今気づいたけど、ここまでほぼDクラス組がメインみたくなってる。
必要な事ではあるし、綾小路関係は地雷が多いのでしかたないっちゃしかたないけど、どうしてこうなったんだろう。
あ、所属クラスをないがしろにする意図はないです。キャラを出し切れない私の力不足が原因です。
僕が躊躇うことなく停学という手段を取ることができたのは、様々な幸運を認識していたからだった。
第3者の褒め言葉はどんな時も一番効果がある。この「伯爵夫人はスパイ」という作品で出てくる台詞をご存知だろうか?
もっと言えば、これは第3者から得られた情報は高い信頼性を感じるという心理効果のことでウィンザー効果というのだが、櫛田はこの第3者を上手く乗せる技能に非常に長けていた。
つまり彼女は客商売をはじめ、宣伝や情報戦において、やり方・使い方次第では得がたい能力の持ち主と言える。
しかも似た性質を持つ一之瀬や龍園といった強い信条や信念を持つ者と違い、意に沿う契約さえ結べれば最大限の能力を最小限の労力で発揮してくれる。そして上手く転がってくれれば、時が経つにつれ結果を出して櫛田自身がますます有名になるので、ハロー効果まで付いてくるのだ。
その櫛田と親しい友達である東風谷がいて、四方や綾小路のある程度のサポートがあれば、ぶっちゃけ客商売に僕と佐倉は必要ない。
更に男である以上、この恋人ガチャという商売においては櫛田より効果が落ちるが、何気に営業マンの適正が高いと思われる戸塚にも、必要なら僕の浮いた分の分け前で手助けを求めるよう四方にメールしておいた。あいつはあいつで問題もあるが、OKしてくれたら葛城も付いてくる可能性は高いだろうし、支障は少ししか出ないだろう。呼ぶかはわからないけども。
あと佐倉が僕の停学期間中、ガチャとバイトのどちらを優先するかはわからないが、この機会に青娥さんなら「佐倉さんが必要ですわ」的な言葉をかけるはずだ。
それを言うだけで、僕の分の穴を塞ぐことができると考えさせる事ができ、上手くすれば依存度まで上げられるからだ。あの仙人がやらない手はない。
自分を必要だと言ってくれて実際に役立てる職場と、言ってくれたとしてもそれほど役に立てるわけではない職場。
この状況なら佐倉の性格上、僕の穴埋めができるバイトを選んでくれる確率は高いと思う。
佐倉を利用するみたい……いや、しっかり利用していて気分は良くないが、だからこそガチャもバイト先も大丈夫だと考えていた。
僕はこれらの東風谷や櫛田、青娥さんや佐倉を信じて頼れる幸運を認識していた。
四方や綾小路、他友達もいるし、凡人一人がいなくても何とかなるに違いない、と。
バイトといい、ガチャといい、僕は非常に幸運である。
そう考えていたから、奇しくも停学明け直後に最後のガチャの営業日が重なっても心配しておらず、実際に東風谷と櫛田主導で問題はほぼ潰してくれていた。残っていた仕事は、最終日の精算と生徒会・学校への提出書類くらいである。
関係者が全員集合していたので、佐倉からもバイト方面に問題なかった事を教えてもらえたのもよかった。
なぜかというと、前日の土曜にバイト先に顔を出しているのだが、憎たらしいほどニッコニコな笑顔の青娥さんへ仕事しながら苦言を呈することに終始していたので、休み中の事を詳しく聞けなかったのだ。
結果はどこ吹く風とばかりに、変な羽衣やるからと再度仙人の勧誘をされただけで終わったが……。てか、野郎が羽衣もらってどうするんだよ。
勿論断ったが、他人(今回でいえば綾小路)へ迷惑をかける系の暇つぶしはやめてください、とだけは強く言っておいた。
ただ、おそらく意味はないだろう。
僕と同じく、やりたいことを我慢できる性質ならあの笑顔はない。
佐倉の分も残ってるし、ヤツはまたやると確信している。
なぜなら、僕ならそうするからだ。
ガチャ最終日の営業では、何人か僕個人への客がいたのは予想外だが、綾小路が連れてきた須藤と謝りあって、本当に謝るべき佐倉へと流したり。Cクラスの元凸凹顔3人へ龍園に会いに行くことを改めて約束して、ぬるっといた椎名へと流したり。
こんな感じに、他に対応できる人がいることがほとんどだった。つまり、客数以外はいつも通りだったといってもいいだろう。
数少ない人任せにできなかった者も終了間際に訪れたので、精算後の打ち上げに誘い、OKをもらって事なきを得た。
その際、客前なのに左右で佐倉と綾小路が大口を開けてボーっとしていたので、偶々持っていたチョコボールを放り込んだら、二人ともむせてしまった。まぁ、一時的に待たせることになった客には受けたから結果オーライだろう。
二人には正直、すまんとしか言えない。
出来心だったのだ。
ともあれ、最終日であるからか過去最大の盛況さを見せた恋人ガチャは、こうして何事もなく恙無く終了した。
終了したということは、やることは一つ。
そう。打ち上げという名目の宴会だ。場所はいつか鬼龍院先輩と食事を共にしたレストランである。
尤も、今回は停学で途中退場した僕の主催ではなく、この商売を成功へと導いた中心人物、櫛田と東風谷が開いた。東風谷は最初に櫛田と二人で「乾杯~」と宣言した後は、当たり前のような顔で普段と変わらず飯を食い始めたが、あの引きこもり気質が開いたことに変わりはない。
いや、もう引きこもり気質からは卒業したのかもしれない。
なお、面子は櫛田に天文部員、佐倉、綾小路。加えて、後半代わる代わる手伝ってくれたという椎名、葛城、戸塚。
それと、東風谷が連れてきた姫野というクラスメイトの女子だ。
彼女は、僕とも何度かグループ活動で一緒になったツインテール女子なのだが、東風谷と交流があるとは知らなかった。ついでに名前も今まで知らなかったが、話す前に知れたのでノープログラムだろう。
もう一人僕を訪ねてきた客もいるにはいるのだが、僕に用事があると察したのか他の理由か、「私には似合わない質素さだが、なかなか風情のある店だねぇ」と平然と宴会の方に混ざって優雅に食事を始めている。
この大物感を醸す彼の名は高円寺。
何故僕を訪ねてきたかはまだわからないが、待ってくれていると受け取って食事を共にすることにしたのだ。
なので待ってもらった対価に、彼だけは僕が料金を支払うことにしている。
ちなみに僕を含めた他の人には、稼いだポイントの余りで払うと最初に櫛田が言っていた。
ともかく、そうして宴もたけなわになった頃。
僕は早速、行動に移した。
櫛田と戸塚以外は基本静かに飲み食いするタイプばかりなので、話を切り出しやすいのはこの集まりの美点である。
「さて、本日集まってもらったのは他でもない……」
「集めたのは桔梗さんと私で、これはガチャの打ち上げなんですけどね」
「……東風谷。初手から僕を泣かせたいのか? 泣くぞ? 高1男子が年甲斐も遠慮もなく泣くからな? 本気だぞ」
「いいから本題を言え。お前に付き合ってると、何かやろうとしてるのは否応なくわかっちゃうんだよ」
Dクラスで勝手に真っ先に動いて停学になったからか、東風谷や四方の当たりがきつい気がする。
一応、宴会の最初に感謝と謝罪はしたのだが……。
「……よろしい。次なる目標はこれだ」
それら冷たい目にも負けず準備してきた紙を広げ、僕は今回、最優先で勧誘したい者を真っ直ぐに見て、目標をぶち上げた。
『綾小路打倒計画Ⅱ』
「……………………おい」
綾小路が何か言いたげに見つめてくるが、とりあえず無視である。
「というわけで、綾小路を打倒する計画を練ってきた。
最低限の骨子は停学中に作成済みなので、より洗練させるために力を借りたい」
「おおっ! そういうことなら賛成です。綾なんとかを陥れる計画なんですね!?」
「いやいや! というか何がというわけでなんだよ。いきなりそんなこと言われても、わけわからないぞ!?」
「……知ってはいたが……こいつ、マジでなにをやらかしてくるかわからん。あんなことがあった2日後に、こんな形で真正面からとか……」
「僕が友達を陥れる計画をこんな場で言い出すわけないだろ! いい加減にしろっ!」
「いい加減にするのは左京もなんだよなぁ」
「何気に『Ⅱ』が気になるのは私だけでしょうか……」
なにやら騒々しくなってきたので、軌道修正しようとしたが収まらない。
なので、もう気にせず続きを話すことにした。
「これは僕から綾小路への挑戦であり、遊びでもある計画だ。
触りだけはもうできているので、論より証拠。ちょっと遊んでみてくれ」
といっても、パソコンを取り出して、作ったゲームを公開しただけだ。
まだ自機3キャラと最初の道中・1面ボス『左京夢月』しかできてない上に、イラストは僕の手書きで、音楽など適当に拾ってきたフリーの物で代用しているくらいだが。
偶々対面にいた椎名へ差し出してみると、興味を引かれたのか結構な奴がそっちに回ってしまった。椎名もそれを受けてか、プレイ前に色々操作してみるついでに集まった奴に見せているようだ。
「へぇ! シューティングゲームか。
これ、綾小路以外に俺と東風谷も自機で選べるみたいだけど、使えるのか?」
「ああ。まだ差別化の為の性能差はできてないけど、普通に遊ぶだけならできるよ。ほぼ調整してないから、今はクソゲー一歩手前かそのものだけども」
「私の自機もあるんですか?」
「うん、東風谷と四方の自機はバリュエーションだな。
で、基本ストーリーは、学校で異変を起こした『左京夢月』というキャラを討伐するのが目的…と見せかけて実は? って感じだから、僕と関わりが深い奴ほど重要ポジに設定してある」
「え、そうすると愛里さんは……?」
「ふっふっふ。気づいてしまったか。
そう。僕の盟友であり、このゲーム製作において最重要人物でもある佐倉には、とっておきのポジションを用意してある。完成した暁には驚嘆してほしい」
「わたしが最重要人物!? なんで!?」
現時点でのゲームの説明を四方と東風谷にしていると、ボーっと聞いていた佐倉が話しに入ってきた。自分の名前が出たからかもしれない。
「試作品をやればわかるだろうけど、僕だけだと自機を落とす効率重視で弾幕を組んじゃうから、美しさを加えたい僕としては佐倉が必須なんだよ。
なんせ知り合い全員見渡しても、佐倉に勝る美的センスの持ち主がいないしな」
「美しさ?」
「美的センス?」
なんか佐倉とマイペースに食事を続けていた高円寺がひと際大きく反応していたが、実際そう感じているので問題ないだろう。
中学生単独で、自撮りで、そして少し後押しされただけで週刊誌のグラビアを飾り。
その後も継続して人気を獲得し続けている佐倉。
体は早熟だったと考えても、事務所の援護もなくアイドルを名乗れて、グラビアまで飾れる状態に中学時点で到達していたのは、容姿だけではありえない。
ブログの文章や自撮りは僕も仕事でチェックしているが、あれらだけで多くの人を惹きつける魅力を感じさせるなど、ただ事ではないのだ。
どれほど魅力的なアイドルだろうと、そこそこ人気の雑誌でグラビア枠を取るのには相当な労力が必要である。それを青娥さんに聞く限り、ただ出版社とコンタクトを取り、雫を見せただけで向こうが乗り気になったという。まともな営業もせずにだ。
これがどれほどすごいことかは、営業経験があれば自明だろう。
これらの情報から憶測すると、佐倉愛里という人間は―――あえて言うが―――美しさを創り出し、付与させられ、それを見た人を魅了できると考えてもいい。
僕は、こと『美しさの表現』という分野では、彼女の右に出るものがいないと考えている。
説明しにくいが、天生の美的センスとでもいうのだろうか。
これを弾幕で表現できれば、きっと面白くなるし綺麗に仕上がる確信すらあった。
だから僕の考える楽しい勝負の協力者には、是非とも加えたいのである。
「だから佐倉―――頼む。
勝負を楽しく美しくしたい。その為に、佐倉のチカラを貸してほしい」
頭を下げて心からお願いすると、少しの間、佐倉はきょとんとして俯いた。
その反応を見て、テスト前に頼むべきじゃなかったかも、罪悪感が湧いてきた。
でもなるべく早く彼女を確保しておかないと、会う機会自体が激減してしまうのだ。夏休みに入ってからだと、友達とはいえ女子は誘いにくくなる。まともに会えるのはバイト先ぐらいだろうか。
それに後で思い至ったが、青娥さんが言ったような言葉の二番煎じ的な誘い文句を、僕も言ってしまったのかもしれない。
しかもよく考えたら、軽い頼みならともかく、佐倉に真剣な頼みごとをした事はなかった気がする。ならば、いきなりこんな風に頼みごとをしたら、呆気にとられて混乱しても不思議ではない。
「わたし……役に立てるの?」
「当たり前だろ。むしろいなかったら、綾小路からブーイングされる未来しか見えない。
だから頼むよ。な? 僕にできる事ならなんでもするからさ」
少しして顔を上げた佐倉は自信なさげにそんなことを聞いてきたが、それは無用の心配である。
佐倉が役に立てないなどありえない。
僕が大ポカやらかす可能性の方が高いくらいだ。
口に出してしまった以上、ここでなんとしても口説き落とさなければ、本当にブーイングされてもおかしくないと思っている。だから、佐倉に手伝ってもらえないなら、計画の撤回や延期も視野に入れるつもりで誘った。
いわば佐倉勧誘は、成否や勝ち負け以上に重要な完成度を分ける分水嶺といっても過言ではないのだ。
「…………ずるい。そんな不意打ちで真剣に頼まれたら断れないよ」
「はっはっは、知らなかったのか? 僕のような凡人が人を頼る時は手段を選ばない。特に絶対必要な奴ならなおさらだ。
―――それで改めて聞くが、手伝ってくれるか?」
「……うん、いいよ」
佐倉に承諾の返事をもらって、いよいよ勝負の下準備が整った事を実感した僕から、思わず雄叫びのような感謝が出てしまった。
「おおー! おっしゃーーー!!! 佐倉、マジでありがとう!! 共に綾小路を打倒して煽り散らそう!!」
「そ、それはどうかと思うけど……ゲーム、なんだよね?」
これで、完成度は50%UPを見込める。
その分、難易度はいくらか低下するかもしれないが、友達の協力を考慮に入れると充分取り返せる。
と、考えていたのに―――。
「勿論! 佐倉に加えて、四方と東風谷、他何人かの手を借りられれば勝ったも同然だから、綾小路を煽りに煽ってやろう」
「こいつ……」
「あっ、ちょっと待った。俺は今回、挑戦者側にしてくれないか?」
「はあっ!? 四方、なんd」
「それなら、私も挑戦者がいいです! 前から一度、夢月さんと勝負してみたかったんですよ!!」
「おぉい!! お前ら、なんでそんなに好戦的なんだよ!?」
「いやなに。考えてみたら、俺って左京に何度も負けてるんだよな。負けっぱなしだと…こう、癪だろ?」
「そんなことないって!! プールの時は本当にまぐれだし、他には勝ち負け以前に勝負してない」
「こっちもそんなことはないと答えておこうか。将棋や口論、行動力ではいつも敗北感を感じさせられていたんだよ。いやはや、このままだと辛いよな?」
「辛いんだったら、その半笑いやめろや!」
「ふふふ、私は勝負はしていませんが、ずっと勝てるかどうかわからない相手にも挑んでみたかったんですよね。その上、夢月さんはなんか勝負を持ちかけたくなる雰囲気があるので!!」
四方や東風谷がなんか綾小路みたいな事を言い出した。
こいつら、実は似たもの同士だから犬猿の仲なんじゃ? という疑惑が僕の中で生まれたが、著しくゲームの難易度が下がりそうな事態にそれどころではない。
「東風谷までかよぉ……。むしろ、僕相手なら勝ち放題だろうに。
なぁ、佐倉…いや、この際、誰でもいい。この二人、身勝手すぎると思わないか? どっちかでいいから何とかこっちに引き込める奴はいないか?」
「身勝手とか、左京が言うか……」
「いや、早苗も四方君もめっちゃ嬉しそうだし、それは無理ってものでしょ」
「うぅ、だよなぁ。
こうなったら……櫛田、それに戸塚達や椎名、姫野さん、高円寺も。
反射神経や器用さに定評がある者を、知ってたら教えてくれないか? 学校トップクラスくらいの奴がいないと、想定する難易度に調整できない可能性が高いんだ。報酬も出すし、交渉も自分でするから、マジで頼む!」
「そんなこと言われても」
「……ちょっとわからないな。葛城さんはどうです?」
「俺も数値で判断できない生徒の情報は持っていないな」
「このゲーム、結構難しいですね」
「チッ、性格悪い弾幕……」
「……Hmm」
四方と東風谷が僕と勝負したい意思が本気なのは見て取れたので、途中で切り替えて残りのメンバーを勧誘したが困った。
この二人と綾小路以上の反射神経を持つ可能性の者が、僕には会長か鬼龍院先輩しか思い至らない。だが本気ではあっても、流石に遊びで切り札を一枚切るのはない。
反射神経に関してこの場の面子は、さっきからプレイしてピチュりまくっている椎名や見るからにドン臭そうな佐倉では言うに及ばず、櫛田や葛城・戸塚も良くて僕より少し上程度だろう。ほとんど知らないので、色々不明な姫野や高円寺といった者もいるにはいるが、判断材料が少なすぎる。
「あ、あの…わたし」
「ぎゃー!! 駄目だから! 佐倉!! 佐倉、君だけはそのままの君でいて! 友達で同僚で同級生じゃないか!? 東風谷はあっち側だけど、別に敵になるわけじゃないから!! 僕を見捨てないで!!」
「違くて! そうじゃなくて、青娥さんなら力になってくれるんじゃ」
「そ、そうか、よかった……。
でも青娥さんだと…………なんか面白がって挑戦者側に回る未来しか僕には見えないんだけども」
「あっ、そうだよね」
本当は、経験豊富な青娥さんという選択肢もなくはないのだが、邪仙との取引材料は四方や東風谷を翻意させるより難易度が高い。
折角提案してくれてなんだが、綾小路への謝罪祭りの記憶はまだ新しいのだ。
佐倉もなんとなくそう感じているのだろう。あっさり意見を引っ込めてくれた。
いっそ、多少なりとも融通が利く櫛田・葛城・戸塚に加え、柴田や神崎などBクラス組を起用して数で補おうかと考えていると―――捨てる神あれば拾う神あり、とでも言おうか。
行儀良く食事を終えた高円寺が救いの手を差し伸べてくれた。
「ははは、ムーンボーイ。君はラッキーボーイでもあるねぇ」
「高円寺か。というと?」
「この私の興味を引いて、僅かばかりの時間なら割いても良い、と思わせていたことだよ」
「む。僅かって、どのくらいだ?」
そう聞くと、高円寺は指を4本立てた。
高円寺が口を開くと場がしん…となったが、凄まじい影響力だ。
ただ僕にとってそれよりも重要なのは中身である。
「4時間か? それとも、ないと思うが4日だったり?」
「それを聞くことに意味はあるのかね?」
「ないな。一応聞いてみただけだ」
充分とは言えない。
だが、高円寺の4時間があればそれなりに期待してもいいような気がする。まさか4分や4秒でもないだろう。
それなら、出せるだけ提示して、hour単位で契約しておくのが最適解だと僕の勘は言っている。
能力も性格も知らないが、初見からただ者ではない雰囲気だったし、体格やさっきの影響力だけで見ても底知れないナニかを今も感じている。
賭けにはなっても、相当に分の良い賭けにできそうだ。
「……よし、高円寺。君に賭けよう。
1日に付き1時間の作業で時給1万。きり良く1万プラスで、総計5万。
―――これでどうだ?」
「フッ。いいだろう。
偉大なるこの私を動かした事、生涯誇るといい」
「誇るかどうかは、お互いのこれから次第だな。
でも、ありがとう。高円寺には安いだろうが、イラストや音楽の事も考えると、これが現状のフルベットなんだ。だから、即答してくれたオマケで僕の借り1も付けよう。何かあれば言ってくれ」
「Hmm……。ムーンボーイ、やはり君は不可解な男だねぇ」
「ああ、それと振込みや仕事用に連絡先も交換してほしい」
礼を言ってそう申し出ると、高円寺は微笑を浮かべながら連絡先を交換してくれた。
不可解とも言われたが、これ以上ないほどシンプルな誘いだっただろうからスルーする。
ついでにこのよく笑う男なら、乗ってくれるんじゃないかと思ったので天文部への勧誘もしてみることにした。
「それとよかったらだけど、天文部に入らないか?」
「「「「え」」」」
「これからいい季節だし、美しい空を眺めるのも乙なもんだろ」
「……ふむ。なぜ、私なのかね?」
「んー、なんとなく…かなぁ。
高円寺って話してみると面白いし、美学やロマンを理解できるみたいだから、なんとなく気に入った。なので、勧誘してみたんだが駄目だったか?」
なにやら妙な沈黙の中、変な雰囲気が漂っている気もするが、高円寺は野郎だからナンパには見えないはずだし、綾小路や戸塚にも勧誘したのだから今更だろう。
つまり僕の気のせいである。
「勿論、入部しなくてもいいし、活動に来ても来なくても良い。
ただ入部してくれたら、月1か2くらいで活動連絡は入れるけどな」
「ははははっ! この私を正面から勧誘し、それでいて私への敬意や尊重も忘れない。
フッ。面白い男だと改めて認識したよムーンボーイ」
「おっ、それじゃあ」
「入部してあげようではないか。だが、私が興味を失った時にどうなるのか。それを考えておいた方がいいかもねぇ」
「その時はその時に考えるよ。
受けてくれて本当にありがとう。それとよろしくな」
一応、入部届けを持ち歩いててよかった。
すぐに取り出すと、高円寺は快く記入してくれ、新入部員となってくれた。
これで、佐倉か綾小路どちらかを口説き落とせれば、図書資料室の近くにキープしてある部屋を部室にできる。部費はともかくこっちは是が非でもほしかったので、高円寺には感謝してもしきれない。
報酬ありとはいえ、綾小路打倒計画Ⅱも手伝ってくれるし、真に良い奴である。
しかし、結局高円寺が何故訪ねてきたのかは謎のままだった。
結構強引な解釈ですが、佐倉について。
これまで佐倉を、綾小路や四方にも比肩する癖のある天才と匂わせる描写をしていた(できてなかったら、すいません)のは、この『美しさの表現』という分野では右に出るものがいないと思っていたからです。
原作では、彼女の真価が発揮される可能性の最も高かったイベント前にいなくなってしまったので、折角書くならなんとか持ち味を出せないかと考えたのがこの作品の佐倉アレンジ√だったりします。
正直、容姿や精神力などは(この作品では霊的素養もですが)、私個人としてはおまけとしか考えてなかったり。
あくまで勝手な個人的印象です。考察とかですらなくて、「こうだったらいいな」程度のものです。なので気になる方は、この作品ではこうなんだって感じにスルーしてください。
高円寺の入部について。
1D10で友好・敵対・無関心に3つずつ割り振って、天文部入部には遊びのつもりで余った1つの数字しか割り振ってなかったのに、ピンポイントで当たるとか(こういう行動原理不明な相手だと、ダイス振って運を天に任せるしかないのです)。近くで左京の佐倉評を聞いていて何か思うことでもあったんだろうか。
おかげで、そもそも何でお前居るの状態だったのに、佐倉より早く天文部に入部する事になってしまった。
それと少し前に感想欄で指摘があったので一応説明。
そいつしか持ち得ない能力や才能の者は天生(佐倉・東風谷)。
それ以外のいわゆる天才型は天性(高円寺・四方)。
どちらに該当しても努力や環境に大きく左右される者は天成(綾小路・堀北学)。
上記3つは、ほぼ同じ意味なので完全に私のイメージですが、こう作中で分類しています。ちなみにこれ以外の対象者ほとんどは当てはめれば天性で、左京がかろうじて天生の端っこに引っかかっている感じだったり。