いつの間にか「ここすき」の総数がめっちゃ増えてて嬉しい。これは返事を返しようがないので、ここで御礼申し上げます。
ありがとうございます。
7月19日金曜日、放課後の天文部部室。
最近はトラブル続きで忙しかった数ヶ月も、期末テストを除いてようやく終わろうとしている。なのでゆっくり過ごそうと、できたばかりの部室を整えるために僕は訪れていた。
テストが11教科になって勉強が大変そうな東風谷もついてきていたが、近頃マイブームの日課をこなすには別に邪魔にならない。また思うところあったようで、東風谷がクラスの集団内から連れてきてしまった姫野も席を外している。
無駄に語るには、東風谷と二人きりな今が好機である。
「日課をこなすにはやはりここだな。……では僕の日課とは何か? という疑問が湧くだろう」
「湧きませんけど」
「……わかっている。それが東風谷の照れ隠しだってことくらいはな」
「なに言ってるんですか、夢月さん」
勉強中だからというだけではない1ミリも動かない東風谷の表情は、コレでもかというレベルで興味がないことを示している。だが、万が一、億が一の可能性はある。説明はしておくべきだろう。僕が語りたいし。
やる気なさげだったのをあえて笑い飛ばし、試しに勢いで誤魔化してみる。
「ははは。これから何をするかは決まっている。それをお前にもお裾分けをしてやろうという話だ」
「はぁ……また馬鹿な事を考えてるんですね」
「そう! 死んだ魚の眼になってる担任の観察である!!」
「…………夢月さん。もう一度聞きます。なに言ってるんですか?」
更に呆れの色を強く宿した東風谷に、意味もなくネタバラシしてみた。
誰かに言いたくてしかたなかったのだ。
「うむ、詳しく説明しよう。
最近、僕も色々あったろ? だから、こう……社畜の眼になって喫煙してる先生方を眺めて懐古に耽る趣味が行えなくてな。図書資料室からよく見えていたけど、場所が変わって見えなくなったと思ってたんだ」
「変な趣味……」
少し昔の社畜に付き物なアレは、どこかノスタルジックな気分にさせてくれる。ついでにいくつか画策するのは合理的だろう。
「それで困ってたんだが、この部室の窓からも喫煙所が見える事に気づいてな。あの灰色空間に来る大人が、口を半開きにして煙とストレスを吐き出す顔を観察していたというわけだ」
「……ああ。たしかにあの先生の喫煙顔は、教室でたまに噂されてましたっけ」
「その通り。5月に佐倉の撮影写真の端に写っていたアレを切り取り、ピックアップしてクラスや学校に広めたのは何を隠そうこの僕だ! 最近まで時々先生のあまりチェックしない学校の掲示板に投稿していた。佐倉の予備の望遠レンズ付きカメラがここにあるのも、それが理由だ」
そしてそれ以来、ガチャの現場に顔を出す教師の中から担任の姿はなくなった。『どこかから』担任に情報が漏れて犯人探しをしていたのだろう。
つまりはそういうことである(確信犯)。
「え、夢月さんが? 結構な男子が鼻から煙を出す先生を見て落ち込んでましたよ? 夢破れた感じに」
「それは、いわゆるコラテラル・ダメージというやつだな。僕が楽しかったからしかたない」
「楽しかった……ああ、それはしかたないですね。私も綾なんとかのそういうネタがあったら、やってみたいですし」
「だろう? なんでかあの担任って、僕に絡もうとしてくるんだよ。もう東風谷にとっての綾小路といっても過言じゃないぞ」
「当たり前のような鬼畜発言と綾なんとかへの認識は置いといて、それで先生にこういう反撃するあたり、夢月さんですよねっ」
あ、理由まではわからないけど、これは苦手とかでなく本気で綾小路を嫌ってそう。
わざと名前を出しておいてなんだけど、担任の話だけで完結した方が無難か。なんか東風谷の譲れない部分関係かなにかで、本気の嫌悪感っぽいのがある気がする。下手に触らない方がいい。
「いや、僕の意趣返しもあるが、野郎の間違った夢は早めに破っておいた方がいい。まかり間違って、ガワだけでアレを素敵な大人とか勘違いして憧れてからでは遅いからな。変顔は充分その材料になりうる」
「ふ、ふふっ。見てる部分が違いますよね、夢月さんって」
なので話を担任への注意喚起に戻すと、何故か東風谷は笑った。こちらは妥当な範囲の対応だからだろう。
一之瀬に加担して会長を召喚してくるなど、僕に敵対と取られて反撃されるのも当然の理。実際、ちょっとガチャを始めたのが問題になっただけの時点でアレは、ライン越えだったと今でも思う。
ゆえに、ついガチャやってる時に愚痴を溢していた櫛田と共謀して、B・Dクラスの担任の変顔を更に大々的に広めてしまったのである。
櫛田も自分のクラスの担任に思うところがあったのか、邪悪な笑みを浮かべながら計画立案と隠蔽工作に協力してくれた。
やりすぎなんじゃないかって?
いやいや、少し考えてほしい。
僕はアレが先日の生徒会室で説教地獄になったのにも、影響あったんじゃないかと疑っているのだ。人畜無害だった僕を問題児扱いする教師にあるまじき問題教師である。それならと、問題児らしいイタズラで返しておいたのである。
まぁ、停学実績ができた現在なら我慢しただろうが、これもまた運命というモノなのだろう。足がつく前に撤退するつもりで、今日は最後の観察だった。
「……何がとは言いませんけど、私もあの先生や一之瀬さんにお説教されちゃいましたからねぇ。何を考えてるかわからない、らしいです」
ん? なんか雰囲気が。
普段なら「わかるわかるー! お前って意味不明だよな!」とか茶化すところだけど、それはやっちゃ駄目だと僕の勘が訴えている。
「私なりに神様や信仰に向き合ってるんですけどねぇ。
───なんでみんな、信じてくれないんでしょう……?」
返事や答えを期待してないかのような闇属性っぽい雰囲気のある愚痴。単純に神様や幻想を信じてもらえる方法がわからない、というよりも疲れや諦めが見える。
ゲームの件もあるし、素直に元気付ける事もできるが……。
「全体を広く見るのは重要だけど、本当に目的を達成したいならどこかに感情移入するのは最小限に抑えた方が良いぞ。東風谷はどうにも感情で動き『すぎる』フシがあるからな」
おそらくこれが東風谷の源泉、その一つに大きく関わっているのだろう。
東風谷が溢れんばかりに本気なのは伝わってくるけど、なまじ個人能力が高いもんだから人を信じさせるのに必要なプロセスをいくつかすっ飛ばしてる感があるんだよなぁ。
でも足掻きたいなら、効果は薄くてもできることはしておこうか。一之瀬と違って東風谷みたいな場合、大抵近くにあるモノが鍵になるから僕でも軽い助言程度はできる、かな。
「あとおそらく、東風谷が自分自身の言い分を信じてないからでもあるだろう」
「そんなこと!」
「誤解ないよう言っとくが、神様や信仰の事じゃないぞ。自分が信じるモノを他人にも信じさせるのは難しいんだ。それがわかってる奴は大抵そうなる」
「……っ」
「しかも東風谷は、熱意をはっきり出してるのにどこか半信半疑な部分がある。対人関係に限るけどな。だから、それを貫通できる佐倉や四方、櫛田……ついでに僕みたいな友達にしか伝わり難いんだ」
反発したい気持ちを出した東風谷だが、僕が思う『要因』を述べると少しだけ納得したのか言葉を途切れさせる。
時期が来るまで言えない隠し事をしてる僕のどの口がそれを言うんだと、僅かに自嘲の念も湧いてきたが、それでも一応の指摘はしておく。
なぜなら現時点の東風谷の姿勢は、信仰者に適した働きかけである啓蒙ではなく、どちらかというと教え諭す教育者に近い。
それでいて単体能力に特化してる性質だから、無意識に壁を作ってしまうのだろう。一見さんが乗り越えるのは難しいほどの壁を。これでは布教するにも不都合が出てくる場合がある。
なら、軽く背中を押してやるのが友達というものだろう。
「それなら、最初から貫通させる東風谷のやり方を構築すればいい。嫌なら無理に常識に囚われなくても、東風谷が常識を作ればいい。
そういう方向の『努力』なら、きっと楽しくやれるだろう? 借りを返すついでに、僕もちょっとは手を貸すからさ」
「囚われない常識を作る……」
佐倉もそうだったが、自分を型にはめようとする窮屈な思考が見えてつい偉そうな事を言ってしまった。よりによって神様が付いている東風谷に。
分野は違えど、おまゆう案件みたいに思え、しかも神様方ならわかってそうだから、なんとなく気恥ずかしい。
頑張ってる友達に口を出してしまう癖が僕にはあるのかもしれない。
「手を貸す、ですか……」
それだけ零すと東風谷は考え込んだ。
「ただ、未知が恐怖と繋がるんなら、逆説的に既知は恐怖にならない―――わけじゃないんだよなぁ。知ってるからこそ怖い事はある。
そう、例えば……善人怖い、みたいな? これを覚えておくといつか役に立つかもよ」
真面目な時くらいは僕も言うこと言ったら、空気を読んで黙る。
沈黙は沈黙でも特に気まずくないし、考えが纏まって東風谷が再起動するまでの余った時間をプログラミングに当てようと考えて、パソコン前に座り直す。話している間に観察対象である担任がいなくなっており、それを機に話はひと段落を迎えたのもある。
でもコイツが浮かない顔をしてるのは落ち着かないので、少しでも気を逸らせたのは良かったと思う。
数分後に姫野が戻ってきた時には、とりとめもない話題と雰囲気に軌道修正できていた。東風谷の切り替えはいつも早くて助かる。
「担任って、一次関数よりも指数関数ばっかりだから、ああなんだろうなー」
「ふふっ、上手い冗談ですね。役目がら私も呑まされる事あったし、次があったら使ってみましょうか」
「あー、神事には付き物だもんな、酒。断るコツは飲んべえの理解度がないと難しいか」
「そうなんですよ。別に嫌いじゃないんですが苦手です。たくさんは呑めるようになる気がしません」
ただ、聞いててもなんの話かさっぱり、って顔を姫野がしていたので、聞いてくるようなら遊びを入れてみようと東風谷とアイコンタクト。戻ってくるまでに東風谷が平常を取り戻してて幸運だった。
グループ活動を通して僅かにわかってきたが、この普段はダウナーなクラスメイトは意外と好奇心旺盛なのだ。
「ちょっと待ってよ。なに…その関数って」
ほらね。どうでもいいと予想できてるだろうに、自ら呆れの海へと飛び込んでくる。
東風谷との連携プレーは、僕が標的じゃなければやりやすいし楽しいから時々してたりする。
なんかお互い察してしまうんだよなぁ。気質が近いか相性がそこそこ良いのかもしれない。
「ああ、食べると普通に上昇していくのが食事で一次関数ですよ」
「んで、飲むと曲線を描くように酔いが回る酒が指数関数───って、言っておきながら、よく考えたら酒を飲む前に0を超えてたらダメじゃん!」
「たしかにこれは指数関数とは言えないです! 全然上手くないじゃないですか、夢月さん!」
「ふむ。些細なミスだ。おそらく担任も地獄から見守ってくれているさ」
「勝手に地獄送りしちゃうとまた怒られませんかね?」
「問題ない。担任の仇は気が向いたら僕が討っておくからな」
「……あんたら、いつもこんなよくわからない会話してんの?」
呆れた風にしてる姫野だが、自分から聞いてきたことをお忘れなきよう。
東風谷に合わせて、捻じ曲げて教えてやろうではないか。
「ふっ、姫野。RPGのごとく鍛え上げて身につけた能力・知識を見せつける時」
「気持ちよくありませんか? 優越感に酔いませんか?」
「楽しいだろう? 想像してみるといい」
「レベルを上げて気に入らない雑魚を蹴散らすのは爽快ですよ」
「そう、力ほど純粋かつ単純に美しい法律はない」
「お綺麗な人間だけが気取った理屈をつけてそこから目を逸らす!」
「法とは為政者にとって都合の良い概念である!」
「「ふふ……ふはぁ~はっはっはっは!! 力こそ全てを司る真理だ!」」
「……………………どこぞの大魔王の引用はやめて? というか、打ち合わせでもしてたの? あんたらっていつも仲良いわよね」
してるわけがない。ただ好きな台詞が東風谷と被っただけの偶然である。
それに僕は東風谷に合わせてるだけなのだ。信条が僕のモノと相違ある時点で丸わかりだろうが……。
姫野に誤解されないように、口にも出しておこうか。
「東風谷のレベルに合わせるとこうなる」
「夢月さんのレベルに私が合わせてあげてるんですよ」
「「は?」」
異口同音に内容が揃った。
そして睨み合いが勃発。
授業中以外では、もうお決まりの流れだ。
どちらかと言うと東風谷の方がツッコミや煽りを入れてきて、僕は乗るだけが多い。何度も似た流れになってるし、姫野は東風谷のどうしようもなさも承知の上だろう。
姫野も僕達ほどじゃないけどクラスで浮いている方だから、女子ではあってもどこか親近感を感じて気安くなってしまうのである。
きっと彼女は一之瀬の作り出す同調圧力や雰囲気が嫌いではないけど、時々鬱陶し…疲れることもあるタイプだろう。男女は違えど、非常によくわかる。
それでも面倒に思いつつも空気を壊さないよう、度々行われるクラスの集まりに時々参加している姫野は凄い奴だ。
僕や東風谷ではこうはいかない。影の者には、わかっててもできない事をやれる奴を尊敬してしまう性質がある。東風谷が珍しく気に入って気にかけてるっぽいのも、そこらへんに理由があるだろう。
まぁ、それはともかく―――。
「僕のレベルの方が高いに決まってんだろ」
「いえ夢月さんって、基礎ステータスが低いじゃないですか。それなら私が合わせてあげてると言っても過言じゃないですよ」
「でも、すぐ仲間割れするとか、これもうわけわからない……」
コイツ……! 言うてはならん真実を!
僕がレベル『だけ』高い事に劣等感()を抱いてたら、ショックを受けるだろうが。
……方針変更。言い負かしてやる。
「はぁーっ!? いやいや、お前って偏りまくってんじゃん! 合わせるのどんだけ大変だと思ってんだ!?」
「いえいえいえっ! この話に関しては完璧美少女の私こそが!!」
しかし言うが早いか、ごく自然に僕の首に巻き付いてきた腕に遮られた。
「……む、むぎぎっ。は、な…せ」
反論させたくない場合、すぐに絞め技に走る自称・完璧美少女がいるからだ。
「もーっ、しかたない人……!!」
「けほっ…こ、こっちの台詞だ! さらっと言論封殺しといて被害者振るんじゃねぇ!」
「現人神と多く接触できる奇跡に感謝してほしいくらいですけどねぇ! せっかく早苗さん天才美人素敵最強ナイスバディーな私の胸を当ててあげたのだから、狂喜乱舞するのが自然じゃないです!?」
「そんなの楽しむ余裕なんて微塵もなかったわ! 余計な修飾語まで付けおってからに!」
「まぁまぁ、落ち着いてください夢月さん。それ以上言ったらキレます」
「こっわ! 現実のツンデレがヤバすぎる! デレ要素を感じないから尚更に!」
「……確かに。ツンデレって目の当たりにすると、ヤバさしか感じないね。でもそもそもこれはツンデレなのかしら」
もっと大きな声で言ってもいいんだよ姫野? そんな露骨に巻き込まれないよう物理的距離を離す態度を示さなくてもいいじゃん。
てか、さっきはもうちょっと大人しかったのに、なんで東風谷はテンションが乱高下するんだ。一時期の櫛田みたく情緒不安定なの?
「あははっ。穏やかに話し合いましょう、夢月さん」
「お、穏やか? お前が?」
「とりあえず穏やかに夢月さんを退治します」
「私の知ってる穏やかと違う。どうやっても退治と繋がってくれない表現ね」
「さっきからヤバいって! 櫛田の邪悪さが感染してんのか!?」
くっ……! 一応は姫野もまだ頑張っているが、災害のような東風谷を鎮めるにはパワーが足りない。
今こそ来たれっ、天文部のブレーキ役達よ! 今日はまず来たれないと聞いてるけども!
「というか、坂柳が来た時に、左京君が停学してたの不幸中の幸いすぎるでしょ。あの櫛田さんを邪悪とか言うし、もしこの調子でいたら戦争になっててもおかしくないわよ。四方君や一之瀬さん達の慌てよう、東風谷は見てたでしょ」
誰だよ坂柳とやら。
「ふふ、ユキさん。そうなったら敵を全てぶっ飛ばせばいいでしょう? 実に簡単なことです」
「……今度は東風谷が停学になるわよ」
「夢月さんがなんとか着地させてくれますよ。私のこと大好きですしね! あはははっ」
ざけんな。成り行きを見守ってたら、丸投げする気満々じゃないか。
「力が欲しいな。この勝手極まるクソ緑を打倒する力が……!」
「そして左京君は左京君で急に覚醒するような台詞を吐くし」
「ふっふっふ。力が欲しいですよね、夢月さん。今なら入信して少し修行するだけで力を授けてあげましょう」
「力を授けると断定で聞いてくる存在は邪まなる者定期。
邪神よ、去れ!」
「じゃ、邪神!? 神であるこの私になんて暴言を!」
あ、面倒くささについ思ってたことが。
東風谷の神様方まで一緒くたにされるのは心外なので、範囲を限定しつつおちょくっておこう。
「ふっ、僕は何処にも属さない! 学校と部活とバイト先と……えーと、それから」
「それ、普通に属してるじゃない」
「ほう? それが夢月さんの本心ですか……」
「東風谷に関して以外、今考えた法螺だ」
「―――さあっ、左京夢月! 歯ぁ食いしばりなさい!」
見誤った!
直前まで笑ってたのに、拳を握り固めて振りかぶるまでに躊躇いがなさすぎる。
冗談なのはわかってるけど、須藤すら一撃で倒した攻撃が脳裏をよぎって、僕を『半分』本気の謝罪へと走らせた。
「法螺吹いてごめぇーーーんっ!! 僕が悪かったから見逃して!」
「逃しませんっ、夢月さんだけは……!」
「その某ゲームの改変絶望台詞を使うところじゃないだろ今!?」
「今ですっ!」
「それも違う! コイツ相手にするのマジで……あっ!
くっ、殺せ! 殺さないなら帰れ!」
「その台詞で相手を帰そうとする使い方は新しいわね」
でもこれ、謝罪じゃなかったかもしれねぇ。
ここは真面目っぽい方向に舵をきるのが妥当か。
「わかった! じゃあ、そもそも龍園が…Cクラスの奴らがなんで東風谷達に切り札を握られてたのに、学校へ訴えさせたか知りたくないか!? 推測でしかないが、話して来た時にだいたい読めたんだ!」
「龍…園? えーと、夢月さんがドラゴンフライ野郎なんて十字架を背負わせた人でしたっけ?」
だ、駄目だコイツ。
龍園にすらほとんど関心が向いてない。
「……なんてあだ名を考案するんだよ。コイツ、龍園相手でも怖いもの知らずすぎる」
「ああ、違う。ドラゴンボーイさんでしたか」
「…………本人に面と向かって言うなよ東風谷? ナチュラルな煽りにしかならんからな。てか、どっから出てくるんだ、その煽りのバリュエーション」
「夢月さんが本人へ言ってたんですけどね」
「僕が言うわけないだろう。よしんば言ってたとしても、水に流して忘れたことだからノーカンだ。問題ない」
「問題ないわけないでしょうに。あんたら、アレなの? 煽りを入れないと死ぬ人種なの?」
まったく。僕がそんな煽りをあんな怖そうな龍園にするわけないだろう。少し考えたらわかりそうなものだけどな。話が逸れたから良しとするが。
でも不思議と楽しくなってきたし、ネタ会話を続けてみようかな。せっかく姫野もいるわけだし、矛先はそちらに流すのが良さそうである。東風谷なら察して乗ってくれるだろう。
「もう駄目だ。勝てるわけがない。レベルが違いすぎる」
「くっ、ドラゴンボーイの力は絶大。このまま全てを手中に収めるつもりですか……!
そんなこと現人神であるこの私がさせません!」
え、マジで乗ってくれるん? だったら遠慮なく誤魔化させてもらうけど。すごい意味わからなくなってるのは、もうしかたないと諦めることにしよう。
「勝手にボス化した上にネタにしないで!? 龍園君?って人に聞かれたらどうするのよ!」
「安心しろ姫野。全て東風谷がやりました、と言っておけばいい。コイツはやる女だ」
「左京君ヤバすぎるでしょ!? 私がツッコミするって相当たからね!?」
その成果か、ようやく日常感の溢れる平穏な日々が戻ってきた。……姫野以外。
姫野がツッコミ疲れてだるそうに突っ伏したのを機に、僕達はそれぞれのやることに回帰した。僕はゲーム制作、東風谷(本来なら姫野も)は試験勉強へと。
そのまましばらくコードを打ち込んでいると、考え事していた東風谷が閃いたかのような笑顔になって勢いよく聞いてくる。
ネタ会話を始めた時点でわかってたが、悩み的なモノは自己解決したようだ。
「夢月さん夢月さん! ところで、そろそろ守矢に入信してくれる気になりました? なりましたよね! やっぱりうちに来るべきですよっ!」
それはよかったのだが、問題はいつものである。
僕の話はともかく、思考に沈んでいたのはなんだったのかという平常運転だ。この女、マジで話をすれば1日1回以上は勧誘してきやがるのである。
まったく、何が琴線に触れるのか。変な負のオーラを撒き散らしてるよりかは、というか楽しげなのは……まぁ、悪くないけども。
「ならん。いきなり勧誘してくるな。僕は今、ゲーム制作で忙しい」
「息抜きですよ。テストが近いし、明日あたり久しぶりにみんなが勢揃いしそうじゃないですか。そこへ夢月さんが入信したニュースが流れれば……!」
「僕が洗脳されてる疑いが生まれるな」
「なんてこと言うんですか!?」
「あんたら、切り替えと割りきりがすごいわよね……」
むしろ妥当な線だと思うが。
信仰獲得に協力するくらいならいいけど、僕ががっつり東風谷に入れ込むわけにはいかない。それでも入信するようなら、それはもう僕とは違う存在だ。
約束が守れなくなる選択をするなんて、僕の矜持が許さない。
ちなみに以前にきちんと断った際に丁寧に説明したこともあったが、次の日になると普通に勧誘してくるので、東風谷の勧誘は即座にNOの一択である。
「アレですよ!? 私や愛里さんみたいな美少女と毎日楽しくやれるんですよ!? 男としては最高の状況じゃないですか!」
「佐倉まで巻き込んで、いかがわしい店みたく言うな。てか、そんなに勧誘してきても受けない。違う奴に頼め」
「……やれやれ、この私がこんなに頼んでるというのに……。本当に困った人。いつになったら夢月さんは承諾してくれるんでしょう」
「どっちが困った人だ! さっさと他に目を向けろ。面倒くさい」
「あぁん、つれない……」
「ひぃっ! 唐突に変な声と態度やめろ。すごいゾッとしたわっ!」
なんとなくわかってきたが、東風谷はなんというか性格の幅が広い。佐倉っぽくも櫛田っぽくもなれるコイツが本気で遊ぶと、マジで不意を突かれる。
「ふ~ん。……あ~、もしかして一之瀬の方に行きたいんですかぁ? あ~あ、信じてたんですけどね~。別にいいですよ? 私や愛里さんといるよりも楽しそうですからねぇ~」
「あー? なんで一之瀬?」
「先日なんか生徒会の件だかで、仲良さげに話しかけられてたじゃないですかぁ~」
ガチャを口実に櫛田式見とり稽古をやらせた結果、冗談抜きでとんでもない化け物を完成に近付けてしまったのかもしれない。
櫛田を彷彿とさせるこれまで見たことない漆黒の笑顔で、まるで事実無根の浮気を責めるような態度だ。
……いや待て! なんでこんな事になる。そもそも人付き合いの苦手な僕が選択するなら───。
「はぁ? 愛里は勿論、東風谷と担任に並ぶ化け物を天秤に乗せたら、気心知れたお前ら優先に決まってんだろ。変な言いがかりはいい加減にしとけ」
間違いなく友達を選ぶ。
人によるかもしれないが、陰の者にとっての友達はかなり上位の優先度であるのは確定的に明らかである。これまでの付き合いや言動からすると、東風谷もわかっていたと思うのだが。
「え…ぉあ……?」
「まったく、少し落ち着け。そしてヤンデレは演技でも怖いから止めてくれ。頼むから。特にお前のは爆発寸前の櫛田に匹敵……って、どうした?」
「左京君。それがヤンデレってわかってなんで……」
「あん? 姫野はわかってるん?」
「……あ、いや。なんでもない」
そう当然の理を返したら、間抜けな声を漏らしてなんか口を開けたまま固まる東風谷がいた。
うん。やっぱり東風谷が意味不明代表だわ。
全僕議会でも満場一致である。姫野は微妙な反応でまた突っ伏したけども。
しかたないので、目の前に小袋の柿の種をお供えして放置することにした。
何故かしばらくボーッとした後、次の東風谷はわけのわからない話題を持ち出してきた。
「…………ひ、卑怯ですよ!? 夢月がそう来るなら、私も容赦しませんからねっ!」
固まろうと論破しようと、お供えした菓子をポリポリ食べながら。
「そ、そう! 夢月さんの猫度は12点!
ちなみに100点満点じゃなくて、96点満点です。96は100までの2と3の最大公倍数だから便利なんですよ! 喧嘩が起きないからつまらないですけどね!」
内容も相まって、全ての雰囲気が台無しである。シリアスからシリアルへと雰囲気が完全に移行した。
「それ高い得点だと猫度とやらが高くなるじゃん。僕は別に猫になりたいわけじゃないから、低くても結構なんだけども」
「一之瀬さんが48点で、桔梗さんが96点ですから、そこらへんは適当です」
「そうか! あざとい猫真似を指してるのか!?
たしかに、櫛田のあざとさが満点級なのは間違いない。そして逆に一之瀬はあざとさが不足しているということか。なるほど。意外と深く考えられている……!」
「いえ、別に考えてません。本当に適当です」
「……」
……でもホント、なんなんだコイツ。僕も少し大袈裟だった気はするけど、頑張って乗ったのに無駄に振り回されるんだけど。
「……私は風祝の早苗。絶え果てた現人神の末裔。神を祀る人間が祀られることもある。巫女が神になることもある。
夢月さんは私がこのくらいの覚悟をしているとわかっていますか?」
「別に神様になってもならなくても東風谷は東風谷だろ。
お前がやるってなら、できる手伝いくらいはまぁまぁしてやるさ」
「……まぁまぁ」
「あー、やるって言ったら、やる時もまぁまぁあるってことだ」
「そう、ですか。では現人神の……私の力を見せてあげますから、もう一度真剣に考えてみてください。
―――奇跡を起こす神の力を!」
そうかと思えば、なんかいきなりシリアスな雰囲気に戻って綾小路みたいな事を言い出す。ちょっとでも似てるとか言うと怒りそうだから、指摘はしないけど。
真剣な目はしてるから僕も真面目に返したけど、話が二転三転するのはどうにかしてほしい。しかも元気になったり、落ち込んだっぽくなったり。マジで錯乱してるんじゃないだろうな。
「お前もか……。なんでこう、僕に降り掛かってくるんだ。同レベル帯でやり合ってくれよ、ホントに」
「ノリが悪いですよ、夢月さん?」
「あぁ、もう。わかったよ。気晴らしに付き合ってやるから、少し落ち着け…落ち着かせてやるよ」
まぁ、今回は東風谷が持ってきたぷよ○よで、どっちが多く連鎖できるか競っただけなわけだが。それくらいなら別に付き合うのも吝かではない。電脳系は苦手分野以外、だいたい得意なのだ。
対戦では速攻の妨害&6連鎖を組み上げて圧倒した上で、特技と誇れる技能・全消しを魅せて格の違いをわからせてやった。どこか神聖な雰囲気になろうが、こういうゲームなら早々には負けない自信がある。
特に東風谷が連鎖しようとした瞬間に、運悪くその場所へお邪魔ぷよを落とされて愕然とした顔。とても気分爽快になれる手合わせだった。
「自信満々に自分から持ち出してきて、負けるってどんな気持ち? ねえねえ東風谷、どぉんな気持ちかな? かな?」
「ぐっ! じ、自信あったのに……!」
「ふっ。これがNDKだ。身に沁みてわかっただろう? 僕に口でふっかける真の意味が。これに懲りたら突っかかってくるのはやめるんだな」
「……」
ついでに先人の教えも授ける事ができて有意義な一時だったと満足していると、内部でどのような化学反応が起きたのか、想定外の反応が返ってきた。
立ち直るやいなや、東風谷は目を輝かせて称賛と質問をしてきたのだ。って言っても、所詮は落ち物パズルゲームなんだが。強い奴に出会った時の悟空みたいなのはちょっと……。
ただ後から客観的に例えると、この時の僕は魔人ブゥと最終決戦してる悟空orベジータの間に割って入り、ブゥを気円斬で三枚おろしに『してしまった』クリリンだった。そりゃ再生したブゥは勿論、悟空やベジータからも目を付けられるのは必然だったといえる。
ちなみに再度突っ伏していた姫野は終始無言のまま、僕達の方を死んだ魚のような目で見ている。助けや交代は期待できない。てか、姫野は傍観者役をやるキャラじゃないだろ。
「…………わかりやすいモノじゃないけど、やっぱり強い……!
でも、なんであれ現人神の末裔であるこの私をどうにかできるほどの勝負強さがあるのに、なんで夢月さんはちょいちょいうっかりがあるんですか?
私、気になりますっ!」
「……褒めてんのそれ? 僕の方が知りたいよ、クソが」
だって、これだよ?
なんで素直に悔しがって終わらせてくれないんだ。少しは常識に囚われてくれよ。さっきは真逆なコト言ったけども。
最近の東風谷はなんというか、こう……異常に元気すぎる。
やはり早急に一之瀬による浄化計画を進めなくては、コイツは邪神へと至ってしまう。
それにしても、わかってはいたけど当然のように東風谷も天才側…いや、むしろ鬼才か。多分、初戦も速攻で沈めなかったら即座に対応されて負けていたはずだ。能力面では、神様の助けがなくとも圧倒的な差があると見て間違いない。
次は須臾の間もなく追い越されるだろう。
「やーらーれーたー」
「ふざけてるんですか」
「大真面目だわ。ただ結果が想定通りだっただけ」
「むー。悔しさが見えない。やっぱり勝つなら初戦が一番楽しそうですね」
現にねだられて再戦したら、ボコボコにやられた。それでいて、どこか不満げなのは納得いかない。才能ある者にありがちな完全勝利じゃないと嫌、みたいな気質もあるのかもしれない。
拘ってたわけじゃないから別に負けてもよかったけど、全敗は流石に格好悪い。1勝はして微妙な珍しさの特技も披露したから、とりあえず格好はつく…といいな。
てか、天文部、凡人が僕だけじゃん。いい加減にしろ。
マジで僕以外と暇潰ししてくれないかな。そしたら頭も回さずに済み、僕は呑気に見物できるというのになぁ。普通にやったら格下狩りだぞ、これ。東風谷視点からもつまらないだろ。
と、コロコロ変わる態度を疑問に思っていると、唐突に神聖っぽい雰囲気になった東風谷が、一見では駅前の勧誘員みたく胡散臭く―――しかし真剣に問いかけてくる。
「夢月さん……改めて聞きますが。
夢月さんは神様や『現人神』という存在を信じてますか?」
ただ、なんか東風谷を見ると真面目に聞いてる風だったので、僕も思った事そのままを返す。
「僕のこれまでからすれば信じてるな。なんなら目の前にも実例がいる」
「……ふふふ。まぁ、それがわかっているのなら気長にやりますかね」
「ああ、東風谷にもあるだろう? やるしかないって気持ちになる時が。僕はともかく、お前はそうするのが合ってると思うぞ」
頷き深く息を吐き出した東風谷は、なんらかの意思を感じさせる目をしてこう言った。
「そう、ですか。……ふふ、あはははっ!! 私が必要な時には言ってください。
―――今、そんな気持ちになりました!」
「あ、ああ。ありがとう?」
最後の方の会話で不覚にも感銘を受けてしまい、ネタだと誤認してしまっていたが。
これがこれから何度も繰り返し行われる東風谷早苗との…記念すべき(記念どころか過去改変したいほどの)勝負の初戦だったことに、僕が気づくのはひと月ほど待たなければならない。
ふむ。古事記の前文では「急いでまとめたから矛盾があっても許してね(意訳)」と述べている。これは全てとは言わずとも、でっち上げ部分がそれなりに混ざっているということである。
つまり日本書紀、風土記などは偽書扱いしてるのに『この』古事記のみを正史と扱ってるわけだし、僕が自己記憶や過去を改ざんしても許されるのではなかろうか?
どういうわけか、そんな現実逃避する気持ちになった。
なんにしろ、僕が東風谷に取り憑かれた理由があるとしたら、おそらくこの瞬間こそがその決定打になったのだろう。
……嗚呼、神よ。何故、僕にこのような試練をお与えになるのか。
仙人に綾小路、他にも奇人変人が暴れている現状がすでにキャパオーバーしているというのに。
元気になって目を輝かせる東風谷に、僕は良くも悪くもとんでもなく大きな予感を覚えていた。
ほぼ東風谷早苗と駄弁るだけの話になってしまった。しかも無駄に長い。
最終話付近の早苗の伏線を補填するのと、2章・龍園が何故ああしたかの裏事情や予測話の予定だったのに、どうしていつも脱線するのだろうか。片方しか捩じ込めなかった。
まぁ、これは読み返した時に書いた時点で何にハマってたか一目瞭然なのと同様、私自身の性質なのかもしれない。
それにしても完結してから改めてブクマしてあった作品いくつか読んだり読み返したけど、みんなまとめ方というか書き方というかが凄いな。
特定のポイント以外は、数話でそれぞれの原作1巻分なんて当たり前で、下手すると数行でかなり時間が飛んでたりするのに、それほど違和感のない作品が多い。どうしても間が気になっちゃう私には描けないだろうなぁ。
話の番号が繋がり、これでようやく堂々と完結を名乗れそうです。修正してたらなんか気になってきてたので、私としては満足しました。
……満足したので、今話以外の修正はこれでひとまずの完了にしたいと思います。ぶっちゃけ、普通に物語書くよりも面倒…大変だとは思ってませんでした。