要望も叶った。

 僕もCクラスに一手を置くことが……まぁできた。

 

 なんにせよ龍園が、最低でも利益すら拒む反抗期のガキではない確認ができたのは収穫だ。

 最高なら少し経験を積むだけで、軽々と僕以上の成果を出せるようになるだろう。

 やはり先々の見込みを含めて、今この時に媚を売れたのは大きかった。

 

 

 

 と、ひと段落着いた時だ。

 想定内だが、面倒な部類の一手が一之瀬との話を終わらせた龍園から僕に放たれた。

 

「おい『左京』」

「なんだよ。まだなんかあったか?」

「てめぇが俺に付け。そうすれば潰さねえでおいてやる」

「断る。それは面倒にもほどがあるぞ、この変なドラゴンフライ・ヤロー!」

 

 でも流石に小さい火種を投げ入れといて、投げ返されないとは思っていない。

 ここで即断即決で断れなければ、一之瀬に不審の種を植え付けられてしまっていたかもしれないが、これならなんとか返せる。

 おそらく失敗するとわかってはいたのだろうが、油断できない奴である。

 東風谷は……なんか思い出し笑いみたいな笑顔になってるし、たぶん心配いらなかっただろうが。

 

「俺をふざけた名で呼ぶな! ぶっ殺すぞ!」

「うっせぇ! 僕が本名に掠りもしないはぐれメタルなんだから、龍園翔がドラゴンフライなのはむしろ自然だろうが!」

「てめっ、無茶苦茶言ってんぞ!?」

「ドラゴンフライが嫌なら、ドラゴンボーイにしてやるよ」

「そこじゃねぇよ! 地獄送りにされてぇのか!?」

 

 あえてズラした名前とあだ名の関係性について議論してくるなら、龍園は言葉の分野では敵ではない。年相応に我儘な部分を見せるくらい熱くなっては、この場をひっくり返せる言葉や策は出せないだろう。

 

 それでも感情を押さえ込んで冷静になろうとしているのは見て取れるものの、経験値が不足している。この隙に、こちらは適当に返しながらきりのいいところで帰ってしまえばいい。ともかく龍園をある程度理解できた以上、長居して冷静に戻ったり、何らかの策を編み出されるとまずいだけだ。

 一度でもこちらの土俵に乗せたなら、そのタイミングを組むのは難しくない。

 

 

 

 全ての用件が済んだ今、ここに留まる必要もないし、僕は機を見て東風谷や一之瀬の方を振り返り、帰るよう促した。

 そしてそのまま扉の方へ進み出したら、ギリギリ立て直しを間に合わせてきた龍園に再度呼び止められた。

 

「待ちやがれ」

「ん?」

「夢月さん!!」

 

 呼び止められて振り返った時には、もうかわせない地点まで龍園の拳が迫っていた。そして、東風谷の警告に応える反射神経は僕にはない。

 目を見開いて僕はその時を待ってみた。

 でも、龍園がここで本当に殴ってくるようならこの先が非常に楽になった事だろう。

 しかし、やはりというべきか、残念というべきか。助かったというべきか。

 それは僕の鼻先で止まり、続いて拳の向こうから脅すような声が聞こえてきた。

 

「左京夢月―――従わねえなら、てめぇだけはいつか必ず潰す。それを覚えておくんだな」

「ハッ、やれるものならやってみろ。僕は逃げも隠れもデフォルトだ。かかってきた奴全員に徒労感を味あわせてやるよ」

「そこは逃げも隠れもしない…のでは?」

「これははぐれメタル……」

「格好悪いです」

「そこの女子組! 男の口上にツッコミ入れるんじゃない!」

「……チッ、もうさっさと行きやがれ」

「龍園君……その、ごめんね。色々お邪魔しました」

「ふぅ、まったく。

……んじゃ龍園、またいつかとか」

 

 それにしても、直前の流れ的に冗談だと思って龍園にはなんとなく返していたが、Cクラスの扉を通りながら、改めてふと思う事がある。

 

―――これはもしや本気で闇討ち宣言だったのでは?

 

 それに気づいた事で、僕の内部で暴力的な集団に狙われる未来予想が湧き上がり、恐ろしさで逆に抑えきれない笑いがこみ上げてきてしまった。

 

「ふっふっふ、ふははははっ、あーはっはっは!(泣き)」

 

 顔で笑って心で泣くってこういう感じなんだと初めて知った。これが物の本で知る、追い詰められて防衛本能が働いた状態なのだろうか?

 あの野郎、帰り際になんてことしてくれるんだ。新月の晩が怖くなったらどうする。マジでふざけんなよ。次の機会があれば、絶対仕返ししてやる。

 

 はぁあああ~あ……。

 なんかめっちゃ怖い奴らに目をつけられた気がするんだけど、気のせいだったりしないかなぁ。どう考えても、ちょっと話しただけで何もやってないオマケの僕より、殴りこんだ東風谷の方が主役級の暴れっぷりだっただろうに。

 

 そこには、何故か収まらない(泣き)笑いを響かせながら、東風谷と一之瀬が付いてくる確認すら忘れて、恐怖に怯え情けなく撤退する自覚が生まれた僕がいた。

 最低限の目的が全て達成できたことだけは救いだろうか。

 

 やんぬるかな。また立つ鳥跡を濁してしまった。

 なんでスッキリ去らせてくれないんだ。ホント勘弁してよ。

 

 

 

 脅され、高笑いとともに去っていった僕。

 この事実を、自分自身で客観視できる機会がかなり後にやってくることを、僕はまだ知らない。

 




 矛盾した即戦力:実務経験10年以上の新卒、売れた実績のある新商品を作れる人材など。
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