今更ですが。
地の文にある“”の括りは本人が自覚していない他人に刺さる事柄で、『』の括弧は自覚している重要っぽい事柄です。
無人島生活の4日目は前日のような醜態は晒すまいと、この日は誰よりも早く起きた東風谷が去るのを待ってから、顔を洗って今日も今日とて猛っているチ○コを収めようと、僕は奮闘していた。
勿論、東風谷だけではなく一之瀬にも注意していたが、流石に連日ポンコツさを発揮する事はないだろう……と思っていたのだが―――。
しかし―――嗚呼。神よ。何故に我らBクラスの聖女は、こういう事に関して学習能力が働かないのか。
早く収めようと何度も顔に水を被っている僕に、わざとやってんじゃねえの、ってくらいに話しかけてくる懲りない一之瀬。体が勝手にビクッと動いた後、振り向く前に速やかに無言で中腰になる僕。それを見て事態を悟る一之瀬。
前日と似て非なるパターンがこうして構築された。
「お、おはよう」
「……はよ」
「そ…の、ごめんね」
しかし今日は僕が最初から覚醒している。
外したら状況が悪化するとわかっていたが、それでもこのポンコツ委員長には釘を刺しておくことにした。
「次も学習しなかったら、嫌って言ってもこの状態でクレ○んのゾウさん芸を見せつけてやるから」
ただこれを本当にやることになったら社会的な死を迎える確率大である為、ちょっとドキドキして迂遠になりすぎたかもしれない。
わかっているのかいないのか、なんかもういっそエロいとさえ感じる呟きを一之瀬は返してきた。
「ゾウさん……」
しかもその言葉に振り返ると、中腰になったことで一之瀬の乳が目の前にくる凶悪コンボだ。
そのせいで一之瀬を見ていると、いつまでもチ○コが収まらない。高1なのに、体つきが佐倉と同等に超高校級なので、とても子供とは思えないのである。ちょっと凝視した後、思わず首を痛める勢いで再度反転させてしまった。
それを我が手にできる事はないとわかっていても、万乳引力は健在なのだ。その気がなくとも、代償は支払わなくてはならない。
だから、一之瀬のマジボケとか本気でやめてほしい。
背中を向けて丸めて中腰のまま立ち位置をズラした僕を尻目に、顔を洗い始めた一之瀬の付近で因数分解をした早朝。
一之瀬から漂ってくる何とも言えない視線や雰囲気を努めて無視しながら、2日連続で九死に一生を得た自分の間の悪さを呪った。
当然のことながら、次の日から収まるまで寝たふりをしようと僕は固く決意した。
もっと早く思い至れ。そうしたツッコミは黙殺する。
佐倉と約束したことで今日からはまずノルマ分のスポットを巡った後、会いに行く事にした。
少しでも面倒を減らす為と、未だ真実の追求に余念がない柴田と安藤を佐倉と会わせるのはどうかと思ったのだ。
だからノルマをこなした後、まず僕が密かに抜け出し、東風谷と四方がそれを追いかける、という体の段取りを組んだ。例によって、誰にも何も言ってないがなんとかなるだろう。
―――結論から言えば、なんともならなかった。
いつまで経っても、四方も東風谷も追いついてこない。
でもよく考えると、一緒じゃなくても別に困らない気がしてきた。無人島生活では抜け出さない限りはなかなか一人行動ができないので、たまには一人で過ごすのも悪くない。
それに四方はともかく、東風谷なら佐倉に会いに行ってるだろうし、のんびり行ってさり気なく合流すれば自然に混ざれるはずだ。昨日の綾小路みたく、最初から僕も居た感じに。
そうと決まれば、ぼちぼち行こう。
Dクラスの拠点らへんを彷徨いていれば、なんかいい感じの機会が巡ってくるかもしれない。運を天に任せるのだ。
そうして島を散策して生っている木の実などを食べながら一人の時間を満喫していると、騒々しい声が響いてきた。
「ぎゃあああああああああ!! 目がっ……目がぁ!」
ただ知らない野郎の声であるのは明白なので、僕には関係ないだろう。
なのでそのままスルーしようかと一瞬思ったが、近くに来ているだろう東風谷の仕業である可能性が頭をよぎり、念の為に野次馬っておくことにする。
まぁ、東風谷が下手人ならあんな声は上げさせないだろうが。
声がしている方へ向かうと、目を抑えながらごろごろ転がっている男がいた。
重度の中二病患者だろうか? それとも某大佐の物真似だろうか?
なんか面白そうな事になっている。
奇遇にも近くに佐倉と黒髪の女子も居たので、事情を聞いてみよう。
「あなたは……」
「さ、左京君?」
「よっ。佐倉…とあんたははじめまして。僕は左京という」
「はじめまして?」
ん? とりあえず佐倉は置いとくとして、もう片方の彼女のこれはどこかで僕と会った事がある反応……か?
僕が知らないけど、相手が僕を知っているというと心当たりもなくはない。見覚えがある気もするし、推測のまま決め打ちしても大丈夫だろう。
「いや待て。君は確か噂の」
「あら。何度か会ってはいるけど、私の名前も知っていたのかしら?」
「勿論知っているさ。坂柳さんだろう?」
「誰!? 私は堀北よ! とことん無礼極まりない男!」
「堀北?
……あ、そっちか。すまん。タイムリーだったもんでつい」
昨日、戸塚達から何度か聞かされたので、てっきりこっちかと勘違いしたようだ。
2択を外してしまうとは恥ずかしい。
その上、よく考えれば佐倉の近くにいるんだから、Aクラスだろう坂柳である可能性は相当低かった。決め打ちするなら、会長の妹の方が妥当な選択だった。
でも、会長の妹が前触れもなくいきなり出てくるとか想定外にもほどがある。誰か僕に教えておいてくれよ。なんか無駄に怒らせちゃったじゃん。
おかげで佐倉がいるとはいえ、話し難い雰囲気になってしまった。
「なんだ! 何があった!?」
「愛里さん!? 大丈夫ですか!」
と思っていたら、綾小路と櫛田、ショートカットの女子が駆け込んできて、僅かに遅れて迷子だった東風谷と四方まで登場した。やはりこっちに来ていたようだ。
それに対し、黒髪の女子改め堀北さんはため息交じりに零していた。
「はぁ。続々と……。騒がしいことになりそうね」
よくわからないが同感である。
場が混沌としてくるほど輝く人がいる。
上手く状況をまとめるとかじゃなく、目を輝かせて全身から面白そう! という雰囲気を放ち始める奴がいるのだ。
大抵こういう奴は2面性を持つのであからさまではないが、それなりに知っている身からすると一目瞭然だ。
当然、これは櫛田のことである。
それでも、そんな内心で高笑いしてそうな櫛田が一応は場を鎮静して堀北さんに聞き込みしたところ、少しずつ事実が判明してきた。判明した事実を整理していくと、2組に別れて食い物を集めていたところ転がっている男(山内というらしい)が、佐倉と堀北さんの近くに突撃?してきたようだ。
どちらが狙いかはわからないながらも、真っ先に不審に気づいた佐倉が僕の隠し持たせていた痴漢撃退スプレーを山内に吹き付けた…という結果があの悲鳴らしい。
お茶を密輸する時に、佐倉にも同じように持ち込んどけとメールしておいたのが、ギリギリ間に合ったのだ。勿論、この件は初日に確認済みである。
……真相は全然面白くなかった。
「愛里さんに危害を加えようとするなど―――下劣がっ!!!」
「ひぃいいい!」
「うわあああっ! ダメ! ダメだから! ちょ、止まって早苗! これ以上はオーバーキルだから!」
「東風谷! 止まれっ!! 佐倉は無事だったんだし冷静になれ! 左京もなにボーッと見てるんだ!? 止めるのを手伝ってくれ!」
「なんて力だ……!」
状況を把握するや、いまだ痴漢撃退スプレーによる涙が止まらない山内に更なる追撃を加えようとする東風谷。
涙でぐしゃぐしゃだからほとんど視界もないだろうに、あまりの怒気に怯えて尻もちをついたまま後ずさる山内。
引き摺られながらも、東風谷を止めようとする櫛田・四方・綾小路。
ポカンとしている佐倉と堀北さん、とショートカットの女子。
控え目に表現して大混乱である。
「ふむ。東風谷、僕の分はアッパーで頼む。一応、紛らわしい動きをしただけの可能性もあるから、再起不能にならない程度の手加減はしてやってな」
「左京は焚きつけるな! 話を聞いてからでも遅くは」
「了解です!! 夢月さんは愛里さんをお願いします!」
「うーい」
「言ってる場合か! 冷静に見えて、もしかして左京も怒ってるのか!?」
「あ、それくらいならまぁ」
「櫛田ちゃん!?」
四方に怒ってるか聞かれたが、当然怒っている。
我が部の癒やし枠に手を出した以上、あいつ『も』無事には済まさない。
昨日の今日で何か起こるとは流石に想定していなかったが、もし自衛の対策を打っていなければ、どんな事になっていたのか想像もしたくない。
ゆえに、今回の僕はただ乗り遅れただけである。
だから東風谷がメインを担当するなら、僕は支援に回る。
だいたいこの佐倉が止めようとしてない時点で、山内とやらに何らかの非があるのは明白なのだ。櫛田もそれに思い至ったのか、何気に止める手を緩めていたので間違いない。
なら、やりすぎにだけ注意して見ておけばいい。
その後、予定調和に追い詰めた東風谷が止めようとする3人を振りほどき―――綾小路だけは東風谷の右腕を抑え込めていたが―――つま先で山内を蹴り上げたところまでは見た。
綺麗な放物線を描き、意識を飛ばす山内。
それも山内の股間の染みが大きくなったあたりで東風谷が飛び退いたので、もう見る意味はなくなった。
恐怖を刻み込むならこの程度で充分だろう。
ちなみに東風谷は振りほどく時、櫛田と四方には配慮して緩く離したが、綾小路にはノー配慮だったらしい。
それどころか、あわよくば山内のあのモアモアと湯気を立てる汚れた股間に向かって投げ込もうとしていたと、途中で慌てて自ら手を放した綾小路が恐怖しながら言っていた。
……やはり東風谷は邪悪な存在なのでは? 綾小路が恐怖するって相当だぞ。僕でもそこまでしない。
「さて皆さん、ここであったことは他言無用ということで一つお願いしますね?」
一人だけものすごくスッキリした顔で、東風谷がいけしゃあしゃあと宣う。
納得いかない部分もあるが、こうなった以上はフォローしておくべきだろう。
それに『あっち』は僕が対処しておかないと、次があるかもしれない。
「貴女、何を言っているかわかっているの!? また暴力沙汰を起こしておいて」
「あー、堀北さん。東風谷がやらなかった場合、今後の堀北さんに何らかの被害が出ていた可能性も考えると、ここは山内とやらを言いくるめて無かった事にするのがお互いにとっていいんじゃないか?」
「言いくるめる…って左京君がやるの?」
櫛田に聞かれたが、そんなわけがない。
というか、山内に関してはもうそれほど重要じゃないからどうでもいい。あれだけ色々刻み込まれたんだし、この試験中はとある条件下以外では再犯することもないだろう。
僕の狙いは、本当の問題に無理矢理シフトすることである。
「いや僕はあいつの事を知らないから。
だから、詐欺師としてもやっていけそうな綾小路にやらせれば万事解決だ」
「詐欺師……ぷっ、たしかに綾小路君の天職かも」
「おいっ! 人聞き悪い事を言うな! 櫛田もだ!」
「大丈夫だ。綾小路なら洗脳もマインドコントロールも軽いもんだろ? あいつは今ちょうど寝てるし、拠点に引き摺って行きつつ記憶を消してやれ。山内にとっても忘れた方が幸せだろう」
「さも当然のようにオレが非人道的みたいな認識を広めるな! てか、そんな事ができるか!」
これが嘘でなければ、山内を誘導した方法は洗脳とかじゃなさそうだ。ま、この島の環境でそれができる時間や状況はないだろうが。
つーか、もうまどろっこしい。ほぼ直球でなんでこんな事をしたのか聞くことにした。
「あっれ~? 僕の聞く限り、山内って奴の動きが不自然な気がするから、てっきり綾小「夢月っ!!!」おわっ!?」
「夢月さん!」
「綾小路君!?」
「……あ、あーっと、ちょっと綾小路と話してくるわ~。そっちは頼む~」
話してる途中だというのに、いきなり綾小路に名前を呼ばれて引っ張られた。
そのまま少し離れた場所まで連れ込まれる。
ならばと、あっちは東風谷と四方、こっちは僕。適材適所ってことで、櫛田と堀北さんの相手は相棒達に任せる。
綺麗に対処できれば残り日数は佐倉への心配が粗方なくなるので、災い転じて福となすことにしようか。
しかし、この反応。やっぱり綾小路がなんかやったな。
わざと強めの疑惑を口に出しただけで僕を引っ張るなら多分口車に乗せたとかなんだろうが、佐倉に被害が出そうだったことにだけは釘を刺しておきたい。
東風谷ほどではなくとも、僕も怒ってはいるのだ。
一応少し離れたところに四方達は見えるが、平常の声はおそらく届かない距離まで引っ張られてきた。
「左京。お前の予想は?」
そして前フリもない端的な質問。
これまで何度か感じた威圧感を漂わせながら、僕を見る綾小路。
いつもなら戸惑ったり怖がったりするところだが、自ら疑惑を確信に近づけた間抜けだと思い込めば何ということはない。実は内心かなりビビってるが。
「山内を誘導して佐倉……じゃないな。堀北さんの方か。堀北さんになんかしようとしたんじゃないか?」
「……何故そう考えた?」
「僕は不自然な奴が自然な事したら、その場にいる関係が薄そうな箇所に注目する癖があるんだよ」
「不自然な奴が自然な事……?」
相変わらず綾小路は読みにくいが、雰囲気から察することくらいは僕でもできる。その目からは佐倉ではなく、堀北さんが標的だったことだけは読み取れた。
まずは、そこから糸を繋げて目的を逆算して絞り込んでみる。
「櫛田や掘北さんが山内の行動自体には疑問を持っていなかったっぽいから、多分山内は普段から不自然な…というか常識的でない奴なんじゃないかと思う。
これが意味するのは……例えば、綾小路がやれば不自然でも、山内なら「あいつだしな」みたいに流すようなこともできるんじゃないか?」
「そうだな。山内はそう見られている事が多い」
その為にありえそうな事を並べてみた。
すると小さく反応をする箇所がある。堀北、常識あたりだ。
試しに変化を付けた上で、飛躍させた推測を突っ込んで綾小路に聞いてみると、表情こそいつもと変わらないが雰囲気でクロだと直感できる返し。
外していたらタコだが、この流れで外れはない。
ブラフや誘導の可能性もまだ残っていたが、ここで僕は一気に斬り込んだ。
「つまり綾小路には、山内を利用してでも達成したい『何か』があったはずだ。堀北さんに…あるいは佐倉に多少被害が出ようと、綾小路の“役に立つ”情報や工作が。
あー、候補は絞りきれないが色々あるな」
「……」
実際、馬鹿な行動を日常的にしてる奴を利用するのは、会社でも稀にある。
利用される本人の自業自得や思慮のなさも理由には含まれるが、そういう奴をあの場で一番利用しそうで知っている奴が綾小路だ。
それに加え、コイツの怪しい動きはいくつか思い当たる。
「もう一つ。
月見の場で僕が言った外部接触禁止の廃止。これがみんなの間では、いつの間にか緩和になっていた事がある。僕と四方、東風谷と佐倉以外に、だが」
「それは」
「こちらも証拠はないけど、やれた奴と動機なら思い当たる奴がいる。
うん。あの時に珍しく色んな奴と話しに行っていて、以前に「外部接触禁止を使える」と言っていた綾小路だ」
「……仮にそれらをオレがやったとして」
この件にも綾小路が関わっている可能性がある。
合わせて考えれば、ますます綾小路が黒くなっていく。
さっきまでが8割黒だとすると、今では9割超えでほぼ確黒だ。
ただ、それはともかく意外ではある。
「肯定するのか……」
「仮にと言ったはずだが」
「どうだろうと、これをお前が肯定するのは悪手なんだ。少なくとも僕は、これでDクラスの『策士』が綾小路だと確信してしまった。確証はないんだし、お前がすっとぼけていれば、確信までは至れなかったんだ」
「策士? 何のことだ?」
この察してるのにとぼける演技を最初からしていれば、僕もスルーするしかなくてお互い面倒も少なかった。
なのに、相変わらず謎な言動の多い綾小路は、変なところで悪手を打ったのだ。四方との将棋でもそうだったが、むしろわざと自分を怪しんでほしがっているようにすら見える。
平穏とか自由とか口にする癖に、不思議な男である。
「中間テスト。
あれの裏で動いていたのもお前だろ? 何故・何の為に動いたかはわからないが、結果が不自然だったから候補は僕基準でお前と高円寺に絞られる。理由は言わなくてもわかるな? お前らが突出して不自然な奴らだからだ。
でも高円寺は絶対に違う。あいつが動く時は、表裏なく正面から一気に片付ける。また遊びで動くことはあっても、集団に作用する手は使わない。それはあいつの美学に沿わない」
これで3つ目。
2つまでなら偶然でも、3つが重なるのは必然だ。
その最後のひと押しになる肯定を綾小路はしたのだ。
「……はは。左京の中ではオレもあの枠か」
「消去法でDクラスの策士候補は、綾小路が単独トップになる。一応、次点で平田もいるが、話した限り櫛田よりも可能性は低い」
「確かにそう考えると、オレが策士である確率が高いな。そんなつもりはなかったが」
だって間違って敵対されないよう意図していくつかの過程や言葉を抜いても、裏まで完璧に理解されている確信がある。
その上で、言葉少なに嘘や誘導までさり気なく仕掛けてくる余裕を見せる綾小路。
コイツとの舌戦?は惑わされないようにしないと、東風谷とは違う意味で押し切られる。それ以前に、天才相手に経験値だけで対抗するのは凡人の僕には本来かなりキツイ。
それほど慎重で頭が回る奴なのに尻尾を見せたのだ。意外すぎる。
一方、対抗する為に必死に頭と口を回す僕をよそに、途中から綾小路はどこか楽しげだった。
昨日のバーベキューでもそうだったが、綾小路には自分を倒せる可能性……のようなモノを見せると楽しげになる傾向がある。
ビーチで笑わせる時はその傾向を利用したが―――あ、コイツもしかして、ドMか?
こっそり思ってしまった心の声は置いといて、これまでに考えていた繋がりをぶちまけておく。これでどうなるわけでもないけども。
「だから最近の僕は、起こった事にドエm…綾小路「―――ちょっと待て。今、何を言いかけた?」を何かと繋げていた。大抵繋がらなかったけど、今回は繋がってしまった。しかも綾小路が暗に認める形で」
危うく口を滑らせるところだった。
だが、ツッコまれても何事もなかったかのように振る舞っていると、少し考えた綾小路は諦めて話を戻してくれた。
そうそう。一応真面目っぽい話なんだから、巫山戯るのは良くない。
「…………流石に少し雑すぎたか。それでそれを知った左京はどうしたいんだ?」
「え、どうもしないけど?」
ただ予想を聞かれたから答えたけど、特に希望とかはない。真面目っぽいだけの雑談のつもりだった。
というか、むしろこんな情報で何ができるっていうんだ?
あ、でも佐倉の守りには使えるか?
「しいて言えば、次からあんまり佐倉を巻き込まないでねってのと、できる時は守ってやってね。って頼むくらいだ」
「は? いやいや。ここまで推理しておいてそれだけか? 普通、オレに何か要求を呑ませるとか脅すとかあるだろ? そうじゃなくとも、これじゃただオレに逃げられるだけになるぞ?」
しかし正直に軽い頼み事をすると、綾小路は僕の前では二度目のポカンとした顔になった。
そして戸惑いながらも、えらく物騒な例えを提示してくる。わけがわからない。僕にそうしてほしいのだろうか?
上昇を続けていた綾小路の認識が、一之瀬と同格のベスト・オブ変人に登り詰めた瞬間である。
「どんな普通だ。高校生の癖にそんなこと言うから、綾小路は常識もモラルもないって思われるんだよ。それとも似たようなことをこれまでに誰かにやられでもしたのか?」
「…………や…ゃ柱に」
「あー?」
「いや、なんでもない。それより、ならなんでオレとこんな話を……?」
「自分で僕に予想を聞いといて、なに言ってんだ? だから逃げるとかも意味ないし、色々算段つけた上で言ってるだろうに」
「……そうだった」
なんだ? ボケスイッチでも入ってしまったのか? それか電池切れとかか?
右斜45度のチョップでも入れるか、コーヒーでも飲ませるべきかと少し考え、そこでようやく当初の目的を思い出した。
話に集中し過ぎてて、大事な事を失念するところだった。
それに思い至ったことで、即座にしゃがみこむ僕。
突然の行動だった為か、どうしたのかと不思議そうに近づいてきた綾小路へ向かって、僕は足と拳に力を溜めてそのまま全開放した。
「―――がっ?」
僕のカエルアッパーが綾小路の顎……じゃなくて右肩に突き刺さる。
躱されたとかでなく普通に狙ったのに外した。しかも綾小路が避ける価値すら生み出せなかったようだ。
曲がりなりにも不意打ちだったというのに、綾小路の戸惑ったような「がっ?」が僕の非力さを物語っている。特に一撃を食らわせたのに、疑問符付きだったことには僕もダメージを負った。
まぁ、お互い東風谷にやられるよりはだいぶマシだったということで片付けておこう。
「い、いきなりなんだ?」
「これで今回佐倉に危険が及んだ可能性についてはチャラにしてやる。
さっきの予想はどうでもいいが、これに少しでも負い目に感じるなら、これからはできるだけ佐倉を手助けしてやってくれよ?」
「それは了解したが…………どうでもいい、か」
これでこっちはとりあえず決着だ。
結局、実際の被害は山内という男子だけだったし、落とし前としてはこれくらいが妥当だろう。
それに言うだけ言ったし、これ以上長引かせるのは好みじゃない。
佐倉が何か言い出さない限り、水に流してしまうのが一番気楽な選択だ。
感触や反応からして痛くもなかっただろう一撃が当たった箇所を撫でている綾小路を促し、僕達は改めて四方達に合流することにした。
合流するやいなや、何故か東風谷からいつも佐倉にしてるような感じで抱きつかれた。
役得とか柔らかいとか以前に背骨を折られる危険を感じた。勿論、痛み付きだ。その冗談抜きで死すら予感させる抱擁は、僕にアインズ様にやられる寸前のクレマンティーヌを想起とさせた。
零れ落ちてくる言葉から察するに、どうやらカエルアッパーを見られていたのも一因のようだが、東風谷の行動原理は綾小路とは違う意味で意味不明だ。その結論や行動に至った過程が全くわからない。
ただ四方や綾小路は驚いていたようだったが、佐倉だけはそうでもなかったあたり、女子にしかわからない何かがあったのかもしれない。
それにしても―――なんとも色気のないハグだった。
これがせめて佐倉や櫛田で、ぱふぱふ付きだったらと思わざるをえない。
てか、サバ折りする勢いで痛みを生じるハグはハグと認めたくない。
痛みのあまり無我夢中で東風谷の乳を鷲掴んで驚いた隙に脱出したら、僕が綾小路に入れた数倍の威力と思われるアッパーが返ってきたことも大幅減点だ。もう少し可愛げのある反応をしてほしいものである。
……いやまぁ、色気があったら今の状況だと色々ヤバかったかもだから、かえって助かったと言えなくもないが。
なんにしろ、これで綾小路が再度佐倉を巻き添えにするような事はしないだろう。
総じてほぼ雑談してただけだけど、怒りも解消でき、佐倉の守りも強化できたしで、災い転じて福となせたんじゃなかろうか?
このイベント、原作だとこの日じゃないんですが、こっそり入れ替えてあります。下着泥棒事件の後だと、マジで山内が洒落にならなくなるので。
まぁ、彼が酷い目に遭う事に代わりはなかったんですけども。
あと描写するかわからないですが、地味に堀北などに対する綾小路の手も原作と違う点があります。それに伴い、結果は似た感じになるよう調整していますが、日時やイベントもいくつかいじってあったり。
ちなみに余談ですが、完全勝利√ではここから分岐する予定でした。実は無人島のターニングポイントになるかもだった話ですね。