勝手ながら、無人島について設定を変更しました。
詳しくは後書きにて。
青い海。白い波。青白い顔。
吹き込んできた強い風にあおられた隣の小さい体を支えつつ、窓の外に広がる雄大な景色に思いを馳せてみる。
ここは8月初日の猛暑を感じさせない太平洋のど真ん中。
そう、世はまさに大航海時代!
「うぷぷぷ……」
「大丈夫か、四方」
そんな気分の中、豪華客船の展望室とトイレを往復しつつ、四方の呻きと僕の介抱が冴え渡っていた。
朝5時という早起きをしすぎたせいか船酔いしている四方の口に、ガムや飴を放り込むことで緩和を図っている。吐くものを吐ききった風なのでもうトイレ移動はしなくていいだろうが、口の中をリセットしたほうがまだマシになる為でもある。
ていうか、酔い止めとか持ってくればよかった。神崎に頼んで担任に聞いてきてもらっているが、自分でも持ってればロスはなかったのだ。
「折角の旅行なのにごめん」
「ん。僕は気にしなくていい。ただ神崎や他には後で礼を言っとけよ」
「ああ。わかってる」
正直、四方の船酔いがなくても僕はここに来ていた予感がするので、そこにひと手間加わるだけの僕には感謝も謝罪も必要ない。
ただ四方とお互い気遣い合って、あえて離れてくれた東風谷に一之瀬・柴田と、薬や水をもらいに行ってくれている神崎には必要だろう。
親しき仲にも礼儀ありというからな。
しかしデッキは人が多かったし、ダイレクトに風が当たると思って、ちょっと離れた第二展望室に連れてきたけど、こっちも結構な数の窓が開いているのであまり変わらなかったかもしれない。人は大分少ないけども。
「四方君。酔った時は、遠くを見るといいらしいですよ」
「……ありがとう。やってみる」
その普通に風が吹いてて人気のあまりない展望室には、ひっそりと本を読んでいた変わり者の椎名も居た。
いや、こんな場所に居て助けてくれたんだから、椎名が変わり者で良かったというべきか。四方の気も紛れるしな。
「……絶景だな」
四方はされたアドバイスを即座に実行したようである。
そう小さく零していた。
僕も釣られて海の方を見てみると、海鳥と目が合った……ような気がした。
なんとなくそのまま目をスライドしていくと、小さなベランダのような場所に鳥の餌BOXと思しきものがあり、ヤツラに催促されている気分になる。
「左京君?」
その気分のままフラフラ近くまで行き、BOXのボタンを押す。
すると予想通り餌っぽい包みが出てきたので、船と併走飛行していた海鳥達に向かって少量投げつけてみると、上手い! と、言いたくなるキャッチを海鳥達は見せてくれた。
「四方、椎名。君らもどうだ? 無理には誘わないが、気分転換になるかもだぞ」
「……では、少しだけ」
「……面白そうだな」
振り返って二人に聞いてみると、意外と乗り気になったようだ。
まず軽く僕がやってみてから餌袋を渡すと、最初はおずおずと。だんだん楽しさがわかってくると、自分でもBOXから取ってきて餌投げをやり始めた。
椎名はともかく、四方は調子が戻ってきたのかもしれない。
ひと段落着いたら、さっきまで吐いていた四方の腹が減ってくる(胃に内容物がないから)と予想して、朝食の時に包んでもらっていたサンドイッチをわかるところに置いとこう。
さて、そろそろ何故僕達が船上の人になっているかを説明しておこう。
といっても、ほとんどの諸君には説明不要であろう。
なので、7月後半から今に至るまでに何があったかを軽く思い返すことで代用とする。
あの生徒会での忌まわしき出来事があってからしばらく。
……あれは本当に、本当に忌まわしい出来事だった。忘れたはずなのに、説教の断片が浮かび上がってくることさえある。
改めて明言するが、僕にとって努力だの自己研鑽だのは信じるに値しない。
そんなことを言ってくるのは、マジでブラックな組織に属する奴だけだと思ってる。
ちなみに、ここで僕がいう努力とは主にサビ残やそれに類するモノのことだ。
時に現代社会では、サービス残業などの事を自己研鑽や努力と言い換えるのである。
だから、僕は自己研鑽や努力などという言葉を断固として信じない!
ふぅ。またフラッシュバック的な発作が……。
後で桂枝加薬湯と四物湯を飲んでおこう。
余談だが、桂枝加薬湯は、体を温めて緊張をほぐす作用があり、冷え性や便秘・下痢などにも効果がある。つまり腸の調子を整えると考えれば多分間違いではない。
四物湯は、血の巡りを良くすることができ、冷え性に皮膚の乾燥、しみに効果がある漢方薬だ。
この二つはトラウマのフラッシュバックに効くとされている。
ただ実は、このコンビは効果があるってわかるだけでメカニズムは解明されていないらしい。
なので使用はどうかとも思うが、青娥さんの店には何種もの薬品や薬学書あって面白かったので、僕は薬学にはまっていた時期があったのだ。
そうするとついその知識を使いたくなってしまい、店の物も使っていいと言われたのもあって、時々青娥さんに分量などを見てもらいながら自分の体で実験している。
関係ないが、おそらくこうした薬学・医学を何やかやで変化・発展させたのが、仙人の伝説とかで出てくる術や仙丹なのではないかとにらんでいる。とても興味深いものである。
……また脱線した。
ともかくそうしたことがありつつも(あ、ついでに期末テストも)なんとか乗り越え夏休みに突入した僕達には、高度育成高等学校が用意した2週間の豪華客船旅行が待っていた。
勿論、8月までの間もゲームを作ったり、勉強を教えたり、8月分先取りでバイトを少しだけしたり、期末テストがあったり、部員+何人かを呼んで天体観測をしたりした。
新たに獲得した部室は、僕的にはなかなかの立地にあり、部員達+αともども暇な時や休みにも使っている。
部費はスズメの涙で、なおかつ学校のシステム的に遠征や合宿できない関係上、完全に死んでいるが、部活用のカードを貰えたのでこれも後々何かに利用できるかもしれない。
ゲーム製作と佐倉や東風谷の勉強を見るのは、同時にその部室で行った。
ただテスト勉強は生徒会へ出向いた日以降の土日2日だけなので、それ以外のバイトがない日はほぼゲーム製作に時間を使えた。おかげでテスト後に美術部へ依頼を出した背景と、僕が書いたキャラの雰囲気を7月中に合わせることができたのである。
更に佐倉監修の絵や弾幕を、高円寺のテストプレイと指摘で改良していくことには手ごたえを感じたので、とりあえず高円寺のあと1回分はこのスタイルで仮の完成を目指そうと思っている。
ちなみにこのうちの土曜、7月20日は僕の誕生日だった。
なので、一之瀬と東風谷が部室に来ていた事を好機と捉えて、誕生日プレゼントを強請り東風谷の浄化を図る計画を始動させ……ようとしたら、まさかの一之瀬の誕生日でもあるという人生の不具合。
膝をつき、誕生日を相殺されて諦めた計画をゲロった時には、東風谷にNDKを僕に向けられ、散々煽られ尽くした。
特に「へーい! 頭よわよわ夢月さん~❤ 下調べも満足にできないざぁ~こ❤」とか罵られたのには、捲土重来を誓うレベルである。
あの性格の奴に、NDKやメスガキ語を教えた奴共々、絶対に許さん。
一之瀬も頭を抱えていたから、この件については協力し合えるかもしれない。
しかもこの上、四方や佐倉には呆れられ、高円寺にも笑われたのだ。
綾小路や櫛田がクラスの方の勉強会に出てた為、いなくて本当によかった。綾小路はともかく、櫛田がいたら絶対に悪乗りしていた確信がある。
ていうか、ふと櫛田が黒幕なのでは? という疑惑が湧いてきた。同時に、はるか昔に僕自身が吹き込んだような記憶も脳裏をよぎったが、それは当然気のせいである。
22・23日の期末テストでは、主要科目は前回とほぼ同じ点数なのに、僕の順位がギリギリ一桁という奇怪なことが起きた。
また四方や葛城、高円寺や一之瀬といった者達も軒並み上位に名を連ね、確かにいた他のDクラス満点の者は半数以上が20位圏内からすらいなくなった。
確かに5教科から11教科、日数も1日から2日と変化していたので、面食らった部分はあった。だが、全教科授業を聞いていればほぼ回答できる難易度に調整されていたから、むしろ簡単になっているように思える。
これに関しては、勉強していた友達連中も同じく感じたそうだ。
なので、前回は一体なんだったのかと首を傾げることに。
この件についての僕の憶測だが、Dクラスは中間テスト自体を買収しようとしたのではなかろうか?
それが問題か点数かそれ以外かはわからないが、制度や席を買えるのだから、それなりのポイントを使えばテストの買収も可能性はある気がする。
これには「何の為に」という部分とDクラスのCP的に致命的な穴があるわけだが、もしこれが解の一つならあのクラスには何かがあると思えてならない。
思うにこういうことは櫛田より綾小路か高円寺あたりが有力候補っぽいので、次にゆっくり話す機会があったら一度聞いてみるのもいいだろう。良い話の種ができた。
28日には、部員みんなでみずがめ座δ流星群を観測した。
部員全員が参加し、それ以外に鬼龍院先輩や綾小路も来てくれて、夜空を流れる星々を眺める楽しい時間だった。
学校が大都会の真ん中なので、見れたとしても微妙になるかとも思っていたが、実際そんなことはない。神社近くの広場から見えた星々は、なかなか馬鹿にできないもので参加してくれた全員で見入ってしまうほどである。
佐倉や美しさにうるさいと最近わかってきた高円寺も認めたのだから、これからもこの調子で天体好きを増やしていきたいものだ。
一方、僕は改めて天体の素晴らしさ・美しさに触れ、言葉を失って時間を忘れていた。
まぁ逆に言うと会のホストとしてはアレなのだが、お喋りな奴は参加していないし、きっと他にとっても最高の天体観測になったことだろう。
この日はきっと、誰かものすごくツイていた奴がいたに違いない。
その誰かに感謝を示し、観測会が終わってからの食事は全て僕の奢りとした。
なんとなくのノリでしたことだったが、ゲストの鬼龍院先輩や綾小路にも驚きつつ喜んでもらえたようなので、たかが数万程度なら安いものだろう。
とまぁ、適当に回想しているうちに神崎が戻ってきており、四方も置いておいたサンドイッチを食べられるくらいには回復していたようだ。
「あっ! イルカですよ!?」
そんな中、突然椎名が声を上げたのでそちらを見てみると、確かに船に併走するように泳いでいるイルカの群れ。
それを見ての、神崎の一言で場は凍りついた。
「ふむ。食べられるのだろうか?」
「イルカを食べる!?」
「ああ、普通に売ってるところもあるらしいな」
「食べる事は物の本で知っていましたが、実際どうなんでしょう」
「へぇ~、でも一応食えるんだ」
「食べる奴なんてイルカ?」
……………こいつ、真顔でこういう駄洒落を言う奴だったのか。
「はぁ?」
「……んー、ああして泳いでるのを見ると、僕はあんま食べる気にはならないな」
「……ですよねぇ」
「……」
もしかして、神崎は綾小路に弟子入りでもしたのか?
僕としたことが、彼の印象がわけのわからないことになっている。
でも滑って流された程度で赤面しているようでは、まだまだ綾小路の域には到達していないな。よりによってこの面子に言うとか、気づかないかスルーされるに決まっているのに……。
芸風的には綾小路に近いから長じればどうなるかわからないが、あっち方面を伸ばしても先は明るくないのではなかろうか?
そのなんともいえない空気の中、唐突に船内アナウンスが流れてきた。
『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まりください。まもなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』
うわぁ。意義とか言ってる時点で、もはやブラックな部分を隠す気ゼロじゃん。
旅行って言葉で釣って騙し討ちまで仕掛けてくるのかよ、この学校。
僕・四方・椎名は顔を見合わせえると、お互いがげんなりしているのを確認できた。真剣風味な雰囲気に戻った神崎が羨ましく思えるレベルである。
神崎はアナウンスを聞いて僕達に一言断り、すぐデッキに向かってしまった。
残った僕達は、無言のままおもむろに端末で学校運営の情報サイト(更新されると後出し情報が載る事がある)を見始める。
更新されたばかりのそれによると、これから行く無人島は面積約5㎢、最高標高230m。どうやら国から借り受けて管理している島のようだ。
生活するには充分な広さではあるが、この島で何らかの騙し討ちしようとしてる学校の思惑を僕はすでに確信している。四方と椎名も同じような結論に至ったのか、げんなり顔から諦め顔へと変化していた。
遠目に見えてきた島は美しいのに、それのせいで素直に感動できない。
「また……なんか裏があるんだろうな」
「そうでしょうね」
「いい加減にしてほしい」
「「「……はぁ」」」
3人で面倒に思っている間も、船は不自然にもほどがある高速航行で、高々と波をかき分けて島の周囲を一周していた。
そしてそれが終わる頃には、30分後の上陸と、ジャージに着替え、所定の荷物の確認と端末所持、私物を置いてデッキに来る指示が再びアナウンスされるのだった。
無人島の設定変更。
原作3巻では、面積0.5㎢、最高標高230mです。
本作では、面積約5㎢、最高標高230m、ってことにしています。
なぜかというと、上手く想像できなかったからです。
Wiki情報ですが、参考までに小笠原自然遺産の島と比較すると、
弟島、面積5.2㎢で、最高峰は天海岳229m。
西島、面積0.49㎢で、島の標高は100m。
例えば、整備されているにしろ面積が近い西島で、教員・スタッフ合わせて160人以上が1週間サバイバル生活できると、私には思えませんでした。
代わりに弟島がなんとなくイメージに合ったので、本作ではここをモデルにさせてもらっています。
それと、出てきた薬は実在のものですが、もし薬効とか間違ってたらすいません。