ようキャ   作:麿は星

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 ノーパソ、打ちづらっ!
 忙しい&金欠の時に壊れるなよ、ホント。



56、石ころ(後半、高円寺視点)

 

 一人離れて夜空を見上げていると、四方が来て問いかけてきた。

 また隣には綾小路もいる。彼にしては珍しくアクティブに動いているようだ。

 

「左京、本気なのか?」

「どういう意味だよ。僕には高円寺や綾小路みたいなスゲー背景なんかないんだから、最低限の準備をしとかないと後で詰むだろ」

「だからって学校のシステムをなんとかしようとするとか、なに考えてるんだよ。

 ところで高円寺はともかく、綾小路も裕福な家の出だったのか?」

「どうだろう? オレはあまり考えたことはなかったな」

「いや、そっちは確定じゃないけど、綾小路のこの世間知らずっぷりや……あー、ちょっと他にも色々あって、相当な家なのは予想できるかなって」

 

 綾小路の家や馬鹿親のことは言わない方がいい。

 四方も察してはいるかもしれないが、綾小路の地雷原はこのあたりなんじゃという気がしているのだ。

 知らなければ触れるような話題でもないから、僕から広める真似はしない。それに広めなければ、馬鹿親がまた馬鹿をやってこない限り、僕もついでに松雄も平穏にいけるのである。なら藪を突くのは愚行だろう。

 まぁそもそも人の家の事なんかを口に出すような真似は、察していたとしても僕の美学に反するのでやらないが。

 

「オレは“もう”世間知らずじゃないぞ」

「どの口が言うんだよ。前に明らかな嘘は止めといた方がいいって言っただろう」

「まぁ、少なくとも普通じゃない奴だよなぁ。ゲームとかをやった事ないって言ってたし、初対面の時も流しそうめんの時も挙動がおかしかった」

「普通じゃない……いや、でも中にはそういう奴にもいるんじゃないか?」

「いるかもしれないけど、そういう返しが出てくる事自体が普通からかけ離れてるんだよ。いい加減、自分がズレてることを自覚しろ」

「こんな世間一般の道から外れてる、むつ…左京から言われた……」

「おい、失礼な奴だな」

 

 それにしても嘘と言い出してなんだが、今回に関しては嘘の匂いがあまりしない。

 どちらかというと、真実そう思って言ってそうだ。

 綾小路は何故か普通とか平穏とか自由とかいう言葉に憧れている?フシがある。そしてやり方や結果はどうあれ、その憧れを学んだり実現させてきたという自負があるせいかもしれない。

 

……うんまぁ、そういう奴こそ何かに囚われてることが多いんだけどね。例えば自分は自由だと声高に言う奴こそが、実は不自由なんてのはよくある話なのだ。

 綾小路の場合―――やっぱり馬鹿親が最有力候補、かなぁ。てか、相変わらず背景に不穏なモノを漂わせてんなぁコイツ。

 万が一があるなら、まず息子小路への手を打つことになりかねないな、これは。

 

「ははっ。いつか言われるだろうと思ってたけど、まさか綾小路からとはなぁ。二人共、常道から外れてるし、案外似た者同士かもな」

 

 四方に言われて考える。

 僕は常識人。綾小路は生粋のイロモノだが、似てる部分はある……のか?

 自分に似てると言われて即座に思い当たるのは、戸塚と石崎くらいなんだが。石崎の方は少ししか接点ないけども。

 綾小路もなんか気づいてくれていたか、みたいな雰囲気になっているし、四方共々天才にしかわからない綾小路との類似点が僕にはあるのだろうか?

 

「似てませんよ」

 

 疑問に思っていると、後から来た東風谷がバッサリ切ってくれた。

 佐倉と高円寺も別々の方向からそれぞれ来ている。

 綾小路が、その言葉に一瞬でシュンとなった。

 

「だよな! 僕と似てる奴と聞いて思い当たるのは」

「私ですね!!」

「そう―――じゃねえ! より遠ざかったわ。性別からして違うだろうが」

「えー、なんでですか!? 性別なんて些細なことじゃないですか!」

「わたしも、左京君はちょっと早苗さんと似てるって思う」

 

 意図を察したのかと思えば、おそらく嫌いな奴と僕が似てると言われるのが嫌なだけの感情論だった。

 でもその対抗馬に自分を使うなよ。佐倉まで乗っかってきちゃったじゃん。どっちも明らかに似てないけど、せめて四方か高円寺を挙げてくれ。

 

 そんな話が脱線して、僕に似てる奴談義になっていた時にふと気づいた。

 

―――ん? 高円寺がなんか目配せしてる?

 

 なんでコイツはコイツで、こう…はっきり口に出さないのか。そんなんだから、昼過ぎみたいに誤解されるんじゃないなかろうか。

 本人は気にしないかもだし、僕も気にならないけど、人を試すような真似は不快に思われる原因にもなるので、次の機会まで覚えてたら適当に忠告しておこう。

 今更かもしれんが、なんか天文部がコミュ障の巣窟に思えてきた。ホント、今更だな。

 

 まぁ今回は意図を察する事ができたので、佐倉をエスコートしてくれた恩を返しがてら目くらましになろう。

 天文部関係者はともかく、多分すんなりリタイアする為に平田の注意を引いとけばいいんだろ?

 これまでとは少し違った煽り方も見せてやる。

 と、僕は目的を設定してから切り替え、ここからは道化に徹することにした。

 

 

 

「さてさて、レディース&ジェントルメン! 皆様、ちゅうも~く!!」

「いきなりなに!?」

「おっ、左京、余興でもやるのか?」

 

 考え込んでいた奴らがこちらに視線を向け始める前に、全員を僕の前方に置くような位置取りで足元に仕込みをしておく。あらかじめ地面の硬さを試し済みの場所にだ。

 これはキャットルーキーで四方がやった奇術擬きだが、彼がやるとしても未来だからパクリには当たらないだろう。

 

「さっき僕が言ったことで考え込ませる人を出したようだが、逆に考えてみよう」

「逆?」

「そう、僕のようなただの一般学生「一般学生?」が言っただけの事を信じる事は難しいだろう。

 だけど、ハインリッヒの法則があるように、偶然を利用して積み重ねた奇跡を起こすのは、決して難しいことじゃないとみんなに知ってもらいたい!」

「奇跡……」

 

 ハインリッヒの法則とは、1つの重大な事故=29の小さな事故=300の異常という労働災害の経験則的な法則なので、本来は『300の異常を無くす努力をすれば1つの重大な事故を回避できる』という使い方をする法則だ。

 しかし逆に考えれば、『300も小さな事を起こせば、1つくらい重大な情報操作を行える』という使い方もできると解釈できる。勿論、言うほど簡単ではないが。

 

「左京、お前が言ったことを頭ごなしに否定したいわけではないが、あれの具体案や成功の見込みはあるのか? 俺もこの学校に問題はあると思っているが、変えるのは容易ではないだろう」

「そう……だね。それに、その偶然起きる何かを利用ってどうするの? そもそもそんな『何か』を起こせるの?」

「具体的にどうやるかってのは、とりあえず置いといてだな。

 偶然や奇跡ってのは、意外と起こせるものだよ。今から実演してやれるのは、チャっちいけどな」

 

 空気を読んだ葛城と一之瀬が食いついてくれた。

 欲を言えば平田に質問してほしかったが、彼は真剣な顔になっているのでスルーだけはないだろう。

 これで最低限の借りは返したぞ、と高円寺をチラ見すると、笑い出しそうになっている彼が目に入ってきた。

……笑うなよ? 今、お前が注目されると、僕がやることが無駄になる。

 自然に消えられるようお膳立てしたんだから、適当なところでショーを抜けてクルージングに戻れよ。これで佐倉をエスコートしてくれた借りは返したからな。

 

「ここに3つのサイコロがある」

 

 それはともかく、注目が集まっていることを確認すると、僕はあらかじめ鞄から外しておいたキーホルダーのサイコロ3つをみんなに見せた。

 

「あらかじめ宣言して当てる奇跡をご覧に入れよう。

 出目の合計は3だ!」

 

 そして持っていた湯呑に入れ―――る振りをして、そのまま足を引いて地面に被せた。

 

「さて、このサイコロ3つが、1のゾロ目になる確率は?」

「え、え~と、6の3乗だから……216分の1?」

「大正解! 流石我らの学級委員長!

 そんじゃ、悪いが答えを確認してくれ」

 

 軽く弁を弄しつつ、答えてくれた一之瀬に確認を頼む。

 ノリの良い一之瀬が確認したサイコロの出目は―――1のゾロ目である。

 要はもう一組のサイコロを用いてイカサマしたのだ。

 仕込んでおいたのだから当然だが、こういうショーでは仕込みと演出があればどうとでもできる。

 真面目に考えようなんてのは、この場においてナンセンスだと態度で示したということだ。

 

「これはさっきも言った通りチャっちい奇跡だが……どうだ? なんか簡単に起こせそうな気がしてこないか? ましてや小さい偶然ならどうだ?」

 

 尤も、こんな詐術染みたイカサマは素直な奴しか騙せないだろう。

 高円寺は勿論、目が良い四方や東風谷も薄く笑ってる。佐倉に綾小路や戸塚、神崎といった者も具体的に何をしたかはともかく、またやってるよコイツ、みたいな目で見てる。

 いかに真っ直ぐで素直だろうと、地頭が良い葛城や一之瀬だって内心懐疑的に違いない。

 でもこれでいいのだ。

 むしろこんな詐術に騙されると、心配になってくるからな。

 

 それに標的にした平田がどういうタイプなのかはわからないが、メッチャ見てきているのでこの余興の目的はまぁ達成といっていい。

 これ以降は、適当にトークを挟みつつ締めればいいだけなので、ありえないが高円寺が下手を打たなければミッションコンプリートだ。

 楽しげな目線を寄越されたし、その点については及第点だったのだろう。

 僕はしばらく会えなくなる友達に、さり気なく目礼を贈り見送った。

 

 と、それを見てもう充分だと判断したのか、微笑を残し高円寺は音もなく去っていった。

 気づいたのは……僕が見る限り東風谷と佐倉、かな?

 彼女らも、他にバレないよう小さめに頭を下げていた。

 四方と綾小路は何か話してるのでわからないが、気づいていたとしても見逃してくれそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は誰よりも自分のことを評価し、尊敬し、尊重し、偉大なる人間だと自負している。

 ゆえに、誰のことも取るに足らない凡人であると疑っていなかった。

 

 私が何かをしようとすれば、常に答えを導き出せる。

 凡人が四苦八苦している問題だろうと、私ならばいとも簡単に最適解を思いつく。

 学問だろうと運動だろうと関係ない。

 私とその他にはそれほどの隔絶した差がある。

 

 そんな私が凡人に目を向ける意味などあるのだろうか?

 一部、目を引く者もいないわけではなかったが、私に新たな可能性を感じさせるような存在にはこれまで出会ったこともない。

 挑戦する気概を失った惰性での生き方。

 自分以外から誘導されていることにも気づかず、気づいてさえ打開しようとしない愚かな凡人達。

 挙げ句、足を引っ張ったり、利用し、陥れるような……言ってみれば、自らを高めることを止め、他者を蹴落とそうとするうんざりする醜い思考。

 それが学校はおろか高円寺コンツェルンでも大多数を占める事実。

 それらに囲まれるのは、退屈でつまらない日々だった。

 

 いつかは思い出せないほど昔だが、その事に思い至った時こそが私が凡人を見限った瞬間だったのだろう。

 

 それからの私は、唯一無二の自分を最大限に尊重し、信じ抜いてきた。

 興味が湧かない限り、何にも関わらない。

 その結論に至ってからそうして過ごしてきたし、これから高円寺コンツェルンを継いでも変わらない私の生き方だと思っていた。

 

 しかし、ある凡人と会ったことで、私の思考には変化が生まれようとしていた。

 

 

 

 

 

 左京夢月という男がいる。

 多彩な能力は持つものの、私から見ればどれも凡人の域を出ない。

 言わば多少変わっているが、そこらに転がっている石ころのような存在だ。

 むしろ周りにいる“奇怪な緑髪”のガールやテイルマン、佐倉ガールの方が本来は目を引く存在だろう。私の足元には及ぶ程度の能力や未だ未完成ながら魅せる輝きには、退屈しのぎにはなりそうな可能性を感じる。

 

 しかしだ。

 宝石の如き美しさを持つエキセントリックガールやテイルマンですら。

 泥で固めた陶磁器の如き美しき輝きを放ち始めている佐倉ガールですら。

 

―――石ころである夢月ほどには興味深くない。

 

 おかしいことをおかしいとはっきり口に出し、自分自身の美学のもとに挑戦することを止めない姿勢。

 敬意と礼儀を忘れず、必要だと思った事に対しては全力で取り組む意思。

 ただの石とはいえ、そんな姿勢や意思だけで私にすら手を貸したくさせるあたり、愚かな有象無象とは一線を画する者だ。

 そんな不可解・不自然とも言える存在に、珍しく興味が湧いた。

 だから私は自身の直感に従って、夢月の停学明けに出向いてみた。

 

 勿論、私の優れた感覚や頭脳は、教室で一言話した時点で夢月の本質に至る答えを導き出している。

 夢月は泥に塗れる凡人だ。

 それは間違いない。

 たが、話すうちにそれだけではない男でもあるとわかってきた。

 

 道理をわきまえ、敬意を持ち、この私に認めさせ、認識を改めさせ―――る間もなく、次々と興味深い事に巻き込んできた。私を尊重することは忘れず、あくまで任意でだ。

 そしてそれも一興とばかりに乗ってみれば、それまでのつまらない生活が嘘だったかのように、退屈などさせぬとばかりに尽く予想を外してくる……そんな凡人だ。

 

 なるほど、この男は面白い。

 周囲にいる曲者達が評価し、信を置くわけだと納得したものだ。

 当たり前をひっくり返し、自分の決断を信じ抜き、他者の足を引っ張る事など考えない。

 泥に塗れながら、それでもこの私にさえ美しさを感じさせ、他者を開花させる在り方。

 自分の矜持の為には労を惜しまず、どんな時も美学を考える。

 

 そして何度か試したが、人であれ能力であれ夢月は大事な部分では決して疑わない。疑う前に、まず行動を起こす面白さと危うさをも備えている。

 それでいて当人の実力は凡庸そのもので、努力や精進することもないという。

 こういう男は、初めてだった。

 

―――君は、どうする?

―――頼む。チカラを貸してほしい。

 

 更に私に対しての言葉ではないが、これらの言葉を想起するに、今は片鱗だけでも、伸び代を加味し、いずれ風格を漂わせるようになればただならぬ本領を発揮するだろう。

 分をわきまえて助けを請い、しかし自分自身への自信が揺るぎないところも素晴らしい。

 だから学校のどうでもいい、くだらない児戯ではなく。支配だの、蹴落とし合いだの、欠片も興味の湧かない事柄でもない。

 どこか共感すらできる夢月の繰り出すアレコレなら、茶番に乗ってもいい。

 そう思わせられるのだ。

 

 トドメに―――。

 

「まさかこの私のステージに上がって来ようとする凡人がいるとはねぇ」

 

 今はまだ指が見えた程度だが、遠くないうちに白黒つける可能性があると私の頭脳は予測している。

 勝負や問題の内容・過程や大小はさして重要ではない。

 必要があれば、誰が、何が相手だろうと、夢月は全てを乗り越え、挑んでくる。

 あれはそういう男だ。

 

「いいだろう」

 

 ただ自分を信じ抜いて、やりたいように生き、望む結果を欲してあがく姿。

 一度は凡人を見限ったが、まだ捨てたものではないと再度私に思わせられたら、君の勝ちだ夢月。

 

「せいぜい私を失望させないでくれよ」

 

 特等席を予約していれば、少なくとも退屈だけはしない。

 もしも退屈になっても、暇つぶしにはもってこいの部員達がいる。

 場合によっては、美しいレディ達と遊ぶことよりも優先してもいいレベルの者達だ。不足はない。

 

 私が認めた誇り高き凡人、左京夢月。

 僅かな期待をかけ、正式な名前で呼ぶ栄誉を前渡ししてやったのだ。

 この試験が終わり、船で再会した時。

 あるいはこれから先。

 どんな面白い未来をみせてくれるのか。

 楽しみにさせてもらうことにするよ。

 





 綾小路と比べると、高円寺は素直に捻くれた印象なので、こんな感じになりました。
 彼については原作を読み返しても理解不能な部分が多かったから、興味の有無と面白さを行動原理の一つにしてみましたがどうでしょう? 美しさの基準は、イマイチ理解できてない気もしてますが。
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