ようキャ   作:麿は星

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 今回は学校へのアンチ要素ありとなってます。
 苦手な方は、心構えをして、気を落ち着けてお読みください。



50、自由

 

 ブラック企業の研修。

 これはかなりの場合で、典型的な『洗脳』の手法だ。

 

 理不尽・意味不明・非効率・人格否定・人格攻撃・束縛・監視・外界との遮断・下のものに対しマウントを取り続ける。

 こうした例に当てはまれば当てはまるほど、そこはあの忌まわしい深遠に近いといえよう。

 なぜなら、洗脳の基本はこれらだからだ。

……僕が、いきなりこんな反社会的な思考に至ったのには勿論理由がある。

 

 

 

 まず僕達は、死ぬほど暑いデッキに集められた。

 そこで端末やスケッチブックを奪われ、監視装置の一種と思われる腕時計を付け、炎天下の下に並ばされ、真嶋先生の突然の一言から始まった特別試験とやらの説明を聞かされたのだ。

 その時に想起されたのが洗脳手法である。事前に想定した面倒事の中でも、かなり嫌な部類の予想が当たってしまった。

 

 価値観や尊厳を徹底的に否定・破壊し、組織が都合の良いように誘導…いや、もう作り直すとすらいってもいい。

 今現在、真嶋先生や茶柱先生が反論している生徒に対し、無理矢理なマウント取りをしているのは洗脳の一環だろう。更にクソ暑い中という悪環境を加えると、疑いようもない。

 

 また同時に仲間意識を強く認識させて、仲間と敵で区別させるようにも誘導している。本来、敵ではないはずの別の集団を敵と見るように少しずつ……。

 これにより個人主義ではなく、集団……自クラスを優先する人間を作り出したい事がわかる。

 だがこれで出来上がるのは、疑問も持たずに考えることを止め、言われたことだけを効率的にこなす人間だけだ。

 

 先生達自身にそういった意図があるかはわからないが、自由がテーマと言いつつ、この特別試験はこれまで以上に思考停止を誘導する意思を感じさせる。

 しかも先生を言い負かしても意味がないどころか悪化する未来予想が容易な事まで、ブラック企業の理念で満ちているのだ。

 

 思えばSシステムや退学の説明の時から、担任は学校に似たような事を言わされていた節があった。

 短期的な分野に集中し、長期的な分野を疎かにする背景は、ここからきていると思われる。

 横並び教育に、余計なことをしないようにする基本方針の上で、餌に釣られ限られた者だけが横紙破りを推奨されるのだろう。

 

 入学前から疑ってはいたが、この特別試験でもう確定したといってもいい。

 

―――この高度育成高等学校は、ブラック企業かその類の組織の上層部、及びその駒や密偵などを育成する為の学校だ。

 

 だから、卒業生もこの学校の前情報もどこにも見つからなかったに違いない。そんな進路ばかりなら、情報流出のリスクを考えるようになる―――『教育』されるだろうからだ。

 ネットにすら情報がなかったのは余程の縛りがあるとみた。

 

 生徒会は、おそらく政治・経済分野での上層部候補を、蠱毒的な何かで淘汰させるモデルケースなのだろう。実際に僕が見た会長や副会長からして、そう察することができた。

 凡人の僕が気づけたのだから、葛城や一之瀬も当然これには気づいていただろうに、よくそんなところに入りたがったものである。

 

 理事長が善人寄りに見えた為に確信に至るのが遅れたが、本気でヤベー学校に来てしまったと今更実感している。

 ポイントで転校とか……無理に決まってるよなぁ。

 ここまで役満が揃って、穏便に逃げ出す余地を残すわけがない。

 それに四方や佐倉といった友達も身内のように思っているので、仮に転校可能だとしても自分だけではできない。既に包囲網は敷かれているのだ。

 

「ああ~。これは、やっちまったなぁ」

「いきなりどうした?」

 

 柴田に独り言を拾われてしまったが、返す言葉がない。

 いくつか打開策を思いつくことこそあっても、そのどれも成功率は低く……しかし行動しないと、どんどん沼にはまってしまう為に動かざるを得ない。

 

 ブラック企業・ブラック研修の類似試験など、できれば近づきたくなかったし、受け入れたくもなかった。

 納得のいくものでないのは、想像がつくからだ。

 だけど、この流れはもう変えられないだろう。

 

 一応、これからデッキでマウント取りまがいの問答しているところに、まだマシな策を携えて打って出てみるが、これでどれくらいの人数を敵に回すことになるのか。

 少なくとも、先生達やこのおかしなルールを無条件で受け入れようとしている生徒達には、目の敵にされる可能性がある。それなりの確率でだ。

 それでも僕が行動しない選択はない。

 まったく憂鬱なことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 憂鬱なので、ぶっつけで成功率半々もないくらいの思い付きも試して、いっちょ楽しむ心意気でやってみることにした。

 

「あ、ちょっと借りますね」

「―――っ!?」

 

 生徒へのマウントを取り終え、壇上から降りて去ろうとしている真嶋先生に忍び寄り、手から拡声器を抜き取り、再びスイッチを入れて声を響かせた。

 一仕事終わったと思った瞬間こそ大きな隙を生むのは周知の事実なので、僕程度でも忍者の真似事ができるのである。

 

 次の指示を出そうとしていたのか、別の教師も拡声器を手に何か言おうとしていたが動きが鈍い。どうやら様子見してくれるっぽい。

 僕の姿は前の方の奴しか見えないだろうが、声が聞こえて僅かな間に解散にならなければ問題ない。すぐ壇上に上るからだ。

 

「え~、同級生のみなさん、ならびに先生方、スタッフの皆様。こんにちわ。

 僕は左京夢月と言います。んでいきなりでアレなんですが提案があります。

 

―――試験とかシカトして、4クラス合同で遊びまくりませんか?」

 

 そうして声を響かせながら壇上に上って提案してみるが、しん…として反応がない。

 少なくとも真嶋先生から拡声器を返す要求が出ると思っていたのだが。

 

 この提案だけでは具体性に欠けるせいかもしれない。

 その証拠?に、さっきまで先生に質問とか文句を言っていた生徒や僕のクラスの面々。それどころか、敵に回すかもと思っていた先生方すらこちらを凝視して黙り込んでいる。

 これは、もう少し詳細をプレゼンしないと駄目であろう。

 

「競争にかまけて大切な部分を忘れるのは、実にナンセンスです。

 では、その大切なこととは何か。それは健康です。節約しすぎで我慢したりして、そこを疎かにする可能性が高いのがこの試験のように思えます。

 だからそんな最後以外ほぼ辛いだけことは止めましょう」

 

 あのブラックな洗脳紛いの流れでは、こういうことをだれも言い出しそうにないのでしかたない。精神だけとはいえ、これは年長の僕の役目だろう。

 だがこのクソ暑い中、長々と話す気はないので、めっちゃ簡単に端折って重要部分だけ話した。

 

「体調崩すのが10人といわずとも、5~6人がリタイアしたら必要物資とあわせてほぼ0ポイントになるんですよ? 40人規模の集団4つで慣れないサバイバルとか1週間もしたら、そのくらいは出ますって。

 特に女子は体力差やストレス・体調に加えて、あー……人前でこれはちょっとデリカシーに欠けますが、生理とかあるでしょ? リタイアしないにしろ、相当な配慮が求められる=ポイントを消費するわけですし、こんな無理ゲーな試験はシカトして始めから遊びましょう!」

 

 佐倉とかまさにこれが心配だ。

 あの性格では配慮が行き届いてなかったとしても自分からリタイアできないことは予想できるし、1週間もあるので不調までいかなくとも相当な負担になる。またリタイアできたとしても、同調圧力で村八分になりかねない気さえする。

 同じ運動音痴っぽい椎名は、自分の限界を見極められ、一応の処世術もあると見ているので問題ないだろうが。

 

「具体的な中身は、例えばAクラスが食料、Bクラスが生活関係、Cクラスがレジャー用品、Dクラスが足らない部分の補填。みたいに分担して遊びまくります。

 そして、ポイントが足りなくなればリタイアして船に戻ってもいいし、キャンプを楽しみたい人は残って、それぞれ楽しめばいいんじゃないでしょうか?」

 

 もう一つ、Dクラスへの配慮にも一応言及しておこう。

 あのクラス、日常に多大な影響を与える遊びや娯楽品を購入できない今の状態は、試験関係なくヤバい気がしているのだ。

 

「ああ、それとCPが必要だろうDクラスには、他のクラスからある程度のフォローとポイント獲得イベントを開催して有利な初期位置に設定し、賞品―――試験ポイント?をゲームなどで補填する。というのはどうでしょう?

 みんなで共倒れリスクを犯すより、困っているクラスに協力する方がなんぼかマシですしね」

 

 実際、40CPしかないDクラスは、我慢大会ばりの吝嗇サバイバルを実行しそうな雰囲気があるのだ。さっき大声出してた奴らからして。

 だが佐倉の心配もあるが、僕が高円寺か綾小路の立場ならそう決まった時点でリタイアする決意を固め、心配な友達もリタイアさせる可能性が高い。

 つまり僕のような奴が数人いたら、その時点でポイントなど残らないだろう。

 

「ついでに先生方に言いたいんですが、さっき言ってた企業研修って△○のでしょ? あんな確定でブラックな研修を例に出して高校生相手にマウント取らなくても、こんな無人島にいてポイントの縛りまである時点で自由になんてできないですよ。

 なので、ここはいっそテーマの『自由』を逆手にとって、自由に試験を無視して先生方も一緒に少し特殊なバカンスに仕立て上げましょう! そっちの方が楽しくなると思うんで!

 こういう企画はうちの学級委員長が得意そうだし、他のクラスにも多分そういう奴が一人くらいいるはずです。折角の機会、遊ぶついでに同級生同士の親睦を深めるのに使ったらどうでしょう? っていうのが僕からの提案でした」

 

 ついでにちょっとイラッときていた先生達のマウント取りについても一言皮肉り、最後はクラスのトップ的な奴らへの丸投げで締める。

 引き合いに出した真嶋先生や茶柱先生から睨まれたので、これ以上僕から何か言うのはやめておいた方がいいだろう。正論でDVされかねない。

 

 だから一之瀬。頑張って交渉してくれ。

 交渉次第で楽しさと快適さが段違いになるだろうから、是非魅力的な企画で他クラスを口車に乗せてほしい。

 特に真面目が服着て歩いてるような葛城は反対しそうだから、アイドルである佐倉にも匹敵する顔と乳で葛城含む野郎共をまとめて篭絡してくれると助かる。佐倉とは違う意味で、絶対やらなさそうだけども。

 

「ハァーハッハッハ! 相変わらず面白いアイディアだよ夢月。

 ただ私は推奨したいが、どうやらあまり賛同者は多くないようだねぇ」

「やっぱりそうか。反応が薄い気はしてたんだが……」

「左京君! 言わんとすることはわからないでもないけど、試験を無視するなんてみんなで集まってる所で言うことじゃないでしょ!?」

「一之瀬の言うとおりだ! お前にはみんなで頑張るという協調性や向上心がないのか!?」

 

 そもそも一之瀬も賛同してくれなかったので、絵に描いた餅になったわけだが。

 

「…………そうか。無理か」

「当たり前だろっ!! 我慢すりゃ来月から小遣いが増えるんだぞ!? だいたい健に蹴り入れてうちのポイント減らしてきた奴が、なに偉そうに言ってやがる!」

「いや……だけど左京が言っている事にも一理あるんじゃねえか?」

「一理も二理もあるか! 残せるポイントが少なくなるじゃないか! それにお前ちょっと前、あいつに停学にされたのを忘れてんのか!? なんでそんな庇うようなこと言うんだよ!!」

 

 基本真面目なタイプの葛城からの反対は想定もしてたが、一之瀬もやはり反対か。

 それに特にDクラスの方を中心に強硬な反対意見が出ている。

 これでは、最善策の達成見込みはないだろう。

 

「―――やるじゃねえか、左京。

 一之瀬に葛城、それに話す価値すらない雑魚ども。お前らはもっと考えるんだな。お前らが言う『みんな』に提案する場がここしかなかったんだろ、左京にはな」

「「龍園(君)!?」」

 

 龍園、それ正解。

 ここ以外に軌道修正の機会を僕は思いつけなかった。

 不幸中の幸いで龍園の良い奴モードが発動していて、助け舟を出してくれたようだ。彼には実現の可能性が潰えたことが見えているのだろう。

 

 どういうつもりかはわからないが、この時の僕にとってこれは最高の助け舟だった。

 状況は、龍園が僕の肩を持ってくれたおかげで、いつの間にか僕への批判からリーダー同士での言い争いに変化していたのだ。

 これは龍園が作ってくれたフェードアウトする絶好の機会。無駄にするには惜しい。

 

 そんな好機ともいえる3クラスリーダー(高円寺はリーダーじゃなかったらしい)の言い合いの最中、機を見逃さないようにしつつ、高円寺への好感度も上昇を続けていた。

 まず沈黙を破って最初に賛同の意を示してくれ、暗に僕の引き際だと教えてくれたのだ。感謝は当然だろう。

 

 それに前にも、ムーンという月を使ったあだ名をつけてくれたこともあった。ちょっと独特で微妙に恥ずかしくもあったが、不定形の魔物よりはまだマシである。

 こちらが広まっていれば、この不定形の輩め! から、この月の輩め! に印象が変化することが考えられたのだ。あわよくば月人や月の民と呼ばれていたかもしれない。それはなんか格好良いと、僕の内に眠る中二病が言っている。

 しかも天文部員にもなってくれて、綾小路打倒計画や今の提案にも賛同してくれたし、自称していた偉大というのも器のでかさを自覚しているからこそなのだろう。

 

 しかし後から続いた者共は、高円寺の言うようにほぼ賛同者ではないのだろう。

 葛城はともかく、計画の中枢に据える予定だった一之瀬も賛同してくれない事実が、もはやこれまでと告げていた。

 あと、がっかりしてるので聞く気もないが、Dクラスの声が大きい奴らもまだ口々に僕を批判している。予想通り、敵対に近い感じに見られているだろう。

 

 なんにせよ有象無象はともかく、2クラスのリーダーから反対があっては、実現の可能性はほぼ消えた。

 龍園が助け船を出している今のうちに僕も消えておくのが吉だ。

 見たところ先生方も担任を含め乗り気ではなさそうなので、もっと粘っても無駄でしかない。

 

 

 

 というわけで、切り替えた僕は高円寺に「賛同してくれてありがとう」と視線を送り、龍園にも内心感謝すると、言い争っているリーダー3人や他何人かを、気づかれないよう注目が外れた隙に大回りでスルーして四方と東風谷の間に戻った。

 

 Bクラスどころか言い合いに参加していない他所のクラスの奴らからも、信じられない……みたいな視線が僕に送られてくる不可思議な現象があったが、最善策を達成できる見込みがないなら次善策に移るのが建設的である。元々、成功確率はそう高くない見込みだったしな。

 なので気にせず、次の策に移行することにした。

 ただその前に一休みしよう。

 

「さて、ここ暑っついし、全体説明も終わったみたいだし、あっちの陰に移動して一之瀬を待ってようぜ」

「了解です。何事もなかったかのように振舞う夢月さんに驚きつつ、暑いからツッコミません」

「いや、ツッコめよ。周りからメッチャ見られてるからな」

 

―――左京君っ!? またなの!?

―――いないだと! あいつどこに行った!?

 

 何処かから名前を呼ばれた気もしたが、役目が終わった僕にもう用はないので、きっと気のせいだろう。

 

「ただでさえ目立つ東風谷がまたなんかしたんじゃね? 僕は提案して帰ってきただけだぞ」

「さらりと私のせいにしないでくださいよ。今回は明らかに夢月さんが原因です」

「んなわけがない。まぁでも、どっちのせいでもいいよ。僕達みたいな一般生徒はのんびり寝て待ってればいいさ」

「考えてみればそうですね。早起きしたので少し眠いですし」

「こ、こいつら。あまりに自由すぎる。空気や協調を気にしない性質なのは知ってたけど、ここまでだとは……」

 

 なんせ学年全体で我慢比べの流れになりそうだったので、目立つのは嫌だったが失敗前提の一石を投じたのだ。代償にかなり気疲れしている。

 速さが最重要とはいえ、どこのクラスも動いてない今、休みつつ待つのは理にかなっている判断なのだ。

 

 僕達は駄弁りながら移動して、陰になっていた場所に寝転んで文字通り果報を寝て待つことにした。

 四方や東風谷もなんだかんだで共に寝転がったし、これで共犯である。

 僕単独ではなくなり、サボっても目立たなくなるし、怒られる時も助けてもらえるだろう。

 

―――ふっ。計算通り(嘘)。

 





 今回の原作との変更点。
 説明のほとんどを真嶋先生がしたことにしてあります。
 腕時計は持ち物検査の時点から付けていて、簡易トイレやテントの説明(こちらは説明だけですが)も終わっている。ってことにしてください。

 あ、とある企業研修のくだりで完全な伏字部分があるのは仕様です。
 ご了承ください。



 きっと異論は多いと思いますが、私にはこの特別試験がよう実で最もこの学校のブラックさを感じる試験でした。
 正直、集団重視なら今話の学年全体の試験シカト戦法、自分・個人重視なら原作高円寺・龍園のリタイア作戦が最適解だと思ってたり。
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