中途半端に感じるかもしれませんが、今話で2巻部分及び2章終了です。
二度あることは三度あるという言葉がある。
二度別れたはずの綾小路が、再度追いかけてきて僕の端末を届けてくれたことである。
どうやらDクラスの教室で落としていたようだ。
しかし相変わらずよくわからない奴である。
Dクラスにも損害を出したから怒ってるかと思いきや、楽しげな雰囲気を放ちながら宣戦布告?をし合って、そのまま別れた直後にまた来て、落し物を渡されたのだ。
休んでいた時も、さっきも渡す機会はいくらでもあったろうに意味がわからない。
冷静に見えて、意外とそうじゃなかったのだろうか?
流石にバツが悪そうではあったが、彼はきっと僕以外の友達にも空気読めない奴と認識されているに違いない。いや、届けてくれたことを普通に感謝はしているのだが。
ともあれ、何故かその綾小路に勝負?を申し込まれたので、本命とは別に何通りかの勝ち筋を探しておくことにした。
どんな勝負にするかそれぞれで条件は異なるし、言葉は物騒なモノだったが、こういう勝負は歓迎である。
僕だけ、友達あり、人数の動員あり、何でもあり。
色々想定して、お互いや参加者が楽しめる勝負を考えるのは、いくつになっても心躍る。
そうしていると、オリジナル・二次のTRPGやゲームを自作して、ネット友達と遊んだ前のニート時代が次々に思い出される。
GMとしてはそこそこだったが、プレイヤーとして裏技を見つけ出したり作ったりするのが特に楽しかったなぁ。
それに綾小路のような天才が、ただ勝負する気になってくれた幸運は何物にも代え難い。
問題は綾小路が僕との勝負を約束したことだけだ。
これを言葉通りに受け取るのは微妙だが、ほとんどの分野で軽く一蹴できるはずの凡人な僕と勝負しても、綾小路の勝ちはほぼ決まっているだろう。
だが、それではお互い面白くないので、まだ勝負になる可能性が高いインドア系かそれに類する物で僕が挑んでくると彼は考えているかもしれない。
確かに手段を選ばず勝ちに行くだけなら、ハメ技イカサマ解禁のゲーム以外は、有利なプログラムを組んだ自由度の高い電脳系、あるいは運に全てを任せた運ゲーを僕は選ぶ。
しかし僕の直近の目標は学校の衆目の前で、四方が身体能力を前面に出して大活躍することだ。
だから綾小路との『真剣勝負』の第一弾は、勝手に運動勝負(綾小路VS四方)を設定目標にすることにした。
尤も、単純に勝負するだけなら回数制限もないだろうし、他に夏休みとかに遊びや楽しむ方向の勝負も考えようと思う。これはお互いの準備と交流の意味が強くなるが、お互いに真剣に遊ぶのには楽しさが必須である。
それに天才VS凡人転生者なんてなかなか面白そうなカードだから、友達も巻き込んだお試し企画を考えやすいのも都合がいい。対綾小路なら、最低でも僕以外に2~3人か四方・東風谷を巻き込めなければ、勝ち目が低すぎる。
ともあれ話を戻すと、盛り上がった体育祭などの佳境で、この勝負を利用して四方と同レベル以上、つまり綾小路か、あるいは学年は違うが会長との名勝負を演出したいのである。
僕自身と直接勝負するわけでもないから、綾小路がこれを僕からの勝負だと受け取ってくれるかは賭けになるが、四方と真っ向勝負をできて勝ち負けがわからない相手は、今のところ綾小路しかいない。
欲を言えば避けられた場合の保険として、彼らレベルの誰かも何とか対戦カードに載せておきたいが、あんな天才共は乗せるのが至難だと相場が決まっている。
綾小路は何を思ったのか乗ってくれた(いや、向こうから申し込んできた?)が、例えば会長を同じ土俵に引っ張り出す労力を考えれば、これがいかに難しいかわかるだろう。
確認したことはないが、会長も佇まいからして綾小路にも劣らない何かを持っていると僕の勘は言っている。
だが、あまり直接の接触がないせいかもしれないが、なにを持って交渉したり乗せたりすればいいのか見当もつかない。直球で頼んでみるのを最後の手段にして、情報収集しているだけになっているのが現状だ。
本気を出した四方の相手が務まるのはこの二人以外では、Dクラスで少し話した高円寺に何かの可能性を感じるのと、女子故に公式では当たりようがない東風谷と鬼龍院先輩あたり。
もしかしたら他にもいるのかもしれないが、お膳立てに加えるには知ったばかりで不確定要素しかない高円寺ですらギリギリなのだ。準備期間も長くて3~4ヶ月しかない。
この目論見は暗に鬼龍院先輩にほぼ成算がないとまで忠告されておいてなんだが、今回のやり取りを上手く組み込めば、本気になった綾小路と万全の四方を当てて、遊びではない名勝負を組む案もできなくはない幸運……なんじゃないだろうか? 大勢が絡む計画なので、めっちゃ不安だが。
ただこの対戦カードさえ組めれば体育祭、もしくはスポーツ系のイベントで、野球部の奴らに能力を見せつけ四方をスカウトさせる事に現実味が出てくるから、すでにガチャの客を通して軽く根回しまでしているのだ。
……………………うん。誰の同意もなく友達含む大勢を利用する計画なので、四方の野球部入部を達成できてもネタバラシや土下座待機が必要になるだろう。
これは成否に関わらず、特に勝負を楽しみにしてるとまで言ってくれた綾小路と、何も知らせていない四方には、僕史上最大級の大事になることを確信している。
―――って、今はそれどころじゃなかった。
あまり遅れると、また説教が追加されるかもしれない。
それが会長になるか担任になるかはわからないが、結果を覆すようなことにはならない。それなら、説教はない方がいいのだ。
時間はこれからそれなりに確保できる予定なので、その時にゆっくりと練っておこう。
僕は、取らぬ狸の皮算用を頭から振り払い、早足で生徒会室へ向かった。
生徒会室には、すでに僕以外の面子が集まっていた。
会長と橘書記のいつもの生徒会コンビに、須藤と平田、石像のように固まっている黒髪美少女。そしてB・C・Dの各クラス担任だ。
裁判がなくなってCクラスは退いているはず。
それならもう手続きだけの状況で、Cクラスの担任の坂上先生だけがいるのは違和感がある。だが、それをいうならDクラス側の人数も多いので、状況が急変した結果、なんらかの不具合が発生したのかもしれない。
「その顔は、誰にやられたんですか!? 星之宮先生、早く左京君に治療を!」
「誰とかじゃなくて、転んだんですよ。あえて言えば自分に、ですかね」
「そんなわけないでしょう!? もしかして脅されているんですか?」
「いやいや、本当に転んだんですって」
「―――ともかく、裁判の前に治療をしてもらってください! 話はそれからです! ほら、星之宮先生!!」
「「アッハイ」」
そんな中、なぜかいたCクラス担任の坂上先生が真っ先に駆け寄ってきて、えらく親身になってくれた。
この人にも裏に何かありそうな気はしてはいるのだが、腹が黒そうだったり、エロい格好で雰囲気が不気味な先生より、(たとえ演技だったとしても)ずっと親しみが持てる先生だ。
しかし裁判とか言ってたし、やはり伝達に不備があったようである。
ついでに初めて認識したが、坂上先生の剣幕に呆気に取られていたうちの担任は、腐っても本物の保健医だったみたいだ。
救急箱のような道具は持っていなかったが、冷やっこいシップを持っていて僕に貼り付けてくれたのである。その手つきも手馴れていて、緊張はしたが少し見直した。
ただ坂上先生の勢いに押され、思わず担任とハモってしまったのが仲良さ気に見えそうで、個人的になんとなく嫌である。緊張しなくて済む坂上先生の方が担任だったらよかったと思う。
治療というか診察というか観察というかをしてくれている担任を見ながら、しみじみそう考えてしまったのがよくなかったのだろう。
つい、心の声が漏れてしまった。
「担任を坂上先生とチェンジで」
「ぶふぁっ!! くくっ、チェンジ…ぶふ、ふふっ」
「治療してるのに、なんてこと言うの左京君!!」
「……ま、まあまあ、星之宮先生。左京君も本気ではないでしょうし」
「いえ、本気といえば本気ですが」
「くっくくく」
「担任のチェンジなんてできないからね!? 前から思ってたけど、左京君は私の事を何だと思ってるのよ!? それと、佐枝ちゃんはいつまで笑ってるの!!」
「うっくくく。
…………ふぅ、すまん。取り乱した」
相変わらず担任は元気である。
というか基本的に教師は元気なのかもしれない。
坂上先生の最初の勢いや、茶柱先生のクールを装いながらなんとか明後日の方向を向いて吹き出す様は、まるで僕がイメージする元気な新入社員のようなのだ。
しかし関係ないが、担任の普段の間延びした口調は作っていたと見て間違いないと今、確信した。
こういう部分が腹黒っぽいのだと、いつか自他共に認識させたいものだ。
それにしても、茶柱先生に笑われ、坂上先生には困惑されていたところをみると、意外と担任は先生間ではいじられキャラだったりするのだろうか?
「話がややこしくなりますから、左京君は少し黙るように。
会長、先生方の為にも先に状況説明した方がよろしいかと」
「……そうだな。橘、プロジェクターの準備をしてくれ。
先生方、まずはこちらのモニターをご覧ください」
先生達の元気の源やいじられキャラについて考えていると、仕事モードの橘書記に黙るように言われた。
声の大きさ的には担任達の方が騒いでいたというのに、僕が注意されたのだ。
これは権力を傘にした横暴な職権乱用の一例だろう。または噂に聞く忖度というものかもしれない。
生徒会であろうとも、低きに流れるということか。
―――とか、なんか難癖つけて出て行きたくなるほど面倒になってきた。
勿論、僕は結果が決まっているからといって、物事の順序も説明もすっ飛ばして良いわけではない事は理解している。つまり面倒だが待つしかないことも……。
それに、これが終わればきちんと停学になるだろうし、停学対象のもう一方の須藤はともかく、平田や黒髪女子のお付二人も静かにしている。
ここは、ぐっと我慢して大人しく礼儀正しく振舞うべきだろう。
先生達に乗せられて僕まで騒げば、収拾をつけられるついでに処分も上乗せされるかもしれない。
というか、そもそもなんで先生達が騒いでるんだよ。
常識のない大人達だ。
一部騒いでいたが、生徒は全体的に静かな中。
橘書記と会長の声で一時沈静化し、全員でモニターへ注目することになった。
僕も貼られたばかりのシップの冷たさを感じながら、つい30分程前のDクラスの様子が上映されるモニターに視線を移した。
その結果、起こったことは―――。
「「「「「…………」」」」」
圧倒的沈黙である。
B・Dの担任は佐倉につかみ掛かる須藤→僕のドロップキックらへんから呆然と見ていたし、会長と橘書記は電話していたのがまさかDクラス内だったと考えていなかったようで、僕の停学宣言を見聞きして表情が消えた。
Dクラスの奴らも、固まっている女子以外は無言のまま、上映が終わったモニターを見続けている。
比較的関係が薄かった坂上先生すら、龍園が馬鹿笑いして訴えを取り下げる指示をしたあたりから口を開いていな…開きっぱなしだ。
うんまぁ…………重々しいね!! 長居したくない。
それに空気が重くなってきて鬱陶しいことこの上ない。
面倒臭さが限界になってきたので、もうさっさと停学手続きを済ませて帰ろうと思い、僕が率先して口火を切った。
「えー、そういうことですので、明確に暴行を加えた僕と須藤は停学。東風谷及び須藤と揉めていた3人には、厳重注意か奉仕活動などがよろしいんじゃないでしょうか?」
「いやいや! 左京君は思い切り須藤君に殴られているでしょう!? 映像に残っている以上、転んだなどという言い訳はできませんよ!!」
「ああ、あれはちょっとぶつかって転がったんですよ。その際、何かが顔に当たった感触があったので、殴られた感じに見えちゃったんでしょうね」
「いやいやいやいや!! これを見る限り、左京君はあの女生徒を助けようとした被害者でしょう!? やっぱり脅されてるんじゃないですか!?」
「んだとっ!! っなこと「脅されている!!! それは穏やかではありませんね。ですが、そんな事実はありませんよ。僕は本当に転んだだけです」……」
全員が無言の間にまとめに入ろうとしたら、我に返った坂上先生がヒートアップして、須藤にまで延焼しそうになった。
なんとか大声で遮ることはできたが、想定以上に燃え上がりやすい須藤を見て、アフターケアの難易度がヤバいことを今更ながら悟る。
須藤と坂上先生の相性が最悪っぽいのに加え、元々動物に沈黙などという知恵はないのだ。だから一気呵成に勢いで全てを流してしまう他の選択はないだろう。
何故か坂上先生と須藤が黙り込んだ今が好機。
だから―――会長…早く!
早く処分を下して!!
じゃないと、折角まとまったのに別の問題が発生してしまう。
と、会長に念を送っていたのが届いたのか、ようやく口を開いてくれた。
「坂上先生、左京、須藤の3名は静粛に。
異例ですが、左京夢月より要請のあったこの証拠映像に加え、申し出てきた処分を元に手配していました。
暴力を振るった証拠のある左京・須藤両名には1週間の停学。
またしっかり確認はできませんが、暴力的挙動の見えた東風谷。怪我をして訴えを起こしながら僅かな期間で訴えを取り下げた石崎、小宮、近藤。こちらの4名には、各担任と学年主任より厳重注意の処分をお願いします」
ああは主張したが、ワンチャン東風谷は見逃してくれないかな、と思ってたけど流石に無理があったようだ。
「それと各クラスにペナルティとして、クラスポイントの減点を行います。
生徒会条項に照らし合わせ、B・Dクラスには50CP、Cクラスには30CPの減点ということになります。
さて、ここまで何か異論はありますでしょうか?」
減点の計算が少しおかしいのは、多分東風谷に減点ができなかったか、僕の方にまとめたからだろう。
客観的に見て、3クラス中で最も問題が少なかったBクラスに一番重い処分が下されると、表向きの公平性が崩れるからだ。だから『実力』とやらを重視するなら、最高でもDクラスと同等の処分にすると思っていた。
つまり、これは満足のいく結果である。
「異論ありません!
なので、早速停学の手続きに入りたいのですがっ!?」
「左京君……なんでそんなに嬉しげなの?」
「嬉しくはないですよ? でも結果が決まってるなら、その結果を受けてどうするか考えた方が楽しいじゃないですか。それに僕はやれることはやったし、色々友達に任せることもできたので、退学にさえならなければ満足だったんです。
なので―――会長」
「……」
「温情ある措置、ありがとうございました!」
「―――ッ」
なんか変に見られているが、以前担任がしていた発言しか引用していないので気にしなくていいだろう。
それと僕が嬉しげに見えるとすれば、須藤の短気さを見て焦ったのを察して手順を簡略化し、スピーディに事を進めてくれた部分だ。この場にいることを長引かせたら、本気で退学になりかねない危うさを須藤に感じていたので本当に助かった。
しかもこの場には興奮気味な坂上先生もいたので、須藤にとって挑発的な発言に反応して逆上……こんな展開があった可能性は否定できない。
だから逆に言うと、もしも生徒会長や理事長、この場に揃った面子や状況などが違えば、多少強引にはなるが退学処分にもなり得ていたと思う。十中八九ないと確信までしていたけど、可能か不可能かでいえば可能だったのだ。
それを理解した上で、退学どころか停学期間を1週間なんて短期に設定する配慮までされて感謝しないなどありえない。
それにもう一つの要因。
当初は須藤を抑えてくれると密かに期待していた平田と黒髪女子だ。
何か躊躇っているのか動き出しが一歩遅れて結局ほとんど動かない平田に、終始石像になっていただけの女子。
高校1年なのだから仕方ないとも思えど、もうこの二人は動いてくれたらラッキー程度にしか思えなかった。期待外れである。
……というか、何故にほぼ関係ない僕と坂上先生が須藤何某の処遇を争っていたのだろうか? 退学にさせる気はなかったとはいえ、助ける気も義理もなかったはずなのだが。
平田はまだ一応須藤を抑えてようとしていたが、あの女子はマジでずっと固まってただけだったので本当に何故この場にいたのか最後まで謎だったくらいだ。
ここは僕じゃなくて、同じクラスのあの二人や担任の茶柱先生が須藤を弁護したりフォローする場面だろうに、ほとんど動きも見せないとか……。
そのつもりがあったのなら、きちんと仕事をしてほしかった。
僕の役目ではないアフターケアも最低限やったし、これで文句がある奴は僕を引き込んだ櫛田と綾小路までどうぞ、と言い放ってやる。丸投げ祭りだ。
特に、今更なにやら神妙な感じになっている須藤に向けて、そう念じてやった。
まぁなんにしろ、これで幕引きである。
その後も会長にちょっとした伝言を頼んだ際にひと悶着はあったものの、無事担任から停学手続きをしてもらうことができた。
苦節2時間。
ようやく……本当にようやくトラブルは終わったので、これで僕の1週間限定の停学ライフは幕を開けることだろう。
まったく。適当に頼みを承諾したら、えらい目にあったものだ。
左京の影響は勿論、龍園・綾小路が一時的に手を引いた影響もあっていくつか微妙に変化してますが、須藤の所業と初期堀北の性質を考えると本来この結果が順当なんじゃないかと個人的に思ってました。Cクラスが退いたので、多少軽めの処分にしましたが。
処分内容まとめ。
停学(1週間)。
1-B、左京 夢月
1-D、須藤 健
厳重注意。
1-B、東風谷 早苗
1ーC、石崎 大地
1ーC、小宮 叶吾
1ーC、近藤 玲音
クラスポイント減点処分。
B・Dクラス、50CP
Cクラス、 30CP
※厳重注意は一人につき-10CP。ただし、東風谷早苗のみ適用外。
減点後、各クラスCP。
A、1044(マイナスなし)
B、713
C、496
D、40