ようキャ   作:麿は星

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54、陽キャ

 

 佐倉と綾小路がDクラスの集合場所に合流していくのを見送り、僕達5人は寄り道しながら拠点に推薦した井戸を目指している。

 寄り道といっても、山の幸や野菜、ハーブなどを集めていたのだからサボりではない。

 事実、僕と柴田のジャージはその犠牲となって汚れたが、それ以上の収穫はあった。

 

 特に折れた大木の近くでレモングラスを見つけた時は、柄にもなく狂喜した。

 これで蚊などの虫に悩まされる心配を減少させられる。このハーブは何気に虫除けとして優秀なのだ。探索には勿論、寝る時にも役立つことだろう。

 ついでに匂い袋的なものにして、佐倉達へも月見の時に渡しておくことにした。

 

 それに野菜や山菜もそれなりに手に入ったので、各種類の粉さえポイントで購入できればおやきや団子も作れるだろう。

 懸念はお茶やコーヒーだが、こちらには隠し球と当てがある。お茶は確実に、当てが外れなければコーヒーも希望が出てくる見込みだ。

 

 井戸に向かって南下した途中で更に2箇所のスポットを取得し、全14箇所。

 主食はどうにもならないが、副菜や虫除けの手段を発見。

 島の北側以外はほぼ把握した地理情報。

 

 佐倉達との月見や保険の分を差し引いても、充分な功績=交渉材料にできる。

 これらは東風谷や四方がほとんど主力だったとはいえ、山菜やハーブを見つけたのは僕だ。この上で必需品といっても良い米や粉、調味料をケチるようなら、この功績を前面に出して押し切ってやる。最低限の衣食住だけは我慢してなるものか。

 僕の快適な生活にはしっかりした食事は必須なのである。本日はおやきと団子、明日はカレーの腹になっているので、もう自分では止められない。

 

 学校が用意したと思しき折れた大木―――ここから北北西に直進で川、南西に道なりで井戸、東北東で開けたキャンプ地に適した広場(月見の予定地)のスポット、少し戻って北に行くと洞窟なので目印なのはほぼ確定だろう―――を横目に進み、大量の生徒が踏みしめた地面を見る。

 柴田と安藤さんを伝令にした結果、一之瀬が順当に井戸を拠点とした痕跡ができている。

 

 まだ日は高いが僕達が出発してからおよそ2時間半くらい経つ。そろそろ夜の対策も準備しなければいけない時間だ。

 それには乾いた落ち葉や枝を集めてあるかなど焚き火や竈、食事・調理の準備は勿論、風呂やシャワーも重要である。

 今の時期で焚き火があるなら最悪は水シャワーだけでもいいが、できれば湯は使いたい。短時間でも信じられないほど安心できて、寝つきが段違いになるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな小さな心配をしながら拠点にたどり着くと、流石に一之瀬というべきか。姿は見えないが見事にクラスメイト達を纏め上げ、テントを張ったり、竈を組み上げたりしている者達が見えた。

 

「あっ、帆波ちゃん! 戻ってきましたよー!」

 

 僕達を目視するが早いか、ビニール的な何かを作っている手を止めた白波は、一之瀬を呼びにできたばかりと思われるテントへと走り去っていった。

 見回してみると、右奥に簡易シャワー、左奥にトイレ2つ。テントも他に離れた場所にそれぞれ3つあるが、井戸近くを含め林の中である為にあまり広いスペースがない。

 だから空いたスペースに点在させた上で、防犯にも最低限の対策を打つつもりなのが窺える。どのテントからも他から声が届くようにしていて、火の番兼見張りを2~3人置けば、間違いが起こる可能性は減らせるからだ。

 

 また井戸のそばにも、なにやら装置的なものが置いてある。

 汲み上げは備え付けのポンプで充分なはずなので、水質検査・浄水器的な何かかもしくはシャワーの補助や予備っぽい。

 シャワーは1台は確実に必要として、追加部分で節約するのはありだ。近くにある小さいテントもそれ用だと考えると納得がいく。

 

「みんな、お疲れ様ー!

 とりあえず全員分の水を頼んだから、一休みしつつ飲みながら話せるかな? 帰って早々で悪いんだけど、こっちも結構話すことができちゃったんだよね~」

 

 溢れる陽キャ感に押されるが、今回のこちらには説明・報告役に四方と柴田と安藤さんがいる。

 目立たないようについていって、僕は先に地図を書き込んでいよう。確か試験マニュアル?に地図や白紙のページがあったはずだ。

 僕は一之瀬と四方達が話し合っている間、東風谷に確認を取りながら地図(といってもだいたい南側だけだが)にスポットや採取場所に印を付けていた。

 

 とはいえ、白紙を1枚拝借して地図を写し、得た情報を両方に書き入れていくだけの作業だ。これから約1週間、東風谷を中心に廻るルートのすり合わせで少し時間を取られたくらいですぐに終わった。

 一之瀬達はまだ報告し合っているが、早いうちに言っておかないと困ることがあるので割り込ませてもらう。

 

「一之瀬、話し中悪いがちょっと時間をくれ。

 このマニュアルの米粉10kg、格安の5試験ポイントで買えるから頼んでもいいか? 一応、クラス全員分の1食以上にはなると思うんだが」

「え、米粉? 何に使うの?」

「団子やおやきだ。

 今夜、高円寺や綾小路にうまいもの食わせるって約束した時に色々考えてたんだが、ここに戻る途中でほおの葉やサルトリイバラ、ヨモギなんかを見つけてな。米粉が安かったら頼もうと考えてたんだよ」

「サルトリイバラ?」

「全員の1食になって、この状況で作れるなら多分大丈夫だよ」

「まず10kgなら40人には充分すぎる量だと思う。それにこねて茹で、軽く炒めて味付けるだけだから、調理が最低限できる奴が何人かでやればそう時間はかからない。器具や食器、調味料は当然頼んでるだろうし。

 ああ、ヨモギは団子に混ぜるけど、ほおの葉やサルトリイバラは団子とかを包んで持ち運ぶ用な」

 

 一之瀬と疑問顔の安藤さんに軽く説明する。

 注文して運び込まれる時間で、薪拾いや火起こしをすれば無駄も省ける。

 僕が割り込んだのは、ここで虫除けの札をきれば、十中八九街育ちの奴の反対意見(ある奴がいればだが)を押しきれるからだ。

 

「あと四方達が話したかもだが、虫除けに有用なハーブも採取してきた。

 寝る時や探索などで役立つし、効果があると証明されたらポイントの節約にもなる。これで、僕の我儘分を補填したい」

「あの草って、そういう効果があったのか?」

「レモングラスですね。確か蚊やダニ除けでしたっけ?」

「いえーす。匂いが気にならなければ、だいぶ生活が快適になるぞ。

 拠点にしやすそうな場所近くにこんなのが偶然自生してるわけないし、折れた大木という目印もあったから、相当気を使って管理してる島なんだろう。いくつかの懸念はかなり可能性が低くなったと見ていい」

 

 実際、管理されている安心感は大きい。

 特に井戸の水は、余程のことがなければ普通に飲める予想ができたことは助かる。

 ペットボトルはあった方がいいので1回は水を注文する必要があるが、それ以降は誰かが試飲して安全性を確認すれば注文する必要はなくなるだろう。

……学校は金や力の使い処が間違っていると、個人的には言いたいわけだが。

 

 まぁともかく。

 見たところ、テントの底に敷くマットに支給ビニールを重ねて寝やすい工夫までしていて、この情報の価値がわからないなんてことはない。

 僕なりに節約しようという意思を見せつつ、そのまま通す……通させてやる。

 

 

 

 その後、思いのほかあっさり提案が通り、担任の元へ注文しに行った。

 それからは米粉が届くまで薪拾いだ。

 四方は無理させるコンディションでも状況でもないので、休んでもらうついでに僕が書き込んだ地図の完成を頼んだ。念の為、東風谷に付いてもらったから無理はできないだろう。

 加えて、東風谷は田舎育ちっぽいし、理系知識も豊富なので、説明を忘れたおやきや山の幸についても補足してくれる…といいな。してくれなかったら、四方が通訳してくれることも祈っておこう。

 

 薪拾いに行こうとした時にちょうど神崎が戻ってきたので、だるそうにテントから出てきた姫野ともども人足として採用した。薪拾いはともかく、火起こしのやり方をクラスの中心近くの奴に見せておきたい。

 ちなみに姫野の方にはちょっと怖い印象があったのだが、野郎と二人というのもアレだったし、一応知らない奴じゃないのもあって、たまたま目に付いた時に思わず誘っていた。それだけの理由である。

 

 僕は3人で薪拾いをすればすぐに終わると楽観していたが、こうした知識はなかったのか神崎が意外と役に立たなかった。よりによって広葉樹の枝ばかり集めたのだ。しかも湿っていて綺麗に折れないような枝も多かった。

 針葉樹(杉や桧など)は火がつきやすいが燃焼時間は短く、広葉樹(クヌギや樫など)は火がつきにくいが燃焼時間は長くなる。それから枝の太さはともかく、湿ったのは火がつきにくいし煙くなるので避ける、といった事も知らないとは思わなかった。

 案外この年代では、こうした経験や知識はレアだったりするのだろうか?

 

「すまない。テレビなどではこういう感じので簡単に火が着いていた認識だった」

「ああ、着火剤でも使ってたんじゃないか。それに知らないならしかたないさ。

 ただ必要になるかもしれないから、火起こしの手順くらいは覚えておいた方が何かと役に立つぞ」

「……私の集めたのはこれでいい?」

「ん?

……こっちは乾いてるな。枝は竈の処にもあったし、あんまり集めても無駄になる。必要に応じて集めるようにして、今はこれくらいにしとこう。

 つーわけで、姫野はあっちに着火用に集めておいた乾いた葉っぱを持ってきてくれないか? 軍手ないから怪我とかもあるし、広葉樹と針葉樹の枝は僕と神崎が分けて持つ」

「わかった」

「了解だ」

 

 基本必要最低限の会話しかない僕を含む3人だったが、こうした作業に会話はほぼ必要ない。

 一人だと大変なので適当に連れてきたが、四方と東風谷を除けば割と最適な人選だったのではなかろうか?

 

 

 

 神崎が細かい質問や指摘をしてくる以外では支障なく、焚き火を起こす。

 画面越しなら見慣れた焚き火になる頃には、注文の品々が届きはじめ、一之瀬達クラスメイトも結構な数が集まってきていた。

 そして網倉がみんなに夕食関係の説明した後は、静かに焚き火を見つめている。

 

 どうでもいいが、火を見ながら枝を分けている後ろでじっと見られると、非常に居心地が悪い。みんなマジメなのか? とか茶化したい欲求が沸いてくるレベルだ。

 そんな中、姫野や東風谷といったコミュ障どもは、当然のようにいつの間にか遠くに避難していた。

……陽キャどもの只中で焚き火をやってるとか、できれば僕も消えたいという本音は内緒である。

 

「えっと、手が空いてる人いたら、この火を持っていって竈の方で鍋で湯を沸かしてもらえないか? 団子は米粉に水か湯をたらして、練りこんで丸めたら沸騰した湯に投入すれば、下準備は大丈夫なので」

 

 まぁそんなわけにはいかないので、夕食の準備を集まった手が空いている者達にお願いする。太めの枝に火種をつけて焚き火に突っ込んであるので、これを持って枯れ葉に着火すれば比較的簡単に火がつけられるのだ。

 現在、時計では17時過ぎで夕食には早いが、1度茹でておけばあとは炒めたり焼くだけなので、暗くなる前に終わらせておけばすぐに食える。

 

「あっ、時々かき混ぜるとくっつかないし、湯から上げるタイミングは自然に浮かんできて少し待ってからがいいと思う。当たり前だけど、キッチンとかと違うから火には充分気をつけて」

「じゃあさっき麻子ちゃんが説明した班ごとに調理する人、補佐する人、火の調整をする人で暗くなる前に下準備を済ませちゃおう! 左京君の注意も忘れないようにねっ! あと薪を調達する人は足りなくなりそうなら各自で都合しあうこと!

 私達は左京君の作業がひと段落し次第、空いてる竈で調理するから、わからないことがあったら聞きに来てね」

 

 注目されてて慣れない状況で何とか搾り出した言葉の後に、なんか不穏な一言が聞こえたんだが?

 私『達』って、興味深げに見ている四方はともかく、ここに残っている一之瀬や網倉他数名も僕と同じグループのように聞こえたんだが?

 しかも何故か以前にイラストを頼んだ美術部の金田も所在無げに佇んでいるんだが?

……説明、ちゃんと聞いとけばよかった。

 

「金田君はとりあえずこの班だよ。少しでも知ってる左京君や東風谷さんと同じ方が気楽かなって思うんだけど、どうかな?」

「は、はい。保護された身ですので、できる限りお手伝いさせていただきます」

 

 保護? 金田はクラスメイトじゃなかったっけ?

 駄目だわからん。

 いや、そもそも問題はそこじゃない。

 竈は全部で4つ。そして3つはすでにクラスメイト達が火を入れ始めている。

 導き出される答えは―――導き出すこと自体を止めよう。

 思考停止して、今こそ無心の境地を目指すことにした。

 

「ところで、あの、左京君が遠い目になってますが、大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。こいつ、時々こうなるから」

「帆波ちゃんと一緒の班だというのに、この反応。まったく失礼な男です!」

「あはは……」

「安藤さん、柴田君。私達は暗くなってくる前に準備したり竈に火を入れてこよう。左京君の調子じゃ再起動まで時間かかるかも」

 

 好き勝手言われてるが、擬似悟りの境地に辿り着いた僕には、もはや団子を作ることしか頭の中に残っていない(嘘)。

 

「おっ、立ち上がった?」

「火種は……忘れずに持ってるな」

「俺、鍋に水を汲んでくるわ」

「僕も手伝います! せめてこれくらいさせてください!」

 

 一刻も早く夕食を作り上げないと僕の精神がもたない。

 それでなくても今日は体力を消耗し、陽キャ達ともかなり話したので、もう寝たいくらいなのだ。

 僕の代わりのように金田が雑用手伝いを申し出ているし、調理に集中させてもらうことにした。普通の料理だったらわからないが、たぶんおやきや団子なら僕か東風谷みたいな田舎育ちの方が上手くできる気がする為、適材適所だろう。

 

 月見は残っていても、これが終わればクラスで僕が今日やれることはないはずなので、本当にもうひと踏ん張りだ。

 ゆえに、しばらくは社畜モードで節電させてくれ。対人反応が悪くなるが仕事はきっちりするので、もし無礼を働いても許してほしい。

 





 今回の独自設定。
 月見予定地でもある広場のスポットは、本来なら4クラス分の拠点に適した場所がある……という想像を膨らませて作りました。洞窟、川、井戸の3つだけだと、もしCクラスがマジメに試験やってたらどこかのクラスの行き場がなくなりそうなので。

 井戸のポンプは……せめてこれくらいはないと色々大変なので勝手に設置。
 虫対策や食事関係は、原作の生活感があるというBクラス部分の描写と、偵察に行った綾小路・堀北と一之瀬の会話などを拡大解釈しました。

 他に井戸の水量とか、シャワー・トイレの水・排泄物などの処理とかもありますが、よくわからないけど問題なし、ってことで片付けさせてください。そこを追求していくと、キリがなくなりそう。



 ちなみに最後の竈の班分け。
 一之瀬、網倉、白波、東風谷、四方、左京、金田、神崎、姫野、安藤、柴田。
 計11名(金田がいる為)。
 他の班は各10名。
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