ようキャ   作:麿は星

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 無駄な事は書いてないはずなのに、何故かなかなか進まない話。
……中盤は、というかこの話とおそらく次も、必要ではあるんですが、当然のようにあまり進展のない平穏な日常?回です。



60、宝

 

 いい機会なので、2日目夜のミーティングで一之瀬達へ僕の考えた対策を主張しておいた。

 そしたら、それから神崎になんか睨まれている。その前から睨まれてた気もするが、ともかく睨まれているのだ。

 思い当たることは……これまで彼のギャグをスルーしてきたことに対してか、解説役を適当にぶん投げたことか、はたまたBクラスへ最大限貢献できる策を提案しなかったことか。

 

 いずれにせよ、神崎だけならまだ対抗できるので、我慢できなくなれば直接言いに来ればいい。

 完全勝利の策に関しては、四方や一之瀬あたりは気づいて却下してるかもだし、僕自身のデメリットが大きいので譲る気もないが、なにより神崎が勝手にその手を打つことはできないので安心できる。

 

 あとあの場で主張した以外にも、いくつか松雄や青娥さんと仕組んでいたりする。

 バイト先を通して1度だけなら大金でもマネーロンダリングっぽい裏技で…円をPPに変換でき、その逆は常に可能にするなど、とある用件のついでにいくつかだ。

 当然、種銭になるPPもなるべく稼いでおくつもりだ。

 

 ちなみに1度だけなのは、十中八九学校に対策されるからだ。

 そうでなくとも、意外(でもないか?)と裏技に弱いらしい堀北会長が引退したら使えなくなる策も増えるだろう、と鬼龍院先輩から助言をもらっている。

 だから冬までに1度の変換の機会をできるだけ活用すべく、すでに僕の停学直前に鬼龍院先輩と、つい先日高円寺に、松雄や青娥さんを経由して彼女らの両親には打診している。

 あとは綾小路などのブルジョワ階級出身と思しき連中にも打診して、学校へ流し込む総額を可能な限り増やすだけである。

 

 これ以外の計画も全て上手くいけば、学校の経営権にすら干渉できるようになるかもしれない。僕のものではないが、金と権力を用いて政府が口を出す間もなく斬り込むつもりだ。

 そうなったら、絶対にブラック系のアレコレは全て廃止してやる。一之瀬や葛城を説得する状況や言葉も、その時までに準備しておかなければ。

 

 

 

 後から考えると、このような先のことばかりに目を向けすぎて、今を疎かにした。

 

 それが僕が犯した失策の最大の理由だろう。

 また椎名の件のような思わぬ事態はありつつも、トントン拍子に進んでいた油断もあったのかもしれない。

 要するに僕は―――。

 

―――3日目の朝、一之瀬に朝勃ちを目撃された。

 

 終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 無人島生活もそろそろ折り返しにもなると、クラスメイトの大体の生活リズムがわかってくる

 夜にやることがなく早寝早起きをほぼ強制されるので普段とはまた違うのだろうが、そんな中でも一之瀬と東風谷は特に早起きだ。

 二人は5時には目を覚まして動き出していた。

 

 万一の備えの為に、火の番名目で消えている焚き火跡付近で寝起きしていた僕は、半ば寝ぼけたまま顔を洗ったりする二人を見るとはなしに見ていた。

 まだ薄暗い時間ではあったが、珍しい組み合わせだとぼんやり思ったのを覚えている。

 なにせこの後に僕は、思わず体を起こすという失策を犯してしまっていたのだ。

 

 そう。下半身の状態を考えずに、目立つ場所で一之瀬の注意を引くという失策を。

 

 失策の直前の記憶は否応なく残る。寮の自室に戻ったら、ここを起点に転げ回る事になるだろう。

 ともかくこの時の僕は反射的に半身を起こして、二人…一之瀬の方をぼんやり見ていたのだ。

 そして前に聞いていた日課とやらをしに行くのか東風谷が一之瀬と一言交わしていなくなると、一之瀬は当然のように目が合ってしまった僕へ向かってきた。

 しかし繰り返すが間が悪いことに僕はボーッとしていて、自分の状態に気づいていなかった。

 

「おはよ左京君。早いね。もしかして起こしちゃ……あ」

 

 みんなが寝ているからか声を潜めて挨拶してくる一之瀬。

 だが不自然に言葉を途切れさせる彼女を見て、寝ぼけながらも嫌な予感はしていたのだ。

 ここで完全に覚醒していればまだ被害は少なかっただろうに、あろうことか僕は『立ち上がって』普通に挨拶を返してしまった。

 

「ぴ」

「はよ~。一之瀬こそ早いな。んぁ、ふぁ~あ……僕も顔洗ってくるわ~」

 

 いつになく目線を下に集めて絶句している一之瀬を気にせず、その時の僕は寝起きにしては最高な対応だったと考えていた事も救いようがない。

 むしろ戦闘態勢のアレを見せつけるような―――女子高生には最低の対応を、よりにもよって一之瀬にするあたり、単なる油断という言葉では片付けられない。

 

 顔を洗って目が覚め、枕代わりにしていたタオルが自分の最大化したチ○コにぶら下がっている状態に気づいた僕が、orzったのは言うまでもないだろう。

 自分がそうなったことで一之瀬から視線を送られたのはわかっていたが、もの凄く気まずく感じて、僕は収まるまで水場近くで素数を数えていた。

 

 

 

 でもまぁ、まだ相手が一之瀬で、僕が見られた立場だったのは不幸中の幸いだ。

 これでもし一之瀬へラッキースケベ的な事をしていたら、流石に不幸中の不幸な結末になっていたところ。だから気づいた直後は、やっちまったと…全て終わったとすら思ったが、一之瀬がどうも見逃してくれるっぽいと思ったあたりで胸をなでおろした。

 あれから不用意に近づいて来なくなり、露骨に目を逸らされたりはしたが、僕を吊るし上げる気配もなく、煽りにも来ない聖人ムーブは健在である。

 

 考えてみると、一之瀬のスペックなら彼氏の一人や二人はいても不思議ではないし、それなら朝勃ちも目撃する機会があって慣れているのかもしれない。

 また男の生理現象に理解があり、一之瀬に欲情していたわけではないと冷静に判断できていれば、あの態度も納得できる。

 それならそれで、普段のウブさや彼氏本体が影も形も見えない点に疑問が残るが、僕とは付き合いが浅いからわからない、などの屁理屈はひねり出せるのでそこは目を逸らすのである。

 

 ともあれ、もしこれが東風谷だったら、ここぞとばかりに煽り罵り、とにかくマウントを取りに来ていたのは想像に難くない。

 いやアイツの場合、容姿の割には彼氏ができたこともなさそうなくらい処女丸出しだから、逆上してタマを取りに来る可能性もある。命か文字通りかは判断付かないが、あいつの攻撃力で子孫撲滅拳でも放たれようものなら、僕は夢月ちゃんになってしまう。使ってもないのに、流石にそれは嫌だ。

 

 せめて野郎共なら不快には思っても「うん…まぁ、しかたないよな」とか水に流しあえるから問題なかった。だが、普通の女子なら東風谷寄りの対応かカースト最下層に叩き落とされていたかもだし、そう考えると一之瀬はかろうじてマシな相手だったと言えなくもない。

 つまり僕にとって一之瀬は、女子以上男子以下の目撃者ということになり、九死に一生を得たのであるQED。いやっほぅ(錯乱)!

……よし。そういう事にして忘れよう。

 

 

 

 

 

 朝のミーティングで、今日からスポット巡りは最低1日1回に決まった。

 昨日、一之瀬と神崎が代打したことでキツさがわかったのか、僕と四方がダウンしたからか、一之瀬と東風谷が緩和を言い出したのだ。

 早朝と夕方の2回制という案もあったので、これには走破班一同ホッとしたに違いない。

 

 ただ、それ自体は助かっているのだが、相変わらず神崎が見てくる事に加え、一之瀬の不自然な態度を不審に思った一之瀬シンパどもが僕に目をつけ始めている。

 決定打になるようなモノはないのだが、僕を見て顔を赤らめたり、少し離れた場所でウロウロされれば、何かあったと宣伝しているようなものだ。見ようによっては、青春っぽい理由にも見えなくはないのがアレすぎる。

 

……一之瀬って、こういった面ではポンコツなのでは? ボクは訝しんだ。

 

 訝しんでも、これではなにも知らない奴等に勘違いされるのはどうしようもなかっただろう。

 当然の事ながら、僕と一之瀬は勘違いしていないが、かといってチ○コ勃ってるところを見られ見たからです、とみんなに言うわけにもいかない。

 だから、今日はいち早く出発したかった。

 一之瀬から物理的に離れればお互い落ち着けるし、時間が経てばシンパども含めて冷静になれるからだ。

 

 問題はその白波を筆頭にした一之瀬シンパに、柴田と安藤が混ざっていたことである。

 真実を探求するその熱意は凄まじく、また神崎が裏で煽りやがった事もあって、執拗に何があったのかと聞かれ、しかし「何もない」と答え続けるしかなくて出発が遅れに遅れた。

 神崎の野郎、どういうつもりだ。いつもなら抑えに回ってるだろうに、なにもしていない僕にいやに攻撃的だ。神崎は完全な一之瀬シンパというわけでもなさそうなんだが……。

 

 一応、これは長引きそうだと判明した時点で、東風谷と四方には今日のスポット巡りはお前らだけで行ってくれとは言った。

 だが彼らは出発するわけでも、柴田達を止めるでもなく、静観の構えを崩さない。

 四方はともかく、東風谷がハンターのような獲物を探す目になっていたことを考えると、僕を煽れる材料を探っていたのかもしれない。

 

 Bクラス、ろくな奴が居ねぇ。そう思ってしまってもしかたのないことであろう。

 

 ともかくそういうわけで、前日8時だった出発時刻は11時にずれ込んだ。

 しかも柴田と安藤のターゲットを一之瀬に移した隙に抜け出したので、連れは四方と東風谷だけである。

 

 

 

 

 

 ただ朝っぱらから面倒の連続だったが、それでも悪いことばかりでもない。

 スポット巡りを、気心が知れている面子でゆっくり散歩ペースで廻れるのは気持ちが良かった。

 時に実っている果物を食べ、時に「綾小路打倒計画Ⅰ」の相談をし、時に四方から問い詰められ、時に東風谷の勧誘話を聞いたりと、開放感のある時間だ。

 

 これは柴田や一之瀬や安藤など元気な奴がいなかったのが一因だろう。

 基本陰の気質な僕達は、ああした明るい雰囲気が苦手だ。かといって沈んでるのも苦手だが、なんか陽キャからは温かいを通り越して焼き尽くされそうな雰囲気を感じるのである。

 僕は女子、東風谷は男子に、四方は両方に薄く。そう感じている面があった。

 

 ともあれ、東風谷の要望で島西部を流れる川を掠めるルートでゆっくり進んでいると、またしても幸運が僕達……特に東風谷に舞い降りた。

 てか、コイツに舞い降りすぎじゃね? 神様がなんかしてるのか?

 

「早苗さん! 左京君! 四方君!」

 

 ともかく幸運の正体は佐倉である。

 男がやればキモッ! と言われるだろうあからさまに偶然の出会いを誘発させるルート構築だが、東風谷の発案なので問題ない。かなりの部分佐倉任せではあっても、これなら気づいてくれさえすれば問題少なく佐倉と会える可能性が高かった。

 何度か佐倉と会えて当初の心配が落ち着いてきた東風谷も嬉しそうでなによりだ。

 しかし今日に限っては―――。

 

「佐倉っ!! おお、我が友! 天文部の癒やし枠よ! 会いたかったぞ!!」

 

 僕の方が嬉しいに決まっている。

 東風谷を出し抜いて真っ先に佐倉に駆け寄った。

 勿論、東風谷を振り返って「ふふん♪」と鼻で笑い、無駄な屈伸煽りも忘れない。きゃつの顔が悔しげに歪むのを見るのもまた心が洗われる気分である。

 嗚呼、疲れが溶けていくようだ。

 

「い、癒やし枠!?」

「なにを驚く? あのガチャ○ンとム○クが意外と…でもないか? ともかくあいつらが毒舌コンビだということは、佐倉も知っているだろう? それがここのところ妙に突っかかってくるもんだから、僕は癒やしを求めていたんだよ!」

「突っかかる?」

 

 何故か驚いている佐倉に、どこぞの猫型ロボットにすがりつく小学生の如く癒やしを求める。それを得る為ならば、僕は卑劣にチクることも辞さない。

 荒んだ生活をしている時に、多量のマイナスイオンを放出していると推定される佐倉のそばにいるとやはり落ち着くのだ。故にやめられない、止まらない、手放せない。

 僕が女子だったら、暑さを度外視してでも抱きついていたところだ。

 

「誰がガチ○ピンとムッ○ですか!

 あれは、勝ち越したまま逃げようとする夢月さんのせいですよ!」

「勝ち……? 東風谷に?」

「いや、俺はあれじゃあ一之瀬と神崎が流石に大変そうだと言っただけで」

「僕がいつ東風谷と勝負して何勝何敗だというんだ。

 四方もだ。僕は一之瀬や神崎になにもしてないだろう。言いがかりはいい加減にしてくれ。

 な? 佐倉。最近こんな調子なんだよ」

「3勝3敗2分けですよ。ちなみに昨日まで私だけ2勝でした」

「なにもしてないってお前……。本気…で思ってそうだな……はぁ」

 

 ふっふっふ。四方に東風谷、語るに落ちたり。

 暗に突っかかっていると認めてしまったな。

 これで佐倉がいる限り、一之瀬や神崎がどうとかいう愚痴?や、勧誘・煽りはし難くなった。

 なぜなら、これはほとんど佐倉を話の外に置く内容だからだ。

 佐倉の意外と寂しがり屋で内弁慶な性格上、軽く両方に触れて流そうとするだろう。そしてそれを四方も東風谷も綾小路も遮れない。

 特にタイムリーな一之瀬の話題は胸にクルので、この展開を待っていた。

 

「ああそういう……。

 左京君。早苗さんはともかく、四方君や周りを振り回すのも程々にね? わ……わたしを頼ってくれるのは……その、嬉しいけど」

 

 思惑通りの話の運びをほくそ笑んでいると、それすらも吹き飛ばす好条件を佐倉は提示してくれた。

 当然、僕は厚かましさを自覚した上で、即座に先の約束を取り付ける。

 

「マジで!? じゃあ遠慮なく頼るよ!

 四方達を言いくるめるから、島にいる間は毎日来てもいいか? 今日みたいに昼頃に時間は固定するからさ」

「―――っ! た、たよ…………う、ん…いいよ」

「いよっしゃーーー!!! 心の安定的にメッチャ助かる!

 それに色々あったのに、許してくれたことも。佐倉。ありがとな」

「……あ…ぁう」

 

 佐倉は途切れ途切れながら承諾してくれた。

 ボーッとして何か話そうとしていたようにも見えたが、聞いてないこともなさそうなので流石は癒やし枠の面目躍如といったところだろう。

 正直、月見の場では周りに流されていて、後から避けられたりされたら絶対に落ち込んでいたと思う。内心かなりそれを心配していたのだ。

 だから会う約束も嬉しいが、それより普段通りに接してくれたことに対して僕は礼を言った。

 

「愛里さん、夢月さんをあまり甘やかさないでください。言いくるめられるまでもなく私も会いたいですが、無理しなくてもいいですからね?」

「だ…大丈夫だよ。無理とかじゃなくて、友達とこんな風に過ごせる機会なんて学校じゃあんまりないから―――だから」

 

 それにしても東風谷の余計な一言もスルーしてくれたし、頼みも聞いてくれた。

 借りも極大だが、相互で友達同士だと思っていた事がなにより嬉しい。

 四方もだろうが、特に僕や東風谷みたいな奴にとって信じられる友達は最高の宝である。

 

「わたしもずっとこうしていたい―――」

「愛里さん……ほんっとうに良い娘!!! 大好きです!」

 

 東風谷に完全同意である。ついでに女子同士だから抱きつけるのが羨ましいまである。

 だから、こんな事を言ってくれる友達を裏切るようなことはあり得ないだろう。

 僕は見守るかのような立ち位置にいた四方と目線を交わし、もしも助けになれることがあれば駆けつけることを改めて決意し合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………オレもいたんだけどな」

 

 何気に佐倉と一緒に最初から居たのに、終始居ない子扱いだった綾小路が呟いたどこか悲しげな言葉は、当然のように風へと溶けて消えていった。

 

 





 神崎の黒幕説。
 元々、左京が神崎に意図していたのは解説役だったりします。
 ただ冗談めかして柴田や安藤にフィクサー云々と言ったら、左京に裏で動く印象がなく、また表向き正面突破の実績しかなかったので半分本気に取られて、予想以上の効果を発揮しました。

 そしてさり気なく内心だけで完全スルーで没になる(私が考える)完璧な勝利√。ここまでの伏線いくつかをおじゃんにするダイスの神様は、やはり4番目の結末がご所望なのだろうか?
 だけどそんな数は見てないけど、D以外の完全勝利は二次創作ならそこそこあるだろうし、左京も勝利にこだわる性格ではないからまぁいいか。
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