今回は一之瀬視点。
何気にこの一之瀬は、原作・学年末の龍園クラスとの対戦時に近い精神状態になってるので、混乱とまでいかなくても平常とは微妙に違ったり。
またいつもより少し長めです。頑張って削ったけど1万字超えてしまいました。
それにしても感想コメントって話数ごとの新着なんですね。ずっとコメントされた順だと思ってたから、手抜かりをしてしまいました。
私と神崎君は、“竜”グループで1回目のグループディスカッションの時間が終わると、結構な大所帯で牛グループの部屋へと向かっていた。
いつもやらかす人が、またやらかしてくれたからだ。ディスカッション半ばでそれが知らされた時はちょっとした騒ぎになり、収まった頃には呉越同舟でやらかした人の部屋へ向かうことに自然と決まっていたのだ。あの人は、その場にいなくても本当によく引っ掻き回してくれる。
もう一つ別のグループでも問題が発生したと知らされていたけど、そっちは四方君が頼まれてくれた。それにできれば、そちらはこれから行く部屋にいる左京君を連れて行った方がいいので、今日は待ってもらうことにした。
ただやらかしたとは言っても、それほど心配はしていない。
仮に左京君が失敗していて、これを足がかりに二人(左京君を入れて3人)の優待者全てを当てられても、回答ミスさえしなければ150CPのマイナスで抑えられる。いざとなったら四方君も本気で狙いに行くと試験前に言っていたから、上手くすれば100ポイントのマイナスにできるかもしれない。
それに甚だ迷惑ではあるけど、左京君はほとんど無駄なことをしないから、これはきっと彼にとって必要な事なのだろう。問題は何に必要なのか全くわからず、しかも後になっても判明しない事が多々あることだけど、これまでの例からすると考え無しということだけはない。それくらいには信頼している。
例えば無人島の初日に、左京君は言った。
安物買いの銭失いをするくらいならきちんと食事しよう、と。その前にも色々あった影響か、これには反対意見もあった。しかし、左京君は健康や運動量などを例に挙げて話に行った子達を納得させた。その際、ついでのようにやらかしてもくれたが、曲がりなりにも1人でクラスの意見をまとめたのだ。
そして結果的に、それは正解だったと思う。
最初は最安値の栄養食・水セットが有力な選択肢に上がっていた。クラス単位で1日6試験ポイントだったから、味気なさそうだったけど安く済ませるならこれが一番だったのだ。だけど、大食の子もいれば少食の子もいる中でそうしていたら、物足りなく感じたり無駄にしたりといったロスが出ていただろう。
一方、左京君は、初日以外は一俵60kg(5日約400合、1人当たり1日2合分)で50試験ポイントのお米セットを推していた。これは手間はかかるものの、大食の子も少食の子もどちらも満足できる案だった。まとめて炊いて食べきれない子の分を回せばいいからだ。金田君がいた事も考えると、栄養食にしていたら揉めてしまったかもしれない。
こんな感じに自分勝手なように見えて、ちゃんと周りのことも考えている人だと私は認識していた。
無人島での特別試験が終了し、うちのクラスが最後に乗船した時もそう。
直前まで試験結果の発表が行われていたというのに、どこへ消えたのか試験で大きな役割を果たした例の3人の姿はなかった。乗船した時に四方君と東風谷さんは合流してきたが、最後まで探しても左京君の姿はなかった。
しかも合流してきた東風谷さんも、当然のようにいつの間にかいなくなっている始末。
左京くんも含めたあの二人はほんっとうに、いつも自由気ままである。
「HEY! テイルマン」
「高円寺か。久しぶりだな。どうした?」
その代わりというか、船のデッキには初日にリタイアした高円寺君がいて、四方君に声をかけてきた。
すると、自然に散っていくクラスメイト達。彼は彼で最初の頃の東風谷さんに似た雰囲気があり、ともすれば視界にも入っていないのでは? と思ってしまうくらいに他者に興味がない事がわかる。こうして四方君の横には私もいるのに、私は彼の眼中にないくらいだ。奇矯な性格以上にそれがきっと……怖いのだろう。普通の人は知らない・理解できないものを怖がってしまう。
四方君以外で私だけが残ったのは、左京君と笑い合う高円寺君を見て知っているからだ。
それを知っていれば、何の用事なのか気になるのは私も毒されてきたのかもしれない。
しかし、Dクラスのみんなから勝手にリタイアした事を責められていたらしいのに、普通に抜けてくるあたり、左京君達と通じるものがある。類は友を呼んだのだろうか?
思わずあちらのクラスリーダーに同情しそうになり―――うちには2人も問題児がいる事実を思い出して、一人で内心頭を抱えた。なんなら普通に高円寺君と応対を始めた四方君もどこかおかしい。
「いやなに。結果はどうなったかと一応聞いておこうと思ってねぇ」
「結果……お前のことだから試験のじゃなくて、左京…いや、夢月の結果か?」
「ははは。Exactly!
君もわかってきたようだ」
ごめん。あまり高円寺君のこと知らないけど、せめて四方君だけは変な世界をわかってほしくないと思ってしまった。
それにしても、これまでどこか一線を引いていた四方君もついに左京君を名前で呼ぶようになったか。
……やっぱりあの日、私も無理にでも付いていくべきだったかなぁ。少し羨まし……くない! 私には私の役目もあったし、ついて行ってたら絶対振り回されてた。
「それでどうなったんだい?」
「夢月が勝った」
「……ほう。私が見た限り達成確率は皆無に近かったと思うのだが?」
「ああ。本人達もそう言ってたよ。俺も目の前で見てたけど、夢月が勝つ予想はできなかった。
ただ夢月曰く、策を重ねて運を呼び寄せた力押しの結果らしい。俺から見たら奇跡としか思えなかったがな」
私が変な考えを振り払っている間にも二人の話は進んでいく。
その話から推測すると、左京君は試験ではない勝負を誰かとしていたみたいだ。
そして勝った。
誰と何をしたのかはわからないけど、四方君の感じだと危ないことじゃなかったようで、少しホッとする。
「くっくっく。夢月らしい」
「全くだ。
で、お前はどうする?」
「私はこれまで通りさ」
「……はぁ。東風谷といい、綾小路といい、夢月は大人気だな。わからんでもないが」
綾小路君? もしかして左京君が勝負していた相手は綾小路君なんだろうか?
左京君の友達だったり、堀北会長や星之宮先生からできるだけ見ておくように頼まれたり、堀北さんとうちに偵察に来た時に鋭い指摘をしてきたり、色々只者じゃないとは思ってたけど本当にすごい人なのかな。四方君が東風谷さんと並べるくらいだもの。
この学校、油断できない人ばっかりだ。
「テイルマンも好きにするといい。夢月は言われずともそうするだろう?」
「それが問題なんだよ」
「ハッハッハッハ! 確かに。凡人と自覚した上で美学を持って好きにやる夢月は、ある意味天才の天敵だからねぇ」
天才の天敵。
高円寺君が口に出した彼の評価は不思議としっくりくる。
別に隠れて動いてるわけじゃないのに、どうしてか彼のペースに巻き込まれているのは、私も実感しているからだ。私自身は天才なんて者じゃないけど、予想できないタイミングの隙を予想できない方向から突かれてしまうというか……。
「笑い事じゃない。あいつ、あれで自分を凡人だと確信してるぞ。そのせいで俺も東風谷も綾小路だって何度か負けてるのに、普通にやれば負けるからってあらゆる手段で逃げようとするんだ。しかもあいつが天才認定した奴からの勝負は、挑もうにも理由がないとなかなか受けてくれないから、白黒付けたければ東風谷のように唐突に挑むか、『理由』を作るとかするしかない。そしてどの方法も俺には向いてない」
「夢月が凡人だということは否定しないけどねぇ」
「それ自体は俺も否定しない。
―――けど、あいつには何かがある。でないと、あの異常とも言える吸引力の説明ができない。これはもう疑惑じゃなく確信だ」
私と同じものかはわからないけど、四方君も高円寺君も何かを彼に感じているのだろう。二人は私よりも左京君に近いのだから、より気づく機会が多いはずだ。
「あいつの目的はなんとなくわかるんだ。だが……なんでそうするかという動機がわからない。何らかの確証を得る為には勝負事が手っ取り早いんだが……」
「それこそなんとなくだと私は思うけどねぇ。夢月には動機などそれほど必要ないのだよ」
「好きでやっている、か」
「わかっているじゃないか。そう、人の為にやっているのではなく、夢月は好きでやっているのだよ」
「…………じゃあ、俺もたまにはあいつらのフォロー以外で好きにやってみるかな」
「そうしてみたまえ。おそらく夢月は期待を違わない」
「ははっ。ありがとう高円寺。
少し気が楽になった礼と言ってはなんだけど、面白い土産話をしてやるよ」
そう言った四方君は、初日に左京君がぶちまけた事の裏側を話し出し、高円寺君は楽しそうに笑いながら聞いていた。
私には何のことかぼんやりとしかわからない部分も多かったけど、その四方君と高円寺君の会話は後々まで私の心に残ることになった。
でもこの時に私が聞いていて思ったのは、受け入れられないというのが最初だった。気づいてなかったけど神崎君を疑っていた事も。けど、こうした事が必要になるかもしれないとは考えさせられた。そうなったら、左京君は頼りになるだろう。
だからというわけでもないけど、聞いていた私はこれまで以上に左京君に注視して張り付いておくことにした。
左京君になにか起こるたびに斜め上の発想で動かれると、いつの間にか問題などが解決されてしまう。いや、それ自体はむしろありがたいんだけど、よくわかんなかったけどよくわかんなかったね、では済まないレベルの影響が出る事と、次に繋げられない事が問題なのだ。
これまで何度かは関われたけど、佐倉さんのストーカーの件やガチャの商売が上級生の間でブームになっていた件に、生徒会、停学etc。左京君の考えや裏側は、隠しもしてなさそうなのにいまだに謎のほうが多い。しかもある程度近くにいたり、四方君に聞いたりしないと最後まで何もわからない事がほとんど。
しかし改めて考えると、本当に不思議な人だ。
生徒会長や南雲先輩、多くから敵視されたりしている龍園君なんかとの間に立ってくれていることもある存在。仲間としてはかなりの問題児だけど、なんだかんだで何度か私にも手を差し伸べてくれた。私がリーダーなのにも関わらず、思わず甘えたくなるほどに……。
いつもなにをやらかすのか心配だけど、いざという時には頼りになって楽しみな人。それが私にとっての左京君だった。
だから無人島でもなるべく積極的に話しかけに行ったのに、ことごとく間が悪くておちょくられたりセクハラされたりといった始末。ただ左京君自身が苦手と言っていた私だからか、偶然はあってもいわゆる『そういう目』で見られた事はないと思う。もしそうだったら、いくら私でも距離を置いていただろう。
無人島生活中、近くにいて時間がある時はずっと彼を観察していたけど、左京君はアレな言動(どこかに食料を持って行ったり、1人で彷徨いたり)は多発しても邪な動きをすることはなかったと断言できる。試しに水上バイクなどで偶然を装って確認したから間違いない。それどころか海では、逆に元気付けられたくらい。
それに幸い、といっていいのか左京君がそういうセクハラのような事を仕掛けるのは、どうもいまのところ私だけらしい。
四方君や綾小路君にも聞いたが、東風谷さんや佐倉さん…女子には紳士的とまでいかなくとも、その…ああなっているアレを見せつけてきたり、ゾウさんとか……え、えろいとかドMなんて言われていないようなのだ。千尋ちゃんによると、私は男の子に怖がられてるらしいのに、どうしてその私だけが……。
ま、まぁそれはともかく。
つい聞きいってしまった四方君と高円寺君の会話は、なるべく左京君の傍にいようと改めて私に思わせるに充分だった。誰かがついてないと、彼は勝手にどこへ飛んでいくかわからない。東風谷さんや四方君が付いているとわかってるけど、できる時は自分が付いている方が安心できるだろう。
そう思って彼を探すようになったのに、予想以上に全然見つけられない。
無人島試験後だと、四方君に付いて行ってようやく少し話せた程度。その上、特別試験が始まったというのに、行方不明になるなんて思いもしなかった。
―――というか、大きい船とはいえ船旅中にほぼ丸1日音信不通になるってどういう事!? 苦手だと言っていた私だから繋がらないと思って神崎君たちにも連絡入れてもらったのに、返信どころか既読すら付かないなんて。左京君のほうれんそうは、放置・連絡ミス・早々に忘却なの? 試験が開始されてからは、ディスカッション前に話すことも会うこともできなかったんだけど!? こういう試験だから一味違う意見が欲しかったのに! それに姿を現したと思えば、優待者だと初手カミングアウト!? だめだこの人。誰か…私がいないともっと駄目になる気がすr……あれ? なにか引っかかるものが……?
でも、本当にどうしてくれよう。いっそ不興を買う事になっても本当に付き纏った方がいいのかなぁ。それをする価値はあると思うんだよね。四方君や東風谷さんとも仲良くなれるかもしれないし。
考えれば考えるほど、私の中でその意思が固まってきているのを感じていた。
「一之瀬。大丈夫か?」
神崎君に声をかけられて我に返った。
いけない、いけない。
ちょっと異様な雰囲気と人達に当てられていた。
私は歩きながら、改めて一緒にいる他の面子に目を向ける。星之宮先生からもあらかじめ聞いていたが、竜グループは例年各クラスのリーダー格を集めたグループになるらしい。
クラス間の競争をさせているのにそんな慣習があるからこんな事になるのは必然、と深くため息を吐きそうになって、ぐっと堪えた。流石にそれは声をかけてくれた神崎君に悪い。
「ありがとう。大丈夫だよ神崎君」
私、神崎君、葛城君、龍園君、平田君、堀北さん、櫛田さん。それにどこからか合流してきて葛城君とにらみ合い、元々良くなかった空気を更に悪くしてくれた橋本君。この私達8人で、牛グループの部屋に向かっている。各クラスの中心人物が揃い踏みだ。きっと左京君も驚いてくれることだろう。その慌てる様を想像すると、ちょっとワクワクして心が落ち着く。
そんな感じに自分を落ち着けていると、葛城君が牛グループの部屋をノックしていた。
室内は、一部を除いて意外なほど和やかな雰囲気だった。
特筆すべきは夏休み前に喧嘩して停学になった左京君と須藤君で、遺恨なんかないみたいに話しているのがすごい。こういう男の子達のさっぱりした関係は、女の私には理解し難いけど少し羨ましく感じてしまう。
「いらっしゃい葛らg……ほ、ほう? 何だこの面子は……?
とりあえずオットセイの声真似でもするか。オゥッ、オゥッ!」
和やかだった牛グループの部屋に、オットセイ?の鳴き真似が響き渡る。
左京君はいつも通りだった。いつも通りのわけのわからない態度で迎え入れてくれた。
先手必勝。私は笑顔を意識しつつも、まずは逃げないよう釘を刺しにいった。彼相手だと、話が始まってからでは遅いといい加減学んだのだ。
「にゃはは……相変わらずだね左京君。後で話があるから逃げないようにね」
「なにこの一之瀬。僕に優しくない。偽物なんじゃないか?」
「まずその言動が私に優しくないからお互い様だよ」
「なあ一之瀬。左京は一度病院にでも連れて行った方がいいんじゃないか? この状況で俺になんとかしてくれ、みたいな視線をさり気なく寄越してくるんだが」
「神崎。僕を異常者のように言うんじゃない! ちょっとどうやってこの場から脱出するか、と考えただけだ!」
……ところで話しかけたのは私とはいえ、この状況でも左京君の目線が私に多く集中してるんだけど、この奇行は私が原因だったりする? どうして彼は、私や星之宮先生を苦手にしているんだろうか? 思い至った可能性に私は頬が引き攣るのを感じた。
「クク。現実逃避してんじゃねぇよ」
「あはは。いつも自由だねっ。左京君」
「うっわ。龍園はまだしも、明るい櫛田って気色わるっ。来るのはいいけど、かぶった猫は早めに剥いどいてくれよ」
「は?」
「ひぃっ。い、イキってすいませんでした」
私と神崎君に続くように、龍園君と櫛田さんが割って入っていた。
龍園君はともかく、何気にあのいつも明るく優しい櫛田さんに凄まれるとか、左京君の煽りスキルは今日も絶好調なようだ。
それにしても、すぐにいつもの櫛田さんに戻ったとはいえ……あんな櫛田さん、初めて見た。
東風谷さんといい、神崎君といい、高円寺君といい、左京君が関わると思いも寄らない顔を見せる人がいる。更に軽口を叩き合うのが付いてくると、もしかしてこっちが本性? なんて思っちゃう。自分に照らし合わせると失礼な話だけどね。
櫛田さんの珍しい一面を引き出したことを感心しているうちに、場が少しだけ落ち着きを取り戻し、牛グループの残っていた人達と入れ替わる。左京君含め何人かはまだ残っているが、渡辺君や姫野さん、他クラスの人達は左京君とは軽口を叩き合いながら出ていった。龍園君を睨んでいた須藤君みたいな人もいたけども。
その時、戸塚君を揉めていた人達ごと退室させた橋本君が左京君に話しかけた。
「おいおい。左京ってのはお前か? 聞いてたよりもずっとわけわからない奴だな」
「君は?」
「西から話は通ってると思うが、俺が橋本だ。
……これまで散々逃げ回りやがって。2ヶ月近く探し回って、ガチャなんかで名前は聞いても姿を見たことなかったから、本当にいるのかすら怪しく思い始めていたぜ」
「ガチャの時の僕は、ほぼ裏方に徹してたからなぁ。あれの花形は女子組だったし」
「それはうちのクラスでも共通認識だ。授業中でも見失うなどザラ。話をしようと思ってもほぼいない。連絡は大抵通じない。もはやUMAと言っても過言ではないぞ」
「にゃはは。確かに。いっつもいないよね左京君」
左京君に接触を図ろうとしていたのは、橋本君……ではなく十中八九葛城君と対立している坂柳さんだろう。四方君や東風谷さんが壁になるかのように動いていたから、図らずともこれまでガードされていたと思われる。
そんな思惑は察していたけど、自己紹介を軽く流されつつ僅かに困惑しながら零す橋本君に、僅かな共感を持って加わる神崎君と私。
あの二人がなんらかの意図でそうしていたなら、と神崎君は思ったのかさり気なく話の方向を変えたので、私も乗っておいたのだ。左京君の事だから滅多な事はないと思うけど、橋本君に主導権は渡さない方がいい。
「いるよ! 逃げてたつもりもない! たんに知らなかっただけだ!
あと端末関係は忘れることあるけど、授業をフケてるみたいに言うんじゃない。人混みが苦手だから、集団から離れたところを定位置にしてるんだよ。それ、存在感がないみたいで心に来るからヤメロ」
「存在感云々で言うなら、左京君は落差が激しすぎるけどね」
それにしてもさっきまで重たい空気もあったのに、左京君が加わるだけで誰がいようと空気が軽くなるのは素直にすごいと思う。一晩、音信不通になったことは後できっちり追求するけどね。
ともかく竜グループの私達と牛グループで残った数人が着席して、改めて話し合いが始まった。
「それで、今回はどういうつもりだったの?」
「どういうつもりだ左京?」
開幕早々、葛城君も私と同じ疑問があったらしく被った。でも優待者を自分から明かした真意を聞いてみたいのは、仲間(葛城君は友達としてかもしれないけど)として当然のことだろう。
「やっぱりその話か。ああ、優待者を明かしたことなら、遠くないうちに普通にバレるからだよ」
「バレる……って誰に?」
「いや、こんなに簡単なゲームなんだから、多くても3~4回グループディスカッションしたら、優待者の割り出しは難しくないだろ。どうせ当てられるなら早い方がいいじゃんってだけ」
左京君の雰囲気がいつの間にか変わっていた。
それが可能かはさて置いて、私は表情が出ないように気をつけて左京君を再評価した。
私が知る勘処の左京君は、基本的に人から奪うことも利用することもせずに、その上で流されてはいけないと考えている。これまでの彼の行動がそれを裏付けている。
だからこれはきっと、自分が優待者なことを隠しきれないと見て、勝負を投げ出したという作戦だろう。
勿論、それだけなら考え無しの愚行だけど、投げ出した先はCとDクラスの間。Aクラスが出し抜かず、無人島のように最後に入手ポイントの発表があれば、どちらが裏切ったかは一目瞭然となる。そうなれば、どちらが裏切っていたとしてもCとDのクラス規模の食い合いは避けられない。うぅん。正確にはその手を使う可能性を作り出されることが狙い? むしろ龍園君なら、進んで裏切るよう指示すると読んでいる……とかって可能性もあるかな。
私なりに考え込んでいる間に、堀北さんが強い口調で詰問していた。
「貴方は何を根拠に優待者の割り出しが難しくないというの!?」
「え? このゲーム、それなりの口か観察力があったら、指名するかはさておき1回目でも当てられると思うぞ? んで、そのラインを超えてる奴は僕の知り合いに限定しても結構いる。特に堀北さんの所属クラスなんてそれがかなり多めだし、まず全グループの優待者を把握するところから交渉を始めるんだろ?」
「そんなわけないでしょう!」
「じゃあCP重視の慎重気味な戦略なのか? 言っちゃあなんだが、AだのBだのはただの記号だし、この学校だとそんなのより先に目を向けといた方がいいモノがあるぞ」
「……それはなに?」
当然と言った風に返した左京君は薄く笑って、それ以上堀北さんに答えなかった。こういう場での彼の底知れなさは龍園君にも通じるモノがある。なにせ星之宮先生や掘北会長さえ時に翻弄するほどだ。
無人島試験では左京君と二分するB・Dクラス勝利の立役者となった堀北さんだけど、話した限り私や葛城君と思考が近い彼女では分が悪そう。左京君の考えを僅かでも理解するには、それなりの付き合いがあっても難しい。
「……少し聞きたい。
左京は、この試験で『勝つための』最適解をどう考えている?」
「勝つためなら龍園と組む以外ないな」
「即答か。……しかし龍園は」
「クク。ここで俺を出すか」
なぜならすぐ後に神崎君に答えた最適解を私は思いつけない。冷静に考えれば前に傷つけられた子もいる私達Bクラスの心情的には難しく、しかし効率面からは妙案とも言える。だけど、実現への道筋を描ける人は相当限られてくる。それに最低限半分は察せなければ、こうした道筋などの条件達成には至らないだろう。
正攻法ならまだしも、こうした枠外の案を当たり前のように放ってくる左京君相手だと、着実に積み上げていく私のようなスタイルだと相性が悪い。
「待ってくれ! 左京は知らないかもしれないが、龍園を信用しないほうがいい! 契約を結んだ上で出し抜く非道を平気でやってくるぞ!」
「だとしても、うちのクラスが組むのなら龍園以外ありえない。あくまで勝つためなら…だけどな。他のクラスでは不確定要素が多すぎる」
そしてそれは葛城君にも言える。根本的に見ている物が違うとさえ感じるのだ。
「不確定要素?」
「……あんまり言いたくないが、さっきのグループディスカッションで、Aクラスは1人を除いて言い争いが起きていた。これはただ1人のリーダーがいない証明になる。そしてわざと時間と好機を作ったのに、誰もどこかに連絡を取ろうとしなかったDクラスに至っては、表向きそこにいる平田がリーダーらしいけど実情は不在ということも十分にありうる。この状況なら、裏切られる前提でも龍園一択だ」
「な」
「つーわけで、龍園。指名する指示を出すならなるべく早く頼む。通知メールでの証明はできないけど、お前ならやれるだろ」
「くはははっ! やっぱてめぇは葛城や一之瀬と違って、敵として不足ねぇな。リーダー格が集められた竜グループに配置されなかったのが不思議なくらいだぜ」
「ああ。それは当然だろ。僕はリーダーでも補佐でもない一般生徒だからな。指示がなければ凡人らしく細々とやらせてもらうさ」
左京君が一般生徒? 凡人? 細々?
なんの冗談…と思いかけて、そういえば自称凡人とは事あるごとに言ってたなと思い出す。でもその自称にそぐわないことばかり起こしておいて、あっけらかんとしているのはどうかと思う。
だから私にしては珍しくチクチク言葉が溢れ出るのを抑えられなかった。
「……その指示どころか相談すらさせてくれずに行方不明になったのは誰かな? それに前回も今回のコレも、一般生徒とか凡人とかがやることじゃないと思うんだけど?」
「あーあー。聞こえないなー。
…………あ、あの、龍園でもDクラスの人でもいいから、するなら早く指名する指示出して? CPも手に入るよ?」
「貴方、ふざけているの?」
「クックック。俺に命令するんじゃねぇよ。する時は俺が決める」
「しないよ。今それをすると、左京君への助け舟になっちゃう。私としては左京君にもっと困って欲しい」
「え?」
龍園はまだしも、櫛田さんのいつにない態度を見るに、櫛田さんも左京君に思うところがあるのだろう。至極真っ当な返しをしていた掘北さんや平田君が櫛田さんを見て驚いているが、私にはその気持ちが少しわかる。
左京君は普段が普段だからか、なんか困らせたくなる雰囲気……とそれすらも受け入れてくれそうな何かがあるのだ。
それにしても……。
改めてこんな場で私を含めた各クラスのリーダー達と対峙しているのを見ると、左京君は龍園君や……東風谷さんのような人を使ったり奪ったりする資質こそ持っていないと思う。それなのに与える事で利益を確保していそうな奇妙な風格がある。それは案外、奪ったり勝ったりする事を重視する人達にとっては、天敵であると同時に天佑でもあるのかもしれない。
競争に熱心なこの学校では珍種もいいところだ。ある意味、東風谷さんや高円寺君以上に独特な空気を持つ左京君が次に何をやってくれるのか、とつい注目してしまう。争いごとが嫌いな私だから尚更……。
「でもまぁともかく!
金が欲しいなら僕に乗ってみないか? イギリスの哲学者、フランシス・ベーコンの言葉に「なんといっても最上の証明は経験だ」というのもある。みんなで大金ゲットして、幸せになる経験をしようじゃあないか。な?」
だから一応の信頼はあるんだけど。
強引に誤魔化す時には必ず見る左京君の悪そうな笑顔に落ち着かない胸騒ぎを覚え、私はこれから少なくとももっと仲良くなるまでは、できるだけ彼に張り付いている未来を確定させた。私が付けない場合は、四方君や神崎君に頼むことにしよう。
流石にやりすぎかもしれないけど、私とは全く違うタイプの思考と、私にはできない事ができる左京君にはそれをするだけの価値がある。それになんとなくだけど、彼は『鍵』になりそうな予感がしてならないのだ。
ただそうなった時に嫌がるだろう左京君を想像して、ちょっぴり楽しい気分になったのがいつも振り回されている意趣返しなのは内緒である。
なんか抜けてるなと思って軽く読み直してたら、章初めに投稿するつもりだった一之瀬視点を忘れてたので、できるだけ現状に合わせて書き直してからねじ込みました。これまでにない大苦戦でした。
……しかし、私はなんで一之瀬関連がこうもガバってしまうのか。
そのせいか、暑くて脳が煮えてるからか、こっちも入れ忘れていた無人島の後日談?のような話も無理矢理入れたからか、ちょっと長めで変な部分あるかも。
不自然に感じたらすいません。
ちなみに四方と高円寺の会話は、一之瀬が近くで聞いている関係上、あえて本当の裏を話さず、わかりにくくしている部分があります。高円寺は話をズラしてきた四方に合わせていただけですが。
あと原作と違って竜グループに一之瀬がいるのは、無人島で言い負かされた星之宮先生の注意が綾小路よりも左京にいっていたのが一因です。ちょうど良く一之瀬と50音順で近い安藤が竜グループにいたので入れ替えてます。