ようキャ   作:麿は星

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66、夢(後半、綾小路視点)

 

 しかし……東風谷のこれはどっちの意味だ?

 まぁやることは変わらないからどうでもいいか。それより東風谷の見てないところで負けるだけならまだしも、ズルしたらぶっ飛ばされそうだ。

 てか、あいつに貰った御札ってズルに入らないよな? まさか捨てるわけにもいけないし、今更思い当たっても、もうこの場に東風谷は居ないから渡しておくこともできない。

……これ以上、変なことを思いついたり、必要な事を忘れないうちに、言うべきことは言っておこう。

 

「東風谷の事はともかく、話を戻すぞ。

 景品が何かと、ルール……というほどのものでもないが、勝負内容を言うから綾小路は受けるか否かだけ答えてくれ。もう聞いてるけど一応な」

「わかった」

「まず景品は―――勝った方が相手に一度だけ言うことを聞かせる事ができる、だ」

「勝率が低い勝負で、そんなリスキーな」

「ああ。僕の要求は既に決まっている。綾小路『清隆』が卒業まで桜プロダクションに所属する事だ。尤も、所属が条件であって一つを除いて仕事はしなくてもいいし、してくれるなら給料も出す。

 だが、船に戻るまでは最低限の手続きもできないから、その時に詳しく説明しよう」

「……まるでもう勝ったかのような言い方だな」

「勝ってるんだよ。矛盾するようだが、勝率が低くとも100%勝つつもりでやる。それが勝負する心意気ってもんだ」

 

 狙いは強欲に一石四鳥を。

 僕は基本欲張りなのだ。

 この手は、なにより綾小路の父ちゃんと対峙することがあった場合、息子小路に後ろから刺されない楔を打ち込める点が大きい。こればかりはその時になってみないとわからないが。

 

 ただ僕への命令権などそこまで欲しくはないかもだし、綾小路が違うものがいいならこれは変えてもいい。

 大したことじゃないと、綾小路に僅かでも思わせられたら勝ち目も上がるので、それはそれで助かる。

 

「それから勝負内容は、野球……のような大道芸だ」

「だ、大道芸?」

「適当な棒と石を拾って、石をなるべく自分の真上に投げる。そして落下地点を予測してそこへ移動。場所を決めたらもう目線を上げずに、地面へ着く前に棒でヒットさせれば勝ち」

 

 これは四方がトムキャッツの売り込み時に披露したデモンストレーションの亜種である。

 全力で投げれば難しくなるが、適当に放ればせいぜい80~100㎞が降ってくる計算だ。尤も今は雨が降ってるので、多少不確定要素も増えている。

 分が悪いのは変わらないが、天候などの運要素も馬鹿にできず、反射神経ではなく勘とある程度の計算能力を持つ僕は、最低限勝負の土俵に立てるだけの能力がある。

 

 それに―――不思議と負けるとは思えなかった。

 

「ん? それだと左京と綾小路どちらもヒットさせたらどうなるんだ?」

「その場合、両者が勝ち。お互いに相手に言う事を聞かせられる、って事で。勿論、相殺するのもありだ。つまらないけどな。

 おっと、どちらも失敗したらサドンデスにしよう。大した時間はかからないゲームだし、本格的に暗くなるまでには決着つくだろ」

「……むしろ普通の日でも当てるのは相当難しいだろこれ。オレでも何度かは調整が必要そうだ」

「そう言って1~2回ぐらいしか猶予はないんだろ? あー、いやだいやだ。天才ってのはこれだから、チートとか言われるんだよ」

 

 どうやら内容に目が行って、景品の条件は普通に受けてくれそうだ。

 これは僥倖。

 故意に開けざるをえない穴にツッコまれたら面倒になっていた。佐倉関係は本人の了承を得た上で、最低限の縛りを課してからだ。今は「言えない」としか言えない。

 ついでにいえば、サドンデスなど端からさせる気はないので、そっちにひっかかってくれたのも助かった。

 

「ともかくこれで勝負内容は大体開示したが、どうする綾小路? 受けるか?

 それとも」

 

トドメに勿体をつけるように一呼吸置き、自信満々な自分を意識して挑発する。

 

「―――逃げるか?」

 

 東風谷が居ないからもうあまり挑発的な態度は意味がないが、やはりこういうデバフ付与を気づかれない煽りは楽しい。

 綾小路のような格上相手なら、なおさら格別のワクワク感がある。

 そして僕が楽しげに煽ったという事実は、綾小路の答えを一つの結果へと導いていくのだ。

 

「オレは受けると言っただろう」

 

 そう。承諾という形に。

 

 

 

 

 

 最大の壁を超えても、僕は手を緩める事はしない。

 忘れていた、という風に条件を追加しておく。

 

「ああ、そうだ。石を投げる高さなんだが、10mを最低限の目安にしたい。高い分にはいくらでも高くしていいけど、低かったらノーカンってことだな。

 四方。これって判定できるか? 微妙に暗くなってきて、雨まで降ってるけど」

「できるとは思うが、一度実際に見てみたいな。それとついでだし、ゲーム自体もやってみてくれないか? 二人でやれば不公平もないだろ」

「綾小路?」

「ああ、オレは別に構わない」

「よし。んじゃ、石を投げて大体を計算しつつ打ってみよう。ハンデとして、もしも練習で綾小路が当てても勝ちって条件も付ける」

 

 一つ一つは小さくても大分積み上がってきたな。

 綾小路のポテンシャルが僕の想定以上なら、これでチャンスは多くて1回。

 ま、問題ないだろう。

 

「いいのか? あまりオレに有利になる条件を増やさない方がいいんじゃないか?」

「ああ、なるほど。それほど難しいってことか」

「四方が正解。綾小路が想像するより、雨も風もある中で真上から降ってくる石を捉えるのは難事だぞ。まして1度場所を決めたら確認も動けもしないんだから」

 

 こうは言ったが、綾小路も四方も1度でも練習して『条件が変わらなければ』、2度目には成功させるだろう。

 この適応能力と学習能力、あるいは集中力とインスピレーションが天才たる所以なのだ。

 僕では逆立ちしてもそんな真似はできない。

 

 

 

 で、道具を揃えて開けた場所に移動し、やってみたその練習の結果だが。

 

「うおっ!

……少し離れすぎてたか」

「あー、僕も駄目だったよ。

 で、四方。高さの判定……とついでに場所を決めた後に僕達が上を向かないかの判定はできたか?」

 

 二人共、当然失敗した。

 それでも落ちてきた石が綾小路はニアミス、僕は届きもしない場所という差が明確になったが。

 

「ああ。石が一定ラインを超えたら、お前ら二人の頭に注意を移すよ。それで大丈夫だろう」

 

 まぁこれは四方が審判できるかの確認だから、綾小路が当てさえしなければ問題ない。

 それにしても審判と一口に言っても、暗くなり始めた時刻・天候なのに即興でそれが可能な時点で四方も相当だ。

 僕が四方を改めて感心して見ていると、僅かに心配そうな気持ちを滲ませて僕に念を押してきた。

 

「それは大丈夫なんだが……左京は本当に大丈夫か? 言っては悪いが、さっきは当たる気配もなかったぞ」

「……」

「問題ないな。できないなら、今できるようになればいい。

 ただそれだけのことだろう?」

「―――っ!」

「そ、れは…あの時の……」

 

 四方も綾小路も息を呑むような仕草をしているが、実のところそこまでの確信はない。

 ただ僕の勘ができると言っているだけだ。

 かといって完全に運と勘頼りというわけでもなく、切り札っぽいモノもあり……なにより、なんというか長年の相棒が傍にいるような、僕を助けてくれている存在がいるような……そんな予感染みたものがある。

 だからなのか―――綾小路には悪いが本当に負ける気がしない。

 

「さあ綾小路。そろそろやろうか」

「……ああ」

 

 戸惑っているようなこれまでに見たことのない綾小路だが、素直に少し離れた位置で準備を整えている。勿論、僕の方も何ら気負いなく投げる姿勢を取った。

 それを確認した四方が、準備はできたかと僕と綾小路に目で訴えてくる。こちらもいつもと違う気配があるが、それでも四方は合図を口に出してくれた。

 

「それでは―――始めっ!!」

 

 僕はそれなりに力を込め、綾小路はかなりの余裕を残して、上方へと石を投射した。

 雨であまり見えないが、僕の目では同じくらいの高さに見える。

 とりあえず高さはクリアしたということだ。

 ならば、あとは以前のように集中力をできるだけ四方の域に近づけるだけだ。

 神経を針の先のように研ぎ澄ませ、他の事は意識してシャットアウトしていく。

 

≪…………ほう≫

≪大丈夫≫

 

 そして集中モードに移行してから石の落下地点を予測し、そこへ移動する。

 投射時に込めた力からして、おそらくそんなに時間的余裕はない。ギリギリになる。

 

≪もう少し前……はい。そこです≫

 

 僕はざっと計算して大体の目星だけ付けると、ぬかるみの中で僅かに硬さが残る場所に陣取って構えた。

 

≪まだです。あと2秒≫

「―――さか!? …茶……ょうっ!!!」

 

 それと脳内で数を数えて、タイミングを図りながら更に集中力を高める。

 水上バイクの時のように世界から音が消えていくような錯覚の中、すっぽ抜けないように枝を握り直し、その時だけを待つ。

 そして―――。

 

―――来る!

 

≪今です!!!≫

 

 最大級の予感と共に何か聞こえたと頭の片隅で知覚した時には、自然に全力で枝を振り抜いていた。

 乾いた音……と思いきや、湿った水音みたいな気持ち良くない打撃音が聞こえてくる。

 次いで、雨の中を粘着質な音と共に転がる石。

 

 僕の振り抜いた枝は、見事投げた石を捕捉することができたようだ。

 

 

 

 

 

 集中力が切れたのか、限界以上の力を使ってしまったのか、僕は濡れた地面だというのに座り込み、息を吐いて独りごちた。

 

「ぷふぁ~。とりあえず僕の方は当たったみたいだけど、あっちはどうなったんだ?」

「左京の勝ちだ」

「およ? 四方?」

「……オレの方は強風で流されて木に落ちた」

「綾小路まで? なんだよその変な雰囲気……」

 

 どうやら僕が勝っていたらしい。

 それはいいのだが……そんな二人して信じられない、みたいに見られても僕はどうしたらいいんだ? もっとこう…悔しがるとか、そんな馬鹿な話があるかぁ! とか、このオレが負けた・・だと!? とか負けたんならそれっぽいリアクションをしてほしい。気持ち良く煽れないじゃん。

 

「左京…………石を投げた後に落ちるまでの短時間で、凄い土砂降りと急な強風が吹いたのには気づいていたか?」

「ふぇ? あ、気づいてないわ。てか、んなことあったのか? どうも夢中になりすぎてたみたいだな多分」

「……まさか天候を計算に入れた?」

「…………ファンタジーじゃあるまいし、流石にそんなわけ……ないだろう。オレも信じられないが、まだ石だけに集中した結果、風雨にさえ気づかなかったと考える方が現実味がある。夢月の石が風に流されなかったのも偶々だろう」

 

 まぁ、正直煽る余力もないくらいに消耗したし、とりあえず約束を果たしたってことで幕引きといこうか。

 

「これで約束は果たしたから、次からは気楽にやらせてもらうぞ綾小路」

 

 ホントこれだよ。

 四方の時にも思ったが、こんなに精神削られる勝負はなるべくしたくない。

 

「なぁ左京。結局、約束ってなんだったんだ?」

「四方には言ってなかったっけ? 停学になる前に、綾小路から倒してほしいって言われた事があってな。じゃあ、いっちょやってみるかってことで、いくつか想定してた。ちなみにシューティングゲームもその一つ」

「……あれって、そんな軽いノリだったのか?

…………ははは。お前は大した奴だよ。あのゲーム以外でこんな隠し玉を用意してるなんてな」

 

 別に用意していたわけじゃなく半分思いつきだったのだが、切り札(初日に東風谷から貰った風の後押しを受ける事ができるという御札)が予想以上に有能だったのだろう。風に流されたという綾小路の石と違って、僕にはきちんと届く位置に落ちてきてくれたのだから。

 そのおかげかは知らんけど。

 

 なんにせよ、やれることはやって“表向き”の勝負は決着がつき、真意も綾小路には伝わっていると信じることにしよう。

 まったく面倒くさい友達である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 茶柱の油断を誘う為に、堀北に対して打った手や最低限のCP確保、運の悪い偶然から攻撃してきた東風谷。

 その東風谷の代わりを言い出したことで始まった夢月との勝負。

 左腕と腹にそれぞれ受けた東風谷の一撃は凄まじく、この時点では夢月が代わってくれて助かった。と思っていた。

 しかしそのダメージが残っていたオレは油断していなかった。

 それ以前に、不可解な点はあれど『あの男』でさえ一蹴する夢月との一戦。油断できるわけがない。

 

 尤も、練習の時に見た限りでは最低でも夢月の勝ちにはならない。そう確信できるほどに、ある種がっかりしたとさえ言える実力にしか見えなかった。

 手を抜いているようには見えず、到底ヒットする予想はできなかったから、本人が予想する通り夢月の勝率は1割未満だったはずだ。

 夢月本来の武器は発想と指揮能力だと思っているから、オレから見るとわざわざ持ち味を殺した勝負を挑んできたようにしか思えなかった。

 

 加えて、練習時点でオレの微調整は完了していた。

 夢月よりオレの勝率の方がはるかに高いゲーム。

 東風谷との言い争いの時とは違い、口やイカサマなどで小細工もできず、夢月の持ち味を活かすどころか、策や手駒を利用することさえ不可能なルール。

 正直、幼児に挑発されて乗った軍人の心境である。

 

 だから本当に本気で真正面からやりあえば、確実に勝てる勝負だと思っていた。

 石を投射する時も、練習時の夢月とほぼ同じ高さに調節する余裕まであった。

 奇妙な雰囲気は感じていたが、口だけだったかと僅かにがっかりすらしていた。

 

 そうして始まった本番の初回は、突然の豪雨と強風という不運に見舞われたが、これは夢月にも影響する。

 当然、サドンデスになるだろう。

 

「ま、まさか!? 無茶だ左京っ!!!」

 

 と、その時四方の叫ぶ声が聞こえた。

 落ちてくる前にどこかへ飛んでいったオレの石に見切りを付け、その声に釣られて夢月の方を見ると。

 

―――激しい雨の中、不格好なスウィングで小石をヒットする夢月が微かに見えた。

 

 ちょうどオレの石を吹き飛ばすほど、雨と風が強くなっていたタイミングだというのに。

 

「…………は? あり得ないだろう」

 

 四方が呆然と零した声が何故か聞こえた。

 それはオレの―――。

 

 

 

 

 

 

 

 オレはいつになく高ぶっている内心を抑えるように、静かに深く吐息をついた。

 得意分野や知識を駆使しての詰将棋のごとき追い込み。かと思えば、勝算の薄い勝負を挑んだ上でひっくり返してくる理解不能。佐倉や一之瀬から困ったところはあるけど優しく甘いと言われているにも関わらず、目的の為なら即座に諸々を斬り捨ててくる危うさ。堀北という関わりがない相手に対しては、冷徹なまでの判断。

 

 オレをして得体がしれないこの友達は、時が経つにつれ賛否の別れる奴になるだろう。

 前に言っていた東風谷や櫛田と同じく悪寄り、という自己評価もある。周囲からは何を考えてこんな奴と友達なんてやってるのかと、不気味がられてもおかしくない。

 

 このように夢月は印象の良い言葉があまり浮かばない奴ではあるが、同時にオレは嬉しくもあった。

 オレ自身が認めて感じ入るほどの『良くない』奴に、認められているという事実が。

 不可能だと、勝算などない、と言い切れない程度の小さい可能性を絶対に可能であるかのように言い切り、周囲にまで信じさせて実現させてしまう奴が。

 これまでになく面白くて、ある意味で頼もしい。

 充分に役立ってくれた堀北すら霞むほどの面白い『遊び』だった。

 

 なにせ油断は僅かにあったもののまず間違いなく勝てると確信した勝負で、出し惜しみしないと言ったオレが本気でやってひっくり返されたのだ。

 夢月に負けた、と落ち着いた今は素直にそう思えるほど綺麗にありえない方法で。

 これは前段階の策を破られたことでも、勝負自体でも、その結果でもない。

 どこか決定的な部分でオレは負けを認めさせられた。

 

 クラス競争も。茶柱の思惑や堀北が追い込まれたのも。他の奴等にも。

 誰を裏切ろうと、どんな犠牲を払おうと、過程すら関係ない。

 最後にオレが勝っていればそれでいい。

 全ての人間がその為の道具でしかない。

 

 内心で堀北に話していた時にはオレの中に確かにあったそんな考えが。

 その為か、夢月の影響なのか、途端につまらないモノに思えてくる。

 

―――僕に勝つには、『あそこ』のやり方では不足だぞ?

 

 気のせいだろうが、オレには夢月がそう言っている気がした。

 

「……次?」

「勝負回数を1回限りなんて決めてないし、まだゲームも作ってる最中だ。楽はできなかったけど楽しかったし、またやろう」

「…………ははっ。ははははは!! ああ、またやろうか!」

 

 そしてそれは別の方向から見れば、夢月はオレを楽しませるのではなく、一緒に楽しもうと誘っているのだ。

 『次』という言葉と込められた意味に、柄にもなく楽しい感情が湧き上がり、自然と笑えてくる。

 一般的にとても褒められたものではない事を画策したオレを察した上で、勝算を考えないで真正面から挑んできて勝ちをもぎ取っていく馬鹿で愚か者丸出しな―――こんなに嬉しいやり方をオレは知らない。

 これが友達というモノなのだろうか? そうだとしたら……。

 

「いつでも来いド3流。次は格の違いを教えてくれよ?」

「あれ? それだと左京の方にもド3流がかかってないか?」

「実際、僕はいいとこ2流止まりだから当然だろ。今回は力押しのゴリ押しに運頼みを重ねて…その上で何重の偶然の結果だと思ってる? 僕が必要じゃなかったら、次は絶対誰かにぶん投げてやることをここで宣言しておくからな」

「投げられる奴は大変だな」

「何を他人事のように……。

 四方や東風谷……綾小路に投げるに決まってるじゃないか」

「おい」

「………………ははっ」

 

 なかなか収まらない嬉しさの衝動を誤魔化そうと、夜の帳が降りてきて暗くなり、いまだ雨が降る空を仰ぐ。

 余韻もなく通常営業に戻った夢月と四方の漫才を聞きながら、不思議な感慨が湧いてくる。

 これまで敗者を見送ることはあっても、勝者と語り合うのは初めての経験だ。

 敗者はいつも手遅れになってから、自分の惨状を振り返って後悔する。

 それは『あそこ』もこの学校も、どこでも変わらないだろうと思っていた。

 だが、致命的な敗北でないからか相手が夢月だったからか存外悪い気分ではない。むしろオレは、この雨降るとある無人島でこれまでにない爽快な敗北を感じている。

 

 ふと、いつかの月見で夢月が言っていた言葉が頭をよぎる。

 東風谷ではないが、気負いもなくオレの『夢』を叶えた夢月という友達と出会えたことを奇跡だとオレは信じ始めていた。

 





 綾小路の夢については、かなりの部分が独自解釈・設定なのでぼかしてあります。
……綾小路の「最後にオレが勝っていればそれでいい」って、「自分さえ良ければそれでいい」と思えてしまうので、勝とうと負けようとここだけは叩き折るつもりでした。

 あと前話『迷言』で左京達の行動に疑問や違和感があった方向けに、解説を活動報告に載せてます。
 興味があればどうぞ。

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