キャラ崩壊……と言えるか微妙なラインかもですが、私が認めるキャラ崩壊第2弾です。
苦手な方は心構えをするか気にしないでください。
高円寺が機嫌良さげに口を閉じると同時に、先程の僕の言葉を聞こえていたのか教室に一之瀬が駆け込んできた。
「―――停学ってどういうこと!? 今度は何をやったの、左京君!」
自分で四方に呼ぶように指示しておいてすっかり忘れていた一之瀬に柴田・神崎が慌てて来たが、やることは変わらないから別に構わないだろう。
一之瀬達の後ろから近づいてくる別の集団がいなかったら、だったが……。
「おいおい、騒がしいと思えば。
雑魚どものクラスで、なにを面白そうなことやってやがるんだ、左京?」
その集団とは、龍園と凸凹トリオ(主に殴られたと思しき顔が)である。
一之瀬がDクラスに入ってきた時に、龍園の笑っている顔も後ろに見えたので、頼まれ事も一気に片付ける欲が出てきてしまった。
本来情報を得たとしても、こんな風に別のクラスに来るようなタイプではないと見ていたが、勝負処や引き際を感じ取ったのかもしれない。
相変わらず油断はできないが頼もしい嗅覚だ。
「あー、一之瀬はともかく龍園が何で来たのか知らんけど、ちょうどよかった。さっきこの暴漢の猿にドロップキックをかましてしまってな。自分の尻拭いついでに、暴漢の処分含めて他のトラブルもさっさと終わらせようかと思ってるんだ」
「暴漢……どろっぷきっく……」
「クックック、ぶっ倒して背中踏み付けにするとかやるじゃねぇか。逃げ隠れがデフォルトなんじゃなかったのか?」
「いや、気づいたらドロップキックしてて空中だったんだよ。それに暴力性が高かったから、万が一起きた場合の拘束も必要だろ? これならだいたいの動きは封じられる」
「ああ、それでずっと踏んでたんですねっ! 夢月さんが何かに目覚めたのかと心配しましたよ!」
「はぁ……。東風谷は東風谷で何を心配してるんだよ。ここはもっとこう、違う心配をするべきだろう?」
一之瀬は呆然と何か呟いているが、僕達の話の影で柴田と神崎が四方と佐倉に寄っていくのも見えていたので、少しほっとした。
ついでに東風谷は今日も平常運転のようで何よりである。
東風谷はわからないが、四方なら先程僕が目で伝えた四方自身や佐倉をフェードアウトさせようとしている事も察しているはずだ。
今も何かを握っている気がする佐倉が動こうとする前に止めてくれているのだから、考えや狙いは読んでくれている前提で四方を信じるしかない。それでも早く動かないと、多分佐倉に限らずどこからか横槍が入ってしまう気がする。
そして、一之瀬ほどではないがBクラスでも善良な部類の二人であれば、四方から事情(考えか?)を聞いて協力してくれる可能性は高いだろう。保険として見た場合、雰囲気を良くしてくれる柴田と平均的に高性能な神崎が付いてきたのは幸運だった。
「まぁいいや。これから生徒会長に連絡入れるから、龍園達も少し待っててくれない? 後ろの怪我してる3人なんだろ、この赤い猿とやりあったの」
「ククッ、赤い猿ってまんまじゃねぇか。それでてめぇ、どう片を付けるつもりだ?」
「さっき聞いてたんじゃないのか? 僕と猿は停学、って申し出るつもりだよ」
「そっちじゃねぇ。うちの石崎達3人をどうするって聞いてんだよ」
「出たとこ任せに決まってるだろう。その辺の事情なんて僕は知らないし、証拠とかが“出てきたら”停学、最悪退学って感じになるんじゃね?」
「ふざけ「石崎! わかってねぇなら後で説明してやるから今は黙ってろ。他の二人もだ」……龍園さん…わかりました」
今、僕の一当て代わりの野放図な発言を受けて、龍園が石崎を止める前に違う方向へ一瞬視線を送った。
その相手は……東風谷、もしくは佐倉か。
まだ推測の段階だが、龍園が来た事でだいたいの構図と道筋は見えてきた。
おそらく東風谷か佐倉は、龍園が仕組んだ事に対する札を持っている。その札は今回の件を決定付けるほどの力を持っているとみた。
だから龍園本人が当事者3人と動き、何らかの対処を試みようとしていたところにDクラスで騒ぎがあった。覗いてみれば、僕が猿の上で踊ってるのが見えてブッこんだ。
大雑把には多分こんな感じだろう。
それが情報か物品か証拠かは彼女らに聞いてみないとわからないが、龍園と僕はこの札を開示させたくないという点で協力できる。尤も、龍園にその事はわからないだろうが……。
ともあれ、そこを上手く突ければ、Cクラスを退かせることができるかもしれない。
猿が佐倉を襲った理由も、佐倉が協力を拒んだか人見知りを発揮して話ができなかったからだと考えると話が繋がってくる。どちらにせよ、暴れたのだからその責任は必ず取らせるが。
「……左京君、とりあえず須藤君から足を下ろしてくれないか。もう押さえつけておく必要はないだろう?」
「ふむ。そうだな。これから電話するし、その方がいいか」
そうした考えがあったから、平田からそう言われた時に好都合だった事もあって受け入れた。
東風谷か佐倉の札を使わないなら、もう一枚くらいCクラスへの手札がほしいのだ。
龍園は流石に無理だろうが、他の3人の目の前で無防備に電話すれば、僕に攻撃をしてくる可能性が生まれるかもしれないと考えて距離を測る。
痛いだろうし、とても怖いが、前の上司に責任を押し付けられた際に何度も罵られ殴られ踏みつけられた経験を持つ僕なら、不良っぽいとはいえ高校生の一撃くらいは耐えられるはず。
しかし、なんで他のクラスの教室で殴られるかもしれない恐怖と戦いながら、3クラスのリーダーを含む大勢の目の前で、苦手な会長に苦手な電話をしなくてはならない事になったのだろうか? コレガワカラナイ。
何故か教室中が固唾を呑んでいるように静かになっていることだけが救いだろう。
僕はそんな現実逃避をしながら、さり気無く龍園達4人を左方に置くように会長へ電話をかけた。
「―――というわけで、僕と須藤は停学処分が妥当かと愚考します。C・Dクラスの裁判もあってお忙しいでしょうが、この後停学の手続きをお願いしたいので、少しだけ時間をいただけないでしょうか?」
静かになっている教室内で、僕が事情説明する声だけが響いている。
誰も邪魔せず、とんとん拍子にほとんど報告や提案を終えてしまった。
まだ手順は残っているものの、これで僕と猿の停学はほぼ確定した。
あとは気になるのは、期間やCPの減少の多寡くらいだろうか。
もし退学の札を切ってくるなら本当に闇が深すぎるが、あの理事長や会長を見る限りそれはない、と思いたい。そもそも処分を下すのが生徒会なのもおかしいと思うが、少しでもまともな精神があれば退学の引き金が高校生には重すぎる事はわかるだろう。
そう、僕は自身の停学に思うところもあるが、少なくとも猿も直接的に退学になる可能性はないと高をくくっていた。あの程度の小競り合いで退学の札を切るようなら、人を育てる教育機関としては終わっているからだ。
だから停学期間も退学にならないギリギリ、つまり最大でも期末テストの直前までの2~3週間と見ている。
定期テストは赤点即退学なのだから、受けることさえできなければ即退学になるはずだ。流石に、初犯でいきなりそうなるような処分にはしないだろう。
それはそうと、思惑に反して龍園の統率が機能しているのかCクラスの凸凹トリオが動くことなく、会長との電話が終盤に差し掛かってしまった。
猿に関してだけならこれだけでいいが、櫛田と綾小路に頼まれた冤罪とやらを何とかする手助けが問題だ。猿の停学にもう一つ重ねると、Cクラスの出方次第で退学まで持っていかれるかもしれない。
なのでこの頼みを履行するには、どうしてもあと一手が足りなくなる。
どうしたものかと話しながら思考を回すも、会長には事情を伝えきって、教室内のカメラからの裏取りもするように頼んだのでもう後戻りはできない。再度呼び出されたら、そこから停学期間に移行することになるだろう。
頼み事をクリアし、佐倉や四方をフェードアウトさせる為には、この電話後の僅かな空白時間で龍園を―――Cクラスを退かせなければならない。それができなければ、例え四方か東風谷が解決しようとも、僕は胸を張って櫛田達へ借りを返したと言えない。
『はぁ…お前は毎度のように何かをやらかすな……。
校内放送と端末の通知で時間は追って通達する。それまで左京・須藤の両名は校内で待機するように』
「あー、今回もお手数かけます。よろしくお願いします」
考えがまとまらないまま、タイムアップが来てしまった。
もう出たとこ任せで、龍園に当たって砕けるしかないのだろうか?
電話を切り、黙考しつつ、破れかぶれの策を実行するか迷っていると、教室内がなにやら騒がしくなっていた。
「夢月さん!」
「左京っ!」
「左京君!!!」
「「須藤君!?」」
「ふざけんなっ!! あれは正当防衛だ! 関係ない奴が勝手に俺まで停学とかほざいて決めてんじゃねえ!!!」
「―――っ!」
そして、そんな半ば諦めの境地だった僕に突然、物理的な衝撃が襲った。
キャパ限界になっていたことで思考の外に出されていた猿が飛び起きて、殴りかかってきたのだ。思考に集中しすぎて猿を完全に眼中からも外していたから、まともに食らってしまった。その上、予想外の相手と方向だったので、とても痛い。
まぁでも、僕もあいつにはドロップキックをかましたし、これでお相子だろう。ダメージ量は東風谷の分を加算したと考えて忘れることにした。
ただ怖いし、これ以上痛い目に遭うのも御免なので、猿とはなるべく目を合わせないようにするべきだろう。
僕は起き上がると、殴られ転がったことで少し距離が離れてしまった龍園達へ向けて進み出した。
「おいっ!! シカトこいてんじゃねぇよ! てめぇが先に蹴りいれたんだろうが!? ビビってんのか!?」
「須藤君!!! 駄目だっ! これ以上やったら本当に退学になってしまう!!」
「いい加減にしなさい!! もう何をやっても無駄よ、須藤君!」
猿や平田達が何か喚いて騒いでいるが、思ったより足にきているようでフラフラして聞く余裕がない。
だが、最低でもここで龍園を翻意させなければ、片手落ちのまま四方や東風谷に櫛田達との約束、C・Dクラスの問題解決を丸投げすることになる。
それはタコすぎる格好悪さだ。
それに東風谷はともかく、相性が微妙っぽい四方と龍園が当たるのは避けたい。おまけに、折角名前を出さないようにしている佐倉にまで無駄に人の目が向く可能性があるのはもっと許容できない。
だからメッチャ痛くて怖くても、今ここで僕が動いておかないと駄目だ。でないと後顧の憂いを残してしまう。
でも余力もなくなっているので、龍園へ言うべき言葉だけに絞って何とか口から搾り出すことしかできなかった。
「さあ、僕は……有言実行したぞ」
「……」
「……龍園…君は、どうする?」
「……………………はっ、はは! ハーハッハッハハハハハッ!!」
そういう意図で僕なりに必死に伝えたというのに、龍園には教室内どころか外まで響くほど馬鹿笑いされた件。
「ハハハハハッ!! どうするだぁ!? どうするってか!? おい、お前ら、今の聞いたかよ!? 自分で自分に停学処分確定させて、赤毛猿に一発ぶん殴られただけでフラフラな奴が、こんなアウェーな状況で俺に聞くことが!! どうする、だぜ!? 傑作すぎるだろ、おい!? ハッハハハハハッ!!!」
それでも、馬鹿笑いしているのは龍園だけだった。
東風谷や高円寺のように静観している者達もいるが、教室内の大半は呆然としているようだ。直前まで騒いでいた猿や平田達すらいつの間にか静まっている。
一之瀬達は勿論、このDクラスの教室内にいる者達をほぼ無視した形なので、大半から敵意を向けられる事を予想していたのだが、龍園が馬鹿笑いしたせいで何か流れが変わったのだろうか? 痛みと恐怖で僕自身が冷静ではないので、上手く思考がまとまらない。
だけど凸凹トリオが動かなかった以上、晒してもいい手札と言葉で龍園に撤退を認めさせるには、もう僕の意思を示して、退いてやってもいいか、と思わせる手しかないのだ。ハッタリや口八丁でピースを探りながら舌戦をする余力は僕にはもうない。
だから何を言われても、龍園から目を離さず彼が応えるのを待つしかない。
「ははっ! 馬鹿だぜ、てめぇ!? んな震えながら、涙目で顔歪めてよ!! 関係ねぇだろうに、マジで馬っ鹿じゃねぇの!! くっはははははっ!! ああ、この格好つけのクソッタレがよぉ!! 笑わせてくれるじゃねぇか、この馬鹿野郎!!!」
尤も余力があったとしても、自分でも馬鹿やっている自覚はあるので、嗤われても反論できなかったかもしれない。
というか他人から見て意味不明な理由で、使うべき時に効果のありそうな札を使わないのはまさしく馬鹿者だろう。
それでも、あまり面と向かって馬鹿馬鹿言わないでほしい。普通にムカつく。
「はーっはっはっはっは!! じゃあ、そんな馬鹿野郎を面白えと思わされちまった俺は大馬鹿野郎じゃねぇか!!!」
龍園はそうしてしばらくの間、黒歴史確定の大笑いをしていたが、笑えば笑うほど夜に自室を転げ回る時間が増えると認識しているだろうか?
周囲どころか石崎達Cクラスの3人までも目を丸くして声を失っているのだ。
後で、生暖かい目をした彼らにからかわれた時に後悔するがいい。
これだけ遠慮なく笑ってくれたのだ。
もし石崎達がしなさそうなら、僕が全力で笑ってからかい尽くしに行ってやるから、今のうちに覚悟しておくことだな。
一方、僕が復讐の念を燃やしている間に一息ついて冷静さを取り戻した龍園は、僕から目線を外して身を翻し、出口へ向かいながら口を開いた。
「石崎、小宮、近藤。お前らは須藤に対する訴えを今すぐ取り下げてこい。理由は後で教えてやる」
「……え、あ…はい。わかりました! おい、小宮、近藤行くぞ!!」
あれ? 冷静になったら、口に出せなかった意思に応えてくれるとか、いきなり普通に良い奴になるじゃないか。
…………しょうがないな。からかうのはこの借りに免じて許してやろう。
しかし関係ないが、呆気に取られていたのに龍園から言われて即座に行動を開始した石崎にはなんとなく親近感を覚える。下っ端同士のシンパシーというものだろうか。
尤も、今のところ認知している限りでは僕を踊らせている奴はいないと思うので、下っ端同士というのは語弊があるかもしれないが……。
ともかくこれで、東風谷や佐倉の持っているかもしれない札を使うことなく、Cクラスは退いてくれた。
応えてくれた龍園は勿論、凸凹トリオにも感謝である。
「左京、これはてめぇへの貸しだ。停学明けたら一度顔を出せ」
「ん。了解だ。それと…ありがとう」
「へっ、気色悪いこと言ってんじゃねぇよ。貸しだっつてんだろ」
承諾と感謝を返すと、龍園は最後に憎まれ口を叩いて去っていった。
そして都合がよかったので僕も龍園の後ろについて教室を出てから、反対方向に別れることにした。
人だかり回避成功である。