ようキャ   作:麿は星

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 少し長めです。具体的には1万字くらい。書きたい場面だと、どうも長くなってしまう。

 ようやく船上試験1日目がほぼ終わったというね。私の傾向を自己分析すると、詰め込める時になるべくたくさん詰め込もうとする癖があるのかもしれない。



75、悪友

 

 ディスカッションが終わると、椎名が愛里を誘ってどこかへ行ってしまった。僕も誘われ、愛里には縋るような目を向けられたが、椎名なら問題ないと思っていたのもあって笑顔で見送った。今日はたくさん話して疲れているので少しゆっくりしたい。

 あと戸塚や須藤達からも遊びに誘われたが、西さんや松下さんなど女性陣の視線がなんとなく痛くて断る以外の選択肢はない。対立構造っぽい者達には、仕切り役をやっている関係上、どちらかに付いた感じに見えないよう配慮すべきだろう。

 なので旅行中なのに、今日も今日とて僕は楽しいボッチ飯である。

 そんな感じに夕食を空いていた小部屋で軽く済ませ、PC作業をしていると23時過ぎになっていた。日課の息抜きだけしてもう自室で寝ようとデッキに足を向ける。あそこは基本的に人が少なく、夜空を眺めるに良好な場所なので、一日の締めくくりに最適なのだ。

 

 そしてデッキに到着し、あと数日で満ちる月を眺めながら、僕は船のデッキに腐っているだろう視線をずらす。

 無人島での月見から約10日ほどが経過し、船上から見る月はだいぶ太ってきた。満月でこそないが、海の上から天体観測する機会はあまりないので、毎日違う顔を見せている自然を楽しむことができる。

 毎夜こうして少しでも明るくない場所で観測していた僕にとっては、心休まる一時だった。

 そう。『だった』だ。

 

 現在、デッキは何組かのカップルがいちゃつく盛り場と化していた―――爆ぜろ。

 このクソ暑い時期に、肩を寄せ合い、時折はしゃぐ声も聞こえてくる―――代われ。

 無人島以降でカップルが増加したとは聞いていたが、まさかここまでとは思わなかった―――滅べ。

 

 昨日まではこうではなかった。

 娯楽系の施設に入り浸っていたのか、僕の天体観測を邪魔する者達は極少数。それくらいなら我慢というかスルーできるし、大抵すぐに移動するので問題なかった。

 しかし、現在Bクラスから僕は指名手配犯のように捜索されていると姫野や渡辺に聞いたし、放送の件もある。木を隠すなら森の中、という観点から見れば好都合にも思えなくはない。暗くて顔が判別し辛く、僕が居ても誰かに声をかけられたり気づかれることは少ないはずだからだ。

 テッペン超えしてみんなが寝静まった後に部屋へ戻ろうとしている僕としては、それまではゆっくりと夜空を眺めて、目障り耳障りなモノはシャットアウトするのが上策だろう。

 そう思い直した僕は、目立たないようデッキの隅っこに陣取り、本日の天体観測に精を出すのであった。当然、独りで。

 

 

 

 どのくらい夜空を眺めていただろう。多分、1時間も経っていない。途中、猿グループと少し遅れて馬グループの試験終了のメールが届いたのと前後して、僕宛の通信もたくさん届いた時間はあったが、櫛田からのものはなかったので軽く流してスルーした。さほど重要位置でもない僕なら、寝てたとか言っとけば何も言われないだろう。

 と、それは置いといて、普通なら僕がこんな短時間で天体観測を切り上げることはないのだが、そうもいかない事態が発生している。

 うん。原因はいつの間にかいた真横(というほど近くはないが)の知り合い二人だ。海の音に混じって微かに聞こえる声からすると、龍園と櫛田がいる。暗いし不躾だから目で確認はできないが。

 

 なんにしろ……え? こいつらってそんな関係だったの? とか一瞬思ってしまったが、片方だけならともかく、中二病&高二病ハイブリットに邪悪な承認欲求モンスターのカップルなどありえていいわけがない。シドーとハーゴンが同時に出現しては、無理ゲーにもほどがある。サマル王子に自分を重ねる僕としては、櫛田とボス格の組み合わせはマジで絶望的なのだ。

 ただ性格的に混ぜるな危険を象徴する組み合わせは、なにより本人達が嫌がるはずだ。あっても何らかの取引的な利用し合う関係なんじゃなかろうか。というか、そうあってほしい。

 清隆との初対面時は早とちりだか事故だかだったが、櫛田や東風谷みたいな悪友のメス顔は想像だけで不気味さを感じてしかたないのだ。これが愛里なら素直にショックを受けたかもだが、どうも彼氏がいる性格破綻者という存在は理解の外である。

 

 そんな風に顔は良い癖して悪女感・喪女感をこれでもかと漂わす友人・知人に思いを馳せていると、話が終わったのか龍園が去っていった。去り際に近くを通る時、目が合った僕に向かってニヤリと笑ったので、予想通り色っぽい話ではなさそうだ。おそらく櫛田にアプローチをかけるなら今だぞ、といらん世話を焼いたと思われる。もしくは、話し合いの時に櫛田から「逃げるな」と言われた事を暗にからかっている線もあるか。 

 

「い、一緒に星空でも見ませんか?」

 

 しかし僕は当然アプローチなどかける気がなかったので、天体観測に意識を戻そうとしたその時―――勇者が現れた。

 その男は龍園が去り、僕がなにも動かなかった間に、時間差で一人になった櫛田をナンパしたのだ。龍園と話していた時より櫛田が僕に近づいていた為に、なんか知ってる声もはっきり聞こえた気がする。

 

「あ、れ? 綾小路、くん?」

「その声……櫛田だったのか」

 

 気のせいじゃなかった。やっぱり綾小路清隆だ。

 まさかこんなところで、櫛田をナンパする友達の黒歴史を目撃することになろうとは……。いや、本気で櫛田を狙うなら黒歴史にはならないだろうが。

 

「一人…か?」

「うん、そうだよ。綾小路君はナンパ?」

「ああ―――って、違う! ちょっと左京と話してた状態異常の事を考えてたら、つい心の声が出てしまっただけだ!」

 

 櫛田は落ち着くための冗談だったのだろう。乗りかけて慌てて否定する清隆に、なにそれと小さく笑うと、息を吸うように嘘を吐いた。

 

「じゃあ二人とも独り身だね。ここじゃ、ちょっと肩身が狭かったから嬉しいかも」

「い、いや。えーと、とりあえずオレは先に戻るから」

「もう帰っちゃうの?」

「眠くなってきたしな」

 

 やばい。なんか笑いそう。でもまだ笑うな。笑ったら確実に見つかる。二人が、せめて片方だけでも去るまで堪えれば、この厄日最後の面倒も後回しにすることができる。それまでは我慢するんだ。

 

 だけど聞こえてきてしまう会話に、否応なく笑いがこみ上げてきてしまう。どっちも嘘が見え透いているのに、キツネ(清隆)とタヌキ(櫛田)が化かし合いをやめないからだ。

 来たばかりの清隆がとりあえずってなんだよ。櫛田もすぐに清隆が帰ったら、まだ姿が見える龍園を発見されて嘘がバレバレになるだろ。もっと強く引き止めろよ。

 というように、ツッコミどころ満載の清隆と櫛田のやり取りは、端から聞いていて面白かった。この後も、デッキの入り口付近でニヤつきながらわざと残っていた龍園に気づいた櫛田が、慌てて清隆に抱きついて色仕掛けを駆使しつつ足止めしてる一幕など、笑いを堪えるのがかなりの苦行だったほどだ。

 

「ご、ごめん。私、その、急に綾小路君に抱きついたり、変なこと言ったりして……」

 

「ブハッ!! ククッ、ブフフッ! あ、やっべ」

 

 でも僕の我慢もここまでが限界だった。

 メッチャ恥ずかしそうに殊勝っぽい態度で謝る櫛田に、僕の笑いダムは決壊を迎えた。冷静に考えたらそんなにおかしくないのに、笑っちゃいけないとなると途端におかしくなるというアレである。また吹き出したことで、二人にも気づかれてしまった。

 龍園も急いだようにいなくなったので、あいつもどこかで馬鹿笑いしているのかもしれない。ハイブリット種はイメージ戦略が重要なのだ。笑うところはなるべく見せたくないだろう。

 

「は? 左京、君……?」

「う、ん? む…つき……だと?」

「はははははっ! す、すまん。盗み聞きするつもりも邪魔するつもりもなかったんだが…ブフ。こ、堪えきれんかっ……あっはははは!」

 

 抱き合い、離れようとした姿勢のまま固まる二人に、再度笑いがこみ上げてまともに謝ることさえままならない。この天然芸人コンビの前では、本職でさえ形無しとなるのはなんとかならないのか。

 カップルが溢れる船上デッキにて、落ち着くまで僕の笑いが響き渡った。

 

 

 

 僕が落ち着くのを待たずして、逆ギレして真っ赤な顔の櫛田が理不尽にも清隆をどこかへ追い払った。彼がどこへ行くのか。それは誰にもわからない。不憫な。

 それもまた面白かったが、なんとか堪える。昼のこともあるし、1対1になったからには、これ以上刺激すると僕もヤバい。

 さっきの試験終了メールの件でだいぶ減ったが、まばらとはいえ他の人も居る為か、清隆だけでなく僕と櫛田も昼過ぎにも使っていた荷物を置いている近くの部屋に移動することになったが。

 

「……で、いつからいたの?」

「お前と龍園が来るずっと前から星を見てた」

「やっぱり。じゃあもしかして全部聞いてた?」

「なわけないだろ。清隆と化かし合いしてた時と違って、結構距離あったから聞こえてないよ」

「でも左京君なら、なにを話してたか予想できてたりして」

 

 立て直してすぐ、明らかに突っ込まれたくなさそうに清隆関係から話を逸らそうとする櫛田に引っかかりを覚え、しかし僕はあえてそれに乗る。まだ判断材料が足りない。

 

「できてはいるよ? 当たってるかは別としてだけど」

「ふ~ん。その予想、聞いてもいい?」

「んー。じゃ、結論から。

 多分竜グループの優待者は、櫛田か龍園ってこと。どっちかというと、櫛田の方が濃厚かな」

「……」

 

 そこで櫛田はなんともいえない目で僕を見て、口をつぐんだ。でもこんなことは、色仕掛けに引っかかったりとか余計な事に思考がいってなければ清隆にも察せられただろうし、櫛田も気づいているだろう。その清隆を放流して、僕を残したのは何の意味があるのか気になっている。

 櫛田からそれを聞き出すには、本題までの繋ぎとして、適当な推測で話を組み上げて会話を続けておくのがいいだろう。興味を引ければ、櫛田という短期では最強クラス、長期でもそこそこの人材が力を貸してくれる可能性が生まれるかもしれない。四方の件や、愛里がクラスから弾かれない対策を打つのにも、櫛田は最高の人材である。東風谷以外に僕自身のパイプも繋げておくに越したことはない。

 ほとんどの天文部員は、なまじ能力が高い奴が揃っているせいか保険や守りの手を苦手としているフシがあるのだ。でも僕のように常識的な者からすると、せめて予測できる問題くらいは楽にしておきたい。

 

「なぜなら龍園の基本戦略の柱はCPじゃなく、PPだからだな。昼に集まってきた時、一応は僕の提案にも乗ってくれたし、おそらくこれは大きく違わない。なら、より大きい報酬がもらえる結果1狙いは龍園にとって好都合の結果になる。更に龍園から櫛田は相当確率が低くなるが、櫛田から龍園ラインならそこまでありえなくはないと思う。何らかの『土産』があると仮定すれば、だけども。

 つまり、優待者の櫛田が龍園に組む提案をして了承された。これが僕的には一番すっきりする推測とラインになるな」

 

 だから龍園も引き合いに出して、あり得なさそうであり得る龍園・櫛田の協力策を暴いたように見せた。昼に僕がした提案を聞いていた櫛田には、説得力があるように聞こえるだろう。櫛田は、僕が野放図にしたあれを根回しして実行しようとした。という風に受け取れるからだ。また間違っていたとしても、他の可能性を改めて展開させることで方向転換も可能ときている。

 昼の反省を鑑み、何気に東風谷を相手にするのと同等以上に複数の筋を想定しつつ、僕は話を締めた。

 尤も、続く櫛田の言葉からすると、ここまでする必要はなかったかもしれないが。

 

「あ~あ。流石、早苗にまで“本気では”敵に回したくないなんて言われる左京君だね。ほとんど正解」

 

 不思議とスッキリした笑みを浮かべながら、櫛田はそう宣った。

 

「で、それを知った左京君はどうするのかな? 帆波ちゃんか神崎君に言って、すぐに竜グループの試験を終わらせる?」

「しないってわかってんだろ。しても大して僕が得るものがないどころか、マイナスの方が多いじゃん。やるわけがない」

「マイナス……あの時に言ってたリスク、ね」

「そ。勝ちってものは、必要以上だと何かが溢れてマイナスに転じるものだよ。だから目的以外では、勝ちすぎに注意ってな」

 

 会話の結果、副産物的に確信した。

 櫛田にとって、このマイナスやリスクを上回る何かがある感じ。昼には名字呼びだったのに、あえて一之瀬を下の名前で呼んだ点。僕を試すみたいな口調。

 総合して判断するに、今の櫛田はAクラスになることを目指していない。厳密にいえば、最優先の目標にしていない。この憶測が正解しているなら、櫛田の目的さえわかれば協力できることを飛躍的に増やせる。

 

「だから先もわからない中で、あえて勝ちを捨てるの?」

「僕は入学からそう経ってない時期に、他のクラスと本気でやり合う必要はないと思ってるだけだ」

「なら帆波ちゃん達だけを注意すればいいってことだね」

「そして4クラスで泥沼の対立関係に?」

「……」

 

 最低限の照明しかない月明かりの目立つ部屋で、降って湧いたこの機会。

 無駄にするには惜しいので、軽く踏み込んでみた。一見、話は繋がってはいないが、冷静に先を読めば櫛田にはこの意味が理解できるはずだ。

 

「……左京君にはあんまり嘘をつきたくないな」

「僕のスタンスは最初からそうだ。嘘や真を巧みに使い分ける櫛田みたいな奴に、騙し合いでやり合えるなんて驕ってないさ」

 

 このように櫛田との交渉事では、見抜かれることを前提に本音で話したほうが良い。

 対話するたびに思うが、やはり交渉やコミュニケーション能力に関しては、僕の知り合いでも屈指なのだ。方向性が異質なので比較対象でもないが、正直言って高円寺以外とは比較にならない。この高円寺やついでに清隆みたいなのと違い、全て見抜いているわけでもなさ気なのに、繋がってないようで繋がっている話の主導権を取ってくるのだ。

 まぁ東風谷を説得して動かせる時点で、自力だけの僕よりも格上なのはわかっていたことだが。

 

「ふふ。ありがと、でいいのかな? ……だけど『一之瀬さん』達も探してる中で、左京君だけがこんな暗い場所で私と意見を戦わせているのは何故? 左京君なら、Bクラスのみんなと楽しくやれるでしょ」

「生憎、僕は集団の中にいるのが苦手でな。どちらかと言うと、みんなで盛り上がるより少数と話してるほうが好きなんだ」

「実は私も、って言って信じる?」

「普通に信じる。だってお前、東風谷と似て信者的なのを増やすのが目的の一つだろ。目的や嗜好の為とはいえ、人間関係のフォローしたり調整したりを無理してやるより、気心が知れた奴と話してる方が楽ってのは納得もできるしな」

 

 この手の常日頃から疑心暗鬼に陥っているようなタイプには、説得は逆効果になる。行動を起こさせる為の起爆剤を刺激するだけで充分だ。櫛田の起爆剤は、承認欲求か目的そのものである可能性が高いので、焦って探らなくとも問題はない。

 そして、それなら僕の程度をわきまえた有益さを示せばいいだけだ。櫛田の目的が必須のものでない限り能力も関係なく、彼女の目的に沿った感じに見えるだけでいい。東風谷という櫛田の友達もいるわけだし、龍園とは違った形の悪友兼協力者となれるだろう。

 

「へぇ、ふーん…………ねぇ。ちょっと聞きたいんだけど、左京君はクラスメイトみんなが敵に回ったら、って考えたことある? それでもし本当にそうなったら、どうやって対抗する?」

「あん? まぁ考えなくもないかなぁ。定期テストの結果張り出しとかSシステムとか、あからさまにそれを見越してる感じだったし……」

「そう、だったかな……」

 

 ただ更に踏み込もうとしたら、微妙に流れというか話の方向を変えられた。これは一定の価値を僕に見出したのか、それともただの雑談的な繋ぎか。どちらにせよ櫛田の雰囲気がおかしい気もするが、まず真面目に答えておくのが無難か。表情と反応からして地雷をかすめている感覚がある。

 

「で、対抗策か。ぱっと思いつくのは権力、暴力、財力に嘘と真実と情報。ああ、魅力や知力なんてのもそういう場合には強いか。でもまぁ、櫛田も知っての通り、僕はこの殆どを使えない。どうやら嘘も上手くないみたいだしな。

 その上で、あえて挙げるなら僕が知る真実だけでしっちゃかめっちゃかにするか、財力あたりで自分以外にターゲットを逸らすのが僕向き…な気がする。てか、真実にしろ財力にしろ、うちのクラスだと一之瀬達の中にヤバい奴が居ない限り、一時しのぎにしかならなそうだけども」

「ふぅん。左京君って、こういうこともしっかり考えてるんだね。でも意外…ではないかな。

 それにしても……………………真実、ね」

 

 社会に出るともう3~4個増えるけど、学生の間はこのあたりが現実的なラインの対抗策だろう。東風谷や龍園なら暴力や知力、四方や愛里なら情報や魅力の札が適してそうだけど、僕だけが狙われたなら言った通りの反撃法か、面倒くさくなって逃亡、あるいは無抵抗のどれかを選択しそう。

 考えるに、この学校でならそうなっても多分問題ない―――最悪僕個人の退学処分までなら。この学校の情報が外にほぼ広まってない時点で、おそらく退学は適当な学校への転入を条件に出されて口止めされ、情報を出したら行った先の学校を退学。みたいな推測が、だいぶ楽観的ではあるが成り立つからだ。そうでなくとも手はあるしな。

 

 っと、僕向きと言ったせいか櫛田が、財力はまだしも真実の方に引っかかってしまったようだ。考え込んだ、というか物思いにふけってる?

 これは真実の強さをフォローしておくか。櫛田はきっと嘘に真実や情報、魅力やそれを使っての権力等々の選択肢の多さが強みなタイプ。もしその一つを疑問視するようになったら、その分の選択肢が減ってしまう。

 

「あっ、真実が弱い札とか思ってないだろうな? 確かに他に比べて汎用性やインパクトは弱いけど、使い所を考えれば最強の札に化けるんだぞ」

「……っ。うん。わかってる…………本当に…よくわかってるよ」

 

 重要なことなので2回言いました、ってか? なんか実感籠もってそうだけど、この年齢でそれをわかってたら、それは不運以外のナニモノでもないんだが……。真実を行使して反撃をする事態に、中学以前の時点で追い込まれたって証明にもなるので。

 うん。地雷っぽい。忘れよう。触らぬ神に祟りなしである。

 

「あー。でも、やっぱり左京君はわかってる。わかってるねっ」

「あー?」

 

 しかし、なんだこの唐突な櫛田の…ウッキウキ感?

 何度も「わかってる」と繰り返した後、笑顔になった櫛田の思考が読めなくなった。それはまるでいつかの東風谷のようで―――。

 

「そういえば話は変わるけど、知ってる? 最近、龍園君も左京君を探してるけど見つからなくて、代わりのように綾小路君と堀北さんに絡んでるって話」

「え、清隆はともかく、堀北さんの事とかほぼ知らないんだけど、櫛田にでも謝っといた方がいいのか? 正直、龍園の事とか僕に言われてもって感じなんだが……」

 

 そしてまたもや、誤魔化すように露骨に話を変えられたんだが何を言いたい…いや、聞きたいんだ? 東風谷との口喧嘩の件でこすり倒されると思っていたのに、蓋を開ければ関係ないところで次々に話が入れ替わる。今日の櫛田の話運びはどこか奇妙なモノがある。

 つーか、個人的には、龍園が僕を探してたって情報に何気に寒気がするんだけども。これ以上聞きたくないし、ひと当てしつつ、僕からも話を変えてしまおう。

 

「あはは。そんなのいらないよ。むしろ見かけるたびに楽しい気分になるから、私からはもっとやれって言いたいかな」

「ああ。苦しめられる前に苦しめろ。ってどっかの奴も似た事を言ってくれたっけ。そんな感じか」

「あははっ。その人、すっごく性格悪そうだね。早苗のこと?」

「ははっ。東風谷なら言いそうだよな。

 ま、櫛田のことなんだけどな。自己紹介乙」

「ええっ!? そんな事言ってな」

「なに驚いてんだよ。僕に困って欲しいみたいに言ってくれたじゃないか。あれの類似だぞ? どうした東風谷の同類。急に察しが悪くなってきたんじゃないか?」

「……ほんっと、ここで煽りを入れてくるあたりが左京君だよね。早苗が悪友って言うのもわかる気がするわ」

 

 これで少しはいつもの空気っぽくできるだろうかと、軽くからかいを混ぜてみた。

 結果、呆れた風の櫛田は口ではそういうものの、なんとなく機嫌が良くなった気がするから、まいっか。東風谷もだけど、こういう可愛いところもあるのが、邪悪なだけと言い切れないんだよなぁ。僕が彼女達を悪友と思いながら、友達とも見ている所以である。

 

 

 

 何故か観察されているような無言の時間が少しだけ挿入された後、微妙に真剣な雰囲気を醸し出した櫛田がおもむろに口を開く。

 

「左京君ってさ。“堀北”の事、どう見た?」

「え? いや、さっきも言ったけど無人島で一言と昼に二言話しただけの奴に印象とか……ないこともないけど、人に聞かせるようなものじゃ」

「いいから聞かせて。私にとっては重要なことなの」

「う。わかったよ」

 

 その真剣風味な雰囲気に押され、僕はつい承諾してしまった。

 でも堀北さんって、僕から見るといつも喧嘩腰だからあんまり良い印象ないし、櫛田が彼女を友達だと思ってたら、陰口叩いたみたいに怒られないかな。かといって、無理にお世辞を言っても見破られそうだし……えぇい、ままよ!

 

「じゃあ、その。一言で。

―――現時点では、痛い人…だと思ってるよ」

「痛い人……」

「補足すると、努力してれば評価されるべき、とか思ってそうな子供ってあからさまに社会未経験で痛くて、かゆ…うま……じゃなくて、さ、最高だよな? そういう意味だ」

 

 しまった。本当に一言だとわからないかもと思ってフォローを入れたつもりだけど、追撃でこき下ろした陰口に聞こえてしまったかもしれない。しかも途中で気づいて無理矢理に捻じ曲げて最高なんて付けたから、不自然極まりない。そのまま痒くなるとか言うよりマシだったとは思うが。

 普段おしゃべりな櫛田が、真顔のまま沈黙してるのも不安を煽ってくる。

 陰口だと勘違いされるとなんだし、なんとか言い繕わなくては。

 

「ほら。堀北さんって、龍園(高2病)と一之瀬(正統派?イロモノ)の微妙な部分を足して2で割った感じじゃん? だから見ててなんか痛々しいというか香ばしいというかなんというかで……やっべ。フォローしようとするほど墓穴掘ってる気がしてきた」

「……」

「ち、違うんだ。えっと、堀北さんはかわいい? そ、そう。あまり覚えてないけど、多分、おそらく、きっと顔は良かったから、多少の痛々しさなんてマイナスにならないって! うん。かわいいは正義。ちょっとそれだけじゃあの残念さが相殺されてない感はあるけど、それでもアレだ。人によっては、一応、ギリギリ、プラス位置には入るから!」

「……」

 

 人を褒め慣れていない弊害がこんなところで。

 本音だけど、どう聞いても褒めてない。僕に本心から褒めろってのが、そもそも無理だったということか。てか、良いところを知らなくて付き合いもない相手だと、容姿くらいしか褒める部分を思いつかない。

 ついに俯いてしまった櫛田は、僕自身で思い返してもド下手な褒め言葉に何を思うのだろうか? そもそも僕にほぼ知らない相手の印象を聞いてきたんだから、こうなるのもある意味しかたのない事。という受け取り方をしてくれると助かるのだが。

 

「あの、その。櫛田……櫛田?」

「あ」

「?」

「あっははははははは!!」

「ええっ!? は? なんで!?」

 

 僕にはどうしようもなかったコレをどうしようかと悩んでいたら、様子が変だった櫛田が唐突に顔を上げて笑い出した。もはや意味不明でわからなすぎて怖い。

 でも記憶は曖昧ながら、こんな事が前にもあった気はする。確かあの時は東風谷がいた……はず。そこから紐解けば、なにかわかるかもと記憶を探る。

 まず、あいつはどうやってこれを鎮め給うたのか。巫女だか風祝だかの仕事で、鎮静の技能を修めているから可能だったのか。それとも友達だからか。

……経緯すら全く思い出せないし、わからん。思わぬところで、東風谷の凄さを思い知った。

 

「はぁー、おかしい。左京君みたいに思ってることそのまま言ってるのがわかると、尚更おかしくなるんだねっ! 初めて知ったよ」

「お、おう。そうか、良かったな」

 

 しばし櫛田は笑っていたが、自己完結したのかどこか平常と違う笑顔のまま冷静さを取り戻した。一方、ペースを握られてしまった僕は、情けなくただ相づちを打つのみである。

 えっと、それで堀北さんについては許されたのだろうか?

 

「ホントは左京君に『あの事』でネチネチ言いつつ、ストレス解消しようかと思ってたけど、もうここまでにしとこうかなっ。でも今晩はそれよりずっと楽しかったよ。ありがとう」

「へいへい。お前にそれを漏らした清隆によろしくな」

「……うふっ♪ 正解かはご想像にお任せします! じゃあまたね左京君。おやすみ」

「おやすみ」

 

 その反応は肯定と変わらないんよ櫛田。

 てか、流石に櫛田が明確なボロを出すようなことこそなかったけど、反応的にやっぱり今回もあいつが元凶かよ。消去法で清隆8割、東風谷1割、その他1割だったから、昼にはなんとなく察してたけども。

 でも結局この日の櫛田は、本当は何を本題と設定していたのか。いきなりな話題変更が多かったせいもあって、不思議と機嫌が良くなったあの笑顔からは何も読み取れなかった。急に帰っちゃうし……。怒ってはなさそうだったのだけは幸いである。

 ただ別れ際、さり気なくカマかけしつつ確認できたのは、僕にしてはなかなか機転が利いたといえるかもしれない。

 尤も、清隆が裏で櫛田を僕にけしかけた意図は、多分遠回りに愛里は利用しない、とでも言いたいのだろう。だが、他にも動くから足止め的に邪魔するなと言ってるようにも取れなくはない。いや、そう考えると、もしかしてまたもやなんかやろうとしてるのか?

……駄目だ。情報が断片と推測だけなので堂々巡りになる。

 今はなんか知らんけど、悪友の機嫌が治った。それだけで満足しておこう。

 





 本文中ではどちらも明確に口には出してませんが、今回で櫛田と左京の双方が悪友と認識した…つもりです。
 何気に櫛田って、色々もったいないなとずっと思ってたので、少し先でちょっとだけ重要な位置に立つかも。
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