ようやくここ数話とかなり前の一之瀬絡みの伏線一部回収です。
これまでコレ系を変なブッコミだと思っていた方、すいません。
私にはこれしか繋げ方を思いつきませんでした。
前の人生、とある政治家と話をする機会があった。
彼が言うには、政治家の仕事というものは1対1の物々交換。等価交換ではなく、物々交換だという。
これは、自分にとって最小限の価値の物を渡し、貰うものは最大限にすること。
簡単に言えば、わらしべ長者のような事を故意にやって、リアリストの論理を常に考え、自分の力を蓄えるのが良い政治家らしい。
つまり民衆の事を考えるとかの綺麗事を実行するには、まず自分が力を持ってからということだ。政治などの大きな改革、または多くの人々を巻き込むには、それだけ自分から渡す『モノ』が必要になるから、ともかくまずは渡せるモノを集めましょう、と。
それを考慮に入れた上で、昨日綾小路と話してまた少し盤面が広がり、核心に近づいたと思えたことがある。
おそらく綾小路の根底は、この考えに近いものをベースにしている。
友達との雑談で要求だの脅迫だの言ってくるのは、渡すものがあるのが当たり前……というかその考え方が染み付いているからだ。
偏見かもしれないが、こういうタイプはとにかく最後に勝っていればいいさ、みたいな徳川家康や劉邦タイプっぽくて重要局面は特に手段を選ばないイメージがある。だから愚者と判断した存在にさえ、時に利益はなくとも必要があれば手を差し伸べるように『見えること』もするかもしれない。短期的に見た場合だと善良にも悪辣にも見えはすると思われるが、これは綾小路の印象にピッタリとハマる。
もちろん到底年齢にそぐわず高校生離れどころか常人離れしたある意味完成された精神性ではある。ただ、天才という存在はそんなものなのかもしれない。
しかしこれを考えるに、なんでもいいから一度でも心から負けたと思わせないと綾小路の視界に入れず、道具や駒としか見られない可能性がある。山内とどういう関係だったかは知らないが、彼を利用した事を指摘しても、綾小路から罪悪感や躊躇いといったものを感じないレベルの底知れなさなのだ。
おそらく、友達といえども例外にはならないだろう。
こういうタイプは能力のバラつきはあっても官僚畑などに多く、他人を駒や数字など『人間』以外として見る奴がほとんどだ。情を排して淡々と彼の最善策を打ってくるに違いない。前の経験がそう教えてくれる。
だからまずこの考えを折らない限り、あいつはそのやり方を繰り返す事に躊躇いすら持たない。綾小路に失敗や敗北という結果を学ばせるのは急務である。
つまり彼の持つ強固な価値観に異物を混入させる必要がある。
始末が悪い事に、四方など天才の力を極力借りずにだ。これは能力だの実力だので、ただ勝つのでは意味がないからだ。
勿論、難しいを通り越して至難なのはわかっている。
僕が綾小路と同等以上に手段を選ばない策を重ねても、スペック差もあって勝率5割を超えることはないだろう。まともな手段に限れば1割いけば御の字。その勝率で『綾小路が』勝利を確信する勝負をひっくり返す必要がある。
―――あいつのインチキスペックいい加減にしろ!
とか言いたくなる片鱗を見せ続ける奴に、ただでさえ低い勝率を更に下げる真似をするとか自分の正気を疑いたくなる。
だがキャットルーキーの事を除いても、折角縁があった面白い友達なんだから、できる限りのことはしたい。友達と思ってる奴から、利用できるかと値踏みされ続けるとか冗談じゃない。
なにより、そんな後々ギスギスしそうな関係なんて御免被る。もう割り切りのできる分岐点はとうに過ぎているのだ。この際、綾小路がどう考えているかなど無視である。
だから矜持にも美学にも沿った手札を切る機会を待つのが、友達を諦めない最善手だと信じて進む。
僕は密かに計画を練り直す決意をした。
ふむ。
こうした真面目っぽい思考はなかなか効果的だ。
猛っていた息子も意気消沈している。
その為、今日は完全に回復したのか早起きだった四方やいつも早い東風谷とも普通に挨拶を交わす事ができた。
疑似賢者モード作戦は上手くいったようである。
尤も昨日や一昨日は、起き抜けからエロい身体の一之瀬の難易度が高すぎた面もあっただろう。共同生活する朝方だけでも、脳内モザイクの導入が待たれるところだ。一之瀬は色々エロすぎる。
「昨日みたいに勝手に居なくなるなよ、左京」
「私すら気づかないうちにフッと消えてましたからね。しかも2度も」
「悪かったよ。1度目はともかく、2度目はなんか面倒に巻き込まれそうな気がしてな」
それに比べ、四方や東風谷と接する安定感よ。
ただ昨日、東風谷の死の抱擁から脱した後、堀北さんと知らないショート女子に睨まれ、つい綾小路をデコイに隙を作って逃げ出してしまってから、延々と責められているのが難点だ。そのまま夕方に帰還するまで一人で過ごしたのだが、拠点に戻ると珍しく…というか初めて四方に説教され、いまだに監視の目が解かれていない。
ああ。佐倉が痴漢撃退スプレーを使った件については、堀北さんが弁護に回ってくれたのもあり問題なかったらしい。東風谷のものも佐倉と櫛田が上手く収めてくれたようだ。
唯一、山内だけはあのまま放置された。誰も小便を漏らした男に触りたがらなくて、彼をノせた綾小路すらスルーして帰ってしまったと聞いた。きっと川とかでカモフラージュを施して、自分で戻ったのだろう。人は涙の数だけ強くなるとどこかで聞いたこともあるし、好きなだけ泣いて強くなるといい(適当)。
これにて一件落着である。
「聞いてるのか?」
しかし一件落着して日を跨いだというのに、それでも四方のロックオンが外れない。
仕方ないので、話を進める風を装ってさり気なく打ち切る。
「聞いてる。僕が消える対策に、点呼前にさっさとスポット巡りのノルマをこなそう、ってことだろ? そろそろ起き出してくる奴が増える時間だし、行くなら早く行こうか。今すぐ行けば8時までには戻れるだろ」
「……こうしてみると、聞いてないようで聞いてるとか始末が悪いな。俺が言えた義理もないが」
「二三矢さんも時々そう言われてますもんね」
「これからは俺も気をつけよう」
「人の振り見て我が振り直せって言うもんな」
「…………左京が言うなよ」
まぁこの程度、数々の説教地獄を乗り越えてきた僕の経験値からすれば、ぬるま湯のようなものだ。まして本来説教など柄ではない四方はこの面では敵ではない。
透けて見えるものを推測して組み立てるだけで、真面目に聞いてなくても容易く要点を突いたかのような返しもできるくらいだ。
裏でこれを画策しただろう神崎共々詰めの甘いことである。
ちなみにこれは点呼には必ず僕が姿を現すから、その前に出かける用事を済ませてしまおう、ということらしい。そうすれば消えたとしても短時間で済むのだとか。
ハッ。はちみつをぶちまけたケーキよりも甘い考えだ。点呼を済ませた僕が逃げることを想定していない。
そんな考えでは、僕の怠惰を止めることなど不可能だということを教授してやろう。
ともかく、朝6時過ぎに出発するのはそういう訳だ。実はその為に、あっちで柴田と安藤も準備運動してたりする。
こうして各人の思惑が交差する無人島生活5日目は走ることから始まった。
それから少し経って時刻は昼の12時頃。
予定通り、ノルマを済ませた僕は帰還後の午前9時頃。即座に、そして密やかにクラスの拠点を抜け出し、そこからは椰子の実片手にバカンスを満喫していた。
「ああ~。また左京の脱走に付き合っちまった。一之瀬や神崎は慌ててるかなぁ」
四方は嘆いているが、今回はむしろ自分から進んで僕についてきた事実を見逃してはいない。四方といえども、この年齢なら遊びたい気持ちが勝つのは当然なのだろう。
「ふっ。死ぬまで借りてるだけとか言っとけばいい。借りをな」
「それはもう借りとは言わないんだよ。この前の神崎なんてブチギレかけてたぞ」
「神崎が? 一之瀬じゃなくて?」
「自覚なさすぎだろ……。いや。一応、一之瀬に対してはその認識があることを安心した方がいいのか……?」
今日は東風谷だけで佐倉と遊びたいというので、スポット巡りを終わらせて点呼が完了次第、僕はまたもやCクラスのビーチに来ていたのだ。四方も一緒に。
龍園すらいなくなった無人のビーチにはいくつか残っていたバカンスの設備だけが点在していて、現在ではバーベキューの時に抜け目なく許可を取っていた僕(とやらないだろうが金田)だけが寛ぐことが可能だ。
飲食物は当然自前なので用意してこないといけないが、このビーチに実っていた椰子の実を尖った石で穴を開ければ、それだけでも南国気分を味わうのに不足はない。
他に人も来ないし、来ても住人が居ないとはいえ他クラスの領域で好き勝手にはできない。
要はプライベートビーチを独り占めということだ。
ビバ楽園である(死語)。
「ほう? 面白いことを言う。5日目の昼過ぎにしてようやく誤解を解く目処が立ったが、ここ数日俺がどれほど苦労したのか左京はわかっていないとみえる」
「よう。一之瀬と神崎も来たのか。楽しんでいってくれ」
「…………軽すぎる。なんだ…この、罪悪感など一切ないと言わんばかりの堂々たる態度は」
「……誰も居ないかと思えば、なんで左京君がここで我が物顔で寛いでるの?」
「東風谷が今日は女子会だというので、僕と四方は自由時間を満喫していただけだ。誰も居ないし、一応の許可もあるから安心してくれていい」
「許可……って龍園君に?」
「いえーす。前に来た時に頼んだらくれた」
「よくまぁ、あの龍園君にそんな軽く……にゃはは。なんというか…言葉に詰まるね?」
だから苦笑してる一之瀬や口元を引きつらせながら言いがかりをつけてくる神崎が来ようと問題ない。我が世の春は続行だ。椰子の実の中身を豪快に飲み干し、パラソルの陰にあるチェアーに寝そべる。心配事が皆無に近いからこその余裕である。
龍園とは大したことも話してないが、心配なら四方に聞けば嘘じゃないのは確認できる。
またいざという時に備えて動く水上バイクも確保している。このように逃走手段も万全だし、いつにない自然な対応ができるのは心の余裕が溢れんばかりな僕だからこそだろう。
「四方」
「ああ、許可のことなら本当だ。一昨日は目の前で見てた。なんなら龍園も一緒にバーベキューまでやった。
はは……カオスな雰囲気だったぞ。葛城も綾小路も…俺も困惑しっぱなしだったよ。楽しくはあったけどな」
「……詳しくは聞かなかったが、あの日に疲れて帰ってきたのはそういう訳だったのか」
ま、用意していた各種手段を使うまでもなく、残業帰りのサラリーマンを彷彿とさせる空気になった二人を見て沈黙こそ最善手だと悟ったわけだが。
成り行きを見守っていると、四方が思い出を反芻するかのように遠い目になり、神崎がどこか同病相憐れむ感じになったのだ。
酒が飲める年齢だったら、これから飲みにでも行きそうな雰囲気である。
まぁ、僕には関係なさそうな話だし、のんびりと日向ぼっこを再開するとしようか。
「ああっ! ちょっと左京君、神崎君と四方君をこんなにしておいて寝ないで!? お願いだから!」
一之瀬を忘れていた。面倒くさい。
「ん。モザイクの導入がまだだから、一之瀬は揺さぶらないで」
「なに言ってるの!? こんな一瞬で寝ぼけたの!?」
隣で愚痴り合いを始めた二人を放って寝ようとしたら、今度は一之瀬が揺すって起こしてきた。佐倉達とは違う陽気全開な爆乳が目の前で揺れまくり、瞬時に目が覚めた。
だから一之瀬は、股間にクルから接触してくるのをやめろとあれほど……。何度か朝に発生したように、勃ってしまったらどうする気だ。
まったく。学習してくれない一之瀬に思わず妄言が溢れてしまったじゃないか。もう寝れそうにないし、これなら日向ぼっこからレジャーへと方針転換した方が無難かもしれない。
思いたったら吉日。切り替えた僕は遊ぶことにした。
「今度はなに!? どこか行くの!?」
「海」
「もう左京君が本当にわからないっ!? 誰か通訳をしてほしい!」
それにしても、流石に元祖ベスト・オブ変人は常人とひと味違う。
夏の海でテンションが上っているのか、立ち上がって海でひと泳ぎするつもりの僕についてくる。ジャージのままで。こちらこそわからないクレームをつけながら。
ちなみに僕はきちんと水着を着用してるし、シャツを脱げば即泳げる。水上バイクやサーフィンならそのままでも大丈夫な形態だ。
だが一之瀬は、ついてきてどうするつもりなのか。
濡れ透け姿大公開の目の保養は、最終日あたりに実行してほしい。きっと僕だけじゃなく、クラス…同学年男子達の大多数が船のトイレに直行することだろう。
まぁ今は、万が一、本当に海の中までついてこられると、水着になったとしても被害が僕だけに留まらないので四方と神崎の為にも水上バイクを選択すべきか。
何故か混乱していた一之瀬を勢いで水上バイクに乗せたまではよかった。
始める前は散々渋って、取ったばかりの僕の水上オートバイ免許をまじまじと確認し、何事も経験だとか言って口車に乗せるまで非常に面倒だったのもまだ許せる。
だが、自然に僕の腰に力一杯しがみつきながら「左京君! バイブス上げてこー!」とか「おにーさん! もっとスピード出してよー!」とか僕以上に楽しんでおきながら、降りた途端に我に返ってまた面倒くさいノリになるのはどうなのだろう。
「うぅ。不覚にも普通に楽しんじゃった。また左京君に乗せられちゃった。
帆波は誘惑とノリに弱い娘です……!」
「別に楽しんでもいいだろ」
「私……私は楽しんじゃ…うぅん。なんでもない」
この面倒くささである。
エロい意味じゃなく、かなり色々溜まってそうなのに吐き出すこともせずに、謎に落ち込んだり、なにか言いかけて止めるのだ。
言っちゃ駄目なことかもだがあえて言おう。
「―――クッソ面倒くさい!!!」
「え?」
一之瀬は、何故にこんなセルフ罰ゲームをするような考え方になるのか。
楽しいなら楽しい。嫌なら嫌。
好きなことをやり、嫌いなことからは逃げる。
生きるのには、ただそれだけ考えてれば充分だろう。
そんな当たり前もわからないなら、僕におちょくられるのもしかたないよな?
だから心のギアを切り替えて忠告するついでに、軽く日頃の恩を返しておくことにした。
「ふぅ。すっきりした。
しかし一之瀬、お前アレだな。将来ホストとか絶対行くなよ」
「えぅ? いきなりなんでホスト? というかさっきの……」
「言っちゃなんだが―――お前って、ヒモとかを養いそうなんだよな」
「ヒ、ヒモ!? 私が!?」
「うん。ダメ男に「彼には私がいないと」みたいに入れ込んで、ズブズブに沈んでいく様が容易に想像できる」
「……」
鯉の口のようにパクパクしてる場合じゃないぞ一之瀬。
世の中には、それ以上になり得る性質の悪い劇場型の奴等とかもいるんだ。付け込まれる隙すら作り上げる奴等にとって、この素直さと容姿、ハイスペックさは垂涎の獲物だろう。
……一之瀬の想像力依存だが、多少は免疫っぽいモノも投入しておいた方がいい気がしてきた。
「そんでいざそうなったら「私のせいだ」とか「贖罪しなきゃ」とか言いながら、限界まで…いや限界を超えても、ドMのごとく何故か自分以外に尽くすんだ」
「うぐぅっ!!! ……あ、ぁあ……ど、えむ……わ、たし」
「今ならお前にも想像できるだろう?」
「そ…そそそ、想像、できるって…いうか……。なん、ていうか……」
こんな適当な妄想で、まるで図星にミサイル打ち込まれた反応になるあたり想像力豊かなのだ。爆乳を十全に活用した無自覚ハニトラなんか仕掛けてくる野郎にとって危険人物だが、まだ手遅れじゃないはず。
グロッキー寸前のボクサーみたく、切れ切れの言葉を泣きそうな顔で呆然と零す一之瀬を見ているとそう思う。
てか……でも、あれ? なんか想定以上に効果バツグンなんだが? もしかしてこれ、早めに打ち切った方が良い話題なんじゃ……?
ただ軽く打ったジャブのあまりの効果を鑑み、僕は路線を変更、短縮して締めることにした。まだハニトラの基本やホスト通い、ヒモ・ジゴロについて言及したかったんだけども。
「それを回避したいのなら、日々好きなことして楽しんで嫌なことからは全力で逃げるのがオススメだ。ソースは僕自身だから確実だぞ?」
「だけど」
「あー、もうジメジメと鬱陶しい!
必要なことを必要なだけできてれば、あとは難しいことなんて考えず楽しむだけでいいだろ! 一之瀬は必要以上やろうとするから、僕みたいな奴にも付け込まれる……ってだけ覚えとけ!」
「必要以上……」
ただあんな中途半端なところで切れなかったので、限界まで言葉を削減することで対応したが……それでもどこかで一之瀬の地雷源的なモノでタップダンスした気がしてくる。
明らかに容量限界を超えて茫然に近い状態となっている。
クソ。思いつきで慣れないことはやるもんじゃなかった。これはそれこそ必要以上に悲観させたかもしれない。
カリスマブレイクした一之瀬は、何故か僕の罪悪感を刺激してくるのだ。勘弁してほしい。
それに一之瀬にこんな顔させたまま四方…はまだしも神崎と合流したら、きっとクラスでの僕の立場が終わる。
だから、さっきのが最後のつもりだったけど、もう1回水上バイクで雰囲気ごとぶっ飛ばそう。
1回頭の中を真っ白にすれば、一之瀬も少しはマシになり、僕も気分爽快に違いない。
「ラス1で実践だ一之瀬! さっきのご注文通りスピード出すから、しっかり捕まってろよ!」
「ぁ……」
返事はなかったが、僕の腰を掴む手に力が戻ったのを感じて、僕は再びフルスロットルでぶっ飛ばした。あと改めて僕の腰に押し付けられた感触から意識を逸らすため、心のタガも意図的に外しておいた。
「いやっはぁーーー!!! 無駄だと思いながら、免許取ってよかったーーー!」
「ぁ…………な……なにそれ? ぁは…あははっ!!! さきょ…ん…どん…………ぅ」
やっぱり風を切るこの感覚は素晴らしい。
離れた船上にいた高円寺が不思議と目にはっきり映って流れていく。
一之瀬が叫んだ声が風とエンジン音にかき消されていく。
いつかの謝罪時のように無理矢理テンションを上げている代償もあるだろう。徐々に周りの景色しか見えなくなっていた。
今この時、僕は嫌なことから全力で逃げている。
柄にもないことを言った恥ずかしさ。エロいことを考えそうになる煩悩。一之瀬を無駄に悲観させた可能性。それに伴う、クラスでの立場の失墜…というほど高い地位なんか元々ないが。
これは現実逃避と言っても過言ではないが、こうしていると自然が全て些細なことだと思わせてくれるのだ。
わずかに残る冷静な思考が、一之瀬に少しでも『これ』が適用されてほしいと思いながら、僕は改めて自然が美しいものだと感じていた。
……………………非日常の寝不足が、こんなにも恐ろしいものだと改めて思い知った。
一之瀬への緊張を誤魔化す為とはいえ、おかしなテンションと思考で創り上げてしまったこの海での黒歴史は次の日の朝まで僕を苛むことになる。
代わりに一之瀬は笑顔に戻ったっぽいが、我に返った僕は発作的に何度も転げ回り、フラッシュバックを伴うほどの羞恥に身悶えることとなり、一之瀬どころじゃなくなった。
水上バイクの免許。
原作では運転しているか不明なんですが、Cクラスの生徒が遊んでる描写はあるので、取得可能な資格は比較的簡単に取れる場所がある、って無理矢理に拡大解釈してます。『月見』で言ってたやつですね。原作では多分生徒は運転してないだろうけど、こういうのくらいはあった方が楽園らしいかなと。
また余談ですが、左京は水上バイクだけじゃなく原付きの資格も7月20日の誕生日~旅行前に取得してたり。『旅行』の回想で一之瀬が天文部の部室に来ていたのがこれ関係の処理の為、という裏設定を今更出してみました。
あまり意味はありませんが。