今回は、神崎視点。
多くは語りません。ただ一言、言わせてください。
神崎、すまん。
チカラを持っていながら、それを使わないのは愚か者……だと本気で思っているが、チカラの使い方がおかしい存在は一体なんなのだろう?
それに対し、俺はかつてないほどの憤りと困惑を抱いていた。
無人島2日目、四方と左京が体調を崩した。
というか筋肉痛らしいのだが、満足に動けない二人を見て、一之瀬はこの日のスポット巡りを肩代わりすることにしたようだ。そして早朝に各クラスの偵察に行って地理をある程度把握していた俺も彼女に頼まれ、同行することになった。
そこまではいい。
東風谷の機動力が予想以上だったのでキツさはあったが、普段接触がなく、滅多に口を開かず“笑わない”東風谷を観察する機会は貴重だ。
それになにより、この面子の中では同程度の運動能力である一之瀬とは隣で走る事になり、ゆっくりではないが彼女の暴れまわる母性の塊をさり気なく盗み見ることもできた。
また以前左京が引き出した一之瀬の可能性も、いまだ脳裏に焼き付いている。2つを組み合わせることで、寮に戻った暁には更に色々と捗ることだろう。
触発されて俺の股間まで暴れだしたらことだったが、運動量の負担とそうなったら社会的に終わると判断する理性、普通に走っている柴田の存在がなんとか『ソレ』を押し留めてくれた。
まったく一之瀬の兵器にも困ったものである。夕方にも巡るなら、見ないよう対策しておかないと、視線が吸い寄せられて変態道一直線ではないか。
考え事をしていたせいで危うく木に激突しそうにもなったが、素材はそこそこ集められたため、本当にぶつかっていても悔いは……少ししかなかった。
問題は休憩中に発覚した。
尤も、発覚前から東風谷以外からやけに見られているとは思っていた。
思えば、昨日の夕食時や月見で左京が言いたい放題している時にも、共に参加したクラスメイトからの視線を感じることはあった。
しかし、この時に至っても理由がわからず、少数で発言しやすい場であることと気を紛らわせるくらいにはなるかという発想で、同行者達へ向かって疑問を口に出してみたのだ。東風谷は相変わらず我関せずといった態度だったが。
「ところで少々聞きたいのだが。
昨日から何故かみんなに見られているんだが、俺に何かおかしいところがあるのか?」
「あー。えっとね。昨日左京君から聞いてたんだけど……」
「うん? なんでそこで左京が出てくる?」
安藤が話し出したが、唐突に出てきた名前に疑問が増えて聞き返してしまった。
一方、東風谷以外の3人は顔を見合わせ、頷き合うと今度は柴田が口を開いた。
「まどろっこしいから、もう直球で聞くぞ?」
「柴田君……うん、お願い」
「本当だったら、大変だもんね」
なんだ? 猛烈に嫌な予感がする。
ただの雑談だと思っていたら、やけにシリアスな雰囲気が漂って……。
「神崎」
「あ、ああ」
「―――お前が左京を操っている真のフィクサーって本当か?」
「………………は?」
冗談かと思って柴田を見返すが、半信半疑ながらも真剣な表情だ。
そしてそれは安藤や一之瀬も。
「昨日の探索中に左京が、お前の意向で動いている、とか言っててな」
「自分はただの役者だから、何か質問があるなら脚本家の神崎君に聞いてくれとも言ってたよ」
「でも左京君が100%その…指示で動いてるってのも、違和感しかないんだよね。だからもしそうなら、どこまでが指示なのか」
「ま、待て待てぇえええっ!! 何だそれは!? 全て初耳だぞ! それがさも真実かのように聞かれても、俺にはわけがわからん!!!」
本当に何がなんだかわからない。
俺は知らないうちに平行世界や異次元にでも転移していたのか?
「う~ん。左京君は、神崎君は謀略を担当してるから、フィクサーか聞かれても警戒して必ず否定するって言ってたけど……これはどっちなんだろう?」
「左京ぅうう!! あの男、周到すぎるだろう!」
「あいつ、本当の事しか言わないけど、何気にもっともらしくホラを吹くのも上手いからなぁ」
「でも普段冷静な神崎君がこの反応。
……これは、神崎君もついに左京君の被害者同盟入りかなぁ。にゃはは……はぁ」
左京!! あの男……! 謀略家はどっちだ!? 先手と伏兵の波状攻撃をクラスメイトに仕掛けるんじゃない! 必ず否定するのは事実ではないからだろうが! あと一之瀬は勝手に俺を妙な同盟に入れないでくれ!
しかし探索で一緒だった柴田と安藤はまだしも、接した時間が短いはずの一之瀬にすら半ば信じさせていた手腕は凄まじいが、どういう意図で―――もしかして!?
―――質問されると面倒くさいよなぁ。
その時に脳裏をよぎったのは、一見関係ない薪拾いの時に聞いた左京の愚痴。
かつてないほどの憤りと困惑が、逆に俺に冷静さを取り戻させ、徐々に事実へと導いていく。
船での僅かなやり取り。同学年の前に堂々と立ち言いたい放題の姿。星之宮先生を言いくるめ、それでいて東風谷や一之瀬に捕まる立ち回り。薪拾い以降に激増した俺への視線と質問者。月見でのいくつかの想定外。
まさかとは思うが……。左京は質問されるのが面倒というだけの理由で、俺を隠れ蓑にして矢面に立たせたのでは?
そう考えれば考えるほど、そうとしか思えなくなっていく。
その為に持てる知識を駆使して情報戦で圧倒して隠蔽し、ギリギリまで俺の対処を遅らせて噂を広め、発覚しても完全に拭い去る頃には特別試験が終わっている計算ではなかろうか? また俺が対処しなければ黒幕という間違った印象が定着してしまうので、対処せざるを得ない二段構え。
試験終了まで左京は好きに過ごし、俺を含めた何人かにさり気なく面倒を丸投げしていく算段だろう。
いつかは俺が言われたが、見事な策略だ。称賛に値する。俺自身が大変に面倒という部分を除けばだが。
「チカラを持っていながら、それの使い道が方向音痴すぎるだろうがっ!!!」
俺がついそう叫んでしまったのは無理もないだろう。一之瀬達は苦笑しているが、これは叫びたい。
しかし本人がいない場で言ってもどうしようもないのでなんとか衝動を抑え、俺は思い至った左京の策略を一之瀬達へ説明するのだった。
そして、左京に野営知識の質問に行った者達を中心として、この情報は既にクラス内殆どに広まっている事実を知ることになる。
クラスメイト達も、そんなにすぐ信じるな! 一之瀬という前例のせいかもしれないが、あまりにチョロすぎるだろう!!!
何気にクラスの結束力が『俺の』仇になる場面をまざまざと突きつけられ、このままでいいのかと小さな疑問が生まれた瞬間だった。
これを知ってしまってから、見られている事が異様に気になってしまう。
改めて観察すると、目立つ一之瀬や東風谷と同等以上にクラスメイトから見られているのだ。
「予想はできていたがなっ!」
らしくもなく毒づきながら、とんでもなく迷惑な策略を仕掛けてくれた左京を問い詰めるべく、拠点に戻ってすぐに左京を探したが案の定いない。
“四方が”付けたはぐれメタルという異名は伊達ではない。
普段から接触しようと思っても大抵いない男なのだ。
誰に…左京に最も近い四方や柴田に聞いてすら、どこに行ったのか見当も付かない事は珍しくない。東風谷に至っては、話しかけるなオーラが強すぎて話しかける事自体が難しく、意を決して話しかけても無視が関の山である。
更には、左京が試験中で無人島だからと大人しくしている性格ではないのは、初日にやらかした数々の所業によって明らかになっている。
共に島を巡った一之瀬達はこれから休憩を経て、ハンモックを設置したり暑さに備えて打ち水をしたりといった拠点整備に精を出すようだが、俺は気が急いてしかたない。
だから疲れている体に鞭打って、左京を探し、ついでにクラスメイト達に広められた噂の火消しに奔走した。
この時、もっと冷静になっていれば、東風谷と話していた四方の近くで待つか、彼らに伝言を残すかするのが最善だと気づいたはずだ。数少ない左京を捕える手段は、彼ら左京の友人が握っている事を知っていたのだから。
うちのBクラスは、一部を除き一之瀬を中心に非常に良く纏まっているといえよう。
入学直後から一之瀬を中心としたクラス運営が形作られ、5月に学級委員会の発足で役割を決めたのが決定打になった。
おそらく学年で最も結束力あるクラスだろう。
今回の試験でも、最初はアレがあって混乱したものの、探索や拠点整備などの部門を各人に割り当て、責任者がそれぞれ連携しつつ指揮するシステムをすぐに構築できた。また朝夕の点呼前に、責任者を集めたミーティングをすることで問題解決や生活改善をしている。
これをあの初日にある程度、2日目に確立した一之瀬の手腕は見事なものだ。
学級委員会の役職持ちをスライドして、網倉や及ばずながら俺も手伝ったとはいえ、好スタートを切れたのは間違いなく一之瀬の功績が大きいと確信している。
方針は左京が強引に引っ張っていた面もあるが、間違いなく一之瀬こそがうちのリーダーだろう。
まだ問題の一部と言うべきである左京や東風谷といった者達もいるが、Aクラスのように対立しているわけではない。それに彼らは騒動や問題を起こしても、結果的になんだかんだで良い方向に収めてしまうのだ。
俺は勿論、一之瀬も関与どころか知ることさえ事後がほとんどであるが、彼らはただ状況をマイナスにするような真似はしない。誰かがヘマをしてもフォローまで自分達でこなしてしまう上に、後始末に奔走する四方の説得もあって、結果に納得させられてしまう。
これはDクラスで目撃した騒動が好例だろう。
あの時の左京は、女子の友人を守り抜き、被害を最小限に抑えた上で、自身でほぼ全てのマイナスを持っていって精算した。
関係ないがあの時は、同じ事がどれだけの者に可能だろう? と思ったものだ。
あれはクラスメイトとしてはともかく、同じ男として一目置かざるを得ない出来事だった。
ともかく、今現在迷惑をかけられている俺にさえそういう印象があるのだから、他は推して知るべしだ。
その為、一之瀬や四方のフォローによって地盤を固め、謝罪の場を笑いで満たしたことで確立していた左京の影響力は強固で、あの場面を見ていない者でも左京を信じているクラスメイトは多い。そこへ左京自ら投入した俺の黒幕説。
普段苦手としている口や人付き合いを駆使して弁解に走ったが、今はなんとか半信半疑にするのが限界だった。
「何だとっ! Cクラスに!?」
昼過ぎまでそうしてあちこちを周り、再び戻ってきた俺を迎えたのは、左京が一時現れ東風谷と共に呼びに来たCクラスの者を連れて、Cクラスの拠点へと向かったという情報だった。
朝に各クラスの偵察してきたが、あそこはバカンスといった感じの光景が広がっていて、左京が同学年全員にブチまけた提案をあのクラスだけが実行したかのような印象がある。だから、龍園とのことがなくとも慎重に探ろうかと思っていたクラスだ。
更に金田のスパイ疑惑もあるし、流石にあそこに追いかけては行けない。
「尽く面倒をかけてくれる!」
焦燥のあまり、一人残って俺に教えてくれた四方につい当たってしまった。
「まあまあ神崎。落ち着けよ。東風谷もついて行ってるし、どうせ夕方のスポット巡りまでには帰ってくるさ」
「これが落ち着いていられるか! そうして俺がまた出発したところで、また左京の蠢動を許せば!」
「そんな無駄なことを左京はしないって。万一、するようなら今度は俺が止めるから、少しは落ち着いて休め。夕方に差し障りが出るぞ。
というか神崎。蠢動って……」
四方の呆れた口調に、頭に血が上りすぎていることを自覚する。
そして、穏やかな口調で宥められて僅かに冷静さが戻った。
確かに、この状態では16時からのスポット巡りが大変になる。
俺はなんとか焦燥感に囚われそうになる自分を抑えて、休息することにした。
結局、左京が戻ってきたのは俺の出発直前である。
一緒に出向いたという東風谷は15時頃に戻ってきたが、流石に話しかけても無視される事がわかりきっている為に情報源にはならない。四方や柴田もいなかったので、代わりに聞いてもらうこともできない。
俺は焦燥に似たモヤモヤを抱えながら、本日2度目の無人島走破に挑むのだった。
「やあ神崎。お疲れ」
「……やあ…だと?」
そしてこの後、三度帰ってきてすぐにようやく居た左京の元へ向かうと、かけられた言葉がこれだ。
よくもぬけぬけと言えるものだ。思わず言葉を失ってしまった。
なぜなら、俺が今日1日駆け回った原因の大半が、言うに事欠いて悪びれもせずに「やあ」ときたのだ。
……この後のミーティングでは覚えていろよ。
「他になにかあるかな?」
2日目最後のミーティングが終わり、一之瀬が全員の意見を聞く。
これは学級委員会でのお決まりの流れではあるが、いつもなら誰も意見を言わない。せいぜい遊びに行こう程度だ。無人島の夜だからそれも今はないが。
だが、今日はいつもではない。
俺の黒幕説について、みんなの前で左京から説明してもらわないと気がすまない。
「じゃあ丁度良い機会だから僕から一つ、提案していいか?」
「さきょ」
「左京君? またなにかとんでも話とかするつもり?」
「……僕の印象がなにかおかしい。
それに一之瀬の当たりがなんか強くね? 一之瀬には迷惑とかあまりかけてないつもりなんだが」
「昨日のあれでそう言える左京君は大物だよ」
「……にゃはは」
やっと問い詰めることができると口を開くが、左京に先んじられた。
ミーティング後の時間をもらい、左京が強制参加するよう一之瀬達に根回ししていた俺を嘲笑うかのようだ。あまりにも自分を見れていない左京に呆れている網倉。一之瀬でさえ苦笑してるじゃないか。
というか迷惑はまだしも、周囲を振り回すのがデフォルトの男がなにを言う。片腹痛いわ。
「…………ガチャの立ち上げ時にいたから、一之瀬は僕の言うことに察しはついてるかもしれないが、とりあえず聞いて欲しい。それなりに重要な事で一之瀬とは別方向の対策なはずだから、実にはなると思う」
「ガチャ? 対策? なんだろう?」
「あれに神社の宣伝以外の意味があったんですか夢月さん?」
「予行演習っつっただろ東風谷。ああ言ったんだから、一之瀬や椎名はわかってるだろうに、お前というやつは……はぁ~やれやれ」
「……ぇ? ちょ、私わかってn」
あの東風谷を煽れる精神は羨ましいが、彼女はその言葉に明らかにムッとしていた。
確かに端から見てもイラッとくる左京の態度に、一撃ならずとも入れてはくれないものかと東風谷に願ってしまった。そうすればスカッとすると思うのだが。主に俺が。
「ムッ! 調子に乗ってますね。まだやられ足りないんですか?」
「ははは。平常ならあんなに簡単にいかせるものか。さっきは椎名のおかげでできた隙だったと心するんだな」
「……また何かあるのかぁ。いつものように流されてるけど、今度はなにを言い出すんだろう…はは」
どうやら東風谷と話しつつ、何事もなかったかのように話を進めるようだ。
それはそれとして、いつかのごとく一之瀬が流されて溺れている。振り回される一之瀬は、やはり最高に可愛い。
逃がすつもりはないが、一之瀬の可愛さに免じて今のところは泳がせてもいい気分になった。
俺の風評被害以上に衝撃的な話題など、昨日のアレらくらいなものだ。まだあるとは思えな……。
「それは―――リストラ…退学対策についてだ」
まだあった。
「「「「!」」」」
「それが関係するんですか?」
「やはりそれか。試験をシカトしようとか、月見の時の話とか考えると、そこに行き着くもんな」
「うん。四方の言う通り、この学校のブラックさを考えるに、リストラに相当する退学を強いる何かもある可能性は高いと言わざるを得ない。その対策に、一之瀬はクラス貯金という対策を打ち出していたが、あれだけでは不十分な気がしてる」
「ちょちょちょっと! 不十分って何かそう考える根拠があるんですか!?」
東風谷と四方、それに姫野だけがこの場では動揺していない。
先程までのミーティングでは退屈そうにすら見えていた3人が、真剣な表情を浮かべている。
改めてこいつら…特に左京は視点が全く違うと実感する。優秀さや成績などではないモノで見ている。姫野は少し意外だが、授業のグループ活動でよく左京や東風谷と接していた為、影響されたのか?
一方、左京とそれほどの付き合いがない白波は慌てて根拠を聞いていた。しかし、これが大多数の代弁のようなものだろう。
「根拠か。
今のところ、思いついているのはAクラスへの移動権の額と、洗脳紛いな各試験での説明だ」
「2000万PPが?」
「い、いや! それより洗脳!?」
「まぁ言ってみれば、あれはわざわざ大量の裏金使って『異動』可能な事を周知してるのと、人生経験が少ない高校生に人含めた色々を裏切るように誘導してるわけだから、ブラックな組織なのは確定なんだよ。それもかなり性質が悪い部類のな」
「そうとしか思えない情報の出し方だったもんなぁ」
特別試験に勝つことを考えているのがほとんどの中、こんな考えがどこから来る?
ただ楽がしたいから勝利を諦め、安全を重視した発言だと思っていた。月見での事があってもだ。
唯一同意した四方は、あれからも考えることを止めなかった結果、左京の考えに追いついたのだろうか。
「一之瀬の案を否定するわけじゃないけど、そんな学校が枠内で対策するくらいで防げる程度のぬるいモノを仕掛けてくるとは思えない。PPの額なら最低でも億単位は欲しい。そしてクラス貯金だけでは、3年満額以上で貯めたとしてもそこまでは到達できない。
なら、どうする?」
一之瀬もクラス貯金を言い出した時点では……いや、今に至っても、ここまでは考えていなかっただろう。
もっと漠然とした不安から何か対策を、というのが発端だったはずだ。少なくとも俺はどうする? と聞かれても何も答えられない。
「僕の大雑把な対策はこれだ。
まず起業して『受け皿』を作る。そして自分達でもできるだけ円を稼ぎ…最低限の経済活動をしながら、息子や娘がこの学校にいる権力者や金持ちに接触。心配する親心を持つ者なら、子供の為に何らかの働きかけ…金やそれ以外の支援をしたいと思うはずだ。内情を知れば、という条件付きだがな」
そして学校の外を持ってくる発想。
クラス間の競争すら気にかけず、本気で実現させるという意思。
いつも眠そうな四方が。いつもダウナーな姫野が。いつもつまらなそうな東風谷まで。
左京に乗せられたように、言葉はなくとも……いつになく感情を表に出している。
かくいう俺も、一之瀬や他のクラスメイトも、言葉が出せないまま。なんでもない事を言うように、とんでも話を口にする奇人に乗せられているのかもしれない。
でなければ、興奮している自分に説明がつかない。
それにしても、まさかこんな生徒がいるとは学校も想定外だろう。
「ここで重要なのは、子供を支援したいとは思っても、簡単にはできないこの学校の閉鎖的な制度だ。
だが、今なら学校敷地内に生徒が会社を作り、生徒が所属・運営する場所がある。しかも支援しやすい『とある分野』に特化した会社だぞ? 情報さえ渡せれば、外の味方を増やせる可能性が非常に高い」
とある分野がどこを指すのかはわからないが、口ぶりから既にある程度まで実例などを揃え、段取りを整えているのだろう。左京は確信を滲ませている。
「さて、説明も適当にしてみんなが理解したところでやっと提案だ」
左京はそこで不敵に笑うと、みんなに問いかけてきた。
「特に実家から支援を貰えそうな奴。
―――この話に1枚噛まないか?」
Dクラスで龍園に要求を呑ませた時のように。
一之瀬へ生徒会に入る方法を告げた時のように。
なんでもないように、笑いながらとんでもない提案を出してきた。
その後の左京は「返事はすぐにできない…してもどうしようもないし、この話は頭の隅にでも置いといて」と、通常運転に戻っていた……ような気がする。
俺は、柴田に声をかけられるまで高ぶった精神のまま考え事に没頭していたようで、脳内一之瀬フォルダ以外はぼんやりとしか覚えていないのだ。
見れば、いつの間にか左京はいなくなっており、四方達いつもの単独行動組もおらず、残った者達で何事か話していたようだ。我に返ったとはいえいまだ興奮状態だった俺も、いつになく誰かと話したくなり柴田達に混ざっていた。
つまり、俺が黒幕説を問いただす件を思い出したのは、いい加減興奮も収まった就寝直前である。
…………逃げ切られた。
左京に逃げ切った意識はないかもしれない。
ただ、発想に話の組み方。また振り回されいいようにやられてしまった敗北感は、不思議と不愉快ではなくなっていた。
憤りと困惑はまだ胸で燃えているので、リベンジを諦めるつもりはないが。
『異変』からの伏線回収。
最近、伏線回収や他者視点の話が多くてすいません。
この話はDの奴に確実に聞かれないシチュエーションが最適だと思ってたので、無人島ではこれ系の話が思ったより多くなってしまいました。正直、生徒なら別に聞かれてもよかったんですが、なんとなくこの方が面白くなりそうという私の都合だったり。