ようキャ   作:麿は星

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 12月ってことで時間が足りない。師走とはよく言ったものだ。
 だから年末年始だけでも、1日30時間くらいかけて自転する配慮はあってもいいんじゃないでしょうか、地球さん?



40、美学

 

 7月1日、綾小路に馳走した放課後。

 バイト中に佐倉と掃除していたら、それは降ってきた。

 そして思いついたら即座に立案・実行する僕なので、すぐそれを口にする。

 

「さて、今日はちょっと佐倉にやってほしいことがある」

「……なに? 最近わかってきたけど、普段の左京君がそう言う時って、ろくでもないことが多い気がする」

「大丈夫。これを持って写真を撮らせてほしいだけだから」

 

 もうそこそこ友達をやっているというのに、疑わしそうに僕を見る佐倉。

 そんな佐倉を安心させるようにそう言って、僕は今まで自分が使っていたブツを佐倉に手渡す。

 

「え? なんでそっと掃除機渡すの?」

「だって芸名が雫だよ? なんか幻○旅団にいそうじゃん。だったら、掃除機と眼鏡は必須だろ」

「わたし、あんまり似てないし、掃除機持ってもあのシズクには見えないと思う」

「またまたご謙遜を。念、使えるんでしょ~? 軽~く片付けちゃってくださいよ」

「○メちゃん! って使えないからね」

「そうか、やっぱり無理か。佐倉があの幻影○団員だったら、掃除が楽になったんだがなぁ。

……一応聞いておくけど、内緒にするから掃除の時だけデ○ちゃん具現化できない?」

「そんな風にチラチラ見ても、ノリツッコミしかできないよ! っていうか、わたしじゃなくてもあんなこと不可能だから!」

「ノリツッコミはしてくれるのか……」

 

 もし青娥さんが僕にしたように佐倉を仙人に勧誘して承諾されてたら、そろそろ四大行っぽいナニかができるかも、と思って試しにさり気無く聞いてみたのだ。

 なんか個人的に、仙人というとネ○ロやビ○ケのイメージが強いせいか、あっち方面で考えてしまうんだよなぁ。

 まぁ、僕の勘でも佐倉は人間としか判別できないし、仙人の勧誘をしていないか資質が低いかのどちらかなのだろう。

 なお、これまでに何種類か仙人っぽいナニカになってないかの確認はしている。全部違ったけども。

 

 それはともかく、幻影○団員シズク……の振りをした佐倉の写真を撮らせてもらうことはできた。

 途中から本人もノリノリになってきて、撮影や表現の要望に熱が入ってくるほどである。

 僕? 勿論、普通に居た青娥さんと笑い合って、更に佐倉を煽てまくりつつ撮影続行しましたがなにか?

 

 なぜこんなことをしたのかというと、仙人かどうかの確認ともう二つ。

 あとでこの写真を佐倉に見せて前の一之瀬のように恥ずかしがったりすれば絶好の話題変換ワードになる為と、うだうだ悩んでそうなので気晴らしにちょうどいいと思ったからだ。

 まぁグラビアをやっていて、今更服すら変えないコスプレごときで恥ずかしがるとは思っていないが……。

 

 佐倉は定期的(という頻度でもないが)に意味不明に曇る事があって面倒なので、こういう材料は日頃集めておいた方がいいのだ。

 無条件に曇りからの感情変化を起こせるなら、場を選ぶ必要はあるがウザく「し・ず・く・ちゃ~ん」と呼んでからかってみようかと思うほどになるのである。

 

 そんな感じに、佐倉に仙人の確認を取ったのはワンチャン楽ができないかと思ったのもあるのだが、どちらかというと考え込んでる?というか何か言いたそうな仕草を見せていて面倒モードだったからだ。

 

「左京君って、悩み少なそうだよね」

「失礼な。少ないんじゃなくて皆無だ。

 なんせ、考えても仕方ないことは忘れるし、どうにかできそうならさっさと動くからな」

「これ失礼かなぁ」

「短気は鈍器というだろ? 言葉とか知識とかの力押しで悩みは大抵解決してるものなんだよ」

「それ短気は損気……」

「損気も鈍器も似たような響きだし、些細なことは気にするな」

 

 やはり勘は間違ってはいなかったようで、佐倉は面倒な状態へと移行しているようである。

 そうでなければ、ツッコミの切れ味がこんなに悪くなるはずがない。

 しかし色々話したが、多少明るくなった程度で結局その日に佐倉が『いつもどおり』になることはなかった。

 

 

 

 

 

 2日は、ほとんど日常と変わりなかった。

 しいて言えば、朝のホームルームで担任がポイント支給が遅れている原因を話して情報を募ったことと、Aクラスになると担任にもボーナスがあるから頑張って、てなことだけだ。それとガチャで集まった時に少し遅れてきた櫛田と綾小路から、原因がDクラスに関係していたので「何か知らない?」とか「明日の放課後、一度Dクラスに来てくれないか?」とか聞かれたくらい。

 ちなみに、Dクラス来訪については四方と東風谷が乗り気っぽかったので、予定が空いていた僕も適当に承諾した。

 

 とまぁそんなわけで、3日の放課後。

 僕と四方・東風谷の3人は、Dクラスへ向かっている。

 かなり聞き流したが、櫛田によると冤罪をかけられたクラスメイトがいるらしく、なんとか無罪を勝ち取りたいそうだ。

 

 個人的にはどうでもよかったが、櫛田(とついでに綾小路)に言われれば断れない。

 これは櫛田に恩を返すいい機会である。

 しばらく一緒にガチャ運営していて気づいたのだが、櫛田は佐倉とは同じ性別とクラスなのに、佐倉と四方からは一歩引かれてる感があって、なんというか警戒?されている。なので、恩を返す機会は貴重なのだ。

 

 そうしてDクラスに入って見回し、最初に目に入ってきたのは佐倉が赤髪の暴漢に襲われているところで―――状況を認識した瞬間から思考が飛んだ。

 

「―――ッ!!」

「あ?」

 

 次に、僕が我に返ったのは空中だった。

 気づいた時には、その赤髪の暴漢に向かってドロップキックを放っていたのだ。

 

「―――ってぇな! 何しやがる!!」

「東風谷、頼むっ!!!」

「―――ヒュッ!」

 

 僕の両足がヒットして暴漢が僅かに後方に滑っていく。幸いにも、その暴漢は直前に佐倉から手を離していたので佐倉に被害はない。

 尤も暴漢の体格だと、命中こそしたものの僕では速度も質量も不足しているのは明白だ。

 ただ今は僅かに後退させる程度で充分だ。佐倉から少しでも距離を離せば、こちらには未だに底が見えない風祝がいる。

 僕が叫ぶと前後して、緑の影が落ちた僕を追い抜いていき、妙な呼吸音?が聞こえた。

 次いで、椅子や机がたてる音や騒ぐ声。

 そして、人が倒れる音。

 

 当然、起点は東風谷早苗である。

 

 倒れていてよく見えていなかったのでおそらくが付くが、音からして赤髪の暴漢に何かの攻撃を食らわせたのだろう。

 東風谷の身体能力が並外れて凄まじいのは知っているので、たかがチンピラ一人や二人なら問題なく倒せる。

 だが、まだ気を緩めていいわけじゃない。

 僕は落下したことで痛む体を無理やり起こし、再度声を張り上げた。

 

「四方! 佐倉を守りつつ一之瀬へ連絡! まだ仲間がいるかもしれないから、警戒も頼む!」

「おう、わかった!!」

「東風谷! 暴漢は!?」

「確実に意識を刈り取りました! しばらくは目を覚まさない程度には力を込めてあります!」

「ナイスだ! 状況からしてこの暴漢はCクラスの鉄砲玉の可能性が高い! 不意打ちに気をつけて、威圧しながら佐倉達の周りで守りを固めてくれ!」

「はいっ! 任せてください!」

「佐倉! 僕達には誰がこのクラスの者かわからない。四方と東風谷に情報を!」

「ふぇっ!?」

 

 佐倉だけ状況に着いて来れていないが、襲われたばかりだし無理もない。

 しかしあの二人が付いている以上、もう安全なのは間違いないだろう。

 四方と東風谷の警戒を抜ける奴など僕には思いつかない。

 それに五月蝿かった声を東風谷なら強制的に静めることもできるし、守っている間に佐倉を落ち着かせて情報を聞き出してくれるはずだ。

 Dクラスの奴らには悪いが、それまで一緒くたに警戒させてもらう。

 

 とにかく、僕はまず暴漢を押さえるのが先決だ。

 軽く見回してみると、椅子に埋もれて倒れている赤髪が見えたので急いで駆け寄り、うつ伏せに転がして背中を踏みつける。こうする事で体重移動を調整すれば、気づいたとしても立ち上がるのがかなり大変になる。周囲が何故か呆然としてて邪魔が入らなかったのは幸運だ。

 簡易的な拘束だが、Dクラスリーダーもしくは櫛田と話しておいた方が良いので、もし目覚めてもその間だけは最低限暴漢の動きを止めておきたい。

 

 次はこのクラスのリーダー格と事後承諾でもいいから話を通すことだ。

 ざっと教室内を見渡したところ、否定していた櫛田を除いてリーダーっぽい奴は2人。

 こちらに駆け寄ろうとしていたイケメンと、ふん反り返って爪の手入れをしていたと思しき金髪の男。この二人からは、東風谷の威圧の中でも会話になりそうな余裕を感じるからだ。

 他に大丈夫そうな櫛田と綾小路は、なるべくリーダー格として扱って欲しくなさそうだったので、必然的にあの二人のどちらかがDクラスのリーダーだろう。

 

 そしてどちらも一応こちらを見ているが、僕の足元(の暴漢)を見ているイケメンと僕自身を見ている金髪なら、よりリーダーらしいのは金髪の奴な気がする。勘だが、どこか東風谷に通じるモノも感じるのだ。

 

「いきなり失礼。

 君がDクラスのリーダーか? もしそうなら少し話したいのだが、時間や都合は大丈夫だろうか?」

「おや? 私かね?」

「そうだ。ああ、僕は1-Bの左京夢月。左の京都に夢の月だ。良ければ君の名前を聞いても?」

「フッ。いいだろう」

 

 短く微笑みながら承諾されたが、やはり只者ではない雰囲気を放っている。てか、なんだコイツの雰囲気は……。外見だけはどこかで見たような気もするけども。

 僕の初対面の印象はともあれ、その男は優雅にすら見える仕草で爪を手入れしていた道具をゆっくり仕舞うと自己紹介をしてくれた。

 

「私の名前は高円寺六助。高円寺コンツェルンの一人息子にして、いずれはこの日本社会を背負って立つ人間となる男だ。先程は私に代わり、その醜いモノへの制裁ご苦労」

 

 長い髪をかき上げながら、そう言ってまた優雅に微笑む高円寺。

 ナルシストっぽい部分もあるが、よく笑う奴だと認識を更新しつつ、なんとか普通に返す。

 

「美学も矜持もない輩にムカついただけだから礼はいいよ」

「遠慮せず受け取っておきたまえ。私が礼を言うのはなかなかないことだ」

「ん。そんじゃ、どういたしまして」

「それにしても、この私の前で美学を語るとはねぇ」

「語るってほどじゃない。この暴漢には知性も品性もないと思っただけだ」

「確かに美しくなかったねぇ。あと少しムーンボーイが遅ければ、私自ら制裁していたかもしれない」

 

……ムーンボーイ? それはもしかしなくても僕の事か?

 こんな時になんだが、はぐれメタルよりもよほどいいあだ名である。僕の彼への印象は急上昇した。

 高円寺は口も上手いようだ。

―――って、そうじゃない。

 

「そうなってた時も興味あるけど、まずは起きた事態と結果について謝罪したい。Dクラスを騒がせてすまなかった。それと責任は僕が取るが、それは少し後にしてほしいんだ」

「私はまったく構わないとも。しかし、そのレッドヘアー君をどうするのかね?」

「とりあえずCクラスに叩き返してこようと思う。冤罪だなんだと起こっている状況で、Dクラスの者を攻撃する意味があるとすれば、Cクラス以外にはないはずだ。

 尤も、それにしては腑に落ちない部分もあるからこの下種の暴走な気はしているが、それでも交渉材料程度には使えるだろう。だから冤罪をかけられたとかいう奴にもCクラスまで付いてきて欲しいんだ。その結果次第で、今回このクラスで騒動を起こしたことを大目に見てもらいたい」

「Hmm。君なりの美学を持ち、礼儀をわきまえているムーンボーイに一応助言しておこ」

「待ってくれ!!」

 

 僕が高円寺に交渉を持ちかけていると、先程から足元の赤髪を見ていたもう一人のリーダーっぽいイケメンが、遮るように待ったをかけてきた。

 しかし話しかけた高円寺以外に、誰かが割り込んでくるのは想定内だ。

 クラスに乗り込んできた暴漢が暴れたのに、Bクラスの僕が主導権を握っている状況はリーダー格にとって面白くないだろう。本来ならこの暴漢を引き渡して、Dクラスのやり方に任せるのが筋というもの。

 かといって、このCクラスの鉄砲玉という札がないと、冤罪とやらを何とかするには面倒な事に―――。

 

「須藤君は―――その赤い髪の男子はDクラスの生徒なんだ!! だからCクラスに連れて行っても意味はないよ!」

 

「…………は?」

 

―――なると思ってたら、なんか意味不明なことを言われた。

 

 

 

「…………………………い、いやいや。それは流石に冗談だろ? そんな馬鹿がいるわけが……」

「残念だけど本当だよ」

「櫛田……?」

「それに今回はなんというか間が悪かったというかなんだけど、その…事件の当事者で冤罪だって訴えてるのも須藤君なんだ」

「え、嘘だろ? ってマジなの? 櫛田以外にも一応確認……あー、そこの、えーと…イ、イケメン? ……それって本当?」

「この場面で、その呼び方はやめてくれないか!? 僕は平田洋介。名前か苗字を普通に呼んでほしい!」

「……平田…君。あー、よろしく?」

「うん。こんな時だけど、よろしく左京君。須藤君に関しては、概ね櫛田さんの言ってるとおりだよ」

「そういうことだよ、ムーンボーイ」

「高円寺……」

「君がこれからどうするか、見物だねぇ。願わくば……まぁこれは言うまでもないかもねぇ」

 

 衝撃の事実。

 予想をはるかに下回る類人猿が同級生だったことだ。

 こんな状況で、リアル加縫(名前からして別人だろうけど)と遭遇するとは流石に想定してなかった。キャットルーキーの加縫みたく棒でも持たせたら人間に進化したりするのだろうか?

 いやいや、それどころじゃない。

 そんな猿に出会いがしらのドロップキックをかまし、東風谷に追撃やDクラス内の威圧まで頼んだ短慮な者もいるのだ。

……勿論、僕のことである。

 

 これはもはや損害が出るのは防げない。

 それならいっそ事情を無視して僕以外の損害を最小限に誘導しつつ、須藤とかいう猿を僕と同程度以上の処分で事態を終わらせたい。

 正直事情はよくわかってないが、最低でも佐倉を襲っていた奴を無罪にはしたくないのだ。他人に迷惑かけといて自分の尻拭いもせずに暴れるような奴は、退学までいかずともなんとしても停学まで持っていきたい。

 

 そう第一目標を決めたら、次はほぼ全方位にとって妥当な収め方だ。

 考えるに、僕と須藤に停学、東風谷には僕の指示だったという建前で厳重注意あたりを申し出れば、僕が知る前例から判断して生徒会や教師は飲んでくれそうな気がする。折角作った神様達への恩を返せそうな神社やガチャのこともあるし、僕と東風谷の両方が停学する事態だけは避けたいので、東風谷の分は僕が受け持つ形だ。

 

 ついでに、一応保険として須藤ともめているというCクラスの生徒(達?)に対し、厳重注意か停学、あるいはCP減点の提案もしておこう。このレベルの損害までなら、おそらく龍園は許容するだろう。むしろDクラスに猿がいる情報に喜んで、退いてくれるかもしれない。

 

 ざっとした方針を固めた僕は、とりあえず何か口を出そうとしていたっぽい四方と佐倉を目で黙らせ、物事を進めてしまうことにした。

 四方や佐倉に火の粉を残すのは愚策である。

 

「よし、大体の状況はわかった。

……今から学生裁判?だかをやってるらしい生徒会に連絡して出頭する。そこで僕とさr…須藤の停学処分を主張するから、これをもって手打ちにできないか?」

「ハァーッハッハッハ! なるほどなるほど…それが君なりの美学の示し方というわけだ。私の美しさとはまた違うが、その『美学』は理解できるねぇ」

 

 何故かなにやら親しげになった高円寺はともかく、他からはヘイトを集めるだろうが、これで東風谷と佐倉に向かうはずのモノは、全てとはいかずともそれなりに僕へ誘導できただろう。

 それぞれのクラスのCPを減点させて敵視されるのは、僕と猿だけにするのが一番収まりがいい。東風谷はまだしも、佐倉に飛び火させるのは筋が通らない。

 つまるところ、僕も猿もやっちまったことは自分で責任を取るのが当然だと思うからである。

 





 前話の綾小路との話や今話冒頭の会話みたいなの延々と続けられるし、本当は櫛田や綾小路からDクラスの問題解決に協力してくれ、って話もあったんだけど、ただでさえ遅い話が全く進まなくなるので割愛。
……またつまらぬもの(ネタ)を切ってしまった。

 あっ、ちょっと日程やイベントの順序がおかしいのは仕様です。ミスではないつもりなのでご了承ください。
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