ようキャ   作:麿は星

5 / 198

 今回は四方視点。

 左京や東風谷がBクラスでどう見られているかも少しだけ入れてたりします。



P、四方二三矢

 

 

 最初は面白い奴だと思っただけだった。

 

 

 

 

 

 入学初日にクラスメイトの一之瀬が自己紹介しようと言い出して、順番に自己アピールしていくのを眺めながら俺は無難な自己紹介で済ませて、そこそこにとけ込めれば上々の結果だと思っていた。

 しかしある生徒───俺の二つ前の席に座っていた東風谷早苗という生徒が短い自己紹介をした時から教室内の空気が激変する。

 

 東風谷が話した内容自体も多少変わっていたが、それ自体は問題じゃない。

 重要な問題は東風谷が話している時は勿論、話し終わって着席しても教室内には肌寒い空気が蔓延し、圧迫感が押し寄せてくるのが止まらなかったのだ。

 おそらくは俺だけじゃなく、クラスの連中全員が得体の知れないナニカを見るように東風谷に注目して固まっていたのだと思う。今や教室内は、先ほどまで失敗気味な自己紹介があっても陽気にフォローしていた一之瀬や柴田といった面々すら、喋るどころか動くことも憚られるナニカが支配していた。

 後で考えても、実際に時が止まったかのような時間は数秒程度でしかなかったと推測できるが、それでもその場その時にはそれが永遠に続くんじゃないかという不安を多く含んだ錯覚があった。

 

 そんな中でその空気を打ち破ったのは、俺の前に座っていた男である。

 誰もが教室内に蔓延するナニカに押し潰されそうになっていたというのに、その男は自然に立ち上がり普通に口を開いて自己紹介を続行していた。

 

「左京夢月です。趣味は昼は日向ぼっこ、夜は天体観測です。また雨の日などは読書をすることもあるのでそちらも趣味といえば趣味かもしれません。また僕への注意点として、話しかけたら逃げる事があるかもしれませんが嫌っている場合はほぼないので懲りずに接触を図っていただけたらなと思う次第です。それでは皆様、よろしくお願いします」

 

 左京と名乗った男は、この状況で呑気ともいえる自己紹介をしてクラスメイト達の反応がないことにも気にしたそぶりを見せず、一礼して着席する。

 気のせいかもしれないが、言いたいことを言えて満足そうな雰囲気が前から漂ってきたのを感じて、不思議と俺も内心が非日常から日常へ戻ってきたような気がしていた。

 そのおかげか自己紹介の途中であったことを思い出し、何とか立ち上がって自分の名前だけはクラスに向かって搾り出せた。頭から無難な言葉が消え去ってしまっていたので普通の状況なら失敗になったかもしれないが、この時は完全に冷静になっていたわけではなかったし仕方ないと思うしかない。

 しかもこの日の予想外がまだ完全に終わったわけではなかった事は、俺が着席した直後に左京から話しかけられて思い知るのだった。

 

 

 

 式の前にそんな変事がありつつも、入学式は無事に終了した。

 一之瀬をはじめとしたクラスメイト達の陽気なフォローが功を奏したのか、もう変な肌寒さや圧迫感は残り香もなくなっており、みんなで親睦会をしようと盛り上がっている。

 どうしても警戒してしまう東風谷や、質問していたバイト関係か用事があると言っていた左京はいつの間にか消えていたが、一度寮に戻って荷解きしてから再集合というので俺は参加することにした。

 

 クラスのほとんどが参加した親睦会はボーリングの大会と呼んでも過言なさそうな物にまで発展して、とても楽しい時間になる。

 一之瀬や神崎といった気持ちのいいクラスメイトも話しかけてくれて、連絡先を交換したりボーリングで軽い勝負をしたりと居心地がいい。よくボーとしているとかマイペースとか言われて集団から浮くことが多かった俺としては、ここのクラスでよかったとかみ締めるように感じていた。

 残念ながら、初めての一人暮らしで買出しや荷解きの続きがあった為に、2ゲームで抜け出すことになった時も一之瀬達は快く送り出してくれて、同じような用事があるクラスメイトと同様にさり気無い心遣いが篭っている一言をもらった。

 

 

 

 次の日は、目が冴えてしまって早めに登校することになった。

 自分の席に座って大人しくしていると、昨日知り合った神崎が声をかけてきた。

 

「おはよう。早いんだな四方」

「おはよ。なんか目が冴えちゃってね。それにそういう神崎も早いじゃないか」

「ああ、どうもこの学校は裏がありそうに思えてしまって色々調べようと考えているんだ。例えば、店にあった無料商品とか昨日星之宮先生にされていた質問や返答とかだな」

「へぇ」

「よければ四方も気づいた事を教えてくれると助かるんだが、どうだ?」

「うん? 俺か? 怪しくは思ってたけど、正直深く考えてなかったからよくわからないなぁ。 というかなんで俺?」

 

 思ったまま返すと、神崎は少し思い出すようなしぐさをした後に話し出す。

 

「最初に10万ポイント貰えると聞いて盛り上がっていた時に、冷静に見えた奴には話を聞いておこうと思ってな。俺が見た限りでの判断だが、四方や一之瀬、まだ来ていないようだがあの時に質問していた左京ともこの話をしてみたい」

「左京かぁ。なんの因果かこの学校に来たのは、俺の親父がきっかけって言ってたっけ」

「ああ。その話をしていた自己紹介の時も、東風谷周りのあの空気をまるで気にもしていなかったような独特な雰囲気があった。昨日の親睦会でその話になった時は、本人不在ではあったがなかなか面白かったぞ」

「確かに。東風谷のあの空気も気になっちゃうけど、左京は左京で結構面白そうな奴だな」

 

 あの親父の店に中学生単独(いや単独かはわからないけど、なんとなく一人な気がする)で入店するとか、度胸があるなんてもんじゃない。東風谷の件も含めると、左京のこれまでに興味まで湧いてくる。

 どう育てばそうなるんだ?とか失礼極まりないから口には出さないが……。

 

 神崎と学校や左京について話していると、東風谷が登校してきたので神崎は自分の席に戻っていく。

 神崎含めてクラスメイト達も別に嫌っているわけではないのだろうが、東風谷の雰囲気は人払いする圧力のようなものを強く感じる為か、東風谷の周囲は左京以外登校しているにも関わらず空席のままだった。あれだけ気遣いや心配りが上手かった一之瀬までもが声をかけられないのだから、東風谷は相当な物なのだろう。

 

 

 

「おはよっす」

 

 始業時間の直前になってようやく左京が登校してきた。

 俺に声をかけると返事も待たずに、手早く筆記用具などを出したり、机周りを軽く掃除したりしている。

 こういうところは効率重視というか真面目で、ホームルームが終わって、初日からいきなり授業が始まっても、真剣に集中しているのは伝わってくる。俺も授業中は集中しているからそれほど意識は割けていないが、こういう部分は共通点なのかもしれないとぼんやり思った。

 

 その後は特筆すべきことなく午前の授業が終了し、左京から昼食に誘われたので学食に行った。一之瀬や神崎が話しかけようと見ているのは気づいていたが、教室内では東風谷の空気もあって俺達の席周辺は近寄り難く、話していると左京のペースに巻き込まれてしまうこともあって気づいたら二人で学食に来ていた。

 

 そこでじっくり話してみてわかったが、左京は自然体で裏を感じさせない奴だった。

 一之瀬とは違う意味で何処となく居心地のいい雰囲気を作り出し、まだ会ったばかりの俺を友人だと思っているのが伝わってくる。最初は少し困惑したが、昼食が終わるころには俺も左京を友人だと思うようになっていた。

 

 

 

 元々部活には入る気がなかったが、左京が天文部目当てに部活動説明会に行くというので俺も行ってみることにした。

 この新しい友人は月や星の魅力を楽しそうに話し、部活がなければ自分で作ってでもやってやると初めて見る熱さで語っていた。乗せられる、というか自分から乗っかりに行こうとしていたのは自覚していたが、左京を見ていると興味を掻き立てられ、つい自分も混ぜてくれと意見を翻してしまった。

 

 そんな感じで駄弁りつつ、此方からは親睦会のことを話したり、親父の占いを聞いたりしながら体育館に着いた。思ったより人が多かったので人ごみが嫌いだと言っていた左京を見ると、一点を見つめてこう言い放つ。

 

「四方、あそこが空いている。すまんが、人ごみが苦手なので早めに移動したい」

 

 この人ごみの中で、その空いている場所に心当たりがあった俺は一応左京の目線の先を見てみる。

 そこには案の定、東風谷早苗が俯いたまま佇んでいた。

 

「……やっぱりお前すごいな」

 

 俺が呆れだか感心だかをしている間に、左京は人ごみを器用に抜けて進んで行く。そして東風谷の近くにたどり着いてあっさり一緒にいる許可を取り付けた頃には、もう俺に突っ込む余力は残っていなかった。

 

 

 

 しかし、こうして3人でいると直感的にわかってきたことがある。東風谷にはナニカがあって、それが原因でああいう雰囲気が生まれてしまう事。

 左京はある程度そのナニカの正体がわかっていて、だからこそ何らかの手順というかルールというかを守って東風谷に自然体で接する事ができるのだと。

 そしてそれは左京にとって普通の事だから人に説明するのが面倒だという事。

 

「うん。四方の気のせいだ」

 

 俺が呈した疑問に対するこの一言からそうした事をなんとなくでも察せてしまう。

 それでもちょっとムカッときたので、俺にしては珍しく軽くからかう一言が出てしまったが。

 

「……知り合ってそう経たないけど、左京が呑気で適当なのは理解したよ」

「……………はぁ」

 

 まさか東風谷が乗ってくるとは思わなかったけど、反論しようとして司会の橘先輩にさえぎられて諦める左京はなんか笑えてしまった。

 なんだ。癖は強いが、二人とも良い奴じゃないか。

 

 それからしばらくの間、左京は部活の紹介を聞いて考え込んでいるだけで、また俯いてしまったままの東風谷や元々それほど関心があったわけではない俺も無言の時間を過ごすことになる。

 俺にはこの三人の空白外から、(僅かにこちらを見てくる者はいたものの)結構な数が友達と喋りに来ているかのようで色んな声を聞いていたが、何も口を開いていない左京と東風谷の方に意識を持っていかれている自分を感じていた。

 だから気づくのに遅れたのだろう。

 

 各部のアピールや周囲の声を聞くともなしに聞いていると、何かあったのかだんだんと静かになっていくのを感じた。周囲から少し遅れて原因を探った俺は、直ぐに壇上の人物がこの張り詰めた空気の発生源だと気づいた。

 

 東風谷から感じるナニかとは違う。

 多分この人がこれまで積み上げてきたものがこの静寂を観衆に強制している。今、口を開くのは誰であろうと憚られるほどの張り詰め、そして塔のごとく積み上げられた努力の静寂。

 そんな中―――

 

「四方、天文部はないみたいだし僕はもう行くわ。

 東風谷、場所借りたみたいですまん。それとありがとう。

 それじゃ、また明日」

 

 左京の特に抑えたわけでもない声だけが体育館に響き渡る。

 そして振り返ることもせず出口の方に向かって行く。

 

 おそらく『あの人』にも届いたことに少し不安感が湧く。

 だから俺はつい声を裏返らせながら、制止の言葉を出そうとした。

 

「はぁっ?! ちょ、まて!」

「……さようなら」

 

 東風谷の声と被ってしまった上、心を落ち着けて話そうとした丁度その時に壇上の人物が話し出してしまった。

 流石に再度声を出して邪魔をすることは憚られ口をつぐんだ。躊躇っている間に左京は少しだけ静止して待つような姿勢はとったが、直ぐにまた出口へ向かって進み始め、既に俺から見えるのは彼が手を一振りしている後姿だけだった。

 

 度重なる衝撃と落差にもはや話を聞く精神状態ではなく、出口の方を見つめて呆然と立ち尽くしていた自分に気づいたのは、左京に便乗するように東風谷も去って、全てが終わってから一之瀬に声をかけられた後だった。

 

 

 

 

 

 

 俺の新しい友人は基本的には面白い奴だったが、油断すると落とし穴が開いていたりする難解な奴でもあった。

 

 





 人物設定①

 評価数値(独自設定……だよね?もしこういうのが本物にもあったらすいません)
 100面ダイスで全て設定。3人共Bクラス所属の為、下限は21に設定。

 A(91~)
 B(66~90)
 C(41~65)
 D(21~40)
 E(0~20)


 左京 夢月(さきょう むつき)。
 173cm。57kg。

 学力   B (84)
 知性   D (36)
 運動能力 C+(61)
 判断力  A (99)
 協調性  C (50)

 担当官評価
 面接ではズレている発言はあるが、質問や切り返しでの判断力や勘処への対処に光るものがあり観察力にも優れている。最低限の協調性は持っており、学力も平均より高い。運動は少し苦手としているが客観的に見れば優秀。
 中学時代、1週間単位の休みが何度かあることと、協調性に不安が残ることからBクラスに配属とする。

 作者メモ
 この数値が高ければこういうイベント、この数値が低ければこういう結果。みたいに想定して運任せのダイスをまわしたら、まさかの判断力ほぼ最高値。仕方ないので、作者に勘が鋭いという特徴を付与された。それと何気に知性が低かった為、努力を嫌う(山内や池あたりにも付いてると思う)という特性も持っていたりする。
 それと転生の影響で幻想の存在を察知する能力に関しては、早苗と同じくこの世界においての異常個体レベル。ただ、勘が鋭い・努力嫌いという特徴もあって最近は東方霊夢にイメージが引っ張られ始めている気がしてならない。霊力や能力に関しては未定。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。