約20億円。
松雄から報告があった現在動かせる金の総額である。
内訳としては鬼龍院先輩や高円寺などの個人資産・出資者関係が5分の4以上を占めている。特に卒業するまでおそらく使い道もないからと快くかなりの額を投資してくれて、なおかつ彼らの実家との交渉に協力してくれた鬼龍院先輩と高円寺には感謝が尽きない。
なので大きな顔はできないが、残りは青娥さんのコネか『何か』や投資、雫関連のクラウドファンディングなどを活用して松雄がかき集めてきた金だ。そして数億あれば交渉材料としては充分だったといえる。
その副次効果として、佐倉…雫のフォロワー数が数ヶ月前の10倍強になってしまったのはしかたのないことなのだ。
資金はメインの目的ではないが、あればあるほど大きなプロジェクトを可能とする為、死蔵しなければ困ることではないだろう。
更に一応、PPへの変換用にも桜プロダクションや喫茶・芳香を利用して外側にプールしている。勿論、万が一高円寺や鬼龍院先輩などが言ってきたらその分は渡さなければならないが、見せ金は自前で用意できる状態にはなった。ポイントから再度円に戻すことも数社を通すことにはなるが、現時点でも一応可能だ。
ここまでの動きと額になると色々バレててもおかしくないが、これで理事長や学校、ついでに生徒会と交渉する最低限の準備は整ったといえるだろう。
「左京君!!! なんかわたしのフォロワー数が……はぁはぁ…知らないうちにとんでもないことに! なってて…はぁはぁ…何か知らない!!? ぜぇ……!」
「夢月、邪魔するぞ」
佐倉・清隆の二人だけと話せる機会は、無人島試験が終わって3日目に訪れた。
都合よく、息せき切ってきた佐倉と清隆だけで現れてくれたのだ。
東風谷は不明だが、今日は四方と一之瀬はクラスで集まるらしいので多分ポップしない。高円寺は美しさを追求するとかいう最近送られてくるわけのわからないメールがある場合は大抵来ない。椎名は部屋で本を読むと言っていた。昨日来ていた葛城と戸塚は何度も顔を出すほど暇人じゃない。
つまり話を切り出すのに絶好の機会だということだ。
しかし……うむ。本日は慌てて息切れしてるせいか、いつもより大きく佐倉の乳が揺れてますな。
あまりそういう事を意識しない友達とはいえ、美少女の乳揺れは非常に眼福である。
「安心しろ。想定通り…いや想定以上の成果だ」
「や」
「や?」
「やっぱり左京君の仕業だった!!!」
「うん。月見で謝っただろう? 佐倉を利用してごめん、って」
「こ、これだったのかぁ。心当たりが多すぎて何かわかってなかった」
「え?」
尤も、そんな風に余裕を持っていられたのも頭を抱えた佐倉を見て、認識のズレに気づくまでだった。
なぜなら僕は佐倉がある程度わかっているものとして話を進めていたのだ。高校生には理解も馴染みも薄い事だということを失念していた。
そして雫を利用したことを改めて理解したということは、月見の時は理解せずに僕を許してしまったということで……。その怒りの揺り返しがきたら…これはまずいのではなかろうか?
今、佐倉に縁を切られると精神的にも事業的にもゲーム制作的にも大ダメージだ。
「すまん!!! てっきり青娥さんあたりから説明されてるもんだとばかり……」
だから誠心誠意謝罪の一手しかない。
勿論、穴埋めはいくつか考えていたが、関係修復はまずここからだろう。
嫌われるかもとわかっててもその手しか思いつかなかった。などというのは言い訳にもならない。
「え? えーと…説明?はされてたんだけど……こんなに急激に伸びて収益とかなんて、しっかりわかってなかったというか」
「あ、ああ。普通はそうなるか。でも僕からも詳しい説明はしておくべきだった。本当にすまん」
「うぅん。左京君が謝らなくても良いんだけど……というか、なんでそんなに真剣になって」
「だってわかってなかった事がわかって、その…利用されてたってきちんと理解したんだろ?
やっぱり僕の事を怒ってたり嫌いになったり」
「―――それだけはないよ」
言葉を遮られ思わず佐倉を見つめると、そこに居たのは珍しく背筋を伸ばして真剣な表情を見せている女の子。
そしてそれは僕の心配を吹き飛ばすような強い言葉だった。
「確かにとんでもなく驚いたけど、左京君は理由なくわたしを『利用』なんてしない。多分、あのお月見で言ってた事の為なんでしょ? それなら慌てることはあっても、嫌いになったり怒ったりすることなんてないよ」
「佐倉……」
佐倉に甘えすぎていた。
無人島の最後で思い至った四方や東風谷へのその認識を、僕は佐倉にも抱いていたことにようやく気づけた。
何が準備は整った、だ。
どれだけの人と幸運に恵まれていたのか理解せず、僕はまた調子に乗っていたのだろう。
この優しくて強い友達がそれを気づかせてくれたのだ。
せめてこれ以上、格好悪い真似だけは決してするまい。
自分の為であり、信じてくれている佐倉の為にも……。
「……なあ、そろそろいいか? なんかオレの場違い感がすごいんだが、このまま去るというのもな」
「清隆、空気読め…………ありがとう」
「? なんで礼を言われたんだ?」
「左京君!」
何故か佐倉に怒られた。
でもうっかり佐倉に告白→失恋コンボをかましてもおかしくないほど嬉しかったのだ。清隆が空気を読まないで入ってくれたおかげで、自分を取り戻し思い留まることができた。
危うく別の意味で気まずくなるところだった。
「ね、ねえ。ところで左京君達って、いつから名前で呼び合うようになったの? 早苗さんや四方君だって名字呼び…だったよね?」
清隆に内心でも感謝しているうちに、佐倉もいつもの雰囲気に戻っていた。
そして質問されたので、僕も通常状態に切り替える為にもちょっと脚色を付けてふざけ気味に返してみる。
「清隆と夕暮れの決闘をして真の友となってからだな」
「け、決闘!?」
「微妙にホラを混ぜるな。
オレはちょっとした心境の変化だが、夢月は呼びやすさらしいぞ。ある程度の親しさや要望があったり、名字より名前の文字数が同数以下だとそっちを呼ぶみたいだ。尤もこれは男と友達限定とも言ってたが」
清隆も微妙に変化を付けてくるじゃん。
間違ってはないからそのままでいいけども。
「じゃあ、わたしとも…名前で呼びあっていい? む、夢月君」
「はぁ? 別にいいけど、変に邪推とかされないか? 佐くr…愛里って女子だし、目立ちたくないなら」
「あぅうう! むっきゃ~~~!!」
「あ、ちょっと」
不覚にもドキッとしたがなんとか名前を呼び返すと奇声を上げ、コマネズミのように走り去ってしまった。
まだ話の途中で、清隆とも中途半端にしか話してないのに……。でも清隆にしかできない話もあるから、これはこれで好機か?
しかしこの距離感がおかしい感じ。もし某ギター○ーローが実在したら、佐倉は相当近い存在になるんじゃないかと認識を更新した。
「面白い娘だよな。佐倉って」
すると佐倉に取り残された?清隆が聞いてくる。
一応、内心でも佐倉呼びに戻しとこう。
次があるとするなら、今みたいにストッパーがいるかわからない。調子に乗り、うっかり告ってフラれようものなら目も当てられないことになる。
「……完全に同意だ。だけど、奇行が目立つことも多々あるのが玉に瑕じゃね?」
「そこは目を瞑るのが良いんじゃないか?」
「そこに目を瞑ったら、さっきの佐倉を状態異常と勘違いしそうだから瞑れんな」
「状態異常?」
それと僕が状態異常に罹るとしたら一時的なノリか勢いだろうから、その要因になりそうなものにも手を打っておくのが良いだろう。
更にはストッパー候補の一人である清隆に理解を求めておけば、フォローしてくれるかもしれない。だから理解されるかは別としても、僕の恋愛に関する見解を話しておく。
「アレだよ。恋愛とかいう理解できない病気のこと」
「ああ……って、流石に病気はないだろ」
「体温上昇、脈拍異常、頬の紅潮、動悸・息切れ。
恋愛を発症するとこのような症状が出るらしいが、これはもはや風邪などに近い状態異常と言っても過言ではないと思わないか? 違うというなら教えてくれ」
「…………む。なるほど。改めて考えるとそうかもしれない。付け加えるなら、正常な判断力の低下や認識阻害などの精神的異常もある。
確かにこう並べて立証してみると立派に病気だな」
「だろ? 性欲ならまだ理解可能だが、それ抜きでもこんな症状が出るんだ。何らかの要素が身体に作用して異常をきたしているに違いない」
「いや、それはホルモンやフェロモンと呼ばれるものじゃないか?」
「それだけじゃ説明付かない現象もあってだな……」
そうしたら、まさかの僕の恋愛観に同意を示してくれる逸材をこんなところで発見。
恋愛ガチャの時に知っていれば、龍園との交渉を任せて更なる成功に導けた可能性すら感じる。惜しいことをした。
佐倉が去った後のデッキで男二人、奇妙なシンパシーを感じる恋バナ?をするのだった。
少し興が乗って雑談が長くなってしまったが、おかげで肩に入っていた力が抜けた。
これなら切り出しにくい話題もまだマシになるだろう。
「ところで話は変わるが、清隆の桜プロダクション所属についての話をしてもいいか?」
「ああ、勿論だ。元々その為に来たようなものだしな」
「助かる。
まず前提からいくつか説明しないといけないのでするが、守秘義務は守ってもらわないと駄目なのと、できればこれから言う1つの役割だけはやってほしい。代わりに仕事は任意で、給料はやった分だけ。これだけは同意してほしい。
同意できるのなら、この書類に印鑑……なかったらサインと指紋を頼む」
僕はそう言って清隆に、用意しておいた一枚の契約書と朱肉を差し出す。
『私、綾小路清隆は桜プロダクションで得た情報を決して漏洩いたしません』
名前と印鑑を記入する部分も当然あるが、この契約書に書いてあるのはそれだけだ。
そして清隆ならこれだけで充分だと信じる。
これは持論だが、共に仕事をする上ではまず信じる事から始まるのだ。信じなければいい仕事などできない。友達だったら尚更だ。
「……えらくシンプルな契約書だな」
「雇用契約書は今度また別に書いてもらう。これは情報を漏らすと僕以外にも迷惑がかかるからその為の処置だ。だまし討ちするようで悪いが、経緯が経緯なので最低限の縛りだけはさせてくれ」
だからこの契約書に関しては契約違反されたとしても罰則規定は設けない。
裏切られるなら、その時はきちんと責任の取り方も考えている。そのリスクを許容してでも信じるのは、僕的に必要な事だと思う。
「緩いな」
「言うなよ。それは自分でもわかってるけど、これから清隆にとっては蒸し返したくないだろう話もする。僕が腹を割って見せた上で、清隆の逃げ道を用意しておくには、これくらいがせめてもの誠意なんだ」
「てことは……」
「それに今のである程度察するなら、ガチガチに固めても同じだろ。
罰則とかもないから、踏み込む気があるならさっさとサインしてくれ。踏み込まないなら、勝負の事も気にせずこのまま去ってくれてもかまわない」
僕がそう言うと、清隆は一瞬動きを止めたもののさらさらっとサインしてくれた。
「これでいいか?」
「OKだ。あと、これによって清隆が直接的な不利益を被ることはないと誓っておく。どこまで信用できるかわからないが、たとえ聞いてすぐに情報漏洩したとしても罰則はない」
「罰則は、だろう」
「うんまぁ…どこの情報かも影響するけど、報復処置はあるかも? 僕よりヤバい奴らはそれなりにいるから。なので、直接的って言った」
「話を聞けば、そのヤバい奴『ら』が誰かわかるのか?」
「わかる奴もいる、とだけ。
なんせ桜プロダクションは表向きアイドル事務所で、佐倉は雫というアイドルだからな。もし佐倉に害をなすようなことしたら、誰よりも先に東風谷が殺りに行くだろう。
……あっ、当然のことながら、これを清隆に言う許可はもう佐倉に貰ってある。同席する前に逃げちゃったけど」
「へぇ……へぇっ!? 元々顔立ちが整っているとは思っていたが、あの佐倉がアイドル…………この情報を漏らしたら、東風谷以前に天文部全員を敵に回しそうだな」
その通り。
佐倉関係の情報を漏らしたら、僕はまだしも東風谷や四方、場合によっては女に優しめな高円寺―――そして、なによりヤバい青娥さんを敵に回す可能性が非常に高い。
最もヤバい青娥さんの存在こそ言えないが、青娥さん抜きでも充分ヤバい面子なのは清隆も身にしみて理解できているはずだ。
「そんじゃ前置きはこの辺にして、僕の目的から現状をざっと話して、起こりうる事態、清隆を会社に所属させる理由なんかを順に行くぞ。疑問や不快に思う箇所があるかもだが、清隆の利益になる案も用意してるから、それを聞いてから質問・反論してくれると助かる」
「大丈夫だ」
軽い念押しと流れを承諾してくれたので、僕は予定している決定事項を簡単に口にする。
「まず一度聞いている清隆なら予想は出来てるだろう直近の僕の目的だが―――外部接触禁止及びPPの廃止……と+αだ(ボソ)」
「ん……?」
「いや、なんでもない。
ともかくこの目的を実現させる為の用意ができたので、旅行が終わったら学校との交渉に入る予定だ」
「は? 用意? 学校との交渉?」
「ああ。協力を約束してくれた者達の力が大きいが、即金で約20億『円』用意できた。学校の背景からするとこれでも不足する可能性はあるが、最低限交渉の土台には辿り着けると見てる」
「に、20億……」
清隆が呆然と零した。
彼には笑われこそしてないが鬼龍院先輩や高円寺に指摘された時と同じく、彼もこの額では実現が難しいと思ったのだろう。
やはりもう少し待って、更に金を集めてからにした方が良い……のはわかっているができない。
あまり時間をかけると鬼龍院財閥や高円寺コンツェルン、青娥さんの心変わりに加え、学校に勘付かれて下手すると手遅れになる約束がある。『彼』の表情から推察できる状況はかなりギリギリだった。
それにこれは勘だが、鬼龍院先輩や高円寺みたいな実家の上に“常識的な”天才は、流石にそんなに生息していないと思われる。
正直、これ以上あれクラスの器を見つけられる気がしない。時間を消費して中途半端に人数や金だけを増やすくらいなら、対策を打たれる前に先手必勝するのがベターな気がする。
もはや毒を食らわば皿までの境地である。
「んで、僕がここまで急いでいる理由から清隆が少し関わってくる」
「オレが……?」
「先月、うちの会社に入れた松雄という者がいるのだが、彼が言うには清隆の父ちゃん、父小路は容易に引き下がる人間ではないらしい。つまり以前に清隆に見せた誓約書の内容を破ってでも、再来する可能性はそれなりにある……んじゃないかと思う」
「だろうな。てか、父小路って……」
「あ、松雄は父小路の元部下らしいが、清隆は知ってたか?」
「ああ。オレがこの学校に来るまでの世話役…のような人だ」
「通りでな。それで清隆の事も知ってたっぽかったのか」
「聞いてたんじゃないのか?」
「いんや。部下であったこと以外、ほとんど推測だった。
まぁそれはともかく、父小路を知ってる奴二人がそう思うなら、更に情報の確度は上がる。これは本当にそう遠くないうちに対峙することになるかもな」
友達の父親に地獄を見せるなんて、清隆関係の後始末抜きでもやりたくはないが、あくまで攻撃してくるならやるしかない。
「で、その際、松雄との連携速度の遅れで命取りになる可能性は排除しておきたい。外部接触禁止の縛りのせいで色々不便になってて、今は僕と佐倉のバイト先を経由してるから、どうしてもワンテンポ遅れるんだ」
まったく面倒くさいことである。
まず僕から青娥さん、松雄、それからそれぞれにといった具合に、このネット社会なのに情報伝達で何工程も踏むとか馬鹿らしい。
せめて普通の学校くらいの縛りだったら、僕もここまでしなくて良かったのだが。
「もしかしてオレに頼みたい1つの役割って」
「そう。お察しの通り。もし僕が父小路に反撃した時には傍観してほしい」
「……ぇ?」
「無茶な事を言ってる自覚はある。なんか仲悪そうとは感じてるが、ある意味で清隆に父小路を助けるな見捨てろって言ってるようなものだからな。
……だけどそこを曲げてなんとか頼む。僕には学校があるとはいえ、松雄や会社はもう後がない。手段を選んでいると地力の差で押し切られて破滅まで一直線なんだ」
「…………なんか想定の中に存在しない役割なんだが」
ゴニョゴニョ言ってる清隆は置いといて、言葉に合わせて僕は真剣に頭を下げた。
清隆を情で動かせるとは思っていないが、多少は考慮に入れてくれると信じて正直に頼み込む。
それと何が清隆の利益になるかがいまいち不明なので、とりあえず清隆に投げてできることはすると意思表示しておく。
「だから反撃手段に少々悪辣な手を使う事になるが、その為にはPPはまだしも外部接触禁止の縛りが邪魔すぎるんだ。まずそこに対処しないと話にならない。
勿論、清隆への配慮は忘れていないので、要望とか相談があれば学生である間に言ってくれ。可能な限り力になる事を約束する」
「…………は? え? オレのか?」
「この傍観と配慮の為ってのが、清隆を桜プロダクションに所属させたい主な理由だ」
「……」
清隆はついに黙り込んでしまったが、これは必要な説明なのだ。
これによって清隆が父小路を助けたかったりして確約や協力が得られなかったとしても、情と利の両面から僕のやりたいことを説明しておくのは後々意味が出てくる。
「あと松雄によると清隆も父小路の狙いの一つ…というか主目的らしい。父小路の誓約も、学校に対しては抜け道を作っておいたが桜プロダクションには手を出せないようにしてあるし、少しは守りの役に立つはず。
ただ清隆がそんなの必要ないってんなら、佐倉に関する守秘義務さえ守ってくれれば最初に言った通り勝負での賭けは忘れてくれていい。でももし清隆が父小路についた場合、親子諸共反撃することになるとだけ覚えておいてくれ」
「……」
たとえ今回の話を断られたとしても、逃げ道は間違えないように忠告しておく。
息子の前で父親を悪く言うのは控えるが、僕の中の父小路は息子がどう言おうと関係なくゴリ押ししてきそうな人物像なのだ。それをわかっているならいいが、わかってないなら清隆は父小路に付くべきじゃない。
また清隆の事を除いても、いくつか想定される父小路の目的を考えると、接触禁止や不可侵の誓約以外の対抗策などいくつあっても困るものじゃないだろう。
最後は清隆には脅しのようにも聞こえたかもだが、彼が父小路に付いたらきっと手心を加える余裕はなくなる。要は単なる事実確認である。
「夢月。前々から思ってたがお前の弱点になり得るぞ……その開けっ広げすぎるところ。少しはオレを利用しようと『考えた』方がいい」
ただまぁ、暫く沈黙した後に口を開いた清隆から、予想通りに「僕を利用しろ」という裏の意図も読み取られて、釘を刺されてしまったわけだが。
むしろ佐倉の件を含めて、僕が友達を利用したくない……本当に嫌なことは押し付けたくないという自分勝手な部分を窘められてる気さえする。
しかし鬼龍院先輩といい、高円寺といい、規格外な奴は揃いも揃って僕がOKを出しても僕を利用しようとしないのは何故なんだろう? その共通点がなんか笑えてしまう。
「ははっ。言葉の分野でも格上とか……もう白旗上げるしかないじゃん。
てか、素直に僕を利用しろよ。龍園の方がまだ素直だったぞ」
「生憎だがオレは事なかれ主義でな。逃げるより平穏の方が好みなんだ」
「ぶっは! そのちぐはぐさで良く言えたな。清隆の弱点は擬態の下手さですかぁ~? ぶはははっ!」
「……これでもイメージでしか知らなかった頃よりはだいぶ良くなったと自画自賛してるんだがな」
小さく零すその言葉から察するものもあったが、あえてそこには触れずに笑い飛ばす。
すでに覚悟を決めている友達の意思を尊重するのは当然。元々清隆に対して僕にできるのは、ちょっとした逃げ道を提示するだけだ。
何にでも手を出すのは無粋というものだろう。
ともかく、かように理解さえ得られれば、『逃げ道』というものは意外と応用が利くものである。
それを理解した上で意思を示してくれた清隆の面白さも肴にして笑い合い、僕はようやく少し肩の荷が降りる心地になった。
原作のどこかでチョロっと出てた(はずの)高円寺の個人資産と、ついでに鬼龍院関係をでっち上げました。彼らなら中学時点でこれくらいポンと出せる資産運用とかしてても違和感ない…ですよね?
……個人的には原作・高円寺の頭にありそうな手の一つ、とか思ってました。勿論、こうした制度関係じゃなく、クラス移動の方法の応用ですが。
あとこの動かせる金額でこれが可能なのか? って点ですが……見逃してください。
一応、理事長が適当な不正疑惑で休職に追い込まれる程度の地盤、独自通貨を運用し制度や権利などを売り買いできる弊害、背景に鬼龍院・高円寺の2財閥がチラつく。的なゴリ押しできる下地があったということで。当然のことながら、最初の地盤については左京には推察できませんが。
ちょっとだけ学生らしくなかっただろう話は今回までです。
次回からは真っ当?に船上試験が始まるでしょう。多分。