ようキャ   作:麿は星

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 なんかメチャ寒いと思ったら、風邪引いてた。
 皆さんも休みだからと酒飲んだ後に適当に転がるのは止めましょう。
 こんなずぼらなの私だけかもしれませんが。

 そしてそういう時に限って起きるノリノリで1話超を書き上げる謎のテンションと、ファンブル展開。
 頭痛いし、体ダルいのに、PCの前から離れられなかった。



 今回は前回・前々回のネタバラシ回……のつもりだったんですが、体調不良やファンブルに加え、書いてる最中に聞いたとある歌に引っ張られて、微妙なねじ曲がり方をしてしまいました。
 そのせいもあって、少し長めです。前書き・後書き含めて。

 あと後書きの最後で助言を求めています。
 なので詳しい方、よければ教えていただけると助かります。



59、失言

 

「そういえば」

「おん?」

「なんで桔梗さんが面白いんですか?」

「あー。結局有耶無耶なクラスの印象だけしか言わなかったっけ」

「はい。夢月さんなら、愛里さんや綾なんとかを挙げると思ってたので、ちょっと意外で」

 

 Cクラスのビーチを出ると、東風谷が疑問の声を上げた。

 確かに色々話していた流れで、櫛田の事も流れてしまっていた。

 友達連中は誰もが話の種として甲乙付けがたい人選ではあったのだが、龍園ならリーダーの資質が高い櫛田の話題が良いと思ったのだ。

 まぁ、誰でも色々アレだったのは認める。

 

「いや、リーダーの龍園になら、普通にリーダーっぽい奴の話題の方が良くね?」

「でも桔梗さんはリーダーじゃありませんよ。月見に来ていた綾なんとかじゃない方がそうらしいです」

「そりゃ、櫛田がどっちかというと担ぎ上げられるタイプのリーダーだからだな。担ぎ上げる奴がいなきゃ、適当に好き勝手するだろ」

 

 櫛田の思考パターンや性格的に自分からクラスリーダーになることはないだろうが、誰かから請われて参謀に付いてくれる奴がいれば、本領・本性を発揮できる状態になるはず。

 そうなれば、対人なら一之瀬すら一蹴できる奴になる可能性もあると思う。ついでに、承認欲求が満たされて、あの終わった性格もマシになるかもしれない。まぁ参謀役次第なところもあるけども。

 尤も、そうなっても高円寺や綾小路は乗りこなせないと思うが、それは誰でもそうだ。むしろアレらを多少でも操縦できる可能性がある櫛田は、大多数にとって有益なリーダーになるだろう。

 

 そうならないなら―――暴発するか。

 愚痴に付き合った時から思っていたが、いつも限界まで膨らんだ風船を思わせたものだ。

 正直、東風谷に紹介する前の櫛田は、疲れ切っていて何をするかわからない怖さがあった。だから櫛田が東風谷と仲良くなったと知った時に誰よりも喜んだのは、実は僕だったりする。不発弾処理が格段に楽になる的な意味で。

 まだ根本的問題は残っていたが、逃げ場ができただけ好転はしたと確信できたのである。

 ちなみにその根本的問題とは―――。

 

「櫛田の何が悪いって、運と周囲の相性が最悪なところだ。本人の性格もそれに次ぐレベルでねじ曲がってるのも、端から見て面白い」

「運と周囲……の相性、ですか」

 

 これに尽きる。

 多少違うが、あれはまさに人間関係最悪な職場に、人から認められたくてしかたない新卒が放り込まれるが如し。

 会社なら最悪転職できるが、この学校では転校にしろクラス替えにしろ、普通でさえ高いハードルが異常に高い。ほぼ不可能といっていい。

 そんな中、あの年齢で歯を食いしばって外面を保っているのは絶賛モノである。周囲や状況に変に歪められなければ、リーダーとして大成する片鱗は見えているのだ。

 

「だって考えてみろよ。

 あいつの愚痴を鵜呑みにするわけじゃないけど、目の前で堂々と胸をガン見して騒ぐ奴らやら、よくわからない根暗やら、協調性皆無な偉そうで嫌な奴やら(全て本人談)。つまり櫛田が努力して維持してる部分を投げ捨てたり逆撫でしてくる奴、もしくは追従してる奴しか居ない印象だぞ?

 僕ならとっくにプッツンしてるね。間違いない。

 それを我慢して、あの外面だ。正直、スゲー奴だと思うよ」

「……うぁ。改めて考えるとストレス凄そうですね」

「それに平田とちゃんと話したのは昨夜が初だけど、少なくとも一歩が遅い平田よりはよほど適確なリーダーの器だな。

 あと、もし櫛田がうちのクラスだったら、生徒会で多忙になる一之瀬とのダブルリーダーを提案したいくらいなのに、聞く限り単なる小集団の纏め役やグループ同士の橋渡し役程度に留めてあるのもおかしい。

 要は櫛田が信頼できたり、また担ぎ上げる奴もいないと見た。それが運と周囲の相性が最悪だと思う理由で、面白いと思う理由でもある」

 

 面白いと思ってたからこそ、前に状況を利用して無理矢理(自覚あり)東風谷に紹介したという裏事情もあるが、こっちは関係ないので割愛しよう。

 

「はぁ~。夢月さんって意外と考えてるんですねぇ」

「まぁ隠れた趣味が『思索』と答えても違和感ないくらいには考えてるな。大抵何の役にも立てることもないし、あんまり口にも出さないけども」

 

 考えても意味がないと感じればともかく、考えること自体は好きだし、自分自身には意味ができる事も多い。だから思索は自分だけの行動の指針にしていたりする。

 尤も今回の試験、というかマイナスの穴埋めみたいな目に見える功績が必要な場合は、しかたなく他にも口を出させてもらうけどな。

 

 

 

 意識してゆっくり歩き、もう少しで林に入るというところで、慌てた感じの声が僕達にかけられた。

 

「左京君! 東風谷さん! 待ってください! 置いていかないでください!」

 

 金田だ。

 よし。最初の賭けには勝った。

 ここで金田が僕達を追いかけてくるということは、龍園か椎名、もしくは金田が気づいて手を打ったということだ。あの様子だと、金田である可能性はなさそうだが。

 Bクラスへの義理の方が大きいからあんなやり方しかできなかったが、できれば一挙両得を狙いたい僕としては龍園の選択肢を増やしておきたかった。

 

 あのままではおそらく2択になっていただろう。

 だから3番目の選択肢を作ることで龍園の保険にも使えると暗に示し、かつ僕は借りを返したのである。

 まだ信用はされてないだろうが、あいつらならこの手に気づいて『利用』してくれると思っていた。

 

「や、金田。さっきぶり」

「? 彼はスパイと確定したんですよね? どうしてそんな」

「それは僕も聞きたいですよ。僕だってこれでお役御免だと考えていたのに、龍園さんが左京君達を追いかけて、そのまま試験終了までBクラスにいろと言われまして。

 あと、理由は左京君に聞け、と」

「あー、うん。まぁそうなるよな。

 とりあえずゆっくり帰りながら話そうか」

 

 僕と東風谷がBクラスの拠点に帰り着くまでがリミットだったので、速さを何よりも優先したのだろう。僕か東風谷と一緒に帰還しないと、無駄に怪しまれるからだ。

 

「なにか急がないといけない事情ができたんじゃ?」

「あれは龍園達へのヒントだ。この結果に導くためのな」

「この結果ということは」

「僕もBクラスである以上、筋は通さないといけなくてな。でも龍園に借りは返しておきたかったから、保険の一手をわかるかわからないかギリギリのラインで伝えたんだよ」

「保険……僕がBクラスで過ごすことが龍園さんの保険になると?」

 

 う~ん。微妙に認識がズレてる気がするし、1から8くらいまでを説明しておいたほうがいいかもしれない。

 こういう時、現実にも脳内オートやコピペ、倍速機能があると便利だなと思う。特に倍速は早口になるから、聞き取れる速さならすごく便利そう。

 

……こういう発想、なんか自分が天才になったようで妙な気持ちだ。

 

 勝手な印象だが、四方や綾小路と付き合っていると、彼らの時間だけ早く流れて感じることがある。これは逆に言えば、彼ら自身は周囲が遅いと感じているのではなかろうか。

 例えばこちらがなにかを話し、向こうも一言二言話したと思ったら、何故か急に納得し出すことがある。これこそ思考速度の圧倒的差が過ごしている体感時間に影響している一例だろう。

 つまり、天才達は日々周囲をじれったく感じ、僕達凡人はそれを理解できないのだ。

 

 うん、脱線も程々に、現実に戻ろう。

 

「まず、今のところ僕と東風谷だけが金田がスパイだという情報を確定させている。ここまではいいよな」

「はい」

「つまり、僕達が言わなければ金田は、えーと、保護…だっけ? 保護された名目のままBクラスの拠点で過ごせることになるわけだ。しかもこれからは探る情報もなくなったから、怪しまれるようなこともほぼしなくていい」

「ああ、なるほど。敵にならないし、害もないなら、置いておいても問題ない……んでしょうか? なんかややこしくてわけわからなくなってきました」

「待ってください! 僕のことを一之瀬さん達に報告しないつもりですか!?」

 

 東風谷がついてこれていないが、思考の方向性がこれ系に向いてないのでしかたない。コイツはどう見ても技術者か研究者向きだ。

 

「そのとおり。

 そうしないと金田がリタイアする可能性が高まって、保険が十全に機能しなくなる。龍園のミスを考えるに、ここをなんとかしておかないと最悪Cクラスが一人負けするぞ。これを負けとは捉えないと思うがな」

「ミ、ミス?」

「僕達が最初に龍園のところに呼ばれた時、龍園の傍にあったものは何だ?」

 

 一緒に推理した思考力から考えて、金田ならこれだけで半分くらいまでは理解できるはずだ。

 

「? …………あっ! 無線機!? いやでも、左京君なら」

「そう。僕達だけならあれはミスじゃなかった。

 でも、僕達の前に綾小路達も来ていたというじゃないか。凡人の僕が気づいて、あいつが気づかない可能性なんてない。確実に気づく」

「……」

「綾小路達が来た時に、無線機があそこになかった事もありえない。龍園がああした要の一つになり得る機器を来客があったからと手元から離す性格なら、そもそも僕達を呼ばない。だから綾小路達を呼んだかまではわからないが、偵察や挨拶が来ることを想定していたならおそらく僕達への対応と変わらなかっただろう。

 つまり呼びつけて話したはずだ。無線機が見える位置で」

 

 ここまで言えば、僕が何を言いたいかわかっただろう。

 Dクラスの者に、少なくとも戦略の半分くらいは把握された、ということだ。

 正直、社会人経験で下駄を履いてれば、よほど向いてない分野でない限り、行動し観察すれば、限定範囲内の理不尽は大抵こうしてやろうとしている事や対処法が見つかる。本来は別クラスとはいえ仲間に向けるようなモノではないが、この学校の方針的にある程度はしかたないだろう。

 

 そして僕のような下駄も履かずに、あっさりそれを超えていくのが天才という存在だ。

 材料が揃っていたとはいえ、高円寺がキーカードを見て即座にうちの方針を読み切ったように、綾小路も似たような真似ができておかしくはない。

 更に本気でボンクラだと考えていればまだしも、さっき僕が曲者が多いクラスだと龍園に言っている。話半分に聞いても、下手を打ったかもと頭をよぎっただろう。

 

「あの…夢月さん。あの人、本当にそんなすごいんですか? 買いかぶりでは?」

「まだその可能性はある。数々の片鱗は一応確認しているが、所詮勘が根拠の大半だしな」

 

 東風谷は綾小路を認めるのが嫌なのか疑問を呈してきた。

 言葉通り僕も確定はできないので、肯定気味にもとれる返事を返す。

 だが言葉とは裏腹に、僕自身はもうほぼ確信している。

 

 綾小路清隆は天才であると。

 

 でなければ、四方の対抗馬として計算に入れたりしない。

 目に見える証明はできないから、口に出して断言こそしないが。

 

「勘、ですか。

…………はぁ。夢月さんの勘は馬鹿にできないんですよねぇ。ということは、本当にかn…神様のお告げ通り、綾なんとかは天才の部類なんですか」

「……神様?」

 

 東風谷も助言ありとはいえ、8割方そう見えているようだ。

 それについてちょっと突っ込んで何か聞こうかとも思ったが、金田が神様と聞いて僅かに胡散臭くなってきたと言いたげな顔になったので、強引に元の流れに戻す。

 信じられない気持ちもわからなくはないが、東風谷や神様方を変な風に思われるのがなんか嫌だったのだ。

 

「まぁ綾小路はともかく、椎名も僕が気づいた事に気づいていたし、あれは龍園の選択肢を実質2つに絞られるミスだっただろう」

 

 実は椎名は確定ではないけど、コーヒーというこの島では貴重な娯楽品をあんなにあっさり譲ってくれた背景はおそらくこれ関係だと思う。

 あれから少し考えてみると、こちらが後なのでそれ以外にも何かはあったのだろうが、「全オープンなのに意外と鋭い」という僕への評価はこの判断に影響を及ぼしている気がするのである。

 

「だから僕は、これからの龍園の“大変な生活”を少しでも楽にするためと。

 『それ』を龍園が確信した時に、金田がリーダーになって龍園の代わりにリーダー指名する保険的選択肢のヒントを出したんだ」

「―――っ!」

「それに対し龍園か椎名は、Bクラスへの配慮に隠したそれに気づき、即座に金田を送るという手を打った。それまでの関係ないような話と、あのわかりにくい僕の野放図で非常識な態度だけで。この短時間で」

 

 金田が考える時間を考慮して一息入れ、ついでに少なからず混ざる感嘆の気持ちを抑える。

 僕があっち側だったら絶対に気づかず、スルーしている。仮に気づいても、勝敗にもクラス自体にもそこまでの思い入れがない僕では、何もしなかった可能性は高い。

 対処をする龍園達と僕の差は、こういうところから生まれていくのだろう。

 やはりアイツらの思考速度も並みではない。

 ともあれ、これで金田がうちの拠点で過ごす為に必要な説得はできただろうか? と確認がてら聞いてみる。

 

「以上が、金田の現状に関する僕の予想だ」

「つまり……つまり、左京君は…読み切ったということですか!?」

「は? なんでそうなる? 読み切ったのは向こうだろ」

「そうですがそうではなくて!!」

「?」

 

 いかん。金田が理解できない。

 懸念点は潰したと思っていただけに、何に慌てて?いるのかわからない。

 粗方龍園(達?)の狙いやミスの予想は説明して、見落としもないはずだが……。

 

 なんか口を開こうとしては閉じる謎行動をしつつ、ビーチで呼びに来た男子のような怯え?さえ見せている金田。

 それは東風谷が、唐突に発言して変化を促してくれるまで続いた。

 

 

 

「夢月さん、夢月さん。

 変な雰囲気ですし、ここは一つ、昨夜のお月見のような一発芸でもしたらどうです? できるだけ馬鹿馬鹿しくて楽しいのをやれば、空気も一新できると思いますよ」

「む? 珍しく一理ある「ありませんよ……」。

 エア友達に拍手喝采された僕の特技ならば、それくらい軽いはずだ。金田もいるし、アイツを対象にしてやろう」

 

 喉を調整して、思い通りの声が出るか確かめる。

 金田の力ない反論など無視だ。

 消沈?している奴にも、これならウケると自分で確信してこそ、道は開かれるのだ。

 大丈夫。僕ならできる。

 

「では雰囲気を変えるために、一発芸・椎名の声で椎名が絶対歌わないシリーズを歌います! 聞いてください!!」

「ブッ! ホントに椎名さんの声が……!」

「おや?」

 

 スゥ~~~!

 

『お願いマッチョ~♪ めっちゃモテた~い♪

 お願いマッチョ~。めっちゃモテた~いから。

 ウッ! ハッ! 筋肉お願い~。

 モップがけ! サイドチェスト! 』

 

 アカペラでうろ覚えでも、メロディーと椎名の声真似は完璧に通す。

 この歌はそれだけで充分だ。

 

「あはははっ! ぜんっぜん椎名さんのキャラじゃないですか!? いひっ! しかも勝手にシリーズ化とかして怒られますよ……ひっはっは、ひ~」

「……え? どうなって……? 本当に左京君の口から椎名さんの声が…ブフッ。よりによって椎名さんの声でなんて歌を……う、うははっ! あっ、ダメだ。止まらなっ…あっははは!!」

 

『綺麗な私に大変~身。見てなさい。

 さん♪ はい♪

 お願いマッチョ~。めっちゃモテた~い』

 

 歌ってると二人が静かになったので、僅かに意識をそちらに向けると俯いていた。

 ふっ。いない椎名に悪いと思って、俯いて僕を見ないようにすることで笑いを抑える算段かもしれないが、残念ながらこの歌は2段構えだ。

 僕を見ないことで、本物の椎名の声では絶対に実現しないギャップを存分に味わうがいい。

 

「『………お願いマッチョ♪』

 ふぅ。ご清聴ありがとうございました」

 

 清々しい気持ちで1曲終える頃には、二人とも再び笑い転げていた。

 実は旅行前に初めて聞いた歌なので曲名も知らず歌詞とかも違うだろうが、ノリとリズムだけは外さないように気をつけていた。

 それだけで笑わせられると確信していたからである。

 この異常に耳に残るメロディーは僕に耳コピを可能にさせ、他人……しかも椎名という女子の声で再現する奇跡を起こした。それは可能でさえあれば、それだけのポテンシャルを秘めている。

 

 結果、見事に金田と東風谷の笑いを引き出したのだ。

 見よ、大ウケである!

 まるで僕には芸の神が憑いていると錯覚しそうなステージだった。

 

「ブッハハハ! 予想以上に高クオリティ!! っていうか、夢月さん声真似上手すぎです! あははは!」

「うっくく。さ、左京君。ぶふっ、椎名さんに聞こえたらどうするんですか!? まだ…ブフォッ……失礼、まだビーチから…ぶふぅ、そんなに離れてないんですよ!」

「ふははっ。絶賛だな。

 金田、安心しろ。もう見送られているし、追いかけてくる用事もないだろ」

 

「そうですね。左京君がコーヒーに入れる砂糖とクリープを忘れなければ、届けに来ることも、耳に入ることもありませんでしたね。

……私の声って、あんな感じなんですね。なんか不思議な気分です」

 

 ???

 

 満足感に溢れていた中、夏の暑さのせいか幻聴が聞こえた。

 だが、その穏やかな声は確かに僕の背筋に物理的に電流を流すかのような威力を伴っている。

 だから気のせいと思い込みながらも、一応、念の為に恐る恐る振り向いてみれば。

 

 いないと思っていた椎名様が、ニコニコと笑顔を浮かべていらっしゃるではないか!

 

 おかしい。幻聴だけでなく幻覚まで見える。もしくは蜃気楼かもしれない。

 念の為、声をかけてみよう。

 

「……えっと、と、と…届けてくれてありがとう?」

「はい。どういたしまして。

 楽しくやっているところにお邪魔してすいません」

 

 重ねて妙だ。

 この幻覚とは会話ができる。まるで本人がこの場にいるかのようだ。

 更には砂糖とクリープと思しき物品を受け取ることまで可能とは、最近の幻覚や蜃気楼は高性能である。

 

「いえ、決して邪魔ということはなくてですね。

 そのぉ、差し支えなければ、どこからご高覧頂いていたのか教えてはもらえないでしょうか?」

「ふむ。椎名の声で椎名が絶対歌わないシリーズ、と左京君が言って歌い出したあたりでしょうか」

「ほぼ最初からじゃないですか……」

「ああ、間違えました。椎名も僕が気づいた事に気づいていた、ってあたりでしたね」

「最初すらぶっちぎってるんですがそれは」

「ふふ」

 

 流石にこのあたりで、現実逃避はやめた。

 見た感じ怒ってもなさそうだし、何事もなかったかのように流すのが吉だろう。

 ただ怒ってる雰囲気はないが―――その無言の笑顔が逆に怖いんだけど!

 あまりの事態に僕が言葉に詰まっていると、そこへ新たに高らかな笑い声が投入される。

 

―――そう。空気読めない奴筆頭、東風谷早苗その人である。

 

「ふふっ、うふふ。あーはっはっは! 想像以上に夢月さんの芸がベストチョイスでした! まさかご本人がいる前で、あんな声真似の芸を披露してくれるなんて!! あはっ!」

「こ、東風谷! お前…まさか気づいててあんな誘導を!? 謀られたか!」

「人のせいにしないでくれます~? 夢月さんが勝手にやったんですよぉ」

「っざっけんな! エア友達品評会でこの特技を話してたから画策したんだろっ!? てか、予想とか想像とか語るに落ちてんだよ!」

「朝に私と一之瀬さんをペアにすべく画策した夢月さんには言われたくないですね~。

 それに、何でしたっけ? 真のフィクサーがどうとか」

「ああああっ! それ…は、あの、ちょっと楽をしようと……」

 

 ここぞとばかりにゲス顔で嫌らしい笑みを浮かべながら、僕を煽ってくる東風谷。

 まさか昨日や朝のアレらを聞いてたり気づかれていたとは……。

 

「あれあれぇ? その顔はぁ~? もしかしてあれだけ何度も顔に出してたのに、私がなぁんにも気づいてないとでも思ってたんですかねぇ?」

「うっ…ぐ。いや……あ、あれは、その…アレだ」

「ほう? アレとは?」

 

 ヤバい。

 普段ならともかく、思考の許容量を超えかけている今は支えきれない。

 この椎名で手一杯と言う時に……!

 クソが。昨日はなんかわからん事であんなにあっさり固まった癖に、心配事が減った途端にこれかよ。

 いやそれどころじゃない。なんとか言葉を絞り出さないと押し切られる。

 お世辞でもいいから、なんとかひねり出せ僕!

 

「ご、誤解なんだ。

 突発的に…綺麗な東風谷が見たくなってな。一之瀬なら東風谷をより輝かせる事ができると……そう! サプライズってヤツだ!」

「へぇ~。でもそれだと、まるで普段の私が綺麗じゃないみたいな言い方ですね?」

「そ、そんな事があるわけが……。東風谷は普段から、び…び」

「び? なんです?」

「美……少、女だと…わかって、いるさ」

 

 ぐぅ。屈辱すぎる。

 外側が美少女なのは認めるが、こんな性格破綻者をそう称したくない。

 

「24点。

 詰まりながらじゃ、私が言わせてるみたいじゃないですか」

「言わせてんだろうが!!」

 

 しまった。つい反射的に。

 

「確固たる事実を前に嘆かわしいことです。

 まぁ、今日のところはこれくらいで椎名さんへパスしておきましょうか。

―――そっちの方が夢月さんは嫌でしょうから」

 

 馬鹿な。

 僕が……この僕が踊らされている・・だと!?

 本題をズラされていたのはわかっていたのに!

 コイツは感情と能力の波がありすぎて、本当に対策が難しい。

 

 僕が呆然となっていると、その間にまだ切り込み方を整えていないというのに、金田は金田で早々に椎名への切り口を作っていた。

 各所で発生する問題に対応が間に合わない。それでも今は動くしかない。

 

「言い合ってる場合ですか!? し、椎名さん、今のは」

「大丈夫です。怒ってませんから…………金田君と…東風谷さんには」

「ちょ、最後に不穏な呟きが聞こえたんだけど!? 僕は!?」

「月のない晩には気をつけた方がいいですよ」

「怖っ! 椎名の雰囲気でその台詞はマジで冗談じゃないから!

……すいませんでした。もうネタにしないから許して…許して」

「ふふ。冗談ですよ。次からは気をつけてくださいね」

 

 次からとは?

 もしかしてもう一回やってもいいけど、椎名に見つからないようにすれば許容してくれ……はい、調子に乗りました。すいません。

 全てを見透かされているように感じた椎名の微笑。

 それを見てしまった僕は巫山戯ることもできず、チキった。

 

「うふっ。これは嘘ですよ夢月さん♪ 月のない晩には夜討ちされるかもしれませんね? 私からも」

「はいはい。東風谷さんもその辺で許してあげましょうね。左京君とはお友達同士ですし、東風谷さんももうコテンパンにしてるんですから、そろそろ許してあげないと。

 でないと後で気まずくなりますよ?」

「うっ、はい」

「椎名……!」

 

 しかし、失言しても失敗しても、東風谷が尻馬に乗ってきても、椎名は真に寛大で温厚な態度を崩さない。

 快く許してくれるだけでなく、東風谷まで宥めてくれるなんて! どこぞの緑のとは大違いである。

 Cクラスきってのイロモノとか思っててすまん。

 だから―――。

 

「ありがとう」

「……いえいえ。今度なにか埋め合わせしていただけるなら、これくらい普通に許しますよ」

 

 僕もつい油断したのだろう。

 

「おおっ! 僕にできることならなんでも言ってくれ! それくらいお安い御用だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? 今、なんでもって、言いましたよね?」

 

 

 

「あ……はい。言い…ました」

 

………………もしかして僕の今日一番の失言は、これだったんじゃなかろうか?

 

 そう思えば思うほど、背筋を伝う汗と嫌な予感が膨れ上がっていく。

 椎名ならそこまで無茶振りとかしないとは思えど、何をされるかわからないという一点で怖さがあるのだ。あまり彼女を知らないだけに……。

 椎名の笑顔に加え、憐れむかのような東風谷と金田の視線が痛い。

 いやでも、東風谷にはそんな目で見られる筋合いないから。むしろコイツが元凶だから。

 なにシレっと手のひら返してんだよコイツ。

 

「はぁ~あ。夢月さん、油断しすぎですよ」

 

 挙げ句、この台詞を勝ち誇った笑顔で放つ東風谷を浄化したいと願うのは、当然の理だろう。

 覚えていろよ。クソ緑が……!

 

 ともあれ、結局この日、僕は椎名に借りを作った。

 それも僕の借りランキングで一躍2位に躍り出るほどのものを。

 当然、その場で返させてくれるわけもなく。

 まだその相手が、椎名だっただけマシ―――なんて思えるわけないだろ。

 笑顔の椎名と改めて別れ、僕は茫漠たる不安と敗北感を抱えて帰路につくのだった。

 





 椎名の(声だけの)物真似。
 作業用BGMを聞いてたら、とあるアニソン(よく知らない)が耳に飛び込んできて、離れなくなりました。
……それでつい魔が差して、椎名をキャラ崩壊寸前に追いやったのは悪かったと思ってます。すいません。

 それと東風谷早苗。
 二次創作で起用するまで気づいてなかったけど、正直すごく書きやすい。
 東方でも屈指の性格のブレ幅は、初期のダウナー、真面目、はっちゃけ、ゲスとどんなモノにしても(私的に)違和感なく収まり、キャラ崩壊とか考えなくていい。
 譲れない一線は決めたけど、ここまで好き勝手にさせるだけで充分なキャラは、他にあんまりいないのでは……?

 ついでに、前回の戸塚の話。
 本来なら月見で葛城と一之瀬(あと何気に綾小路)にする予定だったのに、何故か龍園にしてるという。ガバではないけど、これもう戸塚本人には伝わらないだろうな。



※助言プリーズ。
 歌詞を使う時って、こんな感じでいいのでしょうか?
 規約読んでもイマイチ使い方に確信が持てない。これまで小説は書いても投稿は初めてなので、こういう系の理解が足りてないのかも。
 歌詞自体も何気に聞き取れてない部分があるし、それ以外でも間違ってたりダメな部分があったら訂正、もしくは削除するので、ご指摘くれたら対応したいと思います。
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